11話 嫌なときはしっかり言わないと後々面倒
魔物の住む村、レーフ村。ここには雑貨屋からギルドまで、森の中腹にあるとは思えない程度に栄えている。ゆえにこの村に訪れる魔物も多く、その殆どが旅の途中に訪れた者である。その中には護衛などの依頼をギルドに貼る者も少なくない。
「おいラドン、いるか?」
黒い鎧を来た女性が、扉を開けて朝だと言うのに騒がしいギルドの中に入ってくる。女性は周りにいる客には目もくれず奥にあるカウンターまでつかつかと歩いて行った。カウンターの向こうには暇そうに椅子に座り、パイプをふかした老ドラゴンが新聞を読んでいた。
「おや、これはこれは・・・。カミーユ殿ではありませんか」
ラドンと呼ばれた老ドラゴンは女性に気付くと、読んでいた新聞を折り畳んだ。そして、ニコニコと嫌みの無い顔で女性に笑いかける。
「この様なしがないギルドに一体、何用ですかな?貴女様に見合うような依頼は無いと思うのですが・・・」
「いや、今回は私が依頼をしに来たんだ」
「ホッ!」
カミーユと言う女性の言葉がよほど意外だったのか、ラドンが小さく声を上げる。
「・・・何か問題でも?」
「いやいや滅相も無い!少々意外でしたので驚いただけですよ。・・・にしても、魔王軍騎士団長で在らせられる貴女様が依頼とは?」
「これだ」
カミーユは一枚の紙を取り出すと、ラドンの目の前に置いた。ラドンはその紙を取り上げて一通り目を通すも、ため息をついて紙をすぐにカウンターに置き直した。
「ふむ・・・」
「私一人では心許なくてな。良い人材は居ないか?」
「生憎とうちの若いのではおっつかないでしょうなぁ・・・」
ラドンはギルドを見渡してもう一度ため息をつく。
「そうか・・・」
「・・・この依頼は急を要する物ですかな?」
「いや、4,5日なら何とかなるだろう」
「でしたら、あの者が良いのでは?」
「あの者?」
カミーユが首を傾げる。
「最近ひょっこりやって来た、人間の事ですわい」
「あのひ弱そうな人間の事か?」
「フォッフォッフォ。そのひ弱な人間は先日、奴隷屋を二人退治したそうな・・・」
「それは見所があるな」
「そうでしょう」
「しかし、正確な強さが分からないと危険が・・・」
「では、貴女様が鍛えてやればよろしいのですよ」
「わ、私が!?」
カミーユがあまりの事に大声を上げると、ギルドにいた客が何事かと一斉にカミーユ達の方を見た。それに気付いたカミーユはすまないと一言謝り、顔を真っ赤にしながらラドンに向き直った。
「ええ、それなら問題は無いでしょう?」
ラドンは笑いを堪えながらパイプの煙を軽く吸い込んだ。
「か、勝手にしろ!」
カミーユはそう言い捨てると、紙を置いたままズカズカと音を立てながらギルドを出て行った。
「フォッフォッフォ。」
ラドンは愉快そうに笑うと、紙を取り上げ他の紙に内容と要項を写した。そしてそれをカウンターの横にある掲示板にばぁんと音を立てて貼り付けた。
―――――――
「ふあぁ・・・」
薄目を開けて窓を見てみるともう日は上がっている。朝か・・・。隣にはまだルルナが可愛らしい寝顔ですやすやと眠っていた。
起こさないようにそっと抱きかかえ、足の上へ乗せて起き上がる。何時間も腕枕をしていたせいで肘がカチコチだ。背伸びをすると小気味よく骨がなる。
「ん〜・・・」
そういえば、昨日何か忘れてたような・・・?何だったっけな・・・うーん?・・・ギルド・・・。・・・ギルド?
「し、しまったーーーーー!!」
「みゅん!?」
昨日の薬草採りの依頼、ギルドに結果報告するのすっかり忘れてた!!
