騎士団長の鬼嫁な日々
ええ、俺たちは勝ちましたよ? 街は救われましたよ? ……物語みたいにそこでめでたしで終われればいいんだけどな。ホントに。
「で、いなくなったのは何人だって?」
「第1、第2部隊から7人、第3が2人、第4が2人に、第5が1人。全隊員52人のうち、戦中失踪者は合計12人だ」
「うわ、今月多いな……」
「三ヶ月ぶりに10人を越えたな」
俺と副団長は、二人で被害状況の確認作業をしている。
昨夜の戦いの後、兵たちはいる奴の確認だけして全員帰らせた。太陽はとっくに顔を出してるってのに、俺ら二人は不眠不休。
眠い、疲れた、逃げたい。戦いに勝って街を守ったのに亡命したい。仕事しなくていいならそれでいいや……。いや、むしろ亡命することによって団長としての俺という存在はこの世から消えて俺はそのしがらみから解放されてアハハハハハ
「おい、しっかりしろ」
「はっ」
副団長に揺り起こされて、俺は現実という地獄に引き戻された。
「ああどうして俺を連れ戻したんだバカお前もう仕事したくない逃げたい」
「いや、仕事終わったから起こしたんだが……」
「へ?」
どうやら無意識のうちに眠ってたらしい。しかもけっこう長い間。
見れば、机の上に散乱していた資料はきっちり整頓され、俺の目の前には何枚か重ねられた羊皮紙がある。パラパラとめくると、必要な内容を抽出、まとめた完璧な報告書だった。
「いやー、オルト君は実に優秀だなー。マジで感謝感謝」
「そう思うなら、もう少しこの人の休暇を増やしてもらいたいわね」
「うぉい!?」
背後からの声に驚いて振り返ると、仏頂面の女性が立っていた。肩くらいまでの朱髪に、そのまま貴族の舞踏会に行けそうなドレスを着ている。
彼女は副団長ことオルトの妻で、略称タトラ。本名は長くて覚えてない。容姿端麗、頭脳明晰、家事万能、スタイル抜群に血筋上等というアンタはいったいどこの何星人だ的なスペックの持ち主だ。
「で、なんでここに? ……あ、もしかして」
「ええ、私とオルトで作っておいてあげたわ。感謝しなさい」
「あーなるほど、この報告書は夫婦の協同作業だったワケ」
「そういうことだ。提出するのはお前の役目だからな」
後は頼んだと椅子から立ち、妻を連れだって帰って行く副団長。……俺もさっさと報告書出しに行くか。帰ってちゃんと寝たい。
※※
「ただいまぁ……」
結局、俺が家に帰れたのは昼過ぎになってだった。ただでさえそこそこでかい街なのに、ウチがあるのは壁に囲まれた「中街」じゃなく、その外。街の北側、森の中にある「裏街」だ。昨日からのハードワークに疲れきった身体でここまでたどり着くのがどれだけ大変かって話。
だいたい、久々に行方不明者が1人出たくらいでうるせーんだよ上の奴らは。戻ってくるかどうかは知らねーが、男としては幸せだろうからいいだろ別に。
あぁダメだ、思い出したらまたドッと疲れが……。誰か、俺に食事と睡眠を、栄養と休息を。特に休息。このままだと「疲れたよパトラッ(ry」は避けられませんよ。
「ようやく帰ってきたか。相変わらずそちらの軍隊は面倒だな」
玄関でうだうだしてると、眼光鋭いマイハニーが出迎えてくれた。料理でもしてたのか赤いエプロン姿で、タオルで手を拭きながら寄ってくる。
しかし毎日見てるけど、相変わらずウチのハニーはエプロンが似合いませんですね。これがはだエプだったら話は違うのかもだけど、何度頼んでもやってくれないし。
「おう……も、ムリ……寝る……」
「やれやれ、仕方ないな。ほら、肩を貸してやる」
「ありがと……」
嫁に支えられながら、どうにか寝室へ。ベッドに倒れ込み、あっという間に夢の世界とこんにちは。あ、ナイトメアさんはお断りです。『死因:浮気』とかカンベンなんで。
「そうだ。寝る前に、夕飯は何が――っておい、聞いてるか?」
眠りに落ちる前の一瞬、目に映ったのは、スミレ色の長い髪だった。
※※
俺が目を覚ますと、既に外は暗くなっていた。……と言いたいところだが、どうやら俺の疲労は予想を遥かに越えていたようだ。
窓の外が明るい。鶏の鳴き声が聞こえる。……そして、下の方から聞こえる水音と、ムスコから送られてくる快感。
ええ、嫁が朝勃ちしたムスコをくわえ込んでいましたよ。起きる前に何発か搾り出したみたいで、口の周りには精液がへばり付いてます。エロいです。ちんこ勃ち――もう勃ってますね。てかもう出してるしね。
「む、やっろおひらか(やっと起きたか)」
「くわえたまま喋んな、頼むから」
気持ちいいから。出ちゃうから。いやお前は出させるためにくわえてるんだろうけど。
「……(ズズー」
「っ、あぅ……おま、そんな吸ったらっ……!」
ビュクッ!
