捨てる神あれば・・・あふたー×あふたー
――――――時刻18:00
「いーち!」
「えいっ!」
「にーぃ!」
「えいっ!」
ここは家の近くにある小学校の体育館。何であっしが空手着なんか着てこの時間に体育館にいるかというと・・・。
「師範代ー!中段突き30本終りましたー!」
あっしと同じような空手着に茶帯を巻いた少年が体育館の反対側からこっちに走ってくる。・・・よし、メニューも一通り終ったし今日はこれまでかな。
「よーし今日の練習は此処まで!」
集合の合図に手を叩く。すると、茶帯の少年と一緒にひと塊になっていた子供たちが寄ってきた。・・・まあ、子供達つっても小学生から中3まで居るけどね。それで此処に居る理由ってのは、さっきの茶帯少年の言った通り此処の師範代理をやってるから。いやいや、正式な師範じゃないから基本的に仕事無いんだけどね?今回は師範方が全員出払ってるからって任されたのさ。
「正座!」
号令と共に、目の前の子供たちが正座をする。全員が正座をした事を確認してから、あっしも静かに正座をする。
「瞑想!」
子供たちの目が閉じられる。・・・さて、後は。
「唱和!一つ!空手は礼に始まり礼に終る!」
『一つ!空手は礼に始まり礼に終る!』
「一つ!空手は己を見つめ!」
『一つ!空手は己を見つめ!』
「己を正し!」
『己を正し!』
「己に打ち勝つ物である!」
『己に打ち勝つ物である!』
「瞑想!」
先程までの唱和の声が嘘の様にしんとなる。
「やめ!・・・A君。」
あっしは小さな声で隣に座っている茶帯少年に声を掛ける。
「はい。・・・体育館に、礼!」
『有難う御座いました!』
「師範に、礼!」
『有難う御座いました!』
「お互い、礼!」
『有難う御座いました!』
「・・・では、お言葉をお願いします。」
互いへの礼が終ったところで、茶帯少年が此方を向く。・・・正直、この言葉が一番困る。まあ、ただ単に練習の様子見て改善点とかを言えばいいんだが・・・。
「今日は主に小学生の子たちが五月蝿かった。試合が近いからもっと集中するように。以上!」
「最後に、礼!」
『有難う御座いました!』
「解散!」
あっしの号令と共に、子供達は体育館の端で見ていた親御さん達の元へと向かう。さっきまでの緊張のある静寂が一変し、和やかな物になる。
「・・・ふう。」
もう正座をしている必要は無いので自分の楽なように足を崩す。
「お疲れ様です、一文字さん。」
「ん、お疲れさん。」
挨拶もそこそこに、茶帯少年も自分の親御さんの元へと足早に向かっていく。・・・あ〜、疲れた・・・。
「に〜。」
「ニャー。」
不意に、入り口の方から聞き慣れた声がした。・・・トウたちが散歩から帰ってきたらしい。何で居るかって言うと、家の中だと火事だの何だのが心配なので連れてきてる。特に宵、この間仕事から帰ってきたらガス栓いじってたし。
「あ、師範のとこの猫だー!」
早速ばれました。この後の展開は皆様方も大体見当がつくだろう。
「あれー、黒猫も居るよー。」
「師範ー。この子どうしたんですかー?」
白帯の女の子が宵を腕に抱きかかえながら訊いてきた。仔猫を触れて満足なのか満面の笑み女の子、対する宵は嫌そうに身悶えていた。
「ああ、この間拾ったんだよ。可愛いだろ?」
