連載小説
[TOP][目次]
第十七話 リリース 前編

「・・・動くなよ。」

目の前の男はそう言って見たこともない武器のような物をこちらに構えていた。
・・・さっきの破裂音とハンスを襲った現象は恐らく奴の仕業だろう、この状況じゃそうとしか思えない。
倒れたハンスに心配そうにマーシャが駆け寄った。

「ハンス、大丈夫なの?!」
「僕は大丈夫・・・でもなんなんですか一体・・・僕達は何も―」
「ハンスッ、マーシャ!!いいから言うとおりにしておけっ。」
「そいつはいい、こんなことしといてなんだが・・・お前長生きできるぜ?」

男はよっぽど自信があるのか、そういう性格なのか軽口を叩いた。
実際の所・・・奴の得体が知れなさ過ぎる。
見慣れない素材で出来た妙にごつごつした服、そして何より奴が持っている武器だ。
最近出回っている『鉄砲』というものに似てなくもないが・・・、何より俺の勘が囁いてる。
”アレ”は・・・この世界に在るべきじゃない物だ。
俺の言葉にハンスは慌てて言い返した。

「で、でも・・・このままじゃ、二人が・・・。」
「アレス、私はいつでも加勢できるぞ?」
「いや、もしも奴の狙いが魔物ならとっくにやられてたはずだ、それにもかかわらず一番遠くにいたハンスを威嚇した、つまりあんたの狙いは彼女達じゃない・・・そうだろ?」
「見事な推理だな、賞品があったら渡してるところだぜ。」
「なら、二人とも離れていろ・・・こっからは俺達二人で話す。」
「だ、だがしかし・・・。」
「アンヌさん・・・マーシャをよろしくお願いします。」
「ハンス・・・。」
「アンヌ、早く行けっ!!」
「くっ・・・。」

アンヌは納得しないという面持ちでマーシャを連れて離れていった。
後には俺とハンス、そして謎の男が立っていた。

「初めに言っておくが金なら持ってないぞ?」
「初めに言ってくれてありがとうよっ、別に食うもんには困ってねぇ。」
「じゃあ、どうして僕達を襲うんですか?!」
「危害を加えるつもりもねぇ、ただ聞きてぇ事があるだけだ・・・だが返答次第じゃ覚悟しろよ。」
「聞きたい事?」
「お前ら、さっきの魔物達とはどういう関係だ?」

さっきの魔物たち、それは言わずもがなアンヌとマーシャのことだろう。
どうしてそんな事を聞くかは分からないが教団じゃないと分かっている以上、下手に誤魔化さないほうがよさそうだな。
・・・ハンス、上手く合わせろよ?

「アヌビスの方はアンヌ、俺の妻だ。」
「妻?・・・長年連れ添った感じには見えなかったぜ?」
「さっきなったばかりだ、後で本人に聞いて見るといい。」
「ほぅ・・・じゃあもう一人は何だ?」
「マミーの方はマーシャ、ハンスの恋人だ。」
「ハンスってのはお前だな?・・・どうなんだ?」

男はハンスの方を向き、”わざと”名指しで質問した。
こいつ・・・情報を聞き出す事に手馴れてそうだな、下手に長引くと面倒だ。
名指しされたハンスは少しおどけながら話す。

「え、あ、はい・・・まだ踏ん切りがついてないん・・・ですけど。」
「・・・踏ん切り?」
(余計な事を言うなハンス)「あんたには関係のないことだ。」
「どうだかな・・・まぁ、嘘ついてる感じでもねぇし信じてやるよ。」
「そりゃどうも・・・で、他に聞きたい事は?」
「いいやそれだけだ…脅かして悪かったな。」

そう茶化した後、ようやく男は構えていた武器を下ろした。
ハンスは緊張の糸が切れたのか「ふぅ・・・」と腰を下ろしてしまった。
だが俺は警戒を解かず続けて男に尋ねた。