言わんこっちゃない。クーガーさんはそんなバキューム耐えられませんよ。まぁ、耐えたら耐えたでこの嫁はさらに苛烈に攻めてくるんですけどね。
俺が吐き出した精液を、嫁は嫌な顔一つせず、というよりむしろ恍惚の表情で飲みこんでいく。最後の一滴まで飲み干して、ちんこの中のも吸い出してからようやく口を離した。
「ふぅ、ようやく精を補給できた」
「あー……悪い。昨日一日、キツかったろ」
「まったくだ。帰ってくれば早々に寝てしまって起きる気配もないし、起こしても起きないし」
紅く輝く切れ長の瞳で睨まれて、俺は縮こまる。ヤバイよ、かなりご機嫌ななめだよ。背景になんか濃い紫色のオーラ的なのが漂ってるよ。今回は首落としたから精の消費とかヤバかったんだよコレきっと。だっていつもなら朝フェラしたら1分くらいはぽけーっと蕩けた顔してるのに、それすらないとか。
「ホントすみません今日の夜ガンバるんで勘弁して下さいギリカ様」
「……言ったな? ならばクーガー、お前は今日も徹夜だ。覚悟しておけ」
ひぃ。
ギリウェルカ・トーサイズ、愛称ギリカ。それがウチの嫁の名前だ。
第3魔物戦団戦士長として月イチで街に攻めてくる、まさにご本人様。俺に今も続く右脇腹痛の原因のパンチを食らわせた、まさにその本人。
デュラハンって種族で、魔界の騎士だそうで、首が取れる。俺は時々外そうとしては失敗し、二重の意味でこってり搾られている。
だが、成功すれば首が取れてる間はなかなか可愛いこと言ってくれるんだ。やめられるわけないじゃないか。と、何度も主張してるけど周りの理解は得られない。「日常生活中にいきなり取ろうとするからだろ。ちゃんとそういうムードなら向こうから外すだろ」って言われる。なんでや! あえて日常でやるから首無しモードの落差が際立つんやろ! って言うとヒかれる。悲しい。
「どうした、早く来い」
「つったってお前、この荷物の量じゃどうにも……」
コビヤーク中街、昼過ぎ。
妻の買い物の荷物持ちをさせられる、哀れな夫の姿があった。……俺だけどなっ!!(泣)
目の前を歩くギリカは、惚気だとわかって言うけど美人だと思う。てか美人。世界一の。真面目で堅物な性格を表すような、切れ長で紅い瞳。戦いの時は縛るスミレ色の髪は普段は背中の中くらいまでのワンレングスで、服や鎧を着ていてもわかるほどの、ぼんきゅぼーんなグラマラスバディ。
そんなマイハニーだが、今はその尖った耳を隠すために帽子をかぶり、首が落ちないようにスカーフを巻いている。
一応この街は反魔物地域に隣接してるから、そういう規則があるわけで。第5隊長の嫁のアヌビスなんかは、わざわざ高度な幻術使ってるし。
まあ建前だから、気にしてる奴の方が少ないんだけどな。中立を名乗ってるのも月イチでVS魔王軍やってんのも隣が攻めてこないようにパフォーマンスしてるだけで、事実上親魔物領だし。中街は人間しか住んでないハズだけど、裏街は俺らと魔物嫁しかいねーからいつ魔界化してもおかしくねーし。
「シャムネリア! 貴様、帽子すら被っていないとはどういうことだ!?」
「にゃ〜ん。ギリカ、そんな規則なんか守ってる方が珍しいのにゃ〜」
