連載小説
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6話 格好付けた結果がこれだよ!
俺の名はスグロ。つい最近まで普通だった十代後半の学生だ。
普通といってもこのもふもふ幼女がいてしかも武器屋の主人が幼女でさらに村長って言うかリーダー格の人間(?)が狐の耳や尻尾生やしてたりする世界の普通ではない。これだけは言わせてくれ。それは断じて違う。

で、「普通」の俺が今何をしているかと言うと隠密行動
さっき聞こえてきた泣き声を辿って行き着いた結果がこれである。

「ふわあああぁああん!」
「五月蝿ぇってんだろこのガキ!」
「ふえっ・・・ふええええええん!」

俺の隠れている叢の少し先の開けた場所では男が数人、俗に言う「キャラバン」と呼ばれる旅団である。
・・・だが、ただのキャラバンが年端も行かない少女を鎖で繋いだり蹴ったりするだろうか。いやしない。
例えその少女に狼のような体毛が体の所々に生えていたとしてもだ。

「・・・・・・」

狼少女に隣にいた一つ目の少女が狼少女の前に鎖で手足を拘束されながらも庇う様にでて来た。
たしか、サイクロプスだったか・・・。
元々神の一族だったが追放された・・・って今はそんな事はどうでも良い!
今はどうやったら彼女たちを助けられるかが問題だ!

「ルルナ・・・いじめる・・・駄目」
「・・・ッ!五月蝿ぇ!」
「・・・!」

でっぷりと太った、キャラバンの頭らしき男は一つ目の少女の頭を手に持った蛮刀の柄で殴った。
当たり所が悪かったらしく、一つ目の少女は気絶してしまった。

「サイ・・・?ふ、ふわああああぁん!」

おそらく友人なのであろう。
サイクロプスの少女が倒れるのを見て、余計に泣き出す。
クソッ!どうにもできねぇのか・・・!?
目の前で酷い事されてる少女を、このまま見てるしかできねぇのかよ・・・!!
ポケットから出したナイフを握った手に力が入る。
だが相手はリーチのある蛮刀を持っている上に戦闘慣れしているだろう。
このまま無謀に突っ込んでいっても返り討ちにされるのが関の山だ。

「兄貴、そんなに商品を殴っちゃあ値が下がりますぜ」
「・・・チッ、そうだな」

馬車の後ろ(こちらが後ろ側なので本来は前からだが)から少しほっそりとした男が出てきた。
どうやらあの男の部下らしい。
太った男は蛮刀を腰にある鞘に収めた。

「クソが、おい!酒持って来い!」
「へいっ!」

ほっそりとした男がこちらへと走ってきて酒を探して馬車の中をゴソゴソとやり始めた。
そうだ、この男に成りすませば或いは・・・?ちょうどあの兄貴って男からは死角になっている。
よし、そうと決まれば善は急げだ!
俺は叢から出てゆっくりと男の背中に回り込んだ。
いや、待てよ?いきなり気絶させても叫び声とかで怪しまれるな。

「すいません」
「うおっ!?なんだお前!?」
「どうした!?」

太った男がこちらに走ってきた。
よしよし、計画通り・・・。

「あ、すいません。驚かせてしまいましたか。偶々此処を通りかかった者で、貴方様方は名のある奴隷屋とお見受けしますが・・・?」
「なんだ、お客様でしたか・・・」

やっぱりか。
まさかとは思ったけど本当に奴隷屋がいるなんて・・・。

「ご迷惑だったでしょうか?」
「いえいえ、こいつは新入りでして・・・。おい、お前!」
「へいっ、申し訳ありません!」

部下の男が頭を直角に下げてきた。

「で、お客様は何をお求めで?」
「そうですね・・・魔物はいますか?」
「魔物ですか・・・。いやあ、お客様は実に幸運な方ですねぇ!たった先程、活きのいい魔物が手に入ったんですよ!少々お待ちくださいね」

