Bossbattle:02 異界の愚者と古代沼地の守護神
キセタンキ沼地。
旧魔王時代より遥か昔の、この世界では絶滅したドラゴンやリザードマンといった爬虫類属達の生物学上の親戚の「恐竜」が生きていた時代よりもさらに 前の時代から変わらぬ風景を保っており、背の高いリンボクやフウインボク、トクサやスギナが生い茂る湿度の高いこの土地は生物の楽園である。
さらに、この沼地には特別な有機物を含んだ泥や石があり、生活エネルギーを作り出す燃料になり、この沼の近くにある都市「ユースノン」ではそれらを輸出する産業が盛んで、大きな利益を生んでいる。
ただし、大きな利益を生むからといって一度に大量に輸出するようなことはせず、市の法律で輸出量を制限されている。
それには3つ理由がある。
1つ目は、限りある資源を枯渇させないため。
2つ目は開発により沼の環境を壊さないため。
そして3つ目は・・・・・・
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
俺の名前は八木葉 来(やきは らい)。
元の世界の日本じゃ社畜をやっていた者だ。
いつものようにクソ上司に押し付けられた仕事を片付けて家に帰る途中、全身黒ずくめの男に「この世界で生きていることを嫌だと思ったことはないか?」なんて聞かれたんで答えてやったよ。
「もちろんだ!」ってな。
どうせ何やっても空回りしたり上から圧力をかけて押さえつけられたりして上手く行かねぇんだから当然よ!
そしたら、そいつは「この世界で上手く行かないのであれば、別の世界に赴いて花を開かせないか?貴様には才覚を感じるのでな。」って言いやがる。
俺はここんとこ物事が上手く行かねぇもんでムシャクシャしてたから、黒ずくめ奴の提案に乗った。
奴は俺の答えを聞いてニヤリと笑い指を鳴らした。
すると、俺の体は光に包まれて、この異世界に来た。
この世界は元いた日本よりも技術は劣っているように見えるが、魔法とかいうモンのおかげでそれなりの水準は保っている。
俺はこの世界で、奴から授かった「転移ゲート」の能力で日本から様々な文明の利器を持ち込み、会社を設立した。
未開の地を開拓したり、石炭や石油といったエネルギー資源を売り出す会社だ。
もちろん名前は「ヤキハコーポレーション」だ!
これから文明と資本の力で世界を支配する俺にぴったりの社名だ。
そんな我がヤキハコーポレーションは着々と活動の場を広げ、今では拠点の図鑑世界に99の支店を構えるようになったのだ!
いや〜!いいぜぇ!クソな上司や嫌味な同僚もいねぇこの世界で社長になって好き放題できて最高の気分だ!
いつかこの世界の全てを支配したら今度は俺の居た前の世界を支配してやろう!学生時代に俺を虐めていた不良やネチネチうるさい上司なんかを奴隷にしてやるのもいいな!
そして今回は記念すべき100店舗目の拠点を構えにユースノンっつー所へ来た。強いエネルギーを含んだ泥と石ってのが興味深いし、儲けれそうだかんな!
そして、今、市の市長さんと取り引きしている訳だが・・・
高校生くらいの少年のような容姿の市長と対談している中年の男「八木葉 来」。
冴えないサラリーマンだった彼は、全身黒ずくめの謎の男によって図鑑世界に転移し、男から授かった能力である転移ゲートで日本から様々な物を持ち出してヤキハコーポレーションという開拓会社を設立し、現代日本の技術を応用した製品を売り出したり、未開の土地を開拓したり、資源発掘所を開発するなどの活動をしており、この世界に住む人間や魔物娘の生活を豊かにしていく一方、利益を重視した過酷な労働条件を社員に課し、自分に刃向かうものは制圧する横暴な面もある。
一週間前に開発を進めていた森の近くに住むアマゾネスの村が起こした抗議をブルドーザーやショベルカーといった重機で鎮圧したばかりである。
「ハァ!?沼地の開発が不可能!?」
「はい。あそこはこの市の管轄する土地で、過度な採掘や開発による資源の枯渇や環境破壊を防ぐ為に外部には開発を許可しておりません。」
市長の奴、開発は市の所有地する土地しか認めないとかほざきやがる!
ふざけんじゃねぇ!
ドンッ!
