第二話 シェルクの戦
「ふむ。了解した」
私は水晶無線機を置いた
「ん?なんだ?それは」
バラガスが聞いてくる
「離れた場所から通信できる装置だ。魔物どもはもっと高性能なものを使っておるそうだが、まぁ、こちらのも小ささでは負けておらん」
「へぇ…で、どこと通信してんだ?」
「偵察兵だ。どうやら敵軍が動き出すらしい」
私が説明していると
『『『『『『おお〜〜〜〜〜〜〜!!』』』』』』
突然敵陣側から魔物たちの声が聞こえた
「本当だな…」
「ところでバラガス、砲撃隊に例のものは届いたか?」
「ん?ああ、あれか。バッチリ届いたぜ。しかし、なんであんなもん?祝いにはまだ早いだろ?」
「ふふ。今に分かるさ。さ、バラガス、カロリーヌ、持ち場についてくれ。作戦通り頼むぞ」
「はい〜」
「おうよ」
バラガスが中央へ、カロリーヌは右翼へと向かい馬を走らせる
私は左翼へと向かい、愛刀の聖剣、“紫電”に目を向けた
「お前を使うのは久しぶりだな。頼んだぞ」
『…………』
――返事がない、ただの聖剣のようだ
私は左翼の兵たちの後ろへまわり、各隊へと指示を出す
「聞けぇ!この戦、お前たちは勝利へのカギの一つとなる!魔物どもは盛況だ!しかしお前たちには私が付いている!魔物どもに見せてやるのだ!閃光のシェルク率いる最速の騎馬隊の勇士を!行くぞ、構えぇぇ!!」
――バッ
「全軍前進っ!!」
「「「「おおぉぉぉぉおおお!!!」」」」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「む。敵軍も動き出したようじゃぞ?どうする?クリステア?」
「『このまま進軍よ!魔物の強さを人間たちに見せつけてやるのよ!』」
クリステアが魔導式無線機の受話器を取り、命令を下す
ふむ
まぁ、まずは様子見じゃな
気にするべきはあの敵軍左翼の動きかのう…
「ん?」
「どうしたのよ?バフォメット」
「ま、待つのじゃクリステア!」
「な、なに!?」
敵軍左翼が異常な速度で展開を開始しておった
瞬く間に長く伸びた左翼は我が軍の右翼の外側へ回り込む
速いのじゃ
速すぎる
あの機動力、正確な展開
「ヤバいのじゃ!あの左翼、おそらくはシェリクの兵!!『急ぎ右翼を展開するのじゃ!奴らに囲まれてはならん!』」
儂はあわてて魔女へと命令する
あの左翼じゃ、おそらくはそう出てくるとは思っておった
しかしあまりにも速すぎるのじゃ
恐らくは騎馬ばかりで構成された精鋭部隊
そやつらがこんな速攻で展開してくるとは…
『バフォメット様。ダメです!こちら右翼外側担当。ただ今敵軍と交戦が始まりました。でも、恐ろしい突破力で、右翼が外側から引きちぎられて撃破されてます。このままじゃ…キャー!』
砦から見下ろす両軍の動き
なんという突破力じゃおよそ千人を配した右翼外陣の歩兵が瞬く間に分散させられ撃破されていくのじゃ
あんな見え透いた陣形じゃ
この動きは当然予想しておった
しかし、対処する前にここまでの被害が出るとは想定外なのじゃ
「くっ…、クリステア!奴らの突破力は尋常じゃないのじゃ!すぐさま中央の兵を右翼へ…」
「や、やってるわよ!でも中央で交戦している大群が邪魔で兵の移動が遅れてるの!」
「く…大群が仇になっておるのか…」
あれが閃光のシェルクの精鋭部隊なのか…
恐ろしいものじゃ
主としての戦力ならば間違いなくこちらが上
しかしあの人馬一体の動き
そして鍛錬されつくした機動性
何より個々の練度が他の人間の軍隊とは段違いなのじゃ
「仕方がない!『将じゃ、将を回せ!誰かおらぬか!?』」
魔導式無線機で呼びかける
『こちら中央後軍、ドラゴンのダリア様が右翼に回られたとのこと!』
「『そうじゃ、奴がおったのじゃ!ドラゴンならば空を飛べるし、兵たちを飛び越えていけるのじゃ。飛行部隊も一緒に向かわせるのじゃ!すぐさま右翼を立て直せ!なんとしてm』」
――ドーーーーン!!!
