我流転成
身体中のあちこちが熱い。
まるでひどい風邪をひいたみたいに頭が痛い。
なにか考えようとしても辛い。
悲鳴を上げるのも面倒くさい。
痛みに少しずつ慣れてくる。
「――っ!」
頭は慣れても身体はやっぱり動かない。
水の中みたいな景色の中で男の人が私に何か言ってる。
焚き火の光で真っ赤に燃える男の人の顔はとても恐ろしく浮かんでいる。
でも、もうむり…。
もう、いいよね?
まだ生きてた。
少しだけ、眠ってたみたい。
いつの間にか静かになってた。
真っ暗な場所。
静かすぎて、
――ヒュ〜…ヒュ〜
胸に穴が空いたみたいな呼吸をして。
やたらと自分の息だけが大きく聞こえる。
“ちっ。覚えておれよ…”
頭のなかに声が聞こえた。
少し掠れたような、でも、綺麗な女の人の声。
磨りガラスのような声。
「…ん……」
ゆっくり、まぶたを開く。
空気が針みたいに刺さってくる。
でも、なんとか我慢して、
見えた。
「…きれい……」
闇に溶けるように真っ黒な刀身。
なのに光るように輝いて。
全く歪みの無いように真っすぐ伸びて。
細いのにとても強そうな、剣。
鍔もない、柄は刀身と同じ黒い金属で出来てる。
“生きたいか?”
また。
あの女の人の声。
強くて、綺麗な、弱くて何も出来ない私とは正反対な女の人の声。
”生きたいのか、と聞いている”
さっきよりも強く聞こえて。
「まぁ、いっか」
無意識に声を出してた。
“手を伸ばせ、ワシを取れ”
あ、呼んでる。
行かなきゃ…。
手を伸ばして、あぁ、やっと、届く…。
「…っ!?」
指先に鈍い痛み、次の瞬間熱くなって、ジクジクと。
痛みの熱が少しずつ抜けていく、一緒に体の力も抜けて。
だから、最初は何かわからなかった。
突然雷が落ちたみたいだった。
「っ!……っ!!」
体が勝手に飛び跳ねて。
息もできない。
私、どうなっちゃったの?!
「…っぁ!……んぁっっ!」
声を出そうとしても、喉が引きつってうまく声にならない。
流れ込んできた、私の中に、溢れるような熱さが。
心臓がドクドク、ゆっくりと、しびれたみたいになって。
そのしびれが全身に広がっていく。
「…んっ。あぁ!?…んっ…あ…くぅ……」
身体中がしびれて変にふわふわした心地。
なのに、身体のあちこちにかぁっと燃えるような感覚。
目の前で剥がれた爪が治っていく。
ううん、私の怪我したところ、ぜんぶが治っていく。
でも、変。
治るところが熱くてジクジクする。
治っていく時に身体の中で火が点いたみたいに。
まるでしびれた足を突っついた時みたいに。
「…んふ…んあっ……ああ……」
これ…。気持ちいい。
しびれたところからゆっくりと熱が引いていく。
ドキドキして喉から飛び出しそうだった心臓が、少しずつ落ち着いてくる。
「…ふぅ〜…んぁっっ……」
でも…。
もっとぉ…。
欲しい。
この気持ち良いの。もっと欲しい。
――くちゅ
体を起こして、剣を求める。
ああ、おへその下のところだけまだくすぶってる。
ドクン、ドクンって心臓に合わせてしびれる。
一緒に、心臓もしびれる、
ああ、収まってしまう、もっと欲しいのに。
また気持ち良いの欲しい。
「…あぁ…。がまんできな…」
私、剣を持って、一気に心臓に突き刺した。
“んひゃあぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!”
耳がキンってなるぐらい叫んで、なのに、声は出なくて、その代わりに頭がしびれた。
剣が突き刺さったはずなのに、心臓ドクドク速くなって。
痛みはない、血も出ない。それどころか流れ込んでくる。
だめ、剣から流れ込んでくる。
さっきの熱いしびれが。
心臓から全身に広がる。
体の力が抜けて、まるでひどい風邪にかかったみたいに身体中熱い。
頭、ぼぅっとして。
――しょわぁぁぁぁぁぁ
あ、おしっこ漏れちゃった。
あはぁ。おしっこきもちちぃ。
ゆっくりと、しびれを体になじませて。
まだ全身熱いけど、少しずつ。
――ドクン、ドクン
心臓に感じる。
私以外の鼓動。
あ、このドクドク。この剣が。
気がついたら、剣を握った両手と、突き刺さった胸に剣が融けて絡みついてた。
まるできのこが糸を張るみたいに、少しずつ伸びて。
”んふぅっ!?な、なんだこれは!?わ、ワシはどうなっておるのじゃ!?”
