九日目、朝『騒動、喧嘩、仲直り、そして・・・』
[アルラウネ寮 308]
「なぁ、サティア〜。そろそろベルンくん、許してやったら〜?」
「・・・知らない」
朝の7時、サティアとベーゼの部屋。
ベーゼが着替え中のサティアに話しかけていた。
「もうベルンくんも反省してるだろうしさ〜」
「うるさい」
「サティアだって早く仲直りしたいでしょ?」
「・・・ふん」
「・・・もう!素直じゃないんだから!ホントに知らないよ!」
とうとうベーゼがぷりぷり怒ったとき、部屋の入り口から円柱状に丸まった紙が放り込まれた。
「?なにこれ?」
ベーゼが広げてみて、一瞬でギョッとした顔になった。
「サティア!サティア!!」
「うっさい!いい加減にしないと固めるよ!」
「バカ!そんな意地張ってる場合じゃないって!これ!これ見て!!」
ベーゼが突き出した紙面に、いやいや目を向けたサティア。
瞬間、サティアの目が開かれた。
「・・・な、な、な、なによこれぇぇぇぇぇぇっ!!?」
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[ガーゴイル寮、312号室]
「・・・くぁぁ・・・」
ベルンが部屋で頭を掻きながら起きる。時計を見ると、7時近かった。
「・・・メシ食いに行くかな」
ベルンはのそのそと起き上がり、顔を洗おうと据え置きの洗面所に行ったところで、昨日のことを思い出した。
『君、ナンパ魔になりたまえ』
「・・・けっ。バカらしい。なぁにがナンパ魔になれー、だ」
舌打ちをしたベルンは、不機嫌を洗い流すかのように勢いよく顔を洗い、授業の用意と身支度を整えて、部屋を出た。
彼は知らなかった。インドランがひとつ、『騒動』を仕組んでいたことを。
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[巨大食堂『もふもふ亭』]
食堂に入ったベルンは、さっそく違和感を感じ取った。
(・・・ん?)
朝、人が少ないのは普通だったが、魔物娘たちの様子がおかしかった。
ベルンが入ってきてから、チラチラと見る者。
ベルンを見てギョッとし、凝視する者。
ベルンを横目で見ながらヒソヒソ話をする者。
ベルンは改めて自分の身だしなみを確認したが、特に変なところはなく、首を傾げるばかりだった。
「なんだってんだ?・・・あ、すんません」
トレイを持ったベルンは、稲荷のいるジパング料理の店へ向かった。
「すいません」
「あ、いらっしゃ・・・あっ」
店の稲荷はベルンを見ると、ポッと頬を染めた。
「・・・?」
「あの、こ、ご注文は?」
「あ、えーっと・・・親子丼で」
「あ、はい。親子丼ひとつー」
店の奥から『はーい』と言う声が聞こえた後、なぜか稲荷はベルンを見てもじもじした。
「・・・なんすか?」
「えっ!?あ、いや・・・うふふ////」
稲荷はごまかすように笑った。
ベルンはまた首を傾げた。ふいっと視線を外すとやはり周りの魔物たちがベルンを見ていた。
「・・・あ、あの」
「はい?」
今度はおそるおそる、といった感じで稲荷が声をかけてきた。
「あの・・・私に、お声はかけてくれないのでしょうか?」
「・・・は?」
「お好みではありませんか?えと、私、確かに年上ですが、まだ若い方で・・・」
「へ、へ??」
意味がわからないベルンが反応してると、稲荷の後ろから猫又が親子丼を持ってきた。
「親子丼ひとつですー♪」
「あっ!?」
「あ、あぁ…ありがとう」
「えへへー♪」
やけに愛想のいい猫又にも疑問を抱きながら、ベルンは親子丼を持って席に向かった。
(なんで今日に限って作るの早いの!)
(店長さんだけ誘うとかズルいです!)
「・・・んん?」
後ろで稲荷と猫又が小さくしゃべっているのを聞いたが、ベルンは無視することにした。
さて、ベルンは一人で座ったのだが、やはり周りの魔物たちがずっとベルンに視線を送っている。中にはわざわざ席を移ってきた者たちまでいる。
もうここまで来ると気味が悪かったが、そこにひとり、空気の読まぬ者が現れた。
「おはよー!いい人!」
ラトラは気さくに声をかけ、ぴょこんと跳んでベルンと同じ席についた。
「お、おぅ。おはよう、ラトラ」
知り合いが来て少しホッとしたベルンだった。
しかし、すぐさまこの異様な雰囲気の原因を知ることとなる。
「いい人ー。この学園新聞のこと、ホント?」
「ん?」
ガサガサと音を立てて、ラトラは一枚の紙を取り出した。
「なに?『学園新聞〜号外号〜』?へぇ、こんなんあったん・・・ぶっ!!?」
瞬間、中身を見たベルンは口に含んだお茶を吹いてしまった。
[号外特集!
