連載小説
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第十七話 リリース 後編

※今回は長編かつグロテスクな表現が含まれております。
 苦手な方、お時間が無い方はご注意ください。




「お兄ちゃん達、こっちだよ!!」

少年に案内されながら俺達は岩山を登っていく。
流石に堂々と道を通るわけには行かないからといって提案されたはいいものの…これはこれできついな。

「少年…ちょっとこれは無理がないか?」
「こっちからじゃないと見つかるよ…あと僕の名前はトーマだよ。」
「トーマ君…これは何処に向かっているんだい?」
「鉱山だよ、ここでは希少な鉄鉱石や魔石が採れるんだ。」
「魔石?…魔界銀とか?」
「昔、このあたりは魔界だったらしくて普通にはないものがよく採れるんだよ、それでこの町も大人たちも皆元気に暮らしてた…あいつらが来るまでは。」
「あいつら…?」
「ほら、ここから覗いてみて?」

ようやく頂上が見えてきたところで少年はそれより向こう側を指した。
恐らく向こうは鉱山の入口なんだろう、さっきから近づくに連れて金属音や人の話し声が聞こえていた。
俺とハンスは言われたとおり頂上へ向かい、向こうをのぞき込んでみた。


「…。」
「…これって…。」


そこはクレーターのように大きな穴が空いており、さっきから見えなかった魔物…彼女達が必死に鉱石を採掘していた。
時折、働いている男の姿も見えるがとても気持ちよく働いているようには見えず、痩せこけた表情で道具を扱っていた。
それにどう考えても採掘には向いていない魔物ばかりが働いている、かわいそうに…皆疲れた目をして身体もボロボロだ…。

「お姉ちゃん達があいつらに脅されて無理やり働かされてるんだ、男の人は皆お姉ちゃん達の旦那さんだよ…。」
「酷いことを…どう考えても彼女達に炭鉱なんて無理ですよ。」
「だから無理やりなんだよ…ほら、あそこ見て!」

少年が指差した方には彼女達が働いているのをまるで見張るかのように鞭やらこん棒を持った男達が立っていた。
どこか門にいたあの二人に様子が似てなくもない、おそらく同じ仲間だろう。

「あいつら、お姉ちゃん達をずっと見張ってて何かあるとすぐ殴るんだ、それも旦那さんの方を。」
「…なんだと?」
「お姉ちゃん達の中には強いお姉ちゃんもいるけど反抗させないためにも旦那さんの方を虐めて言うことを聞かせてるんだ、それでずっと聞かなかったら…―」

少年は急に目を伏せながら震える手である場所を差した。
見たくない…そんな表情が見て取れる。
俺たちが指された方向を見たとき、その意味がわかった。

「ひどい…。」

ハンスの口からそんな言葉が漏れた、逆に俺は言葉にするのを抑えその光景を目に焼き付けた。

そこにあったのは磔にされたまま苦しむ彼女達の姿だった。
手の平を杭で打たれ、十字に磔にされている姿はどこかの聖書にでもありそうな姿だった。
顔は痩せこけ…皮膚は干からびたように骨が浮き出ている。
これが…彼女達が今受けている現状だ。

「皆…あんなふうにされるんだ、あいつらが来てから…全部おかしくなっちゃったんだ…。」

握り拳を作って悔し涙を流す少年。
おそらくこの少年はこんな惨劇をここからずっと見てきたんだろう…。
ハンスがその肩に手を置こうとした時、下の方で動きがあった。
それに気が付いた少年がまた指を指した。

「お、お兄ちゃん、あれ!!」

そこには咳き込みながら座り込むサキュバスの姿があった。



―――――――――。



「ゴホッ…ゴホッ…。」

サキュバスは身体の疲労に耐え切れず、膝をついて咳こんでしまった。
近くで働いていたサキュバスの夫が彼女の方へと寄り添う。

「おい大丈夫か、しっかりするんだ。」
「だ、大丈夫…大丈…ゴホッ!!」

「おい、お前ら何してんだ?」

騒ぎに気づいて上で見ていた男が下へと降りてきた。
夫がサキュバスを庇うように前へと立ち塞がる。

「妻はもう限界だ…僕が二人分働くから妻を休ませてくれ。」
「駄目だ、魔物は休憩なんかしなくても大丈夫だろ…さっさと持ち場へ戻れ。」
「魔物だって生きてるんだ、こんなことを続けてたら死んでしまう!!」
「口答えすんじゃねぇよ。」

ドゴッ!!

男は彼女の夫の腹を蹴り上げた。

「ぐっ…?!」
「誰にそんな口聞いてんだ、お?」

倒れこむ夫に男は容赦なく蹴りをいれていく。
その光景を誰もが見ていたが皆、目を伏せて見ないようにするしかなかった。
苦しむ夫の姿に耐え切れなくなったサキュバスが男の足にしがみついた。

「やめてくださいっ、お願いだから乱暴しないで!!」
「あん?元はといえばてめぇがヘタるからだろ?!」
「きゃあ?!」

夫を守ろうと男にすがりついたサキュバスだったが無力にも簡単に払いのけられてしまった。
それを見て忌々しそうに男は言う。

「こう言う奴らがいるから最近作業が遅れるんだ、…そろそろ次の見せしめでも作るしかねえかな?」
「?!」

二人は見せしめという言葉にひどく過剰に反応した。
怯える二人に男は腰につけていた鎖付きの鉄の首輪を取り出した。

「そ、それだけは…それだけは許して!!」
「うるせえんだよ、早く来い。」

ガチャンッ!!…ジャララララララ!!!

