第三部 1話 炎鱗の女
――すぅすぅ
ほわほわ
柔らかい感触
私のしっぽだ
私のお気に入り
でも、私のそんなしっぽを誰かが哂う
鱗の代わりに羽毛のように軽い体毛の生えた私のしっぽ
振り回して敵を攻撃するには向かない
でも、そのかわりとってもふかふかできもちいいもん
『お前はカラスにでもなるつもりか？けがらわしい黒い体。一族の面汚しめ』
いいもん、■▲■ちゃんは『大きくて優しいお前にはよく似合ってるって』そう言ってくれるもん
そうだ。
私には■▲■ちゃんがいるもん。
あれ？
ちゃんって誰だっけ？
私の大好きな人
私の大切な友達
あれ？
どうして？
どうして何も思い出せないの？
ちゃんは白くて綺麗な…
あれ？
どうしてかな？
親友の顔が
大好きな人の顔が
思い出せない
私は…
「誰？」
――悪魔め
「違うよ！私は悪いことなんてしないよ」
――じゃあどうして封印なんかされてるんだ？
「これはほら…その…」
――わからないなら教えてやるよ
――お前は数えきれないくらいの人間を殺した
――私はお前たちに殺された
――許せない 私の子を返して！
「違う。私じゃないよ。“アレ”は私じゃないんだよ！」
――真っ黒な体に邪悪な魔力
――お前以外にそんな竜がいるものか
――殺してやる 殺してやる！ 娘の痛みを 思い知れ！
――殺すよりも苦しい最期を
――忘却の封印 すべてを忘れる痛みを思い知れ
消える
消える
私の大切な思い
嫌だ
「わ、私は。私は悪魔じゃない！」
『お前が“悪魔”か。聞いていたものとずいぶんと違うな』
「私は悪魔じゃないよ…」
『………そうだな。悪魔が涙を流すはずがない』
「私はみんなと仲良くしたいだけなのに」
『…お前は変わっているな』
「え？」
『お前はそれほど大きな体を持っている。お前はそれほど強い力を持っている。それを使えばたちまちに奴らを付き従えることなど可能ではないか。なぜそうしない？』
「それって、みんなのことを私がいじめるってこと？」
『そうだ。この世界は力の強きものが弱きものを支配する。そしてお前や私のように強い力を持つ者は弱きを従え、導いてやらねばならないのだ。それが天命というものだ』
「むぅ…。あなたの言ってること。難しくてよくわからない」
『ふふ…。今にわかるさ』
「ん〜。ん〜？わからないよぅ」
『簡単な事だ。次に何かを言われたならばその爪で少し体を引き裂いてやればいい。お前の力ならば簡単にそれができる』
「そんなのだめだよ！」
『なぜだ？』
「爪で引っかかれると、すっごく、すっごく痛いんだよ？血だっていっぱい出ちゃう。それに、それに。心が…痛くて、いっぱい、いっぱい涙が出るんだよ」
『……お前は、優しいのだな』
「あなただって優しくなれるよ。私のために、私に話しかけてくれて。私、すっごく嬉しかったよ」
『違うさ。私はただ…。皆が悪魔と呼ぶものがどんなものか見に来ただけだ』
「…どこか、痛いの？」
『え？』
「あなた、すごく痛そうな顔してる」
『……ああ。少し、胸が』
「そっか。私もね、みんなにひどいこと言われて、ひとりになっちゃうとね、すっごくすっごく痛くなるの。それでね、涙が出てきて、止まらなくなるの」
『……お前と私はよく似ている』
「ふふ。だって、同じドラゴンじゃない」
『……そうだな。同じ、ドラゴンだからな』
「ふふ。変なの」
『ああ。そうだな…』
「どうしたの？」
『いや…。 お前、名前は何という？』
「私は……名前がないの。みんなは悪魔、ディアボロスって…」
『そうか。ずいぶんとお前に似合わぬ名前だ』
「え？」
『そうだ。ディアナ。ディアナというのはどうだ！？』
「ディアナ…」
『その漆黒の体に浮かぶ金色の瞳。お前は月のように美しい』
「ディアナ…。ふふ……うれしい。ありがとう」
そうか。
私は、ディアナ
――カタンカタン
馬車の車輪が小気味良い音を立てる
俺は薄く瞼を開ける
「うっ」
まぶしくてまた目を閉じる
ゆっくりと
「くあぁぁ」
目が覚めると、そこは馬車の上だった
何か夢を見ていた気がする
不思議な夢を
「もう夕暮れ時か…」
「ほっほ。旦那、よく眠れましたか？」
馬車を操るじいさんが笑いかけてくる
「ああ。日差しが気持ちよくって」
「それはよかった。しかし旦那。明日は雨でしょう。次の街からは幌付きの馬車に乗り換えた方がいい」
「雨？」
「はい。あそこの山に雲がかかっているのが見えるでしょ？ああいう日は大抵、山を越えるころには雨になります。次の街ならもっと多くの馬車も出ているでしょう。そこで幌付きの馬車を捜すといい」
「ほお。それはありがとう」
俺は素直に感心してしまった
「しかしよかったのか？黙っていればそこから先の運賃も渡したろうに」
「はは。その分早く家に帰って孫の顔が見れますよ」
じいさんはしわの寄った目を細めて笑った
その顔を見て俺は暖かな気持ちになる
王都を出てもう１週間になる
風景はどんどんと田舎になっていくし
町を出れば見かける人は野菜や毛皮を荷馬車に積んだ商人ぐらいのものだ
しかし、その分空気も、人ものんびりとしてくる
左遷は痛かったが、悲観さえしなければ、もしかしたら王都よりも住みやすい場所かもしれない
ついでに馬車の値段も安くなっている
この分だと旅費として出た額の半分は残せそうだ
などとセコイことを考えながら俺は馬車に揺られた
アルトリオについたのはそれから３日後の事だった
途中、確かに山越えであのじいさんに言われた通り雨が降った
人生の先輩の話は素直に聞くものだ
あ、そういえば先輩の言ったことを真に受けたせいで左遷されたんだっけ…
