羽化
・G月R日
『これは想像以上の大災害だ。今私が何の怪我もなく無事生きているのはよほど運が良かったためであろう。
町はほぼ半壊、火事は未だに治まらず住宅街を燃やし続けている。しまいには雨も降り始め雷雨とが激しく鳴り響いていた。
教会は避難場所に指定されていたので、避難民が続々と流れ込んでくる。収容するスペースは十分にあるので問題は無いが……それにしてもこれほどの大人数とは……エクロンの住民のほとんどが教会に非難しに来ているのではないだろうか。
雨風は体力を奪う。恐らくまだ瓦礫の下敷きで身動きのとれない人々が埋まっているのだろう。早く助けなければ……手遅れになってしまう前に』
・G月S日
『くそっ……!!私はここまで無力なのか……
地震から二日経つと教会に流れてくる人々は生きている者たちだけではなくなってきた。
焼死。圧死。中には原形を留めていないものまであった。
我々教団役員が懸命に救助作業をしているが圧倒的に人員不足だ。このままでは更に犠牲者は増えてしまう……
ただでさえ人員が不足しているのにもかかわらずこの災害……どう考えても我々だけでは対処できるわけがなかった。
今日開かれた緊急会議で隣国へ救援要請を出す事が決まった。ここから馬を走らせても往復でおよそひと月はかかるだろう。長い道のりになる。
ジェイド司祭は体力の長けている者たちを選出し、ミハイルら数人が救援要請の伝令役に任命された。確かに兵士数人程度ならば人々の救助作業はあまり支障にはならず、派遣に行く側も少数精鋭で行く方が行動しやすい。
しかし……ミハイル、なんだよね。
ミハイルとは少しの間会えなくなるのか……
くっ……なにが大神官だ!!私がもっとしっかりしていれば……力があれば…………』
・G月T日
『ああ、行ってしまった……
ミハイル。つい先日やっと私は自分の気持ちに素直になり愛しの人を見つけたというのに、こんなにもすぐに離れ離れになってしまうなんて。これを悲劇といわずしてなんと言えるだろう。
胸が張り裂けそうだよ。寂しいよ。
地震が起きる夜、私は貴方に全てをささげてもいいと思っていたのに。結局は地震のせいで契りを行なう事が出来なかった。
貴方を欲していたのに!!これほど好きなのに!!
これで一生会えなくなると言うわけじゃない。ひと月の辛抱だ。
けれどそのひと月が永遠にも感じられるほど長いよ……待つことなんてできない。
会いたい。今すぐ貴方の腕に抱かれたい。
寂しい……
こんな時は聖典を読んで気を紛らわそう。これを読んでいると……とてもいい気持ちになれる……』
・G月W日
『現実はなぜこうも無情なのか。
マリーの彼氏とジェイド司祭の妻と娘が運ばれてきた。
マリーの彼氏は何とか一命を取り留めているが足は砕けてしまっていた。ジェイド司祭の妻は娘をかばい重症、娘も栄養失調で命が危ない状況だった。
マリーも。ジェイド司祭も。恐らく救援作業なんて放り投げて愛しい者を助けに行きたかった違いない。けれどそんなことをしている間にも次々と怪我人は流れてくるのだ。助けに行く余裕なんてなかった。
シスターは常に怪我人を救護し笑顔で人と接しなければならない。けれどその笑顔の裏で大粒の涙を流していることを私は知っている。
ジェイド司祭は教団役員の指揮を取り締まるために常にリーダーシップを発揮していなければならない。けれどその厳格さの裏で不安に押しつぶされそうな彼を私は知っている。
主神よ、これがあなたの望む世界なのですか。阿鼻叫喚たる現世の地獄を味わわせたいのですか。彼らには背負うべき業などないはずです。幸せになる権利があるのです。なぜここまでひどい仕打ちを受けなければならないのですか。
主神よ!!返事をしてください……神よ……』
・H月A日
『雨が降り続いている。かれこれ二週間は降っているのではないだろうか。このままではまだ収穫時期を迎えていない作物が全て腐ってしまう。そうなれば来年は飢饉を迎えてしまうだろう。
しかし大地震が起きたばかりで疲弊しきっている時期に農作業などできるわけがなかった。まるで計算されつくしていると思えるほどの天候と災害のタイミング……
本当にこれら災害は神が引き起こしているのではないか。そう思い始める者がいるほど我々教団役員も疲弊しきってきていた。普段ならばその思想を思った瞬間厳罰を下されるのだが……もはやそんなことをやっている余裕なんてない。そもそも一番裁かれるべきは私なのに。
マリーの彼氏の元へと訪れると、目を真っ赤にしたマリーと両足がなくなっているマリーの彼氏が横たえていた。
私に出来る事といえば大神官として主神の教えを説き気をなだめ、回復聖術で痛みを和らげること、マリーを慰めてあげる事。それくらいのことしかできなかった。
だけどそんな些細なことでも向こうにとってはとてもありがたいことらしく、深々と感謝されてしまうものだから若干対応に困ってしまう。
マリーは以前の明るさは完全に消失してしまっており、消沈した様子で青黒い隈を隠す素振りもせず世話をしているだけであった』