鉄の首輪をサキュバスに付け、男は強引に彼女を引きずっていく。
泣き叫び連れて行かれる妻を夫は倒れたまま見ているしかなかった。

「いやぁぁぁっ…あなた…あなたぁ!!」
「く…くそぉ…ま、て…!!」


…。



「ハンスお兄ちゃんっ!?このままじゃあのお姉ちゃんが…お姉ちゃんが!!」
「…わかっています。」

岩陰で隠れていたトーマが慌てたようにハンスに言いかける。
見ていたハンスも怒りを隠しきれず、拳をわなわなと震わせていた。

「…ですが今闇雲に出て行ってはすぐに囲まれてしまう、奴らだってただの木偶の坊ってわけじゃない。」
「じゃ、じゃあどうするの?」
「ここは手分けしましょう、僕はあのサキュバスを助けるからトーマ君は皆を開放して欲しいんだ。」
「え?!ぼ、ぼくが?!」
「奴らは僕達が引き受けるから大丈夫、君なら出来るはずだ。」
「で…でも…僕なんかじゃ…。」
「…今お姉ちゃん達を助けられるのは君しかいないと言ったら?」
「!」

一瞬、恐怖で迷っていたトーマだったがハンスの言葉でようやく気がついた。
アレスとハンスが戦う中、魔物のお姉ちゃん達を助けられるのは自分しかいないと…。
お姉ちゃん達を助けたいと思うその気持ちが不思議と彼に勇気を与えてくれた。

「わかった、…僕、やってみるよ!!」

トーマの力強い返事にハンスは優しく微笑みかけた。
続いてハンスはアレスの方を向く。

「で…アレスさんですが―」

ハンスはアレスに作戦の内容を伝えようと隣を向いたのだが―。

「あ、あれ…アレスさん?」

…そこには誰もいなかった。

「ハンスお兄ちゃん、どうしたの?…アレスお兄ちゃんは?」
「いやさっきまでここに…一体何処へ―」


「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!??」


ハンスとトーマがアレスを探そうとした時、突如鉱山の方から絶叫が響きわたった。
驚いて二人が下を覗いてみるとサキュバスを引きずっていたはずの男が腕を折られ、地面をのたうち回っていた。
その傍で立っているのが…。

「あ、あれって…アレスお兄ちゃん?!」
「もうっ、まったくあの人は…トーマ君頼んだよ!!」
「わ、わかった!アレスお兄ちゃんっ!みんなやっつけちゃえ!!」

ハンスはそのまま岩山を滑り落ち、トーマは迂回して皆を助けに走った。


…。




「くそ…てめぇっ…よくも俺の…俺の腕を…!!」

悶えながら男は睨みつけるがアレスはそんなことも気にせずサキュバスに付けられていた首輪を解いた。

「大丈夫か?」
「あ、あなたは…?」
「先に旦那を連れて隠れているんだ、出来れば他の者達も助けてやって欲しい。」
「…どうして、私達を―」
「しっかりしろっ!!今は旦那を助ける事だけを考えるんだ、いいな?」
「!…はいっ。」

アレスの言葉に我に返ったサキュバスは倒れた夫の下へと向かった。
その後、騒ぎに気付いた仲間が続々とアレスの元へと集まってきていた。

「おい、なんだ今の声は!!」
「どうしたお前、誰にやられたんだ?!」
「こ、こいつだっ、いきなり現れて俺の腕を!!」

六、七人ほどの男の仲間が一斉にアレスの方を向いた。
アレスの方はというと隠れもせずそのままずっと立ち尽くし、男達を無言で睨んでいた。
男の一人がアレスのほうへと近寄ってくる。

「お前見かけない顔だな、何処から来た?」
「…。」
「…名前は?」
「…。」
「お前口が聞けねえのか、早く答え―」


ドシャッ!!!


「?!」

後ろで見ていた男達には一瞬何が起きたのか理解できなかった。
言うならば突然、アレスの胸倉を掴もうとした男が一瞬のうちに倒れていた。
良く見ればアレスの拳が男の顔面に突き刺さり頭は地面にヒビを入れめり込んでしまっている。
男はぴくりとも動かず、アレスはそのまま拳を引き抜いた。

「お前らが知って良いのはただ一つ、それは―」

ジャラララッ……!!

アレスは先ほどサキュバスが付けられていた鎖付きの首輪を掴み、ブンブンと振り回しながらすでに戦意喪失している男達に言った。


「―彼女達が受けた苦しみだけだ。」



――――――――。

場所は変わりここはとある屋敷。

「お頭、お頭っ!!」

慌てた様子で部屋に入ると目の前のテーブルに足を乗せてタバコをふかす男の姿があった。

「うるせぇな…たまには静かに一服させろよ。」
「お頭、大変です…鉱山の方で男が暴れています!!」
「んなもん蹴散らせ、そんなことでわざわざ報告に来てんじゃねえよ。」
「そ、それがとんでもねえ強さで…もう何人もやられてんです!!」
「…はぁ、またか。」

頭と呼ばれた男が煙と一緒にため息をつきながら天井を仰いだ。
その後テーブルを蹴り上げ、後ろに立ててあった剣を取って立ち上がった。

「まったく…お前らには武器も持たせてやってるってのに…で?」
「は、はい?」
「数だよボケ、何人いるんだ?」
「そ、それが…一人で。」
「…。」

話しながら部屋を出ようとしていたお頭が一人という言葉に足を止めた。
その後ゆっくりと報告に来た男を睨みつけた。

「一人…間違いねぇか?」
「え、ええ…。」
「そうか。」

そう言ってお頭は近くにあった酒瓶を手にして―


ガシャンッ!!!