ん〜
何事もケースバイケースだ
俺は駅馬車の運転手に代金を渡すと馬車を降りた
駅馬車は商人の馬車に比べずいぶんと乗り心地はいいが、代金も高い
こんなことならアウトサイダーとして乗ればよかっただろうか？
しかし乗客の少ない駅馬車に王国兵の制服を着た男がアウトサイドするというのは何とも格好の悪い話だ
――駅馬車にはインサイド、屋根つき馬車の中に乗る人と、アウトサイド、馬車の外に立ち乗りをする人がいて、アウトサイドは断然料金が安い
馬車を降りるとほんのりと針葉樹の香りがした
振り返れば先ほど超えてきた山が見える
緑豊かなのどかな風景だ
そしてそれとは対照的に、前方にはきちんと整備された町並みが広がる
アルトリオには初めて来たが、思っていたほど田舎ではなさそうだ
町には真新しい石畳が敷かれ、港に近い王都とは違う、木と土壁を多く使った建物が立ち並ぶ
町並から察するに近年目覚ましい発展を遂げたに違いない
――ほら〜買った買った〜
――もっと安くしろよ
遠くからにぎやかな声が聞こえてくる
どうやら市が出ているのだろう
俺は曇っていた空に少しだけ光が差し込むのを感じながら、守備隊の兵舎を探して歩き始めた
「しかし、結構広いな」
王都と違い、規則正しく並んだ町並み
平地も広い分、建物も余裕を持ってたてられている
しかしどれもがよく似た形の建物ばかりだ
俺は昼間の人通りの中、道に迷っていた
と―
――リンゴーン
近くで鐘の鳴る音が聞こえた
どうやら協会が近いようだ
となれば、街の要所もそのあたりにあるだろう
俺は鐘の音を頼りに路地に入った
「待ちな」
「ん？」
路地を歩いていると、背後から女の声がして振り返った
と、そこには少し釣り目の赤い髪をした女の子が立っていた
「ん？なにかな？迷子？」
「へぇ、あんたには俺が迷子に見えるってか？」
あれ？
この子何か変だ
見た目は１４歳ぐらいの女の子だが
その言葉づかい
そして発しているオーラが変だ
そして何より服の露出度が高い
これでおっぱいも大きければいいのだけど…
いや、待て、大きさはないが、手のひらにぴったりとおさまりそうな形の良い発展途上の胸
水着のような鎧のような服
そこから除く柔らかそうな曲線
これはまさに美乳ではないか
ふむ、１０年後には是非…
「ん？」
っておい。妄想にふけてる場合じゃなかった
人間に化けてるんだろうけど、たぶんこいつは人間じゃない
もしかしたら盗賊の類だろうか？
そうだとしたら面倒なことになる前に逃げるか、捕まえて兵舎に連れて行かなければいけない
まいったなぁ
俺は戦いなんてしたことがない
魔法全般は勉強したから攻撃魔法も使えるけど、魔物とまともに勝負はできないだろう
よし、ここは
「ごめんね。俺もちょうど迷子になっちゃってさ、道も詳しくないし、ほかの人に聞くといいよ。じゃあね」
そう言って俺は自然に逃げ出した
「おい、待ちな、エリオット＝アイヴズ」
「うげぇっ！？」
俺が振り返って走ろうとしたその瞬間、目の前に少女が移動していた
速い
なんてもんじゃないぞ？
いつの間に回り込んだんだよ？
っていうか、なんで俺の名前を知ってるんだ？
「な、なにかな？ちょっと先を急いでるんだけど？」
俺は笑顔を作って話しかける
「あんたは腰抜けかい？俺の縄張りに入ってきといて挨拶もなしたぁいい度胸じゃねぇか」
やばい。これは間違いない
カツアゲだ
養成所にいたとき聞いたことがある
人目のないところで上級生が下級生を脅してお金を巻き上げる行為だ
「ま、まいったなぁ。俺、今お金持ってないよ？」
「金なんかいらねぇ。いいから剣を抜きな。俺の縄張りに入る前に腕試ししてやるぜ」
うわぁ
まいったなぁ〜
この人完全に臨戦態勢だよ
「俺みたいなちっこい女にもビビっちまって動けないのかい？」
うわ、しかも徴発されてるよ
「逃げる」コマンドが暗転しちゃってる…
「え、えっと。聞きたいんですけど、あなた、ほんとはちっこくないですよね？しかも人間じゃないですよね？」
俺は目の前の（たぶん）年上の幼女に言った
「！？………」
すると、少女は目を真ん丸に開いて、驚いた表情を浮かべた
「お、お前、エスパーか！？なぜ俺の変装を見破った！？」
――ずこ
俺は思わずこけそうになった
「お前のような幼女がいるか！」
「な、なぜだ！？小さくてかわいいだろうが！」
いや、そりゃたしかにかわいいけど…
「外見だけ変装しても、ふつうそんな高圧的な少女はいません」
「ほぅ……（メモメモ）」
「え？なんでメモ取ってるんですか？」
「あ、いや、今後の参考にしようかと…」
「ああ。それだったら…」
――（青年指導中）
――ほら、どうせ小さい女の子に化けるんなら、もっと小さい子に
――まて、それではありきたりじゃあないかい？
――世界には王道という言葉があります。バフォメットしかり、「高圧的な幼女」はロリコンの心をがっちりとつかみますよ
――ほうほう…
――あと、その言葉づかいも。それだとぞっちかっていうとスケバン属性のキャラみたいで、幼女にはマッチしませんよ
――何だって！？でも、これは俺の素だぜ？
――じゃあせめて一人称を「あたし」とかにしません？前例は少ないですが、まだとっつきやすくなりますよ
――ふむ…
――あと、幼女に過度な露出はアリっちゃあアリですが、その女戦士みたいなビキニアーマーはなんですか？
――なにをいってるんだい？これのカッコよさがわからないとは…
――だめですよ。ビキニアーマーは二十歳になってからです。あ、いや、でも、これはこれでアリか…。