カフェテラスでゆっくりしてるワーキャットとか、まったく隠す気ないし。まあ、手足のモフモフは魔法以外で隠すのは厳しいとしてもだ。小麦色のネコミミも、ピコピコ動く尻尾も。まる見えですよ、ええ。
「貴様という奴は……クーガー!」
「んぁ?」
ギリカはそのワーキャット、シャムネリアを指差し、一言。
「コイツを捕らえて、反魔物領に送っておけ!」
「はぁ!?」
「ニ゛ャ〜ッ!?」
俺とシャムネリアは、揃って飛び上がった。
魔物が捕まって反魔物領に送られれば、生死に関わらずロクなことはない。逆に反魔物領で旦那捕まえてくる強者もいるけど、それは置いといて。見世物とかならまだマシな方で、なんかもう聞いてるだけで『お前ら人間じゃねぇ!』と目を細くして叫びたくなるくらいなアレも色々とアレな感じらしい。
にも関わらず、この女はそれをやれと言いやがった。
「それが嫌なら、最低限その耳と尻尾を隠すことだな」
「うう……ちょっと帽子買ってくるにゃ……」
ズボンの下へ尻尾を押し込みながら、シャムネリアはとぼとぼ歩いていった。そして、彼女が座っていた席につくギリカ。
……はっ!?
ふと気がついて周りを見れば、その席以外は全部埋まってる。つまりさっきのワー猫さんを入れれば満席だったことに。
おいちょっと待て、まさかその為にあんなトンデモなこと言ったのか? その席をよこせ、さもなくば死ね。みたいな? ……我が嫁ながら、凄まじい鬼畜っぷりだぜ……。
「どうしたクーガー。お前も座れ」
「うい」
でも文句は言わない言えない言わせんな。だって恐いんだもん。
「いらっしゃいませ、ご注も」
「コーヒー、ブラックで」
ウェイトレスが言い切る前に突っ込むギリカ。
ウェイトレスさんはやや面食らった様子だったが、わりとすぐに(比較対象:過去にギリカに注文を取った方々)落ち着きを取り戻した。
「あ、はい、コーヒーですね。そちらは?」
「あ、俺はミルクティー。ミルクと砂糖多めで」
俺の注文を聞いて、ギリカがピクリと眉をひそめた。
「あー甘い。疲れた体に糖分が染みるぜ……」
ダダ甘なミルクティーをすすりつつ、ゆっくりと息を吐き出す。
向かいの席では、ギリカが黒々としたコーヒーをちびちびやっている。ただし、恨みがましい目で俺をねめつけながら。
そんな目で睨まれたって知らんもんね。自分で苦いの頼んだんだろ、超甘党のギリカちゃん♪
コイツは甘いのが大好きなくせに、子供っぽいと思われるのが嫌だからって、他の奴がいる場所では絶対に甘味を口にしない。みんな薄々は、いや、確実に気付いてると思うんだけどなあ。なんせ、みんながみんないろんな機会には『俺宛てに』甘々な菓子をくれるくらいだし。
……さて、ギリカの目尻の吊り上がりっぷりがストップ高に達しそうだ。そろそろフォロー入れないと、帰ってから*される。
「甘すぎて口の中がベタベタする……ギリカ、そのコーヒーくれ」
「ふん、馬鹿が。少しだけだぞ」
そのわりにソーサーごとこっちにやるのな、お前。少しだけならカップ渡しゃいいのに。
「いただきまーす」
ぐいっ。
「あっ」
