連載小説
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第十七話 素顔の王

私はベッドの上ですやすやと眠るお姫様を残し、部屋を出た
身体にはまだ甘い痺れが燻ってる
クリスの魔力を感じる
たまには女同士もいいものね
でも、やっぱりニアには敵わなかった
ふふ
まるで私の身体、ニア専用に作り変わったみたい
それがなんだか嬉しい

でも
今はまだ
もう少しだけ

――キュゥ…

魔力を身体に纏わせて
姿を隠していく
手足が伸びて
視界が高くなる

「ふぅ…」

仮面を取り出して
冠る

「あともう少しだ…」

そう
もう少しだけ
私は王でいなければいけない
ニアはきっと魔界との協定を成功させてくれる
なら、私は人間の
フリーギア、そして聖教府と条約を結ばなければ
永世中立国家
それが私の目指すもの
しかし、武力や暴力に頼るのではない
もちろん、最低限の武力は維持する必要があるだろう
だが、この国は他国への侵攻は行わない
そして、法により他国からの侵攻も受けることはない
故に中立
そう
それこそが私の描いたこの国の理想像
それはまだまだスタートに立ったばかりなのかもしれない
でも、やっとスタートに立ったのだ

「さて。もうひと頑張りだな」

私は気を引き締め、部屋を出た





しかし
事態は思わぬ方向に進んでいた

「何っ!?それはどういう事だ!!?」
「どうもこうもねぇよ!フリーギアの野郎が裏切りやがったんだ!」
「陛下。どうなさいますか?」

私の耳に入ってきたのはフリーギアが一時避難をさせていた私の民の一部の返還を渋っているとの話だった
正直予想外の事だった

「現状返還された国民の数は?」
「男性を中心におよそ2万が…。しかし、『未だに魔界からの侵攻の可能性があり、女子供は危険が取り払われるまでの間返還は行わない』との通知が」

文官からの報告を聞く
私は怒りで腹が煮えくり返りそうだった
それはどうやらバラガスも同じな様で

「それじゃあフリーギアの奴らは女子供を人質に取ったのと同じじゃねぇか!」

確かにその通りだった
恐らくは奴らの狙いはその民を人質に、あちらにとって有利な条件を飲ませるという事だろう

「くそ!元老院の連中か…。まさかこのような手で出てくるとは。…すまない。私が迂闊だったのだ。策のためとはいえ、昨年まで戦をしていた国などに民を預けたばかりに…」

私は不意に悲しくなった
私は最善の策をうったつもりだった
しかし、それがまさかこんなところで仇になるとは…
私はあの時の己を振り返り、机の上に目を落とした
その時だった

「馬鹿野郎。何しょげてやがるんだ?おめぇは間違ってなんかいねぇよ。おかげで民への被害は最小に抑えられた。城への誘引も成功したし、街もきれいなままだ。おめぇがするべきはヘコむ事じゃなくて、これからどうやってフリーギアの奴らから民を取り返すか考える事だ」

バラガスが私に向かって大きな声を出した
すっと
胸が軽くなり
暖かいものがこみ上げた
ぐっと
目に力を入れ
そして顔を上げた

「ふむ。そうだな。わかった。今日にでも私がルキウスに話を付けに行く。バラガス。悪いがお前もついてきてくれるか?」
「あのいけすかねぇ野郎かよ…」

バラガスがあからさまに嫌そうな顔をした
ふふ
頭よりも拳でものを考えそうなバラガスにとってはあの男はまさに正反対だろう

「そういうな。あれでもフリーギアの若き王だ。しかし気を付けろ。あやつはあれでも頭の切れる男だ」
「はぁ…。わかったよ。あんたが俺を頼ってくれるなら、俺は嫌だとは言わねぇよ」

