第一話「心を犯す脳姦」
―1―
「ビール六人前、ただいまお持ちしましたぁ!」
ニゲル共和国の北部に位置する町カストレア。そこの小さな酒場“夢見亭”の看板娘エイミーこと私は、今日も酒場で取り柄の元気さで酒場の中を駆け回っていた。店内はお客さんで半分以上席が埋まってて、私一人だとなかなか忙しいのだ。
この酒場をお父さんお母さんと三人で慎ましやかに経営していて、裕福とはいかないけどそれでも充実な暮らしを送っている。
酒場経営は色々な人とお話ができるし、時には旅人がやってきて、ワクワクする冒険のお話も聞けてすごく楽しい。まぁちょっぴりセクハラまがいのことをしてくる常連さんもいるんだけど、そこはご愛嬌。お父さんが懲らしめてくれるし。それでも常連さんは止めてくれないんだけどね。あの情熱はどこから来るのだろうか。
「キャッ!?」
とか思っていたらその噂の常連さんにお尻を触られた。そしてお父さんがカウンター奥からやってきて常連さんの頭をグリグリ。懲りない人だよ、ホント。
やっぱりこの服のせいかな。ディアンドル衣装。お母さんの趣味か胸のコルセットのせいで胸の北半球が露出しちゃってるし、裾まで刳った白ブラウスと、私の髪色と同じ若草色のエプロンにはフリフリがいっぱい。スカートはくるぶしくらいまであるけど、上の防御力が貧弱なんだよね。なのに、この人はお尻ばっか狙ってくるけど。
とは言っても、このやり取りでお客さん皆が笑ってくれて活気づくからいいんだけどね。お尻触られるのはやっぱりヤだけど。
「エイミーちゃんのお尻は年々プリプリしてくるなぁ。肉付きがよく、ててててててて! 旦那! それ以上グリグリされたら脳みそ出ちゃうって!」
私はさっとお尻を隠す。お尻大きくなっているのかな。うーん、ちょっと甘いもの食べ過ぎなのかもしれない。お尻大きい女性って嫌われるかな。
「こんばんはー! ブルーリカーでーすっ!」
酒場の裏口の方から青年の声がした。途端、私はうるさい店内で胸がトクンと高鳴るのを聞く。最近はいつも彼が来る度に、こんな感覚に陥っていた。
「カイトだな。おい、エイミー、納品チェックして来い」
お父さんが首でクイッとしながら裏口へ行くように言ってきたので、私はお盆をカウンターに置いて裏口の方へ行く。最近お父さん、卸しの手伝いをよくさせるなぁ。もしかして、空気呼んでくれているのかな……? まさか、ね。
裏口の前まで行くと、そこに酒瓶が何本も入ったケースを担いだ青年がいた。
いつも優しげな微笑みを浮かべている黒髪の青年。ちょっぴり頼りない感じもするけれど、シャツと長ズボンに紺色の前掛けを着た体格は意外とがっちりしていて逞しい。
「こんばんは、エイミー」
「こ、こんばんは、カイトくん」
夜の挨拶を交わす。つい声が上ずってしまった。変に思われていないだろうか。私を見て、カイトくんは柔和な笑みを浮かべるだけで、特に反応はしてない。よかった、気づかれなかったみたい。
「ちょっと待っててね。すぐ運んじゃうから」
「じゃあ、私、納品チェックするね」
「うん、お願い」
仕事上のやり取りだけまず交わす。入念に私は酒瓶の数と納品数を照らし合わせた。身体がお酒飲んだみたいに火照っちゃってるし、ここは気をつけて数えないと。
「よいしょっと。これで納品はおしまいっと」
「うん、ちょっとまってね。ひぃ、ふぅ、みぃ……うん! 数もバッチリ。ありがとね、カイトくん」
「こっちこそいつもご贔屓に」
カイトくんはこの町の酒屋さんの一人息子で、いつも父に変わって酒を町中の店や商人たちに卸して回っている。誰にでも気さくな感じで、町でも評判はいい。お酒の質も外から流れてくるものより高くて、すごくおいしいのだ。
「ホント、カイトくんのお父さんはいい仕事するよね。常連さんたちは必ずカイトくんとこのお酒を注文していくよ」
「それはありがたいなぁ。……前住んでたとこでは酒場がなかったから細々としか売れなかったから」
前住んでいたところ。五年前、国境付近の小さな村からカイトくんはこの町へやってきた。そこで何があったかは詳しくは知らないけれど、お母さんが不慮の事故で亡くなったらしい。きっと私が想像もつかないくらい悲しい出来事だったのだろうけど、そんなことを全く感じさせないくらい普段のカイトくんは朗らかで優しかった。
でもやっぱり、前いた村のことを話すときはどこか影が見える。辛く感じているなら癒してあげたい、と思うけれど私なんかにできることなんて何もなかった。こうして前に立つだけでも心臓バクバクなのに、気の利いた台詞なんて言えるわけないよ。
「エイミー、今日はここで晩御飯済ませようと思うんだけど、席空いてるかな?」
「え? あ、う、うん! もちろん空いているよ! あ、もちろんって別にいつも席が空いてるわけじゃなくてっ、スカスカじゃないけど今日は大丈夫っていうか!」
しどろもどろになってる私にカイトくんはホッとしたように息をつく。
ホッとしたのは私もだった。
「よかった、エイミーの出す料理はおいしいからさ、席が埋まってたらどうしようかと思ったよ」
直球で褒められて私は一瞬思考が停止した。次いで顔が熱くなる。多分、私顔真っ赤。茹でタコさんみたいに顔真っ赤。そんな私に気づいているのかいないのか、カイトくんは嬉しそうに顔を綻ばせている。
「じゃ、じゃあ、晩御飯準備してくるね! い、いつものでいいかな!?」
「サーモンのマリネとミルクシチューでよろしく」
「うん! 適当な席に座って待っててね! すぐ準備するから!」
私は褒められたことに胸を高鳴らせながら、これは失敗できないなと気持ちを引き締めて調理に臨んだ。
言葉では癒せないけれど、料理を食べている間だけでもカイトくんが辛いことを忘れられるのなら、頑張らないはずがなかった。
―2―
夜も遅くなって、お客さんも落ち着いてきたので私は仕事から上がった。二階の自分の部屋でベッドに寝転がりながら、さっきあったことを思い出していく。主にカイトくんのことだ。
カイトくんが私の作った料理を美味しそうに食べてくれた。あの薄く引かれた唇で私の料理を食べてくれた。ついついじっと見ていたら、カイトくんと目が合っちゃって、「おいしいよ」という感想をもらえる。それがどうしようもなく嬉しくて、暖かくて、私はしどろもどろになって俯いてしまった。
変に思われていないかな。気味が悪い奴だと思われていないかな。私のこと嫌いになったりしないかな。……カイトくん、私のこと好きになってくれるかな。
そんなことを悶々と考えていると、私の指は自然に股の方へと向く。私の指は白の地味な下着の上から、スッスッスと私の秘部を摩る。服にシワがついちゃうなんて気にもならない。
「んん……ああ、ん……」
自然に声が漏れる。自分のものとは思えない淫乱な喘ぎ声だ。こんなの聞いたら、カイトくん幻滅するかな? 嫌いになるかな?
