捨てる神あれば・・・
此処はとある町のとある通り。
時間は夕刻、仕事が終ったあっしは少し肌寒い風を感じながら家路に着いていた。
「に〜。」
「ん?」
不意に足元の辺りから鳴き声がしたので振り返ってみると、小さな黒い毛並みの仔猫が箱の中から顔を出して泣いていた。捨て猫だろうか。
「に〜。」
「・・・・・・。」
生憎と家にはもう一匹猫がいるのでもう足りている。鳴き声を無視して数歩進んだ。
「に〜・・・。」
「・・・あ〜もう!」
「に〜♪」
可哀想な鳴き声に負けて、今来た道を戻り仔猫の前に座り込む。すると先程の哀愁漂う鳴き声ではなく、心の底から嬉しそうな声を出して仔猫は尻尾を振った。鞄を持っていない手で仔猫を抱きあげ、立ち上がる。仔猫は手の平にすっぽりと収まるほど小さい。まだ生まれて数週間、と言った所だろうか。
「に〜。」
「ったく、あっしもお人好しだよなぁ・・・。」
「に〜。」
「うっせ。」
「に゛っ!」
あっしの独り言に返事をするかのように仔猫が鳴く。少しイラッとしたので、仔猫の頭を軽く小突く。
「に〜・・・。」
「もうすぐ家に着くぞ。頼むから、大人しくしててくれよ?」
「に〜。」
家といっても貸家の安アパートだが。・・・おっと、こんな事言っちゃ大家さんに失礼だな。訂正訂正。住みやすくていい物件ですよ、ハイ。いや冗談じゃなく。
「ただいま〜。」
「にゃー。」
自分の部屋のドアを開けると、いつもの様に黄土地に茶色の縞柄の猫が嬉しそうに尻尾を振りながら出迎えてくれた。こいつも数年前に家の前で鳴いていたのを拾った猫で、名前は「トウ」。名前の由来は入ってた箱が玉蜀黍の箱だったから。安直で悪かったな。
「に〜。」
「・・・・・・。」
手の中にいる仔猫が一声鳴くとトウの尻尾がピタリと止まり、ジト目で此方を見てくる。
「・・・あ〜、トウ。話せば長くなるんだが・・・。」
「・・・・・・。」
「あっ、ちょっ!?」
あっしが言い訳をする前に、トウはプイとそっぽを向いて部屋の中へ行ってしまった。あっちゃ〜、怒らせちゃったか。
「に〜。」
「・・・入ろうか。」
後でトウのカリカリ(猫の餌)にカツ節混ぜてゴマすりだな。早く機嫌直してもらわないと、こっちも幾分気分が悪いし。
「に〜。」
「はいはい、一寸待ってな。」
仔猫を床に下ろし、上着を脱ぎながら机の上に置いてあるPCの電源をつける。・・・さて、小説の具合はっと。片手でマウスを動かし、デスクトップに貼り付けてあるとあるサイトの小説投稿ページを開く。
「・・・また増えてる。」
観覧者数の場所を見ると、昨日投稿した時よりも600人ほど増えていた。・・・嬉しいけど、プレッシャーというか何と言うか・・・ねぇ?いや、嬉しいんだよ?嫌じゃないんだって、マジで。この気持ちを分かってくれる人は居る、・・・多分。
「ご主人、ちっこいの拾って来るのはいいけど、最後まで見てやりにゃよ・・・。」
「おう、そうだな・・・って、え?」
不意に少女のような呆れ声が聞こえたので振り返ってみるが、そこには食卓の上を陣取っているトウと最初に置いた場所から動かずにじっと此方を見つめているあの黒猫しかいない。・・・気のせいかな?でも、嫌に鮮明だったような・・・。
頬を掻きながら、あの謎の声の至極真っ当な言い分の通り猫飯を作りに台所へと脚を向ける。
◆
「に〜。」
「ん?」
そろそろ炊飯ジャーの音楽が鳴り出そうかという頃、いつの間にかあの仔猫が足元まで来ていた。丁度本を読むために椅子に座っていた為、すぐに気付いた。
