三大欲求の満たし方
鼻孔をやわらかくくすぐるのは、白くまろやかなぬくもりであった。
小さくカットされた甘い根菜、香ばしく滋養あふれたユリ科の鱗茎が、
バラ肉とともに乳に解けあって、深い皿に満ちる。
簡素な木卓の上で、小ぶりな丸パンや、薄桃色の果汁を湛えた陶杯に並ぶ
こんがり火を通された厚手のひき肉の塊とともに湯気を立てるシチュー皿を前に、
手を組んで感謝のことばを唱和するのは、シンプルな椅子に腰掛けた男女だ。
地味な装いをした小柄な栗色の髪の少年と、
たくましい長身をディアンドルに包んだ黒髪の若い女性だった。
「いただきます」を言い終わるが早いか、
女性は黒い体毛で覆われた右手のナイフでハンバーグを両断する。
間髪入れずに、先んじて肉塊に食い込んでいた左手のフォークは、
トドメを刺すかのように深々と切っ先を沈み込ませると、
分断された片割れを持ち主の口へと運んでいた。
ぷりぷりとした艶やかな唇が綻ぶどころか、顎をハズさんばかりに開かれた大口の中で、
肉汁の一滴、脂の一片すら逃すまいと、透明な唾液にまみれた白い歯と真っ赤な舌が出迎える。
その光景は、まるっきり捕食であった。
引き結ばれた唇が満足そうな弧を描く内側で、頑丈な奥歯に砕かれ擂り潰されて
味蕾を多幸感で痺れさせながら咽頭を通過していくミンチとタマネギの成れの果てを
対面の少年に見せつけなかったのがせめてもの救いか。
――唇を開いたまま口の中の食べ物を噛むな。
女性が3歳になった時分での、ある宴席にて、普段温厚だった彼女の父が、
この事ばかりは冷たく重く、文字通り叩き込んできた至言の賜物であった。
当時の彼女と母に耳を畳ませ尾を巻かせたばかりか、一族の長であった高祖母でさえ
「魔王さんの亭主どの並みにおっかない」と白旗を上げさせ、
おかげで彼女の属する群れ(コミュニティ)から、
少なくはなかったクチャラーが絶えたほどの気迫であったそうだが……閑話休題。
ハンバーグをふた口でたいらげた女性は、
ナイフとフォークからスプーンに持ち替えてシチューに襲い掛かった。
ほぼ融解した睦びの野菜とタマネギに、ほぐれかけた三枚肉と
原形をとどめながらもやわらかく仕上がったほの甘いマンドラゴラの根が
ホルスタウロスの母乳にたゆたいながら、それぞれの旨味を高めあう。
「うめェ」
「ありがと」
切れ長な真紅の瞳と、おっとりと垂れた青い目の間に軽い笑みが交わされる。
今ふたりが言葉少なに貪る晩餐の主役は、昼に女性が単身で仕留め、
ふたりで解体した後、少年がシチューとハンバーグにしたてた魔界豚であった。
いつものことだ。
そう長くもないこれまでも、これからも永く続いていくであろうこれからも。
ほどなくして、皿にこびりついていたシチューやソースの残滓すら、
引き裂かれた丸パンのひと切れによって、綺麗に拭われて口に運ばれる。
それが杯に残っていた虜の果実のジュースによって流し込まれると
ふたつの口からこぼれたのはテノールとアルトの「ごちそうさまでした」であった。
少年が台所で食器を洗う水音は、女性にとっては手酌の時間のBGMである。
甘いが度の強い、暗い赤色の酒を舐める合間に女性が口に運ぶのは、
白く太く硬い、さきほどのハンバーグとシチューと主を同じくする大腿骨だ。
そんなものをまるでパン菓子のように噛み千切るのは、発達した犬歯と尖った前歯。
タガネのような歯並ならぬ牙並で骨をかじるたび、
至福の弧を描く眼は血玉を孕んだ黒曜石のよう。
強靭かつ柔軟な筋肉を秘めたぬばたまの肌は、胸元と四肢を艶やかな毛皮に包み。
四肢の先端にはふっくらとした肉球とクサビじみた黒褐色の4本爪。
豊かな黒髪にそそり立つ愛らしくも凛々しい一対の耳に、
丸みを帯びた豊かな尻から伸びて、軽やかに振られるふさふさの尻尾。
おまけに隈取のように目尻を飾り、胸元の毛皮とふくよかな乳房を照らす烈火。
生み出した神々すらついに手懐ける事が叶わなかった、黒炎の番犬の末裔であると。
くつろいだ晩酌姿ですら、如実に語っているかのようだった。
が、大腿骨が半分の長さになった頃だろうか、緩んでいた口許が途端に尖った。
舌打ちの代わりに左の口角が吊り上がり、剣呑な鋭い歯並びを曝け出す。
「アルー、酒おかわりー、ビン2本なー、洗い物終わったら持ってきてー」
「あと1本しかないよ？」
「じゃーそれでもいいやー、ハリー！ ハリーハリー！ ハリーハリーハリー！」
――オイオイオイ、まーたラッパするつもりだわノーラ姉。
先日読んだ草双紙で大暴れしていたヴァンパイアの物真似だろうか。
酒をせがむ恋人兼家主の調子ッ外れな独唱にせかされ、
アルと呼ばれた少年は洗い終えた皿を磨く手を速めた。
封を切られた酒瓶が、酌み交わす男女の間で、泡沫の歌を謡いながらふたつの杯を満たす。
酒瓶の首で爆ぜるあぶくの音に聞き入るのは、ノーラとアルが共有する愉しみのひとつだ。
「んじゃ、魔王さんと酒の神さんにカンパーイ♪」
「かんぱーい」
――もう徳利ひとつあけちまったけどなー。
――はいはい。
――おかわりはお酌してもらうまで待っただけえらいだろー？
――うんうん、ラッパ飲みして独り占めしなかっただけえらいねー。
――独り占めなんかしねーやい、次にラッパする時は口移しなー。
――こぼしちゃいそうだからカンベンしてください……。
