連載小説
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まかない定食、愛情大盛りで
ジャカジャカと、鉄器の擦れる音が厨房に響きわたる。

「あいっ、ありあわせ炒飯できたよー」

どこか間延びした声をあげて、男性は手際よく鉄鍋の炒飯を盛り付ける。
彼の名は鳳 翔。若くして鳳飯店を一人で切り盛りするやり手である。軽空母ではない。
その腕前は中々のもので、住宅街に構えるということも相まって客足は縮むことを知らない。

幼くして包丁を握ってきた翔にとって、料理とは娯楽趣味と大差がない。
『↑この顔にピンときたら110番』とプリントされたエプロンを身にまとい、嫌に様になっている。
タケノコやらアスパラやら、どうにも季節外れのものが見えるがまぁ気にするな。
ちなみにタケノコはフロイト的に解釈すると明らかに男根のメタファーであり、大きくなると固くなるということはつまりお察しください。アスパラも筋張ってくるしこれはもうR-15不可避。

「うーわー……頼んどいてなんやけどこれ食うのちょっち怖いわー……」

平皿に盛り付けられたR-15炒飯を見下ろし、少女は頬を引きつらせる。
いつのタケノコだよこれ。如何にもそう言いたげな彼女だが、ありあわせだから仕方ない。
彼女の名前は鳳 翼。お察しの通り翔の妹にあたり、近所の高校に通うリアルJKである。
生憎と妹のため、バサ姉と呼んではいけない。

「大丈夫だって、冷凍保存してたやつだし」
「なんの保障やねんそれ!?」

翼の悲鳴を右から左へ、翔は躊躇なく炒飯を口に運んでいる。
炒飯から漂う香りはごま油がよく利いており、決して悪いものではない辺りが逆に怖い。
されど昼食を頼んだのは翼であり、空腹ゆえに頼んだために彼女はごくりと生唾を呑む。

「………………」
「食えよベネット」
「…………へへへへ、お匙も必要ねぇや」

野郎オブクラッシャー。腹をくくったのか、そう叫ばんばかりに翼は炒飯をかっ込む。
あ、もちろん匙でな! 素手で食うナンてインドな真似はしていない。

「……普通にうまい」
「普通に、は余計でしょうが」
「あだっ!?」

ビシッ、と翔のチョップが的確に彼女の脳天に叩きこまれる。
料理人は伊達ではないが、そのプライドも安くはない。

「愚妹のくせに生意気な。カップラーメンを料理と認めなくなってから出直しなさい」
「め、目玉焼きくらいやったら作れるもん!」
「お前の目玉焼きジャリジャリするから料理じゃない」

カルシウムが豊富な目玉焼き。イライラしがちで短気な貴方にオススメ。
ちぇーと唇を尖らせて、しかしウマウマと翼は匙を進める。
如何にありあわせと言えど、上から目線なだけあってなるほど金を払って食う価値はある。
食材を選ばずそこにあるものを使って美味しいものを仕上げてこそ一流のニンジャだ。

「お兄にゃ敵わへんわぁ。どないしたらこんな上手く作れるん?」
「上達する条件なんて射撃も料理も変わんないよ。練習だ、ってデスムーミンが言ってるじゃん」

さらりと言ってのけられ、納得しがたく納得せざるを得ない汎論に翼はウッと言葉に詰まる。
楽して頭が良くなるのは妄想のなかだけである。
もちろん逆説的にはのび太くんでも頑張ればドラえもんを作れるのだ。

「それにほら、美味しいって言ってくれる人がいるとやる気出るじゃん? まぁツバサのご飯はちょっとアレだけど……、美味いって目にもの見せてやろうと思えば俄然やる気出てこない?」
「う゛……せ、せやけどその、相手が悪すぎるっちゅーか……」
「相手……?」

きょとんと小首を傾げる翔を、翼はチラチラと盗み見る。
なるほどそりゃ相手が悪い。いや舌が肥えているのは言うまでもなく、彼女が目にものを見せてやりたいその兄君が鈍感すぎるのだ。空耳鈍感系主人公とか滅べばいいと思う。

「まったく、料理は愛情でしょ? どれだけ下手でも相手を思えば誠意は伝わるって」

そしてこのニブチンである。目玉焼きに込められた誠意はどこに行ったんですかねぇ?
イイコト言ったと言わんばかりの、殴りたいこのドヤ顔。
しかし翼も生まれたときからの付き合いである。さすがに慣れたと諦めたように肩をすくめた。

「アッハイ、さすがお兄、イイコト、言うね」
「褒めてないでしょ、それ」

まぁ自分でもくっさい台詞だと思うけど、と翔は唇を尖らせる。
自分への非難に敏感なのはボッチの証! そういうヤツほど鈍いのは世の常。
なんで俺が好かれる筈がないって思ってしまうん? 性格悪い自覚があるからだよ!