「「「きゃぁぁぁぁぁ!?!?」」」
その瞬間、けたたましい音が空気を震わせ、風を破裂させ、空に鳴り響いた
それに混じり悲鳴が聞こえたのじゃ
『た、大変です!ダリア様が落ちてきました!先ほどの爆音で目を回されているご様子です!同じく飛行部隊のみんなも次々と落下してきている模様!!』
「『な、なんじゃとぉぉ!!!?』」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ふふ
我が故郷ジパングに伝わる最大級の花火“五尺玉”だ
できれば夜に上げたいものだが、仕方がない
耳をつぶされれば鋭敏なバランス感覚が必要な飛行部隊は飛ぶことなどできないだろう…
「流石のドラゴンと言えど、飛行能力を封じられれば地を這うトカゲだ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「くぅ…な、なんだ?何が起こった?…ぅわっ!?」
ガラフバルの将、ドラゴンのダリアはわんわんと響く耳鳴りの中、立ち上がった
しかし、次の瞬間にはバランスを崩し、転んでしまう
いったい何が起こったのだろう?
先ほどまで空から愚かな人間どもを見下ろしていたはずなのに
「ずいぶんと苦しそうだな。二日酔いか?」
と、そこへ頭上から声が聞こえる
「な…んだ?」
「並の魔法も大砲も効かぬドラゴンも、流石に巨大な音には対応できないようだな。耳の奥にはバランス感覚を司る器官が存在する。流石のドラゴンもそこには強靭な鱗は生えていないだろう?」
「くそ…卑怯者め…」
ダリアは何とか体を起こし、敵を睨みつける
「ふふ。なんとでも言うがいい」
黒い髪を後頭部の上で束ねた女は白い造りの刀に手をかけた
「朔夜紫電流―音鳴り」
――バチッ
女が小さくつぶやいた直後
――チン…
「っ!!???」
痺れた様な感覚がした
ドラゴンの身体に両肩から袈裟掛け、逆袈裟掛けに鮮血が噴き出す
それはまるでドラゴンの白い肌に赤い花が咲き誇ったようだ
一瞬の事だった
ドラゴンの目をもってしてもその刀身どころか抜き身と納刀の動作すら見えなかった
「ドラゴンのお前なら死ぬこともないだろう。しかし深手だ。ゆっくりと砦で休んでいるといい」
女が笑いかけ、去っていくのが見えた
「く…そ……化け…物……め…」
ダリアはそこで意識を失った
生まれて初めての敗北だった
それも、負けたことにすら気づけないほどの一瞬の敗北
「おやすみ。トカゲちゃん」
それを気にもかけないように勝者は歩み去って行った
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『ダリア様が倒されました!!!』
「『な、なんじゃと!?ど、どいつじゃ!?誰がそんなことを!?』」
『しぇ、シェルクです!でも、いったい何が起こったのか…剣に手をかけたかと思ったら、突然ダリア様が血を吹き出して倒れました……』
「『な……なんというやつじゃ……』」
儂は言葉を失ったのじゃ
確かに報告では奴は“ドラゴンを相手に一人で勝利する”ほどの腕だと聞いていた
しかし、“一撃でドラゴンを沈める”ほどの化け物だとは聞いておらん
恐らくは先ほどの爆音で三半規管をやられ、立つこともやっとであったのだろう
しかし、それでもドラゴンは魔物でも最強クラス
それを易々と…
それだけではない
こちらが空からの援軍を呼んだまさにそのタイミングでのあの謎の爆発
恐らくは巨大な大砲か何かじゃろうが
しかしそれはこちらの動きを完全に読んでいるからこそとれる策
いったいどうやってこちらの動きを?
まさか奴は初めからすべて計算しつくしているとでも言うのか!?