「ハハ、何だ?待ち切れないのか?」
「コロコロ・・・。」
読んでいた本を置き、仔猫を手の平に乗せて喉を擽ると気持ち良さそうに喉を鳴らした。
「にゃー。」
「わっ!?と、トウ!?何だよいきなり・・・。」
突然、食卓に乗っていたトウが足の上に乗ってきて上を向いた。まるで、「私もやって!」と言わんばかりに・・・。
「甘えん坊め、このこの。」
「ゴロゴロ・・・。」
トウの喉を優しく撫でてやると、これまた嬉しそうに喉を鳴らしてくれる。飼い主として、これ以上に嬉しい事は無いね、うん。ついでにお腹も撫でてやろうとすると、鋭い眼光で俺を睨みつけてくる。
「たまにはゆっくりモフモフさせろよな・・・。」
「・・・・・・。」
「へーへー、悪かったよ。」
そうこうしている間に、ご飯が炊けたようで炊飯ジャーから小気味のいい音楽が流れた。
「お、炊けたな・・・。」
「にゃー。」
俺が立ち上がろうとすると、トウが一声、耳をパタパタとはためかせながら鳴いた。これは「腹が減った」の合図。拾った当初から変わらない数少ない彼女の意思表示の一つだ。
「分かった分かった。すぐ持っていくから、今は一寸退いてくれ。」
「にゃー。」
トウは返事もそこそこに俺の脚から飛び降りた。仔猫も下ろして、机の上に置いてやる。炊き上がったご飯に水をかけて、コンロの下に置いてある缶詰の内からさば缶を取り出して蓋を開けて中身を出して混ぜる。これであっし流猫飯の完成、いえーい。何?色々間違ってる?うるさい。
ついでに缶詰を置いてある場所と同じところに置いてあるカリカリを取り出して左手に持って食卓まで歩く。
「ほい、トウ。カリカリだぞ。」
「にゃ〜♪」
「それとこれはオマケな。」
トウの餌入れにカリカリを入れ、仔猫の時に使ったサバ缶の残りを上に乗せてやる。すると床に置くのを待たずにトウが食卓に飛び乗り、美味しそうにサバ乗せカリカリを食べ始めた。
「さ、次はお前だな。」
「に〜。」
「ほれ、熱いからゆっくり食べな。」
仔猫の目の前に猫飯の入ったお椀を置いてやると、余程お腹が空いていたのか一心不乱に食べ始めた。
さて、あっしも飯にすっかな〜・・・。
◆
「ふう、ごっそさん。」
おかずに簡単な玉子焼きを作って晩飯。我ながら質素な生活だと思う。そのうち出家しても変わらないんじゃないか?この食生活。そう思いつつ、食卓の上にいる二匹の猫に目を向ける。いつもよりも少し賑やかになった我が家。仕事は疲れるけどこの子達がいると明日も頑張ろうって思えてくる。・・・いかんいかん。今日は特に疲れてるのかな?早めに寝よう。
「に〜。」
「お、そうだ。お前の名前決めないとな。」
黒猫だからクロ。・・・なんか安直だな。もう少し捻りたい、人前で呼んでも恥かしく無い程度に。う〜ん・・・。よし、こういうときの小説頼みだ。
「宵・・・。宵はどうだ?」
「に〜♪」
「気に入ったか、そうかそうか。」
思いついた名前を気に入ってくれたのか、嬉しそうに鳴いた宵の背中を撫ぜてやる。・・・いかん、眠くなってきた。洗物は明日にして、今日はこのまま寝るか・・・。
「ふあ〜・・・。おやすみ。」
大きな欠伸を一つして、俺はそのまま後ろに倒れこみ襲いくる睡魔に身を任せて目を閉じた。
◆
「全く、ご主人はだらしないニャあ〜・・・。」
一文字が眠った後、カリカリを食べ終わったトウが一言呟いた。そう、何を隠そうトウはネコマタだったのである!