「こっちの話もしたんだ、そろそろあんたの事も聞いていいか?」
「そういやまだ名乗ってなかったな、俺は・・・そうだな。」

何かを思いつくようにして男は名乗った。

「俺はグリム・・・そう呼んでくれ。」
「グリム?・・・あの死神の?」

ハンスが確かめるようにして男に聞き返した。
それもそうだろう、グリムといえばあの有名な死神の名だ。
当然偽名なんだろうがどうしてそんな名前を?
グリムと名乗った男はめんどくさそうに付け加えた。

「細けぇ事は気にすんな、意味なんてこれっぽっちも考えてないからな。」
「だとしたらセンスを疑う・・・。」
「気が合うな、俺もそう思うぜ。」

グリムは笑いながら他人事のように言った。
・・・この男一体何者なんだ?
分からないが・・・とりあえず敵意がないことだけはわかった、今の所は。

「じゃあ改めてグリム、どうして俺達をいきなり襲ったんだ?」
「それはな・・・えーっと?」
「・・・アレスだ。」
「おぅアレス、お前ら最近で魔物が何人も誘拐されてるのを知ってるか?」
「・・・それがお前と何の関係が?」
「俺はその犯人を追ってる・・・何か知らねえか?」
「誘拐・・・。」

魔物が誘拐される?
逆なら知ってるが・・・そんなこと普通の人間が出来るのか?
強い魔物なら返り討ちにあうのが関の山だろう。
考えられるとしたら・・・。

「それは子供ばかりか?」
「いいや、歳も種族もバラバラだ・・・少なくとも身代金目当てじゃなさそうだがな。」
「それって・・・弱い魔物ばかりですか?」
「それが・・・腕の立つ奴もやられてやがるんだ、多分相当の手馴れだ。」
「なるほど・・・それで魔物と一緒にいた俺達を疑ったってわけだ。」
「そっちはともかくあんたは見た感じ強そうだったからな、悪人には見えなかったが。」
「・・・。」
「だからって、いきなりあんなことしなくたっていいじゃないですか?!」
「だから悪かったって・・・それにこっちもなりふり構ってられねぇんだ。」
「・・・どうしてだ?」
「こっからはプライベートだ・・・。」

はぐらかす様にしてグリムはそう言って話を切った。
・・・一瞬だが、話をするグリムの目はどこか殺気を押し殺すような眼差しだった。
それ以上は聞かない方がよさそうだ。

「じゃあ代わりに、グリムの持っているそれは何なんだ?」
「あぁ、こいつか?」

グリムは手に持った鉄の塊・・・鉄砲のようなものを見えるように掲げた。
やっぱりこんな形の武器は見たことがない・・・というより勝手に鉄砲のようなものと言っているが実際どういうものかは分からない。
ただ・・・さっきもそうだがこいつからは嫌な感じがする。
まるで・・・その名の通り死神の鎌のような感じだ、形は全然違うが。
魔力や自然の力も感じない分・・・不気味だな。

「それ一体なんなんですか?・・・僕の頭を掠めたやつですよね?」
「あぁそうだ、だがこいつの正体はお前らに言ってもわからねぇよ、分かるとしたら・・・気が遠くなるほど長生きした時ぐらいだろうな。」
「それって・・・どういう?」
「それが分からなきゃ何言っても無駄だ。さて・・・そろそろ俺は行かせて貰うぜ。」

踵を返してグリムは遺跡とは反対側の砂漠の方へと歩き出した。
俺は慌てて彼を引き止める。

「待てよ、俺達もその誘拐犯を探すのを手伝ってやるよ!!」
「別に必要ねえよ、ただそのイカれた奴と鉢合わせたら大声で叫べ、すぐに飛んでってやるからよ・・・じゃあな。」

