連載小説
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10章 日の出

 ここは魔界・・・のどこかの洞窟。
 その中で、今二人の男女が横たわっている。どうやら先ほどまで行為をしていたらしく、辺りには愛液やら精液やらが飛び散っていて洞窟内は酷く汚れているようだ。 
 二人は相当疲れているのか、全裸で死んだようにぐっすりと眠りについている。




 おやおや、女の方が目を覚ましたようだ―――


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「んーーー・・・ふぁぁ、よく寝た・・・」

 ソフィアは大きなあくびをしながら、むくりと上半身を起き上がらせる。目に付いた目やにを指で払いのけ、ぐっと体を思い切り伸ばし、さらにもう一度大きなあくびをした。
 グレイはというと、まだ激しくいびきを上げて爆睡しているようだ。
 彼女は寝ているグレイに忍び寄り、彼の股間に注目する。

(やっと立たなくなったわね・・・一体何回ヤッたのかしら・・・)

 彼女はグレイの一物を見ながらそう思う。つい先ほどまで自分の中で暴れ回っていた物がこうも大人しくなるとなんとも言いようの無い感覚であった。
 そして彼女はもう一つ気づいたことがあった。
 今まで地上で彼と性交した事は少ないながらも何度かはあったが、ある程度彼の一物の大きさは把握しているつもりでいた。
 しかし、今の彼の一物はどうだろう。明らかに以前の彼の一物よりも大きくなってしまっているとしか思えないモノが彼女の目の前に合った。
 視聴者の皆さんにもお分かりいただけるように簡潔に説明しよう。簡潔に言うと、『地上にいたころのグレイの最大勃起した一物をさらに倍にしたもの』が『今の何の変化もないただの普通の一物』と大きさがほぼ変わらないのである。

「あらためて見ると、お・・・おいしそう・・・ゴクリッ・・・」

 ソフィアは舌をぺろりと一周させグレイの股間を凝視する。冷め切っていた彼女の頬は再び赤みを帯び、欲情する動物のそれのようだ。彼女は口をある程度の大きさに開け、顔を股間に近づける。まだ眠りについている一物を誘惑するかのように舌を蛇のようにちろちろと出しさらに近づいていく。

「も、もう我慢できない・・・いただきま―――」

「ふぁあーーーーーーーあっと・・・んーあー・・・俺いつの間にか寝てたのか」

「!!??」

 非常にタイミングの悪いときに彼が起床してしまった。彼女は持ち前の俊敏さで素早く体制を立て直し、彼に気づかれない如き速さで2,3歩下がると洞窟の壁に寄りかかりながら座り込んだ。
 全く持って無駄な力の使いどころであるが・・・

「おおおおはようグレイ////よく眠れれた?」

「あぁ・・・お前から送られてきた魔力のおかげなのか、凄く清清しいぞ。
・・・まぁまだインキュバスにはなってないらしいが・・・」

「うう嬉しいな。わわたしもグレイの精ととってもおいしかかったよ!
インキュバス化だって直になれるから大丈夫だよききっと!!」

「後何回かヤレばそうなりそうな気がするな。
・・・というか、お前さっきから喋り方が変だが大丈夫か?」

「だだいじょうぶよ!気にしなないでよね!」

「んまぁそう言うなら、気にしないでおこうかね。
・・・しかし、お前も随分と大喰らいだよな。寝ている人のモノまで食おうとするんだからよ」

「あ、当たり前じゃない!だって・・・アナタの・・・おっきくなって・・・美味しそうだったんだもん////
・・・あれ?というかなんでグレイがそれを知って―――」

「・・・適当に聞いたつもりだったんだがまさか的中するとは・・・
お前本当にエロくなったもんだな。俺も見習いたいものですね『ソフィア先生』」

「え・・・あっ・・・ちょ・・・まっ・・・ふぇ」

 ソフィアの顔は誰が見ても分かるような赤みを帯び、目はグレイの方を見ているがピントが合ってなく虚空を見つめ、体は硬直している。次第に、彼女の顔からシューーーと音こそしないが湯気が浮き出てきた。


(あぅ・・・バレバレじゃない!かくなるうえは・・・)
「今のは忘れてえええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!///////////////////」


