デュラハンとの生活
ここは魔王城。いつもはちょっと不気味だがのんびりしている雰囲気なのだが、今日はかなりピリピリとしている。それもそのはずだ。人間軍が、正確には教会軍が攻め込んできたのだ。
「偵察より報告!敵軍は騎馬隊を筆頭に、弓兵部隊、魔術部隊等かなりの戦力となっており、数はおよそ十万以上!」
「了解、ではこれより迎撃作戦を開始する!」
おっと、紹介が遅れたな。俺の名はキース。数年程前までは勇者をやっていたが、魔王が代替わりした際に魔物が女性化して、それを殺しにくくなったときに今の嫁と出会って、結婚してここにいる。ああ、ちなみに俺の嫁はデュラハン、魔王騎士団の第二騎士団団長。俺は勇者部隊第二隊長だ。
デュラハンとの生活
「第一騎士団は城の守りにつくため、我ら第二騎士団が敵軍に攻撃を仕掛ける!まずは砲撃と弓、火炎系魔法で牽制する、準備を始めろ!!」
『イエッサー!』
彼女が命令すると部下達が各々の部隊へ命令を遂行するために戻っていく。
「ようマリッサ。」
「ぬ、キースか。なんの用だ?」
「いやさ、俺達に手伝えることはないかな〜、と思ったのでね。」
「問題無い。相手はただの人間、我々だけで十分だ!」
おー、さすが騎士団長、凄いプライドだ。
「だけどさ、その人間に負けたよな、お前。」
「あ、あの時は、その・・・首がうっかりと・・・ぬ、敵が見えたぞ。」
「ちっ、タイミング悪いな・・・お?」
「どうした?」
「いや、あの旗には見覚えが・・・。」
テントが張ってある本部の1キロほど先にある丘に見えた教会軍。そこにちらほらと見える旗。
「あぁ・・・確か、教会南部支部の・・・ということは!」
「ん?」
「・・・マリッサ、ちょっとこの戦、俺も出るぜ。」
「なぜだ?」
「あの部隊には・・・後輩が居る。」
「後輩が?だがそれだけなら・・・。」
「いや、それだからこそだ。だって、あいつは俺が直々に稽古をつけてた弟子みたいなもんだ。しかも、元から才能があったのかびっくりするようなスピードで成長していった。もし、俺が居なくなってからも鍛錬を続けていたら・・・お前じゃ勝てない。」
「貴様!私を愚弄するか!」
「そうじゃない!・・・ただ・・・心配なだけだ。あいつは根っからの反魔物派だから。」
「キース・・・。」
そうやって彼女が微かに潤んだ目で俺を見つめてくる。そのまま、俺達の距離は近づいていき・・・。
「団長!攻撃の用意が出来ました!ご指示を!」
連絡係が入ってきて、俺達は一瞬で離れた。
(わ、私はキースと何を・・・戦場なのに。気を引き締めろ!)
「わ、分かった。では・・・開始!!」
彼女の号令と共に、弓矢やら魔法やら砲弾やらが教会軍に向かって飛んでいく。そして数瞬の後に耳に届く、轟音。ここが、戦場となった瞬間だった。
簡単に言おう。俺達は劣勢だった。こちらも結構頑張っているが、向こうは洗礼された武具防具を身に纏い、恐らく隊長であろう後輩、イアンが一騎当千の力を見せ、ガンガン攻めてきているのだ。
「報告!第三騎馬部隊と第二魔法部隊が戦線を維持出来なくなり撤退、第二騎馬部隊も押されています!!」
「ぬぅ・・・第三騎馬部隊と第二魔法部隊は連携して第二騎馬部隊の援護に回るように!あと、ハーピー部隊に空襲作戦を!」
「はっ!」
「・・・クソッ!相手はたかだか人間・・・それに押されるなぞ!」
マリッサが悔しそうに顔を歪める。自身の指揮官としてのプライドを傷つけられた為だろう。
「・・・やっぱり、俺出るわ。」
「キース!・・・良いのか?相手は・・・。」