あ、声。
剣から伸びた糸が身体中を覆って、私に繋がっていく。
繋がったところが新しい血管みたいに、熱いものが流れてくる。
ふひぅぅ…。な、流れる…。流れでるぅ。ワシの…魔力がぁ…。
流れてきた熱いものは全身に溶けて広がる。
そして流れこんでくる。
ワシの身体の中に。
私の身体の気持ち良いのが。
――クチュ
んふぅ…。
おまた、ぬるぬるしてる。
クチュ
ここ、に入れたら…。
そうだ。
――ずにゅ
んはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
胸に刺さったワシを私から引き抜く。
まるで私の心臓、離れたくなって言うみたいにズクズク動いて。
はふぅ…。
抜けた。ワシ。
いくよ?
よせ、やめ…。
――くち…ず…くちゅぅ
あひぃぃぃぃぃぃぃ!
ワシの柄が入ってくる。
熱い。
狭くて、ぐにゅぐにゅって蠢いて。
私の中、冷たくて硬いワシの柄が入ってくる。
きもちぃ…。
や、やめろぉ…。
むりだよぉ。
だって気持ちいいもん。
ワシの刀身の根本を両手で握りしめて。
でも、切れたりしない。
だってワシは私だもん。
――ずちゅ
んひぃぃぃ。
や、やめろぉ…動かすで…ないのじゃ……。
むりぃ…気持ちいいもん…んっ…ふぁぁ…んく……
――にちゅ…じゅ…
あはぁ…動かすたびに…ん…硬いのが擦れて……
やめ…ろぉ…気持ちいぃ…私の中でぇ…ワシが擦れてぇ…
ワシの柄に感じる私の熱い膣内。
もっと欲しい、もっと奥へ、って。
――ちゅ…ずちゅ…にちゃ…くちゃ
ワシの動き、速くなって。
私の鼓動も早くなっていく。
きもちぃ…んひゅ……あっ…はふ…
ワシが気持ちよくなっていく。
もちろん私も。
…ん……ぁ…んくぅ……
私の中全体が気持ちよくなって、
気持ち良い所を集中的にこすりあげる。
あひぃ…そ、…そこはぁ……ダメ…じゃぁ……
んふ…きもち……んっ…あ……あ、あぁ…
んひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!
――はぁ…はぁ……
整わない息。
いつの間にか、私の体表に広がってたワシの糸は私の中に溶けていて。
ワシと私は混じり合っていた。
ワシを覗き込む、
私が見える。
私の目、真っ赤に燃えていた。
ブロンドだった髪も真っ黒に染まって。
まるで主様みたい。
でも、主様とは違って、ちっちゃい身体。
背は130cmぐらい。おっぱいも小さい。
それに、あんなに綺麗じゃない。
肌は真っ白くなって、そばかすも消えて、少しだけマシになった。
でも、主様と比べたら虫と月のように違う。
ああ…。醜い…。
――レロ
私の刀身に映る私の顔を舐める。
ねっとりとした唾液に撫でられてワシの体がしびれる。
――コプ
もう閉じた割れ目からまた粘液が溢れてくる。
しっかりと繋がって、ワシは私の一分になってる。
ううん。私がワシのものになったのかな?
そう思ったら、刀身に映る私の顔も少しだけ可愛く思えてくる。
人間の男に汚された身体はすっかり元通り。
ううん。もう身体は生まれ変わってるんだよね。
するり、と頬から喉、胸、お腹、ヌルヌルしてる割れ目、足へと左手を撫で下ろして。
触れたところはどこも敏感で、軽く撫でるだけでもとても気持ちがいい。
それに、吸い付くように汗ばんでいても、その肌はなめらかで、真っ白で、とても綺麗。
私、魔物になったの?