 そう叫ぶと彼女はグレイに向かって猛突進。とても素早かったのかグレイは突進を避けきれなく彼女と衝突、仰向けに倒されてしまう。
 誰にも言うわけでもないのに彼女は口封じと言わんばかりに、彼に有無を言わさず唇を奪う。彼女は本当に口封じの為にしたのか、もしくはただキスをしたいが為だけにしたのかは定かではない。が、答えは彼女の恍惚とした表情がすべてを物語っているようだ。

 無論、この行動で二人に再度スイッチが入ってしまい第二回戦が始まったのは言うまでも無い・・・




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 二人は身支度をし、長く居座った洞窟に別れを告げる。誰もいる訳が無いのだが、元騎士団員という職業柄、人一倍礼儀というものを重んじる職業だったために反射的にとってしまう行動でもあった。

「決めた!ここをわたし達の思い出の場所にしようよ!」

 ソフィアが急に手をポンと叩きながら言った。

「お、いいなそれ。そんな場所地上にも無かったからな。思い出の場所か、いい響きじゃな―――」

 グレイも洞窟を見てそう言い、うんうんと何度もうなずきソフィアの方を向いた。そして同時に異変に気づく。

「お、おい?・・・お前は本当にソフィア・・・だよな?今まで洞窟の中で姿がよく見えなかったが・・・」

「???何言っているの?今までずっと一緒にいたじゃない。どうかした?」

「・・・どうかしたのはお前の方だ。鏡は・・・無いのか・・・」

 そう言うとグレイは背中の大剣を抜き出し、地面に思い切り突き刺す。彼のとても精錬されていてかつ酷く荒い大剣が彼女を映し出し、彼女は自分の目を疑った。
 大剣に写っていたのは、今まで何度も見てきた人間の自分の姿ではなく、また薄い体毛の生えた自分の姿でもなかった。

 頭。角は先ほどよりも更に伸びねじれ、立派な魔物のものに変化している。そして自分の黒く長く艶のある髪は、さらに美しく伸び腰まで届いていた。
 そして翼。透明だった翼膜は闇をも包み込むような漆黒の翼に変わり、一回り大きくなっている。
 さらに尻尾。長く太く伸び先端の方はよくよく見るとハート形をしているようである。また、自分で尻尾を触りしごいてみると、今まで感じたことも無い快感を生じた。
 極めつけは自分の体躯。先ほどのレッサーサキュバスの時よりもさらにスタイルに磨きがかかり、世のいかなる男をも虜にするような体型であり、また腰にはタトゥーが入っている。胸はFカップよりさらに大きく、H・・・いやIカップだろうか、巨乳爆乳に成長していた。
 そう、彼女は正真正銘の魔物であり魔物の中でも上位種の『サキュバス』に変態していたのであった。
 誰が見ても美しいと言える今の自分の体。はたしてそれは本当に美しいのか、醜いのか・・・

「え―――い、や・・・いや・・・いやっ・・・!いやっっっ!!」

 彼女は角を掴みながら、変わり果てた自分の姿を目視して悲観するように震える。
 グレイはなだめるが・・・

「お、おい!とりあえずはおちつ「いやったあああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「・・・え"?」

 彼女は掴んでいた角を離し、両手を天に挙げ歓喜の声で叫んだ。

「やったのよ!!!やっと本物のサキュバスになれたわ!!!嬉しいっ!!!もっとグレイも喜んでよっ♪」

(な、なんだ良かったのか・・・ヒヤヒヤさせやがって・・・)
「お、おお!!おめでとう!!!しかし随分と速いんじゃないのか?
・・・あまり記憶に無いが、一体俺達は何回ヤッてたんだろうな・・・」

「わたしも30回果てたところまでは数えてたんだけどね////
まぁなんにせよ良かったわ!!
あ・と・は!グレイがインキュバスになるだけね♪」

 彼女は大剣に写った自分の姿を何度も見返していた。両手を右ひざに乗せ前かがみの体勢で胸を寄せたり、右手を頭の後ろ、左手を腰に当て背をそり返し怪しい笑みを浮かべたりと、何通りものポージングで自分を確認し喜びに浸っているようだ。
 新しい自分に酔いしれていると、突然大剣の中の自分が消えてしまった。
 グレイが大剣を背に戻し、再び道なき道を進みだす。