「でもさ、やっぱ自分がつくったもん美味しそうに食ってくれるのって嬉しいじゃん」
「にひひ、言いたいことはよぉ分かるわ」
「まぁそのぶん、別のもん美味そうに食ってると俺のが美味いもん振舞えるとか思うけど」

キリッ、と翔の瞳でプライドが燃え上がる。
何かあったの? と翼が目だけで問いかけると、彼は無言でスマートフォンを取り出す。

「ほら、お前が勧めてくれたゲームあったじゃん? アレだよ……刃物タイム何チャラ」
「何やその物騒なん!? マモノタイムオンラインやマモノタイムオンライン!」

あぁそれそれ、と生返事で翔はスマートフォンの操作を進める。
仏頂面でいじる様子から察するに、何やら不満があるらしい。

「ところでこの娘を見てくれ、こいつをどう思う?」
「すごく……大きいです……(胸が」

スマートフォンに映った魔物娘は、寡黙な少女だった。
ちょうど翔が最高級魔界豚肉を与えたのか、もふもふと無表情でかぶりついている。
一見すると、まるでハムスターがヒマワリの種を頬張っているような愛くるしさである。
だがそのあどけない顔立ちとはアンバランスに、腕に寄り添うように伸びる鋭利な鎌。
まるでカマキリのように、こげ茶色の髪から伸びた触覚がピコピコ揺れている。

「マンティスっていう魔物娘らしいんだ……」
「へぇー……ウチ持っとらへんわ、めんこい娘やね」
「あぁそれは認めよう。だが俺は大いに不満がある……」

ゴゴゴゴゴゴゴとジョジョばりに迫力のある雰囲気を醸し出す翔。
どうせしょうもないことを言うに違いない。
わざわざジョジョ立ちまでして彼が、スマートフォンの画面を指差した。

「それは……こいつだッ!」

そう言って翔が指差した。意外! それはお肉ッ!
だからどうしたと言わんばかりに翼が冷たい視線を送るが、彼の調子は相変わらず。

「生肉だぞこれ! 寄生虫いたらどうすんだ!? いやそれ以前に焼いて味付けした方が絶対に美味いはず! もちろん煮込むのも揚げるのもアリだ! で、なんで食材は種類が豊富なのに調理できないの!?」
「いやゲームやけんこれ」

納得いかないッ! と鬱陶しいテンションは収まらない。

「こんな、霜降り牛肉と見間違えそうな上物なのに……!」

僕が一番、最高級魔界豚肉を美味しくできるんだ! 謎の使命感である。
食材を選ばずそこにあるものを美味しく仕上げてこそ一流のニンジャだと言ったな?
だが質のいい食材を活用しないものは汚い忍者にも劣る愚者である。汚い、さすが忍者汚い。

「ハマっとるなぁ……、いや、こんなハマり方ありなんやろか……?」
「おまっ、せっかくこんな美味そうな肉が手元にあるのに、その美味しい召し上がり方も知らずにもふもふ食べるマンティスちゃんが不憫とは思わんのか」

液晶のなかでは相も変わらず無感情に肉を頬張るマンティス。
生肉にかぶりつくとかターザン並の野生児である。

「僕なら焼き豚卵飯くらいなら作ったげるのに……!」
「庶民的っ!? え? いや、高級肉なんやけもうちょいお上品な……」
「B級グルメの美味さは侮るなかれ」

みんな大好きB級グルメ、でも絶対にバリィさんのが有名なんじゃないかな?
同じ特産品のタオルがまるで息をしてないぞ! ホント今治市は地獄だぜ!

