連載小説
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第四話 シェルクの罠



「いい!?我が軍はあれだけ危機的状況に陥りながらも、実力で奴らを城へ追い込むことに成功したのよ!昨日の戦いはけっして敗北ではないわ!今日の勝利のための布石なの!声を挙げよ!剣を持て!愚かにも我らに噛みついた駄犬に我らの本当の恐ろしさを教えてやるのよ!」

「「「「「おおーーーー!!!」」」」」

昨夜あれほど落ち込んでおったやつが、これだけの鼓舞ができればもはや褒めてやるしかないじゃろう
相変わらずの物言いじゃが、決して悪くはない
さて、儂もボケてはおれんぞ

「バフォメット様、大戦鎌をお持ちしました」
「うむ。まさか儂にこれを握らせるものが再び現れようとは…。恐ろしい娘じゃ。なんとしても奴は生かして捕えねばな…」

儂は手渡された大鎌を握りしめた

「ねえ、バフォメット。準備はできてるんでしょうね!?」
「ああ。もちろんじゃ。流石に姫を泣かせてしまっては儂もプライドが保てんからのう。無事に勝利できたらリスティアにちゃんと言っておいてやるのじゃ」
「うふふ。おねぇちゃん、ちゃんとほめてくれるかなぁ〜?」

――ピクピク

「そ、そうじゃのう。きっといっぱい褒めてくれるのじゃ」
「よ〜し。がんばるぞぉ!」
「うむ」
「で、バフォメット。今日はどうするの?あいつら、攻めてくる気はないみたいだけど」
「そうじゃのぅ。昨日あれだけの動きをした兵たちじゃ、恐らくは防衛に徹し体を休ませつつ回復と次の策を図っておるのじゃろう」
「どうするの?こっちから攻め込む?」
「うむ。少し危険な気もするが、このまま距離をとっておっても埒があかん。それに、もし援軍など呼ばれたならば一挙にこちらが不利となってしまうじゃろう。そうなるとあまり長引かせるのは得策とは言えぬ」
「あれ?でも、援軍はこないんじゃなかったの?」
「そうとも言い切れぬ。人間とは姑息な生き物じゃ。恐らくは聖教府の連中は不利と見て兵を出し渋っておったのじゃろうが、もしシェルクが我らに拮抗する力を見せつけた上で再度援軍を要請したならば、腐った枢機卿の連中も功を掠め盗ろうと喜んで援軍をよこすじゃろう」
「じゃあ、あいつはそれを狙って防御に回ったっていうこと?」
「昨日のあの迅速な撤退は何かの準備のためとしか思えぬからのう。しかし、分からぬ。民を誇りだと言っておったあの女が、わざわざ戦線を下げ、街までも戦渦に巻き込むような策を取るとは思えんのじゃ。よほどの事情があるのか、もしくは街でしか展開できない策があるのか…。おそらくは後者じゃろうな」
「街でしか展開できない策?」
「うむ。そうじゃのう。考えられることとしては、民をあらかじめ逃がしておき、街中の狭さと地の利を活かしての局地戦の展開。そうなれば街中は罠がそこかしこに仕掛けられておることじゃろう」
「じゃあ街中へ攻め込むのはまずいのね」
「うむ。部下たちの情報によれば、この海岸から回り込めば直接城を叩くことができるはずじゃ」
「そう。じゃあ、一気に攻め落としちゃいましょ」
「待つのじゃ」
「え?何よ?」
「海岸を通るということはまた昨日のように周囲を包囲されやすくなるということじゃ」
「じゃあどうするのよ!?」
「安心せい。こちらも策は練っておるのじゃ。昨夜、サバトの海淵支部に話をしておいたのじゃ。もうしばし待てば海からの応援が駆けつけ…いや、泳ぎつけてくるじゃろう」
「そうか、海と陸の両方から叩くってわけね」
「うむ。うまくいけば逆に奴らを包囲して昨日の仕返しをしてやることも可能じゃ」
「すごい…」
「ん?どうしたのじゃ?」
「あ、ううん。あんたの事、ちょっと見直したわ」
「………デレた…?」
「ハッ!? ふ、ふん!ば、ばっかじゃないの!?なによ、ちょっと褒めてあげただけでいい気になって…。べ、別にあんたの事なんか全然まったくこれっぽっちも好きじゃないんだからね!勘違いしないでよね。このちびっこもふもふヤギ魔人!!べぇ〜っだ!」