「平気さ。それに、俺はもう、散々魔界にいてインキュバス化してるんでね。あいつらからしたら静粛範囲内さ。」
「キース・・・。」
「んじゃ、行って来る。」
そういって、俺は彼女に軽くキスをする。
「ん・・・無事で帰ってこいよ。」
「イエッサ!」
さて、この混戦・・・一番手っ取り早いのは頭を潰す事だが・・・よし。
「えーと・・・あ、そこのハーピーの君!」
「は、はい!何でしょうか?」
「俺をさ、最前線まで連れてってくれないか?」
「え・・・なぜですか?」
「頭を潰す。そうすれば相手は統率が取れなくなり、その隙に巻き返せる。」
「か、頭を潰す!?そんなことが・・・。」
「出来るかどうかはやってみないと分からない。とりあえず、俺を運んでくれ。すぐに離脱していいから。あと、空襲作戦はもう少し待ってくれと他のハーピーに伝えてくれ。」
「い、イエッサー!」
おー、空から戦場を見ると感動するな。・・・ん?あれは第一騎馬部隊長、ケンタウロスのウリアじゃないか。うわ、長い槍で剣士5人まとめてふっ飛ばしやがった。あっちは・・・ワーウルフ達か。さすがに速いな。敵さん対応しきれてねー。
「あ、あの・・・。」
「なんだ?」
「のんびりしてますけど、空中散歩ではないんですよ?」
「分かってるって・・・お、いたいた。」
「敵の頭ですか?」
「ああ。あそこの馬に乗ってるやつだ。あそこまで飛んでくれ。」
「分かりました!飛ばしますよ〜♪」
「と、飛ばすって・・・ああああああ!!!」
か、風が・・・痛い!猛烈に痛いが・・・あっという間に近づいた。
「よ、よし!もう良い、ここから落としてくれ。」
「い、良いのですか?」
「ああ。落としてくれ。」
「分かりました・・・ご武運を!」
そういって彼女は離す。そして、落ちていく俺。
「隊長!我が軍が押してます!このまま押し切りましょう!」
「ああ、僕もそう思うよ。・・・よし、このまま一気に」
「ぉぉぉぉおおおおおお!」
僕が部下達に指示を出そうとした瞬間、どこからか大きな雄たけびが聞こえてきた。
「な、なんだ!?」
ドォォーーーーン・・・
そして響き渡る轟音。
「た、隊長!」
「どうした!?」
「そ、空から人が!」
「何だって!?」
(空から人だって・・・何なんだ!?)
そして、響き渡る、声。その声にこそ、一番驚愕した。
「我こそは、魔物軍第二勇者部隊長、キース=ゲインである!これより、隊長と一騎打ちの勝負を申し込みたい!!」
その声こそ、僕が一番聞きたくない声であった。
さて、敵のど真ん中で口上したのは良いが、この後どうなるか・・・。
「貴様!我が軍に1人で立ち向かうとは良い度胸だ!だが、貴様は我が敵!観念して斬られろ!!」
ほら、やっぱり。殺意剥き出しだ。
「おおおおお!!!」
そして、恐らく祝福してもらったであろう大剣で、俺を切ろうとする。
「その首、貰った!!」
その剣が、俺の首を断とうとした瞬間。
「せいっ!!!」
俺は、腰に携えていた剣を、思いっきり振りぬいた。
「・・・ッガ!!!」
俺が使う剣は『ニホントウ』という東方のジパングの剣。そして今放ったのは居合い。同じくジパングに伝わる抜刀術。そのスピードはまさに神速。至近距離でこれを放てばかわすのは至難。もちろん、あの騎士に当たった。
「安心しろ。峰打ちだ。・・・ていうか、そんな馬鹿正直に突っ込んできたら、今みたいにカウンター食らうぞ・・・って、もう意識ないか。」
「よ、よくも同胞を!皆、相手は1人だ!全員でかかれば」
「やめろ!!」
お?
