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蠍火 |
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戦火が全てを焼いていく。
長年住み慣れた町が、山が、家が、人が。 私は成す術無くそれを見捨てる事しか出来なかった。 私が馬に乗ろうと鐙を踏む。 しかし、どんなに地を蹴ろうとも右足が上がらない。 まるで何かに縛り付けられでもしたかのように。 「言ってしまわれるのですか?兄様」 「なっ!?」 私は声のする方を見下ろす。 妹はコケに埋もれるかのように横たわり、頭から黒い血を流して黒い瞳で私を見つめる。 見れば妹が私の脚を掴んでいたのだ。 「生きていたのか!」 「兄様、私を置いていかないでくださいまし」 「ああ、置いていきはしない。もう大丈夫だ、さぁ、今すぐに安全な場所へ」 私は鐙から足を下ろして妹の身体を抱きかかえる。 「もう大丈夫だ」 「どこにも行かないでくださいまし」 「大丈夫だ。私はお前と共にいる」 「ずっと、ずっと一緒にいてくださいまし」 「ああ」 「ずっと、ずっと、ずっと、ずっとずっとずっとずっと………」 次の瞬間妹の身体が腐り落ちる様に崩れ落ちていく。 真白い美しい顔は酷く爛れ、皮膚が流れ落ちる様に溶けだし、同じように全身が爛れ落ちる。 「ひっ!」 私は思わずその手を放してしまう。 「どこにもいかないでくださいまし」 ――どこにもいかないでくださいまし… 妹の身体が燃え上がる。 炎に包まれ骨だけとなった妹が私にすがりつこうと動き出す。 「どこにも…」 その瞳には大火の如き赤を湛え、それは涙を流すように流れ落ちた。 |
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