開戦から半刻も経っておらん
しかし、確実にこの戦場は僅か3000の軍を率いるシェルクの手によって掌握されておった
「ちょ、ちょっとバフォメット!まずいわ。こっちの右翼が完全に包囲されたわよ!?このままじゃ押し込まれちゃうわよ!」
「慌てるでないのじゃ!兵はまだまだこちらの方が力があるのじゃ。奴らは兵を広げた分薄くなっておる!着実に倒していけば押し返せるのじゃ!」
『報告します!右翼部隊、どんどん後退させられています!』
「『順番に敵を倒すのじゃ!兵数はこちらの方が断然に有利なのじゃ!』」
『そ、それが、こちら1人に対してあちらは2,3人で確実に押し込んでくるのでとてもじゃないけど太刀打ちできません!』
「『なんじゃと!?』」
なぜじゃ!?こちらの方が兵数は確実に上、なのになぜそのようなことが起こるのじゃ!?
「ど、どうするのよバフォメット!?こっちの軍が丸め込まれてどんどん流されていっちゃうわよ!?」
「分かっておるのじゃ!!今考えておる!お主も少しは考えるのじゃ!」
『バフォメット様!こちら中央!ダメです!押し込まれて流れてきた右翼の兵に押されて中央の兵たちは身動きが全く取れません!これじゃあ動くこともできませんよ、わっ!ちょっと、押さないでよぉ!!』
「な…」
そうか
あっという間に包囲され、押し込まれたことで奴らの作った“円”の内側から攻めることになったこちらは、奴らに対し狭い面から戦わねばならなくなり、実質戦力は向こうの方が上になっておる…
あの異常な機動力の騎兵
そして中央を足止めし続けられる尋常ではない頑丈さを誇る歩兵のなせる伎かの…
「そ、そうよ!バフォメット!左翼よ!左翼の方向に兵を集めて相手の右翼からからこっちも巻き込んでやればいいのよ!」
「し、しかしそれでは兵がどんどん流されて…。むぅ…仕方がないのじゃ!やるのじゃクリステア」
「あんたが命令するんじゃないわよ!これは私のアイデアなの!」
「そんな事を言っておる場合か!?」
こんな場面でも面倒くさい“こまった姫”なのじゃ
「あわわ…お、お二人ともケンカしないでください」
横からなだめに来てくれたのは例の魔女
えっと、たしかルティ、なのじゃ
ルティはあわあわしつつもこちらを心配してくれておったのじゃ
「す、すまぬ。儂としたことが…」
「『左翼軍!突撃!敵の右翼はまだ手薄よ!一気に攻め落として囲んであげなさい!!』」
私は水晶無線機を置いた
「ん?なんだ?それは」
バラガスが聞いてくる
「離れた場所から通信できる装置だ。魔物どもはもっと高性能なものを使っておるそうだが、まぁ、こちらのも小ささでは負けておらん」
「へぇ…で、どこと通信してんだ?」
「偵察兵だ。どうやら敵軍が動き出すらしい」
私が説明していると
『『『『『『おお〜〜〜〜〜〜〜!!』』』』』』
突然敵陣側から魔物たちの声が聞こえた
「本当だな…」
「ところでバラガス、砲撃隊に例のものは届いたか?」
「ん?ああ、あれか。バッチリ届いたぜ。しかし、なんであんなもん?祝いにはまだ早いだろ?」
「ふふ。今に分かるさ。さ、バラガス、カロリーヌ、持ち場についてくれ。作戦通り頼むぞ」
「はい〜」
「おうよ」
バラガスが中央へ、カロリーヌは右翼へと向かい馬を走らせる
私は左翼へと向かい、愛刀の聖剣、“紫電”に目を向けた
「お前を使うのは久しぶりだな。頼んだぞ」
『…………』
――返事がない、ただの聖剣のようだ
私は左翼の兵たちの後ろへまわり、各隊へと指示を出す
「聞けぇ!この戦、お前たちは勝利へのカギの一つとなる!魔物どもは盛況だ!しかしお前たちには私が付いている!魔物どもに見せてやるのだ!閃光のシェルク率いる最速の騎馬隊の勇士を!行くぞ、構えぇぇ!!」