「なんだ・・・た、隊長殿!?」
「貴方達では・・・彼には勝てない。」
「何故ですか!相手はたった一人!ここにいる全員でかかれば!」
「それでも無理だ。・・・彼は、かつて勇者と呼ばれた一人。君も『旋風のキース』の名前を聞けば、分かると思うよ。」
「せ、旋風の・・・!?それは、教会東部支部の・・・!?」
「うん。・・・ここは僕が行くよ。」
なんだか少し揉めたみたいだが、ようやく出てきたな、あいつ。
「よぉ。久しぶりだな、イアン。」
「ええ。・・・3年ぶり位ですかね。」
「そんなもんかね。」
「はい。確かに3年ですよ。・・・貴方が魔界に行って、消息が掴めなくなってからね。」
「・・・。」
「あの時は、先輩の事ですからフラッと帰ってくると思ってました。でも帰ってこなくて、先輩は神の下に召されたのだと思いました。・・・思っていたかった。でも、今貴方はここに居る。・・・居てしまっている。」
「・・・。」
「・・・先輩。本来なら、生きていることに喜ぶべきかも知れない。でも、貴方は・・・敵軍に居る。恐らく、半ば魔物となっているでしょう。」
「ああ。俺はもう、インキュバスになっちまってる。ほとんど人間と変わらないけどな。」
「・・・もう、話はいいでしょう。先輩・・・いや、キース!せめて僕の手で、その人生に幕を下ろしましょう!!」
やっぱりこうなったか。話し合いですまないかな〜、と思ったけどな。・・・仕方ない。
「・・・どうなっても、知らないからな!!」
イアン キース
HP10000/10000 HP10000/10000
イアンの攻撃!
「せいっ!」
キースに584ダメージ!
「ぐっ!・・・お返しだ!」
イアンに687ダメージ!
「っぐ・・・さすがですね!!」
イアン キース
HP9313/10000 HP9416/10000
「いきますよ・・・『魔人剣』!!」
「ちょ、その技は版権的に・・・うわぁっ!?」
キースに1765ダメージ!
「こんちくしょう・・・だったらこっちだって!『燕返し』!!」
イアンに1962ダメージ!
「あ、貴方だって!」
そして・・・
イアン キース
HP2872/10000 HP3218/10000
「はぁ・・・はぁ・・・さすが、元勇者・・・一筋縄ではいかない・・・。」
「おめえだって・・・昔とは全然違うじゃないか・・・。」
予想はついていたが・・・ここまで強いとは。
「そろそろ・・・終わりにしますか。」
「・・・ああ。」
もう、これで終わり。そう二人が感じた瞬間、周囲の空気が緊張した。先に仕掛けたのは、イアンだった。
「はぁぁあああああ!!」
あいつの周囲に、強大な魔力が集まっていく。
「これは、かつて神の力を与えられた1人の剣士が編み出した教会に伝わる究極奥義。その力は、数万の魔物を一瞬にして消し去るほど・・・受けてみよ!『ジ・ハード』!!」
そして、振り下ろされた剣から迸る光の奔流。それは、消し去るために俺を飲み込み━━━━
「・・・神よ。今、貴方の下に1人の罪人が参りました。その寛大なる御心で、どうか彼を」
「・・・おい、何勝手に殺してんだよ。」
「!!」
あいつは俺のことを倒したと思っているみたいだが、ところがどっこい、俺は生きている。
「な、何故!?」
「いや、何故って・・・全部防いだ。」
「・・・は?」
「だから、全部防いだって言ってるだろ。」
「そ、そんな馬鹿な!?あれはかつて魔物の大群を一瞬で消し去った奥義ですよ!それを『防いだ』の一言で済ますなんて!!」
「う〜ん・・・実はさ、それ、俺も撃てんだよ。」
「な!?」
「という訳で、『ジ・ハード』の弱所は知ってるので、そこに技を畳み込めばいいってこと。」
「そ、そんな事言っても・・・。」
「・・・さて、次は俺の番だ。ちゃんと構えとけよ?でないと・・・死ぬぞ?」
「!」
俺の感じが変わったのが分かったのか、あいつは一気に真面目な顔になる。
「この技は・・・ジパングでとある居合いの達人から習った、奥義。」
俺は神経を限界まで研ぎ澄ませていく。あいつも恐らく最高に集中しているだろう。
「・・・行くぞ。」
あ・・・ありのまま今起こった事を話すぜ!