この地域では依頼が成功したにしろしないにしろ、必ずギルドに報告をしに行かなくてはならない。成功したらそのまま報酬が貰えるが、失敗すればギルドで待っている依頼者に直接土下座・・・なんてのはいい所。なので受ける依頼は慎重に選ばなくてはいけない。
もとい、薬草採り程度の依頼が出来ないと噂されればもう受けられる依頼がなくなってしまう。それだけは何としても避けたい。
「ど、どうしよう・・・!」
「・・・にーちゃん?」
ふと足元を見ると、目を丸くしてこちらを見ているルルナ。しまった、起こしちゃった・・・。
「ご、ごめん。ビックリした?」
「ふにゅ・・・」
謝りついでに頭を撫でてやるとルルナは気持ちよさそうに声を上げた。
ベッドのほうを見てみると、誰も居ない。・・・もう起きてるのかな?
「スグロさん、おはようございます」
「うわぁ!?」
突然後ろから肩を掴まれ思い切り驚いてしまった。振り返ると、シャーリーがエプロンをし、きょとんとした顔で肩に手をかけていた。
「あ、お、おはよう」
「もう朝ごはん出来てますよ?」
「え・・・」
「あー、スーちゃんおきたー」
「おきたー」
「おねぼうさんー」
シャーリーの後ろからパサラちゃん達が顔を出してきた。相変わらずの満面の笑み。見ているこっちの顔が緩んじゃうよ。
「はやおきはあさごはんのとくなんだよー?」
「とくー」
「いやそれ違うし!」
・・・にしても、この間違った知識は一体何処から来るのやら。それ言うなら三文の得だっつーの。・・・ってこんな漫才やってる場合じゃなくて!急いでギルドに報告に行かないと・・・!でも、なんて言やあ良いんだ?籠は森の中に捨ててきちまってるし今から行ってももう・・・!ってあれ?サイが居ない。
「あれ、サイは?」
「サイちゃんなら朝早くに出かけていきましたよ?何でも『少し用事がある』って」
「用事ねぇ・・・」
一体何なんだろう。・・・って今はそんな事より!
「ルルナ、ちょっと降りて!」
「えー・・・」
ルルナ不満そうな顔をすると、もう一度寝ようとする。こ、この子・・・俺が起こせない事を知ってて・・・?
「こーら、ルルナちゃん。スグロさんを困らせちゃ駄目ですよ。」
「むー・・・」
昨日のようにシャーリーがルルナを慣れた手つきで抱き上げる。
・・・ルルナにとって、シャーリーって逆らえないお姉ちゃんなんだろうなぁ。ってそんな場合じゃなくて!
「ごめん、すぐに戻るから!」
「え・・・」
すばやく立ち上がり布団代わりにしていた上着を着なおす。多少しわくちゃでも気にしない。今はとにかくギルドへ・・・!
走り出そうとしたとき、目の前にパサラちゃんが下りてきた。
「うわッ!」
「・・・・・・・・・(ジーッ)」
「ぱ、パサラちゃん・・・?俺、急いでるんだけど・・・」
「ごはんたべないとだめー!」
そう言うと、俺の頬を思いっ切りつねる。いや、パサラちゃんのサイズだと引っ張るのほうが正しい。
「いーででででで!分かった!分かったから!」
「むー・・・」
俺が折れると、パサラちゃんはまだ不満そうな顔をしつつも頬を離してくれた。・・・千切れるかと思った。でもまあ、たしかによく考えてみれば飯食ってからでも遅くはないよな。うんうん。
一人で納得しつつ、テーブルへと足を向ける。
テーブルの上には皿に綺麗に盛られたサラダにスクランブルエッグ、それとこれは・・・コンソメスープ?とにかく香ばしそうなスープが器に入っていた。何と言うか、洋風な朝食である。いい匂いに逸る気持ちを抑えつつ、椅子に腰掛ける。
「いただきます」
静かに手を合わせ、まずはフォークでスクランブルエッグを一口。
「美味い!」
口の中で程よくとろけ、かつ後味もさっぱりしている。・・・ケチャップが欲しくなってきた。次にコンソメっぽいスープをスプーンで飲んでみる。これも美味い!いい感じに塩味が効いてて・・・コンソメで通るぞ、これ。最後はサラダ。これはサンチュ?でも苦味が無くて食べやすい。
そんなに急いでるつもりは無かったのに、10分も掛からず食べてしまった。
「ご馳走様でした」
「はい、お粗末さまです」
「これ、シャーリーが作ったの?」
「はい。お口に合った様で何よりです♪」
シャーリーは隣の席に座ってにこやかにこちらを見ていた。膝の上ではルルナが手掴みでスクランブルエッグを食べていた。・・・フォーク使おうや。
「それより、いいんですか?」
「ん?」
「何かお急ぎだったんじゃ・・・」
「・・・・・・あーーーーー!」
美味い食事に気をとられてて忘れてた!!急がないと絶対ラドンの爺さん、カンカンに怒ってる!!
