七日目(前編)
[リクラスト学園、会議室]
「・・・では、君たちの話をまとめてみようか」
会議室に、4人の教師と2人の生徒+αがいた。
2人の生徒、ベルンとロックが椅子に座る真ん前に、三人の教師が座っていた。
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今の状況を説明しよう。
時間は日曜日の昼前。
ベルンたちは冒険講習から帰還後、アクリウム先生に報告した後、加えて、洞窟で起きたことやロックのバルフォスとの契約、加えて、消えた指輪とベルンの右手の紋様(これはこの時初めてメンバー全員が把握した。元々、指輪はまだベルンが持っているものと思われていた)について話した。
話を聞いたアクリウム先生は慌ててこれを校長先生に報告。今回の冒険講習に関係する教師を交えて、会議となった。
教師陣のメンツは、まずアクリウム先生。ベルンたちに課題を課した張本人だ。
次に担任であるファ先生。ベルンたちの課題場所を指定したのは彼女であった。
リーフ先生は生徒会顧問であり、課題場所の管理責任者のため呼ばれた。本来はもうひとりいるのだが、現在遅刻中である。
そして、会議最終決定を見届けるために、校長先生がいた。
生徒側のメンツは、リーダーのベルンと、ロック。さらに、バルフォスが呼ばれていた。
ベルンはリーダーとしての責任、さらに指輪。ロックはバルフォスの契約のために呼び出された。
他のメンバーは、『巻き込まれた者』として、呼び出しはまぬがれていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「君たちの班のメンバー、ベルン・トリニティとサティア・ウィーリィは、アクリウム先生の課題を受け、『始まりの森丘』の森エリア奥地の水源に向かう途中、立ち入り禁止の洞窟に入ってしまった・・・なにか異論は?正直に言いたまえ」
手元にある文面を読み上げたのはリーフ・ライアーだった。彼の厳しい目つきにロックがビクリとするが、逆にベルンはしっかりと目を見て言った。
「先生、ふたつ、言わせてください」
「なんだね」
「俺たちが入ってしまった時、立ち入り禁止の看板は立ってませんでした。あと、俺とサティアは触手に引きずりこまれたんです。確かに、入口に近づいたのは正しいですが、入ろうと思って入ったわけじゃないです」
ベルンはしっかりとした口調で言い切り、露骨ではないが、訝しがるリーフの目を見ていた。
「・・・君たちは看板の存在を確認できなかった。かつ、自主的にではなく、触手に引きずりこまれてしまった。と、言いたいのだな?ベルン・トリニティ」
リーフがベルンの目を見つめ返し、わずかに語尾を強くして、返した。
「・・・はい」
額に汗を一筋垂らし、ベルンは頷いた。
「・・・では続ける。地下に引き入れられたベルンとサティア両名は、地下ダンジョンを散策中、他メンバーと合流し、徘徊するガーディアンを撃破。その際に、ロック・サンドラは『封印球・闇式』に触れ、バフォメット、『バルフォス・L・ローレグトリア』を開放、封印球の副作用により強制契約を結んだ。その後、ガーディアン内部から発見した指輪を装着したベルンは、右手に紋様が現れ、ガーディアンを操作することが可能になった。それによりガーディアンを操作して脱出し、今に至る・・・異論は?」
「・・・ないです」
「・・・ないっす」
ベルンとロックがそう答えた。
「あるぞ。ガーディアンは我が破壊した。此奴らではない」
ロックの隣で、ふんぞりかえったバルフォスが言った。
「・・・バルフォス嬢、ひとつよろしいか?」
「・・・我にメス個体の付属呼称をつけられたことに幾許か怒りを覚えるが・・・なんじゃ?」
「失礼。では言い直そう。バルフォス殿、なぜファ先生が貴方の椅子になっているのかご説明願いたい」
説明を忘れていたが、ファ先生は四つん這いになり、その背中にバルフォスが足を組んで座っていた。
「はぁうぅ〜・・・(TдT)」
「此奴は我の弟子じゃ。我より高位な席に座るなぞ、言語道断じゃ」
「だからと言ってファ先生がそちら側にいるのは困るんですが」
「・・・仕方ないのぅ・・・イープァ。あちら側へゆけ。ただし、『床に正座』、じゃぞ?」
「うぅ、はいぃ・・・(T_T)」
ファ先生はバルフォスが降りたあと、ふらふらとリーフ先生の隣へ行き、床に正座した。対するバルフォスは、本来ファ先生の座る椅子を引きずって行き、ロックの横に座った。
「・・・ファ先生、なにをしてるのですか」
「ごめんなさいリーフ先生・・・でも、逆らえないんです・・・たとえ契約ペナルティで魔力が激下がりしてても、師匠には・・・」
「『我に逆らえば貴様の昔の過去をバラすからな』と言ったよのぅ、イープァ?」
バルフォスがニヤリと笑うと、ファ先生はしくしくと泣いていた。
(・・・弱みでも握られているんだろうか・・・)
ベルンがそう考えた時、ゴホン、とひとつリーフ先生の咳払いが響いた。
「・・・では、続けます。今の経緯から、確認しなければならないことが複数あります」
