還り来たりし君を抱く
先日、生き残っていた唯一の肉親に先立たれた。 六歳年上の姉だ。
多少風邪をこじらせたと思ったら、あっという間に、病魔が彼女を食い殺しやがった。
簡単な葬儀の後、喪失感と看病疲れにとり憑かれた俺は、
何をする気力も無しに、ベッドの上で屍のように転がっていた。
たった何日か前までは、一週間前までは、
あの明るい笑顔も、ぬくもりも、俺は一人じゃないって安心感も、何もかもがあった。
今の俺には何も無い。 俺は、時間だか飢えだかは知らんが、そういった要因に、
じわじわと縊(くび)り殺されるのを待つだけの存在に成り下がっていた。
……ああ、姉を埋葬してから二回目の日没が来たらしい。
狭い寝室が、茜と黒に塗り分けられ、やがてはすべてが後者の手に落ちる。
それは、俺の意識も例外ではなく。
願わくは、このまま、彼女の居る場所に行ける事を――。
覚醒のきっかけは、肌寒さと、腿に感じるひんやりした感触と……
……股間に走った、稲妻のような快感だった。
股ぐらから背筋を這い昇る稲妻に呼応するように、俺の口から、くぐもった呻きが漏れる。
「あ、起きた?」
薄闇の中、耳に飛び込んできたソプラノは、のんきだが安らぎを感じさせるものだった。
物心ついた時から耳にしてきたけれど、二日前から永遠に聞けなくなったはずの声。
俺はバネ仕掛けのように身を起こした。
可愛らしい悲鳴が上がり、腿からひんやりした感触が離れて行ったのにも構わず、
ベッドの上に投げ出されている脚の方に目を向けると。
「もー、いきなり起きないでよぉ……顔ぶつけたらどうするの?」
ほのかに差す月光が、俺の脚の間に蹲(うずくま)る、小柄な影を照らしていた。
背の中程まで届く銀灰色の髪、軽く吊った目の中に輝く紫の瞳。
ツンと立った小作りな鼻と、緩やかに弧を描く瑞々しい唇が、
四半世紀生きた彼女を、実年齢より五歳は幼く見せている。
華奢な褐色の五体は、ゆったりとした白い死装束に包まれていたが、
一度土中深くに埋められた事を示すかのごとく、ところどころ暗色の汚れが目につく。
ついで目を凝らしてみると、手の指や甲があちこち擦り剥けているようだった。
棺桶の蓋をこじ開ける際に、内側から殴りでもしたのだろうか。
俺は無意識の内に手を伸ばし、彼女のそれをとって検めた。
思った通り、キズだらけになって、おまけに多少冷たくなってはいたけれど、
別れる前と同じ、くたびれた、優しい感触。
細く小振りながら、しっかりとした肉の手応えにうろたえつつも、
俺は搾り出すように、目の前の若い女に問いかけた。
「痛むか?」
二十歳前とは思えない、老いさらばえた嗄れ声。
それへの返答は、声音も内容もあっけらかんとした軽いものだっただけに、
一層違和感が強調されていたように思えた。
「あー、だいじょぶだいじょぶ……じゃないや」
「え!?」
「夜中に大きな声出さないでよ、近所迷惑じゃない。」
「でも、大丈夫じゃないって……」
「違う違う、手とか身体が悪いって意味じゃなくて、言い忘れてた事があったなって」
そう言って、彼女は背筋を伸ばすと、表情を綻ばせた。
こないだまで見る者を元気づかせていた、俺の生きる理由だった、活力溢れる笑顔。
以前と違う点があるとすれば、長さと鋭さを増した糸切り歯くらいだが、些細な事だ。
今、彼女がここに居てくれているという事実の前には。
何はともあれ、
「ただいま。 還って来ちゃった」
「お帰り、姉ちゃん」
俺は、黄泉還って来た姉と、手を握り合ったまま、ベッドの上で苦笑を交わし合った。
多少冷たくなっていようが、子供の頃と変わらず、
しっかりと握り返してきてくれるやわらかく小さな手に、
俺は、熱くなった両目が、僅かに視界をぼやけさせるのを抑える事ができなかった。
ただし、おぼつかなくなった視界でも、対面に座り込む彼女もまた、
目尻を潤ませていたのだけは、はっきりと認識できたけれど。
「……で? 説明してくれないか?」
「何を? 言っとくけど、『何で還ってこれたか』なんてのは無理よ?
気がついたら、地面にぽっかり空いた穴ぼこの隣で、
墓土まみれでぜーぜー言ってたんだから」
「そっか……お疲れさま」
ねぎらいの言葉をかけると、姉は嬉しげな笑みを浮かべ、いきなり俺に抱きついてきた。
墓土を落とす為に水でも被ったのか、彼女のつむじ周りはしっとりとした光沢を帯びて
……っと、そんな観察をしている場合じゃない。
ほのかな甘い体臭と、わりと大きな胸の感触は、危険物以外の何物でもないのだ。
殊に、今の俺にとっては。
「姉ちゃん、離れてくれ」
「何でよ?」
「……なんでか下半身裸だからだよ、脱いだ覚えは無いんだけど」
その言葉に、俺に向けられた、不機嫌そうな半眼がそらされた。
……いや、背けられた視線は、ちらちらと俺の股間を窺っている。
頬にのぼった血の気はさておいて、俺が顔をしかめてみせると、
彼女は開き直ったのか、月明かりに照らされる、実弟の息子をマジマジと見つめてきやがった。
「……けっこう立派よね、おいし…じゃなくて、生々しいけど」
「見た事あるんかい」
少しショックだ。
でも、目の前の姉は、黙っていれば美人の部類だし、
多少能天気だけど気立てはいいし、実は恋人が居たとしてもなんらおかしくはない。
あらためて言おう、“知らされていなかった事がショックだ”と。
「え? お父さんやお母さんが生きてた頃、みんなで一緒にお風呂入ってたでしょ?
いやー、やっぱりあの頃とは別物だわ……変わってないのは形だけねぇ」
「…………うっせ、ほっとけ」
そうほざいて、恥ずかしがり屋の愚息に、顔を近づける恥知らずの愚姉。
つい、俺の口から、圧し殺した恨み節が零れたのも仕方がない事だと思いたい……いや、
そんな事はどうでもいい。
息がくすぐったいから離れてくれよ姉ちゃん、このまんまだと、その……くっつきそうだし……。
などと、俺が思案に暮れているのをよそに、姉はのほほんとした顔と口調のままに嘯いた。
「いいじゃない、お父さんのみたいに、先っぽが赤剥けになってるよりは可愛いし♪」
「頼むからそれ以上は言わないでくれ」
そんなところを可愛いと言われて悦ぶ趣味は無い、無いったら無い。
ちょっとだけ嬉しいなんて思うはずがあるか!
さておき、ナニに感じるひんやりしたやわらかさもまた、錯覚だと思いた……いッ!?
「な、何すんだ姉ちゃ…!」
見れば、銀灰色の頭頂部が俺の股間を覆い隠し、
そこにあるはずの分身が、生温く湿った空間にすっぽりとくるまれていた。
鼻孔から漏らされる唸り声と、かすかに響く水音を伴奏に、
弾力のある熱いぬめりが、裏筋の辺りをそっとなぞり、
ぷにぷにした枷が、キツいくらいにサオと袋の境目を締めつける。
そして、なぞられた軌跡と縊られる圧力が、
果てる直前と同等の快感を、背筋伝いに脳へと送り届けていた。
反射的に、愚息が、初めて味わう感覚に戸惑いながらも、むくむくと膨張し硬くなっていく。
ネエチャンノクチニ、オレノモノガ、ハイッテル?
ネエチャンガ、オレノナニヲ、クワエテル……?
ネエチャンガ、オレノチン◯ヲ、シャブッテル……
その事を認識した途端、白い花火が、俺の頭の中と股ぐらで、盛大に弾けた。
「んぐっ!? んっ!! んん゙……むぅ…………む〜……♪」
放出にあわせて、断続的に姉が呻く。
途中から声音が心地よさげなものになっていたのは、気のせいだろうか?