『俺は敵と隊長が戦っているのを見ていて、気づいたら隊長が倒れていた』。
な・・・何を言っているのかわからねーと思うが、
俺も何起きたのか分からなかった・・・
頭がどうにかなりそうだった・・・。
南部支部軍のとある兵の記録より抜粋。
今俺が使った技は、『発勝する神気也』という技だ。超高速・・・それも、剣を抜いて、斬って、鞘に収めてから傷が開くぐらい速い。なんでも、この技名は昔ジパングの達人が言った格言が元ネタなんだが、本来ならば
『自分が出した気で相手を圧倒し、刀を抜かずして勝つ』
という意味だそうだ。
・・・おもいっきり斬ってるジャン、というのは言わなかった。言ったら斬られそうだった・・・と。
「え〜と・・・おい、そこのお前。」
適当に目についた騎士に話しかける。
「な、なんだ!」
「俺の名前を言ってm・・・じゃなくて。今の峰打ちだからこいつ死んでないぜ。でも、思いっきり叩きつけたから、今日中には起きないな。・・・さて、お前らの頭は沈んだ。まだ続けるか?」
「ぐっ・・・。」
「別に続けてもいいぜ?だが、こちらも次の手を打ってある。空から爆弾落としたり、ゴーレムを突撃させたり・・・どうするよ?」
「・・・ええいっ!隊長がやられては仕方が無い・・・退却!!」
「団長!敵軍、退却していきます!!」
「そうか、分かった。各隊には撤収するように伝えろ。」
「イエッサー!」
なんとか敵をこの防衛線で食い止めることができた。
・・・ほぼ、あいつのおかげだな。私はあまり勝利に貢献できなかった。指揮官として失格だな。
「なーに悩んでんだ?」
「ひゃっ!・・・キースか。いきなり声をかけるな。驚くだろ。」
「わりぃな。でもよ、どうせお前『指揮官失格だ』とかなんとか考えてるだろ。」
「な!」
こ、こいつ何故いつもいつも私の考えてることが分かるのだ!?
「何故って・・・だってお前、顔に出るから。」
「う・・・。」
「・・・マリッサ、お前は指揮官失格なんてことは無い。今回はたまたまあいつが優秀だっただけさ。」
「だ、だが!」
「だいたい、駄目な奴なら団長なんてなれる訳ねぇだろ。」
「・・・。」
「まぁ、お前は指揮執ってる時よりも、戦で剣を振ってる時の方が綺麗だがな。そこに俺は惚れた。」
「はぁ!?」
こ、こいつ・・・!さらりと凄いことを・・・!!
「さて・・・さっさと城に帰って、シャワーでも浴びてスッキリとしようぜ。」
「あ、ああ。」
さて・・・今俺達は城に帰ってきた。すでに俺はシャワーを浴びて汗を流している。そして、マリッサは・・・。
「〜♪」
シャワー中だ。・・・シャワー中、もちろんあいつは一糸纏わぬ姿な訳で・・・。
「これは・・・男ならやらねばならないことと見た!!」
あいつの裸を見るのは今に始まった事ではない。まぁ、ほとんど夫婦なのだから当然なのだが・・・このシチュエーションには見たことあろうがなかろうが、関係ない!
しかし、あいつは普通の女性ではない。誇り高いデュラハンだ。双方同意の上ならともかく、覗きとなれば・・・。
「・・・あばら数本もってかれるかもな。」
覚悟は・・・ある。
「よし・・・ユクゾ!!」
結果から言おう。今、俺は身包み剥がされベットに縛り付けられている。何故か?それはな・・・あいつが首を外していたことにある。
デュラハンは動くために必要な精を体内に保存している。そして、首はそのフタとなっているわけだが・・・首が外れるとその精が漏れ、性格が非常に好色となってしまう。
あいつは良く洗うために首を外しているらしい。普段ならその後に精神を集中して抑えるそうだが、運悪く外している最中に俺の姿を確認してしまった。抑えが利かなくなったマリッサはそのまま俺を捕獲。今に至るというわけさ。
「な、なぁマリッサ・・・。」