「ぎゃああぁっ?!!!」

報告に来た男の頭をカチ割った。

「たったひとりに何人もやられただと…?お前らにはメンツってモンがねえのか、あぁ?!」
「す、すまねぇ…すまねぇ…お頭…!」

地面にのた打ち回る男を蹴り飛ばしてお頭はさっさと部屋を出た。
…そのお頭の掌には紅い炎が怪しく揺らめいていた。

「舐めたことしてくれるじゃねえか…焼き殺してやる。」

その炎を強く握り消した後、お頭は仲間を連れて鉱山へと向かった。


――――――。




「…今のが最後のようですね。」

剣を納めながら隣にいたハンスがそう言った。
確かにここにいた奴らは粗方片付いたし…当分はここも安全だろう。
俺も持っていた鎖を地面へと捨てた、使いすぎてもう原型は止めてはいないが。

「アレスさん…遺跡の時から言おうと思ってましたがいくらなんでも無鉄砲すぎますよ、もっと作戦を立ててからでも良いんじゃないですか?」

ハンスが急に少しお説教臭くそう言ってきた。
…そういえばいつもハンスは出遅れていたな、どうしてかと思ったらそんなことだったのか。

「俺の性には合わない、そんな暇があったら飛び込んでいるからな。」
「こんなこと続けてたら命がいくつあっても足りませんよ、これからはもっと慎重にですね―」
「長話になるなら後だ、俺は磔になっていた彼女達の様子を見てくる…お前はここにいる皆を集めておいてくれ、それとそこらで転がっている奴も縛っておけよ?」
「ちょ、ちょっとアレスさん、まだ話は終わってませんよ?!!」

後ろからハンスの呼び止める声が聞こえたが俺は無視して丘へと向かった。
そこはちょうど彼女達が『見せしめ』にされたところだ。



…。




丘をしばらく登った後、誰かが蹲っているのが見えた。
小さなその背中に俺は見覚えがあった。

「…トーマ。」
「ひっく…えっぐ…。」

トーマは声を押し殺して泣いているようだった。
目の前には二人の魔物が寝かされており、目を瞑ったまま動くことはなかった。
見せしめにされていた者達は全部で10人…その内の2人が助からなかった。
その二人のために…トーマは涙を流していた。

「ごめんよ…お姉ちゃん…僕が、ひっぐ…弱虫なばっかりに…。」
「トーマ…もういいんだ。」

俺は泣きじゃくるトーマの頭を抱え、そっと撫で続けた。
トーマは何処かエルザに似ている…会った時からそう思っていた。
だが…もう同じようなことにはさせない。

「さ、二人を手厚く葬ろう…手伝ってくれるな?」
「ぐすっ…うん。」
「…いい子だ。」

そう言って、俺はトーマの頭をもう一度撫でた。
…そして二人の遺体を持ち運ぼうとした時だった。

「た、たいへんだぁぁ!!!」

慌てた様子で下の方から声が聞こえてきた。
振り向いてみると先程まで働かされていた男の一人がこちらへと駆け上がってきた。

「あ、あんた、あんただっ、早く来てくれ!」
「おい、なんのつもりだ?!」
「いいから早く、このままじゃまずいんだよ!!」

しきりに男は俺の腕を引っ張ってどこかへ連れて行こうとしている。
何をそんなに焦っているんだ?

「とりあえず落ち着け、一体どうしたんだ?」
「奴が…カシムの野郎が来たんだ!!」
「カシム…?」
「アレスお兄ちゃん、カシムっていうのは奴らの親玉のことだよ!!」

隣りで聞いていたトーマが俺にそう教えてくれた。
なるほど…ついにお出ましか、行く手間が省けたな。

「それで、そいつは今どこにいるんだ?」
「もう鉱山の方まで来ちまってんだよっ、あんたの連れの剣士さんが戦ってくれてるがちょっとヤバそうなんだ!!」
「ハンスが……。…わかった、先に行って皆は安全なところで隠れているんだ、トーマ…頼めるか?」
「…。」

そう言ってトーマの方を向くとトーマは少し俯いたあと何かを決心したかのように顔を上げた。

「いや、今度は僕たちも戦う!!」
「え、えぇ?!!」
「なに?」

突然トーマは俺たちの前でそんなことを言い出した。
隣にいた男も驚いたようでトーマの肩を掴んだ。

「と、トーマ!!いきなり何を言い出すんだ!?」
「みんなが酷い目に遭うのを見るのはもう嫌なんだ、皆で力を合わせればあいつらだってやっつけられるよ!!」
「子供の遊びじゃないんだぞ、あいつらがどんな奴かお前だって知っているだろう?!」
「今は僕達が立ち上がらなくちゃいけないんだ、アレスさん…お願いします!!」

