とある賞金稼ぎコンビの仕事
「ほいお待ちどうさま。ホットドッグと、チキンカレー辛さ5倍ね」
とある町のカウンター形式の飲食店。
水を飲んでいる青年と、手をすり合わせて喜ぶミノタウロスの前に、料理が運ばれてきた。
「おぉっ!きたきた!いっただっきまーす♪」
「いただきます」
ミノタウロスはご機嫌でカレーを口に運び始める。青年のほうは礼儀正しく手を組んだのち、ホットドッグを食べ始めた。
「うんまい!おい!このカレー美味いぞ!一口食うか!?」
「いらないよ。お前の『美味いもの』は、僕には辛すぎて食べれないんだから」
「むぅ・・・あ、ホットドッグくれよ。お前が口つけたとこがいい」
「イヤだよ。間接キスしたとか言ってめんどくさいから」
ふたりがイチャイチャしながら食べていると、店主が呆れながら聞いた。
「しかしあんたら・・・旅の夫婦かい?」
『ぶばっ!』
青年がちょうど口に含んだ水を吹き出した。
「あ、やっぱ、そう見えるぅ?いやぁ、まいっちゃうn」
「違います」
デレーっと鼻の下を伸ばしたミノタウロスが話し始めたところで、青年が大きな声で否定した。
「なんだ?違うのか?」
「違います。こいつは僕についてくるストーカー的ななにかです。ご飯奢ってるのは色々事情があるんです」
「ぶぅ〜・・・」
横でミノタウロスがいじけるが、青年は気にせずホットドッグをかじる。
「なんだよぅ・・・一緒に宿に泊まった仲じゃないか」
(一緒に泊まった!?)(店にいる男ども)
「部屋は別々だっただろうが」
「お風呂だって一緒に入ったじゃないか!」
(風呂に一緒に!?)(男ども)
「お前がいきなり入ってきただけだろうが!」
「昨日なんて!ベッドでくんずほぐれつしたじゃないかっ!!」
「お前が酔っ払って僕を引き込んだだけだろうがっ!!しかも僕を抱き枕にしてすぐ寝たろうが!!」
青年が言い返すが、多くの人は
もうみんな色々想像して鼻血出したり「もげろ」って小さく言ったりしている。
「あぁ、もう!出るぞ!お勘定!ここ置いとくよ!」
「あ、ちょ、待ってくれよ!『ダーリーン』!」
『ダーリン!!?』(店の男ども)
マントを着て、顔を真っ赤にして店を出た青年の後ろから、大きい布包みを背負ったミノタウロスとともに、「羨ましい!」だの「もげろ!」だのの罵声が降りかかってきた・・・
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「町でその呼び方はやめろって言ったろう!」
「恥ずかしがってるダーリン、可愛いなぁ♪」
「うるさいッ!」
町から出て、森に囲まれた道をさっきのふたりが進む。ぷりぷり怒る青年を見て、ミノタウロスがほくほく顏でニヤついている。
ここで、ふたりの詳細を教えよう。
まず、先を進むは『リット』という青年である。
首から下を黒いマントで隠しており、辛うじて足首から下は見えるくらいである。
ちなみに、マントの丈はそんなに長くない。リットの身長自体が低いのだ。青年とは書いているが、彼の怒ってる姿は、どっちかというと少年が拗ねて怒ってるように見える。
「・・・なんかどっかでムカつくこと言われてる気がする・・・」
そして。彼の後ろを歩くのがミノタウロスの『ミタウ』である。
彼女は、誰が見ても長身と言える身体である。
さらにその胸部につく胸は、筋肉に吊り上げられているのか形のしっかりした美乳である。
腹筋も割れて健康的な肉体美を見せ、小ぶりな尻をひざ下からダボつくGパンに隠し、背中に自分の身長ほどもある布包みを背負っている。
身に傷のない彼女だが、彼女の種族の証とも言うべき角は、片方折れていた。
「ダーリン♪んふふ〜♪」
ふたりは、反魔物領へと向かっていた。
なぜかと言えば、彼らの活動に関係していた。
彼らは、教会相手に闘う、賞金稼ぎだった。
と言っても、教会兵を殺したり、教会の拠点を潰すとかいう派手なことはしない。(というか、できない。)
彼らふたりは、教会領から逃れる魔物夫婦の手引きや、教会に捕まり輸送される魔物たちを救ったりなどのゲリラ的行動が主である。
今、彼らが向かっているのも、反魔物領から逃げたいという夫婦がいるので、護衛して欲しいとしてギルドから手配されたのだ。