――ん？どっちなんだい？
――いや、しかし、この腰装備は…。そうだ、ここはマイクロビキニみたいにして、ギリギリ隠れるか隠れないかで…ふむ。毛が生えてたら間違いなく履けないデザインですね
――ちょっ！これ、恥ずかしくないかい？
――いいんですよ、これで。むしろその恥じらいも重要です。今の気持ち、忘れちゃだめですよ
――そ、そうか///
――ついでだから胸装備の方も面積小さくしましょう
――あ、ちょ…
――ほら、隠さない隠さない。より一層ロリになったんですから、ふくらみもなくなってズレにくくなってるでしょ
――で、でも恥ずかしいよ…
――いい！その内股いい！
――え？そ、そうかな？…（///）
――あとはセリフですね
――ふむふむ///
――（少女準備中）
――Take2
俺は鐘の音を頼りに路地に入った
「ま、待ちな」
「ん？」
路地を歩いていると、背後から女の子の声がして振り返った
と、そこには少し釣り目の赤い髪をした幼女が立っていた
「ん？なにかな？迷子？（ニヤニヤ）」
「へ、へぇ、あ、あんたにはあたしが迷子に見えるっていうのかい？（おまたがすぅすぅするよぅ…）」
ふむ
赤い髪の１○歳ぐらいの幼女だ
ツルンペタンなおいしいカレーが作れそうなボディに食い込むようなマイクロビキニアーマー
それに強気なセリフとは裏腹に羞恥に震える声と、内股
普段は凛とした強気な釣り目なのだろうが、不安に震える表情は何とも言えない色っぽさがある
マイクロビキニに隠された平らな胸には、きっとその白い肌にマッチしたピンクの頂があるに違いない
それをクリクリしてやることを考えると…ゲッヘッヘ
おっと、いかんいかん
つい邪な妄想が…
こんな真昼間にこんな危ない服を着て飛び出てきた幼女が危なくないわけがない
そうだ、ここは俺の剣で突きまくって…おっと、いかんいかん
「ちょ、ちょっとぉ。どこみてるんだよ…ぅぅ…（は、はずかしいよぅ）」
「あ、すみません。あなたがかわいいもので、つい」
「ま、まじめにやりなっ！（///）」
そう言って胸と股間を小さな掌で隠そうとする
かわいい…
「ちょっと、俺は先を急いでるんですけど？（棒）」
「は、はぁ？あんたは腰抜けかい？あ、あたしの縄張りに入ってきといて、挨拶もなしとは、いい度胸じゃないか（ふるふる）」
少し股のあたりが寒いのか、ふるふると震える
かわいい…
あ、だめだ
「逃げる」コマンドがなくなってる
どうしよう、逃げられないよ（にやにや）
「まいったなぁ〜。お金持ってないよ」
「お、お金なんていらないから、早く戦いなよ。は、恥ずかしいんだよ…」
ヤバい
これはヤバい
頬を真っ赤に染めて「早く戦いな」「恥ずかしいんだよ」って
俺は息子が臨戦態勢に入りそうなのを感じる
「げ、まずい」
俺は前かがみになって、後ろへと走り出した
俺はロリコンではないはずだ
しかし、こんなところで息子がたってしまっては言い訳も立たない
「ま、待ちな！」
――シュル
「あ！？股布が！？ はぎゅんっ！！」
――ずて〜ん
幼女は走ろうとしたらマイクロビキニがずれそうになったらしく、それに気を取られて転んでしまった
「うぅ…いたいよぅ…」
起き上がった幼女は鼻とおでこをうってしまったらしく、鼻を押さえながら真っ赤に腫らして涙目で体を起こす
――キュン
俺の胸にかつてない衝撃が走る
「………俺、ロリコンでもいいかも」
エリオット＝アイヴズ(21)が悪魔に魂を売った瞬間だった
「もう！止めだ止め！」
「へ？」
俺が幼女のかわいらしさに打ちひしがれていると
幼女は、幼女とは思えない声で言い放った
「こ、こんなの俺じゃあないよ（どうしよう…なんだか胸がドキドキする）」
「そうですか？かわいいと思いますけどね」
俺は素直な感想を述べた
「か、かわいくなくたっていいんだよ！（ちょ、ちょっとうれしい）」
「工ｴｴｪｪ(´д｀)ｪｪｴｴ工」
「不満そうな声を出すな！」
「だってぇ…」
「いいから！ もう手加減は無しだ。それに変装もなしだ！」
「工ｴｴｪｪ(´д｀)ｪｪｴｴ工」
「だから不満そうな声を出すな！」
「ぶ〜ぶ〜」
俺が抗議していると、幼女は変装の魔術を解いたらしく、その姿が変わっていく
そこには真っ赤な髪に
――ぷるん
豊満な胸
それに、その赤い髪と同じく燃えるような赤い鱗を手足に生やし、その先端からは鋭い爪が覗く
そして、背後にはゴォゴォと音を立てそうな真っ赤な炎が灯っていた
やはり彼女は魔物だった
それもあれほどうまく（じゅるり）人間に化けることができるほど強い力と魔力を持った魔物だ
白い肌に真っ赤な髪と鱗がとてもよく映えている
「どうだい？驚いたかい？あたしはサラマンダー。由緒ある戦士の血を引く魔物だよ」
「あ、「あたし」はちゃんと使ってくれるんですね」
「はっ！ べ、別にあんたに言われたからじゃないんだよ！勘違いするんじゃないよ！」
うむ。いい女はどんな姿になってもかわいいなぁ
強がり幼女も良かったけれど
ツンデレ女戦士もなかなか…
などと俺が考えていると
「よそ見してんじゃないよ！」
――ズガァン！
俺に向かって火の玉が飛んできた
「うわぁっ！？」
俺は紙一重でそれを躱すことに成功した
――ブスブス
火の玉が命中した石畳が真っ赤に熱されている
相当な魔力だ
「すごいな…」
サラマンダーはどちらかと言えば物理攻撃主体な魔物のはずだ
そんな彼女が、これほどの魔法を体得するにはそれなりの努力と時間がかかっただろう
先ほどの変化の術にしてもそうだ
言葉遣いや態度でバレバレだったが、外見は完全に人間にしか見えなかった