「兎にも角にも、こんだけ多機能なのに料理できないのが不満だね……」
「そんなのが不満なのお兄ぐらいやと思うよ……」

自分で細かく料理して召し上がってもらえるギミックのあるゲームとか聞いたことない。
そんな二人のやり取りも気にした様子なく、マンティスは尚も生肉を食んでいる。
筋が噛み切れないのか、苦戦しているようだ。

「ゆっくり噛んで食うといい……誰も盗らないからな」

色々と言いたいことはあるようだが、どうしようもないものはどうしようもない。
翔は液晶をタッチして、苦笑いでマンティスの頭を撫でる。
きっとこいつ、脳内でマンティスのことを悲劇のヒロインとでも思っているに違いない。

「お兄……ゲームに話しかけるんはちょいドン引きやで……」
「別にいいだろ。二次元が嫁とまでのたまうほど堕ちちゃいないんだから」

出会いもねえ彼女もねえ車もそれほど走ってねえ。おらこんな現実いやだー。
そんな貴方に画面の向こう。ちなみに翔は年齢=彼女いない歴である。
独身貴族こそ至高と考えているらしく、図鑑世界ではきっと真っ先に狙われるだろう。

「まぁプレイヤーの中にはガチ結婚したやつもいるらしいけどな」
「何ぞそのケッコンカッコガチ……」

なんでもメドゥーサ、ドッペルゲンガーと結婚をした者がいるという噂が掲示板で有名になっているらしい。ソースはあのリリムに違いない。
約一名が行方不明になっているのは認知されていないらしい。不思議の国チキンレース!

『けぷっ……』

と、そこで折よくマンティスが肉を食い終えたらしい。
翔と翼は尚も下らない話に興じており、そんな彼女に気付いていない。

『……………』

そんな彼女の視線が、ちらりとテーブルの平皿に注がれる。
どうやらR-(ry……ありあわせ炒飯に興味があるらしく、金色の瞳がじっと見つめている。
しかし、そんな彼女の視線に気付くことなく、二人は炒飯を完食してしまった。

「ご馳走さまでした、と」
「ほい、お粗末さん」

食器を片すべく立ち上がる二人を、マンティスは尚も視線を向けたままだ。
食べかすがついた小さな唇が、かすかに動いたが、誰も気付かない。

『ごはん……』



















『フラグを 達成 しました』

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

早めの昼食を終え、翼は部活があるらしく学校へ行った。
翔はというと、昼から開く鳳飯店の店番に追われていた。
さすがに休日の真昼間というだけはあって忙しく、おやつ時となっても主婦層ラッシュが絶えない。
ようやく落ち着いたころには日もすっかり落ちてしまい、見事に夕食を食いっぱぐれていた。

「あー、疲れた……」

厨房の椅子に座り、翔はちらりと時計を確認する。
時すでに9時の針を回り、普段ならひとっ風呂あびてる頃である。

「……ん? ツバサからか?」

スマートフォンのランプが緑色の点滅を放っていることに気付き、翔は携帯を手に取る。
見るとLINEのようで『(=゚ω゚)ノ今日は晩ご飯いらへんヨ』とメッセージ。
どうやら友達の家でご厄介になっているらしい。

「はぁ、あのバカ……。今度、浅漬けのお裾分けに行かせよう……」

主夫か。

「ん?」

LINEの表示を消すと、ヴーっとスマートフォンが急に振動する。
インターネットのアプリが開かれ、画面に表示されたのはマモノタイムオンラインだ。

「おろ?」

和気あいあいと姦しく、魔物娘がずらりと並んでいたタイトル画面。
それが、妙にガランとしていることに翔は首を傾げる。
見てみれば、彼が偶然か必然かパートナーに設定していたマンティスしかいないのだ。

「…………きゃ、キャラが減った?」

進行するごとにタイトル画面にキャラが増えるのではない。
進行することでタイトル画面のキャラが嫁だけになるのだ。
どっかのエロゲブランドがやりそうなギミックだなオイ。

「………………」

『ログイン』のボタンも、いつの間にやらハートのアイコンに変わっている。
そして、まるで最初からあったかのように浮かび上がったテロップ。
『フラグを 達成 しました』と、一見すると何を言っているのか分からない。
時刻が時刻なせいか、これをタッチするといきなり後ろから謎の殺人鬼に殺されるみたいなミステリー小説の脇キャラみたいな死亡フラグが翔の脳裏によぎったがそんなことはなかった。