ふっと、バラガスが笑い、言ってくれた

「ありがとう。バラガス」
「つうわけだ。みんな。俺とシェルクでフリーギアの奴らに話を付けてきてやる!お前らは大船に乗った気持ちで待ってろ!」

バラガスが意気込む
と、バラガスの言葉に、文官の一人が言った

「フリーギア王を拳で説得。なんてしないでくださいよ?バラガス元帥?」

とたん、先ほどまで暗い空気の流れていた会議室に明るい笑いが上がった

「安心しろ皆の者。バラガスを使うのはあくまで最終手段にするさ」

私も便乗して言った

「シェルクまで!?おいおい。お前ら、俺をなんだと思ってやがるんだ!?」

会議は笑顔で締めくくられた





会議室を出ると、私はバラガスを連れて部屋に戻った

――ポン

私は魔法を解いて元の姿に戻った

「ふぅ…。身体が軽いな。ずっと魔法で変装しているのも肩がこる」
「おいおい。もうすっかりその姿が板に付いちまってるな…」
「ふふ…。どうだ?愛らしいだろう?いくら魔物だからと言って欲情などするなよ?」
「誰がそんなガキの身体に欲情するかよ」
「ふふ。そうだったな。お前はカロリーヌの豊満な身体に夢中だからなぁ」
「なっ!?う、うっせぇよ…」

バラガスが顔を赤くしてそっぽを向いた
私はそれを見て声を出さずに笑った
…と、バラガスが突然まじめな顔で言ってきた

「おい。大丈夫なのか?あの場ではああ言ったが、俺はあのルキウスって男はいまいち信用ならねぇ」

バラガスは少し心配そうに言った

「大丈夫だ。あいつは賢い男だ。それに私の考えも理解してくれている。きっとどうにかなるさ」
「そうか?まぁ。お前が言うならそういう事にしておいてやるけどよ…」
「ルキウスも前王の時代から残る元老院のジジイどもには手を焼いているのさ。ああいうジジイは悪知恵ばかりが付いているからな」
「いや、あの野郎もなかなか悪知恵が働きそうな気がするぜ」
「ほぅ…。それはなぜだ?」
「あの野郎は…おお。そうか。わかった」

突然バラガスは何かひらめいたように手を打った

「ん?どうしたのだ?」
「あの野郎、お前に似てるんだよ!あの笑い方。それに性格の悪さ!」
「む…。それはどちらをけなしているのだ?」
「はは。そりゃあもちろんお前だよ」
「むきぃぃぃ!!バラガスのくせに生意気なぁ!」

言ってから、ふと思った
変身を解いたせいか、少し仮面が脱げかかっている

「ははっ。まるで本物のガキだな」
「むぅ…。これが本当の私なのだ」

そう答えて
途端に恥ずかしくなった
ニア以外の男に仮面の下を見せるのは初めてだった

「ははは」
「笑うなぁ!仕方ないんだ。魔物化の影響で気を抜いたらすぐに仮面が脱げちゃうの!」
「いや。すまねぇ。そうか「仮面」なぁ…」

バラガスは少しさみしそうな顔をして、頬を人差し指で掻いた
バラガスが照れ隠しの時によくやる仕草だ

「何か言いたい事でもあるの?」

私はじ…っとバラガスを睨んだ

「お前がさ。やっぱり俺らと同じ人間だったんだなって、思ってな」
「ん?私はもう魔物だぞ?」
「そうじゃねぇよ。覚えてるか?俺とお前が初めてであった日の事」
「ふふ。馬鹿にするな。飛んでいた雲の数まで覚えてるぞ。馬鹿に声のでかい男が突然勝負を申し込んできてな…ふふふ」
「ああ。で、その男はそのあとコテンパンにそのムカつく女にやられちまうんだ」
「む…。その後そのカラばかりデカい男は突然頭を下げて言ってきたんだ。「お前に惚れた!仲間にしてくれ!」ってな」
「「お前の“腕に”」が抜けてるぞ」
「大して変わらないでしょ?」
「大違いだ。馬鹿野郎」
「ああ。そうだったわね。その男はその後仲間になった魔導師に一目惚れしちゃうんだもんね」
「馬鹿…。一目惚れじゃねぇよ。っつか、からかうなよ!」
「ふふふ。いいじゃない。恥ずかしがることでもないでしょ?」
「…で、男はそのムカつくジパング女と付き合ううちに思うんだ。こんな完璧な強さを持っている奴なら、きっと俺の拳でも砕けない壁をぶった切ってくれるんだろう。ってな」
「それは何度も聞いた話ね」
「ああ。でも、この後の話は初めてだろう?」