・H月B日
『食料庫が火事で全焼してしまった以上我々に残された食材は数少ない。収穫祭の時はあれほど大量にあった食物がわずか数日でなくなってしまうとは……この世の不条理さを感じさせる。あと何日持つだろうか……
最近、やたら蝿が増えてきたような気がする。恐らく死人に集っているのだろう、気味が悪い。
怪我人の手当てをする順番は命が助かりそうな者優先で行なっているので、もう助かる見込みのない者は切り捨てられる。苦渋の選択だ。私としても死人は出し叩たくないのだが効率的に考えてみるとこちらのほうが死人は少なくすむ。
聖職者として最も尊重すべきは人々の命である。一人の人を救っている間に二人死んでしまうのならば。一人を見殺しにして二人を救う方が結果論では良いとされる。
……だが、はたしてそれは本当に良いことなのだろうか。聖職者が人を見殺す。それも苦しんで助けを乞うている者をむざむざ見殺すなど……あっていいことなのだろうか。
私はそんな事をするために聖職者になったのでは…………』
・H月D日
『食糧の数が減ってくると人々の不安の様子が大きく出始めてくる。配給される食糧の数が減っている事に気がつき始めたのだろう。徐々に目つきは狡猾さをむき出しになっている者さえいる。
しまいには食糧の強奪が起こる始末だ。こうなっては我々も黙って見過ごすわけには行かない。
罪を犯したものには厳重な処罰と制限を下し、二度とこのようなことを起こさないよう注意する。
……しかしそんな事をやっている間にも空腹という名の不安感は人々、そして我々をも包み込んでいく。
……救援はまだなのだろうか……ミハイル……』
・H月J日
『あぁ……ついに避難所でも餓死する者が出てしまった……。くそ……不甲斐ない……
こうなっては人々の不安は急速に加速する一方だ。
食糧を配給している我々教団役員が食糧の量を調節し、教団役員だけが得するように配給されているのではないか。そう考える者も出始めた。
何を言っているのだ。我々の方が空腹に耐えかねてなお人々の為に食糧を多めに分け与えているというのに、我々が横領しているだと?ふざけるな!恥を知れ。
人の親切心を仇で返すというのか。貴様らはそこまで薄汚い心を持ちえている者だったのか。私は失望したぞ。
どれほど皆の為に尽くしてきたか……朝昼晩、寝なずに見回りをして食糧を守り盗人を処罰し。このような非常時にも魔物の侵入を許さぬように警備を怠らなぬ精神。
その我々が食糧を占領しているだと?ふざけるのも大概にしてくれ』
・H月K日
『神よ!!返事をして下さい!!
なぜ我々はここまで苦しまなければならないのでしょう。我々は何か気に触れることをしてしまったのでしょうか。
常に主神を祈り。この毎日が無事何事もなく生活できるのも全ては神のご加護のお蔭と信じ生きてきました。祭事を行なう際にも全て主神を念頭に入れ慎みながら行なってきました。
その結果が……これなのですか!?力無き者から無慈悲にも死に行く、地獄のような光景を望まれたのですか!?
それは…………それはあまりにも酷です……人々は皆日々を懸命に行き、神を祈りながら毎日を送っているのです。彼らに罪などありません』
・H月L日
『罪なき者がなぜこのようば罰を受けなければならないのでしょうか。私にはそれが理解できません。
直接語りたくないのならば天使を遣わしてください。天使の伝言でも構いません。私は神の言葉が欲しいのです!
なぜ返事をして下さらぬのですか!何でも良いのです、何をお言葉を!』
・H月M日
『神よ!大神官エレミヤ=ペルセスカです。
神を祈り続けて二十五年にもなりました。いつものように天の声をかけてはくれないでしょうか』
・H月N日
『神よ!神よ!!おねがいです、どうか人々を救ってやってくれないでしょうか。おねがいです。
私はどうなっても構いません。私の命がひとつ失われることで皆の命が救われるのならば私は喜んでこの命を奉げましょう。
ですから神よ、何かお言葉を……』
・H月O日
『神…………おねがいだから……返事をしてくだ……さい……
私は無力だ……何の力もないただの大神官だ。
力が……欲しい……』
・H月P日
『アァ…………神……』
・H月 日
『神よ……』
・H月 日
『神はわたしがきらいなのか』
・H月 日
『神って何だ、何なのだ』
・H月 日
『私はもう、ミハイル……』
・H月 日
『……………………
aaaa…………
……』
・つき にち
『神よ神よ神よ神よ神よ神よ神よ神よ神よ神よ神よ神よ神よ
ごめんなさいゆるしtけいうださい。私は何もしていません私はなにもしてません。だからだkらなぜ言葉を聞いてくださらないのですか 私が不心得者だからなのですかそれとも避難民を見下すような言動をしてしまたからですか どうして何も助言を下さらぬのでスカ どうしてどうしてどうして
神よあなたがいなくなってしまうのならば私は、我々は何を信じて生きていけばいいのでしょうか もう我々も限界なのです飢餓に苦しむ人々はみたくありません苦しいですもうダメなのです