触れ合う陶器、若い男女の和やかな苦笑と、陶酔の果実の芳香に彩られた満足そうなため息。
手狭ながら暖かい居間で奏でられた、呑兵衛カップルのメドレーリレーである。
まあ、正確には、呑兵衛なのは女の方だけではあるが……。
ノーラが音もなく酒を啜って相好を崩す一方で、
アルはちびちびと啄むように杯の中身を減らしていく。
だが、酒精に耐えかねたものか、それとも陶酔の果実の特性だろうか。
もとから垂れ気味の目尻がさらに蕩けて、頬と吐息にまるで火がついたかのようである。
――そろそろ、かねえ。
杯を一気に干して、ノーラは舌なめずりせんばかりの笑みを浮かべて立ち上がる。
それに応じるかのように、アルもまた杯を空けた。
だが、いつの間にやら対面から彼の隣に立っていたヘルハウンドは、
有無を言わさず腰かけたままの伴侶に口づけて、口内に満ちていた液体を奪う。
ふたりが離れた時に、重なりこぼれた息吹が熱を帯びていたのは、酔いか、それとも。
「……立てる？」
「ん……」
左脇に腕を回して、ノーラはアルを抱きかかえるように寝室へと導いていった。
自分の胸元に押しつけられた少年の火照った頬と、
ささやかな膨らみを主張するズボンの前に、だらしなく口許をほころばせながら。
――後片付けは、ひとッ風呂浴びてからでいいやね？
吐息と粘膜が、ほの暗い寝室の中で熱く湿った合唱を響かせる。
あやし、なじみ、ほぐし、割って、犯す。
ひたりと吸いついてくるノーラの肉厚な唇が、にゅるにゅると絡みついてくる舌と、
酒香を帯びた甘いメスの唾液が、アルの口を屈服させた結果だった。
紅潮した彼の頬を、固いが弾力のある肉球でマッサージしながら、
ふさふさの尾を振る黒いケダモノは、チェシャ猫めいた表情を浮かべる。
隠しきれないオスのニオイを帯びた、下腹部を突き上げる小型テントに、
最奥の雌芯がじくじくと疼くのが愉しくてしかたがないかのように。
――ほれ、どうしてほしいか言ってみな。
「くちで、して」
りょ〜か〜い♪
おどけた口ぶりと軽いくちづけを置き土産に、ノーラはそそくさとベッドの上を後ずさる。
彼女が身じろぎするたびに、踏ん張ったベッドの脚が床をギシギシと鳴かせるのはご愛嬌。
何はともあれ、自分の頭ふたつ分は上背のある筋肉質の女体が、
広く深いブラウスの襟刳りから、はちきれんばかりにふくらんだ胸元をちらつかせつつ、
含み笑いをこぼしながら脚の間に陣取るのを、アルはうっとりと蕩けた目つきで見守っていた。
頑強かつ鋭利な8本の爪が動いて、器用に少年のズボンを脱ぎ捨てると、
猛ってなお包皮に隠れた幼い肉茎が、ずり下ろされた下穿きにおじぎさせられた。
思わず漏れたアルの悲鳴に引っ張られたか、ノーラの笑みがますます深くなる。
情欲の火が燈った漆黒の眼は、先程の晩餐や大腿骨に向けていたものに加えて
あたたかく甘い何かが加わった視線でまっすぐに肉茎を射抜いていた。
げんきいっぱいだな。
ほぼ吐息と呼んでさしつかえないささやきを、上質な漆が凝ったような肉厚の唇が紡いで、
澄んだ雫をしたたらせた未熟な芽吹き肉に優しく口づけを落とした。
ノーラの咽喉で転がる甘い呻きとともに、童皮を後退させていく唇は、
湿ったぬくもりの中にアルの分身をじわじわと引きずり込んでいった。
それが根本まですっぽりと口中に隠れたところで、血の色の瞳が、潤んだ青い瞳に絡みつく。
期待を表すかのように大きくせわしなく上下するふさふさの尻尾以外、
ぴたりと動きを止めたノーラを再起動させるのは、いつもアルの朴訥な愛撫であった。
ハネ癖の強い髪を梳かされ、耳を揉みしだかれ、頭蓋を撫でまわすあたたかい手に急かされて、
ノーラの舌と口内の粘膜が、まるで持ち主から独立した意思を持つ生き物のようにうねる。
一方、愛撫によってエンジンのかかった頭部が激しく前後しているというのに、
知らぬ存ぜぬとばかり下腹部に吸いついたままの口許ははしたなく伸びて、
ふてぶてしさと凛々しさを両立していた黒いかんばせに、滑稽かつ淫らなアクセントを加えていた。
「いくっ……」
痙攣するアルのふとももに置かれたノーラの左手が、やさしくもしっかりと握りしめられた。
白く熱く芳しく苦いほとばしりを、一滴余さず咽喉で受け止めたためだ。
しばしの脱力の後、尿道から欲望の残滓を啜り出すバキュームが、少年の男根に活を入れる。
あぶくの爆ぜる音が、唾液と交ぜられたオスの体液ごと飲み下されて、
牝獣のアギトから解放されたのは、頼りない肉茎とイカ臭い残り香のみであった。
ごちそうさまでした。
うそぶくノーラの右手が伸びて、甘酸っぱい芳香と透明な粘液にまみれた指を、
半開きで喘ぎを漏らし続けていたアルの口内にゆっくりと押し込んでいく。
やがて、彼の喘ぎが、飴をしゃぶるようなねばっこい水音にすり替わったのに満足したのか、
いっそう尾の上下動をせわしなくさせながら、
ノーラはボディス(ディアンドルのベスト部分)を戒める胸紐をしゅるりと抜いた。
「目ざといなァオイ」と苦笑を浮かべたのは、指を清めてくれているアルが、
口の動きを止めないまま、両手を伸ばしてノーラの肩から
ボディスの肩紐をずり落とそうとしたからだ。
左手が栗色の髪をタップして、唾液に濡れた右手を解放させる。
中途半端に広げられた黒い両腕は、「脱がしておくれ」の意思表示であった。