そのようじゃ。
握りしめる掌から刀身が絡みついてる。
自分で自分と会話するなんて少し変。
でも、仕方ない。さっきまでは違うものだったんだし。
人間の分際でよくもここまで魔力を取り込めたものじゃ。
いや、それどころかこれほど速くワシと混じわるとは。
わからないよ。ただ、気持よかったから夢中で。
身体も魂も融け合って交わる。
あんなに気持ちいいのは私もワシも初めて。
そんなことを考えたら、ワシの中に私の記憶が流れ込んできた。
人間の貴族の四女に生まれ、偉い人の家の使用人をしてた。
でも、何も出来ない鈍間で愚図な私はすぐに追い出されてしまった。
恥ずかしくて家に帰れない私を貧民街の男たちが襲ってきた。
そのまま奴隷に売られて…。
右腕に付けられた焼き印は今は跡形もなく消えていた。
まぁ、役立たずの私はきっと奴隷になってもすぐにまた売り払われていたかもしれない。
いや、先ほどの下衆ではないが、人間は私の様な歳の女を好む変態も少なからず居ると聴くぞ。
だとしたら、あの盗賊どもに捕まろうが捕まらなかろうが、私はいずれああなっていたのかもしれん。
そっか…。じゃあ、私はワシに出会えてほんとに良かった…。
良くないわい。
私の様な軟弱な体ではいくら魔物化したとはいえ、ワシを使うには力不足じゃ。
そう?
――ぶぉんっ!
一振りで土煙が起こり、風が巻き上がる。
――ヒュパ…ズゥン
先程までワシの刀身が刺さっていた台座も何の抵抗もなく真っ二つになった。
十分すごいと思うけどなぁ。人間だった頃じゃ考えられないよ?
――しゅた、しゅた!
すごい!こんなに素早く動いても転ばないよ!
…私は人間の頃はそんなにどんくさかったのか。
落胆気味のワシの刀身からワシの使い方、私の身体の動かし方、戦い方の記憶と経験が流れ込んでくる。
今の私なら一流の騎士とも互角に戦えるとわかる。
ふん。だからじゃ。所詮は人間と比べるレベルではないか。
そりゃぁ…主様と比べたら…。
脳裏に浮かぶ主様の圧倒的な戦いぶり。
思い出すだけでワシの中から高揚と興奮が伝わって私の割れ目がまたヌルヌルしてくる。
んふぅ…。
思わず熱い息が漏れちゃう。
――くちゅ…にゅぷ
ん…んくっぅ…あはぁ…
我慢できずに左手で身体をいじり始める。
右手に握っていたワシの刀身は私の身体の中に吸い込まれていく。
んぁ…こ、…こらぁ…やめぇ……
むりぃ…んひぃ……こんなにきもちいぃのぉ…やめられな…
右手も使って本格的に身体を弄る。
身体はどんどん高ぶっていく。
その度に私の中にワシが入り込んでくる。
私が私でなくなっていく、その感覚が心地いい。
抵抗しないんじゃな。
私の中でワシがつぶやいた。
抵抗、した方がいいの?
いいや。ただ、普通は“自分”が侵食されることに多少は恐怖を覚えて抵抗するものじゃ。
じゃからワシはこれまでの宿主には少しずつ蝕んでいった。
なのに私は抵抗するどころか自らの身体に刃を突き立てて精を差し出し、身体を差し出した。
そんな者は私が初めてだ。
しかたないよ。だって気持いいんだもん。
私は自分というものが希薄なのかもしれない。
愚図で鈍間で何もできない私。
どんなに酷いことをされても抵抗すら面倒くさい私。
分かっていても何も変えようとしない。
そんなことどうだって良いから。
それが私だから。
四女に生まれた私ははじめから兄妹の絞りカスなのかもしれない。
はじめから無意味で無価値で、だから家族に捨てられて、そして昨日はあんな下衆にも捨てられた。
自棄になるのは若いものの特権じゃな。
自分が特別で居たいからそうしてイジケてみせる。なんとも愛らしいものじゃ。
とうとう自分にまで馬鹿にされた。
いいもん。どうせ私はお子様ですよ。
じゃがワシはもう何百年も生きておる。
む…。
さっきはあんなにヨガってたくせに。
よが…私は意外にも耳年増じゃな。
使用人をしていた時に先輩のおねえちゃんたちからいろいろ教わったもん。
メイドの正体や見たり…じゃな。
皆気持ちいいことは大好きなんだよ。
私も、ワシも、ね?
わ、ワシは…その…。
うふふ。私達もう一つなんだよ?隠せるわけないよ。
ええい!うるさいわい!
ワシは、そしてもう私も剣なのじゃ。
剣は斬るものじゃ。
そうかな?
