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第三話 思案の夜

私はシェルクちゃんの作戦通り右翼の宣戦を維持しながら兵士さんたちの援護をしてたの

「えっと、そっちはどぉ?」
「やや押されてはいますが、魔導兵隊の援護のおかげでどうにか戦線は維持できています!」
「えっと、えっとぉ…シェルクちゃんの合図が上がるまでもう少し頑張ってねぇ」

どうしよぉ
兵士さんたち、頑張ってくれてるけど、早くしてくれないとちょっと大変だなぁ
ん〜

――パァン!!

あ、花火!
やったわぁ
やっと来たぁ
えっと、えっと、

「みんなぁ〜!作戦開始ぃ〜〜!動いてねぇ!!ちゃ〜んと私たちが援護してあげるからねぇ〜」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



『バフォメット様、いい感じです!敵左翼、徐々に後退していきます!』
「『うむ、して、どれぐらいの被害を与えられたのじゃ?』」
『はい。それが…敵の魔導兵が多くて魔法で援護されちゃって、うまく逃げられちゃってます。私たちも耐魔魔法で応援してるんですけど、数が違いすぎて…』
「『うむ。仕方がないのじゃ。とにかくそのまま押し込んでいくのじゃ』」
「ふふふ。やっぱり私の策に間違いはなかったのね。どう?バフォメット?」

クリステアが自慢げに言ってきたのじゃ
はぁ…
まぁ、しかたないのじゃ

「うむ。確かにその通りじゃの。よしよし」

儂が心の中で半分馬鹿にしつつクリステアの頭を撫でてやる
すると…

「えへへ〜。わ〜いわ〜い。バフォメットも褒めてくれた〜!うふふ」

――ピクピク

ん!?
儂の“かわいいものせんさぁ”に反応が!?
いったいどこから!?

「ふふふ。もっと褒めても良いのよ。えっとね、えっとね、できればキュウってしてもいいのよ?」
「…………」

――ピクピク

いや、そんな馬鹿な…なのじゃ
こんなわがまま姫がかわいく見えるわけ…

――ピクピク

「………(キュウ)」
「えへへ〜あったか〜い」

――ピコーンピコーン

あれ?おかしいのじゃ
いや、だってこんな…
このクリステアがかわいいわけが…

「ん〜ごろごろ〜」

儂の腕の中でのどを鳴らすクリステア

――ピコーンピコーン

「儂のわがまま姫がこんなにかわいいわけがないのじゃ!!!」

認めない
認めないもんね〜
そんなはずないのじゃ
だってあのクリステアじゃぞ?
だってそんな…

「ん?どうしたの?バフォメット」
「べ、別にあんたがかわいいなんて思ってないんだからね!!」
「???」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「左面、少し下がってんぞ!気合入れやがれ!お前らの背中にゃてめぇらの家族の生活がかかってんだぞ!男見せやがれ!」

俺は中央の兵たちを指揮しつつ、捌ききれない大物の魔物たちの相手をしていた
流石にシェルクみてぇにドラゴンなんて化け物は倒せねぇが、それでも上位のサキュバス程度なら何とかなる
それに厄介な鳥共が飛んでこなくなったのはずいぶんと助かる
しかしシェルクのやつ、あのデケェ花火をあんな風に使うとはな
あんなスゲェ策があんならちゃんと言ってくれりゃあ良いものを
まぁ、しかしあいつらしいっちゃあらしいが
『私を信じろ』か…
ああ。信じてるぜ
女王様よぉ

「いいか!俺たちはけっして劣勢じゃねぇ!お前らが押して押して圧しまくれば絶対に勝てる!お前らはこの戦いに勝利して、そんでもって逃げ出しやがった腰抜けどもに言ってやれ!『俺たちは英雄だ!』俺たちは騎士王シェルクの常勝軍だ!誇りを持って戦い抜け!」

「「「「「オオオオォォォォォ!!」」」」」

兵士たちから気合の声が上がる

――パァン!

と、その時、城の方から合図の花火が上がった

「よっしゃぁぁぁぁぁ!!来たぞ!野郎ども!お前らの力、見せてやれ!」

俺は喉を吐き出すほどの大声で叫ぶ

「「「「「ゥオォォォォォ!!」」」」」

兵士たちが集まり、盾を重ね合わせて巨大な壁になっていく
最前の兵が肩に盾を固定しスクラムを組み、その後ろの兵が上部に盾を重ね、護る
そして、後部の兵達がその体を両肩で押す

「行くぞぉ!斜め右へ前進!!いけぇぇぇ!!」

「「「「オォォォオオ!」」」」

――ズン
――…
――ズン

何百もの兵の足音がそろい、地響きを鳴らす
巨大な兵の壁が魔物どもをまとめて押しやっていく


――ドパーン!

