連載小説
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悲しみに囚われた黒き娘
炎が全てを焼く。

愛した家族と過ごした村を焼く。

焼ける村を駆ける者達。

逃げる人々を殺し、夫と娘を殺した。

首を切り落とし尚も止まない傷めつける者達。

全てが終わり帰ってきた私が見たもの。

村を焼かれ、虐殺された人々の死体。

私は家族を探し、そして絶望した。

死体は判別不能な損壊状態、指輪が無ければわからないほど。

娘は、犯されて殺された。

私の心に悲しみと怒りが溢れた。

そして、私の魂が復讐に囚われた。








フォルン村を出てから4時間が経ち、広い樹海ロンフォレストを歩いていた。
ロンフォレストの先にあるこの大陸の中心地にして大陸の出入り口である、
アルディモートの町を目指していた。

「長い樹海だな。」
「でも途中で村があるからそこで休めるよ。」
「他に道は無いのかな。」
「辺りは断崖絶壁の山に囲まれてるから無いよ。」
「しかし、何で刀なんか選んだんだ?」

ザックは不思議に感じていた。
エリナが壊れた剣の代わりに選んだのが刀だったからだ。
村の鍛冶屋はドワーフが作っているから良い剣がかなりあったはず。
だが、選んだのは刀だった。

「昔、ジパングで修行してたとき刀術を習って使ってたんだ。」
「才能があったのかなかなかの腕前にまでいったんだけど、刀が駄目になって代わりが見つからなかったから剣を使ってたんだ。」
「じゃあ、元々刀術使いだったわけか。」
「そういうこと。」
「なら、こんど・・・・」
「どうしたの?」
「エリナ、武器を抜いておけ。」
「何があったの。」
「人の焼けた臭いがする。」

森の中にかすかに漂うにおいに人間の焼けた嫌な臭いが混じっていた。

「もしかしたら、村で何かあったのかもしれない。」
「急ぎましょう。」

森の中を走り臭いが強くなるほうへ向かう。



森を抜けた先にあった場所は焼けた廃村だった。

「何だ・・これは。」
「酷い。」

家は焼け、辺りに死体が晒されている。
村の中心に大きな炎を起こした後があった。
その周りを棒が囲っていた。棒の先端に丸いものがついていた。

「!エリナ、こっちを見るな。」
「まさか、その・・先端の・・ものって・・・」

丸いものは、ひ・と・の・頭・だった。
まるで串焼きでもするかのように焼け跡の周りに刺さっていた。

「正気の沙汰じゃない。」

エリナは地面に蹲っていた。
無理も無い、虐殺を見たらな。

「このままにするわけにはいかん、墓を作ってやろう。」
「エリナ、手伝えるか。」
「うん、なんとか。」
「なら、エリナは穴を掘ってくれ。俺は遺体を集める。」

廃村の広い場所に穴を掘り、そこに埋葬した。

「これぐらいしか出来ないな。」
「でも、野ざらしよりマシだと思うよ。」
「そうだな。それと、そろそろ出て来いそこに居るやつ。」
「!」

エリナには分からなかった様だが視線を感じていた。
少しすると、森から一人出てきた。
黒く深い艶のある長い髪。その天辺には同じ色の犬耳が着いていた。
顔は凜としていて、目は鋭かった。
服装は砂漠の民を思わせる薄く露出の高い衣装。
手は毛皮で覆われていた。右手には杖を持っていた。
後ろには髪と同じ色の尻尾が見える。
そこに居たのはアヌビスだった。

「何の様だ、さっきからずっとこっちを監視してる様だが。」
「貴様らはこの村に何しに来た。」
「町に行くために森を通っていたらザックが違和感を感じて、ここに来たの。」
「町にか。」
「そうだ。」
「教会と合流するつもりか。」
「どういう意味だ?」
「とぼけるな!!!」