やがて、射精が治まっても、姉の頭は変わらず俺の股間にあった。
そして、分身の膨張と、そこから伝わってくる、熱く甘いぬめりもまた――。
「姉ちゃん――?」
「ん……ふぉいひ……♪」
俺の疑問の声を遮る、うっとりとした不明瞭な発音。
続いたのは、ヘソ下の奥から、欲望の残滓を根こそぎ搾り出すような、容赦無い吸引と。
自分の手では絶対味わえない快感に、再び強制的な放出を強いられて、
頭のネジを吹っ飛ばしたような、俺の情けない悲鳴と。
一発目と同様に、何日も出さずに溜めていたような濃度と量を兼ね備えた、
今夜二発目の口内射精だった。
赤い舌が、涎を滴らせながらイチモツの腹を這い回り、粘っこいマーキングを施し、
桜色の唇が、唾液の軌跡をこそぎ落とすように、吸いつきながら上下する。
時折、白い牙がエラを掠め、綺麗に並んだ真珠のような前歯がカリを引っ掻き、
サオの根元や中程に、或いは亀頭との境目に、ほんの僅かに切っ先を沈み込ませる。
うっすらと目元が赤らんだ、酔っぱらったような紫の半眼を釘付けにしているのは、
はじめての快楽に、ただただふんぞり返って精を撒き散らす事しかできなくなっている、
不格好な俺の倅だった。
「むひゅひゅ、ふぃっふぁみふぁっはっひゃふぁへみゃまふへ、ふんもふふぉいひ……」
(うふふ、立派になっただけじゃなくて、すんごくおいし)
幹の中間部分に右手を添えて、飴玉か何かのように、俺の亀頭を舐め回す姉。
瑞々しい唇が包皮を押し下げ、内側にこびりついていた精液が
やわらかくぬめる舌に、みるみる内に削ぎとられて、透き通った唾液に置き換えられていく。
それに伴って、ただでさえ敏感な亀頭が、自慰の時とは比較にならない快感を伝えてきて、
睾丸の奥底で醸し出された濃厚な子種汁が、陰茎の芯を焼き尽くして溢れ出してくる。
何度も放出しているのに、懲りずに込み上げてくる射精感に抗い、俺は何とか言葉を紡いだ。
「姉ちゃ…何で……?」
「むぁ……理由なんて、分かんないよぉ……。
ちゅ…青臭ふへ、ひょっぱくて、れろぉ…苦くって、えぎゅふへぇ……。
鼻とベロが、みゅう…バカに、なっひゃいほー、なのにぃ、
おいひくてぇ、ひゃぶりたくへ……たまんないのぉ……。
ねえ、もっと、もっとちょうだいよ、これをぉ……」
浮かされたような笑顔でむしゃぶりついてくる姉の痴態に、浅ましくも勃起させたまま、
際限無く彼女の口中に欲望をブチ撒けながらも、俺の脳内にひとつの単語があった。
グール。
死体の多い墓場と、南方の砂漠地帯に多く棲息する魔物の一種で、
男性器に対する口淫を何よりも好むアンデッドだという。
なるほど、魔物になったというのなら、姉の蘇生も淫らな変化も納得できるというものだ。
相次ぐ絶頂に眩む目を叱咤し、姉の頭部をあらためて注視してみると、
最初に違和感を覚えた犬歯と同じく、耳も尖って伸びているのがわかった。
あと、俺の精を取り込んだ事による、魔物化の進行の一環だろうか。
姉の頬骨の辺りには、黒い稲妻状の紋様が刺青のように浮かび上がり、
死装束の袖口や裾から覗く四肢は、汗のように滲み出た赤い粘液に包み込まれていた。
観察に没頭している内に感覚が鈍り、反応が薄くなっている事で察したのか、
俺の視線に気づいた姉が、しゃぶっていたモノから口を外し、にんまりと笑う。
ただし、いきり立ったものを優しく握る右手は、萎えさせるのを赦さないかのように、
亀頭から根本までをゆっくり上下させたままだった。
まだるっこしさはあるが、唾液と赤い粘液のおかげだろうか、
姉の手は、自分でしごいた時よりも、数段深い快楽を俺にもたらした。
……先程の彼女の口技には到底及ばなかったが。
余談はさておき、粘っこい合奏を背景に、
彼女からのいたずらっぽい問いかけが、俺の耳に届く。
「どうしたの? じっとあたしの顔なんか見て」
「いや……姉ちゃんは、グールって魔物になっちまったんだろうな、と思ってさ」
「ふーん……」
俺の返答に、姉の笑顔が変わった。
それは、生前の快活なものでも、俺の分身にしゃぶりついていた時の恍惚としたものでも、
さっきまで浮かんでいた、やや意地悪そうなものでもなく。
火照り蕩けた渇望の眼差しは、獲物(おれ)から決して離される事が無く、
ねだるように緩む口元からは、よだれにまみれた牙をぎらつかせて。
愛欲と食欲が入り交じる、危険を感じつつもつい見蕩れてしまうような……
「喰われてもいい」と思えてしまうような、実に魔物らしい、媚態の微笑みだった。
俺の目は、飛び込んできた姉の笑顔を持て余して、持ち主を金縛りにする。
それを尻目に、耳の方は、彼女が漏らした、どこか自棄っぱちな呟きを拾い上げていた。
「……だったら……魔物になっちゃったんだったなら、こんな事をしても問題ないよね?」
その言葉を最後に。
俺の分身が解放され、一瞬だけ、腿にかかる姉の体重が無くなったかと思うと。
肩と後頭部に回る、冷ややかながら安らぎを感じさせる圧力を伴って、
しっとりとした熱い甘みが、俺の唇を抉じ開け、舌に絡みついて扱きあげていた。
「……抵抗、しないんだ」
二、三度俺の舌を味わってから、澄んだ唾液の糸を引いて、姉はポツリと呟いた。
天使が通るという奴か、しばしの沈黙が流れてから、俺もまた、呟きを返す。
返答に時間がかかったのは、姉の体臭を凝縮したような、
口内の置き土産を反芻していたからではない。 気持ちを整理していたからだ。
まあいい、閑話休題。
「…………わる…いや、ダメか?」
のぼる血の気に、高まる鼓動、溢れる冷や汗、勃つ倅。
対面の至近距離で、かすかに不安げな褐色の童顔を見つめ返しながら、
俺は必死にしかめっ面を取り繕う。 正直、そっぽを向いて布団を被りたい。
だが、後頭部を優しく撫でてくる、しなやかな手指の感触と、
緩やかな薄い生地越しに存在を主張してくる、張りのある胸の弾力が、
俺に、彼女からの逃亡を、自分の本性からの逃避を赦してはくれなかった。
と、背中に降りてきた二の腕が、俺を拘束するかのようにぎゅっと締まった。
そうしておいて、姉は、
「ダメじゃ、ないけど……いいの?」
――あたし、魔物になっちゃったんだよ?
――たった一人の、実の弟の◯んちん、悦んで舐めちゃうような……。
――弟の出したものを、おいしいって、ぜんぶ飲んじゃうような……。
「あたし、実の弟相手に欲情してるヘンタイさんだよ?」
しばしの逡巡はあれど、俺の目を、赤く潤ませた紫の目で、じっと見つめながら。
わが姉君(あねぎみ)は、このいやしき愚弟に、実に反応に困るお言葉をのたまわられた。
ああ、言いたい事だけ言い切ったら、早速うつむきやがったし。
そんなんだから、あんたには、ホント……。
……ムラっと、くる。
「じゃあ、俺はなんなんだよ?」
その言葉とともに、勝手に体が動いた。
膝立ちになった俺は、姉の両肩を鷲掴みにすると、
仰向けにした彼女をベッドの上に押さえつける。
……姉の唾液と、自分から吐き出した腺液にまみれたイチモツを、剥き出しにしたままで。
無様? うるさい、そんな事は自分が一番よく知ってる。 何せ……
「物心ついた時から、ずっと……ずっと、ずーっと! 実の姉と夫婦になりたいと思っていた!
男女のコトを知ってからは、寝ても覚めても、あんたを抱きたい、ひとつになりたい!
子を産んで欲しいと思っていた!!