頭の男が目配せすると、部下の男が急いで馬車の向こうに走っていった。
部下の男が馬車の向こうへ行ってすぐ、怒号が聞こえてくる。

「おらお前ら!とっとと歩け!」

ドガッという音が聞こえ、無理やり立たせているというのが見えなくても分かる。

「外道が・・・」
「はい?何か仰いましたか?」
「いえ、何も・・・」

思わず口をついて出てしまった本音。
聞かれなかったようで頭の男は馬車の向こうをチラリと見た後、気さくな口調で話しかけてきた。

「お客様は何故魔物をお求めに?」

何故って、てめぇらから助けるためだよとは勿論言える訳が無いので取繕わないと・・・。

「そうですね・・・。召使いに丁度良いかと思いまして」

自分で言い放った言葉に嫌悪感を覚える。嘘とはいえこんな事を言いたくは無い。
握った拳に力が入り、表情が変わりそうになるのを必死で抑える。

「そうですか・・・。おや、どうやら来たようです」
「ひっく・・・ひっく・・・」
「・・・・・・・・・」

部下の男が連れてきたのは先程の狼少女とサイクロプスの少女、それと黒ずくめの地味な格好をした少女。
・・・あれ、さっきあんな娘いたっけ?まあいい、とにかくあの子も助けよう。
少女は恨めしそうな顔で俺を見る。・・・ごめん、こんな時にだけど何かが目覚めそうだからやめて。

「で、どの魔物にされますか?どれも活きのいい品ばかり!お安くしておきますよ?」
「そうですね・・・少し決め難いので部下の方と二人にしてくれますか?」
「・・・?はぁ、構いませんが・・・」

男が怪訝な顔をして俺の顔を見つめたあと、渋々と馬車の向こう側に歩いていった。
・・・ここまで上手くいくとは正直思っていなかったがそれでも良い。この娘たちが助けられるのなら・・・!

「・・・お客様、どちらの品にいたしますか?」
「・・・そうですねぇ。おや、アレは・・・?」
「へぇ?」

俺は食料やら何やらがある真後ろの馬車の中を指差した。
それにつられ、部下の男が後ろを向く。
いまだ!
ポケットからすばやくナイフを抜き、柄を男の頭めがけて自分の力の限り振り下ろす。

「うっ・・・!」

まともに頭にナイフの柄を受けた男は力なく倒れた。
ポケットにナイフを収め、唖然としている少女たちをよそに部下の男を元いた叢まで引きずっていった。
男の服を脱がせてそれに着替える。
よし、これで・・・。

「ねえ・・・」
「うん?」
「何・・・してるの?」
「何って・・・助けようとしてるだけだけど」
「何で?」
「そこに困ってる人がいるからだよ」
「・・・・・・」

と言ったものの、行った傍から後悔した。何言ってんだ俺。このままではキザもいい所だろうが。
鍵を探すために馬車の中を漁るが、見当たらない。どうやら、あの頭が持っているようだ。
う〜ん、そうなると戦闘は避けられない・・・ん?臭っ!これはドリアン・・・?ははぁん、いい事思いついた。あのおっさんには悪いが気絶してもらおうか。・・・最高の苦しみを伴ってな!

「ちょっと待っててな、すぐ終らせるから」
「・・・?」

きょとんと目を丸くする少女たちにGJサインをし、目の前のドリアンとアルコールの少し強い酒を持って馬車の向こう側へ走っていった。

「兄貴〜!」

大声を出しながら頭の男の元へと走る。

「おう、どうだった?」
「あの野郎、いい値段で買ってくれやしたぜ」
「そうかそうか、でかしたな!」

頭の男は俺の肩を勢いよく叩いた。

「それよりも兄貴、高く売れたんですし乾杯しましょう!」
「お、悪くないな!肴は?」
「ドリアンでさぁ」
「おい・・・」

まずい!ばれたか・・・?

「お前、天才か!?」
「は・・・?」

予想外すぎる言葉に一瞬俺の時が止まった。
こ・・・こいつはバカなのか天性のアホに違いない。こんなに臭いものが酒にいいはずはないし一緒に食えば下手すりゃ死に至るんだぞ?

「さあ、早速切ってくれ!」
「へ、へいっ!」

なぜかワクワクしている頭の男の隣でドリアンを切る。
臭い・・・臭すぎる・・・!
切り終ったので頭の男にカットドリアンを渡す。

「おお!来た来た。よし、お前も飲め」
「では・・・」

俺もカットドリアンを片手に持ち、頭の男の酒をコップに受ける。

「あのお客様に乾杯!」
「乾杯!」

頭の男はカットドリアンに齧り付き、酒を一気にあおった。
あ〜あ、そんなに一気に飲んじまうと・・・。

「うっ・・・!?」

ほらな。

「は・・・腹が・・・!?」

頭の男の顔が見る見る青くなっていく。
どうやら即効性のようだ。ドリアンって怖いな。

「さて、鍵は〜っと」
「シグ・・・てめぇっ・・・!」

シグ?ああ、あの男の事か。
悶え苦しむ頭の男の腰にあった鍵束を取り、馬車の方へと走る。

「さ、行くぞ!」

鍵を使って鎖をはずそうとするも、どれがどれの鍵なのか見当もつかない。試しに幾つかの鍵を錠に入れてみるも回らない。どうやら違うらしい。

「・・・開かない」

うん、分かってる。分かってるんだよ・・・。お願いだからそんな悲しそうな顔しないでおくれ。
冷静なサイクロプスの少女の後ろには黒ずくめの少女と狼少女はこちらを心配そうにじっと見ていた。