アヌビスが叫ぶ。

「貴様らは教会の手先でフォルン村を偵察に行っていたんだろうが!」
「なら、ここで墓なんか作る意味は無いだろ。」

まともでない奴らがそんなことするはずが無い。

「それに、この惨劇を起こしたのが誰かすら知らんのだぞ。」
「何故、教会がやったと分かったんですか?」
「槍に教会のマークがあった。この大陸に教会は町に一つだけしかない。」
「でもこの大陸はどちらかと言えば、新魔寄りではないんですか。」
「数日前までは。」
「数日前?」
「町に居た協会騎士達が町を制圧したんだ。」
「町に居た魔物とその夫を処刑し続けてな。」
「町でそんなことが。」
「私も居たが他の魔物達に助けられ難を逃れた。」
「だが、この村に居た家族は駄目だった。」

たしかに遺体にはアヌビスに似た子も居たな。

「私の家族を奪った奴らに死よりも苦しい地獄を味合わせてやる。」
「墓も作らずにか。」
「全てが終わった後に作るつもりだった。」
「哀れな。」
「なんだと!」
「ザック!」
「復讐に囚われた哀れな愚者だな。お前は。」
「貴様・・・・」

アヌビスが怒りに震えている。

「ザック、何でそんな挑発をするの!」
「復讐の果てに在る物が奴らと同じ末路だと知らん奴は愚者でしかない。」
「言いたいことはそれだけか。」

どうやら、向こうは聞く耳持たぬみたいだな。
アヌビスが呪文を唱えている。

「教えてやろう、お前みたいな死人に教会は滅ぼせん。」
「この俺すら倒せないな尚のこと。」
「ならば、ここで死ねーーーーーーー!!!」

アヌビスが叫ぶと同時に杖の先から呪文を放ち、炎の壁を俺の周りに作り出す。

「我汝を拒む者、汝の前に立ちふさがるは大地の壁。」
「アースウォール。」

炎を囲むように岩の壁が地面から突き出る。

「我が怒りは大地の怒り。かの者に大地の鉄槌を。」

俺の上空に巨大な石柱が浮かぶ。

「これでもまだ、戯言を抜かすか。」

アヌビスにとって不可能だと思っているようだ。

「笑止。」

笑えるぜ。

「この程度で終わりだと、己の高が知れるな。」
「そうか、ならば死ぬまでほざいていろ!!!」
「ストーンプレッシャーーー!!!」

石柱が落とされる。

「括目せよ、我が拳に貫けぬ物無し!!」

右腕を構え、鋼質化する。

「フルブレット、セット!!」

ガキン!!と轟音と共に腕を構え、放つ。

「貫滅・フルブレットパイルバンカーキャノン、貫けーーー!!!」

石柱に向け放たれた消滅波が石柱を破壊、消滅させた。
ザックの周りに放出された衝撃波が炎と岩の壁を吹き飛ばし、さらにエリナとアヌビスや周りの木々も吹き飛ばした。

「ぬあ!!」
「きゃああぁぁぁ!!」

ザックの周りには半径50Mのクレーターが出来ていた。
腕はオーバーヒートで真っ赤に燃えていた。

「さすがに、フルブレットキャノンはやりすぎたか。」

アヌビスが起き上がりこちらに近づいてくる。

「ま、負けない。負ける・・わけには・・・」

そこでアヌビスの意識が途絶えた。

「なんなの、今の技は。」

遅れて、エリナが森から出てきた。

「パイルバンカーショットの最終形態かな。」
「最終形態?」
「ショットは破壊・貫通に特化しているけど、キャノンは殺しに。」
「そして、フルブレットキャノンは・・・消滅。」
「余程のことが無い限りフルブレットキャノンは封印してある。」
「言わば、禁技。」
「そんな恐ろしい技があるの。」
「だが反動がでかい。しばらくクールダウンしないと腕が動かない。」

真っ赤に燃え、煙を上げている腕を見る。






「後は、彼女の悲しみを断ち切るのみ。」




11/06/15 23:26更新 / 時雨
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■作者メッセージ
シリアスなお話にアヌビスの登場です。
家族を殺され復讐に走る彼女をどう救うのか。
待て、次回!!!

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