あんたの言い方に倣うなら、俺は魔物以上の変態だ!!!!」
ギリギリと、俺の手の指と、奥歯が軋みをあげていた。
ついでに、華奢な姉の肩の骨も……っと、いかん。
俺は、荒い息をついたまま、握った両手から力を抜いた。
ただし、姉の肩を押さえる姿勢だけは、そのままである。
はっきりいって、汚らわしい強姦魔と大差は無い状態だ。
腕の下の被害者(あね)が、褐色の肌越しでもはっきりと分かる赤面を浮かべて、
呆然と口をパクパクさせている事を除けばだが。
さておき、再度訪れた沈黙は、彼女の途切れがちな呟きによって追い払われた。
「…………えと、じゃあ……」
「何だよ?」
「……相思、相愛?」
「だろうな、そっちがイヤじゃなきゃだけど」
そう俺がぶっきらぼうに言い捨てると、姉は表情をゆっくりと変化させた。
多少の茶目っ気を含む、緩んだ暖かい微笑だ。
その笑みのままに、彼女は覆いかぶさる俺にささやく。
片手を上げての手招きつきでだ。
「…………よ?」
「何だって?」
「…いよ…」
「聞こえない」
「『イヤじゃない』って、言ってんのよ!」
喚き気味な返事とともに、姉は下から俺の上半身を抱きしめた。
そのまま流れるように俺の口に吸いつき、舌先を唇の隙間にねじ込み、
中に潜む俺のそれに接触させている。
紅い侵入者は、俺の持つ同類をからめとって、緩やかに引きずり出し、
唇も動員して拘束した上で、自分の陣地内でにゅるにゅると舐めずった。
舌先同士でのノックに始まって、そこから口中に引き寄せた分を満遍なく舐め回し、
おまけにかすかな頭部の前後動で、唇で挟み込まれた部位にも、触れあう同類にも、
まとめて微弱な刺激を与えている。
まるで、性器の代わりに舌をフェラチオされているような錯覚に、
俺は、拙いながらもひたむきに唇を蠢かし、体重が姉にかからないように注意しながら、
できるだけ密着する事くらいしかできなかった。
「ぷぁ……キスって、おいしいのね」
ひとしきりキスを交わした後、満足げな表情で、姉が俺の頬を撫でた。
対する俺は、赤く硬い顔のまま、無言で首を縦に振るばかり。
野暮ったくウブな反応しかできないのが、恥ずかしくて悔しい。
だが、姉は俺のザマを見ると、口の端を吊り上げて、抱擁と三度めのキスを奪ってくる。
今度は、唇をかすかに、でもひっきりなしに触れあわせる、せわしなくも快いものだった。
やがて、唇に感じていた、甘いどしゃ降りが止んだ。
代わりに、後頭部を押し下げる圧に続いて、耳元をくすぐってくるのは、ひそめられた姉の声。
「ねえ、そろそろ、脱がない?」
死装束越しの下腹部で、ヘソにくっつきそうな息子を押し上げられ、
俺はまた首を上下させざるをえなかった。
しかし、了承の一言を返せただけ、さっきよりはマシだと思いたかった。
するすると、褐色の肌の上を、生地が這い落ちる音がする。
ベッド脇に立った俺は、自分のシャツを脱ぎ捨てながら、
横目で姉の脱衣シーンを窺っていたが、
「見たかったら見ててもいいよ」との有り難いお達しに、あらためて凝視させて貰うことにした。
「さすが魔物以上の変態さんだね」と笑われたが、知らん。
肩紐が肩を滑り、白く長い肌着が床にとぐろを巻く。
すると、小作りながら素直に伸びた背筋が、さらりとした銀灰の長髪越しに窺えた。
視線を下げれば、シンプルで野暮ったい白のショーツに包まれた、張りのある桃のような尻。
そこから伸びるのは肉の引き締まった旨そうな腿、なめらかな曲線を描くふくらはぎと、
しっかりと腱を浮かばせた華奢な足首に、つるりと丸みを帯びた裸足のかかとだった。
目を引いたのは、二の腕同様に赤い粘液が、
腿の中ほどから下を薄くコーティングしていた事だろうか。
俺がヒップの実り具合と脚線美に見惚れていると、姉がこちらを振り向いた。
やや寄せられた眉根と、照れ臭そうな微苦笑が愛らしい。
小柄な彼女は、上目遣いのまま、俺に小声で問いかけてくる。
「どうかな……? もう少し、おっぱい大きい方がよかった?」
「いや、その……姉ちゃんは十分デカいと思う」
口ごもる俺の台詞通りに、無駄な肉の無い二の腕によって、
褐色の果実が変形させられていた。
あいにく先端は隠されてしまっているが、俺の手からいささかはみ出しそうな肉づきと、
両腕で包まれている事で強調された谷間は、しっかりと俺の欲情を誘っている。
ちらりと俺の下腹部に目を向けてから、彼女は安心したように腰に手をかけた。
次の瞬間、慎ましやかな桜色の突起が二つ、赤い残光を虚空に描く。
ショーツを脱ぐ際に、姉が前屈みになった為、双乳が弾んで上下した結果である。
…………それらに気をとられ、姉の最後の秘密を拝みそびれたのは不覚だ。
「はいはい、今からいくらでも見せてあげるから、正直に実況するのはやめてよね」
「面目無い」
気を取り直して、全裸の俺達はベッドの上に舞い戻る。
トンビ座りする姉に膝を突き合わせるように、対面で俺は胡坐を掻いた。
……と思ったら、問答無用で唇を奪われていた。
頬を包み込むひんやりした手のひらの感触と、鼻腔を満たす甘酸っぱい芳香、
おまけに胸板を押してくる双子の果実に反応し、股ぐらで分身が牙を剥く。
……頼む姉ちゃん、ニヤニヤしながら下腹を押しつけてこないでくれ。
そして、俺のナニを、自分と俺の下腹で挟んだり擦りつけたりするのは止してくれ。
「え? 気持ちよくないの?」
「いや、気持ちいいんだが、その……。
挿れる前にイきかねないから、リズミカルに刺激すんのは勘弁してくれないか?」
「むー……しょうがないなぁ」
姉のぼやきと一緒にすべらかな弾力が遠ざかっていき、
ヘソの辺りに押しつけられていた愚息は暴発を免れた。
多少残念な気もするが、どうせなら、はじめては彼女の一番奥で果てたい。
さて、俺が息子をなだめる為に深呼吸をしていると、
対面の姉もまた、いつの間にか胡坐を掻いている事に気づいた。
ただし、後ろ手をついて、脚を開いたままゆっくりと立てようとしているところだったが。
「ん……ね、見える?」
いささか恥ずかしげな声音の呼びかけに、俺は答える間も無く、視線を釘付けにされた。
調度いいタイミングで差し込んでくる、淡い月明かりに照らされ、
ぷにぷにした一対の薄紅色の襞の上端に、
慎ましやかな突起が一粒、ささやかに自己主張しているのが分かる。
襞の狭間に目を向ければ、小さい穴が一つ開いた、少し硬そうな平面部分と、
かすかに縁が膨らんだ、上のそれより大き目の穴。
それらはいずれも、澄んだ蜜のような体液に潤い、ひくひくと震えていた。
その光景と、ほのかに漂ってくる芳香は、たちまちの内に、俺を音の乏しい世界に引き摺り込んだ。
聞こえてくるのは、ドクドクと喧しい早鐘と、
かすかに間隔が短くなっていっている甘い笛のような音と、
何かが狭い場所を転げ落ちるような、くぐもった水音のみ。
ああ、薄赤い花が、俺の目と鼻の先にある。
どこか懐かしい甘酸っぱい香りと、
てろてろと溢れてくる蜜に惹かれて、
俺はそっとそこに口づけた。
一瞬、引き攣るようにそれが震え、耳の奥を突くような高い音がしたけれど、
お構い無しに蜜にまみれた中央のめしべをひと舐めしてみる。
蜜には甘みはおろか味すら無いが、
先程から鼻腔を満たす、俺の頭をぼうっとさせている香りが更に強くなった。
それと一緒に、再び室内に響き渡る、胸の奥がざわつく、高い音色。
もう、止まれなかった。
俺は、まるで飢え渇いたイヌのように、だらしなく舌を曝け出し、
