プロローグ3―両者の思案
―数日後―
――ガラフバル砦――
「バフォメットさま、姫さま。ようこそいらっしゃいました。これで我が軍の士気は上昇し、この度の戦、必ずや勝利することができましょう」
そう言って跪いたのはデュラハンの娘じゃった
「うむ。苦しゅうないのじゃ。儂もk」
「ちょっと、あんた。宣戦布告はちゃんとしたの?」
「は!もうすでに通知は終わっております。ガラテア軍からも返事の書状が届いております」
なっ!儂がいいこと言おうと思っておったのに…
まったく、この娘は…
「何をぶつぶつ言ってるの?」
「うるさいわい!ふん。別にいいのじゃ!」
「……?」
儂がかわいらし〜く拗ねておると、小娘は小首をかしげた
まったく、わがままな上に鈍いとは…
「相手国側からの返信を読み上げます『此度の戦、両軍にとって有益な結果をもたらすとはとても考えられない。話は変わるが、そちらの軍を指揮するバフォメット殿、並びに魔王の姫君はいまだ意中の男性に出会われていないとか…。そこでどうだろうか?そこにいるバフォメット殿と姫君の旦那を私が見繕うので、それで手を引いてはくれないか? ガラテア国王 シェルク=ツバキ=シモツキ』」
「な……」
その場の空気が凍った
「な、なななななななななな。なんじゃこれはあぁぁぁぁぁ!!!!」
儂は思わず叫んでおった
「なぁんで相手の国王がそんな事知っとるんじゃぁぁぁ!!!?つか、ほっとけ、なのじゃ。まったくもって余計なお世話じゃ!おい、今すぐ手紙を送るのじゃ!もうこれは戦争しかないのじゃ!全面戦争じゃ!これは相手からの宣戦布告じゃ!!」
「あ、あの、バフォメット様、これは我々の宣戦布告に対する返事でして…」
「ゆぅぅぅるぅぅぅぅぅさぁぁぁぁんっ!!なのじゃぁ!儂をなめておるのじゃ!兵を集めよ!すぐに戦の用意を開始するのじゃ!あんな小国一踏みでぺしゃんこにしてやるのじゃぁぁ!!」
「………ちょっと、バフォメット。おちつk」
「これが落ち着いていられるかぁぁぁぁ!なのじゃ」
「明らかな挑発文じゃない。敵の策に簡単に乗せられてどうするのよ」
「…………むぅ。ふん。どうせ儂は独身ですよぉ〜。ふん、なのじゃ。つか、お主になどなだめられなくとも、儂は常に冷静なのじゃ。ふん」
「……それのどこが冷静なのよ?」
「ふん。いいもん。儂はいつかこれ以上ない素敵な兄上に巡り合うのじゃ。その時に吠え面かかせてやるのじゃ」
「あうぅ〜。バフォメット様が拗ねちゃいました…」
「子供か?こいつ…」
ふん
儂は見目麗しい幼女なのじゃ
ふん。今に見ておれ
いつか儂を笑っている奴らをみなぎゃふんと言わせてやるのじゃ
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ふぎゃふんっ!!…ずず」
「どうなさいました?」
「いや、すまぬ。なぜか突然くしゃみが出た。誰かに噂でもされているのかな?」
「大切なお体です。お気を付けください」
「ふふ。流石の私もこんな時期に風邪をひくほど呑気者ではないさ。ふふ。しかし、敵将たちはあの手紙、気に入ってくれたかな?」
「……どんな手紙を送ったのですか?」
「いや、なぁに。ちょっとしたおふざけだ。お前の集めてくれた情報が役に立った。ありがとう」
「挑発でもなさったのですか?」
「いや、本当にただのおふざけだ。まぁ、しかしこれで怒って攻めてでも着たら面白いが…。まぁ、知恵のあるバフォメットがいてはそうもいくまい。奴が賢ければ、挑発を逆に警戒し、開戦の時期を少し調整してくるはずだが…どうかな」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――実際はその逆だった
まったくもう、まったくもう、まったくもうだよ。まったくもうなのじゃ
許しがたき、勇者シェルクめ
今頃したり顔で玉座に座っておるに違いないのじゃ
ふん。もう決めたのじゃ
