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第二部 2話 旅立つ男
「おい!エリオ!起きろ!!」
「んぁ?…うがっ!」

俺は聞きなれた声で目をさまし、覚ますと同時に襲ってきた頭痛に襲われた
ひどい痛みだ

「なあんだよ…うぅ…」

俺はぐわんぐわんと音を立てるような立ちくらみの中、体を起こした

「あれ?どこだ?ここ?」

見慣れない部屋だった
安っぽい装飾が至る所にちりばめられた部屋
ああ
そうか
俺はあの後娼館へ行って…
だめだ、思い出せない…

「ずいぶんと探したぜ?エリオ」
「んあ?ああ、フーガか…どうしたんだよ…ぅぷ…いったい…今日は休みだろ?」
「お、おい、吐くならそっち向いて吐けよ…。って、そうだ、それどころじゃない」
「んえぇ?」
「近衛兵がお前の事探してるぞ?いったい何をやったんだよ!?」
「ん?ああ。気にするな。ちょっと首ちょんぱされるだけだ」
「ブッ!く、くびちょんぱって…ほんとに何やったんだよ!?」
「わからん。俺は何もやってない。でもどうやら捕まるみたいだ…。まいったなぁ〜もう…」

俺はスプリングの弱ったやわらかいベッドから降り、外されていたベルトを閉めなおした

「お、おい。どこにいくんだ!?店の前では近衛兵が待ってるぞ?」
「いいよ。どうせ逃げてもつかまるんだ。おとなしく捕まってくるさ。まいったなぁ〜もう…」
「そ、そうか…」
「あ、俺が死んだら、俺のベッドの下のへそくり全部やるよ。みんなで仲良く分けるんだぞ〜」

俺はふらつく足で愉快に部屋を出て行った





俺はへ騎士たちに連れられるまま、王宮の方へ歩いていく
ん?なんだ?もしかして公開処刑でもされるのか?
なんて呑気なことを考える

――エリオット=アイヴズを連れてきた
――よし、入れ

普段なら絶対に入ることなどないだろう王宮の中へ
すれ違う高そうな服を着た人々
美男美女の人間や魔物

「ふへぇ〜。さすが王宮だぁ〜」
「おい!きびきびと歩け!」

騎士に注意されつつも俺は奥へと歩いていく
と…

「止まれ!」
「ん?」

突然大きな扉の前で足止めされた

「んん?処刑場にしちゃあずいぶんと立派ですね?」
「はぁ?お前の目にはここが処刑所に見えるのか!?」

兵士が呆れたように言ってきた

「ほら、身なりを正せ!」

そう言って扉に控えていた兵士が俺の服を正していく

「ふむ…まぁいいだろう。入れ」

そういって扉が開かれる

「ふぉぉ……」

言葉を失った
見たこともない世界が広がっていた
大理石と蒼い絨毯
ロイヤルブルーと金やプラチナでできた装飾品
壮大な作りのエントランス
そして、その正面には
玉座
……玉座!?

「え?………」

俺は再び言葉を失った

「スウェルバルト国国王、リアン1世である!」

突然大きな声が聞こえ、正面右側の扉から数人の男女が入ってきた

「え?え!?」

俺は訳が分からず右往左往する
そうしているうちに、一人の青年が目の前の豪華な椅子に腰かけた

「え?」

この人がリアン王だというのだろうか?
思っていたよりもずっと若い
それに…

「あ、あんまり緊張しなくていいよ。名前だけの王様だからさ」

それに、ずいぶんと王様らしくない
い、いや、こんなことを言ったら失礼なのだろうが、なんというか…
威厳たっぷりの王様 っていうか…
俺がポカーンとしていると

「陛下の御前であるぞ!?図が高い!!」

突然凛とした女性の声がして、俺はあわてて片膝をついた

「ああ、いいよ。あんまり畏まられると顔が見えないからさ」

リアン王はそう言って
俺は顔を王様に向けた
何とも抜けたような表情だ
確かに王様らしい身なりはしている
顔も美形の部類に入るのだろう
しかし、見ているものの緊張を解きほぐしてしまうような、そんな空気を持った人だ