今日だって同僚が3にん死にました殉職しました 私はそれをただ見ていることしか出来ませんでした マリーは泣いていましたジェイド司祭は埋葬していました ひどいですひどすぎですあんまりですむごいです どうして我々が死ななければならないのでしょうこれほど神を思っているのにも関わらず無残にしに行くのでしょうか あれほど熱心に信仰していたのは一体なんだったのでしょうか
死んだ3にんには家族がいました愛している人がいました これから残された家族はどうやて生きていけばいいのでしょうか 私にはわかりません 苦しいるし苦しい苦しいるしいくるしい苦しい苦しいお腹がすきました
残された家族はもっと苦しいのでしょう永遠に喪失感を味わいながらこれから生きていくのです いえもしかしたら家族も飢餓で死ぬかもしれませんもう絶望しか残されていない
主神は私たちを創り何がしたいのでしょうか ただこうやって死に行く姿を天の上から見て嘲笑うだけなのでしょうかそれはそれはそれは神ではありません悪魔です 人の死を喜ぶ存在など悪魔でしかないのです
もしかして神は初めから我々人間の事など娯楽程度としか考えていないのではないでしょうか だとしたら我々は何のために生きているのでしょう 神の玩具として生まれ壊れた玩具は適当に廃棄される
それは悪魔の所業です神なんてものとは遠い存在です
これほど神のことを語っているのに神は何も言ってくれないのですね耳を傾けてもくれないのですね
神は悪魔神は悪魔神は悪魔神は悪魔神は悪魔神は悪魔神は悪魔神は悪魔
悪魔のような神などもう我々は信じたくありません信じる価値もありません きっとこの地震もお前が引き起こしたものに違いない 我々が効率よく死ぬようにちょっとした悪戯程度で引き起こした地震なのだひどすぎる
許せないyるうせない許せないゆるせななななに
もう私は二日間何も食べておりません すべて人々に分け与えるために私は耐えているのです褒めてくださいほめてほめて褒めろよ だから私は蝿を食べてます まずくて気持ち悪くて何度か吐きそうになりました口の中でじゃりじゃり鳴るのです でも生きていくためには仕方が無いのです 蛆も食べました噛むと中からどろっと体液が口いっぱいに広がります 幾度となく吐きました けれど生きるためにはその汚物さえもまた啜り飲みました おかげでまだ生きてます どうだザマアミロ
お前が我々人間を殺したいと思っていても私は私だけは生き延びてやるぞ 血反吐を吐きながらでも泥を舐めながらでも足掻いて足掻いて生き延びてやる 悪魔のお前の言いなりになどなるものか
もう我々はお前など信じない 悪魔の言いなりになどなりはしない
でも大丈夫私にはこの聖典がある お前を信じるの辞めて私はこの聖典の教えを信じるとしようその方がよほど良い
蝿がうるさい 私の周りを飛び交っている 日記を書きにくい邪魔だこの』
・ 月 日
『完全に私は神から見放された。神の声などもう聞こえない。聖術も使えなくなってしまった。でもこれでいい。あんなヤツの加護などもう受けたくもない、清々する。
今日食糧を強奪している卑しい者がいたので神罰を与えてやろうと雷を呼び寄せたら、いつもは白い雷だったのに今日は真っ黒だった。軽く電気ショック程度に懲らしめるつもりが完全に灰になっちゃって風が吹いたら消えてしまった。まぁ誰も見てなかったからいいだろう。
回復聖術だって今までは緑色のオーラだったのに、今では紫色のオーラになっちゃてる。なんだか癒すというよりは慰めているという雰囲気だ。
虫を食べるのも抵抗がなくなってきた。皆も虫を食べればいいのに。意外と蝿って美味しいものだよ。あのじょりじょりした食感だって慣れればやみつきになるし』
・ 月 日
『もうそろそろ食糧が完全に枯渇する。救援物資もまだ来ないだろう。
もう我々は限界だ。何もしなければこのまま全員飢え死にしてしまう事は間違いない。
そんなことは……私がさせない。あの薄汚い神の野郎の言いなりなどなりはしない。
最後の手段としてとっておいた聖典の力を今こそ発揮させるときがきたのだ。主神に取って代わる新たなる神の力を人々の目の前で発揮させよう。
そうすれば皆も認めてくれるはずだ。我々が今まで信じ込んでいた神なんて、ただ悪戯に人間を殺すという事を。そして新たに信じる聖典こそ人間の求める本質なのだという事を!!
日記には特に書いていなかったが私はもう最終章である第五章まで読み終えてしまった。各章の終わりにはそれぞれに呪文が綴られており、力を込めて読むことによって何かが起こる仕組みになっているらしいことが書かれてあった。
一章は食物を召喚させる力。
二章は豊穣をもたらす力。
三章は光栄の力。
四章と五章はまだ唱えていないのでわからない。とりあえず明日は一章の呪文を唱え食物を召喚させた後、四章の呪文を唱えてみようと思う。
何が起こるかは具体的に書かれていないのだ。唱えてみないとわからない』
・ 月 日
『私は今ここに救世主として存在している!!
