連載小説
[TOP][目次]
7話 俺・・・帰れたら普通の生活を送るんだ・・・
う・・・うん・・・?此処は・・・?アレ・・・顔が暖かい・・・。てか柔らかい・・・。
白濁した意識が段々と戻ってきたので目を開いてみる。しかし目を開いてもそこは真っ暗な闇。
アレ・・・?今は夜なのか?じゃあこの柔らかい感触は・・・?
腕が動く様になっていたので顔のあたりを触ろうとしてみた。
もゆん。
・・・はい?何なんですか、この程よく柔らかい物体は?

「気がついた・・・?」

上から小さな声が聞こえたかと思うと不意に視界が一気に広がる。そこには、先ほど助けるはずだったサイクロプスの女の子がいた。女の子の奥に竈が見える辺り、此処は家屋の中らしい。
・・・確か俺、腕に矢が刺さって麻痺毒で倒れたよな?じゃあ何でこの娘が、しかも家屋の中に?まさか、倒れてる間にあの奴隷屋たちに売り飛ばされて・・・!?
最悪のビジョンが脳裏に浮かび、戦慄する。

「・・・?起きたのに・・・動かない」

一瞬サイクロプスの女の子が無表情のまま近付いてきたかと思うと、頭の後ろに手を回され彼女の持つ豊満な胸に顔が埋まった。
うひょー、あったけー。・・・・・・・・・ってちょっとちょっとちょっと!!?貴女は一体何をしているんでしょうか!?自分のその胸に俺の顔をうずめるってあーた!ありがとう、いい経験をしたよ。

「ありがとう!もう起きたよ!」
「あ・・・」

急いでサイクロプスの少女の胸から顔を離す。少女は俺が起きたことに少し驚いたのか、小さく声を上げた。

「すー・・・すー・・・」

足の方から寝息が聞こえてきたので見てみると、狼少女が気持ちよさそうに足の上で丸まって眠っていた。
この様子だと、俺の想像は取り越し苦労だったようだ。何よりも三人が無事な事でほっと胸を撫で下ろす。

「・・・よかった」
「う〜ん・・・?」

狼少女の頭をやさしく撫でてやる。狼少女は少し身じろぐと、目を覚ました。
そして、そのまま足の上で伸びをすると、寝ぼけ眼でこちらを見やる。
可愛いな畜生。

「おはよぅ・・・」
「ん、おはよう」

挨拶をしたはいいもののまだ眠いのか、すぐに丸まってしまう。それをサイクロプスの少女が抱きかかえる。

「ルルナ・・・ちゃんと・・・挨拶しないと・・・駄目」
「ん〜・・・」
「起きて・・・」

サイクロプスの少女は狼少女を抱きかかえたまま少し揺さぶる。どうやら狼少女もそれで完全に起きたらしく、欠伸をするとふるふると頭を振った。

「ん?サイ・・・?」
「おはよう・・・」
「おはよー」

サイと呼ばれた少女を見やった後、ルルナは俺のほうを見た。

「にーちゃん、おきたの?」
「ああ」
「じー・・・」
「な、何?」

ルルナという少女がこちらをじっと見つめてくる。警戒しているのか?まあ、しょうがないよな。あんなことされてちゃな。
そう考えていると、ドスンと突如お腹の辺りに圧力がかかる。何事かと思い見てみると、ルルナがひしと抱きついていた。
痛い痛い痛い!爪が横腹に食い込んでる!

「・・・・・・」
「ちょ、ちょっと?」
「・・・ありがとう」
「え?」
「・・・こわかった、いたかった」
「・・・・・・」

そうか・・・そうだよな・・・。この子はまだ小さいのに耐えてたんだよな・・・。
俺は黙ってルルナの頭を撫でる。途端に、ルルナの俺を抱きしめる手に力が入った。
いたたたた!爪が、爪がぁ!
痛みから来る脂汗を必死に抑えながらルルナの頭を撫で続ける。

「にーちゃん、なまえは?」
「俺か?俺はスグロ。ミツキリスグロって言うんだ」
「すぐろ?」
「そ、スグロ」

俺の名前を聞くや否や、ルルナは尻尾を嬉しそうにパタパタと振った。

「あたしのなまえはね、ルルナ」
「ルルナ?」
「うん!」

ルルナは元気良く返事をすると俺のほうを見てにっこりと笑った。見た目相応のあどけない笑顔に、思わずこちらの顔も緩んでしまう。

「ウチの名前・・・」
「ん?」

前から小さな声が聞こえた。サイクロプスの少女が何かを言った様だ。
・・・もう少し大きな声を出してくれると有難いんだけどなぁ。

「・・・サイ」
「え?」
「ウチの名前・・・サイ」
「サイか・・・いい名前だ」
「・・・・・・」

にこりと笑いかけると、サイは無表情のまま顔を真っ赤にして下を向いてしまった。・・・あれ、俺なんか不味い事言った?
足に乗っているルルナはいぜんとして尻尾を振ったままこちらを見上げていた。なんとなくせがまれている様な気がして、頭を撫でてやる。

「・・・あ、あの!」
「うわぁ!?」
「ひうっ!」

後ろから突然声を掛けられ、思わず叫んでしまった。驚きをそのままに後ろを振り向くと、黒ずくめの少女が部屋の隅に隠れるのが見えた。
少女は隠れた場所から顔を少しだけ出すと、口をパクパクさせて何かを言おうとしていた。・・・全然聞こえてないんだが。

