見つかった探し物
・・・朝は、どうもさっぱりしなかった。
いつもある音、シェリーの朝御飯を用意する音がなくなるだけで、こんなにも違うのか。
「・・・・・・」
・・・どうも、わからない。
僕は、シェリーがいないだけでこんな風になるほど、シェリーの朝御飯を期待していたのか?
確かに、自分で作るのは難しい。でも、やる気がでないとか、めんどくさいとは違う、この感覚・・・
よくわからない。こんな感覚になったこと、ない・・・
・・・いや、ある・・・?
いつだろう?いつ頃だったろう?
思い出そうとしても、なぜか嫌な気持ちになって、考えたくなくなった。
「・・・とりあえず、朝御飯を・・・」
ピンポーン♪
「ッ、シェリー?」
・・・いや、ありえないな。シェリーなら、勝手に開けてはいるハズだ。
・・・昔から、そうだったな。いつのまにか、というか、僕が起きる前に必ず家に入ってきてるんだ。
ピンポーン♪
「あ、でなくちゃ・・・」
杖を取って、玄関に歩いていく。手探りで鍵を探し、開ける。
「はい、どちらさま?」
「あ、私だよ!あれ、フォンにぃ、今起きたとこ?」
あぁ、メリッサか。ん・・・?
「メリッサ?もう来たの?朝早いね」
「えっ、朝早いって、もう昼前だよ?」
「・・・え?」
もう、昼前?いつもなら朝に起きて・・・
・・・あ、シェリーがいないから・・・か・・・
「あ、フォンにぃ、また寝坊?しょうがないな〜、てことはまだ朝御飯も食べてないでしょう?」
「う・・・うん」
「なら、早く着替えよ!前に言ってたフォンデュの店に行こ!ほら、はやく!」
「・・・・・・」
・・・ま、いいか・・・
シェリーについては、帰ってから考えよう。あと、もう一度謝ろう。
きっと明日は、シェリーが朝からいるだろう。
うん・・・きっと・・・
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
朝はサイアクだった。ベットで上半身を起こしてボーッとする。
「・・・あー、もう・・・」
髪の蛇達も、げんなりしてたり、ぐったりうなだれてる。
結局、眠れなかった。一睡も。
頭に浮かぶのは、最後にみた、フォンの悲しそうな顔。
「・・・はぁ・・・」
ぼふっ。枕に顔をうずめ、自己嫌悪に陥る。
なんであんな事しちゃったんだろう・・・
フォンにそんな下心があるわけないのに・・・
「・・・もう、ヤダな・・・」
つくづく自分がメドゥーサであることがいやんなる。
きっと人間なら、もっとフォンに近づけるだろう。
きっと人間なら、あの話だってあんな終わり方しなかったろう。
きっと人間なら・・・
「・・・や〜めた」
現実逃避なんて意味ないし。
今日はどうしよう・・・フォンは晩御飯もオンナが作るって言ってたし・・・
「・・・あーぁ、ヒマ・・・」
改めて気づいた。アタシの一日って、フォン関係が大半占めてんだ。
フォンのために早起きして。
フォンのために朝御飯作って。
フォンのために家の掃除をして。
フォンのために夕御飯の準備して。
フォンのために・・・・・・
「・・・でも、これは親切って名目なわけで・・・」
そう。フォンには、「親切」でやってるように言い聞かせてる。というか、そもそも、アタシがフォンの世話始めたのが・・・
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
ある大雨の日だった。
孤児院にいるはずのフォンを、森の中で見つけて、慌てて後をつけた。
森を抜けた先には、崖があった。下には、雨水で増水した川がごうごういってたのを覚えてる。その崖の前で、立ち止まるフォンを見た。
嫌な予感がしたから、コソコソするのをやめて、走った。
フォンが、崖に一歩踏み出した。
「危ないっ!」
落ち始めたフォンの片手をとった。
「だっ、誰!?いや、誰でもいい!離してよ!」
「馬鹿っ!そんなことできるもんか!!」
振りほどこうとするフォンを、無理やり引っ張って、地面に引き倒した。
「いつっ・・・なにをするんだよ!」
「こっちのセリフよ!なんでこんなマネをっ!」
「僕は・・・もう、生きててもしょうがないんだッ!」
フォンは俯いて、吐き出すようにしゃべった。
お母さんが死んだこと。
孤児院に預けられたこと。
ここまでは知ってた。
お父さんが殺されたこと。
孤児院の経営が難しいことを聞いてしまったこと。
もう真っ暗闇の世界が、いやになったこと。
「僕なんて生きてても、神父様に迷惑かけるし、エドやメリッサには心配かける。もう、いないほうが・・・っ!」
「ッ、ホント馬鹿ッ!!」
バチン!