グリムは振り返らず手だけ振りながら砂漠の向こうへと消えていった。

「・・・。」
「あの、アレスさん?」
「ん?」

グリムが去った後、ハンスが急に尋ねてきた。

「どうして、彼に協力しようって言ったんですか?」
「あぁ・・・。」

確かに奴には分からない事が多い。
最初の方は寧ろ俺がそう思っていたのだが・・・話し終わった後に比べると一つだけ分かる事がある。

「グリムは怪しい奴だが・・・彼女達を良く思っている人間だ。」
「・・・分かるんですか?」
「大体な、そんな気がするだけだ。」
「ふぅん・・・あ、そうだ、マーシャたちは?」
「・・・そうだった。」

離れていろと言ったきりだったからな、迎えに行ってやらないと。
そう思って歩き出した時・・・耳につけていたイヤリングが光った。
・・・ヴェンからの合図だ。

「アレス、聞こえるかい?」
「あぁ。ヴェン・・・ルーは―」
「安心してくれ、元気な娘が生まれたよ・・・ルーも無事だ。」
「!・・・そうか。」

聞くのを分かってたようにヴェンは落ち着かせるように言ってくれた。
一瞬身体に入っていた力が抜け、気を抜けば倒れてしまいそうな安堵感が俺を襲った。
ほんとによかった…。

「それでどうするんだアレス、こちらへと来るのか?」
「それなんだが…。」

ハンスの事も紹介したいし…なによりルーのことが心配だ。
ここは行ってやるべきなんだが…俺にはどうしてもさっきの奴のことが気になった。
それにこの近くにいると聞いた誘拐犯…ちょっと気になるな。
…ルーには悪いが、どうしても確かめたい。

「悪いがヴェン…急にどうしてもやらなきゃならないことができた、すまないがルーには…その…。」

俺が言いにくそうにしていると先に向こうでヴェンがふふっと笑った。

「な、なんだ?」
「いやアレス、ルーもアレスならそう言うだろうと当てにはしてなかったようだ。」
「…というと?」
「『やる事やってから会いに来て欲しい』だそうだ。」
「…。」

ほんとにルーには苦労をかけているな…。
あいつならそんなこと言ったら怒りそうだが、ほんとにすまない…ルー。
帰ったらお前の子供と一緒に抱きしめてやるからな…。

「…すまない。」
「私に謝っても仕方ないだろう?…その代わり早く帰って来てくれよ?」
「あぁ、それと…旅の途中で新しい仲間が出来たんだ、そっちに行くときに紹介する。」
「おぉ!君が認めた仲間かっ、是非会うのを楽しみにしていよう。」
「あ、あと送る準備もしといてくれ、二人だ。」
「わかった、気をつけてな。」
「おぅ。」

ヴェンとの交信を切った後、それを見計らったかのようにハンスが話しかけてきた。

「向こうに戻らなくて良かったんですか?」
「ん?…あぁちょっとな。」
「…もしかしてさっきの男の事ですか?」
「なんだハンス、やけに冴えてるな?」
「普通わかりますって…。でもじゃあどうするんです?」
「二人を送ったあとここから近い町に行ってみよう、なるべく魔物の多いところにな。」
「え、でも追いかけたほうが早いんじゃ?」
「奴は魔物の誘拐犯を探してるんだろ、…お前が誘拐犯なら最初に狙うのはどこだ?」
「…魔物が沢山いそうな場所。」
「そういうことだ、…そっちを探して先に誘拐犯を捕まえた方が話も早いだろう?」
「なるほど…。」
「さて、先に二人と合流するか。」


俺たちはアンヌ達と先に合流することにした。




――――――――


「ここから一番近い町?」

二人と合流したあと、早速一番近い町を聞いてみることにした。

「ここからなら…フーゲルの町かな?」
「フーゲル??」
「あぁほら、ここに書いてあるところがそうだ。」

アンヌは地図を見ながら場所を指差してくれた。
そこは確か…。

「アレスさん…そこはここに来る前に目指してた所じゃないですか。」
「あれ?ということはハンス達は反対方向に来ちゃってここに来たの?」
「…元から地図を見るのは苦手なんだ。」
「ここからずっと北に向かえば着くはずだ、ここには私達のような魔物もいるから安心…なのだが。」

説明をしているアンヌが突然、話の歯切れを悪くした。
…そこに何かあるのか?