トーマは必死になりながら俺に頭を下げて頼んできた。
後ろの男はどうしたらいいか分からず俺とトーマを見比べている。
そんな姿に俺は小さくため息をついた。

…お前がもう少し大きければ仲間にしたいところだな。

「…いいだろう。」
「ちょ、ちょっとあんた?!!」
「ただし、これは仇討ちのために戦うんじゃない…あくまでここの皆のために戦うんだ。」
「…わかってる。」
「すべて覚悟の上だな?」
「うん!」
「…奴の所へ案内しろ、お前は負傷した者を避難させてくれ。」
「わ、わかった…くれぐれも無茶させないでくれよ?!!」

俺はトーマの案内に従い、下へと降りていった。


―――――――。


「はぁ…はぁ…。」

剣を構えながら肩で息をするハンス。
体には剣で切りつけられた傷が目立ち、所々には酷い火傷も負っていた。
その目の前には剣を肩で叩きながらうすら笑いを浮かべる男がいた。

「いやぁ…タフだねぇ、そんだけ食らってまだ剣を構えられるんだからな。」
「ま、まだだ…。」
「いいねぇ、そうこなくちゃ…ほら、こいよ?」

まるで子供をあやすかのように挑発する男にハンスは激怒してしまい、彼目掛けて声を上げながら走り出した。

「うおぉぉぉぉっ!!!」

剣を前に突き立てながら突撃するハンス。
男はそれに驚くこともなく徐に手の平を前へと突き出した。

「さっきから言ってるがな…そいつは悪手だぜ、坊主。」

男の手の平から紅い炎が現れ、まるでハンスに狙いを定めるかのようにゆらゆらと動いていた…そして―


「?!」

ボォォォンッ!!

急に地面が光りだしたかと思うとハンスの足元から炎が現れ爆発しハンスは吹き飛ばされた。
その爆発音に傍にいた男の仲間が歓声を浴びせる。

「おい見たかよ、ありゃ死んだな!!」
「さすがお頭だ、まさに敵無し!!」
「お頭がいてくれりゃ俺たちは無敵だ!!」

「ハッ、ざっとこんなもんだ…よーし、さっさと逃げたやつら捕まえて―」

男が皆に指示をしようとしたとき、ハンスの元に駆け寄る二人の姿が見えた。

「は、ハンスお兄ちゃん!!」
「ハンスっ!!!」

「んあ?」

ようやく到着したアレスとトーマがハンスの元へと駆け寄っていった。
ハンスは直撃は免れたものの、もう立つことは出来ないほど負傷し危険な状態だった。
アレスがハンスに語りかける。

「ハンス、ハンスしっかりしろ!!」
「あ、…アレス…さ…ん…。」
「もう大丈夫だ、あとは俺がやるからお前はもう休め…。」
「…すみ…ま…せん…。」
「トーマ、ハンスを連れて行ってくれ。」
「わかった、ハンスお兄ちゃんしっかりしてね。」

トーマは引きずりながらもハンスを負ぶさり、その場から離れて行った。
二人を見送った後、アレスはゆっくりと男たちの方へと振り向いた。

「なんだ、もう一人いるじゃねえか…たくっ…お前らは人数の数え方も知らねえようだな。」
「お、お頭、あいつだ、あいつなんだ!!あいつがいきなり暴れだしたんだ!!」
「奴が主犯てわけか?…確かに大した面構えだな、ちょっくら挨拶してみるか。」

お頭と呼ばれた男が淡々とした様子でアレスに近寄った。
アレスは何も言わないままずっと睨みつけたままである。
少し間の空いた距離で止まり、お頭が口を開いた。

「よぅ色男、随分と派手に暴れてくれたみたいじゃねえか?」

お頭は少し茶化したように話しかけたがアレスは眉一つ動かさず無視して話を進めた。

「…お前がカシムか?」
「お固いね…いかにもかにも、俺様がカシムだがお前は何者だ?…見たところはよそ者みてえだが。」
「…知らなくていいことだ。」

アレスはそう言うと拳を構えて臨戦態勢に入ったが、それとは逆にカシムは手を挙げて降参の意を示した。
アレスは怪奇そうに聞き返す。

「どういうつもりだ?」
「まぁ落ち着けって…俺もいきなり血で血を洗うことなんかしたかねえよ、もっとスマートに解決しようと思ってんだ。」
「スマートだと?」
「…おい、渡してやれ。」
「へいっ!!」

カシムがそう言うと後ろの男達の一人がアレスに向かって袋を一つ投げ渡した。
それは地面に落ちるとジャラジャラッと特有の音を立てた。

「旅をするなら先立つもんは必要だろ?…それだけありゃしばらくは遊んで暮らせるしさっきの坊やの治療もできる、なぁにあんたは綺麗さっぱり忘れて黙ってここを去れば全ては丸く収まるってもんだ、あんただってそれぐらいわかるんだろう?」

…アレスは袋を拾い上げて中身を確認した。
中には綺麗に磨かれた金貨がずっしりと入っており、カシムの言ったとおり当分は困らないほどの大金だった。
アレスはその中の数枚を手にとり小さく呟いた。

「これが…あの魔物の二人の『値段』か…。」

その金貨を手にしながらアレスは先ほど丘で亡くなった二人の魔物を思い出していた。
こんなものの為にあの二人は死んだのかと…。
最後にアレスはその金貨を握り締めた。

「どうした、お頭にビビっちまったか?!」
「よぅっお利口さんよ、お前長生きするぜ!!」
「それで俺達に二度と面見せんじゃねえぞ!!」

その様子を見ていた後ろの男達がアレスに非難の声を浴びせた。
カシムがやれやれという様子で騒ぐ男たちの方へと振り向いた。

「おいおい、元はといえばてめぇらが不甲斐ないから―」

こうなるんだ。と最後まで言いかけた時だった。



カァンッ!!!!!