「終了だ、そろそろ出発するぞ。速いとこ俺達が住めるような村の一つでも見つけないとな」

「了解〜!さ、行きましょ!」









 昼か夜かもわからぬ暗闇。魅力的であり禍々しくもある植物達。性欲を掻き立てられるかのような甘酸っぱい香り。
 彼ら二人は既に見慣れてしまった魔界の風景の中を歩いているが、その姿は魔界の風景を満喫しているようにも見えた。
 
 気がついたころには二人は深い森の中を歩いていた。木々は見上げるほど高く鬱蒼とし、さらに森の奥に進むにつれ霧が出て徐々に濃くなっていく。鳥のさえずりやら叫び声が聞こえるところを見ると、生き物は生息しているらしい。
 不思議なことに森の獣道は起伏が少なく、木の板で道が作られていた。獣道というよりは整備された観光ルートの道のようだが、所詮は獣道、とても狭く酷く不器用に整備されている。ただでさえ霧で視界が悪いので、二人がこの道に気付けたのはたまたまの偶然だった。
 二人は不思議に思いつつも、整備された道の上を突き進む。

「霧がかなり濃いな・・・ソフィア、俺の手を離すなよ」

「うん。・・・しっかし凄いところだね。今までいた所とは景色が全然違うじゃない。この植物だって・・・」

 ソフィアが道の脇に生えている植物の葉を一枚剥ぎ取り、その葉を手のひらで回してみる。葉の側面が肌に触れると、彼女の表皮はナイフに切られたかのようにスッと切れ、血がうっすらと滲んできた。
 植物を手から離し、切れたところに軽い回復魔法をかけ、そんな様子を見たグレイが眉間にしわを寄せながら言う。

「・・・どうやら俺達はいつの間にかとんでもない所に来てしまっているようだな。気をつけろよソフィア、俺も何が起こるか全く予想できん」

「ええ。けど、この道を作った奴って何者なのかしらね?この近くに住んでいる魔物なのか、わたし達みたいな元人間が作ったのか・・・さっぱり見当がつかないわ」

「俺もさっぱりだな。ただ、こんな所に道を作る奴だ。よっぽどの変わり者か、相当な実力者だろうな」

「それが後者で、なおかつわたし達を敵だと見なした場合は・・・腹をくくった方がいいかもね」

「ああ、そうだ」

 奥に進むにつれ視界は霧はますます濃さを増す。おかげで自分の手も見えなくなり、二人を繋ぐ手が離されれば、たちまちこの奥深い森で迷い続けることになってしまうだろう。足場の木の板も次第に本数が少なくなっているようで、油断すると木と木の間にある泥沼に足を滑らせてしまうだろう。
 二人は足を止め、しばしの間休息をとることにした。

「ふぅ・・・視界、足場ともに最悪か・・・いよいよ厳しくなってきたな」

「しかもジメジメしてるし、蒸し暑いし・・・」

「汗はこまめに拭いて置けよ。こんなところだ、ベルゼブブがいつ襲ってきてもおかしくなさそうな所だからな」

「それくらいわたしも知ってるって!こう見ても元副団長だよぅ!」

「まぁまぁ、お前は他人から見ちゃそれはそれは立派は副団長だろうが・・・俺から見ちゃただの恋人にしか見えないし、
どうも、俺と話すときと、他人と話すときのその口調のギャップが激しくてな」

「むぐぐ・・・それはそれで置いといてよ〜」

「ははっ、まぁでもそれのほうがお前らしくていいじゃないか」

 グレイがそう言いソフィアの方を振り向くと、彼女は口角を上げ顔が笑みを浮かべていた。

「おい?何かおかしいこと言ったか?」

「いやね・・・なんだかわたし達ってさ、どんなとこでも必ず雑談しちゃうなぁって思ってさ。こうやって考えると、やっぱりわたし達ってこうなる運命だったのよね♪」

「何かと思えば・・・俺からも一つ言わせてもらうと、殆ど話している内容がノロケだということだ。
・・・たまには運命ってのも信じてみるかね・・・」

 奥深い森の中で二人の笑い声が高々と木霊した。

 二人は休憩を終え、再び手を取り合い立ち上がる。やはり霧は濃く、お互いの顔すらも確認できないほどになっていたが、二人の手はがっしりと繋がれ、まるで心が繋がっているかのような強い安心感が二人を包み込んでいた。
 やがて視界は完全に霧に包まれてしまい、何も見えなくなってしまった。今や、進行の手がかりとなるものは足元の木の板の感触だけであり、一歩、また一歩と慎重に足を進める。今は、森の中なのだろうか、もしかしたら崖の上でも歩いているのではないだろうかとも思え、緊張はピークに達していた。