リーフ先生が手元の資料をめくり、アクリウム先生に聞いた。
「アクリウム先生。今回の課題について、洞窟内に入らずとも、課題がクリアできることを示唆しましたか?」
「・・・いえ。水源が奥地にあることは示唆しましたが、課題クリアに洞窟探索が不必要であることは伝えませんでした」
「川からの採取ではなく、源泉からの採取にした理由は?」
「できる限り正確な水質を知りたかったからです。下流にいけばいくほど泥や動物のふんなど、様々な不純物が含まれますから・・・」
「・・・なるほど、わかりました」
リーフ先生が手元の紙になにか書き込むと、アクリウム先生はほっと胸を撫で下ろしていた。
「次に、ファ先生。彼らのチームに不備はないと考えた上で冒険講習に向かわせたわけですね?」
「はい。前衛・後衛の分担はしっかりしてましたし、探索役もふたりいましたから・・・」
「しかし現実には問題が発生した。発生原因と考えられるのはベルンの統率力不足が挙げられますが、そこはちゃんと認識していましたか?」
「それは・・・不十分だったかも知れません・・・」
「次からは注意してください」
リーフ先生がふぅ、とため息をついた。
「・・・最後に、私と生徒会について報告です。生徒会は入口見張り、空中見張り、巡回見張りを配備していましたが、森の中の彼らを発見できず、洞窟への侵入を許してしまいました。私の監督不届き、および、生徒会全員の意識怠惰が見受けられます。申し訳ありません」
リーフ先生はそれを言い切ると、ゆっくり頭を下げた。
そこまで聞いて、黙りこくっていた校長先生がニコリと笑い、ベルンたちを見た。
「・・・なら、今回は、君たちだけでなく、教師陣の失敗も見受けられるため、君たちの処分はなしとしよう」
「あ、ありがとうございます!」
「あざっす!」
ベルンとロックがふたりで頭を下げた。
「ただし。次回の冒険講習では、極力今回とは違うパーティにすること。わかったね?」
「は、はい」
「わかりました」
「よろしい。素直な生徒は好きだ。リーフ先生も、頭を上げて。あと、生徒会の生徒たちにも、次回注意するように言って、あまり厳しい処遇にしないように」
「・・・はい。わかりました」
リーフ先生は厳しい顔のまま、小さく頷いた。
「さて、もうひとつの本題だ。君たちの『呪い』について話さねばならないね」
校長先生がベルンたちを見て言った。ベルンとロックは、生唾を飲み込み、次の言葉を待った。
「・・・・・・ぶっちゃけ、解呪方法わかんないんだよね!わっはっははっ!」
校長先生の笑いに、ベルンとロック、さらにリーフ先生とアクリウム先生が椅子から転がり落ちてずっこけた。
「ちょとまてそこの半魔人!すると、我をこの契約主と切り離す方法がわからんと言うのか!?」
「うん、全く」
「イーィプァーッ!どーゆーことじゃ貴様ァーッ!?」
「いひゃいいひゃい!ばるふぉふはま、おひふひへふははいぃ!」
(痛い痛い!バルフォス様、落ち着いてくださいぃ!)
「落ち着けるものかド阿呆がぁっ!」
錯乱したバルフォスがぎゅうぎゅうとファ先生のほっぺたを左右に引っ張りまくる。
「いやぁ、ロリふたりが戯れてるのを見ると、和むねぇ・・・」
「・・・校長先生、自重してください・・・」
校長先生が笑いながら呟くと、額に青筋をたてたリーフがこめかみを押さえて言った。
「うぉぉ、怖い怖い・・・じゃ、真面目な雰囲気に戻そうか。まずはロックくんの『主従契約の呪い』から・・・ファ先生、ご説明を」
校長先生が言うと、アクリウム先生がバルフォスをファ先生から引っぺがし、ファ先生がほっぺたを撫でながら語り始めた。
「あぅぅ・・・え〜・・・始まりは数十年前の、魔王様の代交代前に遡ります。
前魔王様の右腕として働いていたバルフォス様は、当時、魔王様を討伐しようとしていた勇者一行と戦い、敗北はいたしませんでしたが、不意を突かれ、『封印球・闇式』と呼ばれる道具で封印されてしまいました。封印球・闇式に囚われたバルフォス様は、封印球から脱出不可能になってしまいました。
・・・それから、この封印球は『始まりの森丘』の地下迷宮に保管されたんです。そして、今回の事件で、開放されたんです。
本来、封印球で封印された魔物は、封印をした本人が中にいた魔物を開放し、使役することが可能なんですが・・・封印した勇者様は、すでに死亡しているんです。つまり、今回、バルフォス様がロックくんに開放されたのは全くのイレギュラーで・・・おかげで、契約の解除方法がわかんないんです・・・」
「・・・そ、そんなバカな・・・わ、我はこんな契約主と一生を・・・過ごさねば、ならんのか・・・?」
椅子から降りたバルフォスががっくりと膝をつく。
「お、俺・・・こんな、ロリと・・・ずっと?・・・マジか?夢か・・・?」
ちなみにロックも白く燃え尽きていた。
「・・・まぁ、ふたりとも、そう落ち込むことはない。これから二人でゆっくり仲良くなるといい」
「無理じゃ!」
「無理っす!」
二人は息ぴったりに反論した。
