酔狂なる女王の隷族
フェラチーオ砂漠。
海の様に広大な砂地には島の様に大小様々な沢山のオアシスが点在しており、特に大きな規模のものはほとんどファラオによって国が建てられて統治されている。
特にフェラチーオ砂漠の西に位置する「カーメンツター王国」を治めるファラオ、レオク・トパラはとにかく破天荒なことで有名だ。
彼女はとにかく人を驚かせることが好きで、幼少の頃には武術の師匠と両親の家臣たちに「練習の成果を見せてやる」と言い、屈強な近衛兵十人を相手に勝利を治めて彼らを驚かせ、青年の頃には自分の国の周りにある小規模なオアシスを灌漑して巨大な川を作らせ、水不足にあえいでいた農民達を救済して身内の度肝を抜き、そして一週間前、昨年に「ちょっくら旅に出てくる」と言って城を抜け出し、諸外国を旅し、旅した国の王族達を友人として自分の国に招き入れ、珍しい特産品を持ち帰った上で帰還して国民を仰天させた。
そんな、ハチャメチャ女王が治めるカーメンツター王国では今・・・・
「あ〜!可愛い〜!」
「ごろにゃん♪」
「ほーら!とってこーい!」
「わんっ♪」
レオクが旅をした際に親交を持った西洋の親魔物国からもたらされた魔物をペットとする文化が大ブームとなっていた。
国民達はペット(及び妻)としてコボルドやクー・シー、ケット・シーを飼うようになり、中にはヘルハウンドを飼育する強者もいた。
〜カーメンツター王国のピラミッド〜
「お呼びでしょうか、レオク陛下。」
レオクの忠実な臣下、アスビスのチャッカ大臣がレオクに呼ばれて王座の前へ出た。
「よくぞ来てくれたな、チャッカ。」
「はい、陛下のお呼びとあれば何時でも何処へと参るまでです。どうぞ、ご用件を。」
「チャッカよ、お前に話したいことがある。」
チャッカは緊張し、生唾を呑み込む。
あの豪快でサバサバしているレオクがこれまでにない真面目な表情と冷静な口調で語りかけてきているのだ。重大なことに違いない。
チャッカは如何なる用件を言われても動じない覚悟を固め、主の命に耳を傾ける。
「近頃、民たちの間で魔物を飼うことが流行っているであろう。ついこの間、城下町に足を運んだ時に民達がコボルドなんかを散歩させたり一緒に遊んでいるのを見ていたら余も魔物を飼ってみたくなったのだ。」
「・・・・・。」
重大な話かもしれないかと思い身構えていたら、いざ聞いてみればいつもの無茶すぎる要求で拍子抜けしてしまった。
「レオク様、我がピラミッドには既に犬、猫、オウム、タカ、ワシ、フクロウ、ウサギ、陸亀、牛、馬、豚、イノシシ、オオカミ、マントヒヒ、カンガルー、ウォンバット、ヒクイドリ、ヒョウ、クズリ、シマウマ、ライオン、トラ、マンドリル、チンパンジー、オランウータン、ゴリラ、セイウチ、アザラシ、アシカ、ラッコ、イルカ、シャチ、マッコウクジラ、大トカゲ、ワニ、アナコンダ、ヒグマ、ホッキョクグマ、ジャイアントパンダ、レッサーパンダ、カバ、サイ、ゾウ、始祖鳥、ドードー、マンモス、サーベルタイガー、オーロックス、トリケラトプス、ステゴサウルス、アンキロサウルス、ヴェロキラプトル、スピノサウルス、ティラノサウルスがペットとしているではありませんか!これ以上増やされてはたまりませんよ!」
ただでさえ多すぎるペットがさらに増える事に対して顔を赤くして抗議の声を上げる。
「大丈夫だ!世話はするし、飼育に必要な経費は余のポケットマネーから出す!心配いらん!」
「確かに陛下の仰る通り全ての動物達の世話は陛下自身でちゃんとやられておりますし、経費だって自前で出す所は良いのですがこれ以上増やすのは止めて頂いて欲しいです!」
「別に良いではないか、あやつ等の新しい仲間を増やそうとしているのだ。少しは嬉しがらんか。」
「良くないですよ!ついこの間ペットに迎えたティラノサウルスのスーちゃんにイタズラで追いかけ回されたせいで近衛兵たちが疲れ果てて休んでしまったんですよ!」