癒したいとか高尚なことを思いながら、カイトくんをオカズにして矮小なことをしている。でもやめられない。この擦っている指がカイトくんのあの指だと思うと、とてもやめられない。もっと擦って欲しい。激しく擦って欲しい。もっと私の秘部を、オマンコを弄って欲しい。
「カイト、くん……直接……」
指が下着を横へとずらす。ああ、私のオマンコが露わになってる。見られてる。カイトくんの優しい目でじっくりとまじまじとねっとりと、見られてる。
指が私のオマンコの陰唇に触れる。濡れてる。下のお口、エッチな涎をもう垂らしてる。いいよ、カイトくん。好きにして。カイトくんの大きいそれで好きに私のオマンコ弄りまわして!
ジュプッ、シュッシュッシュッ。
浅くオマンコの入口を擦る。淫乱な水音が部屋に響く。大丈夫、お父さんお母さんはまだ下でお仕事中だ。誰も聞いてない。聞いているのは、カイトくんだけ。カイトくんだけが私の痴態を見てる。エッチな私のエッチな姿を、優しい目で見つめてる!
ああ! だめ、止まらない指が、止まってくれない! いい! やめないで! カイトくん! そのまま私をイカせて!
「んぐぅっ!?」
指をさらに激しく動かした瞬間、快楽の波が私のオマンコから全身、そして脳みそ全てを飲み込む。ベッドのシーツを噛み、私は声を抑えて、絶頂の快楽を享受する。
ショワーーーー。
理性の欠片もなく、私は快楽に身体をビクンビクンと打ち振るわせた。私のオマンコから、正確にはおしっこの穴からだらしなく黄金色の液体を漏らして、シーツを黄色く汚していく。
カイトくんの指を妄想した、私の指。妄想でこれだけなのだから、カイトくんの本物の指は、そしてカイトくんのエッチな棒はどれくらい気持ちいいのだろう。そんな夢想を、快楽の夢見心地の中で考えた。
―3―
またやってしまった、と私は翌日の朝、自己嫌悪する。あんなはしたないこと。しかもカイトくんを妄想してお、おな、オナニーしてしまうなんて。カイトくんに申し訳なくて、顔も上げられない。
酒場の横にある物干し竿に、ため息交じりに洗濯物を干していく。今日もいい天気だけど、私の気分は自己嫌悪でどんより曇天だ。
カイトくんと会った日は、特に卸日のときは特にあんなことをしてしまう。ついつい、カイトくんのことを妄想してしまってああなるのだ。気を付けないと、主神様は必要のないみだりな行為は禁じている。人間なのだから厳かに慎ましやかに生きていかないと。カイトくんだって、そのはずだ。
「どうしたの、顔暗いよ?」
「ふぇっ!?」
思考停止。再起動まで五秒。五、四、三、二、一、零。
「か、カイトくん!」
酒瓶のケースを大量に積んだ荷車を引くカイトくんが、ちょうど酒場の前を通りかかったところだった。
いくつ積んでいるのだろう。私なら1mも運べそうにないほどの量を汗一つかかずにカイトくんはここまで運んできていた。
「おはよう、エイミー。顔色悪いよ? 昨日はよく眠れなかった?」
カイトくんが荷車を道の端に置いて、私の目の前までやってくる。すると、私が理解するよりも早く、私の額に手を当てた。
「熱はない、かな。うん。でも顔赤いね、大丈夫?」
「だ、だ、だだだ、大丈夫! ぜーんぜん大丈夫! むしろ元気! 今元気になった!」
思わず手を振り払っちゃって、勿体ないと思いつつも私は恥ずかしさを騙すために腰に手を当てて元気アピールをする。これ私、変な奴だよ絶対。
「そう? でもよかった。エイミーは元気な方が似合ってるし、可愛いと思うよ」
「かわいっ!?」
普通なら歯の浮くようなセリフ。でもカイトくんにそれを言われるのは私にとって、主神様に直接褒められる以上に嬉しいことだった。天にも昇りそうな気持ちっていうのはまさにこういうことなのだろう。嬉しすぎてやばい。すごくやばい、顔にやけそう。
「か、カイトくんは今日はどこに? 今日は卸日じゃないよね?」
話を逸らすように顔を背けながら尋ねる。
「うん。商人が町の入口まで来てるからさ、買っていってもらおうと思って。父さんに行けって言われちゃってさ」
「そ、そうなんだ、すごいね! こんなに重たそうなの運んでるし」
「酒屋は力仕事な部分もあるからね。これくらい全然だよ。それよりエイミーも早起きじゃないか。洗濯物?」
「う、うん! 早起きは三文の得だしね!」
昨日オナニーでおもらししちゃったから、それが親にバレないように早起きして洗濯した。なんて言えない。言えるわけない。カイトくんをオカズにしたなんてとてもじゃないけど言えるわけない。
「そ、それにしても本当に多いね。納品するときよりも多くないかな?」
「父さんがね。ようやく決心がついたって。今日から前いた村に帰郷するんだ。だから今のうちに稼いどかないといけなくてね」
「そ、そうなんだ。……カイトくんも行くの?」
もしかしてカイトくんも帰郷するのだろうか? もしかして離れ離れになっちゃうの。
「父さんだけだよ。僕は留守番。家を長いこと開けるわけにもいかないし。それに、まだ村には帰りたいと思えないからさ」
カイトくんはどこか影のある笑みを浮かべる。やっぱり、お母さんが亡くなったことと関係しているのだろうか。
でもすぐに普段通りのカイトくんの表情に戻った。私も、彼に不思議がられないように平静を装って笑う。
「おっと早く行かないと商人が町を出ちゃうな。それじゃあエイミーも頑張ってね。商人たちのとこに行ってくるよ」
「うん、そっちも商売頑張ってね!」
手を振って、別れの挨拶を交わす。どんより気分な朝だったけど、カイトくんに会えたことで雲なんか綺麗さっぱり吹っ飛んでいった。恥ずかしくもあったし、心配になることもあったけど、やっぱりカイトくんに会えるのは嬉しい。今日はいいことありそうだなぁ。
「なぁに、いつまでニヤニヤして手を振ってんのよ、私の娘は」
「きゃっ! お、お母さん!?」
「カイトくんかい? そんなに好きならさっさと既成事実なりなんなり作って捕まえちまえばいいんだよ。カイトくんなら私もあの人も大歓迎さ」
「か、勝手なこと言わないでよ!」
お母さんにはカイトくんのこと気づかれてるみたいだ。お父さんには気づかれてない、よね?