人々を飢餓から救い正しき道へと導く者としている。
私は今日、生き残った人々を全て広場に集め演説をした。一心不乱の大演説を語った。
神とは何なのか、人とは何なのか。そして生きるとは何なのか。
我々が今まで信じていた神とは何だったのかを全身全霊を込めて皆に伝えた。そうして私が信じる新たなる聖典の存在も告白しこの力に頼ってみようと語った。
演説し始めは不安だった。なにせ今まで信じていた神を真っ向から否定したのだから、石を投げられる覚悟は十分していた。
けれど人々は皆そのような素振りはせず、懸命に私の話しに耳を傾けていてくれていた。私が大神官だからと言うのもあるだろうが、人々もまたこのように酷い目に合っていながらも何の助け舟を遣さない神に嫌気が指し始めていたのだろう。また、私の鬼気迫る熱意に共感してくれたからだろうとも信じたい。
次第に気がつけば拍手喝采の嵐が巻き起こり、私は広場の中心で人々に崇められていた。
ジェイド司祭らは始めのころは私を取り押さえようとしてきたが、私の話を聞いているうちに涙を流し始め、最後には私を崇めるように人々を先導していた。
皆わかってくれたんだ。私の考えを。聖典の教えを。それだったらもう何も心配する事はない。
私は人々の目の前で聖典を開くと、第一章の呪文を唱える。するとやはり何もない虚空から輝かしいばかりの食材が降り注ぎ、人々の前へと落ちてきた。
それから先はもう……凄かった。驚喜と喝采の嵐嵐。生肉に噛り付く者さえいる始末だ。
まともな食材に久しぶりにありつける人々の表情は満面の笑みで、私もついつられて笑ってしまう。
勢いに乗じて第四章の呪文を始めて唱えてみると、今度は空から新たな食材が降り注いできた。どれもこれもが少し不思議な形をしていて黒い模様のようなものが描かれている。味はどれもがほんのり甘めで、そして極上に美味しかった。一章の食物など比べ物にならないほど美味しくて、人々も半狂乱になりながら食材を求める。
教団役員もすかさず食べ始めるが、一部の人は食べるのを渋っていたようなので私が無理やり口の中にねじ込んでやった。するとやっぱり美味しいようでそれからは人目もはばからず食い漁るのみだった。
特にこの果物なんてとても甘くて一口かじるだけで果汁が飛び出してくる。食べ始めると止まらなくなる中毒性もあるんじゃないかと思えるくらいだ。
いくら食べても足りない足りないたりない……何かが足りない。
なんだろ…………もっと熱くて……ねばっこくて……』
・ 月 日
『あれから私は毎日皆の為に甘い食物を分け与えている。これがある限りとりあえずは飢え死にしなくて済むのだ、素晴らしい力である。
食物の中に混ざっているこの桃色の果実、よくよく思い返してみるとこれは虜の果実だったと思う。確か効能は…………催淫と魔物化?だったっけ。
まぁ今となってはどーでもいい。要は生き延びれればそれでいいんだ。生きるために食べて、食べるために生きる。本来人とはそういうものなのだから、死んでしまっては元も子もないよね。うん。
おかげで最近は夜になるとよく喘ぎ声が聞こえるようになった。潰れた家屋の開いたスペースで営んでいるのだろう。なんて素晴らしいことだ、これぞ生命のあるべき姿に他ならない。私も早くミハイルのが欲しいな。
マリーは病室で例の彼氏殿と毎晩勤しんでいるようで、友人の私としても嬉しい限りだ。彼氏は足がないのでマリーが騎乗位で搾取しているらしい。まったくうらやましい限りだ
私はどうしようかなぁ、やっぱりバックで壊れるぐらいに突いて欲しいかも。正常位でお互い抱きしめながらってのも愛があっていいね。
あぁ想像するだけで濡れてきちゃう。
ミハイルマダカナー』
・月 日
『やった!!ついに一週間後ミハイルが帰ってくるよ!
伝書鳩で早めに通達してくれたらしく、救援部隊と物資を派遣してくれるってさ!
あぁ伝書鳩美味しかった。
まぁ今となってはもう救援する必要ないんだけどねー
私が待ち望んでいたのはミハイルだけなんだし。多分皆も救援は要らないって断るんじゃないかな。それよりもパートナーとセックスしてたほうがよっぽど気持ちいいもん。
あ、そうだ!ミハイルを驚かすためにも第五章の呪文で何が起こるかあらかじめ知っておいた方がいいかも!うんそれがいい!!』
・月 日
『皆にこのことを提案してみると、大賛成であったのですぐさま準備に取り掛かり始めた。
皆も最終章の呪文で何が起こるか気になっていたみたいだ。私の探究心が移ったのかな。
そういえばあの骨董商さんの姿はあれ以降一度も目にする事はなかった。エクロンで店を出していたという事はここの住民であることには間違いなさそうなんだけど……地震に巻き込まれてなければいいな。こんど礼をしに行けたら行こう。私にこんな素晴らしい書物をただで譲ってくれたのだから盛大なお返しをしようじゃないか
どうやら第五章の呪文は単独で行なえるものではないようで何らかの儀式のようだった。数人の協力が必要で、それも術の扱いに長けている者の協力が必要であった。まさに私の境遇にぴったりじゃん。ジェイド司祭や教団役員の助力を借りればすぐにでも行なう事が出来そうだ』