「君が検査官のエリオット?」
「…は、はっ!エリオット=アイヴズであります!」

俺はあわてて答えた
ふとその時に気付いた
王様の右腕には包帯が巻かれていた

「ん?ああ。これのことは気にしないで。きっとマルクスにいろいろ聞いたんだろうけど、かすり傷だから。こんなのより母さんに殴られた方がよっぽど痛い」

王様が困ったように言った

「もぉ〜。そんなことないよぉ〜」

王様の言葉に隣に座っている白銀の髪をした女性が答える
すごいスタイルのいい女性だ
身長も高いし、それに何より

――ぷるんぷるん

すごいおっぱいだ
って、おいおい
相手は王族だぞ!?邪な視線を向けるな!
俺は自分に言い聞かせる…が
しかしすごい胸だ
それに外見とは裏腹な柔らかい空気と表情
見ているもの全てを癒してしまいそうだ

「ん?」

待てよ?
あの人が母君ってことは…

『怪物の方も偶然そばを通りかかった陛下の母君が拳一つで殴り殺s』

昨日聞いた騎士の言葉がよみがえる
なんということだろう
まさかあの温和そうな殿下が怪物を素手で蹴散らしたというのだろうか?
王族……奥が深い…

「さて、悪いけど俺と少し話をしてくれないかな?」

俺の考えをかき消すように王様が話しかけてきた

「は、はい!なんでございましょうか?」

俺はあわてて答える

「先日の件、幸いにも怪我人は俺以外誰もいなかったし、俺としては笑い話として酒の肴にしてしまいたいのだけれど…。これがもし民に向けて同じことがされていたならきっと笑えないことになっていただろう。だからけじめはつけなきゃいけない」
「は、はっ!その通りでございます!」

俺は緊張した
そうだ
王様の空気にのまれ、忘れるところだった
俺は罪を犯してしまったのだ

「でも、まぁ、俺としては、この件は俺に対して起こったことだから俺がけじめをつけたいんだよね」
「え?」
「ああ。ごめんね。えっとね。マルクスに言ってこの件は俺に裁かせてくれるように頼んだんだ。まぁ、偶然にもまだ裁判官たちはこの事件のことを知らないし、この事件自体、王宮から外にはまだ漏れていないからね」
「…と、おっしゃいますと?」
「あれ?マルクスから聞いてないかな?」
「何をでございますか?」
「ああ。えっとね。今回の件、君を含めて容疑者の数は28人にも上るんだ」
「え!?」
「どうやら商人たちは本当のことを話すのがとても嫌いみたいでね、捜査をしてくれている兵たちはずっと頭を抱えっぱなしさ」
「……」

俺の頭の中はクエスチョンマークでいっぱいになった
それを一つずつ整理していこう
まず一つは、今回の事件の容疑者は28人いる
二つ目は、どうやらそのほとんどは商人で、みんな何かしらの理由で嘘をついているので捜査が混乱している
三つ目は、そこで王様は自分で犯人を見つけることにした
といったところだろうか…
ずいぶんと物好きな王様なようだ

「普段俺が怠けてばっかりだから、みんなには随分と迷惑かけてるからね。だから、仕事の合間に、一人一人話を聞いて、自分なりに犯人を捜してるんだ。偶然にも母さんは、そういうことは得意だから、少し手伝ってもらいながらね」
「え?」

俺は母君の方を見た

「ふん。嘘の一つでも吐いてみるがいい。その瞬間、私がその首を引きちぎってやる。言っておくが、私の耳と目は嘘を一言逃さずかぎ分けるぞ」

そう言って俺を見下ろす殿下の瞳は、それだけで俺を刺殺しそうだった…
あれ?こんな人さっきまで居たっけ?
お、おかしいな…さっきまではもっと優しそうな人が…
あれ?でもあのおっぱいは…あれ?
俺が混乱していると