―――チリリン―――

 道なき道を歩いていると、グレイの背後の彼女はあれはなに?と遠くを指差した。魔物化して視力も格段に上がった彼女だけに見えているのか、グレイにはまだ見えていないようだ。
 近づくにつれグレイの目にもそれがはっきり鮮明に見えてくる。
 そこにいたのは、パッと見るといたって普通の一匹の黒猫であった。黒い体毛に、青い瞳、そして首には大きな輪が付いており、その輪に鈴が二つ付いている黒猫は二人をじっと見つめている。
 しばらく二人と黒猫が見つめ合うと、黒猫がフナ〜ゴと鳴くと、背を向き奥の方へ走っていってしまった。チリリンと鈴の音を鳴らしながら。
 
「はぅ〜やっぱり猫ってカワイイよね♪
・・・でもあの猫、只者じゃない気配をしていたわ」

「あぁ、俺も一瞬目を疑ったがはっきりとこの目で『見えた』。お互いの顔すら見えないほど濃い霧の中で『見えた』んだ。何かあるな・・・
ソフィア、まだあの黒猫は見えるか?」

「えぇ、けどもう相当遠くに走っちゃっているわよ。
・・・けど、なんだかおかしいわ。わたし達と一定の距離を保っているみたい。まるで、どこかに導いているみたいな・・・」

「ますます怪しいな。よし、追うとするか!
俺にはもうあの黒猫は見えないから、ソフィア、お前が誘導を頼む。なぁに、俺が道を開くから安心しろ」

 二人は整備された獣道から、何も道もない森の中へ飛び出し黒猫を追う。時に木々にぶつかり、時に植物に体を切り刻まれても、時に沼に足を取られようとも二人は必死に追いかけた。猫の首に輪が付いていると言うことは、飼い主がいるということだ。魔界に来てから、未だに誰とも他人に接触していないので、その黒猫は他人に接触するチャンスそのものである。そのチャンスをみすみす逃すわけには行かない。
 黒猫は二人が進んでは止まりを繰り返すのと同じく、進んでは止まり一定の距離を保ち続けている。時折こちらを振り向き、フナ〜ゴと鳴いては先に行ってしまう。
 そのようなことを繰り返し、しばらく時間がたったことだろうか。


―――チリリン―――


 再び鈴の音が鳴ったかと思うと、今まであったとても濃い霧が何の前触れもなく、いきなり晴れた。正確に言えば二人が奥深い森の中を抜けたのである。その証拠に二人が後ろを振り向くと、まだ背後では濃い霧が森を被っている。
 黒猫は二人を確認すると、前方の暗闇に走って行ってしまった。

「ふぅ・・・はぁ・・・なんとか森を抜けることが出来たな・・・」

「けどもう、体中傷だらけよ・・・痛痛っ・・・」

「まったくなんて植物だ。もうこんな所は二度とご免被りたいな」

「そういえば、あの黒猫は先に行っちゃったけどいいの?」

「まぁ、何か手がかりがあればいいと思ったんだがこの際だ、森から出れたことでもよしとするか」









 森の出口付近で話していると、突然場の空気が非常に重くなるのを感じた。二人はすぐさま異変を察知し剣を握り、黒猫の去っていった方を凝視する。
 しばらく静寂が続いたと思うと、闇の中からうっすらと人影が見えてきて、こちらへ近づいてくる。
 近づくにつれ姿がはっきりと見え、そして二人は胆をつぶした。

 体はラインがはっきりしていて美しく、特に髪は長く宝石のように七色に光っている女性がいた。体からはとても強大な魔力がほとばしり、肩に乗っている先ほどの黒猫がとても異質な雰囲気をかもし出している。
 
 彼女の姿は何も特徴がなく―――『人間の女性』そのものであったのだ。

 


「あらあらぁ?何百年ぶりの移住者でしょうか?」
10/09/30 22:06更新 / ゆず胡椒
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■作者メッセージ

もうすぐ終わると言っておきながらの新キャラ登場なんですが・・・
「計画通り」なので御気になさらずに。
ソフィアの口調が変わりすぎているので、若干統一が難しいと思う
今日この頃。

余談:グレイたちは地上の時間で表すと、約三日三晩ヤり続けていたそうな。

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