・月 日
『長きに渡った解読も今日で全てが終わろうとしている。
ある日偶然譲り受けたこの書物。
純粋な好奇心と、このエクロンでの退屈な暇つぶしとして始めた研究が、やっと終ろうとしている。
この儀式によって何が起ころうと……
もしくは、何も起きなかろうと……
その結果は明日になればわかる!』
その後のページは、損傷が酷い為、読むのは難しい……
『これは想像以上の大災害だ。今私が何の怪我もなく無事生きているのはよほど運が良かったためであろう。
町はほぼ半壊、火事は未だに治まらず住宅街を燃やし続けている。しまいには雨も降り始め雷雨とが激しく鳴り響いていた。
教会は避難場所に指定されていたので、避難民が続々と流れ込んでくる。収容するスペースは十分にあるので問題は無いが……それにしてもこれほどの大人数とは……エクロンの住民のほとんどが教会に非難しに来ているのではないだろうか。
雨風は体力を奪う。恐らくまだ瓦礫の下敷きで身動きのとれない人々が埋まっているのだろう。早く助けなければ……手遅れになってしまう前に』
・G月S日
『くそっ……!!私はここまで無力なのか……
地震から二日経つと教会に流れてくる人々は生きている者たちだけではなくなってきた。
焼死。圧死。中には原形を留めていないものまであった。
我々教団役員が懸命に救助作業をしているが圧倒的に人員不足だ。このままでは更に犠牲者は増えてしまう……
ただでさえ人員が不足しているのにもかかわらずこの災害……どう考えても我々だけでは対処できるわけがなかった。
今日開かれた緊急会議で隣国へ救援要請を出す事が決まった。ここから馬を走らせても往復でおよそひと月はかかるだろう。長い道のりになる。
ジェイド司祭は体力の長けている者たちを選出し、ミハイルら数人が救援要請の伝令役に任命された。確かに兵士数人程度ならば人々の救助作業はあまり支障にはならず、派遣に行く側も少数精鋭で行く方が行動しやすい。
しかし……ミハイル、なんだよね。
ミハイルとは少しの間会えなくなるのか……
くっ……なにが大神官だ!!私がもっとしっかりしていれば……力があれば…………』
・G月T日
『ああ、行ってしまった……
ミハイル。つい先日やっと私は自分の気持ちに素直になり愛しの人を見つけたというのに、こんなにもすぐに離れ離れになってしまうなんて。これを悲劇といわずしてなんと言えるだろう。
胸が張り裂けそうだよ。寂しいよ。
地震が起きる夜、私は貴方に全てをささげてもいいと思っていたのに。結局は地震のせいで契りを行なう事が出来なかった。
貴方を欲していたのに!!これほど好きなのに!!
これで一生会えなくなると言うわけじゃない。ひと月の辛抱だ。
けれどそのひと月が永遠にも感じられるほど長いよ……待つことなんてできない。
会いたい。今すぐ貴方の腕に抱かれたい。
寂しい……
こんな時は聖典を読んで気を紛らわそう。これを読んでいると……とてもいい気持ちになれる……』
・G月W日
『現実はなぜこうも無情なのか。
マリーの彼氏とジェイド司祭の妻と娘が運ばれてきた。
マリーの彼氏は何とか一命を取り留めているが足は砕けてしまっていた。ジェイド司祭の妻は娘をかばい重症、娘も栄養失調で命が危ない状況だった。
マリーも。ジェイド司祭も。恐らく救援作業なんて放り投げて愛しい者を助けに行きたかった違いない。けれどそんなことをしている間にも次々と怪我人は流れてくるのだ。助けに行く余裕なんてなかった。
シスターは常に怪我人を救護し笑顔で人と接しなければならない。けれどその笑顔の裏で大粒の涙を流していることを私は知っている。
ジェイド司祭は教団役員の指揮を取り締まるために常にリーダーシップを発揮していなければならない。けれどその厳格さの裏で不安に押しつぶされそうな彼を私は知っている。
主神よ、これがあなたの望む世界なのですか。阿鼻叫喚たる現世の地獄を味わわせたいのですか。彼らには背負うべき業などないはずです。幸せになる権利があるのです。なぜここまでひどい仕打ちを受けなければならないのですか。
主神よ!!返事をしてください……神よ……』
・H月A日
『雨が降り続いている。かれこれ二週間は降っているのではないだろうか。このままではまだ収穫時期を迎えていない作物が全て腐ってしまう。そうなれば来年は飢饉を迎えてしまうだろう。
しかし大地震が起きたばかりで疲弊しきっている時期に農作業などできるわけがなかった。まるで計算されつくしていると思えるほどの天候と災害のタイミング……
本当にこれら災害は神が引き起こしているのではないか。そう思い始める者がいるほど我々教団役員も疲弊しきってきていた。普段ならばその思想を思った瞬間厳罰を下されるのだが……もはやそんなことをやっている余裕なんてない。そもそも一番裁かれるべきは私なのに。
マリーの彼氏の元へと訪れると、目を真っ赤にしたマリーと両足がなくなっているマリーの彼氏が横たえていた。
私に出来る事といえば大神官として主神の教えを説き気をなだめ、回復聖術で痛みを和らげること、マリーを慰めてあげる事。それくらいのことしかできなかった。