さすがに周囲に纏う魔力までは偽装できてなかったけれど、それほどの変化の術はかなりの魔力と経験が必要なはずだ
きっと彼女は努力家なのだろう
そういえばさっきの変にまじめなところもそんな感じだ
俺はそんなサラマンダーの方を見た
「どうした？ビビっちまって声も出ないかい？」
「いやぁ。感心しちゃって」
「ん？変な奴だね。当たったら怪我じゃ済んでないよ？」
「あ。確かに…。死んだらどうする！！？」
俺は文句を言った
と、そんな俺を見て
「くすくす」
サラマンダーは笑った
「くく。あんたみたいなとぼけた奴はリアｎ……あいつ以来だよ」
ん？あいつってだれだろう？
まぁいっか
しかしあの魔法は危ないなぁ
これじゃあ魔力じゃ勝ち目はなさそうだし…
まいったなぁ〜
「ねぇ、ちょっとさ。止めにしない？俺はそもそも君と戦う理由がないんだけど？」
俺は平和的解決を試みた
が
「あたしがあんたの命を狙ってんだよ？男ならそれに応えて、あたしの魂とるきでかかってきな！」
そう言って馬鹿でかい剣を振り上げて走ってきた
「あわわっ！？ちょ、死んだらどうするのさ！？」
「殺す気なんだよ！」
平和的解決の道は絶たれた
こうなったら何とか逃げないと
「ほらほら。避けてばっかりじゃ後がなくなるよ！？」
確かにその通りだった
狭い路地の中じゃ避けてるだけじゃあすぐに退路がなくなってしまう
どうしたものか…
普通に考えたらサラマンダーは火の属性が強い魔物だから、水属性がよく利きそうだけど…
でもあの性格だ、もしかしたら滝打ちの修行とかして水耐性を取得していそうだ
しかし、確かめてみなくては…
俺は軽めの水魔法を詠唱なしで放ってみた
「水魔法などあたしに効くかぁ！」
――ジュ
俺の掌から発せられた水流は彼女の尻尾の炎にかき消された
「ふははは！驚いたかい？あたしは滝に打たれ続けて水に耐性を付けたんだよ！」
うわぁ…予想通り…
まいったなぁ
あの様子だと半端な水魔法は効果がなさそうだ
かといって俺は剣術なんてからっきしだし…
「まいったなぁ…。ウォーターレイ」
俺は中級クラスの水属性魔法を短縮詠唱で行使する
「効かないねぇ」
サラマンダーは身を翻して尻尾で水の矢を蒸発させる
そしてそのまま
――ヒュ
俺に切りかかってきた
「おわっ」
――ガキィン
鈍い音とともに、攻撃を止めようと突き出した俺の剣が折れる
「うそぉ〜！？」
検査官になった時にもらった思い出の剣だったのに
まいったなぁ〜
なす術がないよ
ここは頭を使わないと
水魔法はあの尻尾でかき消されちゃうし…
でも、どうやら魔法をガードするにはあの尻尾を振るうしかないみたいだ
なら、まだ勝機はある
俺は２重斉唱を始める
「させないよ！」
「うわわっ！？」
２重詠唱は魔法を行使するために必要な魔力の錬成、つまりは詠唱を２つ同時に行って、複数の魔法を同時に発生させるための方法だ
しかし、これには通常の詠唱に加え、それぞれの魔法がちゃんと発動するように安定化の詠唱も唱えなければならない
つまりは２つの魔法分の詠唱に加え、もう一つ詠唱が必要だ
しかし、あの様子だとそんな暇は与えてくれそうにない
まいったなぁ
「ほらほら、そんなところに突っ立ってると真っ二つだよ！？」
「わわっ」
考えようと動きを止めたら切り込まれる
まいったなぁ
立ち止まる暇もくれないなんて…
立ち止まる…
あ、そうか
俺はいいことを思いついて、サラマンダーとは逆方向に走り出した
「あっ！待ちな！」
「待てと言われて…おっと。待たないよっ…と」
俺はジグザグに、時に円を描くように走る
右手の人差し指を地面に向けたまま
「よし」
俺は準備が完了して、サラマンダーに対峙した
「んん？なんだい？もう観念したのかい？」
「そうだね。もう降参。助けてくれない？ダメ？」
「だめに決まってるだろう？」
サラマンダーがニヤリと笑い、剣を振り上げた
しかし俺はあまりあわてていなかった
なぜなら
「ウォーターボム」
俺は広範囲の水魔法を詠唱なしで発動する
なかなかに高度な魔法で詠唱なしでの発動は難しいけど、できなくはない
「無駄だよ！」
サラマンダーが体を捻って自分に飛んでくる水の礫をかき消す
しかし
「そっちも、無駄だよ」
「はぁ？」
俺の言葉にサラマンダーが首をかしげる
と、次の瞬間
――ドン
衝撃音がして
「かは……」
サラマンダーは背中に衝撃を受ける
口を大きく開けて、空気を吐き出すと、その場で膝をついた
俺はほっとした
「な、なんだい？今のは…！？……」
「逃げるふりをして路地の床に陣を張っておいたんだ。占術と呪術の応用だけどさ」
「陣？」
「そそ。俺の魔法を転送するための陣」
「それで背後から…いっつつ…」
「そういうこと。じゃ、もういきなり人を襲っちゃだめだよ」
悔しそうにするサラマンダー
俺はその隙に逃げようと走り出す
が、
「待ちな。まだ勝負はついちゃいないよ！？」
「え？嘘…」
声が聞こえてそちらを見ると、そこには元気溌剌怒り心頭して、尻尾の炎を真っ赤に燃え上がらせたサラマンダーさんの姿が
「え？た、立ち上がっちゃうんですか？」
「あたしがこれぐらいでやられると思ったのかい？」
「あわわ。まいったな…」
さすがにもう作戦はない
「最後に言い残すことは？」
赤い瞳を真っ赤に輝かせるサラマンダーさん
俺はその顔に向かって
「最後はそのおっぱいに埋もれて死にたかっｔ」
「この変態！」
「ごもっともでぇぇぇぇ！」
頭部に強い衝撃を感じ、俺の意識は天に向かって旅立った…
ほわほわ
柔らかい感触
私のしっぽだ
私のお気に入り