「あの・・・もう少し大きな声で言ってくれる?聞こえないからさ」
「・・・・・・」

少女はもう一度何か言ったようだがゴニョゴニョとしか聞こえず何を言っているのか分からない。首を傾げていると、少女もこの距離では無理だと悟ったのか恐る恐る近付いてきた。
そして、俺の近くまで来ると顔を真っ赤にしながら息を吸い込んだ。

「あ、あにょ!私にょ名前ひゃ・・・うう・・・」

頑張って自己紹介してくれようとしているらしいがカミカミだ。なんだか見ていて微笑ましい。

「ま、まあとりあえず落ち着いて・・・」
「ひゃ、ひゃい!」
「落ち着いてないでしょ・・・」
「ううー・・・」

あちゃー、俯いちゃったよ。こうなっちゃうと軌道修正は難しいよな・・・。でも、名前分からないと呼びにくいしなぁ・・・。そうだ、こっちから自己紹介してみよう。

「俺の名前はミツキリスグロ。君の名前は?」
「わ、わたひにょ名前は」

駄目だこりゃ・・・。あがり過ぎててまともに話せなくなってる・・・。
とりあえず、落ち着かせないと・・・。

「はい深呼吸やってみよー」
「ひゅえ!?」
「はい吸ってー」
「すー・・・」
「はいてー」
「はー・・・」
「どう?落ち着いた?」
「は、はい!」
「よろしい。で、名前は?」
「しゃ、シャーリーって言います!」

何とか落ち着きを取り戻したシャーリーは勇気を使い切ってしまったらしくまた顔を真っ赤にして俯いてしまった。
ふと、言い知れぬ笑いがこみ上げて来た。

「・・・プッ」
「?」
「アハハハハハハハ!」

我慢できずに大きな声で笑い出してしまった。こんなに笑ったのは久し振りではないだろうか。少なくとも、この世界に来てからこんなに気楽に笑った例はない。

「あー・・・ハハッ」
「な、何か可笑しかったでしょうか!?私、何か変な事言いましたか!?」

シャーリーが慌てているのを見ていると、また笑いがこみ上げてくる。しかしこれ以上は流石にかわいそうなので我慢した。
そうだ、この娘たちも見た目は少し違うけど俺の知ってる人達と何ら変わらないんだ。俺はこの当然の事を、改めて再確認した。

「いや・・・可笑しいところは無かったよ。ただ、ちょっと安心しちゃって」
「あ・・・安心・・・ですか?」
「ういーっす!」
「きゃわぁ!?」

突如ドアが開き、クノーが威勢良く入ってくる。シャーリーは驚いて俺の背中に縋り付いてきた。しかし、すぐに離れ顔を真っ赤にする。・・・俺、もしかして嫌われちゃった?

「お〜起きたかスグロ。うんうん、その様子じゃ大丈夫そうだな」
「クノーちゃんどいて!」

クノーの顔を押しのけて入ってきたのはパサラちゃん率いるもふもふ5姉妹。みんな心配した様子でこちらへ飛んでくる。

「スーちゃん、だいじょうぶ!?」
「けがしたってほんと!?」
「ほんと!?」
「あ、あぁ。でももう大丈夫だよ」
「よかったぁ・・・」

パサラちゃんがほっと胸を撫で下ろした。
そんなパサラちゃんの頭を、人差し指でやさしく撫でてやる。

「ごめんな、心配かけて」
「まったく、スーちゃんはいっつもわたしにめーわくばっかりかけるんだから!」
「ハハ、ごめんな」

貴女たちに育てられた覚えが無いんですが。そういいたいのをぐっと堪え、素直に謝る。

「スグロ君?大丈夫?」

最後に入ってきたのはイナミ様だった。
いつも通りの巫女装束。目の保養になる、本当にありがとうございます。
危うく拝みそうになるが理性がそれを止める。今ここで土下座なんかしたら何かまずい。そんな気がした。

「傷薬、持ってきたわよ〜」

そういわれると、右腕が少し痛んだ。矢が刺さっていた腕だが、今は包帯が巻かれていた。
イナミ様は胸の間に手を伸ばし手のひらサイズの小瓶を取り出すと、此方に投げてよこした。
受け取った小瓶はほんのりと温かかった。これが人肌のぬくもりってやつか。っていやいや!どこに入れてんだよ!

「早く飲んで傷治してね♪」
「は、はい・・・」

なんかお隣にいらっしゃるクノーさんの視線がすごく痛いんですけど。てか顔怖い。俺何かしましたか?心配かけたのは謝ろう、しかしそれ以外にそんな顔されるいわれは無いぞ。
俺はふと手元の小瓶を見てみた。中に入っているのは何と言うか、毒々しい色をした何かが入っていた。
・・・飲んだら死ぬんじゃないか?これ。しかし、イナミ様がせっかく俺なんかのために自身の胸の谷間に挟んで持ってきたくれた物だ。飲まないわけにはいくまい。
・・・ええい、ままよ!

「もう一度、あの桜が見たかったな……」

死亡フラグビンビンの台詞と共に俺は小瓶のキャップを空け、一気に中身をあおった。
11/07/26 13:44更新 / 一文字@目指せ月3
戻る 次へ

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33