五日目、夜 & 六日目、午前(土曜日)
[ロックが起きる前・・・]
「いい人ぉ・・・ついてきてぇ・・・」
ベルンの目の前には、泣きそうな顔をしたラトラがいた。
「なんだよラトラ・・・こっちは男子テントだぞ・・・」
「いい人じゃなきゃやだぁ・・・ついてきてぇ・・・」
うるうると涙ぐむラトラにベルンは頭を掻きながら眠そうに欠伸をする。
「・・・ったく・・・ついて来いって、どこにだよ?」
「うぅ・・・」
ラトラがもぞもぞと動き、顔を赤らめながら小さい声で言った。
「・・・おしっこ」
「独りで行け」
ベルンはすぐさま寝袋を被ってしまった。
「やぁ!暗い!怖い!いい人ついてきてぇ!」
「バカ!サティアやベーゼを呼べよ!
」
「乳の人もチビの人も起きないよぅ!ひとりぼっちじゃ怖いのぉ!いい人ぉ!お願いぃ!ついてきてくんなきゃ、いい人の寝袋の中でする!」
「ふざけんなバカ!分かった、分かったから・・・騒ぐのはやめろ・・・ちょっと待ってろ・・・」
はぁ、と一発大きくため息を吐いた後、ベルンは寝袋から出て上着を羽織った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「いい人いてよ!?絶対だよ!?ラトラが聞いたら、返事してよ!?」
「わかったからさっさとやっちまえ!」
テントから出て滝を出て、すぐ近くの茂み。
ラトラが屈むすぐ後ろの岩陰からベルンが応える。流石に目の前でやるのは恥ずかしかったようだ。
(・・・ったく。暗い、暗いっていうが、夜にしちゃ明るいじゃねぇか)
ベルンが見上げると、空にはたくさんの星が煌き、さらに大きな満月が爛々としており、ランタンなしでもだいたい足元が見えるくらいだった。
(暗がりが怖いのか?子供みたいなやつだ)
その時。
『・・・ちょろろろろ・・・』
「・・・・・・」
なんの音かは言わずもがな。察しのついてしまったベルンは気まずい顔をしたまま、硬直してしまった。
「・・・いい人?」
音が止んだのち、衣こすれの音がし、ラトラが岩陰から顔を出した。
「・・・なんだ」
「・・・聞いてた?」
「・・・なにも聞いてない」
「・・・ラトラの声、聞いてたよね?」
「・・・あぁ」
「いい人の変態!」
「てめぇ言うにことかいてそれかよ!第一お前がなぁ!」
頭にカチンときたベルンがヒートアップしかけた瞬間だった。
「・・・だれかいるの?」
ハッとしたベルンとラトラは、すぐさま岩陰に隠れた。今日の昼に聞いた声だからだ。
「・・・あれ〜?だれもいない・・・」
声の後に現れたのは、ビィブだった。
キョロキョロと辺りを見回す彼女のちょうど岩陰に、ベルンたちは隠れていた。
(いい人、どうする?)
(急だったからヴィンギナーもナイフも持ってきてない。なんとか隠れてやり過ごすぞ)
(らじゃ)
その時。
「ビィブー!なんか見つけたかい!?」
「こっちはなんもなかったー」
昼のオーガとオークの片割れまでもが、ビィブの近くに来た。
しかし、二人が盗賊職だったからか、はたまた運がよかったのか。ちょうどベルンたちの隠れた周りに岩がゴロゴロあり、なんとかベルンたちの姿を隠していた。
(くそっ。集まってきやがった・・・)
(めんどくさいよぉ、いい人ぉ・・・)
ふたりは息を殺し、三人が去るのを待った・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「いえ〜。誰もいないし、なにもないです〜」
「そうかい・・・おかしいねぇ・・・ここいらに『入り口』があるはずなんだが・・・」
「姉貴〜。もうひとつの『入り口』探しましょうよ〜。森の中にあるっぽいやつ〜」
「森の中ねぇ・・・案外そっちのほうが見つかりやすいかもねぇ・・・」
「というか、ボクはご主人様を探したいんですけどぉ・・・あいたっ!」
「ビィブ!いいかい!うちらは『洞窟に眠る宝』を探しに来たんだよ!あの野郎なんか後回しだ!」
「でもぉ・・・『この近くにある洞窟に宝がある』って話だって、胡散臭い情報屋にタレこまれた情報じゃないですかぁ・・・それより、ボクは目の前の素敵なご主人様を・・・」
「・・・はぁ、分かったよ・・・明日、洞窟の入り口が見つからなかったら、あの野郎をとっちめるよ」
「・・・ホント!?」
「ただし!明日、ビィブが真面目にやってないとアタイが判断したら・・・あさっても洞窟探しだよ!」
「分かった!ボク、頑張る!!」
「『エイブ』も張り切るよ!」
「よし、じゃあ。明日頑張るために、今日はトンズラして、しっかり寝るよ!」
『おーぅ!!!』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
オーガたちが去っていってしばらくしてから、ベルンとラトラが岩陰からひょこっと出た。
「・・・ふぅ。なんとかやり過ごせたみたいだな・・・」
「いい人!聞いた?お宝だって!」
ハッとベルンがラトラを見ると、ラトラが目をキラキラと光らせていた。
「・・・ラトラ?まさか探そうとか言いださないよな?」
「探さないの!?」
「当たり前だ!俺たちは課題をこなすことが最優先だっつの!」
「じゃあ課題をクリアしてから探す!?」
「やらねぇよ!報告が先だろが!無茶言うな!」
「( ・ω・)ジーッ」
「そんなおねだりするみたいな顔してもダメ!!!」
「( ;ω;)」
「泣くなっ!!!」