「ごめん、じゃあ行って来る!」
「お気をつけて」
椅子から急いで立ち上がり、玄関へ直行してドアを開け放つ。朝の陽射しが目に痛い。自然の匂いを満喫しながらどんどんと足を速めていった。向かうは村の中央にあるギルド兼酒場。栄えているとは言え小さな村、走れば5分と掛からずに着いた。
「ラドン爺さん、ごめん遅れた!」
ギルドのドアを開きながら大声で謝る。中にいた客の視線が痛い・・・。いや、この際気にしないでおこう。カウンターを見てもラドンの爺さんの姿は無い。・・・あるぇー?
「なんじゃ騒がしい」
「うおあっ!?」
突然後ろから声がした。振り返ってみると、ラドン爺さんが訝しげな顔をして立っていた。・・・今日は朝から心臓に悪いことが多い。
「・・・で」
「で?」
「ワシに何か用があってきたんじゃろう?」
「あ、ああ。」
どうする・・・?ここは正直に言うべきだよな・・・。いやでも依頼取れなくなるのは困るしでも嘘吐くとか人としてどうかと
「大方、昨日の薬草採りじゃろ?」
「え・・・」
「昨日の事件は聞いておる。今回の依頼は成功で構わん。」
「で、でも・・・」
「ほれ、奥で報酬を渡すからついて来んか」
「うわッ!?」
爺さんは襟首を掴んでギルドの奥に進んでいく。中にいる客達は俺の情けない姿を見て大爆笑していた。って何で昨日の事知ってんだこの人!?
「じ、自分で歩けるから!」
「昨日のように逃げられては適わんからの〜」
「いや逃げてないから!爺さん知ってるんじゃないの!?」
「何の事かの〜?」
カウンターまで来ると爺さんは意地悪く笑いながらいきなり襟首を離した。崩れていた体制を直して立ち上がる。いつの間にかギルドの客達は自分達の話に華を咲かせていた。・・・強かなこって。
「ほれ、報酬じゃ」
爺さんが此方にお金の入った小さな巾着を投げてよこして来た。
「で、でも爺さん。俺、依頼こなしてな」
「じいちゃん!すまん!遅れた!!」
言い終わらない内にバァンと大きな音と主にドアが開く。見てみると、息を切らしたクノーが此方へ早足で近付いてきていた。
「おお、クノーか。お前さんの分の報酬じゃよ」
「え!?」
突然飛んできた巾着を受け取ると、クノーは此方に『どういう事だ?』と目配せをしてきた。俺も訳が分からないので首を小さく横に振る。
「ところでスグロ」
「な、何?」
「お主を名指しで一件、依頼が来ておるんじゃが・・・」
「俺を!?」
意外すぎる事に思わず声を荒げる。名指しで依頼が来るというのは、それほどその人物が信頼されているかそれとも村に貢献しているか、つまり余程の実力者で無いとありえない。因みに俺はまだどちらにもなれていない。ここに来て日も浅いし依頼もこなしていない。・・・なのに、一体何故?