「洗濯物干したら、ちょっと外で薬草摘みにいっておくれ。蓄えの香草とかがなくなったんだ」
「う、うん、わかった」
私は二つ返事で了承して、カイトくんの話題を出されないためにも手早く洗濯物を干した。
天気は明朗。私の気分も明朗。だけど、私の未来はとてもじゃないけど、明朗と言えるものじゃなかった。
人間としては。
―4―
町を出て、木漏れ日が眩しい森の中。薬草を探して散策する。町の外だけど、ここらに魔物はいない。反魔物領だからお国の騎士様が定期的に追っ払ってくれているのだ。昔から森を駆けずり回っていたので、この森は言わば私の庭みたいなものである。
「えーっと、必要な薬草はっと」
お母さんから渡されたメモを見ながら、背負い籠に薬草を入れていく。木の根が浮き出た整備されていない道も私にとっては石道と変わらない。毒草かどうかは長年ここを庭にしている私だ。ほとんど間違えることはない。このあともお母さんに目利きしてもらうので、まず心配はない。ただ、薬草は根が深かったりするか疲れる。根が必要なのも多いし。
カイトくんの酒瓶運びも重労働だけど、案外とこれも重労働だよ、ホント。まぁ森を散策しながら、薬草摘みも楽しいけどね。……カイトくんと一緒ならもっと楽しい、かな。外で私のあそこ、弄られたりとか。フフフ……。
「……?」
なんて妄想していると不意に聞こえた。
ピチョン……ピチョン……ピチョン……。
一瞬、どこかで水が滴っているのかと思った。だけど、最近雨は降ってなかったし、水場が近くにあるわけでもない。それにこんなにも鮮明に森の中で聞こえるなんて、少し違和感があった。
私は、重たい背負い籠をその場に置く。どうせ誰も盗まないし。その音の方へ向かう。森を少し歩いて、崖下の開けたところ。そこに洞窟があった。
まるで魔物が大きな口を開いたかのような、ぽっかりとした穴。不気味で近寄りがたい雰囲気がある。しかし、どうしてだろう、私はその洞窟を確認してみたくなった。確認しなくてはならないような気持ちになった。
森を庭としてきた私が、この洞窟を知らなかったことに我慢ならなかったのかもしれない。幼少期の森を冒険するというワクワク感が戻ってきたのかもしれない。不穏な空気が立ち込める洞窟に対する不安を、私の冒険心は打ち消してしまっていた。しかしそれは、あとになって考えてみれば冒険心ではなく、ただの魔に魅入られた心だったのかもしれない。
私は、洞窟に足を踏み入れた。
洞窟内はひんやりとしてて薄暗い。壁の鉱石だろうか。奥へ行けば行くほど白く発光したものが多くあり、灯りには困らなかった。おかげで松明を持っていなくてもここまで進むことができたのだ。
ピチョン。
「っ!?」
音がした。水滴が滴る音。しかし、ただの水が滴る音というよりは、粘性のある液体が地面に滴り落ちたときの音のように思えた。
その音で私はハッと、まるで催眠が解けたかのように我に返った。どうしていままでこんな単純な考えに至らなかったのだろうかと自分を責めた。
粘性の液体。普通の水ではない。それを滴らせる存在。人間ではない。それじゃあ……魔物?
ゾッと肝が冷える。私は魔物のテリトリーへ。まさしく魔物の口の中へ飛び込んでしまったのではないか。口どころかすでに胃袋の中まで進んでしまったのではないか。そう錯覚した。
騎士様が魔物を追い払ってくれている。その先入観のせいで、私はなんの警戒もせず、洞窟に入ってしまったんじゃないか。そう思った。
「…………」
生唾を飲み、私は一歩後ずさる。水温はもっと向こうから聞こえた。今ならまだ、逃げられるかもしれない。後ろに振り返って、一目散に振り返れば、逃げられるかもしれない。
だから、私は、後ろへ向こうと身体を翻した。
そのときだった。
ピチョン。
肩。ネバリとした粘性の液体。それが肩に、落ちる。肌に触れるとピリピリと少し痺れる、刺激のある白濁の液体。
私は、洞窟の天井を見上げる。
そこにいた。白の壁を染め犯す、毒々しく蠢く、紫の触手の塊が。
「ひ――」
叫び声をあげる前に、触手は私の頭を飲み込んだ。
―5―
触手、魔物、紫の塊、白濁の粘液、紫の触手、無数の触手、イカのような触手、身体に絡みつく触手、粘液を吹き出す触手、赤紫の触腕、薄紫の肢体。
目まぐるしく眼前に飛びかかってきた存在の情報が私の頭を過ぎっては消えていく。恐怖に身体をもがかせようとするも、手足は触手に絡め取られ、万力で捉えられたかのように身動きができなかった。
もがく私の身体に絡みついた触手は粘り気を帯びていた。腕や足に巻き付いてきた触手が、ブラウスの裾やスカートの中に入っていく。ニュルニュルの触手は服の中を抵抗なく泳いでいき、私のディアンドル衣装に触手の模様を浮かび上がらせた。
粘液で身体中をベタベタにしていく。あの白濁の粘液に触れた肌は、まるで優しく溶かされているかのようなピリピリとした甘い刺激を私に与えてきた。
「ひっ……」
服の中に侵入していた触手が、ディアンドル衣装の開いた胸元からニョロリと生える。毒々しい赤紫の触手は、こぷりと白濁の汁を滴らせて、私の胸を、いや全身を濡らしていた。
食べられる。生きたまま食べられる。殺される。死ぬ。いやだ、死にたくない。いやだいやだいやだいやだいやだいやだ!