八木葉が怒りの表情を浮かべ、怒鳴り声を上げて両手で机を乱暴に叩いた。
だが市長は怯えるような素振りは見せない。
「それに、沼地には「守護神」がいまして、沼地を開発で荒そうものならたちまち彼女の怒りを買うことになるでしょう。」
「ケッ!馬鹿馬鹿しい!何が守護神だ!ガキの怪談話なんぞ信じるか!もういい!開発は勝手にこっちで押し進めておくからな!」
八木葉は乱暴に椅子から立ち、市長室の扉を乱暴に閉めて出ていった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「社長!本当に実行なさるのですか!?」
八木葉の秘書の灰色のスーツの若い男性、桜井(さくらい)が無茶な行動に思わず大声を上げた。
「当たり前だ!どうせ何やっても断られるんだから、お構いなしに一方的にやっちまえばこっちのモンよ!おい!邪魔な植物を片付けろ!」
八木葉が煙を上げる葉巻を多くの指輪を通した片手に指示を飛ばす。
「了解致しました!」
ゴォォォォォ!バキバキバキッ!
魔界の金属で強化されたブルドーザーが草木を根こそぎ片付けていく。
地面からは先程まで覆っていた緑が消えて、茶色い地肌が露出する。
「草木を片付けたら、次は地面を掘って資源を掘り出すんだ!」
ドガガガガガ・・・・
ゴロゴロゴロッ、ドチャッ!
機械や作業員が土をかきだして資源を掘り出していく。
「社長ー!沿岸開発班が魚群を発見しましたっ!」
「よし!でかした!水揚げするよう伝えろ!」
「いや〜!これはこれは!社長!大量ですねぇ!」
八木葉の側に揉み手をして寄ってきたガリガリに痩せた赤いスーツの中年男は副社長のアデノ。典型的なゴマスリ男だ。
「そうだなぁ!こいつはかなりの利益になりそうだなぁ!ぶわーーーっはっはっはぁーーーっ!」
これから出る利益を想像して八木葉は下品な高笑いを浮かべた。
ガガガァンツ!
「なっ、なんだぁぁぁぁっ!?」
突然の轟音に八木葉は動揺する。
そこへ、一人の作業員がひどく怯えた様子で現れた。
「ひ、ひいっ!社長っ!た、た、たたたた大変ですうっ!」
「なんだ!落ち着いて喋れ!」
「はいっ!沼の沿岸を開発していた機械群が破壊されました!」
「何だとっ!?」
八木葉は急いで桜と共に現場に向かう。
「なっ!?こっ、これはぁぁぁぁっ!?」
沼の沿岸には横転したブルドーザーや腕をもぎ取られたショベルカー、鋭いツメのようなもので叩き切られた跡があるれたダンプカー、真っ二つになった漁船といった大型の機械の残骸が転がっていた。
「い、一体何が・・・・!?」
「この沼を荒らしているのはお前達だな?」
「な、何だっ!?」
残骸の前に現れたのは青緑色の甲殻に身を包んだ2mはあろうかという大柄なドラゴンかと思いきや、よく見ると角は節のある触角で、翼は網目のある透明な二対の薄い虫の羽、トンボの羽で、尻尾や手足の甲殻のつき方も爬虫類というよりはむしろ昆虫のものだ。
「荒らしているだなんて人聞きが悪いなぁオイ!資源を取るのに邪魔だから草木をとっぱらって、魚も金になりそうだからついでに捕っているだけだ!それにこれから資源を売った金でリゾートを建設すりゃあこの沼には人が集まってさらに豊かになるんだよ!」
八木葉はトンボ女に向かって言い放つ。
「資源を貪って得た利益ががこの沼を豊かにするだと?お前の頭は腐って蛆でも湧いているのか?」
「なぁんだとぉ・・・!」
「いや、腐りきってもう土に還ってしまっているとかもしれんな。いずれにせよ愚かな奴よ。」
「・・・ッ!!!!」
トンボ女の嘲笑が八木葉の怒りに火を、それも油が注がれた上につけられた。
「・・この虫ケラ女ァァァッ!おい!!こいつをぶちのめして目に物見せてやれぇっ!」
八木葉の怒声を合図に彼の転移魔法で召喚された戦闘員の黒いスーツの男達がマシンガンを構え、魔界銀製の弾がトンボ女に向けて一斉に放たれる!
だが、彼女はその場に立ったまま避けようともしない。
「ぬわ〜っは〜っはっはっはっは〜!イキ死にしちまいなぁ〜!」
ガガガガガガガッ!