隣にいるクノーを見ると、俺と同じように驚いているようだ。
「何じゃ、不満か?」
「いや、不満とかじゃなくてなんで俺なんだ!?」
「ワシに訊くな。依頼主がそう決めたんじゃからの。・・・で、受けるのか、受けんのかどっちじゃ」
「・・・依頼の内容による」
「何じゃ、若いのに慎重じゃのう・・・。ほれ、これじゃ」
爺さんは掲示板から一枚の紙を取り、俺の前に置いた。それを手に取ると、クノーも内容が気になるのか覗き込んできた。
*読んでいます*
西エンランド地域にあるエルデという村が教会の標的になっているという。私独りでは心許ないので是非ついて来て欲しい。受けるならイナミの居る神社に来てくれ。
報酬:30ソル+α
依頼主:魔王軍騎士団長カミーユ
*読み終わり*
「「ええーーーーっ!?」」
クノーと声が重なる。ま、魔王騎士団長!!?
「何じゃ大きな声を出して・・・」
「魔王軍騎士団長の依頼・・・!?」
クノーがわなわなと震えながらもう一度見ようと紙を俺の手から奪い取る。肝心の俺はというと、余りに衝撃的なことで頭が真っ白になり紙を見た体制のまま固まっていた。
「じ、じいちゃん・・・これ、マジ?」
「勿論。今朝直々に来られたからのぉ」
「・・・・・・・・・」
クノーが俺の手に紙を戻してきた。
「で、スグロや」
「な、何・・・?」
「この依頼、受けるかの?」
にこやかに笑う爺さん。しかしその笑みは余りに黒く、もはや脅しにしかなっていない。・・・絶対受けないと駄目なんだろうなぁ。
「ゼ、ゼヒヨロコンデ」
「そうか。では、紙をこちらへ」
「ああ・・・。はぁ・・・」
爺さんは満足そうに微笑むと、手で催促をしてくる。一度受けるといった以上断ることは出来ないので黙って依頼の紙を渡し、俺は大きくため息を吐いた。一体、何で俺なんだ?
「んじゃ、気をつけてな」
そう言うと爺さんはカウンターの隅に置いてあった新聞を手に取り、読み始めた。
「・・・とりあえず、イナミ様のところに行ってみるか」
「・・・そうだな」
「おいラドン、いるか?」
黒い鎧を来た女性が、扉を開けて朝だと言うのに騒がしいギルドの中に入ってくる。女性は周りにいる客には目もくれず奥にあるカウンターまでつかつかと歩いて行った。カウンターの向こうには暇そうに椅子に座り、パイプをふかした老ドラゴンが新聞を読んでいた。
「おや、これはこれは・・・。カミーユ殿ではありませんか」
ラドンと呼ばれた老ドラゴンは女性に気付くと、読んでいた新聞を折り畳んだ。そして、ニコニコと嫌みの無い顔で女性に笑いかける。
「この様なしがないギルドに一体、何用ですかな?貴女様に見合うような依頼は無いと思うのですが・・・」
「いや、今回は私が依頼をしに来たんだ」
「ホッ!」
カミーユと言う女性の言葉がよほど意外だったのか、ラドンが小さく声を上げる。
「・・・何か問題でも?」
「いやいや滅相も無い!少々意外でしたので驚いただけですよ。・・・にしても、魔王軍騎士団長で在らせられる貴女様が依頼とは?」
「これだ」
カミーユは一枚の紙を取り出すと、ラドンの目の前に置いた。ラドンはその紙を取り上げて一通り目を通すも、ため息をついて紙をすぐにカウンターに置き直した。
「ふむ・・・」
「私一人では心許なくてな。良い人材は居ないか?」
「生憎とうちの若いのではおっつかないでしょうなぁ・・・」
ラドンはギルドを見渡してもう一度ため息をつく。
「そうか・・・」
「・・・この依頼は急を要する物ですかな?」
「いや、4,5日なら何とかなるだろう」
「でしたら、あの者が良いのでは?」
「あの者?」
カミーユが首を傾げる。
「最近ひょっこりやって来た、人間の事ですわい」