「アレに関してはスーちゃんが悪さしているのに気づかなかった余に非があるから反省しておるし、ちゃんとスーちゃんにもアレはいけないことだと言い聞かせておいたぞ。そうじゃろ?」
ズシン、ズシン、ズシン
王の部屋の奥から、重厚な足音を立ててティラノサウルスのスーちゃんが現れた。
「グルルルォン・・・」
スーちゃんは体勢を低くし、頭を下げてレオクの前に鼻面を差し出す。
「よしよし、良い子だ。」
差し出された鼻面をレオクは優しく撫でてやる。
「ゥルルルル・・・・」
「・・・・・。」
「ほれ、チャッカ。スーちゃんも反省しておるから、彼女に免じて余が次に魔物をペットとして迎え入れるのを許可してくれぬか?」
「それとこれとは話が別です!ダメなものはダメですから!」
「・・・。ふむ。説得はどうやら無理なようだな・・・。強行手段といくか。スーちゃん、伏せ。」
レオクはスーちゃんに指示を出し姿勢をさらに低くさせ、完全に地面に伏した姿勢にすると、王座の上から彼女の上に飛び乗る。
「口で言ってもどうせ駄目なのは初めから予想しておったわ!」
「お止め下さい〜!レオク様〜!」
「チャッカ!夕飯までには戻ると周りの者に伝えておけ〜!行くぞ!スーちゃん!」
「ギャオルルルルォオォオ〜ッ!」
ドスンッ!ドスンッ!ドスンッ!
主の一声で、スーちゃんは雄叫びを上げると、王の間から外に繋がる通路の方へと駆け出した。
「お、お待ち下さいッ!陛下〜!あぁ・・・、前国王陛下夫妻に何と言ったら良いのだろうか・・・」
哀れな大臣は胃を痛ませながら、巨竜の背に乗った主を呆然と見送るしかなかった
〜夕方〜
「チャッカ〜!今帰って来たぞ〜!」
「グォォォ〜ン」
ズン、ズン、ズン、ズン
「お帰りなさいませ・・・陛下・・・」
「チャッカよ。予定通りこの城に新たな仲間が加わることになったぞ。」
「は、はい・・・。先程お聞きしましたが「魔物の」ですよね・・・。」
「そうだ!それもとびきりド派手でグレートなヤツが手に入ったのだ。」
レオクは面白い物が手に入ったというかのような自信満々な表情をスーちゃんに乗った上から見せる。
「ほれ、降りて来い。」
シュルリッ
レオクの後ろから、何者かがしなやかな音を立て、スーちゃんの背からチャッカの前に舞い降りる。
「なっ、コ、コ、コ、コ、コイツはぁっ!?」
チャッカは自分の前に降り立った者に驚愕した。
「よろしくお願いするわね♥」
「アポピスではないですかぁっ!?」
「うむ、そうだ。」
「そうだではありませんよ!今すぐ元いた場所に帰して来てください!」
「名前も余が「カームンラー」と名付けたぞ。どうだ?素晴らしいネーミングセンスだろう?」
「人の話聞いているんですかっ!?」
アポピス。旧魔王時代より生きる強大な力を持った蛇の魔物で、ファラオを強力な毒の牙で襲い、国を乗っ取ってしまうレオクやこの国にとっても非常に危険な存在である。
「何故だ?折角親睦を深めてきたというのに、追い返してしまうなど不人情な話ではないか。」
「レオク様!そいつがどれだけ危険な存在かが分からないのですか!?」
「あぁ、アポピスがお前の言う通り余にもこの国にとても危険な存在だということは分かっておる。だが、それが逆に良いのだ。こういった怖い物ほどスリルがあって面白いではないか。」
「良くありませんよ!陛下は自分の立場が分かっていないのですか!?貴方は国王ですよ!?国王!女王様、クイーンですよ!コイツはそんな貴方を襲って王座を奪うことを使命に生きている様な存在です!コイツに寝首をかかれて権力を奪われてしまえばこの国の民たちはどんなに惨めな目に合わされるか分かりませんよ!今すぐ捨てて来てください!」
普段の冷静さを殴り捨てて発狂した。
ヘタをすれば国と権威を失いかねないような危ない存在を平然と家族の一員に加えようとしているレオクに怒りとツッコミを隠せないからである。
彼女のあまりの剣幕に二人の後ろにいたスーちゃんが怯えてしまっている。
「まぁまぁ、そう怒るな。カルシウムたっぷりの地下水でも飲んで落ち着け。」