だけどそんな些細なことでも向こうにとってはとてもありがたいことらしく、深々と感謝されてしまうものだから若干対応に困ってしまう。
マリーは以前の明るさは完全に消失してしまっており、消沈した様子で青黒い隈を隠す素振りもせず世話をしているだけであった』
・H月B日
『食料庫が火事で全焼してしまった以上我々に残された食材は数少ない。収穫祭の時はあれほど大量にあった食物がわずか数日でなくなってしまうとは……この世の不条理さを感じさせる。あと何日持つだろうか……
最近、やたら蝿が増えてきたような気がする。恐らく死人に集っているのだろう、気味が悪い。
怪我人の手当てをする順番は命が助かりそうな者優先で行なっているので、もう助かる見込みのない者は切り捨てられる。苦渋の選択だ。私としても死人は出し叩たくないのだが効率的に考えてみるとこちらのほうが死人は少なくすむ。
聖職者として最も尊重すべきは人々の命である。一人の人を救っている間に二人死んでしまうのならば。一人を見殺しにして二人を救う方が結果論では良いとされる。
……だが、はたしてそれは本当に良いことなのだろうか。聖職者が人を見殺す。それも苦しんで助けを乞うている者をむざむざ見殺すなど……あっていいことなのだろうか。
私はそんな事をするために聖職者になったのでは…………』
・H月D日
『食糧の数が減ってくると人々の不安の様子が大きく出始めてくる。配給される食糧の数が減っている事に気がつき始めたのだろう。徐々に目つきは狡猾さをむき出しになっている者さえいる。
しまいには食糧の強奪が起こる始末だ。こうなっては我々も黙って見過ごすわけには行かない。
罪を犯したものには厳重な処罰と制限を下し、二度とこのようなことを起こさないよう注意する。
……しかしそんな事をやっている間にも空腹という名の不安感は人々、そして我々をも包み込んでいく。
……救援はまだなのだろうか……ミハイル……』
・H月J日
『あぁ……ついに避難所でも餓死する者が出てしまった……。くそ……不甲斐ない……
こうなっては人々の不安は急速に加速する一方だ。
食糧を配給している我々教団役員が食糧の量を調節し、教団役員だけが得するように配給されているのではないか。そう考える者も出始めた。
何を言っているのだ。我々の方が空腹に耐えかねてなお人々の為に食糧を多めに分け与えているというのに、我々が横領しているだと?ふざけるな!恥を知れ。
人の親切心を仇で返すというのか。貴様らはそこまで薄汚い心を持ちえている者だったのか。私は失望したぞ。
どれほど皆の為に尽くしてきたか……朝昼晩、寝なずに見回りをして食糧を守り盗人を処罰し。このような非常時にも魔物の侵入を許さぬように警備を怠らなぬ精神。
その我々が食糧を占領しているだと?ふざけるのも大概にしてくれ』
・H月K日
『神よ!!返事をして下さい!!
なぜ我々はここまで苦しまなければならないのでしょう。我々は何か気に触れることをしてしまったのでしょうか。
常に主神を祈り。この毎日が無事何事もなく生活できるのも全ては神のご加護のお蔭と信じ生きてきました。祭事を行なう際にも全て主神を念頭に入れ慎みながら行なってきました。
その結果が……これなのですか!?力無き者から無慈悲にも死に行く、地獄のような光景を望まれたのですか!?
それは…………それはあまりにも酷です……人々は皆日々を懸命に行き、神を祈りながら毎日を送っているのです。彼らに罪などありません』
・H月L日
『罪なき者がなぜこのようば罰を受けなければならないのでしょうか。私にはそれが理解できません。
直接語りたくないのならば天使を遣わしてください。天使の伝言でも構いません。私は神の言葉が欲しいのです!
なぜ返事をして下さらぬのですか!何でも良いのです、何をお言葉を!』
・H月M日
『神よ!大神官エレミヤ=ペルセスカです。
神を祈り続けて二十五年にもなりました。いつものように天の声をかけてはくれないでしょうか』
・H月N日
『神よ!神よ!!おねがいです、どうか人々を救ってやってくれないでしょうか。おねがいです。
私はどうなっても構いません。私の命がひとつ失われることで皆の命が救われるのならば私は喜んでこの命を奉げましょう。
ですから神よ、何かお言葉を……』
・H月O日
『神…………おねがいだから……返事をしてくだ……さい……
私は無力だ……何の力もないただの大神官だ。
力が……欲しい……』
・H月P日
『アァ…………神……』
・H月 日
『神よ……』
・H月 日
『神はわたしがきらいなのか』
・H月 日
『神って何だ、何なのだ』
・H月 日
『私はもう、ミハイル……』
・H月 日
『……………………
aaaa…………
……』
・つき にち
『神よ神よ神よ神よ神よ神よ神よ神よ神よ神よ神よ神よ神よ
ごめんなさいゆるしtけいうださい。私は何もしていません私はなにもしてません。だからだkらなぜ言葉を聞いてくださらないのですか 私が不心得者だからなのですかそれとも避難民を見下すような言動をしてしまたからですか どうして何も助言を下さらぬのでスカ どうしてどうしてどうして