「ッ!合わせるでない!阿呆!」
「ッ!合わせんじゃねぇ!ロリ!」
またまた息ぴったりにお互いを罵った。
「わははははは!しかしな、ふたりとも、仲良くならねばならぬ理由があるのだぞ?」
大きく笑ったあと、校長先生がニヤリと笑って言った。
「・・・なに?」
「・・・な、なんすか?」
「魔力バイパスの件だ。バルフォスくんの魔力は枯渇しており、さらに、ロックくんには魔法才能がない。これでは、バルフォスくんが魔力を吸えないために身体が疲労し、ロックくんはないものを吸われるから、身体に大きな負担がかかってしまう。
・・・これを解消する術は、バルフォスくんには想像できなくとも、ロックくんには想像できるのではないか?」
「・・・む?」
バルフォスは首を傾げて頭に?マークを浮かべたが、対するロックは・・・
「・・・ま、ま、まさか・・・いや、そんな・・・まさか・・・こ、校長先生・・・ま、マジっすか・・・?」
わなわな震えるロックに、校長先生が二カッと笑った。
「そう、君たちは『性行為』によって魔力を交わし、バルフォスくんは魔力の補給、ロックくんは魔力の底上げをしなければならないんだ。わっはっはっはっはっ!」
瞬間、ロックとバルフォスの顔が真っ青になった。そして、お互いの顔を見つめ・・・
『・・・ッ、ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!』
最大限の叫びを上げた。
「おっ、俺が!?ロリと!?セッ・・・いぎゃあぁぁぁぁぁぁっ!?」
「わ、我が!?人間の!?オスと!?・・・おえぇぇぇぇぇぇっ!!」
ロックは床をのたうちまわり、バルフォスは床に突っ伏して吐きかけていた。(まだ出てない。セーフ)
「・・・魔物娘にしては珍しい反応だな」
「バルフォス様は前魔王様時代に封印され、封印球の中で代交代と変身をなさった方ですから・・・精神面がまだ今の魔物より、昔の魔物寄りなんでしょう」
「それは・・・気の毒ですね・・・」
リーフ、ファ、アクリウム先生がぽそぽそとしゃべってる横で、ロックとバルフォスが顔を合わせ・・・
『・・・ぬぉぉぉ・・・』
また悶え始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「さて、ベルンくんの方なんだが・・・」
校長先生が新しく切り出したが、なぜか歯切れが悪く、こめかみを掻いて困ったようにしていた。
「・・・ベルンくん、あまり怒らずに聞いて欲しいんだが・・・」
「・・・はい」
(怒る?どういうことだ?)
困った風にする校長先生がうんうん唸りながら、やっと、話し始めた。
「・・・あのガーディアンはね、我々学校関係者が作ったものではないんだ。
順を追って話そうか。
そもそも何故あそこにガーディアンがいたのか。あれは、封印されたバルフォスくんを開放して、よからぬことをしようとして不法侵入した輩を撃退するために作られたものなんだ。
入口の触手を覚えてるかい?あれは、実はとある先生・・・今、ここには来てない先生が、誤って生徒が入らぬように作った、人工的な触手なんだ。本来なら、生徒が近づくだけで生えてきて、近づけさせないもののはずなんだが・・・なぜか、君とサティアくんが引き込まれた・・・これに関しては、現在原因解明中だ。
・・・あぁ、すまん。話がそれたかな。
さて、その触手が出て、そこをくぐり抜けられるのは、実力がある、かつ、学校関係者以外のものだ。学校関係者なら、そもそも触手が出ないからね。そんな侵入者のために、ガーディアンが配備されていたんだが・・・あれは、我々程度の開発力じゃ作れない。
実は、だいぶ前だが、バルフォスくんの封印を維持するために防衛システムを探してるという話を、どういう経緯かは知らないが、現魔王様がお知りになったんだ。
すると、現魔王様は、ガーディアン内部の詳細を聞かないという条件付きで、あのガーディアンを支給してくださったんだ」
「・・・じ、じゃあ、つまり・・・」
ベルンが聞くと、校長先生が大きくため息を吐いた。
「・・・我々は、君の装備した指輪がどんなものなのか、把握できないんだ。今日、魔王様の下に手紙を送る。それで解除方法が分かればいいんだが・・・本当に、すまない」
「い、いや・・・元を正せば、俺が気安く装備したのが間違いですし・・・」
全体的にがっくりした雰囲気の中で、リーフ先生が切り出した。
「・・・君は、その指輪について、何もわからないか?話を聞けば『機械を操作する術』はわかったんだろう?」
「えっと・・・指輪をはめた時に、なんか色々聞こえて・・・えっ、と・・・」
ベルンは、あの時に聞こえた言葉を、思い出せる限り言った。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
「・・・ふむ・・・ファ先生。こういう魔法関連は、ファ先生が得意そうですが?」
ベルンの思い出し語りを聞き終えると、リーフ先生がファ先生に聞いた。