奴を倒すのはこの儂直々にやるのじゃ
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――バフォメットが廊下を短い脚でテクテクと歩きながら独り言をこぼしていたころ
「ただ今聖教府から知らせが届きました〜」
開戦を間近に控え、カロリーヌが私のところにやってきた
「そうか。で、援軍の方はどうだ?」
「そ、それがぁ…」
カロリーヌがしゅんと俯く
「どうした?『負け戦にわざわざ兵は出せぬ』などと枢機卿のジジイどもが言いでもしたか?」
「はいぃ。そのとぉりで…」
「はぁ…」
まったく
聖職者などと言いつつも所詮は自分の名誉が大事か
「おい!どうするんだ!?シェルク。流石に援軍なしじゃあ追い込まれちまったら…」
声を上げたのはバラガスだった
ふむ。策がないわけではないが…
ふふ
いい事、いや、悪いことを思いついてしまったぞ…
「……ああ。そうだな。もって1か月。いや、蓄えを考えれば1週間が関の山か」
「そんなぁ…」
「くそっ!」
「…まぁ気にするな。どうせジジイどもの息が掛かった兵など何の役にも立ちはしない。……ふふ。そうだな。もし負け戦になったなら、お前たち。私と一緒に死んでくれるか?」
私は笑顔で悪い冗談を吐いた
しかし、カロリーヌとバラガスは真剣な顔で私を見ると
「何言ってやがる」
「私たち、初めてあなたについていくと決めた瞬間からぁ…」
「ああ。もうとっくに覚悟ならできてる」
なかなかうれしいことを言ってくれる
「そうか。それは困ったな。では私が『この国は私に任せて、お前たちは逃げてくれ』なんて言ったところで、聞いてはくれないか?」
「馬鹿。あったりめぇだろ。シェルク」
「私は、シェルクちゃんといっしょに…」
「……ありがとう。2人とも…」
何とも気のいい奴らだ
そうだ。だってこいつらとは勇者をしていたころからずっと…
私は昔を思い出す
…しかし
決心したのだ
「すまないな…2人とも」
私はこれから2人にしなければならないことを思い、胸を詰まらせた
その次の日だった
私たちがその絶望的な知らせを聞いたのは
「なんだと!?てめぇ!!」
「やめろ、バラガス!」
「え、えっと。も、もう一度言ってもらえますかぁ?」
動揺を隠せない様子の2人
それに対し私は、どこか落ち着いた気持ちでその報告を聞いた
「ニアルディ=セルブス情報司令官は敵軍の偵察に出たまま行方不明。また、どこからか援軍が来ないとの噂が流れ…その……、我が軍の兵のおよそ半数、2000名余りが国外に逃亡した模様…」
「そんなぁ〜…」
「嘘…だろ?…それにニアのガキまで…」
「はぁ…私が言うのもなんだが、まさに神に見放されてしまったな」
「悪い冗談だ…」
「もぉ〜。どうしたらいいのよぉ〜〜」
「これが敵の耳に届かぬことを祈るしかないな…」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「なに!?それ、本当なの!?」
「どうやら本当のようじゃ。サバトの情報網は確かじゃ」
「うふふふ。やはり所詮は人間ね。弱い生き物がいくら集まったところで所詮は小魚の群れね。ふふふふふ。あははは。これで父さまと母さまにもいい報告ができそうね。うふふふ♪そうだ。きっとねぇさまも褒めてくれるわ」
儂の報告に大喜びな様子のクリステア
それに比べ、儂はどこか腑に落ちない心地じゃった
魔女たちが言うことじゃ
嘘とは思いにくい
聞けばそのせいで城中は大混乱の真っ最中とか
報告ではとても演技には見えない慌て様じゃったと…
しかし、実際に会っていないとは言え、相手は魔王軍の中枢にも名が通るほどの元勇者
そんな女がこのようなミスを犯すのじゃろうか?
しかもそのような状況に陥ったというのに相手はいまだ降伏するつもりはないという
これは何かあるかもしれん
しかしなんじゃ?
このような状況で考えられる策などあるのか?