「・・・ごしゅじんしゃま?」
「ニ゛ャニャ!?お前もネコマタだったのかニャ!?」
「よいもねこまたにゃー。」
何と言うことでしょう。一文字が拾ってきた仔猫もまた、ネコマタなのでした。何と言う偶然、何と言う幸運。
二匹(否、二人か)のネコマタは猫の姿から人型になると、一文字を引っ張り布団をかける。そして、トウは皿を台所へ持っていき、洗いものを始めた。宵はと言うと、飼い主が寝ているのをいい事にその小さな体を一文字の腹の上に乗せ、ご機嫌そうに尻尾を振っていた。
「ニャ!?宵、何してるニャ!」
「ごしゅじんしゃま、あったか〜いにゃ〜。」
「ずるいニャ!私にもそこ乗せさせるニャ!」
「いやにゃ〜。」
「そこ退くニャー!」
「・・・ん〜?」
二匹のネコマタが口喧嘩をしていると、一文字が気だるそうに起きた。
「・・・ネコマタ?」
「・・・・・・!」
「・・・・・・!」
それと同時に、まるでメデューサの石か魔法に掛かったように固まる二人。
「・・・夢か。」
そう言って、一文字はまた腕を枕にして目を閉じた。それを見て、ほっとする二人。
「ってなんですとーーーー!?」
「ニ゛ャア!?」
「にゃ!?」
絶叫と共に飛び起きた一文字。それにびびるネコマタ二人(笑)。
◆
「――――ということなのニャ。」
「にゃ。」
「・・・・・・。」
一応ネコマタになった理由等を聞いた一文字だが、まだ内心呆気に取られていた。無理も無い、図鑑の中だけにしか存在していないと思っていた物が今、目の前にいるのだから。
「・・・とりあえず。」
「ニャ?」
「飯代が馬鹿にならなくなったって事か・・・。」
そう言いながら、一文字は項垂れた。それとは反対に、キョトンとしているネコマタ二人。
「追い出さないのニャ?」
「よいたちようかいにゃ、ねこまたにゃー。」
「いやだって追い出す必要が無いよ。っていうかむしろ居て下さい。」
意外な言葉に、今度はネコマタ二人が呆気に取られる。
「何でニャ!?どーしてニャ!?」
「ちょ、ゆ、揺らすな・・・!」
一文字の首根っこを掴み、激しく揺さぶる。
「や、やめ・・・。」
「あ・・・。」
「ぎ、ぎもぢわるい・・・。」
「ごめんニャ・・・。」
当は自分のやってる事に気が付いたのか、手を止めて謝った。顔色の悪かった一文字だが、少し持ち直したのかにこやかに笑いながら先程のトウの言葉に答えた。
「だって、二人はあっしの家族だろ?」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
(・・・何か変な事言ったかな?)
「ご主人ーーーーー!」
「ごしゅじんしゃま〜。」
ネコマタ二人は一瞬固まったが、すぐに涙を浮かべて一文字に抱きついた。二人を受け止めようとした一文字だが・・・何はともあれ、独り身の一文字に二人の家族が出来ましたとさ。
どっとはらい。
時間は夕刻、仕事が終ったあっしは少し肌寒い風を感じながら家路に着いていた。
「に〜。」
「ん?」
不意に足元の辺りから鳴き声がしたので振り返ってみると、小さな黒い毛並みの仔猫が箱の中から顔を出して泣いていた。捨て猫だろうか。
「に〜。」
「・・・・・・。」
生憎と家にはもう一匹猫がいるのでもう足りている。鳴き声を無視して数歩進んだ。
「に〜・・・。」
「・・・あ〜もう!」
「に〜♪」
可哀想な鳴き声に負けて、今来た道を戻り仔猫の前に座り込む。すると先程の哀愁漂う鳴き声ではなく、心の底から嬉しそうな声を出して仔猫は尻尾を振った。鞄を持っていない手で仔猫を抱きあげ、立ち上がる。仔猫は手の平にすっぽりと収まるほど小さい。まだ生まれて数週間、と言った所だろうか。
「に〜。」
「ったく、あっしもお人好しだよなぁ・・・。」
「に〜。」
「うっせ。」
「に゛っ!」
あっしの独り言に返事をするかのように仔猫が鳴く。少しイラッとしたので、仔猫の頭を軽く小突く。
「に〜・・・。」
「もうすぐ家に着くぞ。頼むから、大人しくしててくれよ?」
「に〜。」
家といっても貸家の安アパートだが。・・・おっと、こんな事言っちゃ大家さんに失礼だな。訂正訂正。住みやすくていい物件ですよ、ハイ。いや冗談じゃなく。
「ただいま〜。」
「にゃー。」
自分の部屋のドアを開けると、いつもの様に黄土地に茶色の縞柄の猫が嬉しそうに尻尾を振りながら出迎えてくれた。こいつも数年前に家の前で鳴いていたのを拾った猫で、名前は「トウ」。名前の由来は入ってた箱が玉蜀黍の箱だったから。安直で悪かったな。
「に〜。」
「・・・・・・。」
手の中にいる仔猫が一声鳴くとトウの尻尾がピタリと止まり、ジト目で此方を見てくる。
「・・・あ〜、トウ。話せば長くなるんだが・・・。」
「・・・・・・。」
「あっ、ちょっ!?」
あっしが言い訳をする前に、トウはプイとそっぽを向いて部屋の中へ行ってしまった。あっちゃ〜、怒らせちゃったか。