ワシもわかってるんでしょ?
感じてるんでしょ?この世界に漂う魔力を。
私達の性質はもう魔王の力でネジ曲がってる。
もう主様の時代のようには出来ないと思うよ。
ふん!
切っても死なぬのならば何度でも楽しめるということじゃ。
それもそっか。
じゃあ、獲物がいる内にいっぱい楽しもっか、そしていっぱい気持ちよくなろ。
私は先程自分の身体に刃を突き立てた時の快楽の虜になっていた。
ワシが思い出さずともワシの主や以前の宿主たちの人を斬る快感を何度も思い出してその度に股を濡らして感じている。
左手はビチョビチョの股を常にかき回している。
汚らわしいにも程があるというものじゃ。
ふふ。そんなに嫌なら魔王を斬りに行く?
でも、私は好きだよ。気持ちいいし。
ぐぬぬ、憎い。
歪だとは理解できるのに嫌悪感の湧かない思考が憎い。
そぉ?相手を傷つけて殺して喜ぶよりも、快楽で動けなくして自分も気持ちよくなれるほうが素敵じゃない。
…それもそうじゃのう。
ほら、じゃあいっぱい斬ってあげようよ。
そうして右手にワシの刀身を現す。
ワシと私の融合が進み、その姿はさっきまでとはすっかり変わってしまっている。
主の持っていた頃の断ち切ることに特化した細くスラリと長い刀身は見る影もなく、まるで斧のように巨大で、死神の鎌のように湾曲した刀身。
これが私か…。
歪で醜い、不格好で不必要な剣。
いずれ時が経てば形も変わる。
人は成長するものじゃ。
むぅ…。
じゃあ経験値を稼ぎに行きましょう。
私は封印の部屋の扉を開き、最後に部屋の中を見渡した。
やっと、出られるのじゃな。
そうね。早く外にでて、新しい主様を探しに行きましょう。
ん?
私は次の主様を見つけるまでの繋ぎでしょ?
大丈夫だよ。もう私は貴女に混じってしまったから、この身体を捨ててももう悲しくないよ。
私は本当に変わったやつじゃ。
風化した扉は部屋を出た後しばらくして崩れ落ちた。
まるでひどい風邪をひいたみたいに頭が痛い。
なにか考えようとしても辛い。
悲鳴を上げるのも面倒くさい。
痛みに少しずつ慣れてくる。
「――っ!」
頭は慣れても身体はやっぱり動かない。
水の中みたいな景色の中で男の人が私に何か言ってる。
焚き火の光で真っ赤に燃える男の人の顔はとても恐ろしく浮かんでいる。
でも、もうむり…。
もう、いいよね?
まだ生きてた。
少しだけ、眠ってたみたい。
いつの間にか静かになってた。
真っ暗な場所。
静かすぎて、
――ヒュ〜…ヒュ〜
胸に穴が空いたみたいな呼吸をして。
やたらと自分の息だけが大きく聞こえる。
“ちっ。覚えておれよ…”
頭のなかに声が聞こえた。
少し掠れたような、でも、綺麗な女の人の声。
磨りガラスのような声。
「…ん……」
ゆっくり、まぶたを開く。
空気が針みたいに刺さってくる。
でも、なんとか我慢して、
見えた。
「…きれい……」
闇に溶けるように真っ黒な刀身。
なのに光るように輝いて。
全く歪みの無いように真っすぐ伸びて。
細いのにとても強そうな、剣。
鍔もない、柄は刀身と同じ黒い金属で出来てる。
“生きたいか?”
また。
あの女の人の声。
強くて、綺麗な、弱くて何も出来ない私とは正反対な女の人の声。
”生きたいのか、と聞いている”
さっきよりも強く聞こえて。
「まぁ、いっか」
無意識に声を出してた。
“手を伸ばせ、ワシを取れ”
あ、呼んでる。
行かなきゃ…。
手を伸ばして、あぁ、やっと、届く…。
「…っ!?」
指先に鈍い痛み、次の瞬間熱くなって、ジクジクと。
痛みの熱が少しずつ抜けていく、一緒に体の力も抜けて。
だから、最初は何かわからなかった。
突然雷が落ちたみたいだった。
「っ!……っ!!」
体が勝手に飛び跳ねて。
息もできない。
私、どうなっちゃったの?!