鼻先のふたつの花弁を、小さなつぼみもろともに、上下に何度も舐め回す。
俺が舌先でくすぐるたびに、味の無い蜜と、本能を揺さぶる香りが、
中央の雌蕊(めしべ)穴から際限なく溢れ出してくるのが、
嬉しくて、誇らしくてたまらなかった。
気がつくと、俺の頭は、張りのある褐色の太ももに両脇から挟み込まれていた。
目の前には、充血して赤みを増した姉の秘所が、
牝蜜をブチ撒けたみたいに滴らせて、安物のシーツを変色させており、
口の内外には、何やら薄い粘り気が付着し、
より直接的に件の芳香を俺の鼻腔に捻じ込んでいた。
とりあえず、さっきから息も絶え絶えに、俺の頭を押さえつけている、
両手と太ももの持ち主に、離してもらうよう頼んでみよう。
「あー……死ぬかと思った」
もう死んでるけど、と投げやりに続けて、姉は俺をじっとりとした半眼で見上げてきた。
対して、俺は謝罪の言を重ねる以外に術はない。
後日聞いた話だと、グールの性器の過敏さは、好色で感じ易い魔物の中でも随一の物らしい。
そんなモノを、牝香と嬌声でイかれた俺が、執拗に嘗め回したものだから、
姉はすっかり、足腰に力が入らなくなってしまったようだった。
「はぁ……あんたの童貞、優しく奪ってあげるつもりだったのに」
力なく姉がぼやく。
「奪われるのはちと勘弁願いたいかな」
「言葉の綾よ……ま、いっか。 腰抜けちゃったから、このまま来て」
「……うん」
苦笑しながら手招きする姉のお達しに、俺はおっかなびっくり彼女に覆いかぶさった。
すると、首に褐色の腕が回ってきて、ひんやりした抱擁と熱い口づけが迎えてくれる。
双子の脂肪果実が、俺の胸板を穏やかに押し返しつつ、
すらりとした右脚が俺の腰を撫でるように絡み、
二人がひとつになる前の最後の心の準備を促していた。
数拍の間をおいて、俺は僅かに腰を引く。
今夜、現在まで何度精を放ったか分からなくなるほど、姉の口の中で暴れていた分身を、
本来入るべきところに突き入れて、姉と結ばれる為に。
だが、悲しいかな、俺にはそういう経験が今まで無かった。
よって、どこに肉の剣尖をあてがって突き入れればいいのか分からず、まごまごしている内に、
首に回っていた感触が、分身の中ほどを包み込み、
口内や舌よりもなお熱い、燃える花弁のような肉の質感が、
亀頭にそっと添えられる不手際を晒してしまった。
俺は口でへの字を書いて視線を下ろす。
そこでは、不肖の息子を花園へと導いてくれた、いとしの案内人が、
つややかな唇の狭間から、ニヤニヤと白い牙を覗かせていた。
――ああ、本当に小憎らしくてかわいいなぁ、この姉の笑顔ってヤツは!
「うふふ……じゃ、おいで?」
「……お邪魔します」
再度首に腕を回してきた姉の言に従い、俺はゆっくりと腰を前に突き出す。
充血して膨らんだ亀頭が、めり、めりっと、確かな手ごたえを伝えて、
蜜を湛えつつもキツく締まった肉の花にのめり込んでいった。
さて、ここで姉の身体について、少し話しておきたい事がある、
彼女の褐色の肌は、一度息を引き取った時のまま、凍りついてしまったが如く、
生身よりも多少冷たさを帯びているのだが、
対照的に、唇や舌などの粘膜組織に関しては、生前かそれ以上の温かみを持っている。
そして、外と中の温度差の違いにより、
触れている俺は、違和感に裏打ちされた快楽を味わう破目になる、という事だ。
つまり、何が言いたいのかというと。
「んっ……く、うううっ……!」
「ねえ、ちゃん、膣内(なか)……熱くて、キツ……!」
「あ、まだダメ、もっと、もっと奥ぅ……!!」
ギュウギュウと締めつけてくる、無数の細かい肉の粒が、
童貞喪失を成し遂げ、姉とひとつになろうとする俺の(愚息の)前に、
文字通り牙を剥いて立ち塞がっていた。
先刻、さんざ味わった口内の感触は、舌や唇などによる緩急が付き物であり、
快楽の波にも強弱があったのだが、こちらは…………。
ひたすらうねり、侵入してきた異物を引き摺り込みつつも、
捻り絞って粉砕させずにはおかない、容赦の無い渦潮……いや、
流砂や、蟻地獄のようだった。
まだ全長の3分の1程度しか入ってないというのに、
今にもとば口で暴発してしまいそうなのを堪えて、俺は腰を突き込もうとする。
すると、亀頭の尖端に、今まで通り過ぎてきたものとは明らかに異なる肉が触れてきた。
それは、ひどく頼りなく、その癖狭い膣内一杯をぐるりと取り囲む、張り詰めた襞だった。
それの存在に気づいた俺が、最初にした事は、
目を閉じての深呼吸と、形ばかりの後ずさりだった。
ついでほんの少し腰……いや、分身を前方へと押し出す。
その動きに伴い、襞が撓(たわ)んだり姉が苦しげな金切り声を出すのを確かめると、
俺はもう一度目を閉じ、深く息を吸った。
そして、目を固く閉じて呻き続けていた姉に、
どう形容すべきか、自分でも分からない視線を送った。
「……いいからぁ、さっさと、奥、挿れ、てえぇ…………!!」
搾り出すような途切れ途切れの金切り声に尻を叩かれ、俺は、全力で腰を突き入れた。
その時、耳の奥では、取り返しのつかないものが引き千切られるかのような、
プツプツという音が確かに響いていた。
きっと、俺は生涯その音と感触を忘れまい。
姉の純潔を奪ってしまった時のものだから。
一番いとしいひとと、はじめてひとつになれた時のものだから。
さて、姉の乙女を刺し貫いた、俺の息子が次に味わったのは、
溢れ返っていた愛液の湯浴みに交じる、ぬるりとした異物感と、
固く引き締まった大きく分厚い肉の弾力と…………。
今までの道程で浴びせられてきた肉粒の群れによる刺激が、
子供のいたずらに思えるほどの、強烈な収縮だった。
「ぐあ…っ」
絞め潰されるような圧力に、俺の喉から濁った呻きが搾り出される。
ついで、下腹部で抑え込まれていた白い溶岩が、頭の中と分身の中枢を焼き尽くしながら、肉坩堝のただ中へ溢れ出そうとしていた。
一方、外界の方でも、純潔のしるしをブチ破られた姉の絶叫が、部屋に満ちた淫香をつんざいて響き渡る。
苦痛を訴える悲鳴が、瞬く間に快楽を味わう甘いものへと変わっていくのが、かしましくも心地よい。
ちらりと視線を下ろせば、涙を幾筋か流した姉が、
表情を甘く笑み崩れさせているのがそれに拍車をかける。
だが、そこが限界だった。
中と外との二重の刺激に耐えかねて、俺もまた呻きを漏らしながら、あっけなく、初めての性交に幕を下ろすことになってしまった。
「…………」
「そう落ち込む事無いじゃない、気持ちよかったよ、すっごく」
しばし、脱力の後。
再起動した姉は、優しく俺の肩を数度叩きながら、暴発しちまった愚弟を慰めようとしてくれていた。
だがしかし、いくらさっきまで経験が無かったとはいえ、一番奥に突っ込んだだけで気をやるのはどうかと……。
……自分でそう考えるだけで、また気持ちが沈んでいくのが抑えられない。
ああ、我ながら鬱陶しい。
などと、姉の銀髪のひと房に情けないヘタレ面を隠していると、
左耳の縁に熱く湿った稲妻が走り、痙攣する破目になった。
……情けない、喘ぎ声つきで。
左に流した視線に映るのは、楽しげに舌舐めずりする姉の笑みだった。
「何すんだよ」
「ん? いやね、そろそろ抜けた腰も戻った気がするし、いとしの弟にちょっと名誉挽回の機会を与えてあげようかな、と」
そっちは準備万端みたいだしねえ。
そう結んで、彼女は目を軽く閉じて唇を尖らす。
おまけに、繋がったままの下半身の方では、焼けつくような肉の坩堝が、再びグルリとうねりをあげた。