「あがっ…が…?!」

「!?」

カシムの目の前で男が一人、頭に何かを受けて崩れ落ちた。
続けて―

「ぎゃあ?!」
「うっ…ごぉ…。」
「お、お頭!!うし―あがっ?!」
「何だ一体…何が起きてる?!!」

頭に何かを当てられ次々と倒れていく子分を目の当たりにし、ようやくカシムが慌てて振り返るとアレスがまるで小石を弄ぶかのように金貨を数枚手にしていた。

「貴様…!!」
「貰った金をどう使うかは俺の自由だ、だが俺はこんな汚れた金などいらない…!」

アレスは手に持っていた残りの金貨をカシムを含めた全員に狙いを定め投げつけた。
後ろにいたカシムの仲間は頭に直撃し崩れ落ちるもカシムはそれを剣で払い落とした。

「やってくれたな…小僧!!!」

カシムはアレスに突進し剣を振り落とした。
大きな長剣がアレスを襲うが彼には一歩届かず虚空を切り地面を裂いた。
続けて薙ぎ払い、突きと繰り出すがアレスの身体には触れることさえできない。

「どうした…この程度でよく頭が務まったな?」

呆れた様子でカシムの剣を簡単に払い除け、隙のできた顔にアレスの拳が突き刺さる。

「…そう思ったか?」


突き刺さる―はずだった。

ボオォォォォォ!!!!!

「?!」

攻撃しようとした瞬間、目の前に炎の壁が現れ咄嗟にアレスは距離をとった。
手に少し火傷を負ったものの大事には至らなかった…だが今のアレスにとってそんなことはどうでもよかった。

(なんだ…一体何が起きた?!…炎の魔法か?…いや詠唱無しで魔法なんて人間に撃てるわけ―)

「余所見してる場合か!」
「っく?!」

考える間もなくカシムは攻撃を続けた。
先程とは違い、余裕なく避け続けるアレスにカシムは不敵な笑いを浮かべた。

「どうした、まだまだこれからだぞ?」
「…なら―」

アレスはカシムの剣を紙一重で交わし、後ろへと回り込んだ。
迎撃体制に入られる前にアレスはカシムの首筋目掛けて飛び掛った。

(これで…?!)

ボォォンッ!!

飛びかかろうとしたアレスの目の前でまた爆発が起こり、アレスはそのまま吹き飛ばされてしまった。
地面を転がりながらなんとか止まるも火傷は全身にへと広がり所々から血がにじみ出ていた。
ゆっくりとカシムが振り向き、爆発したあとの粉塵を煙たそうに払った。

「危ない危ない、もう少しで殺られるところだったぜ。」
「…。」
「どうした、青ざめて言葉も出ないか?」

ヘラヘラと笑うカシムに対してアレスは少しずつ冷静を取り戻し、今までのことを元に推察し始めた。

「そうだ…まずは落ち着け。」

(まずはじめに…奴は炎系の魔法を多用する…いやそれしかつかえないようにも見えるな、そしてそれは自分に自覚がなく発動できる…奴は何もしなくても炎が自分を守ってくれている状態だということだ、…そんな高等な魔法技術が使えるとは思えないし…こいつには何処か引っかかる、俺は何か見落としているのか?)

(探ってみるしかないか!)

アレスは近くに立てかけてあったツルハシをカシムに向かってぶん投げ、そのまま突進した。

「今度は小細工か、いいかげん本気出せよ?」

カシムは当然の様に剣でツルハシを弾いて突進してくるアレスに斬りかかった。

カンッ!!

「なっ?!」

アレスは自分に振り落とされた剣を足を使って軌道を逸らした。
逸らされた剣は地面に突き刺さり、隙の出来たカシムにアレスは攻撃を加える。

「―んちゃってなっ!!!」

『――――』

だがそれを見越してたかのようにまたアレスの目の前で爆発が起きアレスは吹き飛ばされた。

「っ…。」

今度は分かっていたためアレスはそれほどダメージを受けることはなかったがこれでカシムへの攻撃は殆どできないことが証明されてしまった。

「おうおうおう、馬鹿の一つ覚えってやつか?…無駄なことはやめとけって。」
「…。」
「おぃ、いい加減その黙るの止めろよ。」

だがこの時、逆にアレスはまったく別のことを考えていた。

(今、確かに何か聞こえてきたような…?)

それはアレスが炎にまみれた瞬間のことだった。
良くは聞き取れなかったがアレスの頭に直接語りかけて来ているようだった。

「…。」

アレスは少し黙りこくった後、また有無を言わさずカシムに突っ込んでいった。
カシムはまたかと少しうんざりしたように手を前に広げ、炎を繰り出した。

「だから無駄だって言ってんだろ!!」

ゴオォォォォォ!!!!!