でも、私のそんなしっぽを誰かが哂う
鱗の代わりに羽毛のように軽い体毛の生えた私のしっぽ
振り回して敵を攻撃するには向かない
でも、そのかわりとってもふかふかできもちいいもん
『お前はカラスにでもなるつもりか？けがらわしい黒い体。一族の面汚しめ』
いいもん、■▲■ちゃんは『大きくて優しいお前にはよく似合ってるって』そう言ってくれるもん
そうだ。
私には■▲■ちゃんがいるもん。
あれ？
ちゃんって誰だっけ？
私の大好きな人
私の大切な友達
あれ？
どうして？
どうして何も思い出せないの？
ちゃんは白くて綺麗な…
あれ？
どうしてかな？
親友の顔が
大好きな人の顔が
思い出せない
私は…
「誰？」
――悪魔め
「違うよ！私は悪いことなんてしないよ」
――じゃあどうして封印なんかされてるんだ？
「これはほら…その…」
――わからないなら教えてやるよ
――お前は数えきれないくらいの人間を殺した
――私はお前たちに殺された
――許せない 私の子を返して！
「違う。私じゃないよ。“アレ”は私じゃないんだよ！」
――真っ黒な体に邪悪な魔力
――お前以外にそんな竜がいるものか
――殺してやる 殺してやる！ 娘の痛みを 思い知れ！
――殺すよりも苦しい最期を
――忘却の封印 すべてを忘れる痛みを思い知れ
消える
消える
私の大切な思い
嫌だ
「わ、私は。私は悪魔じゃない！」
『お前が“悪魔”か。聞いていたものとずいぶんと違うな』
「私は悪魔じゃないよ…」
『………そうだな。悪魔が涙を流すはずがない』
「私はみんなと仲良くしたいだけなのに」
『…お前は変わっているな』
「え？」
『お前はそれほど大きな体を持っている。お前はそれほど強い力を持っている。それを使えばたちまちに奴らを付き従えることなど可能ではないか。なぜそうしない？』
「それって、みんなのことを私がいじめるってこと？」
『そうだ。この世界は力の強きものが弱きものを支配する。そしてお前や私のように強い力を持つ者は弱きを従え、導いてやらねばならないのだ。それが天命というものだ』
「むぅ…。あなたの言ってること。難しくてよくわからない」
『ふふ…。今にわかるさ』
「ん〜。ん〜？わからないよぅ」
『簡単な事だ。次に何かを言われたならばその爪で少し体を引き裂いてやればいい。お前の力ならば簡単にそれができる』
「そんなのだめだよ！」
『なぜだ？』
「爪で引っかかれると、すっごく、すっごく痛いんだよ？血だっていっぱい出ちゃう。それに、それに。心が…痛くて、いっぱい、いっぱい涙が出るんだよ」
『……お前は、優しいのだな』
「あなただって優しくなれるよ。私のために、私に話しかけてくれて。私、すっごく嬉しかったよ」
『違うさ。私はただ…。皆が悪魔と呼ぶものがどんなものか見に来ただけだ』
「…どこか、痛いの？」
『え？』
「あなた、すごく痛そうな顔してる」
『……ああ。少し、胸が』
「そっか。私もね、みんなにひどいこと言われて、ひとりになっちゃうとね、すっごくすっごく痛くなるの。それでね、涙が出てきて、止まらなくなるの」
『……お前と私はよく似ている』
「ふふ。だって、同じドラゴンじゃない」
『……そうだな。同じ、ドラゴンだからな』
「ふふ。変なの」
『ああ。そうだな…』
「どうしたの？」
『いや…。 お前、名前は何という？』
「私は……名前がないの。みんなは悪魔、ディアボロスって…」
『そうか。ずいぶんとお前に似合わぬ名前だ』
「え？」
『そうだ。ディアナ。ディアナというのはどうだ！？』
「ディアナ…」
『その漆黒の体に浮かぶ金色の瞳。お前は月のように美しい』
「ディアナ…。ふふ……うれしい。ありがとう」
そうか。
私は、ディアナ
――カタンカタン
馬車の車輪が小気味良い音を立てる
俺は薄く瞼を開ける
「うっ」
まぶしくてまた目を閉じる
ゆっくりと
「くあぁぁ」
目が覚めると、そこは馬車の上だった
何か夢を見ていた気がする
不思議な夢を
「もう夕暮れ時か…」
「ほっほ。旦那、よく眠れましたか？」
馬車を操るじいさんが笑いかけてくる
「ああ。日差しが気持ちよくって」
「それはよかった。しかし旦那。明日は雨でしょう。次の街からは幌付きの馬車に乗り換えた方がいい」
「雨？」
「はい。あそこの山に雲がかかっているのが見えるでしょ？ああいう日は大抵、山を越えるころには雨になります。次の街ならもっと多くの馬車も出ているでしょう。そこで幌付きの馬車を捜すといい」
「ほお。それはありがとう」
俺は素直に感心してしまった
「しかしよかったのか？黙っていればそこから先の運賃も渡したろうに」
「はは。その分早く家に帰って孫の顔が見れますよ」
じいさんはしわの寄った目を細めて笑った
その顔を見て俺は暖かな気持ちになる
王都を出てもう１週間になる
風景はどんどんと田舎になっていくし
町を出れば見かける人は野菜や毛皮を荷馬車に積んだ商人ぐらいのものだ
しかし、その分空気も、人ものんびりとしてくる
左遷は痛かったが、悲観さえしなければ、もしかしたら王都よりも住みやすい場所かもしれない
ついでに馬車の値段も安くなっている
この分だと旅費として出た額の半分は残せそうだ
などとセコイことを考えながら俺は馬車に揺られた
アルトリオについたのはそれから３日後の事だった
途中、確かに山越えであのじいさんに言われた通り雨が降った
人生の先輩の話は素直に聞くものだ
あ、そういえば先輩の言ったことを真に受けたせいで左遷されたんだっけ…
ん〜
何事もケースバイケースだ
俺は駅馬車の運転手に代金を渡すと馬車を降りた