新一回生ベルン・トリニティは 魔力供給者募集中!?]
『今年入学の一回生、ベルン・トリニティは、恐ろしい目つき、ガチ不良のオーラ持ちでありながら、一回生の魔族貴族のクラリア・リーベ嬢や、著名な冒険作家の娘の一回生サティア・ウィーリィ、さらに最近、二回生アイドルのミルキィ・カラウと仲よくしていることから、最近、一部で話題になっていたのを知っているだろうか。
彼が、さらに話題になる出来事を起こしたのだ!
彼は、『魔力が枯渇してしまう』という呪いにかかったのだ!
これは最近になってはなかなかない、とても珍しい呪いであり、謎が多いらしい。解呪法などは解明されておらず、日に日に魔力が衰え、様々な身体的症状が現れるという。あまりにも放置した場合、下手すれば死さえありえるという話だ。
今のところ発見されている最善策は、『薬や魔物との性行為による魔力の補充』である。
しかし、彼は不良のように見られるが、実は違い、中身は優しい青年である。
性行為により相手になにかしらの呪いが移ったらどうしよう、そもそも、こちらの動機が不純ではないか。
そういう気持ちから、なかなか女の子といやんあはんな関係になれず、昨日、とある教師に相談するまでらしい・・・
彼を救いたいと思う魔物たち!
さぁ、彼を救い、あわよくば優しい彼を愛しい人にするのはいかがだろうか!?
著者:新聞部部長、新文 舞
情報提供:彼から相談を受けた某教師(匿名希望)…
なお、号外号内容についての質問は新聞部まで…』
(あんのクソ教師ィィィ・・・)
ぐしゃりと号外を潰し、ベルンは焦りと怒りと混乱により汗が噴き出し、手が震え、歯をギリギリと噛み締めていた。
「ねーねー。いい人ー。ホントなのー?」
「ば、バカ言うな・・・こんなの、ウソに決まってんだろ・・・」
「だってさー。いい人の友達って魔物の友達すごい多いむぐ?」
慌ててラトラの口を塞いだが、時すでに遅し。
ベルンは、ゆっくりと周りを見たが、見たこと自体に後悔した。
(ねぇ、や、やっぱり・・・)
(あの人が、噂の・・・)
(確かに怖い顔だけど・・・結構カッコいい?)
(相手を気づかって自分は苦しむ・・・可哀想)
(助けるうんぬん除いて・・・彼氏欲しいし♥)
(ていうか魔力理由にすればH三昧だよね・・・♥)
(ハーレム形成要因ktkr!(^ρ^))
周りはすでに獣の視線だらけだった。
ベルンはつぅーっとしたたる汗を拭い、親子丼をラトラの前にスライドさせた。
「・・・ラトラ、これ、やる」
「え、ホント!?」
「あぁ・・・お、俺、ちょっと寮に帰・・・」
その瞬間、周りの魔物が敏感に反応した。
「大丈夫!?気分悪くなったの!?」
「私が連れて帰ってあげようか!?」
「男子寮より保健室近いからそっち行く!?」
「あわよくばハーレム補給する!?」
「いらねぇから!あの新聞、デマだから!嘘だから!呪いなんてかかってねぇから!!!」
「またそうやって気遣うの!?」
「そんなことしなくていいから!!」
「無責任なエッチOKだから!!」
「いいから多人数中出しだ!!」
「違うから!!違うっつうんだよ!!殴るぞコラ!?」
「そこまで嘘ついてどうするの!?」
「好きなだけやっていいから!!」
「私マゾだから!!」
「SMハーレムバッチこい!!」
「俺の話を聞いてくれぇぇぇぇぇぇっ!!!」
本気で気遣う者、彼氏欲しさの者、性欲丸出しな者にもみくちゃにされたベルンが叫んだ瞬間。
「邪・魔・で・す・わぁぁぁっ!!!」
いきなりの怒声に全員ぎょっとして声の主を見た。
「・・・く、クラリア・・・」
ベルンが声の主を呼ぶと、ベルンを囲っていた魔物娘から離れた場所に立っていたクラリアがにっこりと笑ったまま、ゆっくり近づいてきた。
「・・・貴女たち?聞こえませんでした?邪・魔・で・す・わ」
にっこり笑ったままクラリアが言うと、ベルンを囲む魔物娘たちがむっとした。
「なによ!私たちが先にベルンくんといたのよ!」
「後から来てなにが『邪魔ですわ』よ!」