「に〜。」
「・・・入ろうか。」
後でトウのカリカリ(猫の餌)にカツ節混ぜてゴマすりだな。早く機嫌直してもらわないと、こっちも幾分気分が悪いし。
「に〜。」
「はいはい、一寸待ってな。」
仔猫を床に下ろし、上着を脱ぎながら机の上に置いてあるPCの電源をつける。・・・さて、小説の具合はっと。片手でマウスを動かし、デスクトップに貼り付けてあるとあるサイトの小説投稿ページを開く。
「・・・また増えてる。」
観覧者数の場所を見ると、昨日投稿した時よりも600人ほど増えていた。・・・嬉しいけど、プレッシャーというか何と言うか・・・ねぇ?いや、嬉しいんだよ?嫌じゃないんだって、マジで。この気持ちを分かってくれる人は居る、・・・多分。
「ご主人、ちっこいの拾って来るのはいいけど、最後まで見てやりにゃよ・・・。」
「おう、そうだな・・・って、え?」
不意に少女のような呆れ声が聞こえたので振り返ってみるが、そこには食卓の上を陣取っているトウと最初に置いた場所から動かずにじっと此方を見つめているあの黒猫しかいない。・・・気のせいかな?でも、嫌に鮮明だったような・・・。
頬を掻きながら、あの謎の声の至極真っ当な言い分の通り猫飯を作りに台所へと脚を向ける。
◆
「に〜。」
「ん?」
そろそろ炊飯ジャーの音楽が鳴り出そうかという頃、いつの間にかあの仔猫が足元まで来ていた。丁度本を読むために椅子に座っていた為、すぐに気付いた。
「ハハ、何だ?待ち切れないのか?」
「コロコロ・・・。」
読んでいた本を置き、仔猫を手の平に乗せて喉を擽ると気持ち良さそうに喉を鳴らした。
「にゃー。」
「わっ!?と、トウ!?何だよいきなり・・・。」
突然、食卓に乗っていたトウが足の上に乗ってきて上を向いた。まるで、「私もやって!」と言わんばかりに・・・。
「甘えん坊め、このこの。」
「ゴロゴロ・・・。」
トウの喉を優しく撫でてやると、これまた嬉しそうに喉を鳴らしてくれる。飼い主として、これ以上に嬉しい事は無いね、うん。ついでにお腹も撫でてやろうとすると、鋭い眼光で俺を睨みつけてくる。
「たまにはゆっくりモフモフさせろよな・・・。」
「・・・・・・。」
「へーへー、悪かったよ。」
そうこうしている間に、ご飯が炊けたようで炊飯ジャーから小気味のいい音楽が流れた。
「お、炊けたな・・・。」
「にゃー。」
俺が立ち上がろうとすると、トウが一声、耳をパタパタとはためかせながら鳴いた。これは「腹が減った」の合図。拾った当初から変わらない数少ない彼女の意思表示の一つだ。
「分かった分かった。すぐ持っていくから、今は一寸退いてくれ。」
「にゃー。」
トウは返事もそこそこに俺の脚から飛び降りた。仔猫も下ろして、机の上に置いてやる。炊き上がったご飯に水をかけて、コンロの下に置いてある缶詰の内からさば缶を取り出して蓋を開けて中身を出して混ぜる。これであっし流猫飯の完成、いえーい。何?色々間違ってる?うるさい。
ついでに缶詰を置いてある場所と同じところに置いてあるカリカリを取り出して左手に持って食卓まで歩く。
「ほい、トウ。カリカリだぞ。」
「にゃ〜♪」
「それとこれはオマケな。」
トウの餌入れにカリカリを入れ、仔猫の時に使ったサバ缶の残りを上に乗せてやる。すると床に置くのを待たずにトウが食卓に飛び乗り、美味しそうにサバ乗せカリカリを食べ始めた。
「さ、次はお前だな。」
「に〜。」
「ほれ、熱いからゆっくり食べな。」
仔猫の目の前に猫飯の入ったお椀を置いてやると、余程お腹が空いていたのか一心不乱に食べ始めた。
さて、あっしも飯にすっかな〜・・・。
◆
「ふう、ごっそさん。」
おかずに簡単な玉子焼きを作って晩飯。我ながら質素な生活だと思う。そのうち出家しても変わらないんじゃないか?この食生活。そう思いつつ、食卓の上にいる二匹の猫に目を向ける。いつもよりも少し賑やかになった我が家。仕事は疲れるけどこの子達がいると明日も頑張ろうって思えてくる。・・・いかんいかん。今日は特に疲れてるのかな?早めに寝よう。
「に〜。」
「お、そうだ。お前の名前決めないとな。」
黒猫だからクロ。・・・なんか安直だな。もう少し捻りたい、人前で呼んでも恥かしく無い程度に。う〜ん・・・。よし、こういうときの小説頼みだ。
「宵・・・。宵はどうだ?」
「に〜♪」
「気に入ったか、そうかそうか。」
思いついた名前を気に入ってくれたのか、嬉しそうに鳴いた宵の背中を撫ぜてやる。・・・いかん、眠くなってきた。洗物は明日にして、今日はこのまま寝るか・・・。
「ふあ〜・・・。おやすみ。」
大きな欠伸を一つして、俺はそのまま後ろに倒れこみ襲いくる睡魔に身を任せて目を閉じた。
◆
「全く、ご主人はだらしないニャあ〜・・・。」
一文字が眠った後、カリカリを食べ終わったトウが一言呟いた。そう、何を隠そうトウはネコマタだったのである!