バッ、バッ、バッ、バッ
一斉に放たれた弾丸をトンボ女は軽く掴み取っていった。
「フッ、蝿の方がまだ早いな。」
「なぁぁぁっ!?」
ジャラ・・・カンカンカンッ
トンボ女は全て掴み取ったマシンガンの弾をジャラジャラと地面に落として見せる。
「下がれ!お前らでは相手にならん!」
八木葉は黒スーツ達に後ろに下がるように指示を飛ばし、召喚魔法を唱える。
ドガンッ!
続いて八木葉はトンボ女を囲むような形で重機を召喚した。
破壊されたものより一回り大きく、装甲も分厚い。
「またこいつらでどうにかしようというのか?」
「こいつらはさっきてめぇにぶっ壊されたヤツとは違うモンだぜぇ?一台だけでも小さな村なら引き潰せるシロモンよ!」
ゴガガガガゥゥゥンッ!
周囲を取り囲んでいた重機が全速力でトンボ女に迫る!
「いくら魔物といえど強化した重機にゃ敵わな・・・・」
ドッゴォォォォンッ!
派手な音を立てて重機の一台が宙を舞った。
「なっなっなっ、何ぃぃぃ〜〜〜!?」
「ハァッ!」
ブゥンッ!
トンボ女が羽音を立てて飛び上がり、真下の重機に踵落としを放つ。
踵落としを食らった重機は空き缶のようにペシャンコに潰れて動かなくなる。
「スゥッ・・・ハァァァァッ!」
ブバァァァァッ!!!
トンボ女の口から金色の液体が残る重機の群れに向けて吐き出される。
ジュウウウウッ!
液体が掛かった重機群は煙を上げてドロドロに溶けて消滅した。
「あわわわ・・・」
ギロリ
トンボ女が震える八木葉に視線を向ける。
「ひいっ!お、お前らっ!俺を守れっ!俺が逃げる時間稼ぎをしろぉっ!」
八木葉が再び後ろに待機している黒スーツ達に指示を飛ばす。
ドドドドドッ!
後ろにいた黒服達が八木葉の元へ駆けつけようとするするが、
「出て来い。我が同胞達よ。」
ザバァッ!
「わーい!男だぁーっ!」
「うわぁっ!」
「ぐぉわぁっ!」
トンボ女の一声で沼の中から現れた尻尾の生えたミューカストトードや茶色の鱗のサハギンに次々と捕らわれて沼の中に引きずりこまれてゆき、あっという間に居なくなってしまった。
「社長ぉーーっ!」
「ひぃぃぃー!お助けぇぇー!」
八木葉は桜井とアデノが引きずりこまれたのを見届けるとその場にへたりこんだ。
「あ、あぁぁ・・・」
「さぁ人間よ。沼を荒らした罪をその身で償うが良い。」
ザッパァンッ!
「最後の一人は私が貰うよっ!」
「抜け駆けなんてずるいよぉ〜!」
八木葉に向かって沼の魔物娘が一斉に飛びかかる。
「うわぁぁぁぁ〜〜〜っ!」
トンボ女は八木葉が魔物にたかられて団子のようになっていくのを確認すると何処かへ飛び去って行った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ステガ、例の侵入者は排除してきたぞ。」
トンボ女がユースノン市役所の市長室のドアを開けて中に入る。
「いつも沼地の警備ご苦労様、ランフラ。」
豪華な椅子に座り、書類に判子を押す少年、ステガ市長がトンボ女、ランフラに笑顔を向ける。
「パパ〜」
ランフラを小さくしたような魔物の幼女が走って部屋に入って来る。
「こらっ!メーネっ!市役所の保育所にいろと言っただろう!」
「まぁまぁ、良いじゃないか。ランフラ。」
「仕方ない・・・今日だけだぞ?」
ステガがメーネと呼ばれた幼女を抱き上げて膝の上に乗せる。
「きゃっ♪きゃっ♪」
夫の膝の上でじゃれる我が子を見て厳しかったランフラの目が優しくなる。
「ステガ、この子のような未来を担う子供達の為にも、これからもキセタンキ沼地を守っていこう。」
「そうだね。ランフラ。これからもずっとよろしくね。」
「ああ・・・。」
人間が作り出した文明の利器すら退けてしまう程の力を有した恐るべき魔物娘。
そんな彼女を妻に迎えた夫はある意味彼女らを超える力があるのだろう。