――バッ
「全軍前進っ!!」
「「「「おおぉぉぉぉおおお!!!」」」」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「む。敵軍も動き出したようじゃぞ?どうする?クリステア?」
「『このまま進軍よ!魔物の強さを人間たちに見せつけてやるのよ!』」
クリステアが魔導式無線機の受話器を取り、命令を下す
ふむ
まぁ、まずは様子見じゃな
気にするべきはあの敵軍左翼の動きかのう…
「ん?」
「どうしたのよ?バフォメット」
「ま、待つのじゃクリステア!」
「な、なに!?」
敵軍左翼が異常な速度で展開を開始しておった
瞬く間に長く伸びた左翼は我が軍の右翼の外側へ回り込む
速いのじゃ
速すぎる
あの機動力、正確な展開
「ヤバいのじゃ!あの左翼、おそらくはシェリクの兵!!『急ぎ右翼を展開するのじゃ!奴らに囲まれてはならん!』」
儂はあわてて魔女へと命令する
あの左翼じゃ、おそらくはそう出てくるとは思っておった
しかしあまりにも速すぎるのじゃ
恐らくは騎馬ばかりで構成された精鋭部隊
そやつらがこんな速攻で展開してくるとは…
『バフォメット様。ダメです!こちら右翼外側担当。ただ今敵軍と交戦が始まりました。でも、恐ろしい突破力で、右翼が外側から引きちぎられて撃破されてます。このままじゃ…キャー!』
砦から見下ろす両軍の動き
なんという突破力じゃおよそ千人を配した右翼外陣の歩兵が瞬く間に分散させられ撃破されていくのじゃ
あんな見え透いた陣形じゃ
この動きは当然予想しておった
しかし、対処する前にここまでの被害が出るとは想定外なのじゃ
「くっ…、クリステア!奴らの突破力は尋常じゃないのじゃ!すぐさま中央の兵を右翼へ…」
「や、やってるわよ!でも中央で交戦している大群が邪魔で兵の移動が遅れてるの!」
「く…大群が仇になっておるのか…」
あれが閃光のシェルクの精鋭部隊なのか…
恐ろしいものじゃ
主としての戦力ならば間違いなくこちらが上
しかしあの人馬一体の動き
そして鍛錬されつくした機動性
何より個々の練度が他の人間の軍隊とは段違いなのじゃ
「仕方がない!『将じゃ、将を回せ!誰かおらぬか!?』」
魔導式無線機で呼びかける
『こちら中央後軍、ドラゴンのダリア様が右翼に回られたとのこと!』
「『そうじゃ、奴がおったのじゃ!ドラゴンならば空を飛べるし、兵たちを飛び越えていけるのじゃ。飛行部隊も一緒に向かわせるのじゃ!すぐさま右翼を立て直せ!なんとしてm』」
――ドーーーーン!!!
「「「きゃぁぁぁぁぁ!?!?」」」
その瞬間、けたたましい音が空気を震わせ、風を破裂させ、空に鳴り響いた
それに混じり悲鳴が聞こえたのじゃ
『た、大変です!ダリア様が落ちてきました!先ほどの爆音で目を回されているご様子です!同じく飛行部隊のみんなも次々と落下してきている模様!!』
「『な、なんじゃとぉぉ!!!?』」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ふふ
我が故郷ジパングに伝わる最大級の花火“五尺玉”だ
できれば夜に上げたいものだが、仕方がない
耳をつぶされれば鋭敏なバランス感覚が必要な飛行部隊は飛ぶことなどできないだろう…
「流石のドラゴンと言えど、飛行能力を封じられれば地を這うトカゲだ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「くぅ…な、なんだ?何が起こった?…ぅわっ!?」
ガラフバルの将、ドラゴンのダリアはわんわんと響く耳鳴りの中、立ち上がった
しかし、次の瞬間にはバランスを崩し、転んでしまう
いったい何が起こったのだろう?