一気に流し込むと、ギリカが驚いたような声を出した。
ソーサーにカップを戻す。当然、そこには黒い液体はまったくない。
「少しだけと言ったろうが……」
「じゃあもう一杯頼むか? ウェイトレスさーん」
「ま、待て!」
「でも、もう呼んじゃったし」
「きさまぁ……」
いやー、普段以上に鋭い眼光がイタイイタイ。
そこへ、ウェイトレスさんがトコトコやってきた。
「追加のご注文ですか?」
「いや、会計で」
俺のその言葉に、ギリカは目をぱちくり。
さっきまでの表情からの、そのギャップやよし! 普段からそんな表情してくれりゃ可愛いのになあ。いやツリ目のギリカももちろん大好きだけど、やっぱレア度が高――あ、じゃあ普段からそれじゃ駄目じゃん。でもそうなると今度はツリ目がレアに……甲乙つけがたいねこりゃ。
「なあ、ケーキ屋行こうぜケーキ屋」
「なんだ、突然」
一通り買い物も終わり、そろそろ帰ろうかという頃。俺はさも今思いついたかのように提案した。
「いや、隊のヤツから聞いたんだけどさ。西通りのケーキ屋がこないだ新作出したって」
「それで、その新作とやらを食べたいと」
「うん」
「……いいだろう」
目をキラキラさせながら、何が『いいだろう』かと。本当に素直じゃねえよな、コイツは。
あ、てか歩くスピードが格段に上がった! 速え! 俺は荷物持ってるからただでさえ遅れぎみだってのに!
「遅い、置いていくぞ!」
「ちょっ……」
本当に俺を置き去りに、ギリカはますます加速していく。
どんだけ楽しみなんだよ。先に行ったって、一人じゃ恥ずかしくて店に入れないくせに。
「待てよ、オイ!」
荷物の重さと多さにふらつきながら、可愛くないけど可愛い嫁の姿にニヤつきながら。俺はギリカの後を追うのだった。
「で、いなくなったのは何人だって?」
「第1、第2部隊から7人、第3が2人、第4が2人に、第5が1人。全隊員52人のうち、戦中失踪者は合計12人だ」
「うわ、今月多いな……」
「三ヶ月ぶりに10人を越えたな」
俺と副団長は、二人で被害状況の確認作業をしている。
昨夜の戦いの後、兵たちはいる奴の確認だけして全員帰らせた。太陽はとっくに顔を出してるってのに、俺ら二人は不眠不休。
眠い、疲れた、逃げたい。戦いに勝って街を守ったのに亡命したい。仕事しなくていいならそれでいいや……。いや、むしろ亡命することによって団長としての俺という存在はこの世から消えて俺はそのしがらみから解放されてアハハハハハ
「おい、しっかりしろ」
「はっ」
副団長に揺り起こされて、俺は現実という地獄に引き戻された。
「ああどうして俺を連れ戻したんだバカお前もう仕事したくない逃げたい」
「いや、仕事終わったから起こしたんだが……」
「へ?」
どうやら無意識のうちに眠ってたらしい。しかもけっこう長い間。
見れば、机の上に散乱していた資料はきっちり整頓され、俺の目の前には何枚か重ねられた羊皮紙がある。パラパラとめくると、必要な内容を抽出、まとめた完璧な報告書だった。
「いやー、オルト君は実に優秀だなー。マジで感謝感謝」
「そう思うなら、もう少しこの人の休暇を増やしてもらいたいわね」
