連載小説
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第一話 姫と王
                                ―開戦当日―

――ザバーン

ほど離れた所から波の音が聞こえる
風には少し潮のにおいが混じっておる

「あんたが勇者シェルク?」

第一声を発したのはやはりクリステアじゃった
儂らは両軍をガラフバルとガラテアの国境付近に集め、対峙しておった
そしてお互いの軍の将同士で開戦前の会談を行っておったのじゃ
人間側からやってきた3騎
恐らくは中心に立つ黒髪の女がシェルクかのう
腰には細長く湾曲した白い鞘に納められた聖剣
勇者たちの持つ聖剣の中では異質な形のそれはおそらくはジパングの“刀”というやつじゃろう
そう言えばこやつの父の出生はジパングだという報告を聞いておったのじゃ
ふむ。ジパングの神秘、刀を使う黒髪の勇者か
なるほど。立ち姿も凛としており、なかなかのものじゃ
と、そやつが口を開いた

「ふふ。美しい見た目の割にずいぶんと元気の良い姫君だ。しかし姫様。私はもう勇者ではない。今はシェルク王と呼んでくれるか?」
「ふん!たかが人間の分際で王様を名乗ろうなんて聞いてあきれるわね!」
「ふむ。私が聞いた話ではリリムは人間の事を好いてくれていると聞いていたが…」
「ふん。私は姉さまたちとは違うの。あんたたちは下等で弱い生き物なの。本来なら私たちと話すことだって恐れ多いことなの」
「それはそれは、考えが及ばず申し訳ないな。しかしこうして話さなければ下等な我々はあなた方の意を解すことができないのだ。どうか容赦してくれ」

クリステアの刺々しい言葉の数々を柔らかい笑顔で飲み込むシェルク
なんともまぁ…
魔物の儂から見てもこやつ等では格が違う
リリムは確かに優れた種じゃ
しかし、このクリステアとシェルクでは人としての出来が段違いじゃ
もしもこのシェルクが魔物であったならばこんな小娘、赤子を捻るように駆逐されてしまうことじゃろう
儂はシェルクとやらが人間であることが惜しく思えた

「戦には互いに死力を尽くして臨むのじゃ。儂らが勝てばガラテアは貰っていく。その民についてもしかり、じゃ」
「それは困った。恐れ多くも今のガラテアはとてもじゃないが高貴な姫様に渡せるような国ではない。そこでどうだろうか?私がもっとガラテアを良く、大きく発展させると約束しよう。戦はその後にしては貰えないか?」
「ぶっ!…」

儂はシェルクの言葉に思わず吹いてしまった
小娘への皮肉も効いたいい論法じゃ
やはりこの娘は賢い
並の魔王軍の将軍程度では相手にならぬはずじゃ
たった一国で魔王軍の進撃を6年も食い止め続けた理由は間違いなくこやつの存在じゃろう

「う、うるさい!私は今すぐあんたの国がほしいの!ふん。民も一人残らず魔界に飲み込んでやるんだから!覚えてなさい!」
「ああ。姫様のその熱い言葉、明日まで忘れんよ」
「ぶふぅっ!…」

クリステアめ、完全に遊ばれておる
しかしシェルクめ、敵ながらあっぱれな物言いじゃ
たとえ人間といえど、やはり持っている者は持っている

「それはいいのじゃがシェルク王?」
「ん?……………」
「な、なんじゃ?」

儂が話しかけると何故かシェルクは儂の方をじっと見つめてきたのじゃ

「……(ジュルリ)。いや、すまない。貴女があまりにも愛らしいのでつい見蕩れてしまった」

え、いや、ジュルリって…
なんだか危ない気配を感じたのじゃが?
この戦、何が何でも負けられない気がしてきたのじゃ…

「ご、ゴホン、なのじゃ。それはそうと、この兵力差じゃ、どうじゃ?おとなしく引いては貰えぬか?今引いてくれるならば国土の半分と妻子持ちの男たちは安全に返すと約束できるぞ?」
「それは魅力的な提案だ。しかし逆に言えばそれ以外の者たちを私はお前たちに売り渡すことになってしまう。さすがにそれは私の誇りが許さないのだ」
「お主は自らのちっぽけな誇りのためにそれ以上の民を危険な目に合わせるつもりか?」
「いや。いくらかわいい幼じ…ゴホン。貴女の言葉とは言え、私の誇りをちっぽけだとは言わないでもらいたい。私の誇りとは即ち民。ここにいる兵、国に住む人々すべてが私の誇りだ。私は誇りを護るためならば誇りをかけて戦いもするさ」

い、今こやつ何か言い掛けなかったか!?
い、いや、それは置いておくのじゃ…
その言葉
その眼差し
全てが王たる風格を持っておる
間違いなく強敵じゃ
唯一の救いはこの歴然とした兵力差か
儂は自軍と敵軍を見比べる
パッと見てその差は5倍
しかもこうして退治して並んでいる以上奇襲は掛けにくい
欠点があるとするならばこちらの半数、そして司令官たる儂らは遠征軍
地の利は向こう側にあるといった程度か
しかし、こちらも飛行部隊をそれなりに用意してきたのじゃ
さしもの奴も空からの敵には下手な奇策は使えまい