「なんだ、キース。」
「も、もう少し穏便に・・・。」
「・・・キース。帰るときに私に『惚れた』とか『綺麗』とか言ったよな。」
「あ?・・・ああ、言ったな。」
「嬉しい・・・『強い』などはよく言われるが『綺麗』と言ってくれるのは・・・騎士ではなく、女として見てくれたのはお前だけだ・・・。」
「・・・。」
「・・・あと、ひどく恥ずかしかった。」
「・・・は?」
「もしかしたら聞く人が居るかもしれないところで、あんな言葉・・・例はたっぷりとしてやろう。」
「え、えと・・・マリッサさ」
「朝まで寝かせはせんぞ・・・♪」
「ちょ、待て・・・待ってくれーーーーーー!!!!」
fin
「偵察より報告!敵軍は騎馬隊を筆頭に、弓兵部隊、魔術部隊等かなりの戦力となっており、数はおよそ十万以上!」
「了解、ではこれより迎撃作戦を開始する!」
おっと、紹介が遅れたな。俺の名はキース。数年程前までは勇者をやっていたが、魔王が代替わりした際に魔物が女性化して、それを殺しにくくなったときに今の嫁と出会って、結婚してここにいる。ああ、ちなみに俺の嫁はデュラハン、魔王騎士団の第二騎士団団長。俺は勇者部隊第二隊長だ。
デュラハンとの生活
「第一騎士団は城の守りにつくため、我ら第二騎士団が敵軍に攻撃を仕掛ける!まずは砲撃と弓、火炎系魔法で牽制する、準備を始めろ!!」
『イエッサー!』
彼女が命令すると部下達が各々の部隊へ命令を遂行するために戻っていく。
「ようマリッサ。」
「ぬ、キースか。なんの用だ?」
「いやさ、俺達に手伝えることはないかな〜、と思ったのでね。」
「問題無い。相手はただの人間、我々だけで十分だ!」
おー、さすが騎士団長、凄いプライドだ。
「だけどさ、その人間に負けたよな、お前。」
「あ、あの時は、その・・・首がうっかりと・・・ぬ、敵が見えたぞ。」
「ちっ、タイミング悪いな・・・お?」
「どうした?」
「いや、あの旗には見覚えが・・・。」
テントが張ってある本部の1キロほど先にある丘に見えた教会軍。そこにちらほらと見える旗。
「あぁ・・・確か、教会南部支部の・・・ということは!」
「ん?」
「・・・マリッサ、ちょっとこの戦、俺も出るぜ。」
「なぜだ?」
「あの部隊には・・・後輩が居る。」
「後輩が?だがそれだけなら・・・。」
「いや、それだからこそだ。だって、あいつは俺が直々に稽古をつけてた弟子みたいなもんだ。しかも、元から才能があったのかびっくりするようなスピードで成長していった。もし、俺が居なくなってからも鍛錬を続けていたら・・・お前じゃ勝てない。」
「貴様!私を愚弄するか!」
「そうじゃない!・・・ただ・・・心配なだけだ。あいつは根っからの反魔物派だから。」
「キース・・・。」
そうやって彼女が微かに潤んだ目で俺を見つめてくる。そのまま、俺達の距離は近づいていき・・・。
「団長!攻撃の用意が出来ました!ご指示を!」
連絡係が入ってきて、俺達は一瞬で離れた。
(わ、私はキースと何を・・・戦場なのに。気を引き締めろ!)
「わ、分かった。では・・・開始!!」
彼女の号令と共に、弓矢やら魔法やら砲弾やらが教会軍に向かって飛んでいく。そして数瞬の後に耳に届く、轟音。ここが、戦場となった瞬間だった。
簡単に言おう。俺達は劣勢だった。こちらも結構頑張っているが、向こうは洗礼された武具防具を身に纏い、恐らく隊長であろう後輩、イアンが一騎当千の力を見せ、ガンガン攻めてきているのだ。
「報告!第三騎馬部隊と第二魔法部隊が戦線を維持出来なくなり撤退、第二騎馬部隊も押されています!!」
「ぬぅ・・・第三騎馬部隊と第二魔法部隊は連携して第二騎馬部隊の援護に回るように!あと、ハーピー部隊に空襲作戦を!」
「はっ!」
