連載小説
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伝心
なぜだろうか、彼女を膝に乗せていると、普段なら特に何とも思わないTVの内容まで、楽しく思えてしまう。 いや、TVだけじゃない。 いろいろと楽しく思えることが増えたし、仕事だって思っていた以上にうまく行くことが続いている。

「これも全部、ユリのおかげなのかな。」

考えてみれば、あの大修理をして以来、彼女の夢を見ない夜は無い。 しかもその時の彼女は、動いたりしない人形ではなく、ちゃんと人間と同じように動き、話もできる。 しかも、そこで彼女が話すことは、全て本当に起きていることだ。 不思議なことではあるが、夢にしては妙にリアル過ぎる。

「さて、明日は朝早いし、もうおやすみの時間だね。」

彼女をガラスケースに戻すと、新しく買って着せた服によく合う姿勢にして、そして耳元に囁く。

「今日も楽しかったよ、できれば今夜もよろしくな、ユリ。」

そう言うとガラスケースを閉じて、俺はベッドに入った。 そういえば、初めて一緒にTVを見た時には、ちゃんと理解できているか気になったけど、今ならもう心配いらないかな、そんなことを思いながら目を閉じると、眠りへと入って行くのに、そう時間はかからなかった。

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「ねえ、ケンジ。」

また彼女の、美しい声が聞こえてきた。 もちろん、俺の上に乗っかる柔らかい感触と、下からはとてつもない気持ち良さも一緒に。

「ユリ、やっぱり来てくれたんだね。」

彼女が俺の上に重なっている。 もちろん今日着せた通りの格好で。 でもなぜだろうか、繋がっているであろう場所の気持ち良さが、昨晩までよりずっと上がっている。

「うん、この前のお願い、聞いてくれたから、お礼がしたいの。」

成程、確かにそれなら心当たりがある。 いつも以上に、優璃が来てくれそうな気がしていたから、その予感は正しかったわけだ。

「ああ、それって、今日買ったドレスのことだろう。」

「そうだよ、とっても嬉しいから、ありがとうって言うだけじゃ足りなくて。」

「そんなに喜んでくれるなら、俺も嬉しいよ。」

「今はまだ、こうして夢の中でしか、面と向かってお礼はできないから、まだ感謝が足りない気がしちゃうの。」

「そんなことなら、気にしなくていいよ、それに、せっかくその格好で会いに来てくれたんだから、俺の方も言わなくちゃいけないことがあることも、わかっているよな。」

「ケンジが言いたいこと、あったら聞きたい、聞かせて頂戴。」

「うん、じゃあよく聞いて欲しいな、きれいだよ、ユリ。」

喜んでもらえているその表情がいいせいか、彼女は普段以上に美しかった。 こんなに喜んでもらえるなら、あの程度の出費は、安いものだったんだろう、自然とそう思える自分がいた。

「嬉しい、ケンジ大好き、ちゅっ。」

彼女が俺の頬にキスをした。 やっぱりぷるぷるとした、柔らかい唇の感触、人形ではあり得ない、夢の中だからできることなんだろうとは思うけれど、それでもやっぱり嬉しかった。

「俺もだよ、大好きだよ、ユリ。」

こちらからも、同じように、優璃の頬にキスをする。 彼女からの愛が伝わったように、俺からの愛も彼女に伝わっていて欲しいとの思いを込めて。

しかし、そこで思い掛けない言葉が彼女から出た。

「それと、今こうしてるだけじゃ足りない分のお礼もしたいから、今を楽しむだけじゃなくて、朝を楽しみにしてて欲しいの。」

それを聞いて、俺は不思議に思った。 今ではなく、朝に楽しみにしていて欲しいことって、いったい何があるんだろうか?

だがそこで、気持ち良さのあまり、夢の記憶は途切れてしまっていた。
20/11/24 18:40更新 / Luftfaust
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■作者メッセージ
しばらく間が空いてしまいました。
楽しみにしていてくれる人がいるとしたらちょっと悪いことをしたかなとは思います。
実は1度執筆中に消えるというアクシデントがあり、それで書くのをちょっと休みたくなってしまいました。
そのため本来の予定とは若干異なる内容になった部分があります。

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