一連のワガママをしてふてくされたラトラの手を引き、ベルンはテントへ戻って行った・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ベルン?」
ロックが夢から覚め、ベルンの名を言った時。
「・・・ん?ロック、起きてたのか」
ちょうどベルンがテントに帰って来た。
「あ、お前、どこにいたんだよ?」
「わりぃ。ションベン行ってた」
「んだよ、声かければいいのによ」
「ん、あ、まぁな・・・」
(ラトラのお守りだったとは言えん・・・)
そしてベルンが寝袋に入り込んだ時、ふとベルンが聞いた。
「なぁ、ロック」
「んぁ?」
「もし、この始まりの森丘に、『お宝』があるかもしれないって知ったらどうすr」
「探す」
「OK、おやすみ」
「・・・?」
(こいつに言ったらラトラ側に回られる・・・黙っとこう・・・)
そう思ったまま、ベルンはゆっくり眠りに落ちた・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
[六日目、朝]
「ねぇねぇみんなーっ!この辺りに、お宝があるんだってー!」
「ラトラてめぇぇぇぇぇぇっ!!!」
テントをたたんで今から出発ってときに、ラトラが叫んだ。それに続き、ベルンが膝をついて叫んだ。
「お宝だと!?」
「マジで!?」
ロックとベーゼが話に食いつき、ベルンが小さく舌打ちした。
「昨日の夜ね、昨日のオーガとオークの三人組がそう言ってたんだよ!あいつら学校の人には見えないし、きっと本当だよ!」
「あいつらが言ってたのか・・・微妙だな・・・」
「でも情報でもなきゃこんなとこ来ないだろ?それに・・・何よりロマンがあるじゃないか!」
「確かに・・・そうだな!いやぁ、わくわくするな!」
ふたりは完全に宝探しする気でいるようだ。それを止めようとベルンが口を出した。
「ちょっとお前ら・・・俺たちには課題があるだろ。第一、俺らなんかで宝なんか探せないぞ」
「諦めんなよベルン!ロリたちは頼りないが、こっちにはサティアちゃんがいるんだぜ!イケるって!」
ロックが親指立てて言う。ベルンはゆっくりサティアの方を向いて聞いた。
「サティア・・・お前も宝を探したいか?」
すると、サティアはため息をつきながら肩をすくめた。
「・・・別に?私は興味ないわ」
「ほ、ほんとか!?」
「僕も危ないと思います。第一、あのオークたちが探しているのであれば、鉢合わせする可能性があります。あまりムダな戦闘を招くことは控えないと・・・」
サティアとネフィアは課題・安全重視なようで、ベルンは心の中でガッツポーズをした。
すると、ささっとベーゼがサティアに近づいた。
「ねぇサティアぁ、一緒にお宝探そうよぉ」
「いや。そんな根も葉もない話に乗るなんてまっぴらごめんよ」
「もしかしたらさぁ・・・(お宝探し中にいい雰囲気になるかもしんないじゃん)」
「・・・は?」
「(たとえばさ、ベルンくんが罠にかかる→サティアが素早く助ける→目と目が合うー♥、なんてコンボだってありえるでしょう?なんなら、逆でもアリ!)」
「・・・・・・」
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
『カチッ』
えっ?きゃあっ!?
「危ないっ!」
『ガバッ!』
きゃっ!?
「あっ・・・わ、悪い・・・」
う、ううん・・・ありがと・・・
「け、怪我ないか?」
・・・ないけど・・・その・・・手・・・
「手?・・・あっ!!わ、悪い!わざと胸に置いたわけじゃ・・・」
・・・いい。
「え?」
・・・ベルンなら、触っても、いいよ・・・
「・・・サティア・・・」
ベルン・・・
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
「きゃーーーーーーーーーっ♥」
『バッチィーーンッ!』
「ぶぇべらっ!?」
いきなりサティアが顔を真っ赤にしてベーゼの頬に張り手をぶちかました。
張り倒されたベーゼは顔面から草原に突っ込み、バウンドするように吹き飛んだ。
「ちょ!?ベーゼ!?大丈夫か!?」
「あ、あだまに、ぐりでぃがるひっど・・・がくっ・・・」
「そんなっ、いやっ、あぁんっ♥」
顔を真っ赤にしながら頭を振り、にやにやするサティアに、全員がドン引きしていた。(ただしベーゼは気絶)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『始まりの森丘・フィールドE
→始まりの森丘・フィールドC
→始まりの森丘・フィールドB
→始まりの森丘・フィールドD(森林エリア)』
ベーゼが目を覚ました後、草原エリアを引き返し、森エリアへの分かれ道を通ったメンバー。
そこで。
(・・・なぁ、ベルン)
(・・・なんだ、ロック)
「・・・・・・じーーーっ」
くまさんに、出会った♪(曲、もりのくまさん風味)
(・・・むっちゃ見てるぞ、こっち)
(・・・だな)
茶毛のグリズリーは指を咥えてベルンたちをじーっと見ていた。
メンバーのほとんどが突然のエンカウントに、武器を用意する間もなく、グリズリーの様子を見ていた。
(・・・ベルン狙ってんじゃないでしょうね)
約一名は、手に魔力を溜めていたが。
『・・・スッ』
そのとき、グリズリーが両手を上げた。
「ッ!?」
全員が武器に手をかけた!