「ふふ、可愛い娘、つーかまーえた」
女性の軽い調子の声が背後から耳元で聞こえた。
「……?」
恐怖ではなく、戸惑いから私はもがくのをやめてしまう。そして多少冷静になった頭で、後ろを振り向く。
私に絡みつく毒々しい紫の触手。それが生えているのは、なんと人間の女性の姿をした存在からだった。
身体中の頭部や首元のあたりからまるで人の肉が変容したように自然な生え際で伸びていた。密着していて全貌はわからない。でも、人間の女性の姿を残しつつ、異形の触手や水生生物のようなヒレを残しており、まるで触手と人間が混じりあったような姿をしていた。
顔だけ見るなら、私とだいたい同じか、少し上くらいの歳にも思える。わからない。人とは思えないから。魔物なのかすらもわからない。でも喋った。人の言葉を口にした。もしかしたら話が通じるかもしれない。そんな、甘い考えを私は抱いた。
女は、毒のある妖しい笑みをニタリと浮かべる。なのに、思わず見蕩れてしまいそうなほど美しく、全てを吸われそうな笑みであった。
「ふふ、お嬢さん。美味しそうねぇ、食べちゃいたいくらい」
「ひっ……た、食べないで……」
真に迫った彼女の物言いに私はみっともなく声を漏らす。僅かながら人の形を保っているとはいえ、半分は触手に塗れた人ならざる存在なのだ。言葉が通じるからって食べられない保証なんてあるはずなかった。
「ふふ、だーめ。あなたは私がおいしく食べちゃうわ」
「そんな……や、やだ、離してっ!」
「こらこら、暴れないの。安心して。決して食い殺すわけじゃないから。そんな馬鹿げたことはしないわ」
「……どういう、こと?」
私は恐る恐る尋ねる。食い殺すわけじゃない。しかしそれは、殺すこととは別で食べるのだと言っているとも取れた。
「私はね。人の心がだーいすきなの。喜怒哀楽、愛情劣情、それがね、大好きなの。人の精神は舌が蕩けるほど、美味しいのよぉ」
目尻を垂らしていやらしく笑む。私はその表情に恐怖しか覚えなかった。きっとこの女はすごく危ないやつだ。一刻も早く離れないといけない。彼女のいう食事とやらになっちゃいけない。
「や、やだやだ、離してぇ! っぁん……」
でも彼女の触手は、私逃がすような真似はせず、触手を走らせる。服に浮き出た触手が軽く私の肌を擦るだけで、どんどん力が抜けていく。お酒を飲んだときの軽い酩酊状態のようだった。
抵抗なんて無意味だと、女は淫靡に嗤う。
「最近ここへ来ての初めての獲物だもの。念入りに、優しく、じぃっくり、ねっとりと食べてあげる。ほら、見て」
「なに、それ……」
それは女の頭部から生える髪が途中から触手へと変じたものの内の一本。触手の裏はまるでイカのように小さな吸盤がついている。私の目に止まったのは、その細く尖った先端。漏れ出る白濁の汁、だけじゃない。そこから薄緑の炎のようなものが立ち上っていた。私は本能的に察する。これだ、これが一番危険なものだ。私を私でなくしてしまうものだ。
「安心して、これが耳に入っても鼓膜は破れちゃうけど痛くないし、抜けば直ぐに治るわ。魔力のおかげでね。脳みそも大丈夫。傷“は”つかないわ。すーっごく気持ちよくなるだけ」
触手が私の耳に近づく。注射針のような先の細い触手がどんどんと私の耳に迫る。
「や、やめ」
「やめない♪」
耳たぶに触手の先が触れる。こそばゆい。だけど恐怖しか感じない。声も出ない。ただただ、身体が震える。寒さではない、感情から来るものによって。
助けを求めるように女の方へ振り向く。女がまっすぐ私の目を見据えている。肉が爛れたような真っ赤な瞳。私の目は吸い込まれるように彼女の瞳を見た。歪んだ顔の私がそこにいた。
「私の名前はスーメル。あなたのお名前は、あなたの脳みそに聞くことにするわね」
その瞬間。
ツプッ。
両耳に、ヌルヌルした綿棒が入ったような感覚。鼓膜がパチンと破れる感覚。そして未知の刺激が頭の中に広がった。
「あ……? はぇ……あー、へぁあー……」
気の抜けた声を発してしまう。さっきまであった恐怖が一瞬で消えた。いや、まるで全ての感情を何もかも落としてしまったかのよう。ただ、ふわふわとした浮遊感が私の頭を包む。身体全身も力が抜けきって、触手になすがままになっちゃう。抵抗なんてできない。する気も起きないし、何故しようとしていたのかも思い出せない。
「ふふ、さぁここからよ。おでここっつん。ほーら、見えるかしら。これがあなたの脳みその光景……触手がその左右にあるでしょう?」
私の、脳みそ? これが? そう、なんだ。変な感じ。あ、触手の先っぽがちょっとだけ刺さってるや。あは。でもなんだろう、不思議と高揚感が沸く。怖くない、むしろ楽しみ。早くして欲しい。もっと。何を? ナニを。その触手で私の、脳みそを。
犯して。
ズプッ!
「ひぎぃ!」
雷でも落ちたかのような尋常ならざる快楽が脳みそから足のつま先まで走った。
私の脳みそに触手がブスリと深く突き刺さる。それだけじゃない。刺さった触手は先がバラけ、私の脳みその中をグリグリグリグリと泳いでいくのだ。まるで土に根を張る大樹のように。大地の養分を啜る薬草のように。
「あ、ひぃ、あああ、んぎぃ! あへへ、あひゃぁあああああああ、ぎ、ぎもぢいいいいいい!」
私のものと思えない裏返った嬌声が、私の口から発せられる。まるでケダモノ。畜生。理性の欠片もないただの動物。
どうして私、こんな声を出してるの? 怖いはずなのに、脳みそに刺さって痛いはずなのに。
どうしてお漏らししちゃうくらい気持ちいいの?
「あ〜、いいぃ〜、もっひょ〜、犯ひてぇ、脳みそグチュグチュにひてぇ〜」
「あっは、いやらしい顔。涎と鼻水と涙でグチョグチョね、れろぉ。おいしいわぁ。……でも、ただ脳みそ犯される感覚だけじゃあ物足りないでしょ?」
彼女がそう言った途端、私の目の前で、白濁の汁を垂らす触手が鎌首をもたげた。
粘液で妖しい光沢を帯びた、先に行くほど赤く熟れた果実のような紫の触手。もわぁっとむせ返りそうなほどの生臭い、しかし癖になってしまいそうな匂いを放っていて、私の鼻を通して脳を犯していく。裏の吸盤は吸いつきたそうにひくついており、口に含めば私の舌はきっとあの吸盤で犯されてしまうんだろう。
ダメなのに。そんなこと考えちゃダメなのに。おかしいことだってわかりきってるのに。
……なんで、どうして、こんなにも……美味しそうなんだろう。
食べたい、口に入れたい、しゃぶりたい、すすりたい、白濁の汁で私の中を満たしたい。
「ふふ、もう欲しくて欲しくて、たまらないって顔ね」
「欲しいれす……くらさいぃ、触手ぅ、わらひに、わらひのおくひに、くらひゃいぃぃぃ」
理性がどんどん塗りつぶされていく。ううん、もう全部塗り替えられてる。私の身も心も触手でいっぱいになってる。
だから、私は大きく口を開ける。涎がタラタラと零れ落ちる。舌もだらしなく垂らして、私は精一杯のおねだりをする。その美味しそうな触手をいますぐ味わいたかったから。
「素直な子は好きよ。身体を縛る触手を緩めたわ、好きに――」
「あむっ! じゅるじゅるるる、じゅっぶ、あふ、れろれろ、んぐんぐ、じゅるるる!」
言い終わる前に私は触手を咥える。下品な音を出しまくって、白濁汁を啜り、口の粘膜に触手を擦りつける。自分のものとは思えないくらい、触手を舌でいやらしく舐めしゃぶる。
おいしい。たまらない。鼻が曲がるくらい、舌が痺れるくらい、反射的に戻してしまいそうなくらい生臭いのに。なのにおいしい。止められない。しゃぶることを、飲む下すことを止められない。粘っこくて喉に絡んでしつこい、この白濁した汁を飲むことをやめられない。
「あはっ。そんなにがっついちゃって。でも、ふふふ、あなたのその蕩けた顔、いいわぁ。私も興奮してきちゃう……!」
「じゅるるる、んぐ!? んぐ、ごくごくごくごく……」
触手から出る白濁汁の量が増えた。飲みきれなくなった、白濁汁が私の口の隙間から、鼻から零れ落ちる。もったいない……。
あっ、きた。吸い付いてきた。私の舌、吸盤に捕まっちゃった。
「んぐんぐ、っ!?」
舌を噛まれた! トゲみたいなの。吸盤の中にトゲ。なに、これ……気持ちよすぎる。舌がまるで性感帯に、クリトリスになったみたい!