「安心だが…なんだ?」
「いつもはそこから仲間がここに顔を見せに来るんだが…ここ最近で急に来なくなってな…。」
「来なくなった…?」
「ハーピーちゃんとかここにいつも来てくれてたんだけど…急に来なくなったの…どうしてかなぁ?」
「何事もなければいいのだが…他の街となると少し遠くなってしまうんだ、だからよかったら―」
「様子を見に行って欲しい…か?」
「あぁ…すまないが頼む。」
「アレスさん、どうしますか?」
「ふむ…。」

街のことも気になるし…なによりそこはもともと行く予定だったんだ。
それに…愛する妻のお願いを断る理由は無いな。

「愚問だな、そこに行ってみよう…何かあったかはあとで連絡する。」
「…ありがとう、アレス。」
「ありがと〜♪」
「さて、そろそろ送るぞ?」

俺はケースから札を二枚取り出し、魔王城を念じた。
程なくして二人から光が溢れ出す。

「これが…転移。」

初めて見るのかハンスからそんな言葉が漏れていた。
二人が光に包まれながら笑いかける。

「ハンス〜、待ってるよ〜♪」
「向こうで待ってるぞアレス!」
「あぁ!!」

光が弾けた後、二人は向こう側へと旅立っていた。


「さて行くか。」
「えぇ。」


俺たち二人はフーゲルの町へと歩きだした。



―――――――――。


「ハンス、しっかりしろ…もうすぐだぞ?」
「もうすぐって…まだなにも見えてこない…じゃないですか。」

丸二日間、俺たち二人は歩きっぱなしだった。
水も食料もそろそろ無くなってきたしこれは本格的にまずいんじゃないかと思い始めていた所だ。
上で灼熱の太陽が照りつける中、俺たちは地図を便りに歩いていく。

「アレスさん…やっぱり道を間違えてるんですって…何時まで立っても着かないじゃないですか…。」
「弱音を吐くんじゃない、ジパングでの雪山に比べたらこんなのマシな方だ。」
「アレスさんと比べないでくださいよ…はぁ…まだ見えてこないんですか…って…あれ?」
「…どうした?」

急にハンスが目を凝らしながら立ち止まった。
ゴシゴシと眼を擦り、まるで幻でも見たかのように目をパチパチとさせる。
そして俺の肩を掴んでいきなり揺らし始めた。

「アレスさん…町だ…町が見えた!!やっとたどり着いたんですよ!!」
「あぁ…またそれか、これで三度目だぞ…どうせまた蜃気楼だろ?」

ハンスの喜ぶ姿に俺は少しうんざりした様に言った。
最初は『水だ…水辺がありますよ!!』とか言って行ってみたら何もなかったりと正直これで三回目だ、ほんとに暑さでどうにかなってるんだろうな…。
だがハンスは首を振って否定する。

「ほら、だったらアレスさんも見てくださいよ!!!」
「わかったわかったから落ち着けって…ん?」

ハンスの差している方向を見ると確かに何か建物のような姿が見えた。
俺も目を凝らしてみるがこれはどうやら蜃気楼ではないらしい。

「アレスさん、早く行きましょう!!」
「お、おいハンスッ!!待てって…おい!!」

急に元気を取り戻したハンスが我先にとその町へと走り出してしまった。
まったく…子供かあいつは。
見失わないように俺もハンスの後について行った。


…。


ようやく走っていくハンスが立ち止まり、俺も追いつくことができた。
ハンスが止まった場所は丁度町の入口近くでハンスは呆然と何かを見て立ち尽くしていた。

「アレスさん、あれって…。」
「まったく走ったり止まったり忙しいやつだな…今度は何だ?」

ハンスの見ている先を覗くと町の門らしき建物の前に男が二人立っていた。
出で立ちは見張りにも見えなくはないが、その二人はどこか物騒な気配がしていた。
ハンスが立ち止まるのも頷けるな…あれは明らかに不自然すぎる。