俺はため息を一度つき、力んで咥え込まれたままの分身に活を入れると、
「……お手柔らかにお願いします、姉様」
小声で嘯いて、目の前の桜色に口づけた。
多少風邪をこじらせたと思ったら、あっという間に、病魔が彼女を食い殺しやがった。
簡単な葬儀の後、喪失感と看病疲れにとり憑かれた俺は、
何をする気力も無しに、ベッドの上で屍のように転がっていた。
たった何日か前までは、一週間前までは、
あの明るい笑顔も、ぬくもりも、俺は一人じゃないって安心感も、何もかもがあった。
今の俺には何も無い。 俺は、時間だか飢えだかは知らんが、そういった要因に、
じわじわと縊(くび)り殺されるのを待つだけの存在に成り下がっていた。
……ああ、姉を埋葬してから二回目の日没が来たらしい。
狭い寝室が、茜と黒に塗り分けられ、やがてはすべてが後者の手に落ちる。
それは、俺の意識も例外ではなく。
願わくは、このまま、彼女の居る場所に行ける事を――。
覚醒のきっかけは、肌寒さと、腿に感じるひんやりした感触と……
……股間に走った、稲妻のような快感だった。
股ぐらから背筋を這い昇る稲妻に呼応するように、俺の口から、くぐもった呻きが漏れる。
「あ、起きた?」
薄闇の中、耳に飛び込んできたソプラノは、のんきだが安らぎを感じさせるものだった。
物心ついた時から耳にしてきたけれど、二日前から永遠に聞けなくなったはずの声。
俺はバネ仕掛けのように身を起こした。
可愛らしい悲鳴が上がり、腿からひんやりした感触が離れて行ったのにも構わず、
ベッドの上に投げ出されている脚の方に目を向けると。
「もー、いきなり起きないでよぉ……顔ぶつけたらどうするの?」
ほのかに差す月光が、俺の脚の間に蹲(うずくま)る、小柄な影を照らしていた。
背の中程まで届く銀灰色の髪、軽く吊った目の中に輝く紫の瞳。
ツンと立った小作りな鼻と、緩やかに弧を描く瑞々しい唇が、
四半世紀生きた彼女を、実年齢より五歳は幼く見せている。
華奢な褐色の五体は、ゆったりとした白い死装束に包まれていたが、
一度土中深くに埋められた事を示すかのごとく、ところどころ暗色の汚れが目につく。
ついで目を凝らしてみると、手の指や甲があちこち擦り剥けているようだった。
棺桶の蓋をこじ開ける際に、内側から殴りでもしたのだろうか。
俺は無意識の内に手を伸ばし、彼女のそれをとって検めた。
思った通り、キズだらけになって、おまけに多少冷たくなってはいたけれど、
別れる前と同じ、くたびれた、優しい感触。
細く小振りながら、しっかりとした肉の手応えにうろたえつつも、
俺は搾り出すように、目の前の若い女に問いかけた。
「痛むか?」
二十歳前とは思えない、老いさらばえた嗄れ声。
それへの返答は、声音も内容もあっけらかんとした軽いものだっただけに、
一層違和感が強調されていたように思えた。
「あー、だいじょぶだいじょぶ……じゃないや」
「え!?」
「夜中に大きな声出さないでよ、近所迷惑じゃない。」
「でも、大丈夫じゃないって……」
「違う違う、手とか身体が悪いって意味じゃなくて、言い忘れてた事があったなって」
そう言って、彼女は背筋を伸ばすと、表情を綻ばせた。
こないだまで見る者を元気づかせていた、俺の生きる理由だった、活力溢れる笑顔。
以前と違う点があるとすれば、長さと鋭さを増した糸切り歯くらいだが、些細な事だ。
今、彼女がここに居てくれているという事実の前には。
何はともあれ、
「ただいま。 還って来ちゃった」
「お帰り、姉ちゃん」
俺は、黄泉還って来た姉と、手を握り合ったまま、ベッドの上で苦笑を交わし合った。
多少冷たくなっていようが、子供の頃と変わらず、
しっかりと握り返してきてくれるやわらかく小さな手に、
俺は、熱くなった両目が、僅かに視界をぼやけさせるのを抑える事ができなかった。
ただし、おぼつかなくなった視界でも、対面に座り込む彼女もまた、
目尻を潤ませていたのだけは、はっきりと認識できたけれど。
「……で? 説明してくれないか?」
「何を? 言っとくけど、『何で還ってこれたか』なんてのは無理よ?
気がついたら、地面にぽっかり空いた穴ぼこの隣で、
墓土まみれでぜーぜー言ってたんだから」
「そっか……お疲れさま」
ねぎらいの言葉をかけると、姉は嬉しげな笑みを浮かべ、いきなり俺に抱きついてきた。
墓土を落とす為に水でも被ったのか、彼女のつむじ周りはしっとりとした光沢を帯びて
……っと、そんな観察をしている場合じゃない。
ほのかな甘い体臭と、わりと大きな胸の感触は、危険物以外の何物でもないのだ。
殊に、今の俺にとっては。
「姉ちゃん、離れてくれ」
「何でよ?」
「……なんでか下半身裸だからだよ、脱いだ覚えは無いんだけど」
その言葉に、俺に向けられた、不機嫌そうな半眼がそらされた。
……いや、背けられた視線は、ちらちらと俺の股間を窺っている。
頬にのぼった血の気はさておいて、俺が顔をしかめてみせると、
彼女は開き直ったのか、月明かりに照らされる、実弟の息子をマジマジと見つめてきやがった。
「……けっこう立派よね、おいし…じゃなくて、生々しいけど」
「見た事あるんかい」
少しショックだ。
でも、目の前の姉は、黙っていれば美人の部類だし、
多少能天気だけど気立てはいいし、実は恋人が居たとしてもなんらおかしくはない。
あらためて言おう、“知らされていなかった事がショックだ”と。
「え? お父さんやお母さんが生きてた頃、みんなで一緒にお風呂入ってたでしょ?
いやー、やっぱりあの頃とは別物だわ……変わってないのは形だけねぇ」
「…………うっせ、ほっとけ」
そうほざいて、恥ずかしがり屋の愚息に、顔を近づける恥知らずの愚姉。
つい、俺の口から、圧し殺した恨み節が零れたのも仕方がない事だと思いたい……いや、
そんな事はどうでもいい。
息がくすぐったいから離れてくれよ姉ちゃん、このまんまだと、その……くっつきそうだし……。
などと、俺が思案に暮れているのをよそに、姉はのほほんとした顔と口調のままに嘯いた。
「いいじゃない、お父さんのみたいに、先っぽが赤剥けになってるよりは可愛いし♪」
「頼むからそれ以上は言わないでくれ」
そんなところを可愛いと言われて悦ぶ趣味は無い、無いったら無い。
ちょっとだけ嬉しいなんて思うはずがあるか!
さておき、ナニに感じるひんやりしたやわらかさもまた、錯覚だと思いた……いッ!?
「な、何すんだ姉ちゃ…!」
見れば、銀灰色の頭頂部が俺の股間を覆い隠し、
そこにあるはずの分身が、生温く湿った空間にすっぽりとくるまれていた。
鼻孔から漏らされる唸り声と、かすかに響く水音を伴奏に、
弾力のある熱いぬめりが、裏筋の辺りをそっとなぞり、
ぷにぷにした枷が、キツいくらいにサオと袋の境目を締めつける。
そして、なぞられた軌跡と縊られる圧力が、
果てる直前と同等の快感を、背筋伝いに脳へと送り届けていた。
反射的に、愚息が、初めて味わう感覚に戸惑いながらも、むくむくと膨張し硬くなっていく。
ネエチャンノクチニ、オレノモノガ、ハイッテル?
ネエチャンガ、オレノナニヲ、クワエテル……?
ネエチャンガ、オレノチン◯ヲ、シャブッテル……
その事を認識した途端、白い花火が、俺の頭の中と股ぐらで、盛大に弾けた。
「んぐっ!? んっ!! んん゙……むぅ…………む〜……♪」
放出にあわせて、断続的に姉が呻く。
途中から声音が心地よさげなものになっていたのは、気のせいだろうか?