アレスは立ち止まり寸前のところでその炎を避けた、その時である。




『――して!!』



「?!」

アレスの頭に聞こえてきた声。
それは女性の声で何かを叫んでいるようにも聞こえた。
炎を完全には避けきれず足を少し焦がしてしまっていたが、そのおかげでアレスは気づくことができた。

「あの炎は…意思を持っている…?」

意思を持った炎という事実でアレスは真っ先に『精霊』という言葉を浮かばせた。

精霊とは本来、火・水・風・土 など自然界に存在する高濃度の元素が集まって形を成したものであり、この精霊と人間が契約を行い精霊達と契約を行った人間がその精霊の元素に対応した力を行使させる事が可能である。

このことを知っていたアレスはすぐに『カシムは炎の精霊を操っている』という仮説を立てたがそれにはどうしても疑問に残ることがあった。
それは精霊は常に契約者となる者の隣にいなければならないこと、そしてその土地の力によって精霊の力が反映されることである。

カシムの様子からして精霊を携えているようには見えず、尚且つこの土地自体にそれほど精霊に対して反映される素材は見つからなかった。
にもかかわらずカシムはその強力な炎の魔法を使ってきた。
アレスはこの事実に対して…一つの最悪な結論を見出した。


「まさか…?」

そう、この条件をクリアできる状況が一つだけある。
それをアレスは知っていたのだがそれこそありえないと思っていた。
なぜならカシムのような魔物を傷つける人間にはできない条件だからだ。

最後にアレスは決心してカシムの方へとまた突っ込んでいった!!

「ったく、この死にぞこないがぁ!!」

ゴオォォォォォ!!!!!

いい加減鬱陶しくなったカシムは、今までとは違う少し強力な炎をアレスに浴びせた。
今度はアレスはそれを避けようとせず、真正面から受けに行った。

「ぐあぁっ…!!」

まるで咆哮を上げる怪物のように炎はアレスを飲み込んだ。
肌が焼けていくのを感じ、意識が遠のきそうになる中…それは聞こえてきた。



『あたしを…殺して!!!』



「…!!」


アレスの頭にはっきり聞こえてきた言葉。
それだけでアレスは確信し、全ての謎が解けた。
身体中から黒い煙が佇む中、アレスは呟いた。


「魔精霊…。」
「おん?」
「その力は…魔精霊のものだな。」
「ほほぅ…おう、ご名答!!」


アレスの言葉にカシムは驚いたように声を上げ手を叩いた。

「いやぁ、まさか見破られるとはな…あんたが初めてだぜ。」
「だが、どうやって…?」
「なぁに、いまの技術を使えば奇跡も幻想も作り出せるんだよ…お前は楽しませてくれたからな、特別に教えてやるよ。」

そう言ってカシムは左胸の方をぽんぽんと叩いてみせた。
そこには赤く光る水晶玉のような物がカシムの身体に埋め込まれており、それを撫でながらカシムは話を続けた。

「このガラス玉をみてみろよ…希少な魔宝石で作ったものだ、こいつに魔精霊となった奴をぶち込んで封印と制御の術式を書き込めばあっという間に誰でも簡単に魔法が使えるってわけだ。」
「魔精霊となった者を…無理やり…。」
「おまけに魔力の影響を受けることもない…まさに最高の兵器だぜ、まぁちょっと痛ぇ思いはしたがそれでこの力が手に入るんなら安いもんさ、そしてその力で俺はこの町を手に入れた!」
「…!」
「なんだ、これの何がいけねぇんだ?俺は教会の手助け、つまり神様の助けをしているのさ、こうして化物共を有効活用してやってるんだ、感謝して欲しいぐらいだぜ!!」



「「「「いいや、俺たちはもうお前の言いなりにはならない!!」」」」


「?!」


声に驚いてアレスが周りを見渡すといつの間にか町の住人たちが集まっていた。
人間も魔物もみんな武器を持って続々とカシムの周りを囲い始める。

「なんだぁお前ら?」

カシムは特別驚いた様子もなく、まるで虫けらでも見るような目で見回していた。

「よくも俺たちを苦しめてくれたな…?」
「私たちはあなたの金儲けの道具じゃない!!」
「お前だけは…絶対に許さないぞ!!」

武器を持ち殺気立った住人たちは完全に囲んだのを確認すると一斉に飛びかかった!

「「「ウオォォォォォォォッ!!!」」」」

「やめろ、みんな逃げてくれっ!!」

アレスの叫びも虚しく住人たちは雄叫びを上げてカシムに立ち向かっていった。

「雑魚共が…調子づいてんじゃねぇよ!!」


ボオォォォォォ!!!!!