「んっー! んっー!」
「私の吸盤毒歯はいかがかしら? まるで露出した神経に直接快感を突き刺されているみたいでしょ?」
いい! もっと! もっと噛んで! 吸って! 真っ白なおつゆ飲ませて! 私の中、触手でいっぱいにして!
「これだけ感じてるのに、もっともっとって顔してるわね。いいわ、ご期待通りに、あなたの愛らしいお鼻にも、私の触手を突っ込んであげる。体内の粘液全てを、私の白濁汁で染めてあげるわ」
両鼻に、彼女の触手が侵入してきた。息苦しい。口と鼻を塞がれて息苦しさを私が感じたのは一瞬。これまでの倍以上快楽が私の脳みそをグチョグチョに弄り、苦しさは快楽へと変わってくれた。
「お、おっ、おっ、おお……!」
「あはっ、白目剥いちゃって。最初は可愛らしい顔だったのに、今ではお下品なアヘ顔ね……私も、たまらなくなってきちゃうわ。ふふ、あはっ、あなたの、感じちゃうっ」
ゴリゴリと喉奥を、食道を触手がえぐっていくのがわかる。私の体の内の肉壁は、触手がもたらす快感に喜び震えて迎え入れた。肉ヒダ一つ一つ、細胞一つ一つが、触手に犯されていっているんだ。触手が奥へ奥へと進むたび、私の感覚は絶頂へとどんどん登り詰めていく。
いや、とっくに絶頂なんて超えてる。もう、際限なんてない、ただただ終わらない快楽の本流が私という存在を飲み込んでいっているんだ。
ただ、ただ。ただ、ただ。
気持ちいい。
「ああん、あなたのその! 快楽に支配され、蕩けきった精神、最高よ! あはっ! んんっ、もう、私もダメっ! こんな美味しいの味わったら、イクッ。イっちゃうッ!」
「んぐぅっ!?」
彼女の蕩けたイキ声。その瞬間だ。
ドピュドピュドピュドピュドピュドピュドピュドピュドピュドピュドピュドピュ!!
触手は二倍くらいに膨らみ、触手の先端だけでなく、吸盤があるところからも、大量の、粘性のある汁が溢れ出る。飲むというよりは、長い管を胃袋まで押し込まれて、それから流し込まれるといった感じ。吐き出すことも、戻すことも叶わない。ただただ、満たされる。私の中が、彼女の白濁した粘液で満たされる。快楽で満たされる。
そう、これまでで最大の勢いの絶頂が、私を飲み込んで、よがり狂わせた
「んんんんんんんっっっっっ!! んっーーーーー!! んんんっ! んんんっーーー!」
ああ、もう戻れない。私は終わってしまった。人間じゃなくなってしまった。ただの快楽を貪る存在だ。でも、それでも、私は惜しくはなかった。だってこんなにも気持ちよくなれるんだもの――。
「じゃあ、快楽中毒に弄ってた脳みそを、ちょーっと戻すわね」
凛とした声。
瞬間、私の靄がかっていた頭は鮮明になった。
「んぐっ!?」
なに、これ。なんで、いま私、あんなことを考えていたの?
「ふふ、どうしてあんなに触手しゃぶって、白濁汁飲むのが好きになったんだろう、って顔してるわね」
「っ!?」
スーメルという女が言うけど、私はろくに耳に入らなかった。だって、口と鼻の中にはいまでも触手が入り込んでいるんだもの。しかも、ネバネバした白濁の汁が際限なく溢れてきている。
苦しくはない。むしろ、白濁汁で満たされているこの状態はすごく気持ちいい。理性が擦り切れそうなほど、気持ちがいい。
だけど、さっきみたいな変態な私にならない。気持ちが良すぎるのに、冷静な自分がいた。
「それが普通の状態よ。さっきまでのあなたの思考は私が脳みそをクチュクチュして植え付けたものなの。でも、その状態でも気持ちいいでしょ? 私のおつゆ、まずいのに、吐きたくないし、満たされていると気持ちがいいでしょ? まぁ味はおいしくもできるのだけれどね」
口の触手がズルリズルリと引き抜かれていく。その食道の肉ヒダに吸盤が引っかかるたび、脳みそに電流が走るけど、思考までは蕩けない。
「っぷはぁ……あー……」
ぼとぼとと口から白濁汁が零れ落ちる。
……もったいない。触手も、ずっと入れておいて欲しい……。
「もっと……。……? ……!」
私、何を考えているの!? こんな不気味な触手を、白濁汁を、もっと欲しいと思うなんて。だ、ダメ! ダメダメダメ! あんなケダモノになんてなっちゃいけない!
「でも、気持ちいいでしょ?」
「ぁ……」
触手が私の首筋を撫でる。自分のものとは思えない淫蕩な声が漏れて、私はすぐにハッとなった。
「っ! な、なんで、私を戻したのよ。どうせ、逃がす気、ないんでしょ? また私をおかしくするんでしょ!?」
「おかしくして欲しいのかしら?」
「ち、違っ!」
「クスクス、あなたの目は、快楽の波に溺れていたさっきの自分に戻りたいーって言ってるように私には見えるわぁ」
「そんなこと、ない! 私は、あんな……あんなっ!」
「クスッ、そうねぇ。あんなケダモノになりたくないわよねぇ。で・も」
スーメルは嗤う。淫靡に、口角を釣り上げて、悪魔のように嗤う。
「あなたは自分からソレを求めるようになるわ。あなたは私に作られた感情ではなく、自分の意思で、快楽を求めるようになるの。あなたが今日覚えた、快楽の味。思い出してみなさい」
「……………………」
何も言えなかった。
粘液滴る触手。白濁したドロドロのおつゆ。快楽神経を剥き出しにしてくれる吸盤。どれも狂おしいほどに気持ちが良かった。
「それはもうあなたの頭の中からは消えない。こべりついて、剥がれ落ちない。常に、ある」
「っ! やめ、やめてっ!」
「ふふっ。ええ、やめてあげる」
「えっ?」
私は素っ頓狂な声をあげた。
「さぁ、今日はもう帰りなさい。もしも、これ以上の快楽を、さらなる高みへ昇り詰めたいなら、またここへいらっしゃい」
「ぁひっ」
私の脳みそから、鼻から触手が抜かれていく。その瞬間まで快楽に痺れた。
「今度はあなたに、メスとしての悦びを教えてあげる」
そう耳元で囁いて、スーメルは私を触手から開放した。
私は覚束無い足取りで洞窟をあとにした。
川で身体を洗ってから家へ帰った。それでも身体の中の白濁汁は吐き出そうと思わなかった。
離れるとき最後に彼女が放った言葉を、私は理解できないでいた。
「とは言っても、もうあなたの脳みそにはメスの悦びがたくさん刻み込まれているけど。……魔物娘としてのメスの悦びが、ね」
―6―
その晩、私は体調が悪いからと仕事を休んだ。具合は悪いわけではなかった。風邪の症状も出ていないし、むしろいつも以上に元気なくらいだ。
だけど、いつも来ている常連客の男性が来た瞬間、私の頭は真っ白になりかけた。