先ほどまで空から愚かな人間どもを見下ろしていたはずなのに
「ずいぶんと苦しそうだな。二日酔いか?」
と、そこへ頭上から声が聞こえる
「な…んだ?」
「並の魔法も大砲も効かぬドラゴンも、流石に巨大な音には対応できないようだな。耳の奥にはバランス感覚を司る器官が存在する。流石のドラゴンもそこには強靭な鱗は生えていないだろう?」
「くそ…卑怯者め…」
ダリアは何とか体を起こし、敵を睨みつける
「ふふ。なんとでも言うがいい」
黒い髪を後頭部の上で束ねた女は白い造りの刀に手をかけた
「朔夜紫電流―音鳴り」
――バチッ
女が小さくつぶやいた直後
――チン…
「っ!!???」
痺れた様な感覚がした
ドラゴンの身体に両肩から袈裟掛け、逆袈裟掛けに鮮血が噴き出す
それはまるでドラゴンの白い肌に赤い花が咲き誇ったようだ
一瞬の事だった
ドラゴンの目をもってしてもその刀身どころか抜き身と納刀の動作すら見えなかった
「ドラゴンのお前なら死ぬこともないだろう。しかし深手だ。ゆっくりと砦で休んでいるといい」
女が笑いかけ、去っていくのが見えた
「く…そ……化け…物……め…」
ダリアはそこで意識を失った
生まれて初めての敗北だった
それも、負けたことにすら気づけないほどの一瞬の敗北
「おやすみ。トカゲちゃん」
それを気にもかけないように勝者は歩み去って行った
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『ダリア様が倒されました!!!』
「『な、なんじゃと!?ど、どいつじゃ!?誰がそんなことを!?』」
『しぇ、シェルクです!でも、いったい何が起こったのか…剣に手をかけたかと思ったら、突然ダリア様が血を吹き出して倒れました……』
「『な……なんというやつじゃ……』」
儂は言葉を失ったのじゃ
確かに報告では奴は“ドラゴンを相手に一人で勝利する”ほどの腕だと聞いていた
しかし、“一撃でドラゴンを沈める”ほどの化け物だとは聞いておらん
恐らくは先ほどの爆音で三半規管をやられ、立つこともやっとであったのだろう
しかし、それでもドラゴンは魔物でも最強クラス
それを易々と…
それだけではない
こちらが空からの援軍を呼んだまさにそのタイミングでのあの謎の爆発
恐らくは巨大な大砲か何かじゃろうが
しかしそれはこちらの動きを完全に読んでいるからこそとれる策
いったいどうやってこちらの動きを?
まさか奴は初めからすべて計算しつくしているとでも言うのか!?
開戦から半刻も経っておらん
しかし、確実にこの戦場は僅か3000の軍を率いるシェルクの手によって掌握されておった
「ちょ、ちょっとバフォメット!まずいわ。こっちの右翼が完全に包囲されたわよ!?このままじゃ押し込まれちゃうわよ!」
「慌てるでないのじゃ!兵はまだまだこちらの方が力があるのじゃ。奴らは兵を広げた分薄くなっておる!着実に倒していけば押し返せるのじゃ!」
『報告します!右翼部隊、どんどん後退させられています!』
「『順番に敵を倒すのじゃ!兵数はこちらの方が断然に有利なのじゃ!』」
『そ、それが、こちら1人に対してあちらは2,3人で確実に押し込んでくるのでとてもじゃないけど太刀打ちできません!』
「『なんじゃと!?』」
なぜじゃ!?こちらの方が兵数は確実に上、なのになぜそのようなことが起こるのじゃ!?
「ど、どうするのよバフォメット!?こっちの軍が丸め込まれてどんどん流されていっちゃうわよ!?」
「分かっておるのじゃ!!今考えておる!お主も少しは考えるのじゃ!」
『バフォメット様!こちら中央!ダメです!押し込まれて流れてきた右翼の兵に押されて中央の兵たちは身動きが全く取れません!これじゃあ動くこともできませんよ、わっ!ちょっと、押さないでよぉ!!』
「な…」
そうか
あっという間に包囲され、押し込まれたことで奴らの作った“円”の内側から攻めることになったこちらは、奴らに対し狭い面から戦わねばならなくなり、実質戦力は向こうの方が上になっておる…
あの異常な機動力の騎兵
そして中央を足止めし続けられる尋常ではない頑丈さを誇る歩兵のなせる伎かの…
「そ、そうよ!バフォメット!左翼よ!左翼の方向に兵を集めて相手の右翼からからこっちも巻き込んでやればいいのよ!」
「し、しかしそれでは兵がどんどん流されて…。むぅ…仕方がないのじゃ!やるのじゃクリステア」
「あんたが命令するんじゃないわよ!これは私のアイデアなの!」
「そんな事を言っておる場合か!?」
こんな場面でも面倒くさい“こまった姫”なのじゃ
「あわわ…お、お二人ともケンカしないでください」
横からなだめに来てくれたのは例の魔女
えっと、たしかルティ、なのじゃ
ルティはあわあわしつつもこちらを心配してくれておったのじゃ
「す、すまぬ。儂としたことが…」
「『左翼軍!突撃!敵の右翼はまだ手薄よ!一気に攻め落として囲んであげなさい!!』」
12/07/05 19:23更新 / ひつじ
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