「うん!」
「う゛に〜。」
「はは、宵も嫌がってるしそろそろ離してやってくれるかな?」
「はーい。」
女の子が宵を離すと、宵は真っ先にあっしの足の上に乗っかってきた。トウも子供たちの中から抜け出して此方に駆けてきていた。・・・他に用も無いし、帰るかな。
「さ。皆、体育館閉めるぞ〜!!」
「え〜。」「やだ〜!」
「早く出ないと師範が幽霊呼んじゃうぞ〜?」
「え・・・?」
「舎利来文一心頂礼満徳円満釈迦如来信心舎利本心法身法界塔婆我等礼敬為我現身入我我入仏加持故我証菩提以仏神力利益衆生発菩提心修菩提行同入円寂平等大智今将頂礼・・・。」
「わー!」
とりあえず舎利来文を唱えて子供たちを全員外へ追い出す。ハッハッハ、やはり楽しいなこれは。いやまあ本当に招霊術なんかやったら学校大パニックですよ。
さて、じゃあ帰りますかね・・・。
――――――11時 一文字宅
「ハァ・・・。」
結局、誰からも祝われなかったなぁ・・・。一人暮らしって言うのもあるけど、やっぱり誕生日を祝われないのは寂しいねぁ・・・。ちなみにトウは覚えてなかった。猫に去年は無いって本当だったんだね、お兄さん悲しいよ・・・。
「ごしゅじんしゃま〜、よいとあそぶにゃ〜。」
「・・・・・・。」
「ごしゅじんしゃま〜。」
「・・・・・・。」
「ふえぇ・・・。」
「・・・・・・。」
まあ、自分から「自分誕生日です」オーラ出すのも気が引けるし・・・。
「ごしゅじんしゃま・・・なんでむしするにゃ?よい、なにかわるいことしたにゃ?」
「・・・・・・。」
「ごしゅじんしゃま?」
「ん?ああ、ごめんごめん。一寸考え事してた。」
いつの間にか後頭部に宵が引っ付いていたらしい。全く気が付かなかった・・・。何故か泣きそうになっている宵を後頭部から剥がして胡座の上に乗せる。最近、宵が重くなった気がする。拾った当初343gだった体重も今じゃ408g。こん子も成長してるんだなぁとしみじみ思う今日この頃。ただ、中身は変わってないけどね(笑)。
「・・・ごしゅじんしゃま、よいきらいじゃないにゃ?」
おいおいを。一体何からその結論に至ったんだ?
「うん、嫌いじゃないぞ。・・・いきなりなんでだ?」
「だって、ずっとむししてたにゃ・・・。」
オウフ、どうやらあっしがネガティブ化している間に話しかけてきていたらしい。
ピーンポーン
ん?誰だ?こんな時間に・・・。速達か?何かアマゾンしたっけ・・・?
「宵、降りなさい。」
「いやにゃ。」
「言う事聞きなさい。」
「や!」
脇を掴んで下ろそうとするが、その腕について離れない。・・・はぁ。仕方ないな・・・。
「・・・じゃあ、せめて猫になってなさい。」
「・・・わかったにゃ。」
渋々、といった様子で宵が人型から猫になる。宵を片腕につけたまま、いまだピンポンが鳴っているドアへと向かう。・・・いつまで押してんだ。一体誰が来たんだ?
ガチャッ
「やっほ〜、一文字〜!」
「・・・何だ、ヤス健かよ・・・。」
そこには14年来の友人、ヤス健が顔を真っ赤にしてやたらデカイビニール袋を片手に立っていた。
「何だとはなんだ何だとは〜。人が折角誕生日祝いに来てやったってのによぉ〜!」
あ〜はいはい・・・。って、え?今何つった?