肩に次いで、脇腹から腿にかけてを這い降りた、小ぶりな両手を追うように、
くすぐったそうなアルトの含み笑いが寝室の薄闇に響いた。
――発情期のチェシャ猫は、今のアタシみてーなツラしてやがんだろうなぁ……。
胸の谷間を強調するような四つん這いになったノーラは内心でひとりごちた。
照れ臭さ3割に欲情7割といった色合いのアルの視線が、ディアンドルの下から表れた
乳房の下半分のみがやっと隠れるような裾の短いベアトップのブラウスと、
繊細な白レースで形作られたような薄手のショーツのみを身につけた肢体を、
炙り焼きにしてしまいそうな熱量を帯びていたからであった。
もっとも、華奢な矮躯の中心で健気にそそり勃つアルの分身に突き刺さった
ノーラからの視線も似たりよったりの色合いと温度ではあったのだが。
そうでなければ、先程のフェラチオの時に右手で弄り回していたとはいえ、
彼女のショーツのクロッチ部分が、はしたなく色を濃くしているハズもなく……閑話休題。
――火は青い方が赤ェのよりあちィんだっけ……視線もそーかな？
照れか、それとも目のダメージか。
潤み血走りながらも、瞬きひとつせず視姦してくる青い目を見つめ返しながら、
四つん這いのノーラは仰向けに寝そべったアルにじりじりと近づいていく。
ベッドの軋みにまぎれて、内股の粘膜が擦れる音が大きくなっていくのが、
あふれる粘液と牝香が濃度を増していくのが、ヘルハウンドの鋭敏な聴覚と嗅覚を刺激して、
さらなる敏感な部位への充血を煽っていることを自覚させた。
「充血、充血か……」との独語を飲み下し、ノーラはふたたびピタリと制止し、息を整えた。
「ノーラ姉？」
「ひひっ」
うりゃ、と続いた小さな掛け声は、くぐもったかすかな悲鳴もろとも、
踏ん張ったベッドの脚と床板の絶叫のデュエットでかき消された。
ボディプレスを受けたアルに追い討ちをかけるかのように「ぬがせ♪」というノーラのお達し。
続いた「下だけな」の真意を、胴体に押しつけられて変形するふくよかな乳房と、
肘から先以外の自由を奪うように絡む筋肉質な毛むくじゃらの四肢から察したおかげで、
薄く割れた黒い腹筋と華奢な恥骨のはざまで、未熟な海綿体がいっそう熱と硬度を高める。
ブラウスの裾から滑り込んだ小さめの手が、黒い背筋の上のホックをハズすと、
少年はアルファハウンドから「よくできました♪」と、お褒めの言葉を賜った。
「んじゃ、もひとつごほーびやっからブラ返せ」
残念そうにするなっちゅーの。
上体を起こしたノーラは、アルの右手から肩ひもが無い白いベルト状の下着を奪って身じろぎした。
湿ったクロッチ越しに亀頭と裏筋を逆撫でされて、ニヤつくノーラの眼下でアルが呻く。
嬌声と悲鳴のあいの子を漏らした口元を塞ぐように、火照ったアルの顔を包み込むのは、
ノーラの下半身を包む片割れと同じく白いレースで飾られた1対の布製カップであった。
甘い体臭と母性の象徴のぬくもりがまとわりついたそれに抗えるはずもなく、
膨らみ切ったアルの分身はショーツ越しの陰裂と自らの下腹部にはさまれて窮屈そうに蠢動する。
一方、硬く収縮した陰嚢の中では、魔力で生涯最盛期のまま働くであろう睾丸がフル回転し、
せっせと新しい子種を精嚢に送り込んで、次なる射精に備えているかのようだ。
だが、興の乗った群れのリーダーサマは、愛する下っ端にさらなる恩寵を賜る気満々でのたまう。
「まだまだごほーびはこんなもんじゃねーぞ？」
下着越しの左手と下半身で、やわらかい頬と弾力ある急所の感触を愉しみながら、
ノーラは鷲掴みにしたアルの手をぷるぷる踊る胸元へと導いた。
2種類の肉球にサンドされた左手の中で、手のひら側の中心を穿つしこりの自己主張が激しい。
――ぐりぐりしてやっから、もめ♥
つまるところ、『ごほーび』とは、ショーツ越しの素股と、ブラウス越しの強制乳愛撫だった。
布きれ1枚隔てて、むっちり実った柔肉の山谷で、3つの肉の芽がどんどん育っていく。
ぶるんぶるんと双子の山が鳴動し、サカり狂った山犬の『にゃ』行に近い遠吠えが響き渡る。
ふと山から視線を下げれば、白レースの花畑の下で、澄んだ甘露を溢れさせる泉が湧き出て。
泉の主である肉の二枚貝が、捕らえたツチノコを味見するかのように甘噛みするのだった。
ただし、そんな黒く甘い桃源郷に、まだまだ幼いツチノコがそう耐えられたものでもなく。
「ごめっ……ノーラねえ、でる、でちゃうぅ……」
「んにゃ？ ああっ……」
ツチノコが火山と化し、あふれた黄ばんだ溶岩が盛大に花畑を汚した。
おまけに一部はアルの口にまで飛び火し、彼を「くせっ！ にげっ！ まずっ！！」と悶絶させた。
もっとも、後者の方は、ほどなくして軽い絶頂からくる放心と脱力から再起動した
ノーラに啜り取られ、おまけに彼女の唾液を口移しで与えられてことなきをえたのだが。
表も裏も体液で汚された下着は、綺麗好きのアルにとって無視できる代物ではなかったので。
「……ごめん、お風呂行かない？」
「んだねえ……アタシもやり過ぎちったわ、わりわり」
じゃあ、ぱんつ洗ったら、つづきな？
その言葉を合図として、ふたりはそそくさと浴室へと河岸を変えるのであった。
『ふぃー……』
脱力しきったため息のデュエットが、石造りの広い浴室に響き渡る。
ヘルハウンドの腕力にも耐えきるほどに、頑丈なアラクネ製の下着は、