「う〜ん・・・おそらくですけど、『一定の魔力を消費』して、『恒久的な装備者の強化』、『人間強化の術?使用可能』、『魔物強化の術?使用可能』、『機械の操作可能』・・・ですかね?魔力消費の他に、なにかしらの消費はありそうですが・・・」
「ずいぶんと、メリットがありそうには聞こえますけど、『魔力が枯渇した時、宿主を操作して・・・』と聞こえる部分が怖いですね・・・」
「うむ・・・ベルンくん、大した力になれないのは、誠に申し訳ない。自分の身体に、なにかあったら、すぐに相談しなさい。いいね?」
「・・・はい」
少々トーンの落ちた声でベルンが答えると、校長先生が立ち上がった。
「では、生徒と、バルフォスくんには退室願おう。これから我々は、なぜこの事態を招いたのか、原因を究明するため、現地に赴くからね」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『ベルン!ロック!』
会議室から出てきたベルンたちを、サティアたちが出迎えた。
「大丈夫!?停学とか、ないわよね!?」
「あぁ、大丈夫。お咎めなしだった。ただ、次回、パーティを変えろとは言われたが」
「そっか・・・それはしょうがないよね」
サティアがちょっと悲しそうに言う。
「面白い人はー?停学ー?」
「いや、寿退学じゃないの?」
「ぶっ飛ばすぞチビガキども」
ラトラとベーゼがからかったが、殺気立ったロックの返しに、ふたりは一瞬怯えた。
「我が人間なんかと我が人間なんかと我が人間なんかと我が人間なんかと・・・ブツブツ・・・」
「あの、えと、大丈夫ですか?」
虚空を見つめて独り言をつぶやくバルフォスに、心配したネフィアが声をかけていた。
「・・・心配させて悪かったな。俺たちは大丈夫だから、今日はみんな解散しよう。ゆっくり休んで、明日からの授業、頑張ろうぜ」
そう言って、ベルンたちは解散した・・・
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[男子寮『ガーゴイル寮』]
「おっと312号のロックくん、よく来たね。君は退寮だよ」
ガーゴイル寮に入った途端、ロックがずっこけた。
「なんでっすか!?俺、停学とかなってないっすよ!?」
「ここは男子寮。君の後ろにいるバフォメットは入寮不可なんだ」
はっとロックとベルンが後ろを見ると、バルフォスがすごい不満げな顔をしていた。
「・・・我はオスだぞ、ガレッタ」
「W昔はW、だろう?今はキミも女の子なんだから、ダメだよ」
「・・・我をメスと言うな。鳥肌がたつ」
ふとベルンとロックは、ふたりが親しげに話していることに気づいた。
(・・・まさか、ガレッタさん、チビと知り合いか?)
(かもな・・・)
「ま、そこでだ。ロックくんには別の寮の鍵を渡そう。私の足元にあるカードを取りたまえ」
そう言われ、ロックがカードを取る。そして、カードに書かれた文字を見て、吹き出した。
『男女同棲寮『メロウ寮』721号室』
「だっ!?男女同棲寮ぉ!?」
「そうだ。ま、中でしっぽりやりなさい。はっはっはっ!」
「ちょ!?ま!?」
「あぁ、ちなみに、ロックくんの荷物はすでに運び終えてるよ。悪いが、ベルンくんはしばらくひとり部屋になる。我慢してくれ」
「いや!?ちょ!?」
「さぁさ、さっさと部屋に行きなさい、ロックくん。新しい生活が待ってるぞ?はっはっはっはっはっ!」
ケラケラと笑うガレッタに、口をパクパクさせて慌てるロック。大方の予想がついたのか、黙って落ち込むバルフォス。
それをしばらく見ていたベルンだが、ため息ひとつ吐き、部屋へと向かった。
「ちょ!?ベルン!?待って!おいてかないでくれぇぇぇっ!!!」
「流石にこればっかりは無理だ。許せ」
ベルンはカードを扉にかざし、自室へ入った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
[312号室]
(のぉぉぉぉぉぉ・・・)
遠くでロックの叫び声らしきものが聞こえたが、ベルンはふらふらとベッドに近づき、ぼふっと音をたてて倒れこんだ。
「あぁ、疲れた・・・どうなるんだろうな、俺・・・」
大きな不安は残ったまま、ベルンはゆっくりと瞼を閉じた・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・・・我…喰…宿主…魔力…
[ベルン魔力 6→1]
・・・魔力…不足…
・・・記憶…模索…
・・・理解…
・・・必要…補給…早急…
・・・我…宿主…操作…
・・・我…行…場所…何処…
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーー[選択肢]ーーー
1、女子寮『アルラウネ寮』
2、学校・図書館
3、学校・購買園
4、学校・食堂
5、街
6、始まりの森丘
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「・・・では、君たちの話をまとめてみようか」
会議室に、4人の教師と2人の生徒+αがいた。