儂は頭をめぐらせ、これまでの長い長い経験の中での出来事を思い出す
しかし、答えは見つからないままじゃった
――ガラフバル砦――
「バフォメットさま、姫さま。ようこそいらっしゃいました。これで我が軍の士気は上昇し、この度の戦、必ずや勝利することができましょう」
そう言って跪いたのはデュラハンの娘じゃった
「うむ。苦しゅうないのじゃ。儂もk」
「ちょっと、あんた。宣戦布告はちゃんとしたの?」
「は!もうすでに通知は終わっております。ガラテア軍からも返事の書状が届いております」
なっ!儂がいいこと言おうと思っておったのに…
まったく、この娘は…
「何をぶつぶつ言ってるの?」
「うるさいわい!ふん。別にいいのじゃ!」
「……?」
儂がかわいらし〜く拗ねておると、小娘は小首をかしげた
まったく、わがままな上に鈍いとは…
「相手国側からの返信を読み上げます『此度の戦、両軍にとって有益な結果をもたらすとはとても考えられない。話は変わるが、そちらの軍を指揮するバフォメット殿、並びに魔王の姫君はいまだ意中の男性に出会われていないとか…。そこでどうだろうか?そこにいるバフォメット殿と姫君の旦那を私が見繕うので、それで手を引いてはくれないか? ガラテア国王 シェルク=ツバキ=シモツキ』」
「な……」
その場の空気が凍った
「な、なななななななななな。なんじゃこれはあぁぁぁぁぁ!!!!」
儂は思わず叫んでおった
「なぁんで相手の国王がそんな事知っとるんじゃぁぁぁ!!!?つか、ほっとけ、なのじゃ。まったくもって余計なお世話じゃ!おい、今すぐ手紙を送るのじゃ!もうこれは戦争しかないのじゃ!全面戦争じゃ!これは相手からの宣戦布告じゃ!!」
「あ、あの、バフォメット様、これは我々の宣戦布告に対する返事でして…」
「ゆぅぅぅるぅぅぅぅぅさぁぁぁぁんっ!!なのじゃぁ!儂をなめておるのじゃ!兵を集めよ!すぐに戦の用意を開始するのじゃ!あんな小国一踏みでぺしゃんこにしてやるのじゃぁぁ!!」
「………ちょっと、バフォメット。おちつk」
「これが落ち着いていられるかぁぁぁぁ!なのじゃ」
「明らかな挑発文じゃない。敵の策に簡単に乗せられてどうするのよ」
「…………むぅ。ふん。どうせ儂は独身ですよぉ〜。ふん、なのじゃ。つか、お主になどなだめられなくとも、儂は常に冷静なのじゃ。ふん」
「……それのどこが冷静なのよ?」
「ふん。いいもん。儂はいつかこれ以上ない素敵な兄上に巡り合うのじゃ。その時に吠え面かかせてやるのじゃ」
「あうぅ〜。バフォメット様が拗ねちゃいました…」
「子供か?こいつ…」
ふん
儂は見目麗しい幼女なのじゃ
ふん。今に見ておれ
いつか儂を笑っている奴らをみなぎゃふんと言わせてやるのじゃ
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ふぎゃふんっ!!…ずず」
「どうなさいました?」
「いや、すまぬ。なぜか突然くしゃみが出た。誰かに噂でもされているのかな?」
「大切なお体です。お気を付けください」
「ふふ。流石の私もこんな時期に風邪をひくほど呑気者ではないさ。ふふ。しかし、敵将たちはあの手紙、気に入ってくれたかな?」
「……どんな手紙を送ったのですか?」
「いや、なぁに。ちょっとしたおふざけだ。お前の集めてくれた情報が役に立った。ありがとう」
「挑発でもなさったのですか?」
「いや、本当にただのおふざけだ。まぁ、しかしこれで怒って攻めてでも着たら面白いが…。まぁ、知恵のあるバフォメットがいてはそうもいくまい。奴が賢ければ、挑発を逆に警戒し、開戦の時期を少し調整してくるはずだが…どうかな」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――実際はその逆だった
まったくもう、まったくもう、まったくもうだよ。まったくもうなのじゃ
許しがたき、勇者シェルクめ
今頃したり顔で玉座に座っておるに違いないのじゃ
ふん。もう決めたのじゃ
奴を倒すのはこの儂直々にやるのじゃ