「……なんかのイベントかな?」

常識的に考えた結果、そう落ち着いたのか翔はハートのアイコンを指先で弾いた。
途端に、目を潰さんばかりの光が液晶から放たれ始めた。

「わ……!?」

まさかの不意打ちに翔は慌てて目を覆った。
尚もまばゆい光は収まることなく、まるでファンタジー小説のワンシーンだ。
ただしここまでテンプレ。

「なぁっ!?」

途端に、バッと何かにのしかかられる。
人間大の何かが、ちょうど翔に跨るようにのしかかってきたのだ。
まったくの予想外の誰かの行動に、彼は奇声をあげてされるがままだった。

「ぐふっ!」

フローリングの床に、強かに背中を打ち付けた。
幸いにも頭は打たなかったが、翔としてはそれどころではない。
未だに眩しい部屋の中、彼は何者かを確認すべくムリヤリに瞼を開いた。

「………………」
「な……ぁ……っ?」

ぼやける視界のなか、自分を見下ろす存在に翔はあんぐりと口を開くしか出来なかった。
そう、マンティスだ。マモノタイムオンラインの彼のパートナーである、マンティスの少女が、信じられないことに翔の目の前にいるのである(棒)!
すらりと伸びた健脚に肩を押さえられ、翔は抵抗することも忘れ彼女に見惚れてしまった(棒)!

「………ハッ!?」
「………………」

まじまじと見下ろすマンティスと目と目が逢うこと数秒後、ようやく翔が我に返った。
気がつけばスマートフォンからの光も収まり、目が慣れるどころか状況に仰天だ。

「お、おま……なんだよ……?」
「………………」

要領を得ない翔の問いに、マンティスはなんの反応も示さない。
じ……っと、無感情な金色の瞳が、心まで見透かすかのように彼を見下ろす。
なんとなく、翔は先ほどの死亡フラグが脳裏でフラッシュバックした。

「………………」
「………………っ」

両者、睨み合ったまま動かず。
的確に両腕を封じられて、彼女を押しのけることも出来ない翔は内心冷や汗をかいていた。
何せマンティス、即ちカマキリの魔物なのだ。嫌な予感など嫌というほど湧いてくる。
しかし、そんな彼の緊張は、意外にもあっさりと終幕を迎えた。



くぅぅ…………



それは、実に控えめな虫の鳴き声だった。
腹の。

「ごはん……」

そしてこれは、目の前のカマキリの魔物の第一声だった。
切実な。

何だろう、第一話のデジャヴである。





「あいっ、お上がんなさいな」

_(:3」∠)_
大体こんな感じでぐでんと横たわるマンティスの目の前に、翔は平皿を置く。
本当は明日のために仕込んでいた肉まんだが、今なら別に困ることはない。
早朝にまた仕込めばいいんだからな(白目)。

「……なに、これ?」
「肉まんだよ。ごめんね、こんなのしか出せなくて」

なまじ先ほどに大言壮語を吹かしただけに居たたまれない。
時間さえあれば満漢全席だって用意できるが、如何せん材料ねぇお金もねぇ車もそれほど走ってねぇのである。オラこんなメシ嫌だーとか言われたら東京へ出る。

「……にくまん?」

が、どうやらマンティスはそれ以前の問題のようだ。
肉まんとは何ぞや? と疑問符を幾つも浮かべて、彼女は肉まんを凝視している。
だが、すんすんと鼻を鳴らすと、すぐにそれが食べ物と分かったらしい。

「…………そい」

ヒュッ

彼女がやる気なく呟いた瞬間に、そんな風切り音が響いた。



が、何も起きない。
あまりに気抜けする気合ではあったが、一応ながら身構えていた翔ははて? と首を傾げる。

「どしたよ?」
「…………ん」

そこで、翔のメガテン目が点になった。
マンティスが何気なく手渡してきた肉まん。これが、スパンと平面に一刀両断されていたのだ。
とろりと肉汁が零れかけ、翔は慌てて肉まんを持ち直す。

「え……ど、どうやって切ったの……?」
「…………ん」

突き出されたのは、手首からすらりと伸びる鋭利な鎌。
無表情ながらも自慢げで、しかも刃物を突きつけられ翔はやや青褪めた。

「す……、凄いのな、うん……」
「…………むふー」

とりあえず褒めると、なんか無表情なのにドヤァみたいなオーラを出された。
いやだが実際スゴイ腕前である。
切れ味も然ることながら、まったく刃の動きが見えなかった。
おまけに、肉汁たっぷりが自慢の肉まんなのに、油がついている様子もない。