「・・・クソッ!相手はたかだか人間・・・それに押されるなぞ!」
マリッサが悔しそうに顔を歪める。自身の指揮官としてのプライドを傷つけられた為だろう。
「・・・やっぱり、俺出るわ。」
「キース!・・・良いのか?相手は・・・。」
「平気さ。それに、俺はもう、散々魔界にいてインキュバス化してるんでね。あいつらからしたら静粛範囲内さ。」
「キース・・・。」
「んじゃ、行って来る。」
そういって、俺は彼女に軽くキスをする。
「ん・・・無事で帰ってこいよ。」
「イエッサ!」
さて、この混戦・・・一番手っ取り早いのは頭を潰す事だが・・・よし。
「えーと・・・あ、そこのハーピーの君!」
「は、はい!何でしょうか?」
「俺をさ、最前線まで連れてってくれないか?」
「え・・・なぜですか?」
「頭を潰す。そうすれば相手は統率が取れなくなり、その隙に巻き返せる。」
「か、頭を潰す!?そんなことが・・・。」
「出来るかどうかはやってみないと分からない。とりあえず、俺を運んでくれ。すぐに離脱していいから。あと、空襲作戦はもう少し待ってくれと他のハーピーに伝えてくれ。」
「い、イエッサー!」
おー、空から戦場を見ると感動するな。・・・ん?あれは第一騎馬部隊長、ケンタウロスのウリアじゃないか。うわ、長い槍で剣士5人まとめてふっ飛ばしやがった。あっちは・・・ワーウルフ達か。さすがに速いな。敵さん対応しきれてねー。
「あ、あの・・・。」
「なんだ?」
「のんびりしてますけど、空中散歩ではないんですよ?」
「分かってるって・・・お、いたいた。」
「敵の頭ですか?」
「ああ。あそこの馬に乗ってるやつだ。あそこまで飛んでくれ。」
「分かりました!飛ばしますよ〜♪」
「と、飛ばすって・・・ああああああ!!!」
か、風が・・・痛い!猛烈に痛いが・・・あっという間に近づいた。
「よ、よし!もう良い、ここから落としてくれ。」
「い、良いのですか?」
「ああ。落としてくれ。」
「分かりました・・・ご武運を!」
そういって彼女は離す。そして、落ちていく俺。
「隊長!我が軍が押してます!このまま押し切りましょう!」
「ああ、僕もそう思うよ。・・・よし、このまま一気に」
「ぉぉぉぉおおおおおお!」
僕が部下達に指示を出そうとした瞬間、どこからか大きな雄たけびが聞こえてきた。
「な、なんだ!?」
ドォォーーーーン・・・
そして響き渡る轟音。
「た、隊長!」
「どうした!?」
「そ、空から人が!」
「何だって!?」
(空から人だって・・・何なんだ!?)
そして、響き渡る、声。その声にこそ、一番驚愕した。
「我こそは、魔物軍第二勇者部隊長、キース=ゲインである!これより、隊長と一騎打ちの勝負を申し込みたい!!」
その声こそ、僕が一番聞きたくない声であった。
さて、敵のど真ん中で口上したのは良いが、この後どうなるか・・・。
「貴様!我が軍に1人で立ち向かうとは良い度胸だ!だが、貴様は我が敵!観念して斬られろ!!」
ほら、やっぱり。殺意剥き出しだ。
「おおおおお!!!」
そして、恐らく祝福してもらったであろう大剣で、俺を切ろうとする。
「その首、貰った!!」
その剣が、俺の首を断とうとした瞬間。
「せいっ!!!」
俺は、腰に携えていた剣を、思いっきり振りぬいた。
「・・・ッガ!!!」
俺が使う剣は『ニホントウ』という東方のジパングの剣。そして今放ったのは居合い。同じくジパングに伝わる抜刀術。そのスピードはまさに神速。至近距離でこれを放てばかわすのは至難。もちろん、あの騎士に当たった。
「安心しろ。峰打ちだ。・・・ていうか、そんな馬鹿正直に突っ込んできたら、今みたいにカウンター食らうぞ・・・って、もう意識ないか。」
「よ、よくも同胞を!皆、相手は1人だ!全員でかかれば」
「やめろ!!」
お?