「あのひ弱そうな人間の事か?」
「フォッフォッフォ。そのひ弱な人間は先日、奴隷屋を二人退治したそうな・・・」
「それは見所があるな」
「そうでしょう」
「しかし、正確な強さが分からないと危険が・・・」
「では、貴女様が鍛えてやればよろしいのですよ」
「わ、私が!?」
カミーユがあまりの事に大声を上げると、ギルドにいた客が何事かと一斉にカミーユ達の方を見た。それに気付いたカミーユはすまないと一言謝り、顔を真っ赤にしながらラドンに向き直った。
「ええ、それなら問題は無いでしょう?」
ラドンは笑いを堪えながらパイプの煙を軽く吸い込んだ。
「か、勝手にしろ!」
カミーユはそう言い捨てると、紙を置いたままズカズカと音を立てながらギルドを出て行った。
「フォッフォッフォ。」
ラドンは愉快そうに笑うと、紙を取り上げ他の紙に内容と要項を写した。そしてそれをカウンターの横にある掲示板にばぁんと音を立てて貼り付けた。
―――――――
「ふあぁ・・・」
薄目を開けて窓を見てみるともう日は上がっている。朝か・・・。隣にはまだルルナが可愛らしい寝顔ですやすやと眠っていた。
起こさないようにそっと抱きかかえ、足の上へ乗せて起き上がる。何時間も腕枕をしていたせいで肘がカチコチだ。背伸びをすると小気味よく骨がなる。
「ん〜・・・」
そういえば、昨日何か忘れてたような・・・?何だったっけな・・・うーん?・・・ギルド・・・。・・・ギルド?
「し、しまったーーーーー!!」
「みゅん!?」
昨日の薬草採りの依頼、ギルドに結果報告するのすっかり忘れてた!!
この地域では依頼が成功したにしろしないにしろ、必ずギルドに報告をしに行かなくてはならない。成功したらそのまま報酬が貰えるが、失敗すればギルドで待っている依頼者に直接土下座・・・なんてのはいい所。なので受ける依頼は慎重に選ばなくてはいけない。
もとい、薬草採り程度の依頼が出来ないと噂されればもう受けられる依頼がなくなってしまう。それだけは何としても避けたい。
「ど、どうしよう・・・!」
「・・・にーちゃん?」
ふと足元を見ると、目を丸くしてこちらを見ているルルナ。しまった、起こしちゃった・・・。
「ご、ごめん。ビックリした?」
「ふにゅ・・・」
謝りついでに頭を撫でてやるとルルナは気持ちよさそうに声を上げた。
ベッドのほうを見てみると、誰も居ない。・・・もう起きてるのかな?
「スグロさん、おはようございます」
「うわぁ!?」
突然後ろから肩を掴まれ思い切り驚いてしまった。振り返ると、シャーリーがエプロンをし、きょとんとした顔で肩に手をかけていた。
「あ、お、おはよう」
「もう朝ごはん出来てますよ?」
「え・・・」
「あー、スーちゃんおきたー」
「おきたー」
「おねぼうさんー」
シャーリーの後ろからパサラちゃん達が顔を出してきた。相変わらずの満面の笑み。見ているこっちの顔が緩んじゃうよ。
「はやおきはあさごはんのとくなんだよー?」
「とくー」
「いやそれ違うし!」
・・・にしても、この間違った知識は一体何処から来るのやら。それ言うなら三文の得だっつーの。・・・ってこんな漫才やってる場合じゃなくて!急いでギルドに報告に行かないと・・・!でも、なんて言やあ良いんだ?籠は森の中に捨ててきちまってるし今から行ってももう・・・!ってあれ?サイが居ない。
「あれ、サイは?」
「サイちゃんなら朝早くに出かけていきましたよ?何でも『少し用事がある』って」
「用事ねぇ・・・」
一体何なんだろう。・・・って今はそんな事より!
「ルルナ、ちょっと降りて!」
「えー・・・」
ルルナ不満そうな顔をすると、もう一度寝ようとする。こ、この子・・・俺が起こせない事を知ってて・・・?