レオクは腰に下げていた水筒をチャッカの方へやる。
「落ち着ける訳ねぇだろこの馬鹿殿がぁぁぁぁぁぁぁ!てめぇいっぺん噛まれてみろやボケェェェェ!一億回絶頂しとけやコラァァァァ!」
ついにチャッカは怒りが頂点に達してしまい主従関係もクソ食らえといわんばかりに完全に吹っ切れてしまった。
「とにかく、こいつは危険すぎます!今すぐ捨てて来てください!」
「・・・・・。」
捨てるという言葉を聞いたカームンラーは目をうるませてチャッカの方を向く。
「そんな目をしてもダメなものはダメだっ!さっさと出ていけっ!シッシッ!」
「・・・・・。」
さっきよりも強力になった目の輝きの光が浴びせられる。
「分かった!分かった!そんな目で見つめるな!・・・・。陛下、良いでしょう。彼女を飼うことを認めます。ただし、相手が相手なのでくれぐれも気を抜かないでください。」
「良かったのぅ、カームンラー。」
「はい♪」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
数ヵ月後。
「あら〜可愛いわね〜」
「よしよし、いい子いい子♪」
「しゃー♪」
カーメンツター王国では、レオクがアポピスを飼う魅力を国民に説いたため階級を問わず幅広い層に飼われるようになり、今や国旗のデザインとしても採用され国のマスコット的な存在となっていた。
ある時、レオクに招待された近隣の国を治めるファラオが自分達の天敵のような存在が至るところにウジャウジャいる光景を見て卒倒しかけたが、すぐに飼い慣らされて邪気や獰猛さの抜けきった彼女らの持つ愛くるしさにのめりこみ、里親募集センターに猛ダッシュで駆け込んで一人引き取って帰ってきたという珍話も生まれている。
更に、強大な力を持っている上に数も多いアポピスを労働力にすることに目をつけた商人達や魅力に惹かれた著名人が次々と流入したことで国はこれまでにないほど栄えたのだ。
「レオク様、まさかアポピスのお陰で我が国が豊かになるとは思いもよりませんでしたね。」
「きゃっ♪きゃっ♪」
チャッカが赤ん坊のアポピスを抱き抱えながら柔らかい蛇腹をぷにぷにと優しく突く。
「全く、こんなことは余も想定しておらんかったわ。しかしあれ程アポピスを毛嫌いしていたお前が骨抜きにされてしまうとなは。」
「えぇ、なんでこんなに可愛くて素敵な存在をただ意味も無く忌み嫌っていたのか私にも分かりません。過去の自分を徹底的に説き伏せて更正させてやりたい気分です。ねー?ナーちゃん♪」
「あう♪だぁ♪」
「そ、そうか・・・」
墜ちたという言葉が似合うほどあまりにも変わってしまった側近にレオクはややドン引きする。
「それでですね!レオク様!彼女らの素晴らしい所はこんなものではございませんよ!彼女らの歴史は・・・」
「待て。腕の中を見てみろ。」
「えっ?」
チャッカが腕の中を覗きこむと、そこでは赤ん坊がすぅすぅと静かに寝息を立てて眠りについていた。
「すぅ・・・」
「チャッカ。今ここでお前が口うるさく魅力を語り通せばこやつが快く眠れなくなってしまうであろう。」
「あっ・・・・・。」
「お前が本当にこやつらを愛しているのであれば、彼女らのことを考えてやるべきではないか?」
「そうでしたね。私としたことがこの子に申し訳ない・・・。次から気をつけます。」
「それで良し。これからもその熱意を生かして大臣の務めを果たすのだぞ。さて、最近室内での政が多すぎて室内に籠りきりだったので息苦しくて仕方がないな。久々に新鮮な外の空気でも吸うとしよう。」
王座の肘掛けを掴んでレオクは立ち上がり王の間を出ると、階段の踊り場に来ると、屋上へと続く階段を上がり、テラスに登りつめた。
雲ひとつ無い青空の下には巨大な砂丘に囲まれたオアシスの城下町が広がっている。
そして、その城下町のあちらこちらでは今日も人々とアポピスの暖かいやり取りが見られるのであった。