旧魔王時代より遥か昔の、この世界では絶滅したドラゴンやリザードマンといった爬虫類属達の生物学上の親戚の「恐竜」が生きていた時代よりもさらに 前の時代から変わらぬ風景を保っており、背の高いリンボクやフウインボク、トクサやスギナが生い茂る湿度の高いこの土地は生物の楽園である。
さらに、この沼地には特別な有機物を含んだ泥や石があり、生活エネルギーを作り出す燃料になり、この沼の近くにある都市「ユースノン」ではそれらを輸出する産業が盛んで、大きな利益を生んでいる。
ただし、大きな利益を生むからといって一度に大量に輸出するようなことはせず、市の法律で輸出量を制限されている。
それには3つ理由がある。
1つ目は、限りある資源を枯渇させないため。
2つ目は開発により沼の環境を壊さないため。
そして3つ目は・・・・・・
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
俺の名前は八木葉 来(やきは らい)。
元の世界の日本じゃ社畜をやっていた者だ。
いつものようにクソ上司に押し付けられた仕事を片付けて家に帰る途中、全身黒ずくめの男に「この世界で生きていることを嫌だと思ったことはないか?」なんて聞かれたんで答えてやったよ。
「もちろんだ!」ってな。
どうせ何やっても空回りしたり上から圧力をかけて押さえつけられたりして上手く行かねぇんだから当然よ!
そしたら、そいつは「この世界で上手く行かないのであれば、別の世界に赴いて花を開かせないか?貴様には才覚を感じるのでな。」って言いやがる。
俺はここんとこ物事が上手く行かねぇもんでムシャクシャしてたから、黒ずくめ奴の提案に乗った。
奴は俺の答えを聞いてニヤリと笑い指を鳴らした。
すると、俺の体は光に包まれて、この異世界に来た。
この世界は元いた日本よりも技術は劣っているように見えるが、魔法とかいうモンのおかげでそれなりの水準は保っている。
俺はこの世界で、奴から授かった「転移ゲート」の能力で日本から様々な文明の利器を持ち込み、会社を設立した。
未開の地を開拓したり、石炭や石油といったエネルギー資源を売り出す会社だ。
もちろん名前は「ヤキハコーポレーション」だ!
これから文明と資本の力で世界を支配する俺にぴったりの社名だ。
そんな我がヤキハコーポレーションは着々と活動の場を広げ、今では拠点の図鑑世界に99の支店を構えるようになったのだ!
いや〜!いいぜぇ!クソな上司や嫌味な同僚もいねぇこの世界で社長になって好き放題できて最高の気分だ!
いつかこの世界の全てを支配したら今度は俺の居た前の世界を支配してやろう!学生時代に俺を虐めていた不良やネチネチうるさい上司なんかを奴隷にしてやるのもいいな!
そして今回は記念すべき100店舗目の拠点を構えにユースノンっつー所へ来た。強いエネルギーを含んだ泥と石ってのが興味深いし、儲けれそうだかんな!
そして、今、市の市長さんと取り引きしている訳だが・・・
高校生くらいの少年のような容姿の市長と対談している中年の男「八木葉 来」。
冴えないサラリーマンだった彼は、全身黒ずくめの謎の男によって図鑑世界に転移し、男から授かった能力である転移ゲートで日本から様々な物を持ち出してヤキハコーポレーションという開拓会社を設立し、現代日本の技術を応用した製品を売り出したり、未開の土地を開拓したり、資源発掘所を開発するなどの活動をしており、この世界に住む人間や魔物娘の生活を豊かにしていく一方、利益を重視した過酷な労働条件を社員に課し、自分に刃向かうものは制圧する横暴な面もある。
一週間前に開発を進めていた森の近くに住むアマゾネスの村が起こした抗議をブルドーザーやショベルカーといった重機で鎮圧したばかりである。
「ハァ!?沼地の開発が不可能!?」
「はい。あそこはこの市の管轄する土地で、過度な採掘や開発による資源の枯渇や環境破壊を防ぐ為に外部には開発を許可しておりません。」
市長の奴、開発は市の所有地する土地しか認めないとかほざきやがる!
ふざけんじゃねぇ!
ドンッ!