「・・・がおー・・・たべちゃうよ?」
『ズドドドドッ!』
『ボトッ!』
メンバーがみんなずっこけ、戦闘準備のために空に飛んだベーゼが落ちた。
「な、なんだって・・・?」(ベルン)
「たべものちょーだい?おなかすいたの」
グリズリーが上げた両手の指をわきわきしながら言う。どうやら、率先して戦闘しようとはしてないようだ。
「た、食べ物っつったって・・・あ」
悩んだロックが、ふと自分のバッグを開け、持ち運び用にくるんであった[狼の肉]を取り出した。
「こ、こんなのはどうだ?」
「・・・わぁ♪」
おそるおそるロックが差し出すと、グリズリーが目をキラキラさせ、上げた両手をベルン達に突き出し、早く早くと手を軽く振る。
「ほ、ほら・・・」
「気をつけろよ、ロック」
腰が引けたロックが狼の肉を差し出したままジリジリとグリズリーに近づく。
「・・・あむっ」
『かぷっ』
「イダァーーーーーーッ!?」
瞬間、なぜか手を引っ込め、グリズリーが直にロックの指ごと狼の肉にかぶりついた!
「あむあむあむあむ」
『ガリガリガリガリ』
「いだだだだだだだやめやめやめやめやめやがれ痛いんだよ指ごと食うなぁ!!!」
ロックが泣きながらグリズリーの頭を押すが、グリズリーはまだ狼の肉を食べている(つもりでロックの指を噛む)。
「ちょ・・・大丈夫なの?あれ?」
「いや、結構危ないだろうな・・・」
「落ち着いて観察してねぇで助けあいだだだだだだ!」
「あむあむあむ♪」
「お、おぉ、わりぃ・・・」
ロックの叫びにサティアと話していたベルンが慌てて自分の鞄から新しい[狼の肉]を取り出した。
「おい、これもやるから、そっちの肉から一旦、口を離してくれ」
「ん・・・ぷは」
グリズリーが口を離すと、ロックの手は血は出てなかったが、唾でべったべたになり、噛まれた跡がたくさんついていた。
「ちょーだい♪」
「ほい・・・手渡しな。直接食うなよ」
ベルンの手から狼の肉をもらったグリズリーは、その場に座り込み肉にかぶりついた。
「むぐむぐ♪」
「ふぅ・・・取っといてよかったな・・・」(ベルン)
「ベルンに全部渡しときゃよかった・・・うぇ、手ぇべったべただ・・・」(ロック)
「ちょ、汚ないわね・・・近寄せないでよ」(サティア)
「面白い人、汚ない・・・」(ラトラ)
「グリズリーの唾は・・・そんな好みじゃないなぁ。イラネ」(ベーゼ)
「ねぇ。なんで女子陣はそんなに俺に冷たいの?流石に泣くよ?」(ロック)
そう話しているときに、ふとネフィアがグリズリーに近づいた。
「あの、グリズリーさん。貴女は、この森に住んでるんですか?」
「むぐむぐ・・・うん」
「じゃあ、この近くに、湖とか、川の源泉とかありますか?」
「・・・げん、せん?」
「あぁ、水の湧き出てるところですよ」
すると、グリズリーは食べながらふと右手で森の奥を指差した。
「あっちに、ちいさな滝があるよ・・・そのむこうに、あるかも」
「ありがとう、グリズリーさん」
ふたりの会話を聞いていたベルンは、会話終わりにベルンの方を向いたネフィアに親指を立てた。ネフィアは小さくウィンクで返した。
「みんな、それじゃあ奥に向かおう。源泉は近そうだ」
それにみんながうなづいた時。
「ねーねー熊の人。ここらへんに、洞窟とか、遺跡とかないー?お宝がありそうなの!」
「? どうくつなら、『小さい滝のある場所の近く』にあったよ?」
「ホント!?」
「うん」
ラトラが余計なことを聞き、ベルンが頭を抱え、ロックとベーゼの目が光った。
「マジか!?」(ロック)
「いよっしゃぁ!」(ベーゼ)
しかし、続けてグリズリーがうーんと首を捻りながら続けた。
「でもねー・・・あそこ、嫌い。中に入るとね、うねうねしたものがたくさんあるの。あれ、嫌い」
「うねうねー?」(ラトラ)
「うん。あとね、なんかあそこ、時々大きな音するの」
その話の腰を折り、ベルンがラトラの首根っこをつまみ上げた。
「はいはい、とっとと行くぞ。さっさと課題をすませるんだ」
「あ、やっ、いい人のけちー!」
「ばいば〜い」
狼の肉を頬張るグリズリーを残し、メンバーはさらに奥へと進んで行った・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『始まりの森丘・フィールドD
→始まりの森丘・フィールドF(滝エリア)』
『ドドドド・・・』
その場所には、グリズリーの話した通り、フィールドFから落ちる滝があった。どうやら、この滝を下ればフィールドEに行けそうだ。戻ってもこれなさそうだが。
「さて・・・この滝に続く川をたどっていけば源泉に着きそうだが・・・」
ベルンがそう言ってから、後ろを振り向いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
[探索、開始。第一探索難度、26]
[ロック察知点 5、失敗…]
[ベーゼ察知点15、失敗…]
[ラトラ察知点30、成功!]
