命名
さて、同じデザインで青、黒、赤の3色があるドレス、その中から最初に店員さんが見せてくれた青を着せることにしたが、その前に、組みあがって久々に自分で立てるようになった彼女の全体をよく見ることにした。 人形であることは最初からわかっているのに、見れば見る程に美しい、これが本当に命があり、俺と相思相愛だったりしたら、そんなことを考えてしまう。
さて、いつまでも眺めてもいられないし、せっかく完成したのに裸のままでは彼女にも悪いので、そろそろ着せよう。
袖を通す時、腕の関節の動きの良さに改めて気付かされる。 修理前のへたった関節だと、動かすのはともかく、その位置を保持できないので、ちょうどいい角度にしておけなくて、脱がせるのは意外と面倒だった。 だが今は違う、スムーズに動いてくれるし、それでいて止めればちゃんとその位置を保持してくれるので、すんなり腕を袖に通すことができた。
揃いの手袋や靴下、さらに靴も履かせて、想定していた以上に早く、新しいドレスを着せるのは済んだ。 ガラスケースに入れて、どんな姿勢をさせるのがいいか、これがかなり問題だった。 せっかくの彼女の美しさを最大限に引き出せる姿勢はどんなものか、あれこれ動かしながら、こうだろうかと試さずにはいられない。
こちらは思っていた以上に時間がかかり、着替えが早かったことで浮いた分以上を消費してしまった。 気付けばもう遅い時間になっていたが、その時まるで狙いすましたかのように、これだと言えるものが考え付いた。 早速彼女をその姿勢にしてみると、これが見事に決まり、そのあまりの美しさには正に度肝を抜かれるものだった。
最後に、修理で外した部品等を透明な箱に入れて、ガラスケースの左奥の角に入れた。 もう役に立たなくなっていたとはいえ、本来ならこれが彼女を内側から支えていた部分である、もしかすると彼女自身は思い入れもあるかもしれないので、傍に置いておきたいし、処分という考えは元々無かった。
さて完成したのに合わせて、彼女に名前を付けることにした。 元々は明治時代につけられた名前があるとは思うが、曽祖父が亡くなるまでに聞くことはできなかったので、どんな名前だったのかはわからないし、当時を知る人が生きているとも思えないので、もはや知っている者もいないだろう、かと言って、名前がわからないままでは、彼女への話し掛け方も決められないので、勝手かもしれないけれど、修理中に考えた名前を使うことにして、そこで明日に備えて休むことにしたた。
「おやすみ、ユリ。」
漢字で書けば優璃、それが彼女につけた名前である。 そのうち何か、名前の入ったものでも作ってやろうかな、そんなことを考えながら、ベッドで横になり、目を閉じた。
====================
「ねえ、ケンジ。」
俺の名前を呼ぶ声がして驚いた。 いったいここはどこだ、誰がいるんだ、そんなことを思ったが、まわりはぼんやりとしていて、何だかよく見えない。 俺のベッドに誰か入って来て、乗っかっているような、何やら柔らかい感覚はあるのだが、そちらもやはり、姿を見ようとしてもぼんやりとしていて、やっぱり誰なのかはわからない。 そしてこれに驚いたせいだろうか、金縛りにでもあったように、体が動かない。 ハッキリしているのは、俺の名前を呼んでいるのは女の声、それも、今まで考えたことも無い、美しい声だということだ。
「私のこと、助けてくれてありがとう。」
俺の上に乗っかっている、声の主と思わしき、どう考えても女性であろうその誰かは、そんなことを言っていた。 だが今まで、そんなに礼を言われる程、誰かを助けたりしたことがあっただろうか? とても思い出せない。 ただ、とにかく気持ち良過ぎて、何かを考えようという気になれない。 いったい何をされているんだろうか。
「やっとお礼ができるようになったから、これで今までの分、ちゃんと感謝の気持ちを伝えられるよ。」
そんなことを言っていたが、それが何者なのかは、結局わからなかった。 ただ気持ち良過ぎるあまり、他のことは何も考えられなかった。 他にも何か言っているようではあったのだが、とてもそこまで頭が回せるものではない。