八木葉が怒りの表情を浮かべ、怒鳴り声を上げて両手で机を乱暴に叩いた。
だが市長は怯えるような素振りは見せない。
「それに、沼地には「守護神」がいまして、沼地を開発で荒そうものならたちまち彼女の怒りを買うことになるでしょう。」
「ケッ!馬鹿馬鹿しい!何が守護神だ!ガキの怪談話なんぞ信じるか!もういい!開発は勝手にこっちで押し進めておくからな!」
八木葉は乱暴に椅子から立ち、市長室の扉を乱暴に閉めて出ていった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「社長!本当に実行なさるのですか!?」
八木葉の秘書の灰色のスーツの若い男性、桜井(さくらい)が無茶な行動に思わず大声を上げた。
「当たり前だ!どうせ何やっても断られるんだから、お構いなしに一方的にやっちまえばこっちのモンよ!おい!邪魔な植物を片付けろ!」
八木葉が煙を上げる葉巻を多くの指輪を通した片手に指示を飛ばす。
「了解致しました!」
ゴォォォォォ!バキバキバキッ!
魔界の金属で強化されたブルドーザーが草木を根こそぎ片付けていく。
地面からは先程まで覆っていた緑が消えて、茶色い地肌が露出する。
「草木を片付けたら、次は地面を掘って資源を掘り出すんだ!」
ドガガガガガ・・・・
ゴロゴロゴロッ、ドチャッ!
機械や作業員が土をかきだして資源を掘り出していく。
「社長ー!沿岸開発班が魚群を発見しましたっ!」
「よし!でかした!水揚げするよう伝えろ!」
「いや〜!これはこれは!社長!大量ですねぇ!」
八木葉の側に揉み手をして寄ってきたガリガリに痩せた赤いスーツの中年男は副社長のアデノ。典型的なゴマスリ男だ。
「そうだなぁ!こいつはかなりの利益になりそうだなぁ!ぶわーーーっはっはっはぁーーーっ!」
これから出る利益を想像して八木葉は下品な高笑いを浮かべた。
ガガガァンツ!
「なっ、なんだぁぁぁぁっ!?」
突然の轟音に八木葉は動揺する。
そこへ、一人の作業員がひどく怯えた様子で現れた。
「ひ、ひいっ!社長っ!た、た、たたたた大変ですうっ!」
「なんだ!落ち着いて喋れ!」
「はいっ!沼の沿岸を開発していた機械群が破壊されました!」
「何だとっ!?」
八木葉は急いで桜と共に現場に向かう。
「なっ!?こっ、これはぁぁぁぁっ!?」
沼の沿岸には横転したブルドーザーや腕をもぎ取られたショベルカー、鋭いツメのようなもので叩き切られた跡があるれたダンプカー、真っ二つになった漁船といった大型の機械の残骸が転がっていた。
「い、一体何が・・・・!?」
「この沼を荒らしているのはお前達だな?」
「な、何だっ!?」
残骸の前に現れたのは青緑色の甲殻に身を包んだ2mはあろうかという大柄なドラゴンかと思いきや、よく見ると角は節のある触角で、翼は網目のある透明な二対の薄い虫の羽、トンボの羽で、尻尾や手足の甲殻のつき方も爬虫類というよりはむしろ昆虫のものだ。
「荒らしているだなんて人聞きが悪いなぁオイ!資源を取るのに邪魔だから草木をとっぱらって、魚も金になりそうだからついでに捕っているだけだ!それにこれから資源を売った金でリゾートを建設すりゃあこの沼には人が集まってさらに豊かになるんだよ!」
八木葉はトンボ女に向かって言い放つ。
「資源を貪って得た利益ががこの沼を豊かにするだと?お前の頭は腐って蛆でも湧いているのか?」
「なぁんだとぉ・・・!」
「いや、腐りきってもう土に還ってしまっているとかもしれんな。いずれにせよ愚かな奴よ。」
「・・・ッ!!!!」
トンボ女の嘲笑が八木葉の怒りに火を、それも油が注がれた上につけられた。
「・・この虫ケラ女ァァァッ!おい!!こいつをぶちのめして目に物見せてやれぇっ!」
八木葉の怒声を合図に彼の転移魔法で召喚された戦闘員の黒いスーツの男達がマシンガンを構え、魔界銀製の弾がトンボ女に向けて一斉に放たれる!
だが、彼女はその場に立ったまま避けようともしない。
「ぬわ〜っは〜っはっはっはっは〜!イキ死にしちまいなぁ〜!」
ガガガガガガガッ!