――ピコーンピコーンピコーン
――緊急警報 緊急警報
――かわいいものせんさぁ反応が危機領域に達しました
――危険です ただちに避難してください

うおぉぉぉぉぉぉ!
儂の“せんさぁ”(あほ毛)が光って唸る!
こやつを愛せと轟き叫ぶのじゃ!
いくぞ、今、必殺の!!
ロリビィィィィィィm

「あのぉ、バフォメット様?お姫さま、もう行っちゃいましたよ?」
「え?あ、あれぇ!?ま、待つのじゃぁぁぁ!」








「いけ!今じゃ!飛行部隊!内側から城門を開放するのじゃ!」

――がちゃ…

攻城戦は順調に運んでおった
こちらの被害は100ほど
そして城門が開いたとなればもはや手こずる心配もないじゃろう
しかし、儂は逆にそれが腑に落ちなかったのじゃ
昨日あれほどの苦戦を強いてきたシェルクがこれほど易々と侵入を許すはずがないのじゃ
それにここに来るまでに戦った兵は昨日とは比べ物いならないほど簡単に倒す(犯す)ことができてしまったのじゃ
これはおそらくは罠じゃろう
しかし、城をこんな簡単に明け渡しては奴が得することなど何一つないはずじゃ
訳が分からぬ

「注意して!敵はシェルクよ!城内に何があるかわからないわよ!!」

流石のクリステアも昨日で懲りたのか慎重に兵を進める

「よいか!シェルクを発見したらすぐに儂らに知らせるのじゃ!奴はお主らではとても敵わん!なるべく迅速に儂に伝えるのじゃ!」

儂が兵たちに伝えた、その時だった


「なんだ?私を捜しているのか?」


「な!!?」

突然声が響いたかと思うと、城の上部のエントランスから奴が姿を現した

「あんた…!昨日はよくもやってくれたわね!!?私が出たからにはもうあんたの隙にはさせないんだから!さっさと降りてきなさいよ!!」
「あ、これ!待つのじゃ!!クリステア!!」

奴の挑発に乗ったクリステアが城内に飛び込む
昨日の敗北が頭に血を昇らせたのじゃ
そして儂もそれを追いかけ、城内に踏み入った
しかし、それが全ての間違いであった

――ガシャン

突然背後で大きな音がした
城柵が閉まったのだ

「しまった!これは奴の罠じゃ!逃げるのじゃ、クリステア!」
「え!?なに!?」
「ああ。すまない。そう簡単にはいかんぞ?」

儂が慌てて城柵に触れる
しかし

――バチィッ!

「のわぁ!?」

突然体がはじかれて後方へ吹っ飛んでしまった

「お前たち魔物が出られんようにこの城を建てる際から聖教府を脅して設置しておいたトラップだ。言っておくが、お前たちがどれだけ強力な力を持っていたとしても、その結界は滅多なことじゃ破れんぞ?なんせもともとはお前たちの大群が攻め入っても耐えられるように作ったシステムだからな。その結界は私の勇者の加護の力をもとに張られている。私を倒さん限り出ることはかなわんよ。もちろん空からもな」

なんということじゃ
恐らくはこの城の城壁の中に特殊な魔石が複数埋め込んであるのじゃろう
それをすべて取り除くか、本当に奴の言うとおり奴を倒さねば破ることができん

「「「「うおぉぉぉぉぉぉ!!」」」」

城壁の外から男たちの声が聞こえた

「まさか…お主」
「ああ。言い忘れていたが、私の兵の多くは城の周囲に潜ませていたのだ。ふふ。お前たちという司令塔を失った魔物軍はどこまで戦えるか見ものだな」
「な……し、しかしそれはお主も同じじゃろうが!」
「はは。私の軍は私などいなくとも優秀な司令官がいるのだ。それに、もしかしたらフリーギアに“逃げたふりをしていた”兵や、フリーギアの同盟軍が助けに来たりするかもしれぬぞ?」

――ズン、ズン

城門の外から聞こえる戦闘音

「おっと。もしかしたらそうなると、お前たちの兵は数でも負けてしまうのではないか?これは急がないと大変なことになるかもしれんな」

とぼけたように言うシェルク

「お、お主…自らを囮にして…」
「ああ。流石に安い餌ではお前たちは釣れぬであろう?ふふふ。私は釣りの才がないので今までまともな魚を釣ったことがなかったのだが、今日は珍しく大物が掛かったようだ」

自らが囮となったにもかかわらず、あっけらかんと笑うシェルク
しかし、儂らはあの女に2度も嵌められたのじゃ
まさか、昨日の善戦後の撤退は儂らに脅威を与え、儂らをおびき出すための策であったのかもしれん

「ふん。あんたバカぁ?あんたごときが私とバフォメットを相手にして勝てるとでも思ってるの?」
「さぁな。それはやってみなければわからん。ふふ。謁見の間で待っておるぞ」