神よあなたがいなくなってしまうのならば私は、我々は何を信じて生きていけばいいのでしょうか もう我々も限界なのです飢餓に苦しむ人々はみたくありません苦しいですもうダメなのです
今日だって同僚が3にん死にました殉職しました 私はそれをただ見ていることしか出来ませんでした マリーは泣いていましたジェイド司祭は埋葬していました ひどいですひどすぎですあんまりですむごいです どうして我々が死ななければならないのでしょうこれほど神を思っているのにも関わらず無残にしに行くのでしょうか あれほど熱心に信仰していたのは一体なんだったのでしょうか
死んだ3にんには家族がいました愛している人がいました これから残された家族はどうやて生きていけばいいのでしょうか 私にはわかりません 苦しいるし苦しい苦しいるしいくるしい苦しい苦しいお腹がすきました
残された家族はもっと苦しいのでしょう永遠に喪失感を味わいながらこれから生きていくのです いえもしかしたら家族も飢餓で死ぬかもしれませんもう絶望しか残されていない
主神は私たちを創り何がしたいのでしょうか ただこうやって死に行く姿を天の上から見て嘲笑うだけなのでしょうかそれはそれはそれは神ではありません悪魔です 人の死を喜ぶ存在など悪魔でしかないのです
もしかして神は初めから我々人間の事など娯楽程度としか考えていないのではないでしょうか だとしたら我々は何のために生きているのでしょう 神の玩具として生まれ壊れた玩具は適当に廃棄される
それは悪魔の所業です神なんてものとは遠い存在です
これほど神のことを語っているのに神は何も言ってくれないのですね耳を傾けてもくれないのですね
神は悪魔神は悪魔神は悪魔神は悪魔神は悪魔神は悪魔神は悪魔神は悪魔
悪魔のような神などもう我々は信じたくありません信じる価値もありません きっとこの地震もお前が引き起こしたものに違いない 我々が効率よく死ぬようにちょっとした悪戯程度で引き起こした地震なのだひどすぎる
許せないyるうせない許せないゆるせななななに
もう私は二日間何も食べておりません すべて人々に分け与えるために私は耐えているのです褒めてくださいほめてほめて褒めろよ だから私は蝿を食べてます まずくて気持ち悪くて何度か吐きそうになりました口の中でじゃりじゃり鳴るのです でも生きていくためには仕方が無いのです 蛆も食べました噛むと中からどろっと体液が口いっぱいに広がります 幾度となく吐きました けれど生きるためにはその汚物さえもまた啜り飲みました おかげでまだ生きてます どうだザマアミロ
お前が我々人間を殺したいと思っていても私は私だけは生き延びてやるぞ 血反吐を吐きながらでも泥を舐めながらでも足掻いて足掻いて生き延びてやる 悪魔のお前の言いなりになどなるものか
もう我々はお前など信じない 悪魔の言いなりになどなりはしない
でも大丈夫私にはこの聖典がある お前を信じるの辞めて私はこの聖典の教えを信じるとしようその方がよほど良い
蝿がうるさい 私の周りを飛び交っている 日記を書きにくい邪魔だこの』
・ 月 日
『完全に私は神から見放された。神の声などもう聞こえない。聖術も使えなくなってしまった。でもこれでいい。あんなヤツの加護などもう受けたくもない、清々する。
今日食糧を強奪している卑しい者がいたので神罰を与えてやろうと雷を呼び寄せたら、いつもは白い雷だったのに今日は真っ黒だった。軽く電気ショック程度に懲らしめるつもりが完全に灰になっちゃって風が吹いたら消えてしまった。まぁ誰も見てなかったからいいだろう。
回復聖術だって今までは緑色のオーラだったのに、今では紫色のオーラになっちゃてる。なんだか癒すというよりは慰めているという雰囲気だ。
虫を食べるのも抵抗がなくなってきた。皆も虫を食べればいいのに。意外と蝿って美味しいものだよ。あのじょりじょりした食感だって慣れればやみつきになるし』
・ 月 日
『もうそろそろ食糧が完全に枯渇する。救援物資もまだ来ないだろう。
もう我々は限界だ。何もしなければこのまま全員飢え死にしてしまう事は間違いない。
そんなことは……私がさせない。あの薄汚い神の野郎の言いなりなどなりはしない。
最後の手段としてとっておいた聖典の力を今こそ発揮させるときがきたのだ。主神に取って代わる新たなる神の力を人々の目の前で発揮させよう。
そうすれば皆も認めてくれるはずだ。我々が今まで信じ込んでいた神なんて、ただ悪戯に人間を殺すという事を。そして新たに信じる聖典こそ人間の求める本質なのだという事を!!
日記には特に書いていなかったが私はもう最終章である第五章まで読み終えてしまった。各章の終わりにはそれぞれに呪文が綴られており、力を込めて読むことによって何かが起こる仕組みになっているらしいことが書かれてあった。
一章は食物を召喚させる力。
二章は豊穣をもたらす力。
三章は光栄の力。
四章と五章はまだ唱えていないのでわからない。とりあえず明日は一章の呪文を唱え食物を召喚させた後、四章の呪文を唱えてみようと思う。
何が起こるかは具体的に書かれていないのだ。唱えてみないとわからない』
・ 月 日
『私は今ここに救世主として存在している!!