さて、いつまでも眺めてもいられないし、せっかく完成したのに裸のままでは彼女にも悪いので、そろそろ着せよう。
袖を通す時、腕の関節の動きの良さに改めて気付かされる。 修理前のへたった関節だと、動かすのはともかく、その位置を保持できないので、ちょうどいい角度にしておけなくて、脱がせるのは意外と面倒だった。 だが今は違う、スムーズに動いてくれるし、それでいて止めればちゃんとその位置を保持してくれるので、すんなり腕を袖に通すことができた。
揃いの手袋や靴下、さらに靴も履かせて、想定していた以上に早く、新しいドレスを着せるのは済んだ。 ガラスケースに入れて、どんな姿勢をさせるのがいいか、これがかなり問題だった。 せっかくの彼女の美しさを最大限に引き出せる姿勢はどんなものか、あれこれ動かしながら、こうだろうかと試さずにはいられない。
こちらは思っていた以上に時間がかかり、着替えが早かったことで浮いた分以上を消費してしまった。 気付けばもう遅い時間になっていたが、その時まるで狙いすましたかのように、これだと言えるものが考え付いた。 早速彼女をその姿勢にしてみると、これが見事に決まり、そのあまりの美しさには正に度肝を抜かれるものだった。
最後に、修理で外した部品等を透明な箱に入れて、ガラスケースの左奥の角に入れた。 もう役に立たなくなっていたとはいえ、本来ならこれが彼女を内側から支えていた部分である、もしかすると彼女自身は思い入れもあるかもしれないので、傍に置いておきたいし、処分という考えは元々無かった。
さて完成したのに合わせて、彼女に名前を付けることにした。 元々は明治時代につけられた名前があるとは思うが、曽祖父が亡くなるまでに聞くことはできなかったので、どんな名前だったのかはわからないし、当時を知る人が生きているとも思えないので、もはや知っている者もいないだろう、かと言って、名前がわからないままでは、彼女への話し掛け方も決められないので、勝手かもしれないけれど、修理中に考えた名前を使うことにして、そこで明日に備えて休むことにしたた。
「おやすみ、ユリ。」
漢字で書けば優璃、それが彼女につけた名前である。 そのうち何か、名前の入ったものでも作ってやろうかな、そんなことを考えながら、ベッドで横になり、目を閉じた。
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「ねえ、ケンジ。」
俺の名前を呼ぶ声がして驚いた。 いったいここはどこだ、誰がいるんだ、そんなことを思ったが、まわりはぼんやりとしていて、何だかよく見えない。 俺のベッドに誰か入って来て、乗っかっているような、何やら柔らかい感覚はあるのだが、そちらもやはり、姿を見ようとしてもぼんやりとしていて、やっぱり誰なのかはわからない。 そしてこれに驚いたせいだろうか、金縛りにでもあったように、体が動かない。 ハッキリしているのは、俺の名前を呼んでいるのは女の声、それも、今まで考えたことも無い、美しい声だということだ。
「私のこと、助けてくれてありがとう。」
俺の上に乗っかっている、声の主と思わしき、どう考えても女性であろうその誰かは、そんなことを言っていた。 だが今まで、そんなに礼を言われる程、誰かを助けたりしたことがあっただろうか? とても思い出せない。 ただ、とにかく気持ち良過ぎて、何かを考えようという気になれない。 いったい何をされているんだろうか。
「やっとお礼ができるようになったから、これで今までの分、ちゃんと感謝の気持ちを伝えられるよ。」
そんなことを言っていたが、それが何者なのかは、結局わからなかった。 ただ気持ち良過ぎるあまり、他のことは何も考えられなかった。 他にも何か言っているようではあったのだが、とてもそこまで頭が回せるものではない。
20/10/30 09:10更新 / Luftfaust
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