「ああもう!鍵外すのは後だ!背中乗れ!」

このままモタモタしていてもあのシグとか言う部下が起きてしまいかねない。今はとにかく此処から離れる事が先決と判断してシグの近くに置いてある自分の服を取り上げ、腰に巻く。

サイクロプスの少女が背中に乗ろうとした瞬間。

「そうか・・・お前か・・・」

馬車の向こうから苦しそうな声が聞こえた。
恐る恐る振り向くと、馬車にもたれ掛りながら怒りの形相でこちらを見る頭の男の姿があった。
あ・・・あれ〜?アンタ、あのまま気絶するはずじゃ・・・?

「大事な商品を持っていかれてたまるか!お前も街で売っ払ってやる!」

男が蛮刀を抜き、襲い掛かってきた。
まずい!このままじゃこの娘まで・・・!

「・・・!」
「きゃ・・・ッ!」

俺は剣が当たらないように背中に乗りかけていたサイクロプスの少女を押した。枷が付いてる所為で、少女は思い切り尻餅をついてしまった様だ。
ポケットからナイフを取り出し、蛮刀の軌道に構える。
ギィンという乾いた音共に、ナイフと蛮刀がぶつかった。
痛みで力の抜けている頭の男の剣が弾き返される。
後ろには馬車。・・・よし!

「うおおおおおおお!」
「グハァ!?」

雄叫びと共に頭の男にタックルする。
このまま馬車にぶつければ・・・!!
力が抜けている頭の男の腹にタックルが入り、足が浮く。
そして、そのままの勢いで馬車に激突する。

「グエ・・・」

頭の男は気絶し、ずしんと音を立てて倒れた。
くそ・・・なんて体重してやがる・・・。いや、それよりも!あの娘たちは大丈夫か!?
後ろ振り向き、三人の安全を確かめる。
幸い、誰も怪我などはしていないようだ。
・・・何でみんな気絶してるんだ?
三人に歩み寄ろうとしたとき、腕に激痛が走った。
な・・・なんだ!?腕を確認すると、長い矢が突き刺さって血が出ていた。
飛んできた方向を見てみると、頭の男の部下のシグが長弓を構えている。

「くそ・・・!」

同時に、体の力が抜ける。どうやら麻痺性の毒が塗られているようだ。
体から完全に力が抜け、地面に倒れた。徐々に感覚と意識が無くなるのを感じる。
くそ・・・が・・・ま・・・

―――――――――

「ちっ!てこずらせやがって・・・」

シグはお客に成りすまし自分たちを騙した張本人を射、勝ち誇った顔で叢から出た。
馬車に近付き、スグロの頭を蹴って気絶しているかどうかを確認する。
そして、すやすやと眠る三人を見た。

「ヒヒヒ・・・兄貴にゃ悪いが手を出させて」
「お〜いスグロ?」
「うわっ!?」

突如近くの茂みから緑色の肌をした女性が出てきた。
そして、クノーは周りを見渡すと再びシグを見た。
クノーはにこりと笑うと、指をゴキゴキと鳴らしながらシグに近付いていく。・・・いい笑顔で。

「さて、この状況を詳しく話して貰おうか?」
「あ・・・あの・・・」
「問答無用!」
「ごはぁ!」

シグが話すよりも先にクノーの右ストレートがシグの腹に埋まる。
シグは思いきり吹っ飛び、頭の男と同じように馬車に激突して倒れた。

「ったく・・・」

クノーは手を払うと倒れているスグロを肩に担いだ。
そして、近くにいた三人を見る。

「こいつらも連れて帰ってやるか。・・・よっと」

反対側の肩にサイクロプスを、背中に黒ずくめの少女を乗せ、狼少女をスグロと同じ肩に担いでクノーは村へと帰っていった。
11/07/26 13:44更新 / 一文字@目指せ月3
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■作者メッセージ
三人が気絶した理由、それは尻餅をついたときに互いに頭をぶつけたから。

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