2人の生徒、ベルンとロックが椅子に座る真ん前に、三人の教師が座っていた。
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今の状況を説明しよう。
時間は日曜日の昼前。
ベルンたちは冒険講習から帰還後、アクリウム先生に報告した後、加えて、洞窟で起きたことやロックのバルフォスとの契約、加えて、消えた指輪とベルンの右手の紋様(これはこの時初めてメンバー全員が把握した。元々、指輪はまだベルンが持っているものと思われていた)について話した。
話を聞いたアクリウム先生は慌ててこれを校長先生に報告。今回の冒険講習に関係する教師を交えて、会議となった。
教師陣のメンツは、まずアクリウム先生。ベルンたちに課題を課した張本人だ。
次に担任であるファ先生。ベルンたちの課題場所を指定したのは彼女であった。
リーフ先生は生徒会顧問であり、課題場所の管理責任者のため呼ばれた。本来はもうひとりいるのだが、現在遅刻中である。
そして、会議最終決定を見届けるために、校長先生がいた。
生徒側のメンツは、リーダーのベルンと、ロック。さらに、バルフォスが呼ばれていた。
ベルンはリーダーとしての責任、さらに指輪。ロックはバルフォスの契約のために呼び出された。
他のメンバーは、『巻き込まれた者』として、呼び出しはまぬがれていた。
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「君たちの班のメンバー、ベルン・トリニティとサティア・ウィーリィは、アクリウム先生の課題を受け、『始まりの森丘』の森エリア奥地の水源に向かう途中、立ち入り禁止の洞窟に入ってしまった・・・なにか異論は?正直に言いたまえ」
手元にある文面を読み上げたのはリーフ・ライアーだった。彼の厳しい目つきにロックがビクリとするが、逆にベルンはしっかりと目を見て言った。
「先生、ふたつ、言わせてください」
「なんだね」
「俺たちが入ってしまった時、立ち入り禁止の看板は立ってませんでした。あと、俺とサティアは触手に引きずりこまれたんです。確かに、入口に近づいたのは正しいですが、入ろうと思って入ったわけじゃないです」
ベルンはしっかりとした口調で言い切り、露骨ではないが、訝しがるリーフの目を見ていた。
「・・・君たちは看板の存在を確認できなかった。かつ、自主的にではなく、触手に引きずりこまれてしまった。と、言いたいのだな?ベルン・トリニティ」
リーフがベルンの目を見つめ返し、わずかに語尾を強くして、返した。
「・・・はい」
額に汗を一筋垂らし、ベルンは頷いた。
「・・・では続ける。地下に引き入れられたベルンとサティア両名は、地下ダンジョンを散策中、他メンバーと合流し、徘徊するガーディアンを撃破。その際に、ロック・サンドラは『封印球・闇式』に触れ、バフォメット、『バルフォス・L・ローレグトリア』を開放、封印球の副作用により強制契約を結んだ。その後、ガーディアン内部から発見した指輪を装着したベルンは、右手に紋様が現れ、ガーディアンを操作することが可能になった。それによりガーディアンを操作して脱出し、今に至る・・・異論は?」
「・・・ないです」
「・・・ないっす」
ベルンとロックがそう答えた。
「あるぞ。ガーディアンは我が破壊した。此奴らではない」
ロックの隣で、ふんぞりかえったバルフォスが言った。
「・・・バルフォス嬢、ひとつよろしいか?」
「・・・我にメス個体の付属呼称をつけられたことに幾許か怒りを覚えるが・・・なんじゃ?」
「失礼。では言い直そう。バルフォス殿、なぜファ先生が貴方の椅子になっているのかご説明願いたい」
説明を忘れていたが、ファ先生は四つん這いになり、その背中にバルフォスが足を組んで座っていた。
「はぁうぅ〜・・・(TдT)」
「此奴は我の弟子じゃ。我より高位な席に座るなぞ、言語道断じゃ」
「だからと言ってファ先生がそちら側にいるのは困るんですが」
「・・・仕方ないのぅ・・・イープァ。あちら側へゆけ。ただし、『床に正座』、じゃぞ?」
「うぅ、はいぃ・・・(T_T)」
ファ先生はバルフォスが降りたあと、ふらふらとリーフ先生の隣へ行き、床に正座した。対するバルフォスは、本来ファ先生の座る椅子を引きずって行き、ロックの横に座った。
「・・・ファ先生、なにをしてるのですか」
「ごめんなさいリーフ先生・・・でも、逆らえないんです・・・たとえ契約ペナルティで魔力が激下がりしてても、師匠には・・・」
「『我に逆らえば貴様の昔の過去をバラすからな』と言ったよのぅ、イープァ?」
バルフォスがニヤリと笑うと、ファ先生はしくしくと泣いていた。
(・・・弱みでも握られているんだろうか・・・)
ベルンがそう考えた時、ゴホン、とひとつリーフ先生の咳払いが響いた。
「・・・では、続けます。今の経緯から、確認しなければならないことが複数あります」
リーフ先生が手元の資料をめくり、アクリウム先生に聞いた。