フォンの胸元を掴み上げ、左頬をおもいっきりはたいた。
「・・・え?」
「アンタ何様のつもりよ!自分勝手に解釈して、落ち込んで、自己嫌悪して、最後は自殺!?なに?アンタが全部正しいの!?そんなわけないでしょう!」
アタシは、もう泣きながら叫び散らした。フォンが不憫で、可哀想で、でも自分勝手で。
「アンタが死んだら、みんながみんな、パッとアンタを忘れるの!?違うでしょ!悲しむでしょう!後悔するでしょう!?」
怒りも、悲しみも、哀れみも、何もかもを込めたアタシの叫びは続いた。
「神父さんは自分が言ってしまったことで死んだと思うでしょう!?友達はアンタを止めれなかったと嘆くでしょう!?何より、天国にいるお母さんとお父さんが、自分らのせいだと、悔やむでしょう!?」
実際はどう思うかなんて、知らない。でも。
「勝手に死んで終わりにしようとすんじゃないッ!!」
止めなくちゃ、いけなかった。
「・・・ひっ、ぐすっ、ひぐっ・・・」
不意に、フォンが泣き始めた。
「でもっ、でもっ。僕、なにも、できないよぅ・・・」
「・・・・・・」
アタシが助けて、やらなきゃ。
そう思った、瞬間だった。
「なら、見つけよう?一緒に探したげるから。あなたができること、やれること。ぜんぶ、見つけるまで、一緒に、いたげるから」
「・・・ひぐっ、うっ、うぅっ・・・」
「アタシ、シェリー。隣町に住んでるから。毎日、手伝いにいくから、ね?」
「あり、ありがッ・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!」
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
・・・こんな感じなわけで。
あの日は、もう泣き止まないフォンを街まで送って、神父さんたちに保護されたフォンを見てから帰った。
数日後、フォンが実家に帰った。孤児院じゃなくて、元々住んでた、家。
神父さんに止められたらしいけど、無理やり帰ったらしい。
帰ってきて、掃除するのをまず手伝った。フォンがミスりまくって、逆に散らかすから、最終的にアタシ一人で掃除した。すごい落ち込んでたのを覚えてる。
そこで暮らし始めて数週間。オヤカタ?とかいうとこで働くのが決まったって、すごく嬉しそうに報告してくれた。
「全部、君のおかげだよ、シェリー!ありがとう、ありがとうっ!」
・・・あの時、アタシの手をとって喜んでくれたなぁ・・・倒れこんで正体ばれないか、ヒヤヒヤしたけど・・・
それから毎日繰り返し。フォンが朝起きたら朝御飯食べさせて、仕事行かせて、帰ってきたら夕御飯作って・・・
・・・でも、フォンはきっと気づいてない。
アタシの気持ち。
アタシの正体。
アタシの、今の、虚しさ。
・・・あぁ、フォン。
「・・・さびしいよ・・・」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ごちそうさま」
「うん♪おいしかった?」
「うん。すごく」
「えへへ・・・」
夕方、なんだろうな。今、メリッサ手作りの夕御飯をごちそうになった。
美味しかった。
・・・うん、美味しかった。
何故か、それしか感想が、出ない。
「・・・ねぇ、フォンにぃ」
「うん?」
メリッサが後ろから声をかけてきた。
「私、今日さ、フォンにぃのために、いろいろ、できたよね?」
「え?あ、うん」
今日、メリッサと昼食に出かけたあと、何故か街を回った。
杖はいらなかった。メリッサが持って、僕の腕をとり、ずっと気をつけてくれた。
ある程度回ったあと、僕の家に来た。
メリッサは僕を座らせたあと、ドタバタと家事をこなした。
僕の服の洗濯。
部屋の掃除。
僕のお茶出し。
いたれりつくせりって、やつだったのかな?
とりあえず、すごい色々やってくれた。
「ね、フォンにぃ、立って」
返事をする間もなく手を引かれ、僕は椅子から立った。
メリッサが前に立っているのがわかった。
「フォンにぃ、私ね、どうしても、言おうとすると、どうもとち狂っちゃうから、行動で、示してから、するね」
「え?」
ふっと。
唇に。
やわらかいものが、あたった。
「・・・フォンにぃ、好き・・・」
ぎゅっと、メリッサが抱きついてきた。
・・・キス・・・なのか・・・?
「昔から、ずっと。ずっと。ずっと。フォンにぃが、好き。ずっと。ずっと。ずっと。フォンにぃを助けてあげたかった。これからずっと。そばにいるから・・・」
・・・メリッサ・・・
声が、出なかった。
「フォンにぃ・・・私を・・・もらって・・・」
僕は、メリッサを、抱きしめた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ポッ・・・ポッ・・・
・・・雨だ・・・
ザーッ・・・
・・・降り出したなぁ・・・
・・・アタシは、何してんだろ・・・
夕御飯、食べて帰ってきたフォンに会って、昨日のこと、謝ろうと、した、のに・・・
窓から、見えた。
・・・キス、してた・・・
・・・抱き合ってた・・・
振り返らず、逃げるように走って、今、この崖の前にいる。
フォンを助けた、この、崖。
「・・・・・・」
・・・あ、そうか。
アタシ、いらないんだ。
だって、もう見つけたもの。
フォンがやれること。
フォンができること。
フォンを支えてあげる『人』
「・・・かえ、ろう」
もう、来なくていいんだ・・・
もう、来ないでおこう・・・
フォンが困るだろうから・・・
もう、もう・・・・・・
11/04/18 18:49更新 / ganota_Mk2
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