カシムが腕で周囲をなぎ払うとそれに沿って炎が一面を焼き払った。

「うわぁぁ?!」
「きゃぁぁぁ!!」

『やめてっ…殺さないでよっ…!!』

女性だろうが子供だろうが容赦なく皆吹き飛ばされ、もう誰も立ち上がれない様になってしまった。
カシムはそれを見て大声を上げ高らかに笑い飛ばした。

「殺しやしねえよ、お前らは大事な労働力だからな…お前らは死ぬまで俺の奴隷だ、そこんとこわかっとけよぉっ!!」

「く、くそ…もうだめなのか…?」
「だ、誰か…助けて…みんなを…助けてよ…。」

皆はボロボロになった姿でカシムの言葉に拳を握り締め、涙を流す者もいた。
そこにいた誰もが諦めかけた時だった。




「そうやって―」



「…あん?」

カシムが振り向くと、ゆらり…と一人立ち上がる姿があった。


「そうやって…笑い飛ばすために…その娘を使って…みんな殺してきたのか?」


立ち上がったアレスはそのままゆっくりとカシムの方へと歩いて行く。
その姿は何処か不気味なようにも見えた。

カシムはため息をつきながらも手を前に出した。

「お前さんも懲りねえな、よっと。」

そう言ってカシムは軽く炎繰り出しアレスにへと浴びせた。

『お願い…逃げて…。』

アレスは少し仰け反るも歩く足を止めようとはしなかった。

「おっと、流石に弱すぎたか…ならこれだ!!」

そう言ってカシムは続けて炎を二発同時に繰り出しアレスに浴びかせた。

『こっちにこないで…。』

「っぐ…ううっ。」

少し唸り声を上げるもアレスは踏ん張りさらに歩き続けた。
それを見たカシムが意外そうにヒューっと口笛を鳴らした。

「…やるね、じゃあこれならどうだ?」

するとカシムは前に出していた手を握り締め、その中で炎を蓄積させた。
そしてそれを矢のような形にさせ、アレスに向かって放った。

矢はアレスに刺さった瞬間、爆発した。



ザクッ……ボォォゥンッ!!


『もう…やめてよ…。』


爆発した後、辺りには黒い粉塵が舞っていた。
それを見て勝利を確信したカシムがあざ笑うかのように言い出した。

「まったく…手加減ってのは難しいぜ、あんまりやりすぎると使いもんにならなく―」


ザクッ…ザクッ…。


「なるから…な…。」

カシムは言いかけながら目を向けると、その粉塵の中からまだこちらへと向かってくるアレスの姿を見つけた。
足を引きずり…矢が突き刺さった胸は黒く露出してしまい、血が吹き出してしまっていたがそれでも尚、アレスは止まることはなかった。

「ん、んん…あ、あんた?!」
「よせっ、それ以上進むと殺されるぞ!!」
「やめてっ、本当に死んじゃう!!」

「…。」

騒ぎに気が付いた住人たちが必死にアレスを呼び止めるがアレスは聞かなかった。
その様子をみて、ついにカシムがしびれを切らした。

「そうかい…その強さは使えるかと思ったが仕方ねえ、てめえを先に見せしめにしてやる!!」

カシムは両手を前に出し、大きな炎の球体を作り出した。
その球体は紅い炎で渦巻いており、周囲が熱気で覆われるほどのものだった。

「フルパワーだ、くたばりやがれゴキブリ野郎!!」

そう言ってカシムは球体を高速で放ち、球体はアレスに当たって弾けた。



ドォォォォォンッッ!!


『もうこれ以上、誰も傷つけないでよ!!!!』


轟音とも思える爆発音が衝撃と粉塵と共に周囲に放たれた。

「ぐわっ?!」
「ひゃぁ?!!」

住人たちはあまりの衝撃に頭を伏せてやり過ごした。
離れていたにもかかわらず襲い来る熱風がその球体の威力を物語っていた。
球体が爆発した場所は黒い煙が上がり、所々の地面がまだ赤く発熱していた。

「はぁ…はぁ…はぁ…流石の俺様も…これは…疲れるぜ…。」

肩で息をしながらカシムは目の前の黒い煙を見つめていた。
カシム自身もここまでの力を使うのは初めてだったらしく、その威力と消耗に驚いていた。
それと同時にもうこの世界には自分に敵うものはいないのだと自分の力に酔いしれてもいた。

「へへ…流石にやりすぎたが…これで…逆らうやつも…もういねぇだろ…。」

そしてカシムは疲れた身体を見せぬように勢いよく住人たちへと振り返った。

「どうだ、てめえらがもがけばもがくほど死体が増えるんだ、わかったら…さっさと仕事に戻りやがれ!!」

これだけの力を見せつけ、切り札を倒されたあとの彼らにもう抵抗する力はないだろう。
カシム自身もそう考え勢いよく振り向き、怒鳴り散らしたのだが―

「…!」
「あ…あぁ…!!」

その住人たちは誰も動くこともなくある一点を見て固まっていた。
男たちは口を開けたまま動かず、魔物たちは逆に口を押さえ信じられないという目をしていた。
もちろんそれはカシムに対してではなく…視線からしてカシムの”後ろにいる存在”に対してだった。

「な、なんだてめえら?」

予想外の反応にカシムは怯んだが、その彼の耳にもっと予想外な音が聞こえた。



ザクッ…ザクッ…。


「…。」
「お、おいうそだろ…?」

カシムはその音を聞いて自分自身が青ざめていくのを感じた。
ゆっくりと振り返るとそこには―


「――――!!」


火傷で全身を黒と赤に塗りつぶされながらもこちらへと歩き続けるアレスの姿だった。

「う、うおわぁぁぁぁ?!!」

カシムはあまりの光景に腰を抜かし尻餅をついてしまった。

顔の半分が焼けただれ、至るところから煙を上げ黒い血を流しながら歩き続けるアレス。
だがその相手を見据える紅い目は先ほどとは別人と思えるほど黒く禍々しいものだった。

「ど、どうしてあなたはそこまで…?」

一人のサキュバスが泣きの入った言葉でそう呟いた。
その光景に他の住人たちも皆…特に魔物達は涙を流していた。
最後まで自分たちの為に戦うアレスの勇姿に…。

「く、くるな…くるんじゃねぇ!!!」

我に返ったカシムが立ち上がり、剣を取り出してアレスに向けた。
だがアレスはまるで剣が見えていないかのようにカシムに向かっていく。

「ちょ、調子に乗ってんじゃねえ!!」

カシムがアレスに向かって剣を振り下ろした。
すると…。


シュッ…パキンッ!!