「アクリウム先生。今回の課題について、洞窟内に入らずとも、課題がクリアできることを示唆しましたか?」
「・・・いえ。水源が奥地にあることは示唆しましたが、課題クリアに洞窟探索が不必要であることは伝えませんでした」
「川からの採取ではなく、源泉からの採取にした理由は?」
「できる限り正確な水質を知りたかったからです。下流にいけばいくほど泥や動物のふんなど、様々な不純物が含まれますから・・・」
「・・・なるほど、わかりました」
リーフ先生が手元の紙になにか書き込むと、アクリウム先生はほっと胸を撫で下ろしていた。
「次に、ファ先生。彼らのチームに不備はないと考えた上で冒険講習に向かわせたわけですね?」
「はい。前衛・後衛の分担はしっかりしてましたし、探索役もふたりいましたから・・・」
「しかし現実には問題が発生した。発生原因と考えられるのはベルンの統率力不足が挙げられますが、そこはちゃんと認識していましたか?」
「それは・・・不十分だったかも知れません・・・」
「次からは注意してください」
リーフ先生がふぅ、とため息をついた。
「・・・最後に、私と生徒会について報告です。生徒会は入口見張り、空中見張り、巡回見張りを配備していましたが、森の中の彼らを発見できず、洞窟への侵入を許してしまいました。私の監督不届き、および、生徒会全員の意識怠惰が見受けられます。申し訳ありません」
リーフ先生はそれを言い切ると、ゆっくり頭を下げた。
そこまで聞いて、黙りこくっていた校長先生がニコリと笑い、ベルンたちを見た。
「・・・なら、今回は、君たちだけでなく、教師陣の失敗も見受けられるため、君たちの処分はなしとしよう」
「あ、ありがとうございます!」
「あざっす!」
ベルンとロックがふたりで頭を下げた。
「ただし。次回の冒険講習では、極力今回とは違うパーティにすること。わかったね?」
「は、はい」
「わかりました」
「よろしい。素直な生徒は好きだ。リーフ先生も、頭を上げて。あと、生徒会の生徒たちにも、次回注意するように言って、あまり厳しい処遇にしないように」
「・・・はい。わかりました」
リーフ先生は厳しい顔のまま、小さく頷いた。
「さて、もうひとつの本題だ。君たちの『呪い』について話さねばならないね」
校長先生がベルンたちを見て言った。ベルンとロックは、生唾を飲み込み、次の言葉を待った。
「・・・・・・ぶっちゃけ、解呪方法わかんないんだよね!わっはっははっ!」
校長先生の笑いに、ベルンとロック、さらにリーフ先生とアクリウム先生が椅子から転がり落ちてずっこけた。
「ちょとまてそこの半魔人!すると、我をこの契約主と切り離す方法がわからんと言うのか!?」
「うん、全く」
「イーィプァーッ!どーゆーことじゃ貴様ァーッ!?」
「いひゃいいひゃい!ばるふぉふはま、おひふひへふははいぃ!」
(痛い痛い!バルフォス様、落ち着いてくださいぃ!)
「落ち着けるものかド阿呆がぁっ!」
錯乱したバルフォスがぎゅうぎゅうとファ先生のほっぺたを左右に引っ張りまくる。
「いやぁ、ロリふたりが戯れてるのを見ると、和むねぇ・・・」
「・・・校長先生、自重してください・・・」
校長先生が笑いながら呟くと、額に青筋をたてたリーフがこめかみを押さえて言った。
「うぉぉ、怖い怖い・・・じゃ、真面目な雰囲気に戻そうか。まずはロックくんの『主従契約の呪い』から・・・ファ先生、ご説明を」
校長先生が言うと、アクリウム先生がバルフォスをファ先生から引っぺがし、ファ先生がほっぺたを撫でながら語り始めた。
「あぅぅ・・・え〜・・・始まりは数十年前の、魔王様の代交代前に遡ります。
前魔王様の右腕として働いていたバルフォス様は、当時、魔王様を討伐しようとしていた勇者一行と戦い、敗北はいたしませんでしたが、不意を突かれ、『封印球・闇式』と呼ばれる道具で封印されてしまいました。封印球・闇式に囚われたバルフォス様は、封印球から脱出不可能になってしまいました。
・・・それから、この封印球は『始まりの森丘』の地下迷宮に保管されたんです。そして、今回の事件で、開放されたんです。
本来、封印球で封印された魔物は、封印をした本人が中にいた魔物を開放し、使役することが可能なんですが・・・封印した勇者様は、すでに死亡しているんです。つまり、今回、バルフォス様がロックくんに開放されたのは全くのイレギュラーで・・・おかげで、契約の解除方法がわかんないんです・・・」
「・・・そ、そんなバカな・・・わ、我はこんな契約主と一生を・・・過ごさねば、ならんのか・・・?」
椅子から降りたバルフォスががっくりと膝をつく。
「お、俺・・・こんな、ロリと・・・ずっと?・・・マジか?夢か・・・?」
ちなみにロックも白く燃え尽きていた。
「・・・まぁ、ふたりとも、そう落ち込むことはない。これから二人でゆっくり仲良くなるといい」
「無理じゃ!」
「無理っす!」
二人は息ぴったりに反論した。
「ッ!合わせるでない!阿呆!」
「ッ!合わせんじゃねぇ!ロリ!」
またまた息ぴったりにお互いを罵った。