魔力的な意味での精の残り香以外はすべて洗い流され、無事に夜風に揺られていた。
よって、下着の持ち主は、湯船にたゆたうパートナーに、音も無く忍び寄る事に専念できた。
近場の火山から引かれた放蕩泉の効能だろうか、それとも酔いが来たか、夜更けだからか。
ちっとくたびれてやがんな、よし、やさしく犯してやろう。
ノーラは数歩分の距離を瞬く間に詰めて、対面からアルの右手に回り込んだ。
むにゅり。
なんだよ、元気いっぱいじゃねーか。 ねむそーにぼんやりしやがって。
ノーラの右手の肉球に、はちきれんばかりにいきり立った愛らしい肉の切っ先がめり込んでいた。
「期待してたのかあ？ ん？」
「そりゃあもう……ねえ……」
だすならなかにだしたいよ。
湯煙と薄明かりに彩られた漆黒の裸体に、少年の欲情が息を吹き返さないはずがないのである。
だらしなく蕩けた一対のニヤニヤ笑いに、かすかな喘ぎが混じり出すのもむべなるかな。
少年の左手からみつ回りははみ出す母性の象徴が、肉の芽で手のひらの中心を甘く穿つのは、
ぷにぷにと海綿体を揉みしだいてくるカギ爪への精一杯の意趣返し……もとい返礼だった。
――よろしい、ならば激しくだ♪
うそぶいたノーラは胡坐を掻かせたアルに向き合って跨った。
次の瞬間、放蕩泉の湯とはまったく異なるあたたかさと快さが、
対面座位で繋がったふたりの粘膜に襲い掛かった。
お互いの唇から零れた子音が相手の耳朶に沁み込む、小突かれた最奥が切っ先に吸いついて、
3度目にしてなお勢いと濃度を増す子種汁をずるりと飲み下したからだ。
「オイオイ、挿れただけで漏らすなよぉ……」
「おま◯この中身を伸ばしてまで待ち構えてたヒトに言われたくないよ……」
伸ばしててくんなきゃ、おれのち◯こでノーラ姉の一番奥をつつけるわけないじゃんか。
泣き真似してみせるアルのつむじを毛むくじゃらの拳固でかるーく抉りながら、
「アタシの初物食わせてやったんだからシャンとしな」とアルトのささやきが激励した。
それに応えるかのように、再び子音が重なり、やがて嫋々とした快楽の喘ぎがこだまする。
しぶきの量と勢いを増しながら、湯の浮力を借りたピストン運動は、
繋がりあった部位から背筋をさかしまに駆け上がる稲妻のような軌跡を描いて、
いつまでもいつまでも睦み合うつがいの頭蓋を快楽と愛しさで満たし合うのであった。
FIN
蛇足
引き締まったふとももから続くのは、たわわに実った黒い桃のような臀部であった。
『にゃ』行の嬌声を垂れ流しながら、時折背筋を痙攣させ、湯船の縁に8条の爪痕を刻むのは、
肘と膝の先をそれぞれ湯につけたまま、後背位でアルに犯されるノーラだ。
いや、犯されるというのには語弊があった。
四つん這いになったままノリノリで大きな尻を前後させている彼女に、
負の感情や忌避感など、どこを探してもひとッ欠片も無いのだし。
むしろ何かに憑かれたかのように、ノーラの尻にしがみついて腰を振るアルの方が、
うねる肉襞に囚われ咀嚼されている海綿体をもてあましている、と言うのは言い過ぎか。
いずれにせよ、お互いの名を呼びあいながら「出る」「出せ、全部出せ」と喚くふたりは、
揃ってこの日最後の絶頂を迎えた。
……と、同時に、ついにノーラの馬鹿力と八爪の蹂躙に耐えきれなくなった湯船の縁が決壊して、
バランスを崩したふたりが繋がったまま湯船に沈んだのはご愛嬌。
鼻腔を放蕩泉の湯に犯されて溺れかけて、なおも繋がったままなのは愛欲か意地か。
さもあらばあれ、どうにか気息を整えたふたりは這う這うの体で湯船から上がった。
「だいじょうぶ？ 頭打ってない？ ベロ噛んでない？ 捻挫してない？」
「あー、ちょっとデコぶつけたわ……コブにはなってねーけどさ。 アルは？」
「鼻にお湯入って痛痒いだけだけど……ノーラ姉？」
「おう」
「抜いていい？」
「抜いたらドタマが悪化しそうだから我慢な♪」
「元からでしょ……はぁ……」
「るせーやい……ま、保護の魔力サマサマだな」
そう、今の今までふたりは繋がったままで、
さしづめバッタのつがいか、さもなくばコアラの親子のような風体だった。
勃起を保ったままノーラの腰と尻にかじりついて離れないアルが凄いのか、
小柄ながら15歳の少年ひとりを下半身に乗せたまま、造作も無く這い回れるノーラが凄いのか。
いや、少なくとも勃起に関しては、
果ててなお意地汚く精と体液を啜ろうと蠢く誰かさんの粘膜の努力の賜物であったか。
轟チンの勢いで損傷しない海綿体もまた努力賞(？)ものだったかもしれない……閑話休題。
湯船の修理は明日……いや、もう今日の日が昇ってからにしよう、
そう決めたふたりはとりあえず身を清める事にした。
風呂作ってくれた義伯父さんに精力剤送ろっか、じゃあおれも差し入れ用意するよ。
そんな他愛もないやりとりをしながら互いの身体を洗いあう。
破損したのは湯船の一部のみ、上下水道ならぬ湯道はいたって無事なのが幸いしたと言える。
幸いでなかったのは、幾度となく精を放ったアルの性器が、
どたばたの中とはいえ休養にありつき、放蕩泉に中てられ、
目の前には5歳年上の恋人が、無防備に成熟した裸体をさらしていたことだろうか。
『…………』
むくむくと鎌首をもたげたツチノコが、
この後ベッドの上で粉しか出なくなるまでつまみぐいされたのは、
要するにまあ、お約束というヤツであった。