男性特有の濃厚な匂い。汗とはまた違う別の、そう、芳しい精の香り。その香りが、ムンムンと放たれ、私の鼻を犯したのだ。彼だけじゃない。ぞろぞろとやってきたたくさんの男性客。その全てが淫猥な精臭をまとっていた。
おかしくなる、そう私は背筋が寒くなった。だから体調が悪いと言って休んだのだ。酒場から離れると少し胸の高まりが収まった。なんとか抑えられた。私じゃなくならずに済んだ。もしもあの匂いがカイトくんのものだったら、私はいったいどうなっていたんだろう。カイトくんのだったら。カイトくんの精の匂いだったら……。
「……ん」
私は無意識のうちに自分のオマンコを弄っていた。いつもと同じ、陰唇をさすさすと擦るオナニー。でもいつもより妄想がすごくリアルだった。いつもカイトくんの指を妄想してオナニーしているけど、今日はよりそれが本物に近いように思える。
「あっ、んんっ……い、いい」
まるでカイトくんとエッチしたことがあるみたい。本当に触ってもらったことがあるみたい。いつもよりもすごく興奮する。
私は欲望に支配されるがまま、オナニーを続ける。だけど。
「……?」
満たされない。オマンコを弄っているのに。カイトくんの指なのに。物足りない。頭が真っ白になるほどの快楽の波が訪れない。カイトくんの指が偽物だから? ううん違う。私の身体だ。私の身体が偽物なんだ。この人間の身体。こんなのじゃ、私は気持ちよくなれない。
「足りないよぉ……」
私は自然と眠りに着くまで、ひたすら快楽を求めてオマンコを弄っていた。
そして夢を見た。
いや、夢というよりは昔のことを思い出した。私は人間じゃなくて、魔物娘だった。触手をいっぱいニュルニュルと生やしたいやらしい魔物娘。私はその肢体と触手をカイトくんに絡ませていた。カイトくんに身体が擦れるだけで、私の脳みそは電流が流れたみたいに快楽で痺れる。触手に隠されたオマンコに触れるだけでエッチな愛液がぼとぼと零れ落ちる。カイトくんのオチンポが、私の一番エッチな場所に収まって。私は悦楽の叫びをあげる。ただの快楽を貪るだけの存在に成り果てて、カイトくんと一緒にどんどん堕ちていく。それがたまらなく幸福で幸福で幸福で。カイトくんを、オチンポを、ザーメンを貪った。
それはそれは、幸せな過去の夢だった。
目が覚めて、私はあの夢がただの夢であることを知って、絶望した。私は魔物娘でもなくただの人間で。あの幸福に満ちた快楽の日々が全て空想のものであると知り、そう信じたくなくてオマンコを弄った。
気持ちよくない気持ちよくない気持ちよくない。
足りない足りない物足りない。
カイトくんの指、身体、オチンポ、ザーメン。
それを余すことなく感じられる身体が、私にはない。
「ハァ、ハァハァ……ごく」
オチンポ……カイトくんのオチンポ欲しい。舐めたいしゃぶりたい啜りたい。カイトくんの触手を私のお口で、ひたすら舐めしゃぶりたい。舌で転がして、甘噛みして、喉奥で締め付けて、ザーメンをピュッピュッして欲しい。
でも、そのためには。
「この……身体じゃあ、だめぇ……」
私は部屋を出る。向かう先は決まっていた。そう、あのスーメルのところ。
洞窟を私は覚束無い足取りで歩く。壁に手をついて、もう片方の手は、ひたすらオマンコを弄っていた。少しでも快楽を貪るために。でもだめ、弄れば弄るほど物足りなくなって、我慢できなくなっちゃう。
「あらあら、まさか昨日の今日で来てくれるとはねぇ」
「ああ……いたぁ……」
いた、触手の女性、スーメル。私を、快楽を貪るだけの変態になりたい女に変えたヒト。私の望みを叶えてくれるヒト。私の理想を体現しているヒト。
「ふふっ、もう辛抱ならないって感じね。それじゃあ、いただきます」
彼女が私にゆっくりと抱きつき、あの緑の炎を立ち上らせる触手を、耳に突き刺した。
「んぎぃっ!?」
プチッと鼓膜の破れる音。ああ、気持ちいい。脳みそにもバラけた触手がプスプスと突き刺していく。触手に脳みそが犯され支配されていく。目の前が真っ白になって、脳みそが、頭の中がグチョグチョにされていく感覚だけが私を支配する。
身体が痙攣するくらい心地がよくて、あれだけオナニーしても出なかったのに愛液とおしっこで下半身がぐしょぐしょ。
「あへぇ! いいぃ! いいよおおお! 脳みそグチュグチュ、触手でプスプス気持ちいいよおおおおお! もっろしてぇ、わらひの脳みそ弄りまくってぇ! スーメルお姉さまと同じ、触手いっぱいの淫乱メス魔物に作り変えてぇええええ!!」
「もう、魔物化願望が顕れてるのね。ふふ、あなたが元から淫乱だったのがよぉくわかるわぁ。あなたの爛れた精神、最高に美味しいわよ。ジュルジュル啜ってあげる」
「おっ!? おっ? おっ〜、おおおっ〜! んほぉ〜、啜られてりゅうううう! わらひの脳みそ、スーメルお姉さまにジュルジュル啜られへるぅぅぅぅ!!」
まるで私の脳みそが全て触手に吸い取られ、代わりにスーメルお姉さまの触手が私の脳みそになったみたい。頭の中の触手が抵抗なく、蠢いていて、私の頭を触手一色で塗りつぶしてしまった。
「あひぃ〜、いいにょ〜! 触手クチュクチュ気持ちひいの〜!! あへ、あへへ、あへへへへへへへへへ」
「ちゅるん。んふ、美味だったわよ、エイミー。良質な精神をご馳走してくれたあなたにはご褒美を上げないとね」
「んむっ!?」
スーメルお姉さまの顔が近づき、唇を彼女の唇で塞がれた。生暖かいザラザラとした触手が私の口内に侵入する。女同士で、というのも考えられないほど夢見心地で私はそれを受け入れた。
彼女の舌で私の口の中が犯されていく。次第に口の中が熱くなっていっちゃう。鋭敏に、敏感に、過敏になっていく。まるで私のお口の中がオマンコになっちゃったみたい。舌を動かして歯や頬裏に当たるだけで、まるでクリトリスを弾かれたみたいに感じちゃう。
「っぷはぁ……クスクス、ご褒美、気に入ってくれたかしら? お口だけ、あなたの望み通りのものにしてあげたわ」
ああ、おかしくなる。息をしてるだけなのに、空気を吸って吐くだけで口の中が痺れる。どうなるの、私、こんなの気持ちよすぎておかしくなるよ。
「ふふっ、悦んでくれたみたいね。さぁ今日はこれでおしまい。もっともっと精神を爛らせてから来なさい。あなたの脳裏に焼き付いた快楽で身を焦がしなさい。そうすれば、あなたに最上の快楽を味わえる身体をあげる」
あひっ、耳、脳みそから触手引き抜かれる……。頭がふわふわするぅ。
「ああ……きもひぃぃ……」
私はだらだらと涎を垂らしながら、口と脳みそに何度も訪れる快楽の味を反芻した。