「わははははは!しかしな、ふたりとも、仲良くならねばならぬ理由があるのだぞ?」
大きく笑ったあと、校長先生がニヤリと笑って言った。
「・・・なに?」
「・・・な、なんすか?」
「魔力バイパスの件だ。バルフォスくんの魔力は枯渇しており、さらに、ロックくんには魔法才能がない。これでは、バルフォスくんが魔力を吸えないために身体が疲労し、ロックくんはないものを吸われるから、身体に大きな負担がかかってしまう。
・・・これを解消する術は、バルフォスくんには想像できなくとも、ロックくんには想像できるのではないか?」
「・・・む?」
バルフォスは首を傾げて頭に?マークを浮かべたが、対するロックは・・・
「・・・ま、ま、まさか・・・いや、そんな・・・まさか・・・こ、校長先生・・・ま、マジっすか・・・?」
わなわな震えるロックに、校長先生が二カッと笑った。
「そう、君たちは『性行為』によって魔力を交わし、バルフォスくんは魔力の補給、ロックくんは魔力の底上げをしなければならないんだ。わっはっはっはっはっ!」
瞬間、ロックとバルフォスの顔が真っ青になった。そして、お互いの顔を見つめ・・・
『・・・ッ、ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!』
最大限の叫びを上げた。
「おっ、俺が!?ロリと!?セッ・・・いぎゃあぁぁぁぁぁぁっ!?」
「わ、我が!?人間の!?オスと!?・・・おえぇぇぇぇぇぇっ!!」
ロックは床をのたうちまわり、バルフォスは床に突っ伏して吐きかけていた。(まだ出てない。セーフ)
「・・・魔物娘にしては珍しい反応だな」
「バルフォス様は前魔王様時代に封印され、封印球の中で代交代と変身をなさった方ですから・・・精神面がまだ今の魔物より、昔の魔物寄りなんでしょう」
「それは・・・気の毒ですね・・・」
リーフ、ファ、アクリウム先生がぽそぽそとしゃべってる横で、ロックとバルフォスが顔を合わせ・・・
『・・・ぬぉぉぉ・・・』
また悶え始めた。
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「さて、ベルンくんの方なんだが・・・」
校長先生が新しく切り出したが、なぜか歯切れが悪く、こめかみを掻いて困ったようにしていた。
「・・・ベルンくん、あまり怒らずに聞いて欲しいんだが・・・」
「・・・はい」
(怒る?どういうことだ?)
困った風にする校長先生がうんうん唸りながら、やっと、話し始めた。
「・・・あのガーディアンはね、我々学校関係者が作ったものではないんだ。
順を追って話そうか。
そもそも何故あそこにガーディアンがいたのか。あれは、封印されたバルフォスくんを開放して、よからぬことをしようとして不法侵入した輩を撃退するために作られたものなんだ。
入口の触手を覚えてるかい?あれは、実はとある先生・・・今、ここには来てない先生が、誤って生徒が入らぬように作った、人工的な触手なんだ。本来なら、生徒が近づくだけで生えてきて、近づけさせないもののはずなんだが・・・なぜか、君とサティアくんが引き込まれた・・・これに関しては、現在原因解明中だ。
・・・あぁ、すまん。話がそれたかな。
さて、その触手が出て、そこをくぐり抜けられるのは、実力がある、かつ、学校関係者以外のものだ。学校関係者なら、そもそも触手が出ないからね。そんな侵入者のために、ガーディアンが配備されていたんだが・・・あれは、我々程度の開発力じゃ作れない。
実は、だいぶ前だが、バルフォスくんの封印を維持するために防衛システムを探してるという話を、どういう経緯かは知らないが、現魔王様がお知りになったんだ。
すると、現魔王様は、ガーディアン内部の詳細を聞かないという条件付きで、あのガーディアンを支給してくださったんだ」
「・・・じ、じゃあ、つまり・・・」
ベルンが聞くと、校長先生が大きくため息を吐いた。
「・・・我々は、君の装備した指輪がどんなものなのか、把握できないんだ。今日、魔王様の下に手紙を送る。それで解除方法が分かればいいんだが・・・本当に、すまない」
「い、いや・・・元を正せば、俺が気安く装備したのが間違いですし・・・」
全体的にがっくりした雰囲気の中で、リーフ先生が切り出した。
「・・・君は、その指輪について、何もわからないか?話を聞けば『機械を操作する術』はわかったんだろう?」
「えっと・・・指輪をはめた時に、なんか色々聞こえて・・・えっ、と・・・」
ベルンは、あの時に聞こえた言葉を、思い出せる限り言った。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
「・・・ふむ・・・ファ先生。こういう魔法関連は、ファ先生が得意そうですが?」
ベルンの思い出し語りを聞き終えると、リーフ先生がファ先生に聞いた。
「う〜ん・・・おそらくですけど、『一定の魔力を消費』して、『恒久的な装備者の強化』、『人間強化の術?使用可能』、『魔物強化の術?使用可能』、『機械の操作可能』・・・ですかね?魔力消費の他に、なにかしらの消費はありそうですが・・・」