海の様に広大な砂地には島の様に大小様々な沢山のオアシスが点在しており、特に大きな規模のものはほとんどファラオによって国が建てられて統治されている。
特にフェラチーオ砂漠の西に位置する「カーメンツター王国」を治めるファラオ、レオク・トパラはとにかく破天荒なことで有名だ。
彼女はとにかく人を驚かせることが好きで、幼少の頃には武術の師匠と両親の家臣たちに「練習の成果を見せてやる」と言い、屈強な近衛兵十人を相手に勝利を治めて彼らを驚かせ、青年の頃には自分の国の周りにある小規模なオアシスを灌漑して巨大な川を作らせ、水不足にあえいでいた農民達を救済して身内の度肝を抜き、そして一週間前、昨年に「ちょっくら旅に出てくる」と言って城を抜け出し、諸外国を旅し、旅した国の王族達を友人として自分の国に招き入れ、珍しい特産品を持ち帰った上で帰還して国民を仰天させた。
そんな、ハチャメチャ女王が治めるカーメンツター王国では今・・・・
「あ〜!可愛い〜!」
「ごろにゃん♪」
「ほーら!とってこーい!」
「わんっ♪」
レオクが旅をした際に親交を持った西洋の親魔物国からもたらされた魔物をペットとする文化が大ブームとなっていた。
国民達はペット(及び妻)としてコボルドやクー・シー、ケット・シーを飼うようになり、中にはヘルハウンドを飼育する強者もいた。
〜カーメンツター王国のピラミッド〜
「お呼びでしょうか、レオク陛下。」
レオクの忠実な臣下、アスビスのチャッカ大臣がレオクに呼ばれて王座の前へ出た。
「よくぞ来てくれたな、チャッカ。」
「はい、陛下のお呼びとあれば何時でも何処へと参るまでです。どうぞ、ご用件を。」
「チャッカよ、お前に話したいことがある。」
チャッカは緊張し、生唾を呑み込む。
あの豪快でサバサバしているレオクがこれまでにない真面目な表情と冷静な口調で語りかけてきているのだ。重大なことに違いない。
チャッカは如何なる用件を言われても動じない覚悟を固め、主の命に耳を傾ける。
「近頃、民たちの間で魔物を飼うことが流行っているであろう。ついこの間、城下町に足を運んだ時に民達がコボルドなんかを散歩させたり一緒に遊んでいるのを見ていたら余も魔物を飼ってみたくなったのだ。」
「・・・・・。」
重大な話かもしれないかと思い身構えていたら、いざ聞いてみればいつもの無茶すぎる要求で拍子抜けしてしまった。
「レオク様、我がピラミッドには既に犬、猫、オウム、タカ、ワシ、フクロウ、ウサギ、陸亀、牛、馬、豚、イノシシ、オオカミ、マントヒヒ、カンガルー、ウォンバット、ヒクイドリ、ヒョウ、クズリ、シマウマ、ライオン、トラ、マンドリル、チンパンジー、オランウータン、ゴリラ、セイウチ、アザラシ、アシカ、ラッコ、イルカ、シャチ、マッコウクジラ、大トカゲ、ワニ、アナコンダ、ヒグマ、ホッキョクグマ、ジャイアントパンダ、レッサーパンダ、カバ、サイ、ゾウ、始祖鳥、ドードー、マンモス、サーベルタイガー、オーロックス、トリケラトプス、ステゴサウルス、アンキロサウルス、ヴェロキラプトル、スピノサウルス、ティラノサウルスがペットとしているではありませんか!これ以上増やされてはたまりませんよ!」
ただでさえ多すぎるペットがさらに増える事に対して顔を赤くして抗議の声を上げる。
「大丈夫だ!世話はするし、飼育に必要な経費は余のポケットマネーから出す!心配いらん!」
「確かに陛下の仰る通り全ての動物達の世話は陛下自身でちゃんとやられておりますし、経費だって自前で出す所は良いのですがこれ以上増やすのは止めて頂いて欲しいです!」
「別に良いではないか、あやつ等の新しい仲間を増やそうとしているのだ。少しは嬉しがらんか。」
「良くないですよ!ついこの間ペットに迎えたティラノサウルスのスーちゃんにイタズラで追いかけ回されたせいで近衛兵たちが疲れ果てて休んでしまったんですよ!」
「アレに関してはスーちゃんが悪さしているのに気づかなかった余に非があるから反省しておるし、ちゃんとスーちゃんにもアレはいけないことだと言い聞かせておいたぞ。そうじゃろ?」