「こーら、ルルナちゃん。スグロさんを困らせちゃ駄目ですよ。」
「むー・・・」
昨日のようにシャーリーがルルナを慣れた手つきで抱き上げる。
・・・ルルナにとって、シャーリーって逆らえないお姉ちゃんなんだろうなぁ。ってそんな場合じゃなくて!
「ごめん、すぐに戻るから!」
「え・・・」
すばやく立ち上がり布団代わりにしていた上着を着なおす。多少しわくちゃでも気にしない。今はとにかくギルドへ・・・!
走り出そうとしたとき、目の前にパサラちゃんが下りてきた。
「うわッ!」
「・・・・・・・・・(ジーッ)」
「ぱ、パサラちゃん・・・?俺、急いでるんだけど・・・」
「ごはんたべないとだめー!」
そう言うと、俺の頬を思いっ切りつねる。いや、パサラちゃんのサイズだと引っ張るのほうが正しい。
「いーででででで!分かった!分かったから!」
「むー・・・」
俺が折れると、パサラちゃんはまだ不満そうな顔をしつつも頬を離してくれた。・・・千切れるかと思った。でもまあ、たしかによく考えてみれば飯食ってからでも遅くはないよな。うんうん。
一人で納得しつつ、テーブルへと足を向ける。
テーブルの上には皿に綺麗に盛られたサラダにスクランブルエッグ、それとこれは・・・コンソメスープ?とにかく香ばしそうなスープが器に入っていた。何と言うか、洋風な朝食である。いい匂いに逸る気持ちを抑えつつ、椅子に腰掛ける。
「いただきます」
静かに手を合わせ、まずはフォークでスクランブルエッグを一口。
「美味い!」
口の中で程よくとろけ、かつ後味もさっぱりしている。・・・ケチャップが欲しくなってきた。次にコンソメっぽいスープをスプーンで飲んでみる。これも美味い!いい感じに塩味が効いてて・・・コンソメで通るぞ、これ。最後はサラダ。これはサンチュ?でも苦味が無くて食べやすい。
そんなに急いでるつもりは無かったのに、10分も掛からず食べてしまった。
「ご馳走様でした」
「はい、お粗末さまです」
「これ、シャーリーが作ったの?」
「はい。お口に合った様で何よりです♪」
シャーリーは隣の席に座ってにこやかにこちらを見ていた。膝の上ではルルナが手掴みでスクランブルエッグを食べていた。・・・フォーク使おうや。
「それより、いいんですか?」
「ん?」
「何かお急ぎだったんじゃ・・・」
「・・・・・・あーーーーー!」
美味い食事に気をとられてて忘れてた!!急がないと絶対ラドンの爺さん、カンカンに怒ってる!!
「ごめん、じゃあ行って来る!」
「お気をつけて」
椅子から急いで立ち上がり、玄関へ直行してドアを開け放つ。朝の陽射しが目に痛い。自然の匂いを満喫しながらどんどんと足を速めていった。向かうは村の中央にあるギルド兼酒場。栄えているとは言え小さな村、走れば5分と掛からずに着いた。
「ラドン爺さん、ごめん遅れた!」
ギルドのドアを開きながら大声で謝る。中にいた客の視線が痛い・・・。いや、この際気にしないでおこう。カウンターを見てもラドンの爺さんの姿は無い。・・・あるぇー?
「なんじゃ騒がしい」
「うおあっ!?」
突然後ろから声がした。振り返ってみると、ラドン爺さんが訝しげな顔をして立っていた。・・・今日は朝から心臓に悪いことが多い。
「・・・で」
「で?」
「ワシに何か用があってきたんじゃろう?」
「あ、ああ。」
どうする・・・?ここは正直に言うべきだよな・・・。いやでも依頼取れなくなるのは困るしでも嘘吐くとか人としてどうかと
「大方、昨日の薬草採りじゃろ?」
「え・・・」
「昨日の事件は聞いておる。今回の依頼は成功で構わん。」
「で、でも・・・」
「ほれ、奥で報酬を渡すからついて来んか」
「うわッ!?」
爺さんは襟首を掴んでギルドの奥に進んでいく。中にいる客達は俺の情けない姿を見て大爆笑していた。って何で昨日の事知ってんだこの人!?