ふたりは、リットいわく『仕事仲間』。ミタウいわく『夫婦』だった。
「まったく・・・こら!頭を撫でるな!」
「いやぁ、ダーリンが可愛いからつい・・・」
「理由になるかっ!」
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夜。
反魔物領の境界付近。
暗い街道を一台の馬車がゆっくり進んでいた。
「・・・ここまで安全に来れたな」
「まだわかんないよ、気をつけなきゃ」
馬車の中からリットとミタウが外に目を光らせていた。馬車の中にはもう一組の男女がいて、カタカタ震えるアリスを、小柄な男が優しく抱いていた。
「あ、もうしばらくしたら親魔物領につくから、安心していいんだぜ?」(ミタウ)
「あ、ありがとうございます」(男)
「うぅ・・・うぅ・・・」(アリス)
その時。
「・・・ミタウ、どうやら安心はまだのようだ」
馬車の後ろを見るリットが言った。
ミタウがそれを聞いてリットの見る方向を見ると、松明の炎の光が複数、こちらに向かっていた。
「嗅ぎつかれたか・・・」(リット)
「ちぃっ・・・今回の仕事は楽かなと感じたんだがねぇ・・・」(ミタウ)
「き、来たの・・・怖い人、来たの・・・?」(アリス)
「大丈夫。大丈夫だよ」(男)
リットが、馬車主に向かって叫んだ。
「おい!とばせ!急げ!」
『ヒヒィーン!』
リットの声に、馬車の手綱を握る男が鞭を振るった。
しかし、歩を速めた馬車にぐんぐん近づく松明の光。相手の教会兵たちは個々の馬で迫ってくるため、馬車と速度が違った。
「チィッ・・・依頼者!伏せててくれ!」
リットが言ったのち、マントを開いた。
マントの中には、たくさんの投げナイフが入っていた。
「悪ぃが馬から落ちて死んでも知らないからな!」
リットは松明の光が近づくまで待つ。そして、人影がかろうじて見えるくらいまで近づくと。
「来るんじゃねぇよ!」
狙いは正確に、素早く投げナイフを数本投げる。
いくつか弾かれる音もしたが、ひとつ、馬の走る音に紛れてモノが落ちる音がした。
「クソ、一人か!」
次の投げナイフを投げようとするが、急速にひとりの教会兵が近づいて来た!
「死ね!」
「ッ!?」
教会兵がリットに向けて槍を突き出した!
「ところがぎっちょん!」
『ガキィッ!』
その槍を、横から伸びた大斧が阻んだ!
斧はミタウが持っており、狭い馬車の中、片手で器用に大斧を使って教会兵の槍を絡めとり、もう片手の大斧の柄で教会兵の胸元を突いた!
「ダーリンには指一本触れさせないよ!」
「ぐはっ!?」
教会兵が落ち、残る教会兵が近づいて来る。残る光は4つである。
とうとう全員の姿がはっきり見えるくらいまで敵が近づいて来た。親魔物領までまだしばらくかかる。
その時。
『ピヒュン!』
「うぐっ!?」
リットの腕を矢が掠めた。
リットがお返しにナイフを投げると、松明と共に人が落ちた。
「ダーリン!?大丈夫!?」
「あぁ、だいじょ・・・うぶ?」
『ぐにゃあ・・・』
その時。
リットの視界が歪み、持っていた投げナイフを全て取り落とした。
(しまっ・・・神経毒・・・か?)
リットが膝からがくりと崩れると、ミタウが慌てて駆け寄った。
「ダーリン!?どうしたの!?」
「ば、か・・・前を見ろ!」
その時。
『ジャキィン!』
ミタウがリットを見ながら、視界のはしでギリギリ見えた槍の光の反射に反応し、槍を斧で凌いだ。
「こん、のっ!ダーリンになにしやがった!?」
両手に大斧を取ったミタウが教会兵たちの攻撃をいなす。
ふたりの教会兵がミタウに槍をけしかける。
『ガキッ、ガキン!』
「こんのっ、教会のクソ野郎どもがっ!」
ミタウは目を血走らせ、怒りを露わにして斧を振り回す。狭い馬車の幌部分が教会兵の槍と斧でボロボロになっていく。
「み、たうっ!中のしん、ぱいも・・・しろっ!」
注意するリットだが、すでに息絶え絶えとなり、身体が動かなくなっているのを、馬車の前の方で小さくなってる男とアリスが心配していた。
そして。
『びっ、ビィィィィィッ!』
「あっ!?」
なんと、ひとり、馬車の脇へ抜けた教会兵が幌を斬り破り、馬車の中へ入ってきた!