「なんだ・・・た、隊長殿!?」
「貴方達では・・・彼には勝てない。」
「何故ですか!相手はたった一人!ここにいる全員でかかれば!」
「それでも無理だ。・・・彼は、かつて勇者と呼ばれた一人。君も『旋風のキース』の名前を聞けば、分かると思うよ。」
「せ、旋風の・・・!?それは、教会東部支部の・・・!?」
「うん。・・・ここは僕が行くよ。」
なんだか少し揉めたみたいだが、ようやく出てきたな、あいつ。
「よぉ。久しぶりだな、イアン。」
「ええ。・・・3年ぶり位ですかね。」
「そんなもんかね。」
「はい。確かに3年ですよ。・・・貴方が魔界に行って、消息が掴めなくなってからね。」
「・・・。」
「あの時は、先輩の事ですからフラッと帰ってくると思ってました。でも帰ってこなくて、先輩は神の下に召されたのだと思いました。・・・思っていたかった。でも、今貴方はここに居る。・・・居てしまっている。」
「・・・。」
「・・・先輩。本来なら、生きていることに喜ぶべきかも知れない。でも、貴方は・・・敵軍に居る。恐らく、半ば魔物となっているでしょう。」
「ああ。俺はもう、インキュバスになっちまってる。ほとんど人間と変わらないけどな。」
「・・・もう、話はいいでしょう。先輩・・・いや、キース!せめて僕の手で、その人生に幕を下ろしましょう!!」
やっぱりこうなったか。話し合いですまないかな〜、と思ったけどな。・・・仕方ない。
「・・・どうなっても、知らないからな!!」
イアン キース
HP10000/10000 HP10000/10000
イアンの攻撃!
「せいっ!」
キースに584ダメージ!
「ぐっ!・・・お返しだ!」
イアンに687ダメージ!
「っぐ・・・さすがですね!!」
イアン キース
HP9313/10000 HP9416/10000
「いきますよ・・・『魔人剣』!!」
「ちょ、その技は版権的に・・・うわぁっ!?」
キースに1765ダメージ!
「こんちくしょう・・・だったらこっちだって!『燕返し』!!」
イアンに1962ダメージ!
「あ、貴方だって!」
そして・・・
イアン キース
HP2872/10000 HP3218/10000
「はぁ・・・はぁ・・・さすが、元勇者・・・一筋縄ではいかない・・・。」
「おめえだって・・・昔とは全然違うじゃないか・・・。」
予想はついていたが・・・ここまで強いとは。
「そろそろ・・・終わりにしますか。」
「・・・ああ。」
もう、これで終わり。そう二人が感じた瞬間、周囲の空気が緊張した。先に仕掛けたのは、イアンだった。
「はぁぁあああああ!!」
あいつの周囲に、強大な魔力が集まっていく。
「これは、かつて神の力を与えられた1人の剣士が編み出した教会に伝わる究極奥義。その力は、数万の魔物を一瞬にして消し去るほど・・・受けてみよ!『ジ・ハード』!!」
そして、振り下ろされた剣から迸る光の奔流。それは、消し去るために俺を飲み込み━━━━
「・・・神よ。今、貴方の下に1人の罪人が参りました。その寛大なる御心で、どうか彼を」
「・・・おい、何勝手に殺してんだよ。」
「!!」
あいつは俺のことを倒したと思っているみたいだが、ところがどっこい、俺は生きている。
「な、何故!?」
「いや、何故って・・・全部防いだ。」
「・・・は?」
「だから、全部防いだって言ってるだろ。」
「そ、そんな馬鹿な!?あれはかつて魔物の大群を一瞬で消し去った奥義ですよ!それを『防いだ』の一言で済ますなんて!!」
「う〜ん・・・実はさ、それ、俺も撃てんだよ。」
「な!?」
「という訳で、『ジ・ハード』の弱所は知ってるので、そこに技を畳み込めばいいってこと。」
「そ、そんな事言っても・・・。」
「・・・さて、次は俺の番だ。ちゃんと構えとけよ?でないと・・・死ぬぞ?」
「!」
俺の感じが変わったのが分かったのか、あいつは一気に真面目な顔になる。
「この技は・・・ジパングでとある居合いの達人から習った、奥義。」
俺は神経を限界まで研ぎ澄ませていく。あいつも恐らく最高に集中しているだろう。
「・・・行くぞ。」
あ・・・ありのまま今起こった事を話すぜ!