「じ、自分で歩けるから!」
「昨日のように逃げられては適わんからの〜」
「いや逃げてないから!爺さん知ってるんじゃないの!?」
「何の事かの〜?」
カウンターまで来ると爺さんは意地悪く笑いながらいきなり襟首を離した。崩れていた体制を直して立ち上がる。いつの間にかギルドの客達は自分達の話に華を咲かせていた。・・・強かなこって。
「ほれ、報酬じゃ」
爺さんが此方にお金の入った小さな巾着を投げてよこして来た。
「で、でも爺さん。俺、依頼こなしてな」
「じいちゃん!すまん!遅れた!!」
言い終わらない内にバァンと大きな音と主にドアが開く。見てみると、息を切らしたクノーが此方へ早足で近付いてきていた。
「おお、クノーか。お前さんの分の報酬じゃよ」
「え!?」
突然飛んできた巾着を受け取ると、クノーは此方に『どういう事だ?』と目配せをしてきた。俺も訳が分からないので首を小さく横に振る。
「ところでスグロ」
「な、何?」
「お主を名指しで一件、依頼が来ておるんじゃが・・・」
「俺を!?」
意外すぎる事に思わず声を荒げる。名指しで依頼が来るというのは、それほどその人物が信頼されているかそれとも村に貢献しているか、つまり余程の実力者で無いとありえない。因みに俺はまだどちらにもなれていない。ここに来て日も浅いし依頼もこなしていない。・・・なのに、一体何故?
隣にいるクノーを見ると、俺と同じように驚いているようだ。
「何じゃ、不満か?」
「いや、不満とかじゃなくてなんで俺なんだ!?」
「ワシに訊くな。依頼主がそう決めたんじゃからの。・・・で、受けるのか、受けんのかどっちじゃ」
「・・・依頼の内容による」
「何じゃ、若いのに慎重じゃのう・・・。ほれ、これじゃ」
爺さんは掲示板から一枚の紙を取り、俺の前に置いた。それを手に取ると、クノーも内容が気になるのか覗き込んできた。
*読んでいます*
西エンランド地域にあるエルデという村が教会の標的になっているという。私独りでは心許ないので是非ついて来て欲しい。受けるならイナミの居る神社に来てくれ。
報酬:30ソル+α
依頼主:魔王軍騎士団長カミーユ
*読み終わり*
「「ええーーーーっ!?」」
クノーと声が重なる。ま、魔王騎士団長!!?
「何じゃ大きな声を出して・・・」
「魔王軍騎士団長の依頼・・・!?」
クノーがわなわなと震えながらもう一度見ようと紙を俺の手から奪い取る。肝心の俺はというと、余りに衝撃的なことで頭が真っ白になり紙を見た体制のまま固まっていた。
「じ、じいちゃん・・・これ、マジ?」
「勿論。今朝直々に来られたからのぉ」
「・・・・・・・・・」
クノーが俺の手に紙を戻してきた。
「で、スグロや」
「な、何・・・?」
「この依頼、受けるかの?」
にこやかに笑う爺さん。しかしその笑みは余りに黒く、もはや脅しにしかなっていない。・・・絶対受けないと駄目なんだろうなぁ。
「ゼ、ゼヒヨロコンデ」
「そうか。では、紙をこちらへ」
「ああ・・・。はぁ・・・」
爺さんは満足そうに微笑むと、手で催促をしてくる。一度受けるといった以上断ることは出来ないので黙って依頼の紙を渡し、俺は大きくため息を吐いた。一体、何で俺なんだ?
「んじゃ、気をつけてな」
そう言うと爺さんはカウンターの隅に置いてあった新聞を手に取り、読み始めた。
「・・・とりあえず、イナミ様のところに行ってみるか」
「・・・そうだな」
11/08/05 14:26更新 / 一文字@目指せ月3
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