人々を飢餓から救い正しき道へと導く者としている。
私は今日、生き残った人々を全て広場に集め演説をした。一心不乱の大演説を語った。
神とは何なのか、人とは何なのか。そして生きるとは何なのか。
我々が今まで信じていた神とは何だったのかを全身全霊を込めて皆に伝えた。そうして私が信じる新たなる聖典の存在も告白しこの力に頼ってみようと語った。
演説し始めは不安だった。なにせ今まで信じていた神を真っ向から否定したのだから、石を投げられる覚悟は十分していた。
けれど人々は皆そのような素振りはせず、懸命に私の話しに耳を傾けていてくれていた。私が大神官だからと言うのもあるだろうが、人々もまたこのように酷い目に合っていながらも何の助け舟を遣さない神に嫌気が指し始めていたのだろう。また、私の鬼気迫る熱意に共感してくれたからだろうとも信じたい。
次第に気がつけば拍手喝采の嵐が巻き起こり、私は広場の中心で人々に崇められていた。
ジェイド司祭らは始めのころは私を取り押さえようとしてきたが、私の話を聞いているうちに涙を流し始め、最後には私を崇めるように人々を先導していた。
皆わかってくれたんだ。私の考えを。聖典の教えを。それだったらもう何も心配する事はない。
私は人々の目の前で聖典を開くと、第一章の呪文を唱える。するとやはり何もない虚空から輝かしいばかりの食材が降り注ぎ、人々の前へと落ちてきた。
それから先はもう……凄かった。驚喜と喝采の嵐嵐。生肉に噛り付く者さえいる始末だ。
まともな食材に久しぶりにありつける人々の表情は満面の笑みで、私もついつられて笑ってしまう。
勢いに乗じて第四章の呪文を始めて唱えてみると、今度は空から新たな食材が降り注いできた。どれもこれもが少し不思議な形をしていて黒い模様のようなものが描かれている。味はどれもがほんのり甘めで、そして極上に美味しかった。一章の食物など比べ物にならないほど美味しくて、人々も半狂乱になりながら食材を求める。
教団役員もすかさず食べ始めるが、一部の人は食べるのを渋っていたようなので私が無理やり口の中にねじ込んでやった。するとやっぱり美味しいようでそれからは人目もはばからず食い漁るのみだった。
特にこの果物なんてとても甘くて一口かじるだけで果汁が飛び出してくる。食べ始めると止まらなくなる中毒性もあるんじゃないかと思えるくらいだ。
いくら食べても足りない足りないたりない……何かが足りない。
なんだろ…………もっと熱くて……ねばっこくて……』
・ 月 日
『あれから私は毎日皆の為に甘い食物を分け与えている。これがある限りとりあえずは飢え死にしなくて済むのだ、素晴らしい力である。
食物の中に混ざっているこの桃色の果実、よくよく思い返してみるとこれは虜の果実だったと思う。確か効能は…………催淫と魔物化?だったっけ。
まぁ今となってはどーでもいい。要は生き延びれればそれでいいんだ。生きるために食べて、食べるために生きる。本来人とはそういうものなのだから、死んでしまっては元も子もないよね。うん。
おかげで最近は夜になるとよく喘ぎ声が聞こえるようになった。潰れた家屋の開いたスペースで営んでいるのだろう。なんて素晴らしいことだ、これぞ生命のあるべき姿に他ならない。私も早くミハイルのが欲しいな。
マリーは病室で例の彼氏殿と毎晩勤しんでいるようで、友人の私としても嬉しい限りだ。彼氏は足がないのでマリーが騎乗位で搾取しているらしい。まったくうらやましい限りだ
私はどうしようかなぁ、やっぱりバックで壊れるぐらいに突いて欲しいかも。正常位でお互い抱きしめながらってのも愛があっていいね。
あぁ想像するだけで濡れてきちゃう。
ミハイルマダカナー』
・月 日
『やった!!ついに一週間後ミハイルが帰ってくるよ!
伝書鳩で早めに通達してくれたらしく、救援部隊と物資を派遣してくれるってさ!
あぁ伝書鳩美味しかった。
まぁ今となってはもう救援する必要ないんだけどねー
私が待ち望んでいたのはミハイルだけなんだし。多分皆も救援は要らないって断るんじゃないかな。それよりもパートナーとセックスしてたほうがよっぽど気持ちいいもん。
あ、そうだ!ミハイルを驚かすためにも第五章の呪文で何が起こるかあらかじめ知っておいた方がいいかも!うんそれがいい!!』
・月 日
『皆にこのことを提案してみると、大賛成であったのですぐさま準備に取り掛かり始めた。
皆も最終章の呪文で何が起こるか気になっていたみたいだ。私の探究心が移ったのかな。
そういえばあの骨董商さんの姿はあれ以降一度も目にする事はなかった。エクロンで店を出していたという事はここの住民であることには間違いなさそうなんだけど……地震に巻き込まれてなければいいな。こんど礼をしに行けたら行こう。私にこんな素晴らしい書物をただで譲ってくれたのだから盛大なお返しをしようじゃないか
どうやら第五章の呪文は単独で行なえるものではないようで何らかの儀式のようだった。数人の協力が必要で、それも術の扱いに長けている者の協力が必要であった。まさに私の境遇にぴったりじゃん。ジェイド司祭や教団役員の助力を借りればすぐにでも行なう事が出来そうだ』
・月 日
『長きに渡った解読も今日で全てが終わろうとしている。
ある日偶然譲り受けたこの書物。
純粋な好奇心と、このエクロンでの退屈な暇つぶしとして始めた研究が、やっと終ろうとしている。
この儀式によって何が起ころうと……
もしくは、何も起きなかろうと……
その結果は明日になればわかる!』
その後のページは、損傷が酷い為、読むのは難しい……
13/05/02 11:03更新 / ゆず胡椒
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