『俺は敵と隊長が戦っているのを見ていて、気づいたら隊長が倒れていた』。
な・・・何を言っているのかわからねーと思うが、
俺も何起きたのか分からなかった・・・
頭がどうにかなりそうだった・・・。
南部支部軍のとある兵の記録より抜粋。
今俺が使った技は、『発勝する神気也』という技だ。超高速・・・それも、剣を抜いて、斬って、鞘に収めてから傷が開くぐらい速い。なんでも、この技名は昔ジパングの達人が言った格言が元ネタなんだが、本来ならば
『自分が出した気で相手を圧倒し、刀を抜かずして勝つ』
という意味だそうだ。
・・・おもいっきり斬ってるジャン、というのは言わなかった。言ったら斬られそうだった・・・と。
「え〜と・・・おい、そこのお前。」
適当に目についた騎士に話しかける。
「な、なんだ!」
「俺の名前を言ってm・・・じゃなくて。今の峰打ちだからこいつ死んでないぜ。でも、思いっきり叩きつけたから、今日中には起きないな。・・・さて、お前らの頭は沈んだ。まだ続けるか?」
「ぐっ・・・。」
「別に続けてもいいぜ?だが、こちらも次の手を打ってある。空から爆弾落としたり、ゴーレムを突撃させたり・・・どうするよ?」
「・・・ええいっ!隊長がやられては仕方が無い・・・退却!!」
「団長!敵軍、退却していきます!!」
「そうか、分かった。各隊には撤収するように伝えろ。」
「イエッサー!」
なんとか敵をこの防衛線で食い止めることができた。
・・・ほぼ、あいつのおかげだな。私はあまり勝利に貢献できなかった。指揮官として失格だな。
「なーに悩んでんだ?」
「ひゃっ!・・・キースか。いきなり声をかけるな。驚くだろ。」
「わりぃな。でもよ、どうせお前『指揮官失格だ』とかなんとか考えてるだろ。」
「な!」
こ、こいつ何故いつもいつも私の考えてることが分かるのだ!?
「何故って・・・だってお前、顔に出るから。」
「う・・・。」
「・・・マリッサ、お前は指揮官失格なんてことは無い。今回はたまたまあいつが優秀だっただけさ。」
「だ、だが!」
「だいたい、駄目な奴なら団長なんてなれる訳ねぇだろ。」
「・・・。」
「まぁ、お前は指揮執ってる時よりも、戦で剣を振ってる時の方が綺麗だがな。そこに俺は惚れた。」
「はぁ!?」
こ、こいつ・・・!さらりと凄いことを・・・!!
「さて・・・さっさと城に帰って、シャワーでも浴びてスッキリとしようぜ。」
「あ、ああ。」
さて・・・今俺達は城に帰ってきた。すでに俺はシャワーを浴びて汗を流している。そして、マリッサは・・・。
「〜♪」
シャワー中だ。・・・シャワー中、もちろんあいつは一糸纏わぬ姿な訳で・・・。
「これは・・・男ならやらねばならないことと見た!!」
あいつの裸を見るのは今に始まった事ではない。まぁ、ほとんど夫婦なのだから当然なのだが・・・このシチュエーションには見たことあろうがなかろうが、関係ない!
しかし、あいつは普通の女性ではない。誇り高いデュラハンだ。双方同意の上ならともかく、覗きとなれば・・・。
「・・・あばら数本もってかれるかもな。」
覚悟は・・・ある。
「よし・・・ユクゾ!!」
結果から言おう。今、俺は身包み剥がされベットに縛り付けられている。何故か?それはな・・・あいつが首を外していたことにある。
デュラハンは動くために必要な精を体内に保存している。そして、首はそのフタとなっているわけだが・・・首が外れるとその精が漏れ、性格が非常に好色となってしまう。
あいつは良く洗うために首を外しているらしい。普段ならその後に精神を集中して抑えるそうだが、運悪く外している最中に俺の姿を確認してしまった。抑えが利かなくなったマリッサはそのまま俺を捕獲。今に至るというわけさ。
「な、なぁマリッサ・・・。」
「なんだ、キース。」
「も、もう少し穏便に・・・。」
「・・・キース。帰るときに私に『惚れた』とか『綺麗』とか言ったよな。」
「あ?・・・ああ、言ったな。」
「嬉しい・・・『強い』などはよく言われるが『綺麗』と言ってくれるのは・・・騎士ではなく、女として見てくれたのはお前だけだ・・・。」
「・・・。」
「・・・あと、ひどく恥ずかしかった。」
「・・・は?」
「もしかしたら聞く人が居るかもしれないところで、あんな言葉・・・例はたっぷりとしてやろう。」
「え、えと・・・マリッサさ」
「朝まで寝かせはせんぞ・・・♪」
「ちょ、待て・・・待ってくれーーーーーー!!!!」
fin
09/12/23 21:56更新 / SIN
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