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「見つけたか!?」(ロック)
「まだー」(ラトラ)
「あーもー!木が邪魔で探しにくい!」(ベーゼ)
「お前ら洞窟探してんじゃねぇっつの!!!」
ロックたちはさっさと洞窟探索を始めていた。ベルンが叫ぶが、三人は全く聞く耳を持たない。
「もう説得は無理っぽいわね・・・」
「どうやら源泉は近いらしいですし、さっさと課題の水を取ってきた方が得策かもしれません」
はぁ、とため息を吐くベルン。やがて諦めたように頭を掻いた。
「・・・しょうがない、あいつらに勝手に探索させて、俺たちはさっさと行こう」
「そうする?」
・・・まさにその時。
「あったーーーっ!洞窟、あったよーーーっ!」
ラトラの叫びが、メンバーの耳に届いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
洞窟の入り口は蔦に覆われてわかりにくくなっていた。ラトラがナイフを振り回して蔦を切り裂いた結果、発見したのだ。
「中は・・・やっぱ暗そうだな」
ロックが覗き込むが、すぐ先も見えぬほど暗く、中はほとんど確認できなかった。
「・・・で、だ。ベルン。ここまで来て引き返すなんて言わねぇよなぁ?」
ロックがにやにやと笑いながらベルンを見た。
「いい人ぉー。入ろうよー。ねぇ、ねーぇーっ!」
「ベルンくん、いいじゃないか少しくらい寄り道したってさぁ?ねぇ?」
当のベルンは、足をラトラに引っ張られ、肩をベーゼに揉まれ、げっそりとしんどそうにしていた。
「・・・(ギロリ)」
「ま、まぁまぁサティアも怒らないでさ・・・ね?」
それを見てサティアが超不機嫌になっていた。ちなみに、ネフィアは控えめに笑っていた。
「・・・あぁもう!分かった!分かったよ!!」
半ばやけくそ気味にラトラとベーゼを振り払ったベルンは、ロックの横に立ち、中を覗き込んだ。
「・・・たいまつがいるな」
「テント用品中にたいまつとランプがあったし、なんとかなるだろ」
「・・・よし」
ベルンが入り口を塞ぐように仁王立ちになり、メンバーに言った。
「それじゃあこうしよう。今から源泉に行って水を取る。で、そのあと、ここに入ろう。ただし!なにか危険なことが発生したらみんなで逃げる。どんな些細なことでもだ。分かったな?」
そう言うと、ロックがガッツポーズをし、ベーゼとラトラがハイタッチ、サティアがため息を吐き、ネフィアが軽く笑った。
「そうこなくちゃな!」
「いえーい!」
「よっしゃ!」
「はぁ・・・まったく・・・」
「ははは・・・」
「じゃあみんな、まずは源泉に行くぞ」
そのベルンの声にみんなが振り返り、歩き始める。
ベルンもその後を追おうとした。
『ぎちっ』
その時、ベルンの足が止まった。
「・・・え?」
ベルンが素早く右足を見た。
洞窟から伸びた紫色の『触手』が、ベルンの足を絡めて取っていた。
「なっ」
なんだこれ、それを言う暇もなく。
『ぐいぃっ!!!』
「ぶっ!?」
強烈な力で右足を引っ張られたベルンは、右足を後ろにつんのめらせ、地面に倒れる。その音に、みんなが一瞬足を止めた。
『ギヂギヂッ!』
「・・・ッ!?」
強烈な力で引っ張られ、必死に地面にしがみつくベルンの足に激しい痛みが走る。
「た、たすっ・・・」
助けて。そう言いながらベルンは左手で地面の草を握り、右手をメンバーに突き出した。
次の瞬間。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
1、ロックが手を取った
2、サティアが手を取った
3、ラトラが手を取った
4、ベーゼが手を取った
5、ネフィアが手を取った
6、右手が空を掻いた
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「いい人ぉ・・・ついてきてぇ・・・」
ベルンの目の前には、泣きそうな顔をしたラトラがいた。
「なんだよラトラ・・・こっちは男子テントだぞ・・・」
「いい人じゃなきゃやだぁ・・・ついてきてぇ・・・」
うるうると涙ぐむラトラにベルンは頭を掻きながら眠そうに欠伸をする。
「・・・ったく・・・ついて来いって、どこにだよ?」
「うぅ・・・」
ラトラがもぞもぞと動き、顔を赤らめながら小さい声で言った。
「・・・おしっこ」
「独りで行け」
ベルンはすぐさま寝袋を被ってしまった。
「やぁ!暗い!怖い!いい人ついてきてぇ!」
「バカ!サティアやベーゼを呼べよ!