駅馬車は商人の馬車に比べずいぶんと乗り心地はいいが、代金も高い
こんなことならアウトサイダーとして乗ればよかっただろうか？
しかし乗客の少ない駅馬車に王国兵の制服を着た男がアウトサイドするというのは何とも格好の悪い話だ
――駅馬車にはインサイド、屋根つき馬車の中に乗る人と、アウトサイド、馬車の外に立ち乗りをする人がいて、アウトサイドは断然料金が安い
馬車を降りるとほんのりと針葉樹の香りがした
振り返れば先ほど超えてきた山が見える
緑豊かなのどかな風景だ
そしてそれとは対照的に、前方にはきちんと整備された町並みが広がる
アルトリオには初めて来たが、思っていたほど田舎ではなさそうだ
町には真新しい石畳が敷かれ、港に近い王都とは違う、木と土壁を多く使った建物が立ち並ぶ
町並から察するに近年目覚ましい発展を遂げたに違いない
――ほら〜買った買った〜
――もっと安くしろよ
遠くからにぎやかな声が聞こえてくる
どうやら市が出ているのだろう
俺は曇っていた空に少しだけ光が差し込むのを感じながら、守備隊の兵舎を探して歩き始めた
「しかし、結構広いな」
王都と違い、規則正しく並んだ町並み
平地も広い分、建物も余裕を持ってたてられている
しかしどれもがよく似た形の建物ばかりだ
俺は昼間の人通りの中、道に迷っていた
と―
――リンゴーン
近くで鐘の鳴る音が聞こえた
どうやら協会が近いようだ
となれば、街の要所もそのあたりにあるだろう
俺は鐘の音を頼りに路地に入った
「待ちな」
「ん？」
路地を歩いていると、背後から女の声がして振り返った
と、そこには少し釣り目の赤い髪をした女の子が立っていた
「ん？なにかな？迷子？」
「へぇ、あんたには俺が迷子に見えるってか？」
あれ？
この子何か変だ
見た目は１４歳ぐらいの女の子だが
その言葉づかい
そして発しているオーラが変だ
そして何より服の露出度が高い
これでおっぱいも大きければいいのだけど…
いや、待て、大きさはないが、手のひらにぴったりとおさまりそうな形の良い発展途上の胸
水着のような鎧のような服
そこから除く柔らかそうな曲線
これはまさに美乳ではないか
ふむ、１０年後には是非…
「ん？」
っておい。妄想にふけてる場合じゃなかった
人間に化けてるんだろうけど、たぶんこいつは人間じゃない
もしかしたら盗賊の類だろうか？
そうだとしたら面倒なことになる前に逃げるか、捕まえて兵舎に連れて行かなければいけない
まいったなぁ
俺は戦いなんてしたことがない
魔法全般は勉強したから攻撃魔法も使えるけど、魔物とまともに勝負はできないだろう
よし、ここは
「ごめんね。俺もちょうど迷子になっちゃってさ、道も詳しくないし、ほかの人に聞くといいよ。じゃあね」
そう言って俺は自然に逃げ出した
「おい、待ちな、エリオット＝アイヴズ」
「うげぇっ！？」
俺が振り返って走ろうとしたその瞬間、目の前に少女が移動していた
速い
なんてもんじゃないぞ？
いつの間に回り込んだんだよ？
っていうか、なんで俺の名前を知ってるんだ？
「な、なにかな？ちょっと先を急いでるんだけど？」
俺は笑顔を作って話しかける
「あんたは腰抜けかい？俺の縄張りに入ってきといて挨拶もなしたぁいい度胸じゃねぇか」
やばい。これは間違いない
カツアゲだ
養成所にいたとき聞いたことがある
人目のないところで上級生が下級生を脅してお金を巻き上げる行為だ
「ま、まいったなぁ。俺、今お金持ってないよ？」
「金なんかいらねぇ。いいから剣を抜きな。俺の縄張りに入る前に腕試ししてやるぜ」
うわぁ
まいったなぁ〜
この人完全に臨戦態勢だよ
「俺みたいなちっこい女にもビビっちまって動けないのかい？」
うわ、しかも徴発されてるよ
「逃げる」コマンドが暗転しちゃってる…
「え、えっと。聞きたいんですけど、あなた、ほんとはちっこくないですよね？しかも人間じゃないですよね？」
俺は目の前の（たぶん）年上の幼女に言った
「！？………」
すると、少女は目を真ん丸に開いて、驚いた表情を浮かべた
「お、お前、エスパーか！？なぜ俺の変装を見破った！？」
――ずこ
俺は思わずこけそうになった
「お前のような幼女がいるか！」
「な、なぜだ！？小さくてかわいいだろうが！」
いや、そりゃたしかにかわいいけど…
「外見だけ変装しても、ふつうそんな高圧的な少女はいません」
「ほぅ……（メモメモ）」
「え？なんでメモ取ってるんですか？」
「あ、いや、今後の参考にしようかと…」
「ああ。それだったら…」
――（青年指導中）
――ほら、どうせ小さい女の子に化けるんなら、もっと小さい子に
――まて、それではありきたりじゃあないかい？
――世界には王道という言葉があります。バフォメットしかり、「高圧的な幼女」はロリコンの心をがっちりとつかみますよ
――ほうほう…
――あと、その言葉づかいも。それだとぞっちかっていうとスケバン属性のキャラみたいで、幼女にはマッチしませんよ
――何だって！？でも、これは俺の素だぜ？
――じゃあせめて一人称を「あたし」とかにしません？前例は少ないですが、まだとっつきやすくなりますよ
――ふむ…
――あと、幼女に過度な露出はアリっちゃあアリですが、その女戦士みたいなビキニアーマーはなんですか？
――なにをいってるんだい？これのカッコよさがわからないとは…
――だめですよ。ビキニアーマーは二十歳になってからです。あ、いや、でも、これはこれでアリか…。
――ん？どっちなんだい？