「歓迎してくれそうな感じじゃないな…あれは。」
「きっとなにかあったんですよ…でも説明すれば入れてくれますよ。」
「だといいがな…。」

俺達はそのまま門へと歩いていくと当然の如く二人に呼び止められた。

「止まれ、お前ら何者だ?」

男の一人が持っていた棒で道を塞ぎ俺に問いかけてきた。
隠す必要もないし、正直に言っても問題ないだろう。

「俺達は旅の者だ、ここに魔物がいると聞いてきた。」
「魔物…何が目的だ?」
「危害を加えるつもりはない、俺は向こうにある遺跡からやってきたんだ、アンヌが心配していたと伝えれば分かるはずだ。」
「…向こうの遺跡だと?」

男二人は互いに顔を見合わせたあと、しばらく何かを話していた。
すると何事もなかったかのように道を開けてくれた。

「そいつは失礼した、中へ入ってくれ。」
「どうぞどうぞ。」

急に愛想良くなって俺たちを町の中へと通そうとする。
ハンスはそれに従って門をくぐり抜けようとしていた。

「ほらアレスさん、早く。」
「…。」

ハンスが手招きしているが俺はそこから動こうとはしなかった。
代わりに俺は二人に話しかける。

「ちょっと聞くが…二人には妻がいるのか?」
「あぁ、俺たちか?いるぜ。」
「因みに聞くがどんな魔物だ?」
「俺はスライムだぜ、…お前はなんだったか?」
「バカ…俺はサキュバスだよ、それがどうしたってんだ?」
「…そうか。」


ドゴォッ!!

「?!」

俺は隣にいた男の一人を殴り飛ばし、門の壁へと激突させた。
前で見ていたハンスが口を開けて呆然とする。

「アレスさん?!」
「て、てめぇ!!いきなり何しやが―ぐぇ?!」
「ハンス、俺までそっちに行ってたら間違いなくこいつらに後ろから刺されていたぞ?」
「ど、どういうことです?!彼らも魔物を妻にしているんですよ、どうして僕らを?」
「こいつらは彼女達を妻になんかしていない。」
「えぇ?!で、でもどうして?」

向かってきた男の首を絞めあげながら、理解できてないハンスのために俺は顔だけを向けながら説明した。

「まず初めに…こんな砂漠地帯にスライムはいない、適応していたとしてもかなり希なケースだ、本来彼女たちは乾燥を嫌うからな。」
「だとしても…サキュバスの方は別に不思議じゃないですよ?」
「サキュバスはかなり好色でな、妻にすれば毎晩のように交尾することになるから大概はインキュバス化する。…だというのにこいつからは魔物の魔力が一切感じられなかった。」
「それって…つまり。」
「…遺跡に来なくなった理由も大体予想がつく。」

いつの間にか気絶した男を俺は投げ捨てて町の中へと入っていった。
ここもどうやら…簡単には行かないらしい。


――――――――。


「ひどく…殺風景なところだな。」

町に入ってみて思ったのがそれだ。
このフーゲルの町は炭鉱が盛んらしく所々でツルハシやらトロッコが置かれ、少し向こうには大きな岩山が見えた。
だがその割には生き生きとはしておらず、目に映るのは頭を抱えた者や虚ろな目をした者ばかりだった。

「アレスさん、気がつきましたか?」

周りを見ていたハンスが俺に振ってきた。
あぁ、俺も気がついているさ…ハンス。
確かここは…魔物がいる町だよな?