」
「乳の人もチビの人も起きないよぅ!ひとりぼっちじゃ怖いのぉ!いい人ぉ!お願いぃ!ついてきてくんなきゃ、いい人の寝袋の中でする!」
「ふざけんなバカ!分かった、分かったから・・・騒ぐのはやめろ・・・ちょっと待ってろ・・・」
はぁ、と一発大きくため息を吐いた後、ベルンは寝袋から出て上着を羽織った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「いい人いてよ!?絶対だよ!?ラトラが聞いたら、返事してよ!?」
「わかったからさっさとやっちまえ!」
テントから出て滝を出て、すぐ近くの茂み。
ラトラが屈むすぐ後ろの岩陰からベルンが応える。流石に目の前でやるのは恥ずかしかったようだ。
(・・・ったく。暗い、暗いっていうが、夜にしちゃ明るいじゃねぇか)
ベルンが見上げると、空にはたくさんの星が煌き、さらに大きな満月が爛々としており、ランタンなしでもだいたい足元が見えるくらいだった。
(暗がりが怖いのか?子供みたいなやつだ)
その時。
『・・・ちょろろろろ・・・』
「・・・・・・」
なんの音かは言わずもがな。察しのついてしまったベルンは気まずい顔をしたまま、硬直してしまった。
「・・・いい人?」
音が止んだのち、衣こすれの音がし、ラトラが岩陰から顔を出した。
「・・・なんだ」
「・・・聞いてた?」
「・・・なにも聞いてない」
「・・・ラトラの声、聞いてたよね?」
「・・・あぁ」
「いい人の変態!」
「てめぇ言うにことかいてそれかよ!第一お前がなぁ!」
頭にカチンときたベルンがヒートアップしかけた瞬間だった。
「・・・だれかいるの?」
ハッとしたベルンとラトラは、すぐさま岩陰に隠れた。今日の昼に聞いた声だからだ。
「・・・あれ〜?だれもいない・・・」
声の後に現れたのは、ビィブだった。
キョロキョロと辺りを見回す彼女のちょうど岩陰に、ベルンたちは隠れていた。
(いい人、どうする?)
(急だったからヴィンギナーもナイフも持ってきてない。なんとか隠れてやり過ごすぞ)
(らじゃ)
その時。
「ビィブー!なんか見つけたかい!?」
「こっちはなんもなかったー」
昼のオーガとオークの片割れまでもが、ビィブの近くに来た。
しかし、二人が盗賊職だったからか、はたまた運がよかったのか。ちょうどベルンたちの隠れた周りに岩がゴロゴロあり、なんとかベルンたちの姿を隠していた。
(くそっ。集まってきやがった・・・)
(めんどくさいよぉ、いい人ぉ・・・)
ふたりは息を殺し、三人が去るのを待った・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「いえ〜。誰もいないし、なにもないです〜」
「そうかい・・・おかしいねぇ・・・ここいらに『入り口』があるはずなんだが・・・」
「姉貴〜。もうひとつの『入り口』探しましょうよ〜。森の中にあるっぽいやつ〜」
「森の中ねぇ・・・案外そっちのほうが見つかりやすいかもねぇ・・・」
「というか、ボクはご主人様を探したいんですけどぉ・・・あいたっ!」
「ビィブ!いいかい!うちらは『洞窟に眠る宝』を探しに来たんだよ!あの野郎なんか後回しだ!」
「でもぉ・・・『この近くにある洞窟に宝がある』って話だって、胡散臭い情報屋にタレこまれた情報じゃないですかぁ・・・それより、ボクは目の前の素敵なご主人様を・・・」
「・・・はぁ、分かったよ・・・明日、洞窟の入り口が見つからなかったら、あの野郎をとっちめるよ」
「・・・ホント!?」
「ただし!明日、ビィブが真面目にやってないとアタイが判断したら・・・あさっても洞窟探しだよ!」
「分かった!ボク、頑張る!!」
「『エイブ』も張り切るよ!」
「よし、じゃあ。明日頑張るために、今日はトンズラして、しっかり寝るよ!」
『おーぅ!!!』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
オーガたちが去っていってしばらくしてから、ベルンとラトラが岩陰からひょこっと出た。
「・・・ふぅ。なんとかやり過ごせたみたいだな・・・」
「いい人!聞いた?お宝だって!」
ハッとベルンがラトラを見ると、ラトラが目をキラキラと光らせていた。
「・・・ラトラ?まさか探そうとか言いださないよな?」
「探さないの!?」
「当たり前だ!俺たちは課題をこなすことが最優先だっつの!」
「じゃあ課題をクリアしてから探す!?」
「やらねぇよ!報告が先だろが!無茶言うな!」
「( ・ω・)ジーッ」
「そんなおねだりするみたいな顔してもダメ!!!」
「( ;ω;)」
「泣くなっ!!!」
一連のワガママをしてふてくされたラトラの手を引き、ベルンはテントへ戻って行った・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ベルン?」
ロックが夢から覚め、ベルンの名を言った時。
「・・・ん?ロック、起きてたのか」
ちょうどベルンがテントに帰って来た。