「うぉい!?」
背後からの声に驚いて振り返ると、仏頂面の女性が立っていた。肩くらいまでの朱髪に、そのまま貴族の舞踏会に行けそうなドレスを着ている。
彼女は副団長ことオルトの妻で、略称タトラ。本名は長くて覚えてない。容姿端麗、頭脳明晰、家事万能、スタイル抜群に血筋上等というアンタはいったいどこの何星人だ的なスペックの持ち主だ。
「で、なんでここに? ……あ、もしかして」
「ええ、私とオルトで作っておいてあげたわ。感謝しなさい」
「あーなるほど、この報告書は夫婦の協同作業だったワケ」
「そういうことだ。提出するのはお前の役目だからな」
後は頼んだと椅子から立ち、妻を連れだって帰って行く副団長。……俺もさっさと報告書出しに行くか。帰ってちゃんと寝たい。
※※
「ただいまぁ……」
結局、俺が家に帰れたのは昼過ぎになってだった。ただでさえそこそこでかい街なのに、ウチがあるのは壁に囲まれた「中街」じゃなく、その外。街の北側、森の中にある「裏街」だ。昨日からのハードワークに疲れきった身体でここまでたどり着くのがどれだけ大変かって話。
だいたい、久々に行方不明者が1人出たくらいでうるせーんだよ上の奴らは。戻ってくるかどうかは知らねーが、男としては幸せだろうからいいだろ別に。
あぁダメだ、思い出したらまたドッと疲れが……。誰か、俺に食事と睡眠を、栄養と休息を。特に休息。このままだと「疲れたよパトラッ(ry」は避けられませんよ。
「ようやく帰ってきたか。相変わらずそちらの軍隊は面倒だな」
玄関でうだうだしてると、眼光鋭いマイハニーが出迎えてくれた。料理でもしてたのか赤いエプロン姿で、タオルで手を拭きながら寄ってくる。
しかし毎日見てるけど、相変わらずウチのハニーはエプロンが似合いませんですね。これがはだエプだったら話は違うのかもだけど、何度頼んでもやってくれないし。
「おう……も、ムリ……寝る……」
「やれやれ、仕方ないな。ほら、肩を貸してやる」
「ありがと……」
嫁に支えられながら、どうにか寝室へ。ベッドに倒れ込み、あっという間に夢の世界とこんにちは。あ、ナイトメアさんはお断りです。『死因:浮気』とかカンベンなんで。
「そうだ。寝る前に、夕飯は何が――っておい、聞いてるか?」
眠りに落ちる前の一瞬、目に映ったのは、スミレ色の長い髪だった。
※※
俺が目を覚ますと、既に外は暗くなっていた。……と言いたいところだが、どうやら俺の疲労は予想を遥かに越えていたようだ。
窓の外が明るい。鶏の鳴き声が聞こえる。……そして、下の方から聞こえる水音と、ムスコから送られてくる快感。
ええ、嫁が朝勃ちしたムスコをくわえ込んでいましたよ。起きる前に何発か搾り出したみたいで、口の周りには精液がへばり付いてます。エロいです。ちんこ勃ち――もう勃ってますね。てかもう出してるしね。
「む、やっろおひらか(やっと起きたか)」
「くわえたまま喋んな、頼むから」
気持ちいいから。出ちゃうから。いやお前は出させるためにくわえてるんだろうけど。
「……(ズズー」
「っ、あぅ……おま、そんな吸ったらっ……!」
ビュクッ!