「ふふ。今日は風が強いな。空を呼ぶ鳥も落ちぬ様に気を付けねばならんな」

――ゾク

奴の言葉に寒気が走ったのじゃ
あ奴、一言もしゃべっておらぬ儂の思っておることをまるで読み取ったかのように…

「く、クリステア…」
「なによ!?」
「この戦、油断しておっては取って喰われるやもしれぬぞ…気を付けるのじゃ」
「ふん。何ビビってるのよ…」

儂はため息を吐いた
もしかすると最悪の状況を考えなければならないかもしれんのじゃ

「お互いに正々堂々死力を尽くして戦おうではないか。姫君そしてバフォメット殿」

会談が終わる
やはり奴はこちらの提案には乗らなかった
と…

「あ、そうだ。一つ言い忘れておった」
「なによ人間!?くだらない話なら怒るわよ?」
「我が軍の男を甘く見ないことだ。もしかしたら腰が立たなくなって倒れるのはそちらかもしれんぞ?」
「ほんっと、あんたってむかつく女ね!」
「ああ。不思議とよく言われるのだ」
「ふ…」

儂は可笑しく思いながらもどこか恐ろしさを感じつつ、兵たちの並ぶ方へと戻って行った





儂とクリステアは兵たちが見渡せる砦のエントランスに構え、魔導式無線機を使い各隊に情報伝達役として配した魔女たちに命令を送っておったのじゃ

「クリステアよ、どう見るのじゃ?」
「何がよ?」
「あやつらの軍じゃ。噂通り兵が足りておらんようじゃが、その少数の兵をあのような陣形に…」
「そうね。確かにあんなに左翼が伸びてるんじゃ、ただでさえ薄い兵数なんだし、きっとあっという間にぺしゃんこにできるわね。ふふ。やっぱりあの女、馬鹿ね。ふふふ。これならすぐに帰れそうだわ。そしたらきっと母さまも…うふふふふ〜♪」

…はぁ
なんともおバカ全開なやつじゃのう
一通り戦の基礎は学んできておるようじゃが
実践では教科書のようなものなどスマホの説明書並に役に立たんのじゃ
あの女勇者率いる兵があのような奇妙な陣形
それに対しこちらは教科書通りな基本陣形
これでは奇襲をかけてくれと言わんばかりではないか

「クリステア、こちらの右翼をもう少し伸ばしてみてはどうじゃ?もしかしたら奴は何かを仕掛けてくる気かもしれんぞ?」
「その必要はないわ!この兵力差なのよ。横からいくら槍でつつかれても象の足を蟻が小突く様なものだわ。それに騎兵の襲撃に対してはこっちの飛行部隊が対処する事になってるの。私たちは堂々と押し潰してやればいいだけの話よ」
「そうかの…」

はぁ
まるで聞く耳持たずなのじゃ
と…

「あ、あのぉ…バフォメット様、クリステア様、お茶をお持ちしました」

可愛らしい魔女がお茶とお菓子を持ってやってきたのじゃ

「ん?お主、見かけぬ顔じゃな」
「あ、は、はい。私、この砦で働いておりますルティと申します。え、えっと、私は戦闘は苦手なので…」
「うむ。苦しゅうないのじゃ。どれどれ、顔をよく見せるのじゃ」

儂はルティに顔を近づけたのじゃ

「は、恥ずかしいです…」

な…こ、こやつ…

「かっわうぃぃぃぃぃ!!!なのじゃぁぁぁ!!」
「あわわ…っ!」

儂の顔が近寄ると恥ずかしがって帽子で顔を隠す魔女
かわいすぎるのじゃ
なんじゃこやつは?
この様な実力者がこのような田舎の砦にいたとは…
流石は儂のサバトなのじゃ
くくく…自分の才能が恐ろしいのじゃ

「何をやってるの?バフォメット。敵が動き出したわよ?」
「なっ!ふんっ!そんなこと分かっておるのじゃ」

まったく、儂がせっかく幼女を愛でておるというのに…

「『全軍、構え!なのじゃ。敵軍は兵少数なのじゃ。お主達の実力を見せつけてやるのじゃ!』」

「「「「「おお〜〜〜〜〜!!」」」」」

砦まで響く魔物たちの声
なんとも爽快な気分じゃ
久方ぶりの戦じゃ
せっかくじゃから楽しんでやるのじゃ

12/07/28 20:04更新 / ひつじ
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■作者メッセージ
ロリコン勇者VSロリコン幼女

さて、
切りなんてよくないよ
だってもともと切るつもりなんて無かったからね
HAHAHA orz
仕方ないのでおよそ3500字ずつで区切ってます

この辺はアド・アストラの2巻読みながらどうやってバフォを泣かせようかと考えていました
はい
戦争や戦略の知識なんてものはありません
しかし俺達にはほら、漫画というバイブルがあるじゃないか
知識豊かな人は突っ込みどころとかがこのあとゴロゴロ出てくることかと思いますが、そんな時は急がず焦らず怒らずとりあえず感想欄へどうぞw

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