「あ、お前、どこにいたんだよ?」
「わりぃ。ションベン行ってた」
「んだよ、声かければいいのによ」
「ん、あ、まぁな・・・」
(ラトラのお守りだったとは言えん・・・)
そしてベルンが寝袋に入り込んだ時、ふとベルンが聞いた。
「なぁ、ロック」
「んぁ?」
「もし、この始まりの森丘に、『お宝』があるかもしれないって知ったらどうすr」
「探す」
「OK、おやすみ」
「・・・?」
(こいつに言ったらラトラ側に回られる・・・黙っとこう・・・)
そう思ったまま、ベルンはゆっくり眠りに落ちた・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
[六日目、朝]
「ねぇねぇみんなーっ!この辺りに、お宝があるんだってー!」
「ラトラてめぇぇぇぇぇぇっ!!!」
テントをたたんで今から出発ってときに、ラトラが叫んだ。それに続き、ベルンが膝をついて叫んだ。
「お宝だと!?」
「マジで!?」
ロックとベーゼが話に食いつき、ベルンが小さく舌打ちした。
「昨日の夜ね、昨日のオーガとオークの三人組がそう言ってたんだよ!あいつら学校の人には見えないし、きっと本当だよ!」
「あいつらが言ってたのか・・・微妙だな・・・」
「でも情報でもなきゃこんなとこ来ないだろ?それに・・・何よりロマンがあるじゃないか!」
「確かに・・・そうだな!いやぁ、わくわくするな!」
ふたりは完全に宝探しする気でいるようだ。それを止めようとベルンが口を出した。
「ちょっとお前ら・・・俺たちには課題があるだろ。第一、俺らなんかで宝なんか探せないぞ」
「諦めんなよベルン!ロリたちは頼りないが、こっちにはサティアちゃんがいるんだぜ!イケるって!」
ロックが親指立てて言う。ベルンはゆっくりサティアの方を向いて聞いた。
「サティア・・・お前も宝を探したいか?」
すると、サティアはため息をつきながら肩をすくめた。
「・・・別に?私は興味ないわ」
「ほ、ほんとか!?」
「僕も危ないと思います。第一、あのオークたちが探しているのであれば、鉢合わせする可能性があります。あまりムダな戦闘を招くことは控えないと・・・」
サティアとネフィアは課題・安全重視なようで、ベルンは心の中でガッツポーズをした。
すると、ささっとベーゼがサティアに近づいた。
「ねぇサティアぁ、一緒にお宝探そうよぉ」
「いや。そんな根も葉もない話に乗るなんてまっぴらごめんよ」
「もしかしたらさぁ・・・(お宝探し中にいい雰囲気になるかもしんないじゃん)」
「・・・は?」
「(たとえばさ、ベルンくんが罠にかかる→サティアが素早く助ける→目と目が合うー♥、なんてコンボだってありえるでしょう?なんなら、逆でもアリ!)」
「・・・・・・」
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
『カチッ』
えっ?きゃあっ!?
「危ないっ!」
『ガバッ!』
きゃっ!?
「あっ・・・わ、悪い・・・」
う、ううん・・・ありがと・・・
「け、怪我ないか?」
・・・ないけど・・・その・・・手・・・
「手?・・・あっ!!わ、悪い!わざと胸に置いたわけじゃ・・・」
・・・いい。
「え?」
・・・ベルンなら、触っても、いいよ・・・
「・・・サティア・・・」
ベルン・・・
〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜
「きゃーーーーーーーーーっ♥」
『バッチィーーンッ!』
「ぶぇべらっ!?」
いきなりサティアが顔を真っ赤にしてベーゼの頬に張り手をぶちかました。
張り倒されたベーゼは顔面から草原に突っ込み、バウンドするように吹き飛んだ。
「ちょ!?ベーゼ!?大丈夫か!?」
「あ、あだまに、ぐりでぃがるひっど・・・がくっ・・・」
「そんなっ、いやっ、あぁんっ♥」
顔を真っ赤にしながら頭を振り、にやにやするサティアに、全員がドン引きしていた。(ただしベーゼは気絶)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『始まりの森丘・フィールドE
→始まりの森丘・フィールドC
→始まりの森丘・フィールドB
→始まりの森丘・フィールドD(森林エリア)』
ベーゼが目を覚ました後、草原エリアを引き返し、森エリアへの分かれ道を通ったメンバー。
そこで。
(・・・なぁ、ベルン)
(・・・なんだ、ロック)
「・・・・・・じーーーっ」
くまさんに、出会った♪(曲、もりのくまさん風味)
(・・・むっちゃ見てるぞ、こっち)
(・・・だな)
茶毛のグリズリーは指を咥えてベルンたちをじーっと見ていた。
メンバーのほとんどが突然のエンカウントに、武器を用意する間もなく、グリズリーの様子を見ていた。
(・・・ベルン狙ってんじゃないでしょうね)
約一名は、手に魔力を溜めていたが。
『・・・スッ』
そのとき、グリズリーが両手を上げた。
「ッ!?」
全員が武器に手をかけた!