小さくカットされた甘い根菜、香ばしく滋養あふれたユリ科の鱗茎が、
バラ肉とともに乳に解けあって、深い皿に満ちる。
簡素な木卓の上で、小ぶりな丸パンや、薄桃色の果汁を湛えた陶杯に並ぶ
こんがり火を通された厚手のひき肉の塊とともに湯気を立てるシチュー皿を前に、
手を組んで感謝のことばを唱和するのは、シンプルな椅子に腰掛けた男女だ。
地味な装いをした小柄な栗色の髪の少年と、
たくましい長身をディアンドルに包んだ黒髪の若い女性だった。
「いただきます」を言い終わるが早いか、
女性は黒い体毛で覆われた右手のナイフでハンバーグを両断する。
間髪入れずに、先んじて肉塊に食い込んでいた左手のフォークは、
トドメを刺すかのように深々と切っ先を沈み込ませると、
分断された片割れを持ち主の口へと運んでいた。
ぷりぷりとした艶やかな唇が綻ぶどころか、顎をハズさんばかりに開かれた大口の中で、
肉汁の一滴、脂の一片すら逃すまいと、透明な唾液にまみれた白い歯と真っ赤な舌が出迎える。
その光景は、まるっきり捕食であった。
引き結ばれた唇が満足そうな弧を描く内側で、頑丈な奥歯に砕かれ擂り潰されて
味蕾を多幸感で痺れさせながら咽頭を通過していくミンチとタマネギの成れの果てを
対面の少年に見せつけなかったのがせめてもの救いか。
――唇を開いたまま口の中の食べ物を噛むな。
女性が3歳になった時分での、ある宴席にて、普段温厚だった彼女の父が、
この事ばかりは冷たく重く、文字通り叩き込んできた至言の賜物であった。
当時の彼女と母に耳を畳ませ尾を巻かせたばかりか、一族の長であった高祖母でさえ
「魔王さんの亭主どの並みにおっかない」と白旗を上げさせ、
おかげで彼女の属する群れ(コミュニティ)から、
少なくはなかったクチャラーが絶えたほどの気迫であったそうだが……閑話休題。
ハンバーグをふた口でたいらげた女性は、
ナイフとフォークからスプーンに持ち替えてシチューに襲い掛かった。
ほぼ融解した睦びの野菜とタマネギに、ほぐれかけた三枚肉と
原形をとどめながらもやわらかく仕上がったほの甘いマンドラゴラの根が
ホルスタウロスの母乳にたゆたいながら、それぞれの旨味を高めあう。
「うめェ」
「ありがと」
切れ長な真紅の瞳と、おっとりと垂れた青い目の間に軽い笑みが交わされる。
今ふたりが言葉少なに貪る晩餐の主役は、昼に女性が単身で仕留め、
ふたりで解体した後、少年がシチューとハンバーグにしたてた魔界豚であった。
いつものことだ。
そう長くもないこれまでも、これからも永く続いていくであろうこれからも。
ほどなくして、皿にこびりついていたシチューやソースの残滓すら、
引き裂かれた丸パンのひと切れによって、綺麗に拭われて口に運ばれる。
それが杯に残っていた虜の果実のジュースによって流し込まれると
ふたつの口からこぼれたのはテノールとアルトの「ごちそうさまでした」であった。
少年が台所で食器を洗う水音は、女性にとっては手酌の時間のBGMである。
甘いが度の強い、暗い赤色の酒を舐める合間に女性が口に運ぶのは、
白く太く硬い、さきほどのハンバーグとシチューと主を同じくする大腿骨だ。
そんなものをまるでパン菓子のように噛み千切るのは、発達した犬歯と尖った前歯。
タガネのような歯並ならぬ牙並で骨をかじるたび、
至福の弧を描く眼は血玉を孕んだ黒曜石のよう。
強靭かつ柔軟な筋肉を秘めたぬばたまの肌は、胸元と四肢を艶やかな毛皮に包み。
四肢の先端にはふっくらとした肉球とクサビじみた黒褐色の4本爪。
豊かな黒髪にそそり立つ愛らしくも凛々しい一対の耳に、
丸みを帯びた豊かな尻から伸びて、軽やかに振られるふさふさの尻尾。
おまけに隈取のように目尻を飾り、胸元の毛皮とふくよかな乳房を照らす烈火。
生み出した神々すらついに手懐ける事が叶わなかった、黒炎の番犬の末裔であると。
くつろいだ晩酌姿ですら、如実に語っているかのようだった。
が、大腿骨が半分の長さになった頃だろうか、緩んでいた口許が途端に尖った。
舌打ちの代わりに左の口角が吊り上がり、剣呑な鋭い歯並びを曝け出す。
「アルー、酒おかわりー、ビン2本なー、洗い物終わったら持ってきてー」
「あと1本しかないよ？」
「じゃーそれでもいいやー、ハリー！ ハリーハリー！ ハリーハリーハリー！」
――オイオイオイ、まーたラッパするつもりだわノーラ姉。
先日読んだ草双紙で大暴れしていたヴァンパイアの物真似だろうか。
酒をせがむ恋人兼家主の調子ッ外れな独唱にせかされ、
アルと呼ばれた少年は洗い終えた皿を磨く手を速めた。
封を切られた酒瓶が、酌み交わす男女の間で、泡沫の歌を謡いながらふたつの杯を満たす。
酒瓶の首で爆ぜるあぶくの音に聞き入るのは、ノーラとアルが共有する愉しみのひとつだ。
「んじゃ、魔王さんと酒の神さんにカンパーイ♪」
「かんぱーい」
――もう徳利ひとつあけちまったけどなー。
――はいはい。
――おかわりはお酌してもらうまで待っただけえらいだろー？
――うんうん、ラッパ飲みして独り占めしなかっただけえらいねー。
――独り占めなんかしねーやい、次にラッパする時は口移しなー。
――こぼしちゃいそうだからカンベンしてください……。
触れ合う陶器、若い男女の和やかな苦笑と、陶酔の果実の芳香に彩られた満足そうなため息。