と、上空で巨大な爆発音が響く

「「「キャァァァ!!」」」

魔物どもの悲鳴が上がり空から魔物が降ってくる

「ぅおっ!?空から攻撃が来てたのかよ。あっぶねぇ。ナイス援護だぜ」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「ふふ。バラガスめ、案の定熱くなりすぎておったか?」

私はバラガス率いる重装歩兵団の方を見ながら笑いをこぼした

「こちらシェルクだ。いい援護だ。その調子で空からの魔物は花火で落としてやれ」

さて、左翼、中央が動き出した
後はこちらが包囲陣を利用して押し込んでいくだけだな

「ふぅ…このままうまくいってくれるといいが」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「『な、なんじゃと!?我が軍が左翼方向へ押し流されている!?』」
『は、はいぃ…。中央の敵歩兵団がまるで壁のように迫ってきて、ミノタウロス隊もデュラハン隊も身動きが取れないまま押し流されてます!!このままじゃせっかく左翼が引いてくれたのに、みんな左翼に流されちゃいますよぅ!』
「ど、どういうことだ!?バフォメット…」

クリステアが不安そうにこちらに尋ねてきおった
そんなのこちらが聞きたいのじゃ
おかしいのじゃ
こちらが左翼に戦力を集中させるや否や、まるで敵がそれに合わせたかのように動いておる
まさか本当にシェルクはこちらの軍の動くタイミングをすべて予想しておるというのか!?
馬鹿な。いくら奴が天才と言えどそのような事できるはずがないのじゃ
しかしこのような敵軍の動き
寸分の狂いもなくこちらの兵の動きに合わせているとしか思えん
なぜじゃ!?
なぜ奴は儂らの考えが読めるのじゃ!?

「ちょ、ちょっと!バフォメット、まずいわ!このままじゃ海岸へ兵が流さて追い詰められちゃうわよ!?そうなったら…」
「そうなったらこれはもはや戦ではないのじゃ…。これは奴の包囲殲滅作戦…。そんな馬鹿な…。奴は初めからすべてこちらの動きを知っておったのか!?奴は預言者だとでもいうのか?そんな人間がいるわけがないのじゃ…」
「で、でも、これじゃあまるで…」
「こちらの軍の全てが奴の掌で踊らされておるようじゃ…」

儂は混乱しておった
長年生きてきたがこんな戦は初めて見たのじゃ
全てがすべて
やることなすこと全部が奴に見抜かれておる
そしてこちらの動きを逆手に取るように的確に奴の手足と動く兵たち
僅か3000の兵に10000がいいように操られる
サバトで多くの魔女たちを見てきた儂でさえ奴をこう言うしかない

「奴は魔法使いか?…」

まるで奴の魔術に操られているかのように戦局が変化していく

そして――

「ほ、包囲が完了した……」

最早絶望的な状況じゃった
見る見るうちに兵が倒れていく
砦には次々と怪我を負った魔物たちが運ばれてくる

「そ、そんな…馬鹿なことって…」

クリステアが震える
儂も言葉が出なかったのじゃ
これは本当に人間の仕業なのか?







――ザァァァァァァ……

状況を打破できたのはこちらが約半数の兵を失った頃じゃった
偶然降り出した雨が奴らの足元を掬い、そこから包囲を抜け出し、こちらは攻めに転じた
しかし、まるでそれすらも察知していたかのように、ひらりひらりと攻撃を躱され、奴らにまともなダメージを与えることもできず、ガラテア城へ撤退された
クリステアは当然追撃命令を出そうとしたが
あまりに潔い撤退に儂は奴がまだ何か仕掛けてくる気がしてならなかった
何よりガラテアに入れば奴のテリトリー
そこに士気の下がった兵たちを攻め込ませるのはあまりにも危険じゃった
儂はごねるクリステアを無理やり黙らせつつ、兵を撤退させた
今日のところは明らかな敗北じゃった

「て、敵軍の被害、およそ300。それに対し、我が軍の被害はおよそ…およそ5500…。せ、戦死者こそほぼ出ていませんが、皆重度の怪我を負っています。戦線に復帰できるのは…」
「そうか…もう下がってよいのじゃ……」
「は、はっ!」