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――バフォメットが廊下を短い脚でテクテクと歩きながら独り言をこぼしていたころ
「ただ今聖教府から知らせが届きました〜」
開戦を間近に控え、カロリーヌが私のところにやってきた
「そうか。で、援軍の方はどうだ?」
「そ、それがぁ…」
カロリーヌがしゅんと俯く
「どうした?『負け戦にわざわざ兵は出せぬ』などと枢機卿のジジイどもが言いでもしたか?」
「はいぃ。そのとぉりで…」
「はぁ…」
まったく
聖職者などと言いつつも所詮は自分の名誉が大事か
「おい!どうするんだ!?シェルク。流石に援軍なしじゃあ追い込まれちまったら…」
声を上げたのはバラガスだった
ふむ。策がないわけではないが…
ふふ
いい事、いや、悪いことを思いついてしまったぞ…
「……ああ。そうだな。もって1か月。いや、蓄えを考えれば1週間が関の山か」
「そんなぁ…」
「くそっ!」
「…まぁ気にするな。どうせジジイどもの息が掛かった兵など何の役にも立ちはしない。……ふふ。そうだな。もし負け戦になったなら、お前たち。私と一緒に死んでくれるか?」
私は笑顔で悪い冗談を吐いた
しかし、カロリーヌとバラガスは真剣な顔で私を見ると
「何言ってやがる」
「私たち、初めてあなたについていくと決めた瞬間からぁ…」
「ああ。もうとっくに覚悟ならできてる」
なかなかうれしいことを言ってくれる
「そうか。それは困ったな。では私が『この国は私に任せて、お前たちは逃げてくれ』なんて言ったところで、聞いてはくれないか?」
「馬鹿。あったりめぇだろ。シェルク」
「私は、シェルクちゃんといっしょに…」
「……ありがとう。2人とも…」
何とも気のいい奴らだ
そうだ。だってこいつらとは勇者をしていたころからずっと…
私は昔を思い出す
…しかし
決心したのだ
「すまないな…2人とも」
私はこれから2人にしなければならないことを思い、胸を詰まらせた
その次の日だった
私たちがその絶望的な知らせを聞いたのは
「なんだと!?てめぇ!!」
「やめろ、バラガス!」
「え、えっと。も、もう一度言ってもらえますかぁ?」
動揺を隠せない様子の2人
それに対し私は、どこか落ち着いた気持ちでその報告を聞いた
「ニアルディ=セルブス情報司令官は敵軍の偵察に出たまま行方不明。また、どこからか援軍が来ないとの噂が流れ…その……、我が軍の兵のおよそ半数、2000名余りが国外に逃亡した模様…」
「そんなぁ〜…」
「嘘…だろ?…それにニアのガキまで…」
「はぁ…私が言うのもなんだが、まさに神に見放されてしまったな」
「悪い冗談だ…」
「もぉ〜。どうしたらいいのよぉ〜〜」
「これが敵の耳に届かぬことを祈るしかないな…」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「なに!?それ、本当なの!?」
「どうやら本当のようじゃ。サバトの情報網は確かじゃ」
「うふふふ。やはり所詮は人間ね。弱い生き物がいくら集まったところで所詮は小魚の群れね。ふふふふふ。あははは。これで父さまと母さまにもいい報告ができそうね。うふふふ♪そうだ。きっとねぇさまも褒めてくれるわ」
儂の報告に大喜びな様子のクリステア
それに比べ、儂はどこか腑に落ちない心地じゃった
魔女たちが言うことじゃ
嘘とは思いにくい
聞けばそのせいで城中は大混乱の真っ最中とか
報告ではとても演技には見えない慌て様じゃったと…
しかし、実際に会っていないとは言え、相手は魔王軍の中枢にも名が通るほどの元勇者
そんな女がこのようなミスを犯すのじゃろうか?
しかもそのような状況に陥ったというのに相手はいまだ降伏するつもりはないという
これは何かあるかもしれん
しかしなんじゃ?
このような状況で考えられる策などあるのか?
儂は頭をめぐらせ、これまでの長い長い経験の中での出来事を思い出す
しかし、答えは見つからないままじゃった
12/07/05 08:37更新 / ひつじ
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