手狭ながら暖かい居間で奏でられた、呑兵衛カップルのメドレーリレーである。
まあ、正確には、呑兵衛なのは女の方だけではあるが……。
ノーラが音もなく酒を啜って相好を崩す一方で、
アルはちびちびと啄むように杯の中身を減らしていく。
だが、酒精に耐えかねたものか、それとも陶酔の果実の特性だろうか。
もとから垂れ気味の目尻がさらに蕩けて、頬と吐息にまるで火がついたかのようである。
――そろそろ、かねえ。
杯を一気に干して、ノーラは舌なめずりせんばかりの笑みを浮かべて立ち上がる。
それに応じるかのように、アルもまた杯を空けた。
だが、いつの間にやら対面から彼の隣に立っていたヘルハウンドは、
有無を言わさず腰かけたままの伴侶に口づけて、口内に満ちていた液体を奪う。
ふたりが離れた時に、重なりこぼれた息吹が熱を帯びていたのは、酔いか、それとも。
「……立てる？」
「ん……」
左脇に腕を回して、ノーラはアルを抱きかかえるように寝室へと導いていった。
自分の胸元に押しつけられた少年の火照った頬と、
ささやかな膨らみを主張するズボンの前に、だらしなく口許をほころばせながら。
――後片付けは、ひとッ風呂浴びてからでいいやね？
吐息と粘膜が、ほの暗い寝室の中で熱く湿った合唱を響かせる。
あやし、なじみ、ほぐし、割って、犯す。
ひたりと吸いついてくるノーラの肉厚な唇が、にゅるにゅると絡みついてくる舌と、
酒香を帯びた甘いメスの唾液が、アルの口を屈服させた結果だった。
紅潮した彼の頬を、固いが弾力のある肉球でマッサージしながら、
ふさふさの尾を振る黒いケダモノは、チェシャ猫めいた表情を浮かべる。
隠しきれないオスのニオイを帯びた、下腹部を突き上げる小型テントに、
最奥の雌芯がじくじくと疼くのが愉しくてしかたがないかのように。
――ほれ、どうしてほしいか言ってみな。
「くちで、して」
りょ〜か〜い♪
おどけた口ぶりと軽いくちづけを置き土産に、ノーラはそそくさとベッドの上を後ずさる。
彼女が身じろぎするたびに、踏ん張ったベッドの脚が床をギシギシと鳴かせるのはご愛嬌。
何はともあれ、自分の頭ふたつ分は上背のある筋肉質の女体が、
広く深いブラウスの襟刳りから、はちきれんばかりにふくらんだ胸元をちらつかせつつ、
含み笑いをこぼしながら脚の間に陣取るのを、アルはうっとりと蕩けた目つきで見守っていた。
頑強かつ鋭利な8本の爪が動いて、器用に少年のズボンを脱ぎ捨てると、
猛ってなお包皮に隠れた幼い肉茎が、ずり下ろされた下穿きにおじぎさせられた。
思わず漏れたアルの悲鳴に引っ張られたか、ノーラの笑みがますます深くなる。
情欲の火が燈った漆黒の眼は、先程の晩餐や大腿骨に向けていたものに加えて
あたたかく甘い何かが加わった視線でまっすぐに肉茎を射抜いていた。
げんきいっぱいだな。
ほぼ吐息と呼んでさしつかえないささやきを、上質な漆が凝ったような肉厚の唇が紡いで、
澄んだ雫をしたたらせた未熟な芽吹き肉に優しく口づけを落とした。
ノーラの咽喉で転がる甘い呻きとともに、童皮を後退させていく唇は、
湿ったぬくもりの中にアルの分身をじわじわと引きずり込んでいった。
それが根本まですっぽりと口中に隠れたところで、血の色の瞳が、潤んだ青い瞳に絡みつく。
期待を表すかのように大きくせわしなく上下するふさふさの尻尾以外、
ぴたりと動きを止めたノーラを再起動させるのは、いつもアルの朴訥な愛撫であった。
ハネ癖の強い髪を梳かされ、耳を揉みしだかれ、頭蓋を撫でまわすあたたかい手に急かされて、
ノーラの舌と口内の粘膜が、まるで持ち主から独立した意思を持つ生き物のようにうねる。
一方、愛撫によってエンジンのかかった頭部が激しく前後しているというのに、
知らぬ存ぜぬとばかり下腹部に吸いついたままの口許ははしたなく伸びて、
ふてぶてしさと凛々しさを両立していた黒いかんばせに、滑稽かつ淫らなアクセントを加えていた。
「いくっ……」
痙攣するアルのふとももに置かれたノーラの左手が、やさしくもしっかりと握りしめられた。
白く熱く芳しく苦いほとばしりを、一滴余さず咽喉で受け止めたためだ。
しばしの脱力の後、尿道から欲望の残滓を啜り出すバキュームが、少年の男根に活を入れる。
あぶくの爆ぜる音が、唾液と交ぜられたオスの体液ごと飲み下されて、
牝獣のアギトから解放されたのは、頼りない肉茎とイカ臭い残り香のみであった。
ごちそうさまでした。
うそぶくノーラの右手が伸びて、甘酸っぱい芳香と透明な粘液にまみれた指を、
半開きで喘ぎを漏らし続けていたアルの口内にゆっくりと押し込んでいく。
やがて、彼の喘ぎが、飴をしゃぶるようなねばっこい水音にすり替わったのに満足したのか、
いっそう尾の上下動をせわしなくさせながら、
ノーラはボディス(ディアンドルのベスト部分)を戒める胸紐をしゅるりと抜いた。
「目ざといなァオイ」と苦笑を浮かべたのは、指を清めてくれているアルが、
口の動きを止めないまま、両手を伸ばしてノーラの肩から
ボディスの肩紐をずり落とそうとしたからだ。
左手が栗色の髪をタップして、唾液に濡れた右手を解放させる。
中途半端に広げられた黒い両腕は、「脱がしておくれ」の意思表示であった。
肩に次いで、脇腹から腿にかけてを這い降りた、小ぶりな両手を追うように、