言わんこっちゃない。クーガーさんはそんなバキューム耐えられませんよ。まぁ、耐えたら耐えたでこの嫁はさらに苛烈に攻めてくるんですけどね。
俺が吐き出した精液を、嫁は嫌な顔一つせず、というよりむしろ恍惚の表情で飲みこんでいく。最後の一滴まで飲み干して、ちんこの中のも吸い出してからようやく口を離した。
「ふぅ、ようやく精を補給できた」
「あー……悪い。昨日一日、キツかったろ」
「まったくだ。帰ってくれば早々に寝てしまって起きる気配もないし、起こしても起きないし」
紅く輝く切れ長の瞳で睨まれて、俺は縮こまる。ヤバイよ、かなりご機嫌ななめだよ。背景になんか濃い紫色のオーラ的なのが漂ってるよ。今回は首落としたから精の消費とかヤバかったんだよコレきっと。だっていつもなら朝フェラしたら1分くらいはぽけーっと蕩けた顔してるのに、それすらないとか。
「ホントすみません今日の夜ガンバるんで勘弁して下さいギリカ様」
「……言ったな? ならばクーガー、お前は今日も徹夜だ。覚悟しておけ」
ひぃ。
ギリウェルカ・トーサイズ、愛称ギリカ。それがウチの嫁の名前だ。
第3魔物戦団戦士長として月イチで街に攻めてくる、まさにご本人様。俺に今も続く右脇腹痛の原因のパンチを食らわせた、まさにその本人。
デュラハンって種族で、魔界の騎士だそうで、首が取れる。俺は時々外そうとしては失敗し、二重の意味でこってり搾られている。
だが、成功すれば首が取れてる間はなかなか可愛いこと言ってくれるんだ。やめられるわけないじゃないか。と、何度も主張してるけど周りの理解は得られない。「日常生活中にいきなり取ろうとするからだろ。ちゃんとそういうムードなら向こうから外すだろ」って言われる。なんでや! あえて日常でやるから首無しモードの落差が際立つんやろ! って言うとヒかれる。悲しい。
「どうした、早く来い」
「つったってお前、この荷物の量じゃどうにも……」
コビヤーク中街、昼過ぎ。
妻の買い物の荷物持ちをさせられる、哀れな夫の姿があった。……俺だけどなっ!!(泣)
目の前を歩くギリカは、惚気だとわかって言うけど美人だと思う。てか美人。世界一の。真面目で堅物な性格を表すような、切れ長で紅い瞳。戦いの時は縛るスミレ色の髪は普段は背中の中くらいまでのワンレングスで、服や鎧を着ていてもわかるほどの、ぼんきゅぼーんなグラマラスバディ。
そんなマイハニーだが、今はその尖った耳を隠すために帽子をかぶり、首が落ちないようにスカーフを巻いている。
一応この街は反魔物地域に隣接してるから、そういう規則があるわけで。第5隊長の嫁のアヌビスなんかは、わざわざ高度な幻術使ってるし。
まあ建前だから、気にしてる奴の方が少ないんだけどな。中立を名乗ってるのも月イチでVS魔王軍やってんのも隣が攻めてこないようにパフォーマンスしてるだけで、事実上親魔物領だし。中街は人間しか住んでないハズだけど、裏街は俺らと魔物嫁しかいねーからいつ魔界化してもおかしくねーし。
「シャムネリア! 貴様、帽子すら被っていないとはどういうことだ!?」
「にゃ〜ん。ギリカ、そんな規則なんか守ってる方が珍しいのにゃ〜」
カフェテラスでゆっくりしてるワーキャットとか、まったく隠す気ないし。まあ、手足のモフモフは魔法以外で隠すのは厳しいとしてもだ。小麦色のネコミミも、ピコピコ動く尻尾も。まる見えですよ、ええ。
「貴様という奴は……クーガー!」
「んぁ?」
ギリカはそのワーキャット、シャムネリアを指差し、一言。
「コイツを捕らえて、反魔物領に送っておけ!」
「はぁ!?」
「ニ゛ャ〜ッ!?」
俺とシャムネリアは、揃って飛び上がった。
魔物が捕まって反魔物領に送られれば、生死に関わらずロクなことはない。逆に反魔物領で旦那捕まえてくる強者もいるけど、それは置いといて。見世物とかならまだマシな方で、なんかもう聞いてるだけで『お前ら人間じゃねぇ!』と目を細くして叫びたくなるくらいなアレも色々とアレな感じらしい。
にも関わらず、この女はそれをやれと言いやがった。
「それが嫌なら、最低限その耳と尻尾を隠すことだな」
「うう……ちょっと帽子買ってくるにゃ……」
ズボンの下へ尻尾を押し込みながら、シャムネリアはとぼとぼ歩いていった。そして、彼女が座っていた席につくギリカ。
……はっ!?