やがて、射精が治まっても、姉の頭は変わらず俺の股間にあった。
そして、分身の膨張と、そこから伝わってくる、熱く甘いぬめりもまた――。
「姉ちゃん――?」
「ん……ふぉいひ……♪」
俺の疑問の声を遮る、うっとりとした不明瞭な発音。
続いたのは、ヘソ下の奥から、欲望の残滓を根こそぎ搾り出すような、容赦無い吸引と。
自分の手では絶対味わえない快感に、再び強制的な放出を強いられて、
頭のネジを吹っ飛ばしたような、俺の情けない悲鳴と。
一発目と同様に、何日も出さずに溜めていたような濃度と量を兼ね備えた、
今夜二発目の口内射精だった。
赤い舌が、涎を滴らせながらイチモツの腹を這い回り、粘っこいマーキングを施し、
桜色の唇が、唾液の軌跡をこそぎ落とすように、吸いつきながら上下する。
時折、白い牙がエラを掠め、綺麗に並んだ真珠のような前歯がカリを引っ掻き、
サオの根元や中程に、或いは亀頭との境目に、ほんの僅かに切っ先を沈み込ませる。
うっすらと目元が赤らんだ、酔っぱらったような紫の半眼を釘付けにしているのは、
はじめての快楽に、ただただふんぞり返って精を撒き散らす事しかできなくなっている、
不格好な俺の倅だった。
「むひゅひゅ、ふぃっふぁみふぁっはっひゃふぁへみゃまふへ、ふんもふふぉいひ……」
(うふふ、立派になっただけじゃなくて、すんごくおいし)
幹の中間部分に右手を添えて、飴玉か何かのように、俺の亀頭を舐め回す姉。
瑞々しい唇が包皮を押し下げ、内側にこびりついていた精液が
やわらかくぬめる舌に、みるみる内に削ぎとられて、透き通った唾液に置き換えられていく。
それに伴って、ただでさえ敏感な亀頭が、自慰の時とは比較にならない快感を伝えてきて、
睾丸の奥底で醸し出された濃厚な子種汁が、陰茎の芯を焼き尽くして溢れ出してくる。
何度も放出しているのに、懲りずに込み上げてくる射精感に抗い、俺は何とか言葉を紡いだ。
「姉ちゃ…何で……?」
「むぁ……理由なんて、分かんないよぉ……。
ちゅ…青臭ふへ、ひょっぱくて、れろぉ…苦くって、えぎゅふへぇ……。
鼻とベロが、みゅう…バカに、なっひゃいほー、なのにぃ、
おいひくてぇ、ひゃぶりたくへ……たまんないのぉ……。
ねえ、もっと、もっとちょうだいよ、これをぉ……」
浮かされたような笑顔でむしゃぶりついてくる姉の痴態に、浅ましくも勃起させたまま、
際限無く彼女の口中に欲望をブチ撒けながらも、俺の脳内にひとつの単語があった。
グール。
死体の多い墓場と、南方の砂漠地帯に多く棲息する魔物の一種で、
男性器に対する口淫を何よりも好むアンデッドだという。
なるほど、魔物になったというのなら、姉の蘇生も淫らな変化も納得できるというものだ。
相次ぐ絶頂に眩む目を叱咤し、姉の頭部をあらためて注視してみると、
最初に違和感を覚えた犬歯と同じく、耳も尖って伸びているのがわかった。
あと、俺の精を取り込んだ事による、魔物化の進行の一環だろうか。
姉の頬骨の辺りには、黒い稲妻状の紋様が刺青のように浮かび上がり、
死装束の袖口や裾から覗く四肢は、汗のように滲み出た赤い粘液に包み込まれていた。
観察に没頭している内に感覚が鈍り、反応が薄くなっている事で察したのか、
俺の視線に気づいた姉が、しゃぶっていたモノから口を外し、にんまりと笑う。
ただし、いきり立ったものを優しく握る右手は、萎えさせるのを赦さないかのように、
亀頭から根本までをゆっくり上下させたままだった。
まだるっこしさはあるが、唾液と赤い粘液のおかげだろうか、
姉の手は、自分でしごいた時よりも、数段深い快楽を俺にもたらした。
……先程の彼女の口技には到底及ばなかったが。
余談はさておき、粘っこい合奏を背景に、
彼女からのいたずらっぽい問いかけが、俺の耳に届く。
「どうしたの? じっとあたしの顔なんか見て」
「いや……姉ちゃんは、グールって魔物になっちまったんだろうな、と思ってさ」
「ふーん……」
俺の返答に、姉の笑顔が変わった。
それは、生前の快活なものでも、俺の分身にしゃぶりついていた時の恍惚としたものでも、
さっきまで浮かんでいた、やや意地悪そうなものでもなく。
火照り蕩けた渇望の眼差しは、獲物(おれ)から決して離される事が無く、
ねだるように緩む口元からは、よだれにまみれた牙をぎらつかせて。
愛欲と食欲が入り交じる、危険を感じつつもつい見蕩れてしまうような……
「喰われてもいい」と思えてしまうような、実に魔物らしい、媚態の微笑みだった。
俺の目は、飛び込んできた姉の笑顔を持て余して、持ち主を金縛りにする。
それを尻目に、耳の方は、彼女が漏らした、どこか自棄っぱちな呟きを拾い上げていた。
「……だったら……魔物になっちゃったんだったなら、こんな事をしても問題ないよね?」
その言葉を最後に。
俺の分身が解放され、一瞬だけ、腿にかかる姉の体重が無くなったかと思うと。
肩と後頭部に回る、冷ややかながら安らぎを感じさせる圧力を伴って、
しっとりとした熱い甘みが、俺の唇を抉じ開け、舌に絡みついて扱きあげていた。
「……抵抗、しないんだ」
二、三度俺の舌を味わってから、澄んだ唾液の糸を引いて、姉はポツリと呟いた。
天使が通るという奴か、しばしの沈黙が流れてから、俺もまた、呟きを返す。
返答に時間がかかったのは、姉の体臭を凝縮したような、
口内の置き土産を反芻していたからではない。 気持ちを整理していたからだ。
まあいい、閑話休題。
「…………わる…いや、ダメか?」
のぼる血の気に、高まる鼓動、溢れる冷や汗、勃つ倅。
対面の至近距離で、かすかに不安げな褐色の童顔を見つめ返しながら、
俺は必死にしかめっ面を取り繕う。 正直、そっぽを向いて布団を被りたい。
だが、後頭部を優しく撫でてくる、しなやかな手指の感触と、
緩やかな薄い生地越しに存在を主張してくる、張りのある胸の弾力が、
俺に、彼女からの逃亡を、自分の本性からの逃避を赦してはくれなかった。
と、背中に降りてきた二の腕が、俺を拘束するかのようにぎゅっと締まった。
そうしておいて、姉は、
「ダメじゃ、ないけど……いいの?」
――あたし、魔物になっちゃったんだよ?
――たった一人の、実の弟の◯んちん、悦んで舐めちゃうような……。
――弟の出したものを、おいしいって、ぜんぶ飲んじゃうような……。
「あたし、実の弟相手に欲情してるヘンタイさんだよ?」
しばしの逡巡はあれど、俺の目を、赤く潤ませた紫の目で、じっと見つめながら。
わが姉君(あねぎみ)は、このいやしき愚弟に、実に反応に困るお言葉をのたまわられた。
ああ、言いたい事だけ言い切ったら、早速うつむきやがったし。
そんなんだから、あんたには、ホント……。
……ムラっと、くる。
「じゃあ、俺はなんなんだよ?」
その言葉とともに、勝手に体が動いた。
膝立ちになった俺は、姉の両肩を鷲掴みにすると、
仰向けにした彼女をベッドの上に押さえつける。
……姉の唾液と、自分から吐き出した腺液にまみれたイチモツを、剥き出しにしたままで。
無様? うるさい、そんな事は自分が一番よく知ってる。 何せ……
「物心ついた時から、ずっと……ずっと、ずーっと! 実の姉と夫婦になりたいと思っていた!
男女のコトを知ってからは、寝ても覚めても、あんたを抱きたい、ひとつになりたい!
子を産んで欲しいと思っていた!!