その日も仕事を休んだ。脳裏に焼き付いた快楽を思い出すことしかしたくなかった。
私はもう、戻れないところまで来ていた。
―7―
想像した妄想した夢想した空想した。突き突かれ、嫐り嬲られ、犯し犯され、イカしイカされた。
気を抜くと脳裏にフラッシュバックする私の中の変態なエイミー。スーメルと似た姿の魔物になってしまった私は、いやらしく淫靡に嗤い、腰を振り、触手を絡ませ、カイトくんからオス汁を絞り、飲んで浴びてを繰り返していた。悦楽に支配された変態エイミーは、間接的に私に快楽の味を教えてくる。味わいたいだろう? と挑発的な目で私を見てくる。
いらないと思っても、私の目は私の意思に反して、彼女の痴態を目に焼き付けてしまう。私の意思は薄弱としていって、変態エイミーと同じものに近づいていってしまう。彼女のようになりたいと、彼女の身体になろうと、変態エイミーの元へ近づいていってしまう。
あれは私、私はあれ、あれは魔物、魔物は私、魔物は変態、私は変態、私は淫乱、私はただのメス、カイトくんのオチンポを舐めしゃぶって悦ぶ変態魔物のメス。
私は私になる。理性から解き放たれた欲望に満ち満ちた私に。
さぁ、そのために。カイトくん。待っててね。
いま、行くから。
もう引き返せない。これをノックして、カイトくんと会えば、私の鼻は彼の匂いを受けてたちまち発情しちゃう。
ううん、もう発情してる。カイトくんの芳しい香りは、玄関からでもプンプンしてる。
今夜は彼のお父さんはいない。故郷の村へ帰郷している。だから彼一人。誰もいない。絶好の日だ。
コンコンコンと三回ノック。扉の向こうで物音。タッタッタと走る足音がして、鍵が開けられる。
「あれ、エイミー?」
「……こんばんは、カイトくん……急に、ごめんね? 上がってもいいかな?」
「え? あ、うん、いいけど」
すぅー、はぁー、すぅー。カイトくんの匂い、鼻腔が麻痺しちゃうくらい濃密な精臭の香り。目の前に立たれただけで倒れちゃいそうなくらいプンプンしてる。やっぱりカイトくんのが一番いい。最高だよ。早く、早く、欲しい。カイトくんのが、欲しい。
「お邪魔します……」
「今日はいきなりどうしたの? そういえば家に来るのは初めてだよね」
奥のカイトくんの部屋に案内された。色々さっぱりとした部屋だけど、私の目が行くのはカイトくんと彼のベッドだけ。あそこでいつもカイトくんは寝てるんだね。カイトくんの汗の匂いが染み付いているんだね。
「うん、どうしてもカイトくんに会いたくなったの」
「え……?」
ベッドの傍まで来たところでカイトくんを見つめる。どこか照れた表情。カイトくんってこんな顔するんだ。彼の優しげな表情が、夢の淫乱な顔に変わるんだ。私みたいに。
「え、エイミー具合、悪くない? 目がちょっと虚ろだよ? 寝不足?」
「ううん、大丈夫だよ私は。全然……それどころか晴れやかなくらいだよ」
「そう? あ、飲み物とか持ってくるからその辺でゆっくりしてて」
「…………」
カイトくん、私の好きなカイトくん、いまから、気持ちよくしてあげるね。
「えっ?」
私は部屋から出ようとしたカイトくんの手を取り、自分のもとへ引っ張った。体勢の崩したカイトくんを受け止めて、その美味しそうな唇を私ので塞ぐ。
これがカイトくんの唇。甘い甘い蜜の出処。
「んむっ!?」
「んふ、んんっ、じゅぶるるるる、んちゅっ」
柔らかい肉の感触が私の唇に広がる。吸い付くように啜って、彼の唇を私の舌をニュルリとこじ開ける。
ああ、カイトくんのお口美味しい。舌でカイトくんの口の中を貪るとどんどん蜜が溢れでてくる。カイトくんの舌と私の舌が絡むと、触手が脳みそをクチュクチュしてるみたいに痺れる。気持ちいい、スーメルお姉さまと同じくらい、ううん、お口だけならカイトくんとするのが一番気持ちいい!
「ちゅぅーっぷはぁ!」
「ぷはぁ……え、エイミーなにを……!?」
慌てちゃったカイトくんも可愛い。顔真っ赤。目をパチパチさせてる。でも、それよりも。カイトくんのテント張った股間の方が可愛いなぁ。うふふふ。
「わっ!」
「気持ちよくなろ、カイトくん」
私はカイトくんをベッドに押し倒す。呆然として逃げようともしないカイトくんに見せつけるように私は、エプロンスカートを口にくわえて下着を見せつける。カイトくんに見せるための勝負下着のGストリング。私のぴっちりと閉じた下の唇に食い込んでる。ちょっとずらせば、もうキスしたくて唇をパクパクさせてるよ。カイトくんのお口とキスしたいなぁ。しよ?
「お、おかしいよエイミー!」
「暴れちゃダメだよ」
寝転がったカイトくんの肩に跨る。カイトくん力持ちなのに抵抗できてないや。私の上のお口とキスしたからかな。だって、私のお口、淫乱な魔物の口だものね。私のキスとオマンコを見て、カイトくん興奮してるじゃない。ハァハァって、発情した雄犬みたいだよ。
「舐めて」
「エイミうぶっ!」
「んんっ、カイトくんのお口と私の下のお口がキスしちゃったぁ」
カイトくんの上の唇と、私の下の唇とのキス。初キッスだ。カイトくんにとってはどうかな? きっと私とのキスが初めてだよね。だって、こんなにも顔を真っ赤にして恥ずかしがってるんだもん。私が始めて。カイトくんの始めては私。ふふっ。
「舌入れてぇ。私のオマンコ、ペロペロ舐めてぇ」
「んぐっ、んむっ、はむ」
グリグリとカイトくんのお口に、私のオマンコを擦りつける。ちょうどクリトリスあたりにカイトくんのお鼻が当たって、カイトくん息できなさそう。息したかったら、私のオマンコをペロペロするしかないよね。
「れろ……」
やった。おずおずといった感じだけどカイトくんが私のを舐めてくれた。喘ぐように、私の割れ目に舌をニュプニュプ入れてる。
でも、どうしてかな。カイトくんに舐められて嬉しいのに、頭はぽかぽかするのに、あんまり気持ちよくない。
ああ、そっか。私、まだスーメルお姉さまと同じじゃないんだ。カイトくんの身体を感じるにふさわしい身体になってないからなんだ。
でも、お姉さまは言ってた。お口だけ望み通りのものにしたって言ってた。オマンコペロペロよりもさっきのキスの方が感じてたし、そういうことなんだ。
「ぷはぁ……はぁはぁ、エイミー……どうしてこんな」
「ごめんね、カイトくん。私の体、まだカイトくんの全てを感じられるものになってないんだ」
私は、跨るのをやめて、カイトくんの足元にぺたんと座る。お口をあーんと開けて、涎塗れの口の中をカイトくんに見せつけた。
「いま私が、カイトくんを気持ちよくさせてあげられる体はここだけ。でもきっと大丈夫。きっと気持ちいいから。私のお口マンコでいっぱいいっぱい気持ちよくなってね」