ズシン、ズシン、ズシン
王の部屋の奥から、重厚な足音を立ててティラノサウルスのスーちゃんが現れた。
「グルルルォン・・・」
スーちゃんは体勢を低くし、頭を下げてレオクの前に鼻面を差し出す。
「よしよし、良い子だ。」
差し出された鼻面をレオクは優しく撫でてやる。
「ゥルルルル・・・・」
「・・・・・。」
「ほれ、チャッカ。スーちゃんも反省しておるから、彼女に免じて余が次に魔物をペットとして迎え入れるのを許可してくれぬか?」
「それとこれとは話が別です!ダメなものはダメですから!」
「・・・。ふむ。説得はどうやら無理なようだな・・・。強行手段といくか。スーちゃん、伏せ。」
レオクはスーちゃんに指示を出し姿勢をさらに低くさせ、完全に地面に伏した姿勢にすると、王座の上から彼女の上に飛び乗る。
「口で言ってもどうせ駄目なのは初めから予想しておったわ!」
「お止め下さい〜!レオク様〜!」
「チャッカ!夕飯までには戻ると周りの者に伝えておけ〜!行くぞ!スーちゃん!」
「ギャオルルルルォオォオ〜ッ!」
ドスンッ!ドスンッ!ドスンッ!
主の一声で、スーちゃんは雄叫びを上げると、王の間から外に繋がる通路の方へと駆け出した。
「お、お待ち下さいッ!陛下〜!あぁ・・・、前国王陛下夫妻に何と言ったら良いのだろうか・・・」
哀れな大臣は胃を痛ませながら、巨竜の背に乗った主を呆然と見送るしかなかった
〜夕方〜
「チャッカ〜!今帰って来たぞ〜!」
「グォォォ〜ン」
ズン、ズン、ズン、ズン
「お帰りなさいませ・・・陛下・・・」
「チャッカよ。予定通りこの城に新たな仲間が加わることになったぞ。」
「は、はい・・・。先程お聞きしましたが「魔物の」ですよね・・・。」
「そうだ!それもとびきりド派手でグレートなヤツが手に入ったのだ。」
レオクは面白い物が手に入ったというかのような自信満々な表情をスーちゃんに乗った上から見せる。
「ほれ、降りて来い。」
シュルリッ
レオクの後ろから、何者かがしなやかな音を立て、スーちゃんの背からチャッカの前に舞い降りる。
「なっ、コ、コ、コ、コ、コイツはぁっ!?」
チャッカは自分の前に降り立った者に驚愕した。
「よろしくお願いするわね♥」
「アポピスではないですかぁっ!?」
「うむ、そうだ。」
「そうだではありませんよ!今すぐ元いた場所に帰して来てください!」
「名前も余が「カームンラー」と名付けたぞ。どうだ?素晴らしいネーミングセンスだろう?」
「人の話聞いているんですかっ!?」
アポピス。旧魔王時代より生きる強大な力を持った蛇の魔物で、ファラオを強力な毒の牙で襲い、国を乗っ取ってしまうレオクやこの国にとっても非常に危険な存在である。
「何故だ?折角親睦を深めてきたというのに、追い返してしまうなど不人情な話ではないか。」
「レオク様!そいつがどれだけ危険な存在かが分からないのですか!?」
「あぁ、アポピスがお前の言う通り余にもこの国にとても危険な存在だということは分かっておる。だが、それが逆に良いのだ。こういった怖い物ほどスリルがあって面白いではないか。」
「良くありませんよ!陛下は自分の立場が分かっていないのですか!?貴方は国王ですよ!?国王!女王様、クイーンですよ!コイツはそんな貴方を襲って王座を奪うことを使命に生きている様な存在です!コイツに寝首をかかれて権力を奪われてしまえばこの国の民たちはどんなに惨めな目に合わされるか分かりませんよ!今すぐ捨てて来てください!」
普段の冷静さを殴り捨てて発狂した。
ヘタをすれば国と権威を失いかねないような危ない存在を平然と家族の一員に加えようとしているレオクに怒りとツッコミを隠せないからである。
彼女のあまりの剣幕に二人の後ろにいたスーちゃんが怯えてしまっている。
「まぁまぁ、そう怒るな。カルシウムたっぷりの地下水でも飲んで落ち着け。」
レオクは腰に下げていた水筒をチャッカの方へやる。
