連載小説
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寄生事実
「戦が始まるぞ!!」

豪快な男の声が響いた。

――ドクンドクン

主の心音がいつもよりも楽しそうに響く。

「ついに来たのか。この時が」

我が主がこらえきれずに口を開く。

「ああ。人間、魔族、神族入り乱れての大戦だぜ。それもかつてない規模だ!」

まるで子供がはしゃいでいるような楽しそうな男の声。

「ふふ…ふははははは。ああ。今程うぬの配下でいてやってよかったと思ったことはないぞ。魔王よ」

男と一緒になって少女のような喜びの声を上げる我が主。

「はぁ…。何を喜んでいるのですか?そこのバカ×2。どう考えても劣勢は免れませんよ?どう考えても喜んでいる場合ではありません」

そんな2人を冷静に嗜めるのは魔王の軍師の優男。
しかし、そんな軍師の言葉に『空気の読めない奴』とでも言いたげな男女の声。
無論、我が主とその王、魔王だ。

「アホか?うぬは。この馬鹿王はともかく、ワシが馬鹿なわけがあるか」
「そうだぜ。俺はともかく、馬鹿なこいつが喜ぶのは仕方ねぇことだぜ」

噛み合っているようで噛み合っていない会話。
そして、悲しいことにこの場にはツッコミは1人しかいない。
同時に2人のバカの相手をすることはできないと悟ったのか、軍師はため息を一つ、そして話を変えた。

「分かりました。あなた方の気持ちは尊重しますよ。私はあなた方の軍師だ。はぁ。全く。どうしてこんな王に仕えてしまったのか。世界中で一番愚かな者は自分なのではないかと思ってしまいましたよ」
「ギャハハハハハハ。つまりテメェも馬鹿だってことだ」
「おい、うぬ等と一緒にするな。ワシは馬鹿ではない」

この言葉を聞いた軍師の内心はその表情を見なくとも分かる。

「…っ…ふぅ…。ともかく。状況が大戦に移行したということは、この後の状況は約束の通り、ということでよろしいのですね?」

苛立ちを飲み込みながらも冷静に話をする軍師の声に、興奮気味に魔王が言う。

「ああ。テメェとの約束通り、この戦で俺が死んだら、次の世はお前の方でうまくまとめてくれや。俺やこいつは所詮壊すことしかできねぇ馬鹿だ。創るのはオメェに任せるよ」
「うぬが死ぬか?その約束が果たされるようには思えん」
「ギャハハハハ。違ぇ無ぇ。俺もテメェが死ぬとは思えねぇ」

そんな騒がしい2人に少し嬉しそうな声。

「ええ。私もそう思います。願わくば、この3人でもう少し長くこの景色を見ていたいものです」

その時のワシには見ることはかなわなかったが、そこにいた3人にはきっと、同じ景色が見えていたに違いない。



――その半年後、ワシは主を失った。


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