「え? エイミーちょっと、やめっ」
カイトくんの履くズボンのジッパーを降ろす。ピンっと大きく反り返った逞しいオチンポが私の目の前に現れた。半分だけ皮を被った、だけどそれでも亀頭の形がはっきりとわかるほど屹立したオチンポ。あは、頭いじられたからかな? エッチな言葉がどんどん溢れてくる。
オチンポの皮の中から漂う芳しい香り。まるで見えない触手で鼻を突かれているみたいに、鼻腔が痺れる。この香りだけで脳みそが麻痺して目の前が真っ白になっちゃいそう。
「エイミー……っ!」
「あむっ、じゅるるるる」
皮かむりの亀頭をパクリ。そして舌を皮の中に潜り込ませると、脳みそが蕩けちゃった。
舌が止まらない。カイトくんのオチンポをレロレロジュルジュルするのをやめられない。
今まで食べたどんな料理よりも、これから食べるどんな料理よりも絶対に美味しい。
「あはぁ、じゅるるる、んふ……カイトくん、オチンポのカリ裏チンカスいっぱいだよぉ。私にご馳走するために、洗わないでおいてくれたんだね。あっは、あむ、れろれろ」
舌の真ん中でオチンポのカリ裏にコベリ付いたチンカスを舐め取っていく。ひとかけらも残さないよ。これは私のもの。
喉奥から昇る芳醇な味わいに鼻腔が痺れる。脳みそが蕩ける。私は無意識にオチンポを喉奥まで咥えていた。
「もっほ、もっほ、ひょうらいぃ……カイトくんのおひんぽ、わらひにひょうらいぃぃ」
ジュッポジュッポジュッブジュッブと下品な音を立てて、カイトくんのオチンポを私の口の中へ挿し入れする。
「あぐっ、こんなの気持ちよすぎて……!」
「むぐっ!?」
カイトくんが私の頭を掴んで、さらに早く、大人の玩具みたいに荒っぽく私を使ってくれた。
「ごめっ! 苦しいよね? でも、止められないんだ!」
ううん、苦しくなんかないよ、私のお口こぼれ落ちそうなくらい気持ちいいよ。
それに嬉しい。カイトくんが私のお口を使ってくれてる。私のお口で気持ちよくなってくれてる。もっと、もっと気持ちよくなって。舌で玉袋を舐めるから、竿を頬肉でシゴくから、亀頭を喉奥をキュッキュッて締め付けるから。
「エイミーも気持ちいいんだ!? じゃあ、もっと激しくしてもいいよね!?」
「むぐっ!? んぐっ!」
オチンポが私の喉奥をガツンガツンっと突いてくる。もう外れたみたいに私の顎は大きく開いて、オチンポを竿だけでなく玉袋まで咥え込んでいた。
お口全体で、カイトくんのペニス全てを味わっていたのだ。
「いいよっ! ハァハァ! エイミーの、自分でするのより何倍も何十倍も気持ちいい!」
「! じゅるるるるる! じゅぶ、れろれろれろ! あむ、んんんんんんっ!」
「こんなっ! こんなの味わったら、もう、自分でなんてできないよ! エイミーのお口じゃないとできなくなる!」
嬉しい……嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい!
もっと使って! 私のお口でカイトくん気持ちよくなって! カイトくんのエッチなお汁、私のお口の中にいっぱいぶちまけて!
「くぁ、そんなに締め付けられたら、ダメなのに! 止まらない! 手が止まらない! エイミー、もう!」
出して! 出して出して! 私のお口の中に、食道に! 脳みそに刻み込まれて忘れられなくなるくらい濃厚な白濁ザーメンをたっぷり注いでぇぇぇぇぇ!!
「んあっ!」
「んんんっ!?」
ドピュドピュドピュドピュドピュドピュドピュドピュドピュドピュドピュドピュ!!
「んんんんんんっ!?」
来たぁ! ドロッドロの白濁ザーメン出たぁ! あはぁ、らめぇ、頭、何も考えられにゃい。あはぁ、オチンポ汁さいこぅ……お口の中でいっぱいザーメン泳いでるぅ。あはぁ、あはははは……。
あぁ、鼻からザーメンこぼれちゃった、もったいない。でも、鼻の中もカイトくんのザーメンでいっぱい。舌が感じるのはザーメンとオチンポだけ。こんなの良すぎて、もっと飲みたくなっちゃう。
「ハァハァ……エイ、ミー? ……ダメだよエイミー! もう、出なっ、うあああああ!」
カイトくんのオチンポ。肉棒。まだまだ元気、まだまだザーメンの匂いがするよ。いっぱい溜まってるんだよね? 溜めすぎは身体に毒だよ。だから、私が一滴残らず搾り取ってあげる。何も考えられなくなるくらい、ただオチンポ汁出すことしか考えられなくなるくらい、いっぱい搾り取ってあげる。
「くぁ! 出した、ばっかりなのに……エイミーの口の中、舌が絡みついて、気持ちよすぎて……!」
ドピュドピュドピュドピュドピュドピュドピュドピュドピュドピュドピュドピュ!!
「んぐっ、んぐんぐんぐ」
出たぁ。まだまだいっぱいのカイトくんのオス汁。でもまだ出るよね? ほら、いっぱい気持ちよくなってね。
「んぁっ!」
ドピュドピュドピュドピュドピュドピュドピュドピュドピュドピュドピュドピュ!!
「そんな、止まら、ないっ! 気持ちよさが、収まらない!」
あはぁ、訳がわからないって顔してる。でもいいんだよ? 訳がわからなくて。ただ、気持ちよくなれれば、それでいいの。私のお口の中でザーメン出しまくって、私のお口を感じて、私だけしか想えなくなれば、それでいいんだよ?
「エイミー……もう、だめ」
ドピュドピュドピュドピュドピュドピュドピュドピュドピュドピュドピュドピュ!!
あれ? 気絶しちゃった? ふふふ、気持ちよくさせすぎちゃったかなぁ?
チュルンっと私はオチンポからお口を離す。ビクンビクンっと痙攣するように、オチンポはヒクついていた。でもあれだけ出したのにまだまだ元気そう。
「あむ、れろれろれろ」
お掃除しないとね。ふふ、竿にこべりついたザーメンもおいしい。あむっ。
ドピュッ。
あはっ、オチンポ穴にまだザーメン残ってたみたい。ふふ、カイトくんのオチンポったら、最後まで私を悦ばしてくれるのね。
「ごちそうさま、カイトくん。次は、私の下のお口で食べちゃうからね」
最後に、私はカイトくんの耳元で囁く。
「もっともっと一緒に、おかしくなろう」
おやすみなさい。
私は彼の身の回りを整えて、彼の家をあとにした。
さぁ、スーメルお姉さま、私の脳みそを啜って下さい。そして、私に最高の体をお与えください。
待っててね、カイトくん。もう少しだからね。ふふふ……。
15/08/03 23:31更新 / ヤンデレラ
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