「落ち着ける訳ねぇだろこの馬鹿殿がぁぁぁぁぁぁぁ!てめぇいっぺん噛まれてみろやボケェェェェ!一億回絶頂しとけやコラァァァァ!」
ついにチャッカは怒りが頂点に達してしまい主従関係もクソ食らえといわんばかりに完全に吹っ切れてしまった。
「とにかく、こいつは危険すぎます!今すぐ捨てて来てください!」
「・・・・・。」
捨てるという言葉を聞いたカームンラーは目をうるませてチャッカの方を向く。
「そんな目をしてもダメなものはダメだっ!さっさと出ていけっ!シッシッ!」
「・・・・・。」
さっきよりも強力になった目の輝きの光が浴びせられる。
「分かった!分かった!そんな目で見つめるな!・・・・。陛下、良いでしょう。彼女を飼うことを認めます。ただし、相手が相手なのでくれぐれも気を抜かないでください。」
「良かったのぅ、カームンラー。」
「はい♪」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
数ヵ月後。
「あら〜可愛いわね〜」
「よしよし、いい子いい子♪」
「しゃー♪」
カーメンツター王国では、レオクがアポピスを飼う魅力を国民に説いたため階級を問わず幅広い層に飼われるようになり、今や国旗のデザインとしても採用され国のマスコット的な存在となっていた。
ある時、レオクに招待された近隣の国を治めるファラオが自分達の天敵のような存在が至るところにウジャウジャいる光景を見て卒倒しかけたが、すぐに飼い慣らされて邪気や獰猛さの抜けきった彼女らの持つ愛くるしさにのめりこみ、里親募集センターに猛ダッシュで駆け込んで一人引き取って帰ってきたという珍話も生まれている。
更に、強大な力を持っている上に数も多いアポピスを労働力にすることに目をつけた商人達や魅力に惹かれた著名人が次々と流入したことで国はこれまでにないほど栄えたのだ。
「レオク様、まさかアポピスのお陰で我が国が豊かになるとは思いもよりませんでしたね。」
「きゃっ♪きゃっ♪」
チャッカが赤ん坊のアポピスを抱き抱えながら柔らかい蛇腹をぷにぷにと優しく突く。
「全く、こんなことは余も想定しておらんかったわ。しかしあれ程アポピスを毛嫌いしていたお前が骨抜きにされてしまうとなは。」
「えぇ、なんでこんなに可愛くて素敵な存在をただ意味も無く忌み嫌っていたのか私にも分かりません。過去の自分を徹底的に説き伏せて更正させてやりたい気分です。ねー?ナーちゃん♪」
「あう♪だぁ♪」
「そ、そうか・・・」
墜ちたという言葉が似合うほどあまりにも変わってしまった側近にレオクはややドン引きする。
「それでですね!レオク様!彼女らの素晴らしい所はこんなものではございませんよ!彼女らの歴史は・・・」
「待て。腕の中を見てみろ。」
「えっ?」
チャッカが腕の中を覗きこむと、そこでは赤ん坊がすぅすぅと静かに寝息を立てて眠りについていた。
「すぅ・・・」
「チャッカ。今ここでお前が口うるさく魅力を語り通せばこやつが快く眠れなくなってしまうであろう。」
「あっ・・・・・。」
「お前が本当にこやつらを愛しているのであれば、彼女らのことを考えてやるべきではないか?」
「そうでしたね。私としたことがこの子に申し訳ない・・・。次から気をつけます。」
「それで良し。これからもその熱意を生かして大臣の務めを果たすのだぞ。さて、最近室内での政が多すぎて室内に籠りきりだったので息苦しくて仕方がないな。久々に新鮮な外の空気でも吸うとしよう。」
王座の肘掛けを掴んでレオクは立ち上がり王の間を出ると、階段の踊り場に来ると、屋上へと続く階段を上がり、テラスに登りつめた。
雲ひとつ無い青空の下には巨大な砂丘に囲まれたオアシスの城下町が広がっている。
そして、その城下町のあちらこちらでは今日も人々とアポピスの暖かいやり取りが見られるのであった。
19/01/18 01:09更新 / 消毒マンドリル
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