「あちっ」

が、溢れた肉汁が手に垂れて、マンティスが小さな悲鳴をあげる。
五右衛門なみに詰めが甘い。詰まらぬものを斬ってしまっても破片で頭を打ちそうだ。
慌てて指を口に含み、そこで彼女の金色の瞳が丸くなった。

「…………んぅー」

ちゅー……、と指に吸いつく音が部屋に響く。

「…………………」

ぱちっ、と。
能面のようにピクリとも動かなかった彼女の瞳が瞬かれた。
その視線は、半分に切り裂かれた肉まんへ注がれる。

「…………はぐっ!」

勢いよく、マンティスは肉まんにかぶりついた。
薄皮の饅頭から、豚の旨みが凝縮された肉汁がぶわりと口内に広がる。
香ばしい醤油と、ガツンと来る鶏ガラの風味が濃厚だ。
まるで半熟卵のようにとろりと唇を滴り、彼女の舌がペロリと肉汁を掬う。

「…………んまんま」

んまいらしい。
いや、不味いわけがないのだが。
まるで猫の尻尾が感情を表すように、彼女のカマキリの尾もふりふりと揺れている。

「……お気に召して頂いたようで何より」

ホッと一息つき、翔も肉まんを一口かじる。

(……この娘ってアレだよなぁ、やっぱり)

ふと、スマートフォンを見ると電源が落ちているかのごとく画面は暗転している。
目の前のマンティスと、スマートフォンを見比べるも俄かには信じがたい。
ついに二次元は現実に侵略を始めたのだ、とかありきたりなラノベにも程がある。私なら買わない。

(……アホらし。フッツーに考えてあり得んわな)

肉まんを口に放りこみ、翔は呆れ顔だ。誠に遺憾ながら同感である。
その間にもマンティスはもふもふと次の肉まんを頬張り、まるで小動物のような愛らしさだ。

(よく食うなぁ、この娘)
「……けぷぅ」

気がつけば既にさっきの半分と二つ肉まん食っていらっしゃる。
満足げに唇を舐める彼女は、無邪気な子供のようにも見えた。

(……まぁ、美味いんならいいや)

――お肉が好きなら、明日は回鍋肉でも作ってあげよう。
美味しそうに食べてくれるマンティスに、翔は料理人冥利に尽きる。

(ってか、なにナチュに面倒みる予定になってんだろ……。まぁいいけど……)

苦笑して、肉まんをもう一つ。
翼になんて言い訳しようかと、翔は一人考えに耽る。
そんな彼をじっと見つめつつ、マンティスはぺろりと指を舐める。

「………………」

ちらり、と。
彼女が視線を向けた平皿には、すでに肉まんはない。

「…………(´・ω・)」

しょぼん、と分かりやすく落ち込む。
が、はたと気付いたように翔に視線を向ける。
しかし生憎ながら、翔もちょうど肉まんを食べ終えたようで、ぺろりと指を舐めていた。
テラテラと、肉汁の油で唇が光っている。

「…………(`・ω・´)!!」

閃いた、と言わんばかりに彼女の頭上に電球が光る。
それからの行動は、まるで流れるようであった。
マンティスが猫のように身を翻し、翔に躍りかかったのだ。

「……ん?」

反応の遅れた翔は、呑気に疑問符を上げる間もなくマンティスに押し倒される。

「でっ!?」

あまりにも強引に倒され、彼は後頭部を強かに床に打ちつける。
目の前がチカチカと眩む翔に、マンティスは躊躇なく追討ちをかけた。

むちゅう、と。

「…………!? ……!?」

それは、実に鮮やかな手並みだった。
まるで狩人のように鋭く的確に彼を押し倒し、その唇を抵抗をさせる間を与えず奪ったのだ。
ズギュゥゥゥウウウウン!! とテロップがド派手に浮かんでいても違和感がないほど鮮やかである。

が、実際はそんな痺れるものでも憧れるものでもない。
食い意地はったカマキリが、肉汁を吸いに走っただけである。
ともすれば、唇を吸われ、口腔を舐められ、翔としては混乱しかできなかった。

「……! ……………!!」

引き剥がしていいのか、というかファーストキス、ってかどうしてこうなった!?
先ほどから翔の思考はぐるぐるとまとまりがない。

「んむ、れる、んちゅぅ」

わたわたと手を動かす翔を気にも留めずに、尚もマンティスは彼の唇を貪る。
ぬるりと舌を絡め取られ、翔の頬が朱に染まる。
いや如何せん、キスだけでも童貞街道まっしぐらの彼には厳しかろう。
しかしながら、何とも悩ましいのは彼の胸板に押しつけられる柔らかい感触だ。

(……え、胸!? 何これ!? 僕あとでセクハラで訴えられるの!?)