――いや、しかし、この腰装備は…。そうだ、ここはマイクロビキニみたいにして、ギリギリ隠れるか隠れないかで…ふむ。毛が生えてたら間違いなく履けないデザインですね
――ちょっ！これ、恥ずかしくないかい？
――いいんですよ、これで。むしろその恥じらいも重要です。今の気持ち、忘れちゃだめですよ
――そ、そうか///
――ついでだから胸装備の方も面積小さくしましょう
――あ、ちょ…
――ほら、隠さない隠さない。より一層ロリになったんですから、ふくらみもなくなってズレにくくなってるでしょ
――で、でも恥ずかしいよ…
――いい！その内股いい！
――え？そ、そうかな？…（///）
――あとはセリフですね
――ふむふむ///
――（少女準備中）
――Take2
俺は鐘の音を頼りに路地に入った
「ま、待ちな」
「ん？」
路地を歩いていると、背後から女の子の声がして振り返った
と、そこには少し釣り目の赤い髪をした幼女が立っていた
「ん？なにかな？迷子？（ニヤニヤ）」
「へ、へぇ、あ、あんたにはあたしが迷子に見えるっていうのかい？（おまたがすぅすぅするよぅ…）」
ふむ
赤い髪の１○歳ぐらいの幼女だ
ツルンペタンなおいしいカレーが作れそうなボディに食い込むようなマイクロビキニアーマー
それに強気なセリフとは裏腹に羞恥に震える声と、内股
普段は凛とした強気な釣り目なのだろうが、不安に震える表情は何とも言えない色っぽさがある
マイクロビキニに隠された平らな胸には、きっとその白い肌にマッチしたピンクの頂があるに違いない
それをクリクリしてやることを考えると…ゲッヘッヘ
おっと、いかんいかん
つい邪な妄想が…
こんな真昼間にこんな危ない服を着て飛び出てきた幼女が危なくないわけがない
そうだ、ここは俺の剣で突きまくって…おっと、いかんいかん
「ちょ、ちょっとぉ。どこみてるんだよ…ぅぅ…（は、はずかしいよぅ）」
「あ、すみません。あなたがかわいいもので、つい」
「ま、まじめにやりなっ！（///）」
そう言って胸と股間を小さな掌で隠そうとする
かわいい…
「ちょっと、俺は先を急いでるんですけど？（棒）」
「は、はぁ？あんたは腰抜けかい？あ、あたしの縄張りに入ってきといて、挨拶もなしとは、いい度胸じゃないか（ふるふる）」
少し股のあたりが寒いのか、ふるふると震える
かわいい…
あ、だめだ
「逃げる」コマンドがなくなってる
どうしよう、逃げられないよ（にやにや）
「まいったなぁ〜。お金持ってないよ」
「お、お金なんていらないから、早く戦いなよ。は、恥ずかしいんだよ…」
ヤバい
これはヤバい
頬を真っ赤に染めて「早く戦いな」「恥ずかしいんだよ」って
俺は息子が臨戦態勢に入りそうなのを感じる
「げ、まずい」
俺は前かがみになって、後ろへと走り出した
俺はロリコンではないはずだ
しかし、こんなところで息子がたってしまっては言い訳も立たない
「ま、待ちな！」
――シュル
「あ！？股布が！？ はぎゅんっ！！」
――ずて〜ん
幼女は走ろうとしたらマイクロビキニがずれそうになったらしく、それに気を取られて転んでしまった
「うぅ…いたいよぅ…」
起き上がった幼女は鼻とおでこをうってしまったらしく、鼻を押さえながら真っ赤に腫らして涙目で体を起こす
――キュン
俺の胸にかつてない衝撃が走る
「………俺、ロリコンでもいいかも」
エリオット＝アイヴズ(21)が悪魔に魂を売った瞬間だった
「もう！止めだ止め！」
「へ？」
俺が幼女のかわいらしさに打ちひしがれていると
幼女は、幼女とは思えない声で言い放った
「こ、こんなの俺じゃあないよ（どうしよう…なんだか胸がドキドキする）」
「そうですか？かわいいと思いますけどね」
俺は素直な感想を述べた
「か、かわいくなくたっていいんだよ！（ちょ、ちょっとうれしい）」
「工ｴｴｪｪ(´д｀)ｪｪｴｴ工」
「不満そうな声を出すな！」
「だってぇ…」
「いいから！ もう手加減は無しだ。それに変装もなしだ！」
「工ｴｴｪｪ(´д｀)ｪｪｴｴ工」
「だから不満そうな声を出すな！」
「ぶ〜ぶ〜」
俺が抗議していると、幼女は変装の魔術を解いたらしく、その姿が変わっていく
そこには真っ赤な髪に
――ぷるん
豊満な胸
それに、その赤い髪と同じく燃えるような赤い鱗を手足に生やし、その先端からは鋭い爪が覗く
そして、背後にはゴォゴォと音を立てそうな真っ赤な炎が灯っていた
やはり彼女は魔物だった
それもあれほどうまく（じゅるり）人間に化けることができるほど強い力と魔力を持った魔物だ
白い肌に真っ赤な髪と鱗がとてもよく映えている
「どうだい？驚いたかい？あたしはサラマンダー。由緒ある戦士の血を引く魔物だよ」
「あ、「あたし」はちゃんと使ってくれるんですね」
「はっ！ べ、別にあんたに言われたからじゃないんだよ！勘違いするんじゃないよ！」
うむ。いい女はどんな姿になってもかわいいなぁ
強がり幼女も良かったけれど
ツンデレ女戦士もなかなか…
などと俺が考えていると
「よそ見してんじゃないよ！」
――ズガァン！
俺に向かって火の玉が飛んできた
「うわぁっ！？」
俺は紙一重でそれを躱すことに成功した
――ブスブス
火の玉が命中した石畳が真っ赤に熱されている
相当な魔力だ
「すごいな…」
サラマンダーはどちらかと言えば物理攻撃主体な魔物のはずだ
そんな彼女が、これほどの魔法を体得するにはそれなりの努力と時間がかかっただろう
先ほどの変化の術にしてもそうだ
言葉遣いや態度でバレバレだったが、外見は完全に人間にしか見えなかった
さすがに周囲に纏う魔力までは偽装できてなかったけれど、それほどの変化の術はかなりの魔力と経験が必要なはずだ
