連載小説
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以心
それからというもの、毎晩優璃は俺が眠ると、いつの間にかベッドにいて、とても考えられない気持ち良さにしてくれる。 夢にしてはやけにリアルだけど、でも朝起きれば彼女は前の晩と寸分違わない姿で、ガラスケースの中にいる。 本当に動いているにしても、どうにも不思議でならない。

さて、今日は仕事が休みである。 前の晩、俺はあの何も考えられなくなる程の、とてつもない快感に必死に耐えながら、優璃に何か欲しい物は無いかと聞いてみた。 彼女を喜ばせてあげたいから、可能な限りは用意してあげたいし、夢なのか現実なのかも確かめてみたいとの思いで、尋ねてみたら、他にも服が欲しいということだった。

さて、俺は彼女を助手席に乗せて、車を出した。 以前とは違い、ちゃんと座った姿勢でいられる彼女を載せているのは、まるでデートでもしているような気分にしてくれる。 とはいえ運転中に彼女のことを見てなんてことは流石にできない。 よそ見運転で事故でも起こそうものなら、彼女のことどころではなくされてしまう。

到着だ。 駐車場で車を止めると、彼女をお姫様抱っこで運ぶ。 以前、彼女の修理用に部品や道具を買う際にも来た人形店だ。 彼女が言うには欲しい服はここにあるらしい。 確かにここは人形用の服も取り扱っていて、今着ている服も、ここで買ったのだから、ありそうな気はするが、夢で言われたはずなのに、本当に置いてあるとすれば正夢にも程があるだろう。

店内に入ってしばらくすると、以前のあの店員さんが声を掛けて来た。

「いらっしゃいませ、またお来し頂いてありがとうございます。」

「ああ、この前はどうも、おかげで無事修理もできましたよ。」

「はい、そちらを見ればよくわかります、それで、本日はどのようなご用件でしょうか?」

俺は事情を話した。 夢で彼女に欲しい服があると頼まれたこと、そしてそれはここにあると聞いたこと、もし職場の誰かに言ったりしたら、笑われそうな話ばかりだけど、なぜかこの店員さんには平気で言えた。 店員さんもまた、真剣に聞いているのがわかる。

「そうだったんですね、大切になさっているようで、もちろん私達も嬉しいですけれど、1番喜んでいるのは彼女ですね。」

「やっぱりそう思いますよね。」

「ええ、それでは御案内致します。」

そして店員さんについて行くと、前回の服を買ったのとは別のコーナーにたどり着いた。

「こちらでございますね。」

店員さんが陳列されている服を1着取り出す。 それは正に、夢で彼女が欲しいと言っていたものだった。 事実は小説より奇なりとはよく言ったものだ。 いくら何でもここまで凄い正夢があるなんて、驚かずにはいられなかった。

だがそこで、店員さんは不思議なことを言った。

「それは夢ではございません、お客様とそちらの彼女との間で、気持ちが正しく通じ合っていることなんです。」

「気持ちが通じ合って、ですか?」

「ええ、お客様は以前、幼少の頃から、そちらを大切になさっていたと、話しておいででしたね。」

覚えていてくれたのか、そのことに驚いたが、そのことが俺には、この店員さんは信用できるという確信を持たせるものだった。 そこで彼女について知っていることを全部話した所、これには店員さんも感心した様子で、それで気持ちが通じ合っているんですねと納得していた。

「彼女はお客様に感謝してもし切れない気持ちでいます、どうかこれからも末永く、大切にしてあげてくださいね。」

俺としては、こんなに親身になっていろいろ協力してくれる店員さんにも、感謝しなくてはいけないという気持ちだった。 もしかすると、この店が評判なのは、店員さんがいいからなのかもしれないな、そんなことを考えていた。

さて、彼女が欲しがっていた服を、とりあえず2着購入して、今日はこれで帰ることにした。

「ありがとうございました。」

あの店員さんに見送られて、俺は駐車場に向かうと、彼女を助手席に座らせ、後席には今回買った服を積むと、車を出した。 あの店員さんは、俺が彼女を連れて来るのが、デート気分なことも、気付いているのだろうか? そんなことを思い浮かべてしまった。

そして到着すると、さっそく彼女の着替えに取り掛かった。 以前着せたものを丁寧に脱がせ、そして新しい服を着せると、これがとてもよく似合っている。 もちろん前のもとても良く似合っていたのだが、これは彼女の美しさを見事に引き立てていて、欲しがるのも納得だと言えるものだった。

「喜んでもらえているかな?」

あの店員さんなら、きっとわかるんだろう、そう思いながら、彼女をガラスケースに入れて、この服に似合うポーズを考えてみる。 しばらくして、これはと思うものが思い浮かんだので、早速してもらうと、思っていた以上に良くできた。

「きれいだよ、ユリ。」

その美しさに息を呑みつつ、挨拶をしてガラスケースを閉じると、食事の用意を始めた。 そして食事を終えて後片付けも済ませると入浴し、その後はいつものように彼女を呼びに行く。

「じゃあまた、一緒にTVを見ようか。」

ガラスケースを開けて彼女を連れ出し、ソファに座ると膝に乗せて、TVをつけた。 今日は特に見たい番組のある日でもないが、せめてニュースくらいは見ておきたい。 しばし彼女に番組の内容について話しながら、ベッドに入る前のひと時を過ごした。
20/11/06 19:19更新 / Luftfaust
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■作者メッセージ
今回は主人公が優璃のことを夢なのか現実なのかと考え始めています。
サブタイトルは心が通じていることを表す狙いです。
さてまたあの店に来ました、今後も来店はさせる予定になっています。

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