翼にはない女性的な柔らかさが、切実に彼の男性へ女性を訴えかける。
具体的にはバストがチェストに訴えかける。男根勃てよと轟き叫ぶ。

「んん?」
「…………っぷぁ!」

と、そこでようやく彼女は翔の口を解放した。
対して、彼の顔は見る見るうちに真っ赤になる。酸欠、ではなく、普通に恥ずかしく。
のしかかるマンティスの滑らかな太腿に、ズボン越しに愚息が激しく自己主張しているのだ。

「こっ、これは僕悪くねぇぞ!? いきなり押し倒されて、きっ、キスされて……その……、む、胸当てられて……はっ、反応するなって言う方が無茶だろ!?」

THE・責任転嫁&開き直り。男らしくねぇ、生娘かお前は。
喚きたてる彼に、マンティスは気に留めた様子もなく小首を傾げている。

「…………交尾、したいの?」
「こうっ!? げっほ、げっふ!」

気管に唾が入ったか、盛大に蒸せる翔をマンティスは眉一つ動かさず見下ろす。
もはや耳まで真っ赤に染まった彼は、気まずげに眼をそらして何とか落ち着いた。

「おっま、女の子がそういうこと言うんじゃありませんっ!」

もうまともにマンティスの顔も見れそうにないぞこの童貞。
しかしさすがは「森のアサシン」! (森関係ないけど)その名に負けることなく、暗殺者らしく無情にも彼女は翔に追討ちをかける。

「…………あなた、美味しいから、好き」
「ぶっ!?」

効果は 抜群だ !
もう(意味深)付け不可避である。言葉足りないにも程がある。
盛大に吹きだし、生涯初めての珍妙な告白に翔の混乱はますます加速した。

ただし、追討ちは続くよどこまでも。
コツン、と。翔の胸板にマンティスの頭が当てられる。

「…………だから、する?」
「っっっ!?」

ぼろん、と。
痛いほどに張りつめていた翔の怒張が外気に晒される。
慌てて見てみれば、ズボンが切り裂かれたように襤褸切れになっていた。

「…………ん。熱い」
「ぃう……っ!?」

滑らかな冷たい五指に男根を包まれ、びくりと翔の身体が跳ねる。
無意識的に逃げようと身をよじろうとするが、それを許すマンティスではない。
的確に彼の重心を押さえた彼女は、まるで観察するかのように手元のソレを見るめる。

「おま、は、放せ……ぇ!」
「…………これを、ここに?」

翔の抵抗なぞ、マンティスは意にも介さない。
きゅぅっと逸物を放さぬように握りしめ、ぎこちなく腰を浮かせる。
その瞬間に、翔はまるでハンマーでガツンと頭をぶん殴られたような衝撃を受けた。

「は……ぁ!?」

うん、……その、履いてないのである。
破けたワンピースのような腰布から覗く、マンティスの秘部。
パンツもふんどしも何もなく、つるりと走った一筋が妖しく光る。
唖然、呆然。というか見惚れて、翔は固まってしまった。

「…………え…………いや、えぇ?」

what the fuck!? わけがわからないよ!?
内心の悲鳴とは裏腹に、眼福眼福と言わんばかりに視線は彼女の陰部に釘付けである。
だが、ゆっくりと腰を下ろし始めるマンティスに翔は我に返った。

「は!? ちょっ、おま……、マジか!? ストップストップ、止まれ止めろ!」

出会って二分で裸の交わりとかどこのマジキチソングか。
さすがに異常だと翔は必死に押し留めるが、それで止まらないのが魔物娘である。

「んっ、ぁあああっ!」
「ば、ぁぁ……っ!?」

一息に、彼女の蜜壺が彼の剛直を飲みこんだ。
何の躊躇もなく受け入れた熱くぬかるんだソコは、文字通り熱烈に翔を歓迎する。
自慰なんかとは比べ物にならない、今までにない快感に彼はギシリと歯を軋ませて堪える。