「じゃあ質問いくよ」
「は、はい!」

王様が質問をしてきた
スフィンクスのなぞなぞに答える旅人の気分だ

「マルクスに聞いた話だと、君はコルトに急かされて、ある商人の検査を怠ってしまった。これは間違いないかい?」
「は、はい!その通りです」

俺は正直に答えた

「リアン。こいつは嘘を言っていないようだ」
「そ。ありがと、母さん」

母君がリアン王に何か耳打ちしている
こ、これは本当に嘘をついてはいけなそうだ…

「次の質問だけど、さっきの話に出てきた商人からも証言は聞いてる。でも生憎その商人はもう王都を逃げ出してしまったらしくて確かめようがないんだ。だから聞くけど、その商人は食料品と衣服しか持ち込んでいないと言っていたそうなんだけど、どうかな?」
「えっと、たしかあの日は、食料品と、武具がいくつか、それと検査はしていないので確かではありませんが、霧の大陸から持ち込んだという壺を荷馬車に乗せていました」
「ん?そうなんだ…」
「ん〜。嘘じゃないみたいだよぉ〜?」

俺の言葉に母君がまた何かを耳打ちしている
っていうか、あれ?
さっきまで居た怖い人はどこに行ったんだろう?
でも、あれ?あのおっぱいはさっきと同じ…あれ?

「ん。そっか。わかったよ。ありがとう」
「え?も、もういいんですか?」
「うん。もう大丈夫。大体分かったから」
「そ、そうですか」

俺がぽかんとしていると

「あ、でも、いくら先輩から急かされたからって、仕事をないがしろにするのはいけないよ。…って言っても俺も人のこと言えないけどさ…。まぁ、結果は後で伝えるから、それまではちゃんと仕事に励んでね」

そう言って王は玉座を立つと、母君と、数人の騎士を連れて謁見の間から出て行った





それからしばらくの間、王宮からは何の音さたもなかった
俺は件の事を反省し、しばらくの間まじめに仕事に取り組んでいた
と、そんなある日だった


「ま、待て!俺は違う!俺はあいつに騙されて!」

宿舎で大声が廊下に響き渡った
騎士たちに連行されていったのはコルトだった
その夜、1通の通達が俺のもとに届いた
ずいぶんときれいな字で書かれたその通達には

『先日の件、真犯人は無事に発見され、国外へ逃亡しようとしていた首謀者を確保するに至った。貴殿の協力にも感謝する。しかし、貴殿の不注意が招いた事でもある。その点を踏まえ、貴殿には今の職を外れ、アルトリオへ赴き、守備隊長に就くことを命じる』

そう書かれていた
守備隊長といえば聞こえはいい
立場的には出世になるだろう
しかしここは王都
それに引き換え、アルトリオと言えば同盟中の隣国との境界にある町だ
古くは数千年前巨大な都があり、現在では世界的にも貴重な遺跡が各地に残されている古都…(サバトツーリスト、パンフレットから引用)
はぁ…
明らかな左遷だった
というか、俺はそもそも武芸なんてからっきしだぞ?
一応は養成所で一通りの基礎は学んだが…
そんな俺が守備隊長なんて…
まぁ、死刑がまぬがれただけ良しとするか…
俺はげんなりとして、旅支度を始めた




12/06/22 23:52更新 / ひつじ
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■作者メッセージ
さて、これでプロローグも終わりましたね〜
この先の長いストーリーを書かなきゃいけないことを考えると適当に終わらせたくなります頑張って書こうと思います
予定ではこの後、第三部で主人公が時を止める能力を手に入れて、四部で先生が出てきて、五部でポルポルが亀になって、六部では娘が主人公になって、その辺で掲載誌が移る予定です。
ごめんなさい。嘘です。
でも6部ぐらいで終わりそうだなぁ

ってか、サバトは多角経営だなぁ…。
ちなみにサバトに就職するにはロリになるしかないです。そしてこの就職難です。ロリコン紳士が増えても仕方がない気もしますね。

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