くすぐったそうなアルトの含み笑いが寝室の薄闇に響いた。
――発情期のチェシャ猫は、今のアタシみてーなツラしてやがんだろうなぁ……。
胸の谷間を強調するような四つん這いになったノーラは内心でひとりごちた。
照れ臭さ3割に欲情7割といった色合いのアルの視線が、ディアンドルの下から表れた
乳房の下半分のみがやっと隠れるような裾の短いベアトップのブラウスと、
繊細な白レースで形作られたような薄手のショーツのみを身につけた肢体を、
炙り焼きにしてしまいそうな熱量を帯びていたからであった。
もっとも、華奢な矮躯の中心で健気にそそり勃つアルの分身に突き刺さった
ノーラからの視線も似たりよったりの色合いと温度ではあったのだが。
そうでなければ、先程のフェラチオの時に右手で弄り回していたとはいえ、
彼女のショーツのクロッチ部分が、はしたなく色を濃くしているハズもなく……閑話休題。
――火は青い方が赤ェのよりあちィんだっけ……視線もそーかな？
照れか、それとも目のダメージか。
潤み血走りながらも、瞬きひとつせず視姦してくる青い目を見つめ返しながら、
四つん這いのノーラは仰向けに寝そべったアルにじりじりと近づいていく。
ベッドの軋みにまぎれて、内股の粘膜が擦れる音が大きくなっていくのが、
あふれる粘液と牝香が濃度を増していくのが、ヘルハウンドの鋭敏な聴覚と嗅覚を刺激して、
さらなる敏感な部位への充血を煽っていることを自覚させた。
「充血、充血か……」との独語を飲み下し、ノーラはふたたびピタリと制止し、息を整えた。
「ノーラ姉？」
「ひひっ」
うりゃ、と続いた小さな掛け声は、くぐもったかすかな悲鳴もろとも、
踏ん張ったベッドの脚と床板の絶叫のデュエットでかき消された。
ボディプレスを受けたアルに追い討ちをかけるかのように「ぬがせ♪」というノーラのお達し。
続いた「下だけな」の真意を、胴体に押しつけられて変形するふくよかな乳房と、
肘から先以外の自由を奪うように絡む筋肉質な毛むくじゃらの四肢から察したおかげで、
薄く割れた黒い腹筋と華奢な恥骨のはざまで、未熟な海綿体がいっそう熱と硬度を高める。
ブラウスの裾から滑り込んだ小さめの手が、黒い背筋の上のホックをハズすと、
少年はアルファハウンドから「よくできました♪」と、お褒めの言葉を賜った。
「んじゃ、もひとつごほーびやっからブラ返せ」
残念そうにするなっちゅーの。
上体を起こしたノーラは、アルの右手から肩ひもが無い白いベルト状の下着を奪って身じろぎした。
湿ったクロッチ越しに亀頭と裏筋を逆撫でされて、ニヤつくノーラの眼下でアルが呻く。
嬌声と悲鳴のあいの子を漏らした口元を塞ぐように、火照ったアルの顔を包み込むのは、
ノーラの下半身を包む片割れと同じく白いレースで飾られた1対の布製カップであった。
甘い体臭と母性の象徴のぬくもりがまとわりついたそれに抗えるはずもなく、
膨らみ切ったアルの分身はショーツ越しの陰裂と自らの下腹部にはさまれて窮屈そうに蠢動する。
一方、硬く収縮した陰嚢の中では、魔力で生涯最盛期のまま働くであろう睾丸がフル回転し、
せっせと新しい子種を精嚢に送り込んで、次なる射精に備えているかのようだ。
だが、興の乗った群れのリーダーサマは、愛する下っ端にさらなる恩寵を賜る気満々でのたまう。
「まだまだごほーびはこんなもんじゃねーぞ？」
下着越しの左手と下半身で、やわらかい頬と弾力ある急所の感触を愉しみながら、
ノーラは鷲掴みにしたアルの手をぷるぷる踊る胸元へと導いた。
2種類の肉球にサンドされた左手の中で、手のひら側の中心を穿つしこりの自己主張が激しい。
――ぐりぐりしてやっから、もめ♥
つまるところ、『ごほーび』とは、ショーツ越しの素股と、ブラウス越しの強制乳愛撫だった。
布きれ1枚隔てて、むっちり実った柔肉の山谷で、3つの肉の芽がどんどん育っていく。
ぶるんぶるんと双子の山が鳴動し、サカり狂った山犬の『にゃ』行に近い遠吠えが響き渡る。
ふと山から視線を下げれば、白レースの花畑の下で、澄んだ甘露を溢れさせる泉が湧き出て。
泉の主である肉の二枚貝が、捕らえたツチノコを味見するかのように甘噛みするのだった。
ただし、そんな黒く甘い桃源郷に、まだまだ幼いツチノコがそう耐えられたものでもなく。
「ごめっ……ノーラねえ、でる、でちゃうぅ……」
「んにゃ？ ああっ……」
ツチノコが火山と化し、あふれた黄ばんだ溶岩が盛大に花畑を汚した。
おまけに一部はアルの口にまで飛び火し、彼を「くせっ！ にげっ！ まずっ！！」と悶絶させた。
もっとも、後者の方は、ほどなくして軽い絶頂からくる放心と脱力から再起動した
ノーラに啜り取られ、おまけに彼女の唾液を口移しで与えられてことなきをえたのだが。
表も裏も体液で汚された下着は、綺麗好きのアルにとって無視できる代物ではなかったので。
「……ごめん、お風呂行かない？」
「んだねえ……アタシもやり過ぎちったわ、わりわり」
じゃあ、ぱんつ洗ったら、つづきな？
その言葉を合図として、ふたりはそそくさと浴室へと河岸を変えるのであった。
『ふぃー……』
脱力しきったため息のデュエットが、石造りの広い浴室に響き渡る。
ヘルハウンドの腕力にも耐えきるほどに、頑丈なアラクネ製の下着は、
魔力的な意味での精の残り香以外はすべて洗い流され、無事に夜風に揺られていた。