あんたの言い方に倣うなら、俺は魔物以上の変態だ!!!!」
ギリギリと、俺の手の指と、奥歯が軋みをあげていた。
ついでに、華奢な姉の肩の骨も……っと、いかん。
俺は、荒い息をついたまま、握った両手から力を抜いた。
ただし、姉の肩を押さえる姿勢だけは、そのままである。
はっきりいって、汚らわしい強姦魔と大差は無い状態だ。
腕の下の被害者(あね)が、褐色の肌越しでもはっきりと分かる赤面を浮かべて、
呆然と口をパクパクさせている事を除けばだが。
さておき、再度訪れた沈黙は、彼女の途切れがちな呟きによって追い払われた。
「…………えと、じゃあ……」
「何だよ?」
「……相思、相愛?」
「だろうな、そっちがイヤじゃなきゃだけど」
そう俺がぶっきらぼうに言い捨てると、姉は表情をゆっくりと変化させた。
多少の茶目っ気を含む、緩んだ暖かい微笑だ。
その笑みのままに、彼女は覆いかぶさる俺にささやく。
片手を上げての手招きつきでだ。
「…………よ?」
「何だって?」
「…いよ…」
「聞こえない」
「『イヤじゃない』って、言ってんのよ!」
喚き気味な返事とともに、姉は下から俺の上半身を抱きしめた。
そのまま流れるように俺の口に吸いつき、舌先を唇の隙間にねじ込み、
中に潜む俺のそれに接触させている。
紅い侵入者は、俺の持つ同類をからめとって、緩やかに引きずり出し、
唇も動員して拘束した上で、自分の陣地内でにゅるにゅると舐めずった。
舌先同士でのノックに始まって、そこから口中に引き寄せた分を満遍なく舐め回し、
おまけにかすかな頭部の前後動で、唇で挟み込まれた部位にも、触れあう同類にも、
まとめて微弱な刺激を与えている。
まるで、性器の代わりに舌をフェラチオされているような錯覚に、
俺は、拙いながらもひたむきに唇を蠢かし、体重が姉にかからないように注意しながら、
できるだけ密着する事くらいしかできなかった。
「ぷぁ……キスって、おいしいのね」
ひとしきりキスを交わした後、満足げな表情で、姉が俺の頬を撫でた。
対する俺は、赤く硬い顔のまま、無言で首を縦に振るばかり。
野暮ったくウブな反応しかできないのが、恥ずかしくて悔しい。
だが、姉は俺のザマを見ると、口の端を吊り上げて、抱擁と三度めのキスを奪ってくる。
今度は、唇をかすかに、でもひっきりなしに触れあわせる、せわしなくも快いものだった。
やがて、唇に感じていた、甘いどしゃ降りが止んだ。
代わりに、後頭部を押し下げる圧に続いて、耳元をくすぐってくるのは、ひそめられた姉の声。
「ねえ、そろそろ、脱がない?」
死装束越しの下腹部で、ヘソにくっつきそうな息子を押し上げられ、
俺はまた首を上下させざるをえなかった。
しかし、了承の一言を返せただけ、さっきよりはマシだと思いたかった。
するすると、褐色の肌の上を、生地が這い落ちる音がする。
ベッド脇に立った俺は、自分のシャツを脱ぎ捨てながら、
横目で姉の脱衣シーンを窺っていたが、
「見たかったら見ててもいいよ」との有り難いお達しに、あらためて凝視させて貰うことにした。
「さすが魔物以上の変態さんだね」と笑われたが、知らん。
肩紐が肩を滑り、白く長い肌着が床にとぐろを巻く。
すると、小作りながら素直に伸びた背筋が、さらりとした銀灰の長髪越しに窺えた。
視線を下げれば、シンプルで野暮ったい白のショーツに包まれた、張りのある桃のような尻。
そこから伸びるのは肉の引き締まった旨そうな腿、なめらかな曲線を描くふくらはぎと、
しっかりと腱を浮かばせた華奢な足首に、つるりと丸みを帯びた裸足のかかとだった。
目を引いたのは、二の腕同様に赤い粘液が、
腿の中ほどから下を薄くコーティングしていた事だろうか。
俺がヒップの実り具合と脚線美に見惚れていると、姉がこちらを振り向いた。
やや寄せられた眉根と、照れ臭そうな微苦笑が愛らしい。
小柄な彼女は、上目遣いのまま、俺に小声で問いかけてくる。
「どうかな……? もう少し、おっぱい大きい方がよかった?」
「いや、その……姉ちゃんは十分デカいと思う」
口ごもる俺の台詞通りに、無駄な肉の無い二の腕によって、
褐色の果実が変形させられていた。
あいにく先端は隠されてしまっているが、俺の手からいささかはみ出しそうな肉づきと、
両腕で包まれている事で強調された谷間は、しっかりと俺の欲情を誘っている。
ちらりと俺の下腹部に目を向けてから、彼女は安心したように腰に手をかけた。
次の瞬間、慎ましやかな桜色の突起が二つ、赤い残光を虚空に描く。
ショーツを脱ぐ際に、姉が前屈みになった為、双乳が弾んで上下した結果である。
…………それらに気をとられ、姉の最後の秘密を拝みそびれたのは不覚だ。
「はいはい、今からいくらでも見せてあげるから、正直に実況するのはやめてよね」
「面目無い」
気を取り直して、全裸の俺達はベッドの上に舞い戻る。
トンビ座りする姉に膝を突き合わせるように、対面で俺は胡坐を掻いた。
……と思ったら、問答無用で唇を奪われていた。
頬を包み込むひんやりした手のひらの感触と、鼻腔を満たす甘酸っぱい芳香、
おまけに胸板を押してくる双子の果実に反応し、股ぐらで分身が牙を剥く。
……頼む姉ちゃん、ニヤニヤしながら下腹を押しつけてこないでくれ。
そして、俺のナニを、自分と俺の下腹で挟んだり擦りつけたりするのは止してくれ。
「え? 気持ちよくないの?」
「いや、気持ちいいんだが、その……。
挿れる前にイきかねないから、リズミカルに刺激すんのは勘弁してくれないか?」
「むー……しょうがないなぁ」
姉のぼやきと一緒にすべらかな弾力が遠ざかっていき、
ヘソの辺りに押しつけられていた愚息は暴発を免れた。
多少残念な気もするが、どうせなら、はじめては彼女の一番奥で果てたい。
さて、俺が息子をなだめる為に深呼吸をしていると、
対面の姉もまた、いつの間にか胡坐を掻いている事に気づいた。
ただし、後ろ手をついて、脚を開いたままゆっくりと立てようとしているところだったが。
「ん……ね、見える?」
いささか恥ずかしげな声音の呼びかけに、俺は答える間も無く、視線を釘付けにされた。
調度いいタイミングで差し込んでくる、淡い月明かりに照らされ、
ぷにぷにした一対の薄紅色の襞の上端に、
慎ましやかな突起が一粒、ささやかに自己主張しているのが分かる。
襞の狭間に目を向ければ、小さい穴が一つ開いた、少し硬そうな平面部分と、
かすかに縁が膨らんだ、上のそれより大き目の穴。
それらはいずれも、澄んだ蜜のような体液に潤い、ひくひくと震えていた。
その光景と、ほのかに漂ってくる芳香は、たちまちの内に、俺を音の乏しい世界に引き摺り込んだ。
聞こえてくるのは、ドクドクと喧しい早鐘と、
かすかに間隔が短くなっていっている甘い笛のような音と、
何かが狭い場所を転げ落ちるような、くぐもった水音のみ。
ああ、薄赤い花が、俺の目と鼻の先にある。
どこか懐かしい甘酸っぱい香りと、
てろてろと溢れてくる蜜に惹かれて、
俺はそっとそこに口づけた。
一瞬、引き攣るようにそれが震え、耳の奥を突くような高い音がしたけれど、
お構い無しに蜜にまみれた中央のめしべをひと舐めしてみる。
蜜には甘みはおろか味すら無いが、
先程から鼻腔を満たす、俺の頭をぼうっとさせている香りが更に強くなった。
それと一緒に、再び室内に響き渡る、胸の奥がざわつく、高い音色。
もう、止まれなかった。
俺は、まるで飢え渇いたイヌのように、だらしなく舌を曝け出し、
鼻先のふたつの花弁を、小さなつぼみもろともに、上下に何度も舐め回す。
俺が舌先でくすぐるたびに、味の無い蜜と、本能を揺さぶる香りが、