ふと気がついて周りを見れば、その席以外は全部埋まってる。つまりさっきのワー猫さんを入れれば満席だったことに。
おいちょっと待て、まさかその為にあんなトンデモなこと言ったのか? その席をよこせ、さもなくば死ね。みたいな? ……我が嫁ながら、凄まじい鬼畜っぷりだぜ……。
「どうしたクーガー。お前も座れ」
「うい」
でも文句は言わない言えない言わせんな。だって恐いんだもん。
「いらっしゃいませ、ご注も」
「コーヒー、ブラックで」
ウェイトレスが言い切る前に突っ込むギリカ。
ウェイトレスさんはやや面食らった様子だったが、わりとすぐに(比較対象:過去にギリカに注文を取った方々)落ち着きを取り戻した。
「あ、はい、コーヒーですね。そちらは?」
「あ、俺はミルクティー。ミルクと砂糖多めで」
俺の注文を聞いて、ギリカがピクリと眉をひそめた。
「あー甘い。疲れた体に糖分が染みるぜ……」
ダダ甘なミルクティーをすすりつつ、ゆっくりと息を吐き出す。
向かいの席では、ギリカが黒々としたコーヒーをちびちびやっている。ただし、恨みがましい目で俺をねめつけながら。
そんな目で睨まれたって知らんもんね。自分で苦いの頼んだんだろ、超甘党のギリカちゃん♪
コイツは甘いのが大好きなくせに、子供っぽいと思われるのが嫌だからって、他の奴がいる場所では絶対に甘味を口にしない。みんな薄々は、いや、確実に気付いてると思うんだけどなあ。なんせ、みんながみんないろんな機会には『俺宛てに』甘々な菓子をくれるくらいだし。
……さて、ギリカの目尻の吊り上がりっぷりがストップ高に達しそうだ。そろそろフォロー入れないと、帰ってから*される。
「甘すぎて口の中がベタベタする……ギリカ、そのコーヒーくれ」
「ふん、馬鹿が。少しだけだぞ」
そのわりにソーサーごとこっちにやるのな、お前。少しだけならカップ渡しゃいいのに。
「いただきまーす」
ぐいっ。
「あっ」
一気に流し込むと、ギリカが驚いたような声を出した。
ソーサーにカップを戻す。当然、そこには黒い液体はまったくない。
「少しだけと言ったろうが……」
「じゃあもう一杯頼むか? ウェイトレスさーん」
「ま、待て!」
「でも、もう呼んじゃったし」
「きさまぁ……」
いやー、普段以上に鋭い眼光がイタイイタイ。
そこへ、ウェイトレスさんがトコトコやってきた。
「追加のご注文ですか?」
「いや、会計で」
俺のその言葉に、ギリカは目をぱちくり。
さっきまでの表情からの、そのギャップやよし! 普段からそんな表情してくれりゃ可愛いのになあ。いやツリ目のギリカももちろん大好きだけど、やっぱレア度が高――あ、じゃあ普段からそれじゃ駄目じゃん。でもそうなると今度はツリ目がレアに……甲乙つけがたいねこりゃ。
「なあ、ケーキ屋行こうぜケーキ屋」
「なんだ、突然」
一通り買い物も終わり、そろそろ帰ろうかという頃。俺はさも今思いついたかのように提案した。
「いや、隊のヤツから聞いたんだけどさ。西通りのケーキ屋がこないだ新作出したって」
「それで、その新作とやらを食べたいと」
「うん」
「……いいだろう」
目をキラキラさせながら、何が『いいだろう』かと。本当に素直じゃねえよな、コイツは。
あ、てか歩くスピードが格段に上がった! 速え! 俺は荷物持ってるからただでさえ遅れぎみだってのに!
「遅い、置いていくぞ!」
「ちょっ……」
本当に俺を置き去りに、ギリカはますます加速していく。
どんだけ楽しみなんだよ。先に行ったって、一人じゃ恥ずかしくて店に入れないくせに。
「待てよ、オイ!」
荷物の重さと多さにふらつきながら、可愛くないけど可愛い嫁の姿にニヤつきながら。俺はギリカの後を追うのだった。
12/08/28 00:21更新 / かめやん
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