「・・・がおー・・・たべちゃうよ?」
『ズドドドドッ!』
『ボトッ!』
メンバーがみんなずっこけ、戦闘準備のために空に飛んだベーゼが落ちた。
「な、なんだって・・・?」(ベルン)
「たべものちょーだい?おなかすいたの」
グリズリーが上げた両手の指をわきわきしながら言う。どうやら、率先して戦闘しようとはしてないようだ。
「た、食べ物っつったって・・・あ」
悩んだロックが、ふと自分のバッグを開け、持ち運び用にくるんであった[狼の肉]を取り出した。
「こ、こんなのはどうだ?」
「・・・わぁ♪」
おそるおそるロックが差し出すと、グリズリーが目をキラキラさせ、上げた両手をベルン達に突き出し、早く早くと手を軽く振る。
「ほ、ほら・・・」
「気をつけろよ、ロック」
腰が引けたロックが狼の肉を差し出したままジリジリとグリズリーに近づく。
「・・・あむっ」
『かぷっ』
「イダァーーーーーーッ!?」
瞬間、なぜか手を引っ込め、グリズリーが直にロックの指ごと狼の肉にかぶりついた!
「あむあむあむあむ」
『ガリガリガリガリ』
「いだだだだだだだやめやめやめやめやめやがれ痛いんだよ指ごと食うなぁ!!!」
ロックが泣きながらグリズリーの頭を押すが、グリズリーはまだ狼の肉を食べている(つもりでロックの指を噛む)。
「ちょ・・・大丈夫なの?あれ?」
「いや、結構危ないだろうな・・・」
「落ち着いて観察してねぇで助けあいだだだだだだ!」
「あむあむあむ♪」
「お、おぉ、わりぃ・・・」
ロックの叫びにサティアと話していたベルンが慌てて自分の鞄から新しい[狼の肉]を取り出した。
「おい、これもやるから、そっちの肉から一旦、口を離してくれ」
「ん・・・ぷは」
グリズリーが口を離すと、ロックの手は血は出てなかったが、唾でべったべたになり、噛まれた跡がたくさんついていた。
「ちょーだい♪」
「ほい・・・手渡しな。直接食うなよ」
ベルンの手から狼の肉をもらったグリズリーは、その場に座り込み肉にかぶりついた。
「むぐむぐ♪」
「ふぅ・・・取っといてよかったな・・・」(ベルン)
「ベルンに全部渡しときゃよかった・・・うぇ、手ぇべったべただ・・・」(ロック)
「ちょ、汚ないわね・・・近寄せないでよ」(サティア)
「面白い人、汚ない・・・」(ラトラ)
「グリズリーの唾は・・・そんな好みじゃないなぁ。イラネ」(ベーゼ)
「ねぇ。なんで女子陣はそんなに俺に冷たいの?流石に泣くよ?」(ロック)
そう話しているときに、ふとネフィアがグリズリーに近づいた。
「あの、グリズリーさん。貴女は、この森に住んでるんですか?」
「むぐむぐ・・・うん」
「じゃあ、この近くに、湖とか、川の源泉とかありますか?」
「・・・げん、せん?」
「あぁ、水の湧き出てるところですよ」
すると、グリズリーは食べながらふと右手で森の奥を指差した。
「あっちに、ちいさな滝があるよ・・・そのむこうに、あるかも」
「ありがとう、グリズリーさん」
ふたりの会話を聞いていたベルンは、会話終わりにベルンの方を向いたネフィアに親指を立てた。ネフィアは小さくウィンクで返した。
「みんな、それじゃあ奥に向かおう。源泉は近そうだ」
それにみんながうなづいた時。
「ねーねー熊の人。ここらへんに、洞窟とか、遺跡とかないー?お宝がありそうなの!」
「? どうくつなら、『小さい滝のある場所の近く』にあったよ?」
「ホント!?」
「うん」
ラトラが余計なことを聞き、ベルンが頭を抱え、ロックとベーゼの目が光った。
「マジか!?」(ロック)
「いよっしゃぁ!」(ベーゼ)
しかし、続けてグリズリーがうーんと首を捻りながら続けた。
「でもねー・・・あそこ、嫌い。中に入るとね、うねうねしたものがたくさんあるの。あれ、嫌い」
「うねうねー?」(ラトラ)
「うん。あとね、なんかあそこ、時々大きな音するの」
その話の腰を折り、ベルンがラトラの首根っこをつまみ上げた。
「はいはい、とっとと行くぞ。さっさと課題をすませるんだ」
「あ、やっ、いい人のけちー!」
「ばいば〜い」
狼の肉を頬張るグリズリーを残し、メンバーはさらに奥へと進んで行った・・・
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『始まりの森丘・フィールドD
→始まりの森丘・フィールドF(滝エリア)』
『ドドドド・・・』
その場所には、グリズリーの話した通り、フィールドFから落ちる滝があった。どうやら、この滝を下ればフィールドEに行けそうだ。戻ってもこれなさそうだが。
「さて・・・この滝に続く川をたどっていけば源泉に着きそうだが・・・」
ベルンがそう言ってから、後ろを振り向いた。
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[探索、開始。第一探索難度、26]
[ロック察知点 5、失敗…]
[ベーゼ察知点15、失敗…]
[ラトラ察知点30、成功!]