「だからさ、ホレ。」
そう言いながら、ヤス健が手に持っていたビニール袋を此方に突き出す。中には日本酒と裂き烏賊が大量に入っていた。
「・・・・・・。」
「一緒に呑もうぜ♪」
こいつは・・・。
「お前、先に呑んでたろ。」
「あ、バレた?」
そりゃあ見るからに真っ赤だし立ってるだけなのにフラフラしてるし、誰でもわかるよ。
「ハァ・・・。」
「おいおい辛気臭いぞ〜?誕生日なんだから、もっと気楽に行こうぜ♪」
「うっせ、ほっとけ。」
「に〜。」
「はいはい、よしよ〜し。」
「に〜。」
「ん?何その仔猫。」
「この前拾った。ま、とにかく入れよ。」
「お邪魔〜。」
いつものように、何の遠慮もなく我が家へと踏み込む旧友。
「・・・ありがとよ。」
「あ?何か言った?」
「なんでもねぇよ。」
いつもありがとうな、ヤス健。
「で、飯は無いのか?」
「オイ。」
「いーち!」
「えいっ!」
「にーぃ!」
「えいっ!」
ここは家の近くにある小学校の体育館。何であっしが空手着なんか着てこの時間に体育館にいるかというと・・・。
「師範代ー!中段突き30本終りましたー!」
あっしと同じような空手着に茶帯を巻いた少年が体育館の反対側からこっちに走ってくる。・・・よし、メニューも一通り終ったし今日はこれまでかな。
「よーし今日の練習は此処まで!」
集合の合図に手を叩く。すると、茶帯の少年と一緒にひと塊になっていた子供たちが寄ってきた。・・・まあ、子供達つっても小学生から中3まで居るけどね。それで此処に居る理由ってのは、さっきの茶帯少年の言った通り此処の師範代理をやってるから。いやいや、正式な師範じゃないから基本的に仕事無いんだけどね?今回は師範方が全員出払ってるからって任されたのさ。
「正座!」
号令と共に、目の前の子供たちが正座をする。全員が正座をした事を確認してから、あっしも静かに正座をする。
「瞑想!」
子供たちの目が閉じられる。・・・さて、後は。
「唱和!一つ!空手は礼に始まり礼に終る!」
『一つ!空手は礼に始まり礼に終る!』
「一つ!空手は己を見つめ!」
『一つ!空手は己を見つめ!』
「己を正し!」
『己を正し!』
「己に打ち勝つ物である!」
『己に打ち勝つ物である!』
「瞑想!」
先程までの唱和の声が嘘の様にしんとなる。
「やめ!・・・A君。」
あっしは小さな声で隣に座っている茶帯少年に声を掛ける。
「はい。・・・体育館に、礼!」
『有難う御座いました!』
「師範に、礼!」
『有難う御座いました!』
「お互い、礼!」
『有難う御座いました!』
「・・・では、お言葉をお願いします。」
互いへの礼が終ったところで、茶帯少年が此方を向く。・・・正直、この言葉が一番困る。まあ、ただ単に練習の様子見て改善点とかを言えばいいんだが・・・。
「今日は主に小学生の子たちが五月蝿かった。試合が近いからもっと集中するように。以上!」
「最後に、礼!」
『有難う御座いました!』
「解散!」
あっしの号令と共に、子供達は体育館の端で見ていた親御さん達の元へと向かう。さっきまでの緊張のある静寂が一変し、和やかな物になる。
「・・・ふう。」
もう正座をしている必要は無いので自分の楽なように足を崩す。
「お疲れ様です、一文字さん。」
「ん、お疲れさん。」
挨拶もそこそこに、茶帯少年も自分の親御さんの元へと足早に向かっていく。・・・あ〜、疲れた・・・。
「に〜。」
「ニャー。」
不意に、入り口の方から聞き慣れた声がした。・・・トウたちが散歩から帰ってきたらしい。何で居るかって言うと、家の中だと火事だの何だのが心配なので連れてきてる。特に宵、この間仕事から帰ってきたらガス栓いじってたし。
「あ、師範のとこの猫だー!」
早速ばれました。この後の展開は皆様方も大体見当がつくだろう。
「あれー、黒猫も居るよー。」
「師範ー。この子どうしたんですかー?」
白帯の女の子が宵を腕に抱きかかえながら訊いてきた。仔猫を触れて満足なのか満面の笑み女の子、対する宵は嫌そうに身悶えていた。
「ああ、この間拾ったんだよ。可愛いだろ?」
「うん!」
「う゛に〜。」