バッ、バッ、バッ、バッ
一斉に放たれた弾丸をトンボ女は軽く掴み取っていった。
「フッ、蝿の方がまだ早いな。」
「なぁぁぁっ!?」
ジャラ・・・カンカンカンッ
トンボ女は全て掴み取ったマシンガンの弾をジャラジャラと地面に落として見せる。
「下がれ!お前らでは相手にならん!」
八木葉は黒スーツ達に後ろに下がるように指示を飛ばし、召喚魔法を唱える。
ドガンッ!
続いて八木葉はトンボ女を囲むような形で重機を召喚した。
破壊されたものより一回り大きく、装甲も分厚い。
「またこいつらでどうにかしようというのか?」
「こいつらはさっきてめぇにぶっ壊されたヤツとは違うモンだぜぇ?一台だけでも小さな村なら引き潰せるシロモンよ!」
ゴガガガガゥゥゥンッ!
周囲を取り囲んでいた重機が全速力でトンボ女に迫る!
「いくら魔物といえど強化した重機にゃ敵わな・・・・」
ドッゴォォォォンッ!
派手な音を立てて重機の一台が宙を舞った。
「なっなっなっ、何ぃぃぃ〜〜〜!?」
「ハァッ!」
ブゥンッ!
トンボ女が羽音を立てて飛び上がり、真下の重機に踵落としを放つ。
踵落としを食らった重機は空き缶のようにペシャンコに潰れて動かなくなる。
「スゥッ・・・ハァァァァッ!」
ブバァァァァッ!!!
トンボ女の口から金色の液体が残る重機の群れに向けて吐き出される。
ジュウウウウッ!
液体が掛かった重機群は煙を上げてドロドロに溶けて消滅した。
「あわわわ・・・」
ギロリ
トンボ女が震える八木葉に視線を向ける。
「ひいっ!お、お前らっ!俺を守れっ!俺が逃げる時間稼ぎをしろぉっ!」
八木葉が再び後ろに待機している黒スーツ達に指示を飛ばす。
ドドドドドッ!
後ろにいた黒服達が八木葉の元へ駆けつけようとするするが、
「出て来い。我が同胞達よ。」
ザバァッ!
「わーい!男だぁーっ!」
「うわぁっ!」
「ぐぉわぁっ!」
トンボ女の一声で沼の中から現れた尻尾の生えたミューカストトードや茶色の鱗のサハギンに次々と捕らわれて沼の中に引きずりこまれてゆき、あっという間に居なくなってしまった。
「社長ぉーーっ!」
「ひぃぃぃー!お助けぇぇー!」
八木葉は桜井とアデノが引きずりこまれたのを見届けるとその場にへたりこんだ。
「あ、あぁぁ・・・」
「さぁ人間よ。沼を荒らした罪をその身で償うが良い。」
ザッパァンッ!
「最後の一人は私が貰うよっ!」
「抜け駆けなんてずるいよぉ〜!」
八木葉に向かって沼の魔物娘が一斉に飛びかかる。
「うわぁぁぁぁ〜〜〜っ!」
トンボ女は八木葉が魔物にたかられて団子のようになっていくのを確認すると何処かへ飛び去って行った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ステガ、例の侵入者は排除してきたぞ。」
トンボ女がユースノン市役所の市長室のドアを開けて中に入る。
「いつも沼地の警備ご苦労様、ランフラ。」
豪華な椅子に座り、書類に判子を押す少年、ステガ市長がトンボ女、ランフラに笑顔を向ける。
「パパ〜」
ランフラを小さくしたような魔物の幼女が走って部屋に入って来る。
「こらっ!メーネっ!市役所の保育所にいろと言っただろう!」
「まぁまぁ、良いじゃないか。ランフラ。」
「仕方ない・・・今日だけだぞ?」
ステガがメーネと呼ばれた幼女を抱き上げて膝の上に乗せる。
「きゃっ♪きゃっ♪」
夫の膝の上でじゃれる我が子を見て厳しかったランフラの目が優しくなる。
「ステガ、この子のような未来を担う子供達の為にも、これからもキセタンキ沼地を守っていこう。」
「そうだね。ランフラ。これからもずっとよろしくね。」
「ああ・・・。」
人間が作り出した文明の利器すら退けてしまう程の力を有した恐るべき魔物娘。
そんな彼女を妻に迎えた夫はある意味彼女らを超える力があるのだろう。
19/02/22 02:04更新 / 消毒マンドリル
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