「…っぁ!……んぁっっ!」
声を出そうとしても、喉が引きつってうまく声にならない。
流れ込んできた、私の中に、溢れるような熱さが。
心臓がドクドク、ゆっくりと、しびれたみたいになって。
そのしびれが全身に広がっていく。
「…んっ。あぁ!?…んっ…あ…くぅ……」
身体中がしびれて変にふわふわした心地。
なのに、身体のあちこちにかぁっと燃えるような感覚。
目の前で剥がれた爪が治っていく。
ううん、私の怪我したところ、ぜんぶが治っていく。
でも、変。
治るところが熱くてジクジクする。
治っていく時に身体の中で火が点いたみたいに。
まるでしびれた足を突っついた時みたいに。
「…んふ…んあっ……ああ……」
これ…。気持ちいい。
しびれたところからゆっくりと熱が引いていく。
ドキドキして喉から飛び出しそうだった心臓が、少しずつ落ち着いてくる。
「…ふぅ〜…んぁっっ……」
でも…。
もっとぉ…。
欲しい。
この気持ち良いの。もっと欲しい。
――くちゅ
体を起こして、剣を求める。
ああ、おへその下のところだけまだくすぶってる。
ドクン、ドクンって心臓に合わせてしびれる。
一緒に、心臓もしびれる、
ああ、収まってしまう、もっと欲しいのに。
また気持ち良いの欲しい。
「…あぁ…。がまんできな…」
私、剣を持って、一気に心臓に突き刺した。
“んひゃあぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!”
耳がキンってなるぐらい叫んで、なのに、声は出なくて、その代わりに頭がしびれた。
剣が突き刺さったはずなのに、心臓ドクドク速くなって。
痛みはない、血も出ない。それどころか流れ込んでくる。
だめ、剣から流れ込んでくる。
さっきの熱いしびれが。
心臓から全身に広がる。
体の力が抜けて、まるでひどい風邪にかかったみたいに身体中熱い。
頭、ぼぅっとして。
――しょわぁぁぁぁぁぁ
あ、おしっこ漏れちゃった。
あはぁ。おしっこきもちちぃ。
ゆっくりと、しびれを体になじませて。
まだ全身熱いけど、少しずつ。
――ドクン、ドクン
心臓に感じる。
私以外の鼓動。
あ、このドクドク。この剣が。
気がついたら、剣を握った両手と、突き刺さった胸に剣が融けて絡みついてた。
まるできのこが糸を張るみたいに、少しずつ伸びて。
”んふぅっ!?な、なんだこれは!?わ、ワシはどうなっておるのじゃ!?”
あ、声。
剣から伸びた糸が身体中を覆って、私に繋がっていく。
繋がったところが新しい血管みたいに、熱いものが流れてくる。
ふひぅぅ…。な、流れる…。流れでるぅ。ワシの…魔力がぁ…。
流れてきた熱いものは全身に溶けて広がる。
そして流れこんでくる。
ワシの身体の中に。
私の身体の気持ち良いのが。
――クチュ
んふぅ…。
おまた、ぬるぬるしてる。
クチュ
ここ、に入れたら…。
そうだ。
――ずにゅ
んはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
胸に刺さったワシを私から引き抜く。
まるで私の心臓、離れたくなって言うみたいにズクズク動いて。
はふぅ…。
抜けた。ワシ。
いくよ?
よせ、やめ…。
――くち…ず…くちゅぅ
あひぃぃぃぃぃぃぃ!
ワシの柄が入ってくる。
熱い。
狭くて、ぐにゅぐにゅって蠢いて。
私の中、冷たくて硬いワシの柄が入ってくる。
きもちぃ…。
や、やめろぉ…。
むりだよぉ。
だって気持ちいいもん。
ワシの刀身の根本を両手で握りしめて。
でも、切れたりしない。
だってワシは私だもん。
――ずちゅ
んひぃぃぃ。
や、やめろぉ…動かすで…ないのじゃ……。
むりぃ…気持ちいいもん…んっ…ふぁぁ…んく……
――にちゅ…じゅ…
あはぁ…動かすたびに…ん…硬いのが擦れて……
やめ…ろぉ…気持ちいぃ…私の中でぇ…ワシが擦れてぇ…
ワシの柄に感じる私の熱い膣内。
もっと欲しい、もっと奥へ、って。
――ちゅ…ずちゅ…にちゃ…くちゃ
ワシの動き、速くなって。
私の鼓動も早くなっていく。
きもちぃ…んひゅ……あっ…はふ…
ワシが気持ちよくなっていく。
もちろん私も。
…ん……ぁ…んくぅ……
私の中全体が気持ちよくなって、
気持ち良い所を集中的にこすりあげる。
あひぃ…そ、…そこはぁ……ダメ…じゃぁ……
んふ…きもち……んっ…あ……あ、あぁ…
んひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!