「なっ?!」

瞬時にアレスは剣先を腕だけで振り払い、カシムの剣を叩き折った。
折れた剣を見てカシムが半ば放心状態になり、そこに隙が生まれた。
アレスはすかさずカシムに向かって手を伸ばした。

「ひ、ひぃぃぃ?!!」


ボオォォォォォ!!!!!


恐れるカシムを他所に炎はまたしても壁を作りアレスに立ちはだかった。
…だが。


…ガシッ!!

「ぐぉ…!?」

その炎をものともせずアレスはついにカシムの身体、胸に着けられた魔宝石を掴んだ。

「て、てめえ…なにしやがる…離せ!!」
「…。」

カシムは必死にアレスの手を振りほどこうとするが手は離れず、逆に段々と力が込められていき、カシムの胸のあたりから激痛が走った。

「が、がぁぁ!!!やめろ、それを無理に引き抜くんじゃねえ!!」

アレスの手によって魔宝石は胸からどんどん引き抜かれていき、そこから魔宝石と身体を繋いだ管のようなものが現れ始めた。
魔宝石は何かに反応しているのか赤く点滅し始め、軽く電撃を帯び始めていた。

「この、やめろって言ってんだろうがっ!!」

そう言ってカシムが拳を握ると付けていた篭手の辺りから勢いよく針が突き出てきた。
それをアレスの顔に向かって突き立てた!


ザシュッ!!!


カシムの篭手から突き出た針がアレスの脳天目掛けて拳ごと突き立てられた。
拳を受けたアレスは顔が向こうに仰け反ったまま動かなかった。

「あ、ははははっ!!!!どうだ、さすがのお前もど頭に食らったら生きてられねえだろ、あはは、あははははははっ!!!!!」

半狂乱になりながら笑うカシムは勝利を確かめるために自分の手元を見た。
カシムの篭手から出た針は…。


「あはははははっ…はは、…。」


そのままアレスの―


「は、…は、は…。」

ガリッ…。


頬を貫通し―


ギリギリギリギリギリッ!!!


…歯で受け止められていた。


ガシャンッ!!


アレスは強引に口の中で針を噛み砕き、血と一緒に地面に吐いた。
そしてまたその紅い目でカシムを捉えた。

「な、なんなんだ、なんでそこまで…お前に何の関係がある?!!なんで俺をこんな目に―」

「…聞こえまい。」
「?!」

泣き叫ぶカシムにアレスは低く唸るように呟き始めた。

「この娘の叫びも…苦しみながら死んでいった彼女達の声も…ここにいる者たちの言葉も…お前には聞こえまい…!!」

アレスの魔宝石を掴む力が言葉と共に力を増し、魔宝石にヒビが入り始めた。
そして…。








「彼女たちを苦しめて笑い飛ばしていたお前に…この声は聞こえまい!!!!」






そう叫んだと同時にカシムの身体から魔宝石が引き抜かれた!!

「があぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!!!!」

胸から伸びた管が引きちぎられカシムの胸の辺りから赤い鮮血が迸った。
仰け反るカシムにアレスは魔宝石を地面に置き、拳を構えた。


「オーダー…1ッ!!!」

アレスの作った拳から気の光が集まり、それが目に見えるほどに大きく光りだした。
身体中を硬直させ、血が滴り落ちるのも気に介さずアレスは大きく仰け反った。


アレスの目が苦しみながら悶えるカシムを捉え、一撃を放った。


「…スティンガァァァッ!!!」

「?!」



ドォゥンッ!!…ガンッガラガラガラッ…バンッ!!!




カシムは声を上げる隙もなく、見えない速度で吹き飛ばされ地面を転がり、岩壁に激突し
た。


「「「…。」」」


突然の事で誰もが皆その一部始終を黙ってみていたが一人のサキュバスが呟いた。

「か、勝ったの?」

その言葉に皆が反応し、状況を理解し始めた。

「あの人が…勝ったの…?」
「ついに…ついにカシムを倒したんだ!!」
「やった、俺たちは解放されたんだ!!!」
「これでみんな救われるわ!!!」


…自分たちが自由になったということに皆、歓喜の声を上げた。


「…フッ。」

身体から光が抜け落ちると、アレスは小さく笑って崩れ落ちた。






13/01/15 23:34更新 / ひげ親父
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■作者メッセージ

はい、お疲れ様でした、そしてお久しぶりですひげ親父でございます!!

かなり間が空いたのをお許し下さい…いやほんと忙しいんです、何度か体壊したりパソコン壊れたりでなかなかここに来れませんでした゚(゚´Д`゚)゚

さて、いろいろな魔物が増えてきている中…皆様にアンケをとりたいと思います。

次にどの作品を見たいかを感想で教えてください。

1…マモシネオールスタークイズ大会、みんなも参加してねパーティ!!

2…イエティ、ワーム、グラキエスが主体の現代風読み切り作品。

3…そろそろ誰かとコラボっちゃえよ?

お待ちしております…ではでは(o・・o)/~

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