「はは、宵も嫌がってるしそろそろ離してやってくれるかな?」
「はーい。」
女の子が宵を離すと、宵は真っ先にあっしの足の上に乗っかってきた。トウも子供たちの中から抜け出して此方に駆けてきていた。・・・他に用も無いし、帰るかな。
「さ。皆、体育館閉めるぞ〜!!」
「え〜。」「やだ〜!」
「早く出ないと師範が幽霊呼んじゃうぞ〜?」
「え・・・?」
「舎利来文一心頂礼満徳円満釈迦如来信心舎利本心法身法界塔婆我等礼敬為我現身入我我入仏加持故我証菩提以仏神力利益衆生発菩提心修菩提行同入円寂平等大智今将頂礼・・・。」
「わー!」
とりあえず舎利来文を唱えて子供たちを全員外へ追い出す。ハッハッハ、やはり楽しいなこれは。いやまあ本当に招霊術なんかやったら学校大パニックですよ。
さて、じゃあ帰りますかね・・・。
――――――11時 一文字宅
「ハァ・・・。」
結局、誰からも祝われなかったなぁ・・・。一人暮らしって言うのもあるけど、やっぱり誕生日を祝われないのは寂しいねぁ・・・。ちなみにトウは覚えてなかった。猫に去年は無いって本当だったんだね、お兄さん悲しいよ・・・。
「ごしゅじんしゃま〜、よいとあそぶにゃ〜。」
「・・・・・・。」
「ごしゅじんしゃま〜。」
「・・・・・・。」
「ふえぇ・・・。」
「・・・・・・。」
まあ、自分から「自分誕生日です」オーラ出すのも気が引けるし・・・。
「ごしゅじんしゃま・・・なんでむしするにゃ?よい、なにかわるいことしたにゃ?」
「・・・・・・。」
「ごしゅじんしゃま?」
「ん?ああ、ごめんごめん。一寸考え事してた。」
いつの間にか後頭部に宵が引っ付いていたらしい。全く気が付かなかった・・・。何故か泣きそうになっている宵を後頭部から剥がして胡座の上に乗せる。最近、宵が重くなった気がする。拾った当初343gだった体重も今じゃ408g。こん子も成長してるんだなぁとしみじみ思う今日この頃。ただ、中身は変わってないけどね(笑)。
「・・・ごしゅじんしゃま、よいきらいじゃないにゃ?」
おいおいを。一体何からその結論に至ったんだ?
「うん、嫌いじゃないぞ。・・・いきなりなんでだ?」
「だって、ずっとむししてたにゃ・・・。」
オウフ、どうやらあっしがネガティブ化している間に話しかけてきていたらしい。
ピーンポーン
ん?誰だ?こんな時間に・・・。速達か?何かアマゾンしたっけ・・・?
「宵、降りなさい。」
「いやにゃ。」
「言う事聞きなさい。」
「や!」
脇を掴んで下ろそうとするが、その腕について離れない。・・・はぁ。仕方ないな・・・。
「・・・じゃあ、せめて猫になってなさい。」
「・・・わかったにゃ。」
渋々、といった様子で宵が人型から猫になる。宵を片腕につけたまま、いまだピンポンが鳴っているドアへと向かう。・・・いつまで押してんだ。一体誰が来たんだ?
ガチャッ
「やっほ〜、一文字〜!」
「・・・何だ、ヤス健かよ・・・。」
そこには14年来の友人、ヤス健が顔を真っ赤にしてやたらデカイビニール袋を片手に立っていた。
「何だとはなんだ何だとは〜。人が折角誕生日祝いに来てやったってのによぉ〜!」
あ〜はいはい・・・。って、え?今何つった?
「だからさ、ホレ。」
そう言いながら、ヤス健が手に持っていたビニール袋を此方に突き出す。中には日本酒と裂き烏賊が大量に入っていた。
「・・・・・・。」
「一緒に呑もうぜ♪」
こいつは・・・。
「お前、先に呑んでたろ。」
「あ、バレた?」
そりゃあ見るからに真っ赤だし立ってるだけなのにフラフラしてるし、誰でもわかるよ。
「ハァ・・・。」
「おいおい辛気臭いぞ〜?誕生日なんだから、もっと気楽に行こうぜ♪」
「うっせ、ほっとけ。」
「に〜。」
「はいはい、よしよ〜し。」
「に〜。」
「ん?何その仔猫。」
「この前拾った。ま、とにかく入れよ。」
「お邪魔〜。」
いつものように、何の遠慮もなく我が家へと踏み込む旧友。
「・・・ありがとよ。」
「あ?何か言った?」
「なんでもねぇよ。」
いつもありがとうな、ヤス健。
「で、飯は無いのか?」
「オイ。」
11/11/06 15:07更新 / 一文字@目指せ月3