きっと彼女は努力家なのだろう
そういえばさっきの変にまじめなところもそんな感じだ
俺はそんなサラマンダーの方を見た
「どうした？ビビっちまって声も出ないかい？」
「いやぁ。感心しちゃって」
「ん？変な奴だね。当たったら怪我じゃ済んでないよ？」
「あ。確かに…。死んだらどうする！！？」
俺は文句を言った
と、そんな俺を見て
「くすくす」
サラマンダーは笑った
「くく。あんたみたいなとぼけた奴はリアｎ……あいつ以来だよ」
ん？あいつってだれだろう？
まぁいっか
しかしあの魔法は危ないなぁ
これじゃあ魔力じゃ勝ち目はなさそうだし…
まいったなぁ〜
「ねぇ、ちょっとさ。止めにしない？俺はそもそも君と戦う理由がないんだけど？」
俺は平和的解決を試みた
が
「あたしがあんたの命を狙ってんだよ？男ならそれに応えて、あたしの魂とるきでかかってきな！」
そう言って馬鹿でかい剣を振り上げて走ってきた
「あわわっ！？ちょ、死んだらどうするのさ！？」
「殺す気なんだよ！」
平和的解決の道は絶たれた
こうなったら何とか逃げないと
「ほらほら。避けてばっかりじゃ後がなくなるよ！？」
確かにその通りだった
狭い路地の中じゃ避けてるだけじゃあすぐに退路がなくなってしまう
どうしたものか…
普通に考えたらサラマンダーは火の属性が強い魔物だから、水属性がよく利きそうだけど…
でもあの性格だ、もしかしたら滝打ちの修行とかして水耐性を取得していそうだ
しかし、確かめてみなくては…
俺は軽めの水魔法を詠唱なしで放ってみた
「水魔法などあたしに効くかぁ！」
――ジュ
俺の掌から発せられた水流は彼女の尻尾の炎にかき消された
「ふははは！驚いたかい？あたしは滝に打たれ続けて水に耐性を付けたんだよ！」
うわぁ…予想通り…
まいったなぁ
あの様子だと半端な水魔法は効果がなさそうだ
かといって俺は剣術なんてからっきしだし…
「まいったなぁ…。ウォーターレイ」
俺は中級クラスの水属性魔法を短縮詠唱で行使する
「効かないねぇ」
サラマンダーは身を翻して尻尾で水の矢を蒸発させる
そしてそのまま
――ヒュ
俺に切りかかってきた
「おわっ」
――ガキィン
鈍い音とともに、攻撃を止めようと突き出した俺の剣が折れる
「うそぉ〜！？」
検査官になった時にもらった思い出の剣だったのに
まいったなぁ〜
なす術がないよ
ここは頭を使わないと
水魔法はあの尻尾でかき消されちゃうし…
でも、どうやら魔法をガードするにはあの尻尾を振るうしかないみたいだ
なら、まだ勝機はある
俺は２重斉唱を始める
「させないよ！」
「うわわっ！？」
２重詠唱は魔法を行使するために必要な魔力の錬成、つまりは詠唱を２つ同時に行って、複数の魔法を同時に発生させるための方法だ
しかし、これには通常の詠唱に加え、それぞれの魔法がちゃんと発動するように安定化の詠唱も唱えなければならない
つまりは２つの魔法分の詠唱に加え、もう一つ詠唱が必要だ
しかし、あの様子だとそんな暇は与えてくれそうにない
まいったなぁ
「ほらほら、そんなところに突っ立ってると真っ二つだよ！？」
「わわっ」
考えようと動きを止めたら切り込まれる
まいったなぁ
立ち止まる暇もくれないなんて…
立ち止まる…
あ、そうか
俺はいいことを思いついて、サラマンダーとは逆方向に走り出した
「あっ！待ちな！」
「待てと言われて…おっと。待たないよっ…と」
俺はジグザグに、時に円を描くように走る
右手の人差し指を地面に向けたまま
「よし」
俺は準備が完了して、サラマンダーに対峙した
「んん？なんだい？もう観念したのかい？」
「そうだね。もう降参。助けてくれない？ダメ？」
「だめに決まってるだろう？」
サラマンダーがニヤリと笑い、剣を振り上げた
しかし俺はあまりあわてていなかった
なぜなら
「ウォーターボム」
俺は広範囲の水魔法を詠唱なしで発動する
なかなかに高度な魔法で詠唱なしでの発動は難しいけど、できなくはない
「無駄だよ！」
サラマンダーが体を捻って自分に飛んでくる水の礫をかき消す
しかし
「そっちも、無駄だよ」
「はぁ？」
俺の言葉にサラマンダーが首をかしげる
と、次の瞬間
――ドン
衝撃音がして
「かは……」
サラマンダーは背中に衝撃を受ける
口を大きく開けて、空気を吐き出すと、その場で膝をついた
俺はほっとした
「な、なんだい？今のは…！？……」
「逃げるふりをして路地の床に陣を張っておいたんだ。占術と呪術の応用だけどさ」
「陣？」
「そそ。俺の魔法を転送するための陣」
「それで背後から…いっつつ…」
「そういうこと。じゃ、もういきなり人を襲っちゃだめだよ」
悔しそうにするサラマンダー
俺はその隙に逃げようと走り出す
が、
「待ちな。まだ勝負はついちゃいないよ！？」
「え？嘘…」
声が聞こえてそちらを見ると、そこには元気溌剌怒り心頭して、尻尾の炎を真っ赤に燃え上がらせたサラマンダーさんの姿が
「え？た、立ち上がっちゃうんですか？」
「あたしがこれぐらいでやられると思ったのかい？」
「あわわ。まいったな…」
さすがにもう作戦はない
「最後に言い残すことは？」
赤い瞳を真っ赤に輝かせるサラマンダーさん
俺はその顔に向かって
「最後はそのおっぱいに埋もれて死にたかっｔ」
「この変態！」
「ごもっともでぇぇぇぇ！」
頭部に強い衝撃を感じ、俺の意識は天に向かって旅立った…
12/06/24 11:26更新 / ひつじ
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