「バッ、カか……おま……ぅ!」

前戯もなしに濡れそぼった膣肉は、容赦なく翔を締めつけ苛む。
裏返りそうな声にドスを利かせ、ようとして失敗! やっぱり喘ぐ。

「……っ……ぁ、ふぅ……んん♪」

そんな彼とは対照的に、マンティスは身体をのけ反らせてふるふると震えている。
触覚をピンと立て、きゅうっと悩ましげに下の口をすぼめて。
どこか艶っぽくこぼれた声は、先ほどまでの無味乾燥な口調からはとんと想像もつかない。
何せ♪まで付くほどである。あまりの変わりように、翔は一瞬怯んでしまった。

「お、おい……大丈夫、か……っ?」

よくよく見てみれば、愛液に混じって彼の腰に赤いものも滴っている。
処女かよ!? と悲鳴が飛び出そうになったが、翔はグッとそれを呑みこむ。
しかし、このような反応を示されると迂闊に行動できないようで、翔はわたわたと慌てた。

「い、痛いなら……退け……ぅあ!?」
「……んん♪ ひ、ぁぁ……♪」

ゆっくりと腰を上げる彼女に、翔の声は情けなくも跳ね上がる。
しがみ付くようにマンティスの蜜壺が彼の怒張を捕らえ、何とも堪えがたい快感が襲ったのだ。
ずるずると竿を這う淫猥な感触は、きっと生涯忘れ得ぬことだろう。
もっとも、すぐに上塗りされるが。

「んっ、ふぁぁああ♥」
「うあっ……!?」

ずん、と。
外気に晒されかけていた逸物が、再び一気に熱烈な抱擁に包まれる。
勢い余ったか翔の亀頭は、マンティスの奥を貫くように打ちつける。
瞬間に、きゅうっと膣肉が彼の怒張を締めつけた。

「んふっ♥ んぁ♥ ふぁ、うんん♥」

先ほどの余韻も消えぬ間に、マンティスは何度もアップ&ダウンを繰り返す。
本当に馬に乗っているかのようにユサユサとリズミカルに動いては、溢れるように嬌声を零す。
相対して翔は、彼女のように楽しむ余裕などなく歯を食いしばっていた。

「おま、ま、待て……この、馬鹿……!」

待てと言われて待つ魔物娘がいるかね。いいや、限界だ、♂ね!
聞く耳持たないと言わんばかりに、室内に肉と肉がぶつかり合う音が何度も響く。
まるで初めて見る玩具に没頭する子供のように、騎乗位に耽る彼女に翔は痺れを切らした。

「あぁ、もうっ……退け、この!」

強引に押しのけよう、そう伸ばした手が。

もにん。

と、まるで人をダメにするソファに沈み込むかのようにマンティスの胸に埋まった。

「んっ♥」
「――――ファッ!?」

なるほど、確かにマンティスの動きは止まった。翔も止まったけど。
まるで大きなマシュマロのように形を変える胸部。
掌に収まりきらないほどに大きく実ったおっぱいは、とても魅惑的な感触だった。

「………………」
「んぅぅ……♥」

これには思わず翔も放心し、胸から手を離すことも忘れてしまっていた。
悩ましげな嬌声が耳に残り、どうすればいいか分からないようだ。
ポーっと蕩けたように翔を見下ろすマンティスが、おもむろに顔を近づける。

「んっ♥」
「んむ!?」

唇と唇が、再び絡み合う。
翔の小柄な体躯を抱きすくめ、彼女の掌が逃がさないと言わんばかりに頭を押さえた。
胸が潰れるほど押し付けられ、ぐりぐりと強引に子宮口が亀頭に接吻を迫る。

「んっ、んん!?」

まるでねぶるかの如くきゅうきゅうと締め付ける蜜壺に、貪るかのように嫌らしいキス。
先ほどの強引なキスとは比べるべくもなく、嫌らしく唾液が交じりあう。
止めと言わんばかりに足を絡め取られ、翔は身動き一つ出来なくなってしまった。

「んぅ♥ んっ、む♥」

じたじたと手首や足首を回して抵抗する翔を、マンティスはご満悦に抑え込む。
赤みの差した頬といい、とろんと蕩けた瞳といい最早別人だ。

「むぅぅ! んむ、っんぅ!?」

押しつけられる唇はむりむりと潰れ、こじ開けようと舌がぐりぐりと歯茎を撫でる。
下に限っても、まるで彼女が捻じ込もうと言わんばかりに何度も腰を打ちつける。
ずちゅずちゅと耳にこびりつくような水音に、翔の意識も段々と犯される。