「どうして…男ばかりなんだ??」

そう、俺が疑問に思ったのはそこだ。
アンヌ達は確かにここは魔物のいる町だと言っていた、それは間違いない。
だが目に入るのは男ばかりだ、むしろ人間の女性すらも見当たらない。
ここがフーゲルだと告げる看板もあったし…場所は合っているはず。
…ここで一体何があったかは聞いたほうが早そうだ。

俺はとりあえず近くにいた頭を抱えて項垂れている男に話しかけた。

「すまない、ちょっといいか?」
「…?」

男はゆっくりと顔をあげて俺を見た、その瞬間。

「ひ、ひぃぃぃ?!!」

男はまるで化け物でも見るように家の中へと入っていってしまった。

「お、おい!!」

呼び止める間もなく男は扉を閉めて中から鍵をかけた。
怯えた様子だったが…一体どうしたんだ?

「アレスさん、彼に何かしたんですか?」
「するわけないだろう、…仕方ない、今度は別の奴に―」

バタンッ…バタンッ!!


と、言いかけて見回した時には既に外に出ていた人間が皆、家の中へと逃げ帰ってしまった。
時折、こちらを伺おうと盗み見る者もいるが目があった途端に逃げられてしまう。
…それはハンスも同様にだった。

「どうなっているんですか…、僕たちは怪しい者じゃないですよっ!!!ちょっと話を聞きたいだけなんです!!」

ハンスが扉を叩いて叫ぶも無駄にしんと静まり返るだけだった。

さっきの門番といい、この町の住人の反応といい…どこかおかしい。
まるで俺たちを化け物扱いしているようだ。
ようやく説得を諦めたハンスがこちらへと帰ってきた。

「駄目だ…アレスさん、一体ここで何が起こってるんでしょうか?」
「わからん…最初は教団が攻め込んでいると考えていたんだが、この様子だとそうでもないらしい、せめて事情が聞ければ良いんだが―」

コンッ。

「?」

そう言いかけた時、背中を何かで叩かれたような感じがした。
振り向いてみると少年が角材を持って俺を睨みつけていた。

「この町から出て行けっ!!」

少年は出て行けと叫びながら俺に角材を振り下ろしてくる。
…歳はエルザぐらいだろうか?少年は尚も俺に攻撃を続ける。

「この町の子でしょうか…ほら、やめなさい!!」
「お前らもまたお姉ちゃん達を虐めに来たんだろ!!…早く出て行け!!」
「…お姉ちゃん達?」

気になる単語が出てきたので角材を軽く受け止め、そのまま少年の目線まで屈んだ。

「そのお姉ちゃん達っていうのは…もしかして魔物か?」
「そうだっ!!お前もあいつらの仲間なんだろ、そうやってお姉ちゃん達をいつも虐めるんだ!!」
「あいつらって、ボク…ちょっと話を聞いてもいいかな?」
「な、なんだよ…?」
「俺達はお姉ちゃん達を虐めに来たんじゃない、俺達は南の遺跡の方から来たんだ。」
「えっ?!もしかして、あのアヌビス様がいるサラーム遺跡から?!」
「そうだ、心配だから見に行って欲しいと頼まれてな…だから安心しろ。」
「お兄ちゃん達は他の奴と違うね…わかった!!お姉ちゃん達の所まで案内するよ、どうなっているかは見た方が早いから!!」

そう言って少年は俺達を岩山の方へと案内してくれた。


12/11/21 18:39更新 / ひげ親父
戻る 次へ

■作者メッセージ


はい、お疲れ様です…ひげ親父です!
相変わらずの遅筆野郎なのですがなんとか書くことができました。
これも皆様の励ましや激浪のおかげです…コメントもらえると凄く力になります。
さて、次回も書き始めているのですがまたいつになるかはわかりません。
いろいろ魔物娘が増えている中…この図鑑世界がもっと繁栄することを心より願っております!!

いつも見ていただいて、ありがとうございます!!

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33