そう言ってシェルクは姿を消した

「あ!待ちなs…!?」
「待つのじゃ!」
「離しなさいバフォメット!」
「落ち着くのじゃ!」

――ビクっ

儂が大声を上げると、クリステアは静かになった

「よいか、よく考えるのじゃ」
「な、なによ?」
「先ほどはあやつの挑発に乗せられ、このような事態を招いてしまったのじゃ」
「……うん…」

流石に反省しているのか、俯くクリステア

「しかし、よく考えてみるのじゃ。奴がどれほどの兵を城内に残しておるかはわからぬが、数百人もの兵を城内に配しているとはとても思えぬ。それに比べてこちらはこれだけの兵が中に入れたのじゃ。城内だけで考えれば戦力はおそらくこちらの方が上じゃ。落ち着いて攻め込み、シェルクを倒せば城からも出れる。そうすれば儂とお前が力を合わせ、撤退することなど容易いはずじゃ」
「で、でも…」
「気持ちはわかるのじゃ。しかし本当に奴が言ったように増援が来ているのだとすれば、ここから勝ちに持っていくのは難しいことじゃ」
「じゃ、じゃあ兵が減ってしまう前に急いであいつをやっつけちゃえば…」
「奴は謁見の間を指定してきたのじゃ。何か罠があることは明白。下手に攻め込めばお主とて……」
「そ、そんな……」
「安心しろ。奴さえいなくなれば魔王軍はこのような地、いくらでも攻め落とすことができるのじゃ。そのためにはまず、お主が無事にこの窮地を脱せねばならん」
「………わかった」
「うむ。いい子じゃ。ゆくぞ」
「あ、あんたが仕切んないでよ……」

その声にはいつもの元気はなく、不安と驚愕と恐怖で声が震えておった
まったく
素直になれば可愛らしい娘なのじゃが…
儂はほっと溜息を吐くと、少し冷静に考えてみたのじゃ
この結界はどうやら外との魔力のやり取りを阻害するらしい
先ほどから携帯式の魔導式通信機が使い物になっておらんのじゃ
そうなると外とのつながりは絶たれ、外からの援護は望めぬ
城内に入った魔物の数はざっと見て100ちょっと…
もしも奴がそれ以上の兵を城内に潜ませておれば最早本当に儂とクリステアで奴を倒すしかない
普通に考えればそれはさほど難しいことではない
奴は勇者と言えど、所詮は人間
儂一人どころか、まだ若いクリステアにすら力では及ぶまい
しかし、先ほどのあの自信じゃ
間違いなく奴は何か罠を仕掛けているのじゃ
もしかすると謁見の間には魔物の動き、もしくは魔力を封じ込める罠が仕掛けてある可能性もある
そうなると奴の言うとおり謁見の間に行くのは絶対に避けたいところなのじゃ
しかし、そんな罠などちゃんと調べればすぐにわかることなのじゃ
それならば罠をちゃんと解除したうえで戦えば何も問題がないのじゃ
もし本当にそうだとするならば奴の言うとおり儂らはなるべく早く奴を倒し、この城を脱出せねばならない
流石に城に閉じ込められたままで、周囲をすべて囲まれてしまっては儂らも撤退すらきつい状況になってしまう
う〜む
どうすれば…

と、その時じゃった

「「うおぉぉぉぉぉ!!」」

「な…なんじゃ!?」
「た、大変よバフォメット、後ろから人間の兵が襲ってきてるみたい!」
「く…やはりか…。しかしこの声…思いのほか数が多いようじゃな…」
「バフォメット様!ここは私たちに任せて早くあの女を倒してください!」
「し、しかし…」
「バフォメット!!今はどうこういっている暇はないわ!その魔女の言うとおりにするわよ!」
「わ!こら、クリステア!」
「急がないと本当にどうしようもなくなる…」

クリステアは俯いた
どうやら、昨日と今日で、本当に反省しているようじゃ

「わかったのじゃ。しかしクリステア、例えシェルクを見つけても、儂がいいというまで絶対に部屋に入ってはならぬぞ。きっとこれも罠じゃ」
「わ、わかってるわよ…」

儂らは勇者の待つ謁見の間を目指して走り出したのじゃ
12/07/06 08:31更新 / ひつじ
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■作者メッセージ
俺のこの毛(綿毛)が光って唸る!
仕事をサボれと轟き叫ぶ!
いくぞ、今、必殺の!!!
はぁ…
はいはい。行きますよ。
( `д´) ケッ!

ドモメットバフォメット様がクリスにフラグを立てたようです
でもな、リリムと勇者が戦ってんだぜ?このあとの展開はわかるよな?
さて、バフォ×姫VS腹黒勇者、どちらがどのようにして勝つのでしょうね。
次回乞うご期待〜

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