「貴族出だからって調子乗ってんじゃないの!?」
その時、クラリアが一本の霧吹きを取り出した。
「私特製、『淫毒盛り合わせスプレー(魔物用)』。錬金術使用により作った一品で、魔物のみ、匂いを嗅ぐ、もしくは皮膚に付着するだけで一日、足腰立たなくなるまでアヘり狂いますのよ?さぁ、誰から嗅ぎます?」
『失礼しました』
にっこり笑った顔の裏に『マジでやるぞ、早くどけ』という意思を確認した他の魔物娘たちは、こんな場で痴態をさらすのはマズイと思ったか、ささっと身を引いた。
「よろしい♥私用で使いたい方は言ってくださいね♥」
そう言ったクラリアはベルンに近づき、優しくベルンの手を取った。
「ベルンくん・・・大変ね。まさか、呪いにかかってしまうなんて」
「え、いや、あの・・・」
「安心して?私を抱いて、なんて言うために来たのではないの」
「へ?」
そう言うと、クラリアはベルンの手のひらに小さな薬瓶を置いた。
「私にできるのはこれくらい。これ、魔力回復薬なの。ほら、買うとお金かかるでしょ?」
にっこりと笑ったクラリアに、ベルンはありがたい思いで一杯になった。
「く、クラリア・・・な、なんて言ったらいいか」
「お礼なんていいわ。さ、早く飲んで?ごめんなさい、朝から急に作ったから、不完全なの。早めに飲まないと、効果が薄まるの」
「お、おう・・・いや、うん。呪いなんてかかってないんだが、とりあえず、いただくよ」
周りの魔物娘の視線を気にしてか、ベルンは呪いについて否定しながら、薬瓶の蓋を外した。
瞬間、クラリアの口端が歪んだ。
「兄様!飲んでは駄目!!」
『ヒュガッ!バリンッ!』
「うぬぉっ!?」
まさにベルンが口をつけようとした瞬間に、いきなり槍の切っ先が瓶を貫き割った。
「誰っ!?」
クラリアが槍の持ち主を見ると、そこには成美が立っていた。
「兄様!それを飲んでは駄目です!それには、『惚れ薬』が混ぜてあるんです!」
「マジか!?」
ベルンが床に散らばった薬を見た。液体なのだが、よく見るとピンク色で、たしかにそれっぽく感じる。
「本当です!女子寮の玄関で、『これさえ飲ませればベルンくんは私の・・・ぐへへ』って笑ってたのを見ました!」
「失礼ね!私はそんな笑い方しなかったわよ!」
「・・・発言自体は否定しないのですね」
「・・・あ」
しまったという顔をしたクラリアは、すぐさま成美を睨んだ。対する成美は、男相手でなければ怖くないのか、ギチギチと毒を垂らした顎を鳴らしながら睨み返した。
「もし、本当に惚れ薬が混ざってても、貴女には関係ないでしょう?」
「あります。兄様の意思を無視するようなことは許せません」
もはや食堂は食事できる空気ではなかった。クラリアと成美のピリピリとした空気が、周りの緊張を呼び起こしていた。そのふたりの間近にいるベルンは固まってしまって、ふたりを止めることもできなかった。
「ベルンくんと私の邪魔をしないでくださいな」
「私の兄様を無理やり奪おうとするのはやめてくれませんか」
もはや一触即発。導火線は3cm。カウントダウンはあと数秒。
熾烈なバトルが始まるかと思われた、その瞬間だった。
「いい人!ラトラがいい人とエッチしたげる!」
一匹のネズミが、場の空気をガラリと変えた。
『・・・はぁ!!?』(クラリア&成美)
「えっ!?えぇっ!?」
「ラトラも、いい人とならエッチしたい!ママが言ってたもん!『オトコは強い賢いだけじゃない!本能で決めろ!』って!」
「おいそれ俺をけなしてないか」
もちろんそれを二人が指をくわえて認めるはずもなかった。
「なに言い出してますのこのラージマウス!!」
「兄様から離れなさい化け鼠!!」
「やーだー!ラトラ、いい人と一緒になるー!」
クラリアと成美がラトラを引っぺがそうとするが、どこからそんな力が湧いているのか、ラトラはベルンにしがみついたまま離れなかった。
次の瞬間、ラトラ、クラリア、成美の頭上に、影がさした。
『・・・へ?』
頭上から、食堂据え置きの長机が飛んできた!
『きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』
『ガッシャアァァァンッ!!!』
ラトラが手を離したため、クラリア、成美の引っ張る力がベルンと距離を開け、落下した長机がベルンと三人を引き剥がした。
「・・・はぁーっ、はぁーっ!」
「さ、サティア?さ、流石にやりすぎじゃ・・・」
長机を投げたのは、サティアだった。横でベーゼがドン引きしていた。
「・・・あんたたち、一言言っとくわ」
肩で息をしていたサティアが、三人に近づきながら睨んだ。ただし、魔力は込めなかったか、三人は固まらなかった。
『しゅるるるっ!ビシィッ!』
「うぉっ!?」
サティアの尻尾がベルンの腕に巻かれ、勢いよく引っ張られた。
そして、サティアは、倒れかかってきたベルンを抱いて、叫んだ。
「べっ!ベルンはっ!私と二回も寝てるのっ!!!だからっ!ベルンはっ!私のものなの!!!誰にも譲らないんだからーーーっ!!!」
叫び終えたサティアの顔は、茹でたタコのように真っ赤になり、頭から湯気を出していた。恥ずかしさに耐えているのか、下唇をかみしめ、目の端に涙を浮かべていた。
「・・・な」
一拍置いて、クラリアが。
「・・・う」
続いて成美が。
「・・・えぇ〜・・・」
最後にラトラの残念そうな声がして。
『なんですってぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?』
『嘘だそんなことーーーーーーーっ!!!』
「わきゃっ!?・・・み、耳、キーンってなった・・・ラトラ、耳痛い・・・」
クラリアと成美が叫んだ。ラトラは、二人の叫びにくらくらしていた。
「な、な、な・・・貴女っ、いや、サティアさん!?イマナント!?」
「だからっ!ベルンは!私とエッチしたの!!二回!!」
「に、兄様が・・・他の女と・・・こんな、乳臭い女と・・・」
「うっさい!おっぱい大きくて悪かったわね!」
「いい人ぉ・・・耳痛いぃ・・・」
「うっさい!ベルンに近づくな!!」
抱き込んだベルンを守るようにサティアが三人から遠ざけた。今、クラリアと成美がテンパっているが、正気に戻れば、すぐさまここは惨状になるだろう。
そう、誰もが思ったときだった。
「はっはっはっ!青春してるねぇ、ベルンくん!」
インドラン校長が、高笑いしながら場に参戦した。
「こ、校長!?」
「やぁやぁベルンくん。見てみなさい。私が言ったとおり、君はモテるじゃないか。クラリアくんに成美くん。ラトラくんにサティアくん。いやいや、『両手に花』ならぬ、『四肢に花束』じゃないか!はっはっはっ!」
「そんな呑気なことを・・・」
ベルンがまた腹を立てた瞬間、校長はカラカラと笑いながら言った。
「いやしかし!私の企画した『ウソ記事見破ったら単位ゲッツ!抜き打ち冒険者テスト』にこんなたくさんの生徒が引っかかるとはね!はっはっはっはっはっ!!!」
『・・・は???』
瞬間、食堂にいた全員が首をかしげた。
「さぁさぁ、全員、号外号の『(匿名希望)』の当たりをよ〜〜〜く見てみよう!ま、見破れる人はすぐ見破れるはずだが・・・?」
ニヤニヤ笑う校長の言葉に、全員が近くにある号外を覗き込んだ。
ベルンも、先ほど潰した号外の紙を見た。
「・・・・・・あ?」
よ〜〜〜く見ると、匿名希望の右に、小さくこうあった。
『・・・(匿名希望)ウソ記事だよ』
さらに。その下にも。
『・・・は新聞部まで8時までにウソ記事と見抜けば単位』
と、実際、アリの糞かと思えるレベルの小ささで書いてあった。
「ま!実際誰も新聞部に行かなかったし、ちょこっとした不備で、魔物娘のいる寮の部屋にしか配らなかったからね!今回のイベントは失敗かな!はっはっはっはっはっはっ!!」
高笑いする校長に、1回生以外がはぁ、とため息をついた。
「えぇ?すると、また校長のいたずらぁ?」
「あーぁ。すっかり騙されちゃった」
「ま、そんな呪い、あんまりあり得ないよね〜」
「あ、もうすぐ授業だ。支度しよー」
ぞろぞろと上回生が立ち去り、残された一回生はなにがあったのかまだ理解できず、オロオロしていた。