バラガスは柔らかに微笑むと、語りだした

「その女はある日突然王になる。そして、男はその王の下で働くうちに思うんだ。この王はどうしてこんなにも完璧でいられるんだ?もしかしてこいつは俺が思っているよりもずっと化け物で、魔物なんかよりもずっと恐ろしいものなんじゃねぇのか?ってな」

バラガスの力強い瞳は私を見据えていた
私はその言葉を驚きと一緒に飲み込んでいた

「でもな。最近になって、やっとわかったよ。その王は化け物なんかじゃなかったんだな。ただ、ずっと無理してただけだったんだ。そいつも俺らと同じ人間で、完璧なんかじゃ、ちっともなかった」
「……私は、自分が完璧だなんて思ったことなんて一度もないよ」
「ああ。その王が、ガキみたいな姿になって、ガキみたいに泣きじゃくって、ガキみたいに笑って。初めて分かった。こいつはただ一人で戦う事しか知らなかっただけなんだってよ。強すぎただけの、ただのガキだったんだ、って」

じわりと…
あたたかいのかつめたいのか
よくわからない何かが胸の中に浸み込んできた
そして、子供の頃に聞いた、あの言葉を不意に思い出す
病の父上が残した言葉

「私は…。父上に言われたんだ。

『椿。お前は強い。お前は賢い。お前は美しい。お前は、この世界のほとんどの人間が望むものを持って産まれた。これは大変なことだ。誰よりも強き者は、誰よりも護らねばならない。誰よりも賢き者は、誰よりも導かねばならない。誰よりも美しき者は、誰よりも気高くあらねばならない。お前は、それら全ての業を背負わねばならない。並大抵の事ではない。しかし、それが運命というものだ。お前の持って生まれた“命”(めい)なのだ』

その言葉は、長い間…私の生きる理由となった。思えばあの頃から冠ったままの仮面の下で、私はずっと子供のままだったのかもしれないわ」
「……そうか。親父さんの遺言で…」

バラガスが神妙な顔で言った

「…いや、まだ生きてるんだけどね」

が、私の言葉でズッコケる

「生きてるのかよ!」
「誰も死んだとは言ってないわ。ただ、その言葉と引き換えに私は朔夜紫電流を継いだの。私に当主を継がせた後、父上は突然母上を連れて旅立ったわ…。あの人ももしかしたらずっと仮面をかぶっていたのかもね」
「なんかお前の親父さんの性格が想像ついちまうな…」
「へぇ、どんな?」
「きっと今のてめぇと一緒だよ」
「ふふ。そうかもね」

そうね
きっとそう
あの時の父上は、きっと今の私と同じことを考えていたんだ
私もきっと…






その後、私はしばらく仮面を心に仕舞い、バラガスと会話した
今まで一番近くに居てくれた男と
今までで一番近くで会話した

12/07/25 18:54更新 / ひつじ
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■作者メッセージ
おひさし
実はまだ書き溜まっていません
言い訳をさせてください
シェルクさんに色を塗っていました
服としっぽと聖剣以外は塗れました
そしてそこでダレました
だってめんどいねん!
おま、あれやで?うまい人はええで?サラサラ〜て描いてするする〜って塗って「ね?簡単でしょ?」
簡単ちゃうわ!
こちとら1年半ぶりやねん。おニューのパソにSAI入ってへんねん。おかげで後19日以内に描きあげんと実家帰らな描けへんようになるんやで?
お試し版やし

さて、話の方は中だるみ感が否めませんね
展開を急ぎたいね
でもね、安心して。次の次の話からまた転がるから
そしたらもうたぶん終わるから

「ひつじよ。お前はエロい。お前はゲスい。お前はヌルい。お前は社会から見ればゴミに等しい。それは変態なことだ。誰よりもエロいものは(ry)お前は書き上げねばならん。さもなくば今まで途中で投げ出してきた作品のキャラ達からいずれ呪われてしまうぞ?いいか?それがお前の背負うべき業だ」

……うん。頑張る…

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