――はぁ…はぁ……
整わない息。
いつの間にか、私の体表に広がってたワシの糸は私の中に溶けていて。
ワシと私は混じり合っていた。
ワシを覗き込む、
私が見える。
私の目、真っ赤に燃えていた。
ブロンドだった髪も真っ黒に染まって。
まるで主様みたい。
でも、主様とは違って、ちっちゃい身体。
背は130cmぐらい。おっぱいも小さい。
それに、あんなに綺麗じゃない。
肌は真っ白くなって、そばかすも消えて、少しだけマシになった。
でも、主様と比べたら虫と月のように違う。
ああ…。醜い…。
――レロ
私の刀身に映る私の顔を舐める。
ねっとりとした唾液に撫でられてワシの体がしびれる。
――コプ
もう閉じた割れ目からまた粘液が溢れてくる。
しっかりと繋がって、ワシは私の一分になってる。
ううん。私がワシのものになったのかな?
そう思ったら、刀身に映る私の顔も少しだけ可愛く思えてくる。
人間の男に汚された身体はすっかり元通り。
ううん。もう身体は生まれ変わってるんだよね。
するり、と頬から喉、胸、お腹、ヌルヌルしてる割れ目、足へと左手を撫で下ろして。
触れたところはどこも敏感で、軽く撫でるだけでもとても気持ちがいい。
それに、吸い付くように汗ばんでいても、その肌はなめらかで、真っ白で、とても綺麗。
私、魔物になったの?
そのようじゃ。
握りしめる掌から刀身が絡みついてる。
自分で自分と会話するなんて少し変。
でも、仕方ない。さっきまでは違うものだったんだし。
人間の分際でよくもここまで魔力を取り込めたものじゃ。
いや、それどころかこれほど速くワシと混じわるとは。
わからないよ。ただ、気持よかったから夢中で。
身体も魂も融け合って交わる。
あんなに気持ちいいのは私もワシも初めて。
そんなことを考えたら、ワシの中に私の記憶が流れ込んできた。
人間の貴族の四女に生まれ、偉い人の家の使用人をしてた。
でも、何も出来ない鈍間で愚図な私はすぐに追い出されてしまった。
恥ずかしくて家に帰れない私を貧民街の男たちが襲ってきた。
そのまま奴隷に売られて…。
右腕に付けられた焼き印は今は跡形もなく消えていた。
まぁ、役立たずの私はきっと奴隷になってもすぐにまた売り払われていたかもしれない。
いや、先ほどの下衆ではないが、人間は私の様な歳の女を好む変態も少なからず居ると聴くぞ。
だとしたら、あの盗賊どもに捕まろうが捕まらなかろうが、私はいずれああなっていたのかもしれん。
そっか…。じゃあ、私はワシに出会えてほんとに良かった…。
良くないわい。
私の様な軟弱な体ではいくら魔物化したとはいえ、ワシを使うには力不足じゃ。
そう?
――ぶぉんっ!
一振りで土煙が起こり、風が巻き上がる。
――ヒュパ…ズゥン
先程までワシの刀身が刺さっていた台座も何の抵抗もなく真っ二つになった。
十分すごいと思うけどなぁ。人間だった頃じゃ考えられないよ?
――しゅた、しゅた!
すごい!こんなに素早く動いても転ばないよ!
…私は人間の頃はそんなにどんくさかったのか。
落胆気味のワシの刀身からワシの使い方、私の身体の動かし方、戦い方の記憶と経験が流れ込んでくる。
今の私なら一流の騎士とも互角に戦えるとわかる。
ふん。だからじゃ。所詮は人間と比べるレベルではないか。
そりゃぁ…主様と比べたら…。
脳裏に浮かぶ主様の圧倒的な戦いぶり。
思い出すだけでワシの中から高揚と興奮が伝わって私の割れ目がまたヌルヌルしてくる。
んふぅ…。
思わず熱い息が漏れちゃう。
――くちゅ…にゅぷ
ん…んくっぅ…あはぁ…
我慢できずに左手で身体をいじり始める。
右手に握っていたワシの刀身は私の身体の中に吸い込まれていく。
んぁ…こ、…こらぁ…やめぇ……
むりぃ…んひぃ……こんなにきもちいぃのぉ…やめられな…
右手も使って本格的に身体を弄る。
身体はどんどん高ぶっていく。
その度に私の中にワシが入り込んでくる。
私が私でなくなっていく、その感覚が心地いい。
抵抗しないんじゃな。
私の中でワシがつぶやいた。
抵抗、した方がいいの?