中央の雌蕊(めしべ)穴から際限なく溢れ出してくるのが、
嬉しくて、誇らしくてたまらなかった。
気がつくと、俺の頭は、張りのある褐色の太ももに両脇から挟み込まれていた。
目の前には、充血して赤みを増した姉の秘所が、
牝蜜をブチ撒けたみたいに滴らせて、安物のシーツを変色させており、
口の内外には、何やら薄い粘り気が付着し、
より直接的に件の芳香を俺の鼻腔に捻じ込んでいた。
とりあえず、さっきから息も絶え絶えに、俺の頭を押さえつけている、
両手と太ももの持ち主に、離してもらうよう頼んでみよう。
「あー……死ぬかと思った」
もう死んでるけど、と投げやりに続けて、姉は俺をじっとりとした半眼で見上げてきた。
対して、俺は謝罪の言を重ねる以外に術はない。
後日聞いた話だと、グールの性器の過敏さは、好色で感じ易い魔物の中でも随一の物らしい。
そんなモノを、牝香と嬌声でイかれた俺が、執拗に嘗め回したものだから、
姉はすっかり、足腰に力が入らなくなってしまったようだった。
「はぁ……あんたの童貞、優しく奪ってあげるつもりだったのに」
力なく姉がぼやく。
「奪われるのはちと勘弁願いたいかな」
「言葉の綾よ……ま、いっか。 腰抜けちゃったから、このまま来て」
「……うん」
苦笑しながら手招きする姉のお達しに、俺はおっかなびっくり彼女に覆いかぶさった。
すると、首に褐色の腕が回ってきて、ひんやりした抱擁と熱い口づけが迎えてくれる。
双子の脂肪果実が、俺の胸板を穏やかに押し返しつつ、
すらりとした右脚が俺の腰を撫でるように絡み、
二人がひとつになる前の最後の心の準備を促していた。
数拍の間をおいて、俺は僅かに腰を引く。
今夜、現在まで何度精を放ったか分からなくなるほど、姉の口の中で暴れていた分身を、
本来入るべきところに突き入れて、姉と結ばれる為に。
だが、悲しいかな、俺にはそういう経験が今まで無かった。
よって、どこに肉の剣尖をあてがって突き入れればいいのか分からず、まごまごしている内に、
首に回っていた感触が、分身の中ほどを包み込み、
口内や舌よりもなお熱い、燃える花弁のような肉の質感が、
亀頭にそっと添えられる不手際を晒してしまった。
俺は口でへの字を書いて視線を下ろす。
そこでは、不肖の息子を花園へと導いてくれた、いとしの案内人が、
つややかな唇の狭間から、ニヤニヤと白い牙を覗かせていた。
――ああ、本当に小憎らしくてかわいいなぁ、この姉の笑顔ってヤツは!
「うふふ……じゃ、おいで?」
「……お邪魔します」
再度首に腕を回してきた姉の言に従い、俺はゆっくりと腰を前に突き出す。
充血して膨らんだ亀頭が、めり、めりっと、確かな手ごたえを伝えて、
蜜を湛えつつもキツく締まった肉の花にのめり込んでいった。
さて、ここで姉の身体について、少し話しておきたい事がある、
彼女の褐色の肌は、一度息を引き取った時のまま、凍りついてしまったが如く、
生身よりも多少冷たさを帯びているのだが、
対照的に、唇や舌などの粘膜組織に関しては、生前かそれ以上の温かみを持っている。
そして、外と中の温度差の違いにより、
触れている俺は、違和感に裏打ちされた快楽を味わう破目になる、という事だ。
つまり、何が言いたいのかというと。
「んっ……く、うううっ……!」
「ねえ、ちゃん、膣内(なか)……熱くて、キツ……!」
「あ、まだダメ、もっと、もっと奥ぅ……!!」
ギュウギュウと締めつけてくる、無数の細かい肉の粒が、
童貞喪失を成し遂げ、姉とひとつになろうとする俺の(愚息の)前に、
文字通り牙を剥いて立ち塞がっていた。
先刻、さんざ味わった口内の感触は、舌や唇などによる緩急が付き物であり、
快楽の波にも強弱があったのだが、こちらは…………。
ひたすらうねり、侵入してきた異物を引き摺り込みつつも、
捻り絞って粉砕させずにはおかない、容赦の無い渦潮……いや、
流砂や、蟻地獄のようだった。
まだ全長の3分の1程度しか入ってないというのに、
今にもとば口で暴発してしまいそうなのを堪えて、俺は腰を突き込もうとする。
すると、亀頭の尖端に、今まで通り過ぎてきたものとは明らかに異なる肉が触れてきた。
それは、ひどく頼りなく、その癖狭い膣内一杯をぐるりと取り囲む、張り詰めた襞だった。
それの存在に気づいた俺が、最初にした事は、
目を閉じての深呼吸と、形ばかりの後ずさりだった。
ついでほんの少し腰……いや、分身を前方へと押し出す。
その動きに伴い、襞が撓(たわ)んだり姉が苦しげな金切り声を出すのを確かめると、
俺はもう一度目を閉じ、深く息を吸った。
そして、目を固く閉じて呻き続けていた姉に、
どう形容すべきか、自分でも分からない視線を送った。
「……いいからぁ、さっさと、奥、挿れ、てえぇ…………!!」
搾り出すような途切れ途切れの金切り声に尻を叩かれ、俺は、全力で腰を突き入れた。
その時、耳の奥では、取り返しのつかないものが引き千切られるかのような、
プツプツという音が確かに響いていた。
きっと、俺は生涯その音と感触を忘れまい。
姉の純潔を奪ってしまった時のものだから。
一番いとしいひとと、はじめてひとつになれた時のものだから。
さて、姉の乙女を刺し貫いた、俺の息子が次に味わったのは、
溢れ返っていた愛液の湯浴みに交じる、ぬるりとした異物感と、
固く引き締まった大きく分厚い肉の弾力と…………。
今までの道程で浴びせられてきた肉粒の群れによる刺激が、
子供のいたずらに思えるほどの、強烈な収縮だった。
「ぐあ…っ」
絞め潰されるような圧力に、俺の喉から濁った呻きが搾り出される。
ついで、下腹部で抑え込まれていた白い溶岩が、頭の中と分身の中枢を焼き尽くしながら、肉坩堝のただ中へ溢れ出そうとしていた。
一方、外界の方でも、純潔のしるしをブチ破られた姉の絶叫が、部屋に満ちた淫香をつんざいて響き渡る。
苦痛を訴える悲鳴が、瞬く間に快楽を味わう甘いものへと変わっていくのが、かしましくも心地よい。
ちらりと視線を下ろせば、涙を幾筋か流した姉が、
表情を甘く笑み崩れさせているのがそれに拍車をかける。
だが、そこが限界だった。
中と外との二重の刺激に耐えかねて、俺もまた呻きを漏らしながら、あっけなく、初めての性交に幕を下ろすことになってしまった。
「…………」
「そう落ち込む事無いじゃない、気持ちよかったよ、すっごく」
しばし、脱力の後。
再起動した姉は、優しく俺の肩を数度叩きながら、暴発しちまった愚弟を慰めようとしてくれていた。
だがしかし、いくらさっきまで経験が無かったとはいえ、一番奥に突っ込んだだけで気をやるのはどうかと……。
……自分でそう考えるだけで、また気持ちが沈んでいくのが抑えられない。
ああ、我ながら鬱陶しい。
などと、姉の銀髪のひと房に情けないヘタレ面を隠していると、
左耳の縁に熱く湿った稲妻が走り、痙攣する破目になった。
……情けない、喘ぎ声つきで。
左に流した視線に映るのは、楽しげに舌舐めずりする姉の笑みだった。
「何すんだよ」
「ん? いやね、そろそろ抜けた腰も戻った気がするし、いとしの弟にちょっと名誉挽回の機会を与えてあげようかな、と」
そっちは準備万端みたいだしねえ。
そう結んで、彼女は目を軽く閉じて唇を尖らす。
おまけに、繋がったままの下半身の方では、焼けつくような肉の坩堝が、再びグルリとうねりをあげた。
俺はため息を一度つき、力んで咥え込まれたままの分身に活を入れると、
「……お手柔らかにお願いします、姉様」
小声で嘯いて、目の前の桜色に口づけた。
11/03/09 12:23更新 / ふたばや