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「見つけたか!?」(ロック)
「まだー」(ラトラ)
「あーもー!木が邪魔で探しにくい!」(ベーゼ)
「お前ら洞窟探してんじゃねぇっつの!!!」
ロックたちはさっさと洞窟探索を始めていた。ベルンが叫ぶが、三人は全く聞く耳を持たない。
「もう説得は無理っぽいわね・・・」
「どうやら源泉は近いらしいですし、さっさと課題の水を取ってきた方が得策かもしれません」
はぁ、とため息を吐くベルン。やがて諦めたように頭を掻いた。
「・・・しょうがない、あいつらに勝手に探索させて、俺たちはさっさと行こう」
「そうする?」
・・・まさにその時。
「あったーーーっ!洞窟、あったよーーーっ!」
ラトラの叫びが、メンバーの耳に届いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
洞窟の入り口は蔦に覆われてわかりにくくなっていた。ラトラがナイフを振り回して蔦を切り裂いた結果、発見したのだ。
「中は・・・やっぱ暗そうだな」
ロックが覗き込むが、すぐ先も見えぬほど暗く、中はほとんど確認できなかった。
「・・・で、だ。ベルン。ここまで来て引き返すなんて言わねぇよなぁ?」
ロックがにやにやと笑いながらベルンを見た。
「いい人ぉー。入ろうよー。ねぇ、ねーぇーっ!」
「ベルンくん、いいじゃないか少しくらい寄り道したってさぁ?ねぇ?」
当のベルンは、足をラトラに引っ張られ、肩をベーゼに揉まれ、げっそりとしんどそうにしていた。
「・・・(ギロリ)」
「ま、まぁまぁサティアも怒らないでさ・・・ね?」
それを見てサティアが超不機嫌になっていた。ちなみに、ネフィアは控えめに笑っていた。
「・・・あぁもう!分かった!分かったよ!!」
半ばやけくそ気味にラトラとベーゼを振り払ったベルンは、ロックの横に立ち、中を覗き込んだ。
「・・・たいまつがいるな」
「テント用品中にたいまつとランプがあったし、なんとかなるだろ」
「・・・よし」
ベルンが入り口を塞ぐように仁王立ちになり、メンバーに言った。
「それじゃあこうしよう。今から源泉に行って水を取る。で、そのあと、ここに入ろう。ただし!なにか危険なことが発生したらみんなで逃げる。どんな些細なことでもだ。分かったな?」
そう言うと、ロックがガッツポーズをし、ベーゼとラトラがハイタッチ、サティアがため息を吐き、ネフィアが軽く笑った。
「そうこなくちゃな!」
「いえーい!」
「よっしゃ!」
「はぁ・・・まったく・・・」
「ははは・・・」
「じゃあみんな、まずは源泉に行くぞ」
そのベルンの声にみんなが振り返り、歩き始める。
ベルンもその後を追おうとした。
『ぎちっ』
その時、ベルンの足が止まった。
「・・・え?」
ベルンが素早く右足を見た。
洞窟から伸びた紫色の『触手』が、ベルンの足を絡めて取っていた。
「なっ」
なんだこれ、それを言う暇もなく。
『ぐいぃっ!!!』
「ぶっ!?」
強烈な力で右足を引っ張られたベルンは、右足を後ろにつんのめらせ、地面に倒れる。その音に、みんなが一瞬足を止めた。
『ギヂギヂッ!』
「・・・ッ!?」
強烈な力で引っ張られ、必死に地面にしがみつくベルンの足に激しい痛みが走る。
「た、たすっ・・・」
助けて。そう言いながらベルンは左手で地面の草を握り、右手をメンバーに突き出した。
次の瞬間。
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1、ロックが手を取った
2、サティアが手を取った
3、ラトラが手を取った
4、ベーゼが手を取った
5、ネフィアが手を取った
6、右手が空を掻いた
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12/05/13 13:35更新 / ganota_Mk2
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