「ぷぁ、おま、離れ……ぇぁ!」
「んんっ♥ やぁ♥ いっぱい、出してぇ♥」

ビクビクと情けなく震える翔に、マンティスはふるふると首を横に振る。
翔の限界が近いのを本能で感じ取ったのか、ぐりぐりと陰部を押し付けながら。
どちらの唾液か、テラテラと濡れた唇の端はほのかに吊り上がっていた。

「っ、あ、う、ぁぁあっ!」
「ふぁっ♥ んぅぅううっ♥」

フィニッシュと言わんばかりにきゅうっと締まった蜜壺に、翔は文字通り白旗を上げた。
痙攣したかのように怒張を震わせて、彼女の膣内を白く染め上げる。
そんな精液を受け止めながらも、マンティスは更に搾ろうと何度も翔の逸物をキツくしゃぶる。

「んっ♥ ふぅぅ……♥」
「あ、ぁ……この、アホンダラ……ぁ」

脱力したように天井を仰ぐ翔を、彼女は未だ離す気配がない。
愛おしげに彼を抱きしめたまま、絶頂の余韻に恍惚と浸っていた。
さすがに、そんな表情を見せつけられては彼もぐうの音が出なかった。

「ちゅっ♥」

と、不意に唇が触れ合う。
さっきまでの貪るような無理矢理なものでなく、何かを確かめるような優しい口づけ。
先ほどまで激しく喘いでいた二人だと言うに、翔は照れくさそうにそっぽを向いた。

「……くそ」

小さくぼやいた負け惜しみは、部屋に空しく響いた。

















あ、このあとも滅茶苦茶セックスしたよ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

「キキ、それ一番テーブルに頼む。つまみ食いすんなよ」
「ん、分かった、ショー」

で、それから数日後。
間に合わせの『森ガール』と書かれたエプロンをまとい、器用に両手と頭でお皿を運ぶマンティスの姿が鳳飯店の店内にあった。どうやら、キキという名前があったらしい。
そんな彼女をハラハラと見守る翔を、翼はニヤニヤと見守る。

「お兄、なんか母ちゃんみたい♪」
「父ちゃんでも御免こうむる。僕はあいつの彼氏だよ、生憎と」

彼氏というには一線を越えているが、そのことは不肖の妹には伝えていない。
伝えられるわけがない。(震え声

「ほいこーろー、ばんばんじー、てんしんはん、おまちどー」

平坦な声でそう言い、手際よくお皿をお客さんの前に置いていくキキ。
男性客の目がやけに胸や尻に集中しているのがよく目立ち、翔の顔が般若のようになる。

「てめコラ! ウチの看板娘に色目使うなや!!」

どっ、と店内に笑い声が響き渡る。
顔を真っ赤にしてじゃかあしぃと叫ぶ翔のとなりで、キキはクスリと小さく笑っていた。

「あーぁ、お熱いこって……」

やれやれと翼は呆れ顔で肩をすくめる。

拝啓、母上へ。今日も鳳飯店は平和です。

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『ほいこーろー、ばんばんじー……美味しそうですねぇ……じゅるり』
『ハッ!? いけないいけない、新しい登録者さんのためにテンプレ用意しないと……!』
『さってと、次の娘もいい人に恵まれますように、っと♪』
『……ふと思ったんですけど、なんかコレ私、婚活業者みたいですね。未婚なのに』
14/06/24 14:16更新 / 残骸
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■作者メッセージ
ココ ソコ アソコじゃねぇ!!! マンコって言え!!!
ってpixivの誰かの絵が訴えてた。しょうがねぇだろ恥ずかしいんだよ!!!
エロ描写書いてる先達さまホントすげぇよ! なんであんなにエロく書けるの!?
これ他人様の目に映るのかって考えるとふぎゃああああってなったよわちき!
あぁでもマンティスちゃん可愛いからいいやってなったけどふぎゃああああ!!

こんばんわ、秘密結社だよ(白目
人としての大切な何かを捨てた気がしたけどエロ描写書けたよ。
これエロいの? 教えてエロい人!
さぁテンション切り替えよう。もし今回も楽しめたら次回もよろしくね(キリッ
それではお粗末さまでした!

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