「・・・ごしゅじんしゃま?」
「ニ゛ャニャ!?お前もネコマタだったのかニャ!?」
「よいもねこまたにゃー。」
何と言うことでしょう。一文字が拾ってきた仔猫もまた、ネコマタなのでした。何と言う偶然、何と言う幸運。
二匹(否、二人か)のネコマタは猫の姿から人型になると、一文字を引っ張り布団をかける。そして、トウは皿を台所へ持っていき、洗いものを始めた。宵はと言うと、飼い主が寝ているのをいい事にその小さな体を一文字の腹の上に乗せ、ご機嫌そうに尻尾を振っていた。
「ニャ!?宵、何してるニャ!」
「ごしゅじんしゃま、あったか〜いにゃ〜。」
「ずるいニャ!私にもそこ乗せさせるニャ!」
「いやにゃ〜。」
「そこ退くニャー!」
「・・・ん〜?」
二匹のネコマタが口喧嘩をしていると、一文字が気だるそうに起きた。
「・・・ネコマタ?」
「・・・・・・!」
「・・・・・・!」
それと同時に、まるでメデューサの石か魔法に掛かったように固まる二人。
「・・・夢か。」
そう言って、一文字はまた腕を枕にして目を閉じた。それを見て、ほっとする二人。
「ってなんですとーーーー!?」
「ニ゛ャア!?」
「にゃ!?」
絶叫と共に飛び起きた一文字。それにびびるネコマタ二人(笑)。
◆
「――――ということなのニャ。」
「にゃ。」
「・・・・・・。」
一応ネコマタになった理由等を聞いた一文字だが、まだ内心呆気に取られていた。無理も無い、図鑑の中だけにしか存在していないと思っていた物が今、目の前にいるのだから。
「・・・とりあえず。」
「ニャ?」
「飯代が馬鹿にならなくなったって事か・・・。」
そう言いながら、一文字は項垂れた。それとは反対に、キョトンとしているネコマタ二人。
「追い出さないのニャ?」
「よいたちようかいにゃ、ねこまたにゃー。」
「いやだって追い出す必要が無いよ。っていうかむしろ居て下さい。」
意外な言葉に、今度はネコマタ二人が呆気に取られる。
「何でニャ!?どーしてニャ!?」
「ちょ、ゆ、揺らすな・・・!」
一文字の首根っこを掴み、激しく揺さぶる。
「や、やめ・・・。」
「あ・・・。」
「ぎ、ぎもぢわるい・・・。」
「ごめんニャ・・・。」
当は自分のやってる事に気が付いたのか、手を止めて謝った。顔色の悪かった一文字だが、少し持ち直したのかにこやかに笑いながら先程のトウの言葉に答えた。
「だって、二人はあっしの家族だろ?」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
(・・・何か変な事言ったかな?)
「ご主人ーーーーー!」
「ごしゅじんしゃま〜。」
ネコマタ二人は一瞬固まったが、すぐに涙を浮かべて一文字に抱きついた。二人を受け止めようとした一文字だが・・・何はともあれ、独り身の一文字に二人の家族が出来ましたとさ。
どっとはらい。
11/10/20 21:35更新 / 一文字@目指せ月3