いいや。ただ、普通は“自分”が侵食されることに多少は恐怖を覚えて抵抗するものじゃ。
じゃからワシはこれまでの宿主には少しずつ蝕んでいった。
なのに私は抵抗するどころか自らの身体に刃を突き立てて精を差し出し、身体を差し出した。
そんな者は私が初めてだ。
しかたないよ。だって気持いいんだもん。
私は自分というものが希薄なのかもしれない。
愚図で鈍間で何もできない私。
どんなに酷いことをされても抵抗すら面倒くさい私。
分かっていても何も変えようとしない。
そんなことどうだって良いから。
それが私だから。
四女に生まれた私ははじめから兄妹の絞りカスなのかもしれない。
はじめから無意味で無価値で、だから家族に捨てられて、そして昨日はあんな下衆にも捨てられた。
自棄になるのは若いものの特権じゃな。
自分が特別で居たいからそうしてイジケてみせる。なんとも愛らしいものじゃ。
とうとう自分にまで馬鹿にされた。
いいもん。どうせ私はお子様ですよ。
じゃがワシはもう何百年も生きておる。
む…。
さっきはあんなにヨガってたくせに。
よが…私は意外にも耳年増じゃな。
使用人をしていた時に先輩のおねえちゃんたちからいろいろ教わったもん。
メイドの正体や見たり…じゃな。
皆気持ちいいことは大好きなんだよ。
私も、ワシも、ね?
わ、ワシは…その…。
うふふ。私達もう一つなんだよ?隠せるわけないよ。
ええい!うるさいわい!
ワシは、そしてもう私も剣なのじゃ。
剣は斬るものじゃ。
そうかな?
ワシもわかってるんでしょ?
感じてるんでしょ?この世界に漂う魔力を。
私達の性質はもう魔王の力でネジ曲がってる。
もう主様の時代のようには出来ないと思うよ。
ふん!
切っても死なぬのならば何度でも楽しめるということじゃ。
それもそっか。
じゃあ、獲物がいる内にいっぱい楽しもっか、そしていっぱい気持ちよくなろ。
私は先程自分の身体に刃を突き立てた時の快楽の虜になっていた。
ワシが思い出さずともワシの主や以前の宿主たちの人を斬る快感を何度も思い出してその度に股を濡らして感じている。
左手はビチョビチョの股を常にかき回している。
汚らわしいにも程があるというものじゃ。
ふふ。そんなに嫌なら魔王を斬りに行く?
でも、私は好きだよ。気持ちいいし。
ぐぬぬ、憎い。
歪だとは理解できるのに嫌悪感の湧かない思考が憎い。
そぉ?相手を傷つけて殺して喜ぶよりも、快楽で動けなくして自分も気持ちよくなれるほうが素敵じゃない。
…それもそうじゃのう。
ほら、じゃあいっぱい斬ってあげようよ。
そうして右手にワシの刀身を現す。
ワシと私の融合が進み、その姿はさっきまでとはすっかり変わってしまっている。
主の持っていた頃の断ち切ることに特化した細くスラリと長い刀身は見る影もなく、まるで斧のように巨大で、死神の鎌のように湾曲した刀身。
これが私か…。
歪で醜い、不格好で不必要な剣。
いずれ時が経てば形も変わる。
人は成長するものじゃ。
むぅ…。
じゃあ経験値を稼ぎに行きましょう。
私は封印の部屋の扉を開き、最後に部屋の中を見渡した。
やっと、出られるのじゃな。
そうね。早く外にでて、新しい主様を探しに行きましょう。
ん?
私は次の主様を見つけるまでの繋ぎでしょ?
大丈夫だよ。もう私は貴女に混じってしまったから、この身体を捨ててももう悲しくないよ。
私は本当に変わったやつじゃ。
風化した扉は部屋を出た後しばらくして崩れ落ちた。
16/07/11 07:49更新 / ひつじ
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