デュラハンの娘が下がると、儂はがっくりと項垂れた

「ど、どうして…どうして魔物の私たちが…こんな…こんな……」

クリステアのダメージはどうやら儂の比ではないようじゃった
普段はやかましいばかりのリリムは嘘だ嘘だとつぶやきながら頭を抱えておった

「儂らは有意な戦力と、儂ら自身の力に溺れ、油断しておったのじゃ。そして、儂も想像もしておらんかった奴の恐るべき才覚。すべてが悪い方へ転んだ結果じゃ」
「こんな…人間ごときに私が……」
「その驕りは今日のうちに捨てておくのじゃ。奴はもはや人間ではないのじゃ。儂らですら及ばぬ化け物じゃ。今日は兵たちを休ませるのじゃ。明日からはおそらく攻城戦になる。そうなれば今度はこちらが不利となろう。儂やお主が戦場に立たねばならんじゃろう。覚悟しておくのじゃ」
「わ、分かってるわよ!この私が出るの!明日は、明日は負けないわ!絶対にこの手であいつを蹂躙してやるの!力の差を思い知らせてやるわ!」

吠えるように言うクリステア
なるほど
恐らくは心に負った傷は相当なものじゃろう
しかし、それでも吠えるこやつの強さ

「『おバカさんで頑張り屋さん』か。期待しておるぞ…」

儂は自分の部屋へ向かった



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「「「「「カンパーイ!」」」」」

城内では初日の勝利を祝い、宴が行われた
先ほどまで疲れ果てた顔をしていた兵たちに笑顔が戻った
みな、恐らくは恐怖していたのだろう
ただでさえ大きな戦力差
その上に直前に多くの同胞が逃げ出して…
何とも可愛そうなことをしてしまった
いや、しかしまだこれからだ
ここまでは作戦通り
問題となるのは戦力として未知数のリリム、そしてバフォメットが出てきてからだ
私は浮かれる兵たちの声を背中で聞きつつ、書斎へと戻った





『ああ。そうか。そちらはうまくいっているようで何よりだ。うむ。そうか。それはよかった。こちらも準備は着々と進んでいる。…ああ。では決行は後日知らせるが、恐らくは明日だ。そちらはいつでも出兵できる準備をしておいてくれ。ああ。わかっている。約束だからな。しかし、こちらの約束も守ってもらわねば困るぞ。…ああ。たとえ私がいなくなっても、この国の民は強い。ふふ。冗談はよせ。もしもお前がこの国に牙をむくならば、私はたとえ魔物になってでもお前を殺してやるぞ?ははは。そうだな。ああ。もう決めたことだ。何を言われても逃げはしないさ。ははっ、私が悪魔ならば魔王はいったいなんだ?ハハハハハハ。確かにそうだな。娘があれほど美人なのだ。もしかしたら本当に聖者のようなやつかもしれんぞ。ああ。なぁに。昨日の敵は今日の友だ。明日もお前たちが友であり続けてくれることを信じている。では、また…』

私は通信機を切ると、ベッドに腰掛けため息を吐いた
あの男…
私の事を好いてくれるのは嬉しく思うが、正直、あまりタイプではない
そんな事を思っていると、あの少年の顔が思い浮かぶ

「ニア……」

ふと、寂しさがこみ上げる
もちろんあの少年がヘマをやらかすなんてこれっぽっちも思っていない
しかし、どちらにしても下手をすれば明日にでも私は本当にあの少年とは会えなくなってしまうかもしれない
瞳に力を込める

「いかんな。弱気になっては。自分が自分を信じなくていったい誰が自分を信じてくれるというのだ。そのために捨ててきたのではないか…」

さて、作戦決行前の最後のひと仕事をせねばな
奴らはどんな顔をするだろうか
まさか泣きはしないだろうな
そんな事をされては、決心が鈍る…


12/07/30 22:18更新 / ひつじ
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■作者メッセージ
さて、シェルクさんの策略が本格的に動き出した模様です
果たしてシェルクの策略の真意とは?

あれだろ?ロリショタ王国の建国とかだろ?
あれ?そんな魔物どっかにいたような…
意外にも彼女と彼女は似た者同士なのかもしれませんね

さて、話は変わりますが
ひつじは今まで「プロット」なるものの存在を知りませんでした
で、プロットのことを少し調べてみました
プロット
そうか、これは大切ですね
でも、安心しました
健全な男子たるものみんな中ニぐらいから自然にたてている
僕もこれからはプロット勃ててシコシコ頑張りたいです
プロット気持ちいいよプロット! ハァハァ

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