「いたな!幼い姿で人を惑わす魔物め!神の罰を受けよ!」
「いやっ!?」(アリス)
「くっ、アリス!」(男)
「ま、間にあわねぇ!?」(ミタウ)
教会兵がショートソードを振り上げ。
アリスが涙目で叫びを上げ。
男がアリスを庇って抱き込み。
ミタウがようやくふたりの教会兵を倒し、助けようとするがもう遅く・・・
『ザクッ』
「・・・ぐ、ぐふっ・・・」
リットが、教会兵と相打ちになって、ナイフを腹に刺していた。
リットは、肩から剣を受けていた。
「が、はっ・・・お、おのれ・・・」
腹にナイフを刺された教会兵は、ふらふらと後ずさりしたのち、馬車から落ちた。
「ダーリィィィィィィン!?」
慌てて駆け寄ったミタウが、リットを抱き上げた。
「み、たう・・・も、もう、あん、ぜん、か・・・?」
「うん、うん!大丈夫だよ・・・もう親魔物領に入ったから・・・すぐ病院に連れてくからね?」
「・・・そ、うか・・・」
男とアリスが近づき、涙ながらに礼を言った。
「あり、ありがとうございます・・・」
「お兄ちゃん・・・ありがとう」
リットは、小さく笑った。
「・・・み、たう・・・あり、がとよ・・・」
「・・・ちょっと、なに謝ってんの?」
「お、まえ・・・けっ、こう、すきだった・・・ぜ・・・」
「ねぇ。やめてよ。冗談でもキツいよ、それ」
「おま、えが、いたか・・・ら・・・たの、し、かっ・・・た・・・」
「ダーリン、やめてってば・・・ねぇ、ちょっと・・・」
リットが、目を閉じた。
「・・・ダーリン?
ね?嘘、でしょ?
この前、言ったじゃん。
まだまだ、たくさんの魔物を助けるんだって。
まだ、死なないでしょ?死ねないでしょ?
ねぇ、ダーリン。
・・・ダー、リン・・・」
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「ダーリン♪ダーリン♪」
「うるさい!膝に頭を乗せるなっ!」
数日後。
逃げた先の病院で、リットが入院しており、ミタウが甘えていた。
「ダーリン、私を好きって言ったじゃん」
「『like』の好きだ!『love』じゃない!」
「ツンデレダーリン、ハァハァ♪ツンデレダーリン、ハァハァ♪」
「キモい!ベタベタすんな!はーなーれーろーっ!」
ミタウがリットに頬ずりし、リットが彼女を必死に離そうと躍起になる。
「あらあら、まぁまぁ。仲良しねぇ♪」
そこに、病院経営を手伝うダークプリーストが入ってきた。
「仲良しじゃありません!こいつがベタベタしてくるだけで・・・だから離れろっ!」
「ダーリンちゅっちゅっ♪ダーリンちゅっちゅっ♪」
「あらあら妬けるわねぇ♪でーも、ミタウさん?お注射の時間ですので、お部屋を出てくださいな」
「やだ」
ミタウは、リットの右腕にしがみついて離れようとしなかった。
「ミタウ!」
「しょうがないですねぇ・・・じゃ、もう片腕でやりましょうか」
「すいません・・・」
「うふふ・・・見た目はリットさんが弟なのに、実際は逆ですね」
ダークプリーストの一言にムッとしたリットだが、その顔はミタウの美乳に押しつぶされた。
「むぐっ!?」
「違いますー!ダーリンは、私のお婿さんですー♪」
「むー!?むーーーっ!!」
「あらあら♪」
ミタウがぐりぐりとリットの頭に頬ずりし、リットが暴れる。
こうして。
ふたりのデコボコ賞金稼ぎコンビは、今日も教会に立ち向かう・・・
12/01/03 22:09更新 / ganota_Mk2