「はっはっはっ!一回生諸君!この学校ではね、私の独断と偏見と気分により様々な催しが行われることがある!注意し、そして楽しみたまえ、はっはっはっ!」
「楽しめねぇよ!!!」
校長の話とベルンの叫びに、『なぁんだ、ウソだったんだ』とぶつぶつ言いながらやっと一回生も散り始めた。校長はベルンに近寄り、ニヤニヤしながら言った。
「ベルンくん。どうだね?これでも自分はうんぬんかんぬん言う気かね?」
「いや、あれとこれとは・・・」
「もし否定するなら、君に寄り添っている幼馴染のサティアくんの先の告白も否定することになるが?」
ハッとしたベルンがサティアに振り向いた。対するサティアは顔を真っ赤にして俯き、指をもじもじさせていた。
「えと・・・あの、サティア・・・」
「・・・う、うるさい・・・だって、ベルンが取られるのいやだったし・・・」
ぽそぽそと俯いて消えいるかのような声で言うサティアを、ベルンは優しく抱きしめた。
「・・・すまん。一昨日、ホントに、悪かった・・・」
「・・・ぁぅ・・・」
もはや一目も憚らない抱擁に、散り始めていた生徒たちが立ち止まり、ニヤニヤしたり小さく拍手したり「リア充氏ね」と言ったりしていた。
そして、ベルンはふっとサティアの抱擁をやめると、クラリアに近づいた。
「・・・あの、クラリア・・・だいたいの気持ち、分かったけど、その・・・サティアと、俺は・・・」
「・・・そう、ですわね。私、聞き分けの悪い女になるつもりはありません」
クラリアは、まっすぐベルンを見たまま言った。
「・・・すまん」
「彼女はサティアさん。愛人は私で。(キリッ」
瞬間、食堂にいた全員がずっこけた。
「ちょ!?クラリア、アンタ今、『聞き分けの悪い女になるつもりはない』って!?」
「『諦めの悪い女にならない』とは言ってませんわよ、サティアさん?私、これでも執着心は強いですから。そういうことで、ベルンくん。さぁ、愛人とのまぐわいを!」
「アタシの前で堂々と誘うなこの淫魔ァァァッ!!!」
次のベルンの目の前では、クラリアとサティアが取っ組み合いの喧嘩を始めていた。
「・・・あれ?問題解決してなくね?」
「いやぁ、これはなかなか楽しい展開だねぇ」
ニヤニヤと笑い、本当に心底楽しそうな校長をギロリとベルンが本気で睨んだが、校長は全くこたえてなかった。
「いい人〜!ラトラはいい人好きだよ!」
「あの、兄様・・・私も、兄様のことをお慕いしておりますから・・・」
目の前で喧嘩するふたり、さらに両脇から寄り添うふたりに、ベルンは幸せなため息を吐いた。
「・・・もう、どうにでもなりやがれ・・・」
ちなみに、この時点で授業開始15分前であったりする・・・
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[生徒会室]
「リーフ先生、新聞部の号外、回収終わりました」
生徒会の部屋で、ケンタウロス、ドラゴン、マンティスの三人の生徒会委員が山となった紙束の前に立ち、リーフ先生に報告していた。
「ご苦労。授業にいきなさい」
「失礼しました」
「お疲れ様でした」
ケンタウロスとドラゴンは一礼をして出ていった。紙の山をポンと叩いたリーフは、マンティスに愚痴るように言った。
「まったく・・・新聞部も注意ものだが、校長の悪戯にも困ったものだ・・・毎回毎回後処理は私たち生徒会がやるというのに」
「・・・・・・」
黙り込むマンティスの前で、リーフは号外号を見てため息をつく。
「しかし、ベルン・トリニティの装備品のペナルティについてこんなことをするとは・・・なにか問題があったのは事実だな・・・これは、生徒会の仕事が増えるかもしれんな・・・」
ふとそのとき、リーフ先生はマンティスを見た。
「・・・『サリス』?」
「・・・はっ・・・寝てません。寝てませんよ」
「目を開けたまま寝るのは構わんが・・・1コマはないのかね?」
「・・・ないです」
「なら、寝てよし」
リーフ先生がそう言うと、サリスはまた動きを止めた。
12/07/02 14:41更新 / ganota_Mk2
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