よって、下着の持ち主は、湯船にたゆたうパートナーに、音も無く忍び寄る事に専念できた。
近場の火山から引かれた放蕩泉の効能だろうか、それとも酔いが来たか、夜更けだからか。
ちっとくたびれてやがんな、よし、やさしく犯してやろう。
ノーラは数歩分の距離を瞬く間に詰めて、対面からアルの右手に回り込んだ。
むにゅり。
なんだよ、元気いっぱいじゃねーか。 ねむそーにぼんやりしやがって。
ノーラの右手の肉球に、はちきれんばかりにいきり立った愛らしい肉の切っ先がめり込んでいた。
「期待してたのかあ？ ん？」
「そりゃあもう……ねえ……」
だすならなかにだしたいよ。
湯煙と薄明かりに彩られた漆黒の裸体に、少年の欲情が息を吹き返さないはずがないのである。
だらしなく蕩けた一対のニヤニヤ笑いに、かすかな喘ぎが混じり出すのもむべなるかな。
少年の左手からみつ回りははみ出す母性の象徴が、肉の芽で手のひらの中心を甘く穿つのは、
ぷにぷにと海綿体を揉みしだいてくるカギ爪への精一杯の意趣返し……もとい返礼だった。
――よろしい、ならば激しくだ♪
うそぶいたノーラは胡坐を掻かせたアルに向き合って跨った。
次の瞬間、放蕩泉の湯とはまったく異なるあたたかさと快さが、
対面座位で繋がったふたりの粘膜に襲い掛かった。
お互いの唇から零れた子音が相手の耳朶に沁み込む、小突かれた最奥が切っ先に吸いついて、
3度目にしてなお勢いと濃度を増す子種汁をずるりと飲み下したからだ。
「オイオイ、挿れただけで漏らすなよぉ……」
「おま◯この中身を伸ばしてまで待ち構えてたヒトに言われたくないよ……」
伸ばしててくんなきゃ、おれのち◯こでノーラ姉の一番奥をつつけるわけないじゃんか。
泣き真似してみせるアルのつむじを毛むくじゃらの拳固でかるーく抉りながら、
「アタシの初物食わせてやったんだからシャンとしな」とアルトのささやきが激励した。
それに応えるかのように、再び子音が重なり、やがて嫋々とした快楽の喘ぎがこだまする。
しぶきの量と勢いを増しながら、湯の浮力を借りたピストン運動は、
繋がりあった部位から背筋をさかしまに駆け上がる稲妻のような軌跡を描いて、
いつまでもいつまでも睦み合うつがいの頭蓋を快楽と愛しさで満たし合うのであった。
FIN
蛇足
引き締まったふとももから続くのは、たわわに実った黒い桃のような臀部であった。
『にゃ』行の嬌声を垂れ流しながら、時折背筋を痙攣させ、湯船の縁に8条の爪痕を刻むのは、
肘と膝の先をそれぞれ湯につけたまま、後背位でアルに犯されるノーラだ。
いや、犯されるというのには語弊があった。
四つん這いになったままノリノリで大きな尻を前後させている彼女に、
負の感情や忌避感など、どこを探してもひとッ欠片も無いのだし。
むしろ何かに憑かれたかのように、ノーラの尻にしがみついて腰を振るアルの方が、
うねる肉襞に囚われ咀嚼されている海綿体をもてあましている、と言うのは言い過ぎか。
いずれにせよ、お互いの名を呼びあいながら「出る」「出せ、全部出せ」と喚くふたりは、
揃ってこの日最後の絶頂を迎えた。
……と、同時に、ついにノーラの馬鹿力と八爪の蹂躙に耐えきれなくなった湯船の縁が決壊して、
バランスを崩したふたりが繋がったまま湯船に沈んだのはご愛嬌。
鼻腔を放蕩泉の湯に犯されて溺れかけて、なおも繋がったままなのは愛欲か意地か。
さもあらばあれ、どうにか気息を整えたふたりは這う這うの体で湯船から上がった。
「だいじょうぶ？ 頭打ってない？ ベロ噛んでない？ 捻挫してない？」
「あー、ちょっとデコぶつけたわ……コブにはなってねーけどさ。 アルは？」
「鼻にお湯入って痛痒いだけだけど……ノーラ姉？」
「おう」
「抜いていい？」
「抜いたらドタマが悪化しそうだから我慢な♪」
「元からでしょ……はぁ……」
「るせーやい……ま、保護の魔力サマサマだな」
そう、今の今までふたりは繋がったままで、
さしづめバッタのつがいか、さもなくばコアラの親子のような風体だった。
勃起を保ったままノーラの腰と尻にかじりついて離れないアルが凄いのか、
小柄ながら15歳の少年ひとりを下半身に乗せたまま、造作も無く這い回れるノーラが凄いのか。
いや、少なくとも勃起に関しては、
果ててなお意地汚く精と体液を啜ろうと蠢く誰かさんの粘膜の努力の賜物であったか。
轟チンの勢いで損傷しない海綿体もまた努力賞(？)ものだったかもしれない……閑話休題。
湯船の修理は明日……いや、もう今日の日が昇ってからにしよう、
そう決めたふたりはとりあえず身を清める事にした。
風呂作ってくれた義伯父さんに精力剤送ろっか、じゃあおれも差し入れ用意するよ。
そんな他愛もないやりとりをしながら互いの身体を洗いあう。
破損したのは湯船の一部のみ、上下水道ならぬ湯道はいたって無事なのが幸いしたと言える。
幸いでなかったのは、幾度となく精を放ったアルの性器が、
どたばたの中とはいえ休養にありつき、放蕩泉に中てられ、
目の前には5歳年上の恋人が、無防備に成熟した裸体をさらしていたことだろうか。
『…………』
むくむくと鎌首をもたげたツチノコが、
この後ベッドの上で粉しか出なくなるまでつまみぐいされたのは、
要するにまあ、お約束というヤツであった。
15/04/25 00:10更新 / ふたばや