「ずいぶんと、メリットがありそうには聞こえますけど、『魔力が枯渇した時、宿主を操作して・・・』と聞こえる部分が怖いですね・・・」
「うむ・・・ベルンくん、大した力になれないのは、誠に申し訳ない。自分の身体に、なにかあったら、すぐに相談しなさい。いいね?」
「・・・はい」
少々トーンの落ちた声でベルンが答えると、校長先生が立ち上がった。
「では、生徒と、バルフォスくんには退室願おう。これから我々は、なぜこの事態を招いたのか、原因を究明するため、現地に赴くからね」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『ベルン!ロック!』
会議室から出てきたベルンたちを、サティアたちが出迎えた。
「大丈夫!?停学とか、ないわよね!?」
「あぁ、大丈夫。お咎めなしだった。ただ、次回、パーティを変えろとは言われたが」
「そっか・・・それはしょうがないよね」
サティアがちょっと悲しそうに言う。
「面白い人はー?停学ー?」
「いや、寿退学じゃないの?」
「ぶっ飛ばすぞチビガキども」
ラトラとベーゼがからかったが、殺気立ったロックの返しに、ふたりは一瞬怯えた。
「我が人間なんかと我が人間なんかと我が人間なんかと我が人間なんかと・・・ブツブツ・・・」
「あの、えと、大丈夫ですか?」
虚空を見つめて独り言をつぶやくバルフォスに、心配したネフィアが声をかけていた。
「・・・心配させて悪かったな。俺たちは大丈夫だから、今日はみんな解散しよう。ゆっくり休んで、明日からの授業、頑張ろうぜ」
そう言って、ベルンたちは解散した・・・
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[男子寮『ガーゴイル寮』]
「おっと312号のロックくん、よく来たね。君は退寮だよ」
ガーゴイル寮に入った途端、ロックがずっこけた。
「なんでっすか!?俺、停学とかなってないっすよ!?」
「ここは男子寮。君の後ろにいるバフォメットは入寮不可なんだ」
はっとロックとベルンが後ろを見ると、バルフォスがすごい不満げな顔をしていた。
「・・・我はオスだぞ、ガレッタ」
「W昔はW、だろう?今はキミも女の子なんだから、ダメだよ」
「・・・我をメスと言うな。鳥肌がたつ」
ふとベルンとロックは、ふたりが親しげに話していることに気づいた。
(・・・まさか、ガレッタさん、チビと知り合いか?)
(かもな・・・)
「ま、そこでだ。ロックくんには別の寮の鍵を渡そう。私の足元にあるカードを取りたまえ」
そう言われ、ロックがカードを取る。そして、カードに書かれた文字を見て、吹き出した。
『男女同棲寮『メロウ寮』721号室』
「だっ!?男女同棲寮ぉ!?」
「そうだ。ま、中でしっぽりやりなさい。はっはっはっ!」
「ちょ!?ま!?」
「あぁ、ちなみに、ロックくんの荷物はすでに運び終えてるよ。悪いが、ベルンくんはしばらくひとり部屋になる。我慢してくれ」
「いや!?ちょ!?」
「さぁさ、さっさと部屋に行きなさい、ロックくん。新しい生活が待ってるぞ?はっはっはっはっはっ!」
ケラケラと笑うガレッタに、口をパクパクさせて慌てるロック。大方の予想がついたのか、黙って落ち込むバルフォス。
それをしばらく見ていたベルンだが、ため息ひとつ吐き、部屋へと向かった。
「ちょ!?ベルン!?待って!おいてかないでくれぇぇぇっ!!!」
「流石にこればっかりは無理だ。許せ」
ベルンはカードを扉にかざし、自室へ入った。
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[312号室]
(のぉぉぉぉぉぉ・・・)
遠くでロックの叫び声らしきものが聞こえたが、ベルンはふらふらとベッドに近づき、ぼふっと音をたてて倒れこんだ。
「あぁ、疲れた・・・どうなるんだろうな、俺・・・」
大きな不安は残ったまま、ベルンはゆっくりと瞼を閉じた・・・
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・・・我…喰…宿主…魔力…
[ベルン魔力 6→1]
・・・魔力…不足…
・・・記憶…模索…
・・・理解…
・・・必要…補給…早急…
・・・我…宿主…操作…
・・・我…行…場所…何処…
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ーーー[選択肢]ーーー
1、女子寮『アルラウネ寮』
2、学校・図書館
3、学校・購買園
4、学校・食堂
5、街
6、始まりの森丘
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12/06/10 11:45更新 / ganota_Mk2
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