連載小説
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十字を托されし王国
 日が落ち、闇夜が辺りを包み始めた頃、騎士たちの馬車に乗せられたラキとブレードは巨大な門を目の当たりにした。

「でかっ・・・国境門?」
「此処が我々の国、フォートス・カスタール国王が治める“トトギス王国”ですよ」
「・・・君主制の国家か」

 馬車前面の隙間から見えた門の向こうには、静まり返った街の通りが続いている。そして、その先にとてつもない大きさでそびえ立っている城が二人の目に入った。

「城に入ったら、ある枢機卿と会って貰います」
「スウキキョウ?」
「・・・下らん宗教の階級だろう」
「口は慎んでもらいたい。いずれは教皇になるお方でもある」
「「・・・」」

 ローブの男が注意を促すも、二人は反抗的な目で彼を睨む。

(お偉いさんに仕えている奴は、どうしてこういう忠誠心なんだ?馬鹿じゃね?)
(・・・所詮は飼い犬か。意見を言っても無駄なようだ)

 城の手前で下ろされた二人は、ローブの男に連れられて、城の裏口から入る。彼らは螺旋階段で上がり、暗い廊下の左横にある両開きの扉の前に辿り着いた。ローブの男がノックをして扉を開ける。

「失礼します」
「来たか・・・ムゥフッ!」
「ぅ・・・けむ臭っ」
「・・・」

 室内は嗅いだことのない煙の臭いが漂い、二人は顔をしかめる。奥にあるテーブルの椅子にデコハゲの男がパイプを吸いながら座っていた。二人は後ろにいた騎士たちに押されて中に入る。デコハゲの男が立ち上がり、こちらにやってくると、ローブの男がその場で跪いた。

「オッドス卿、例の黒い戦士たちを連れてまいりました」
「ご苦労、ジドよ。少し、ムゥフッ!下がっておれ」
「はっ」

 ジドと呼ばれた男が右横へと下がり、オッドス卿と呼ばれた男が二人に近づく。

「私はこの国の枢機卿の一人である、ムゥフッ!失礼、オッドス卿である」
「名乗った方がいいのか?」
「・・・別にいいだろう」

 相手に名乗るべきか、ラキがブレードに尋ねるが、彼は面倒くさそうに答えた。

「気乗りしないけど・・・俺はラキだ」
「・・・ブレード」
「君らが、ムゥフッ!例の黒い戦士。そして、不消の陽熱を倒した者だな?」
「まぁ、周りから見ればそんな風に見えるのかな?」
「・・・只の兵士だ。お前たちと同じ人間でな」

 二人の答えを聞いたオッドス卿はさらにしゃべり続ける。

「そうか、では、ムゥフッ!どこの国の兵士だ?」
「何処って・・・」
「・・・この世界の兵士ではない」
「ちょ、おま、ブレード!」
「!?」

 ブレードの答えにラキだけでなく、オッドス卿も驚いた。

「ムゥフッ!そんな戯けた話が・・・」
「・・・信じる信じないはお前たち次第だ。勝手に拘束してきた奴らに事情を知って貰うなど、そんなに俺たちは暇ではない」
「なっ!?」
「口を慎めと言っただろう!」

 ブレードの言葉に激怒したジドがナイフを取り出す。すると、オッドス卿は左手を出して、激昂する彼を止めた。

「ふむ・・・ムゥフッ!それは置いておこう。ならば、君らの目的は何だ?」
「・・・部外者に教えるつもりはない」
「貴様・・・」
「下がっておれ!ジド、こやつの挑発に乗るでない!」
「も、申し訳ございません」
「ところで・・・」

 オッドス卿はブレードを見て、彼に話し掛ける。

「君はあの、ムゥフッ!不死身であった勇者を倒すほど、凄い実力があると聞いた」
「・・・」
「その腕・・・我々のために手を貸してくれまいか?」
「・・・断る」
「・・・」

 拒否の言葉に彼は眉をしかめた。

「ムゥフッ!それなりの報酬や待遇を与え・・・」
「・・・上官でもない奴に指図されるつもりはない。任務以外の行動は受け付けん」
「なら、何故、君らは汚れた魔物共と戯れているのだ?ムゥフッ!」
「・・・言ったはずだ。事情を説明する暇はない」
「この、言わせておけば・・・」
「下がっておれと言ったのだ!ジド、二度も言わせるな!」

 ブレードの態度にイラついた彼を怒鳴り抑える枢機卿。彼も少し腹を立てているが、部下の男より自制心が強いらしい。彼はもう一度咳を立てて息を整える。

「ムゥフッ!今日は此処までにしよう・・・ジド、彼らを地下牢に入れておけ」
「はっ!」

 騎士たちに引っ張られ、部屋から連れて行かれる二人。残された枢機卿は手にしたパイプを吹かし始める。

「ムゥフッ!・・・“この世界の兵士ではない”・・・どういうことだ?」

 廊下を歩くジドと騎士に引っ張られる二人。不意にブレードがジドへ向かってあること尋ねる。

「・・・一つ聞く。あのタイミングで何故お前らが出てきた?」
「ん?そのことか。本来はあの付近にいる魔物の村を焼き払う目的があったが、お前たちが倒した化け物たちのせいで予定が狂った」
(こいつらは異形者を知らねぇのか?)

 ラキは彼らの異形者に対する反応を不思議に思い始めた。ジドはさらに続けて話す。

「それで様子を見ていたら、お前たちが現れた訳だ。捕縛対象として高額の賞金も賭けられていたしな」
「俺たち何もしてねぇのに賞金首っておかしくね?」
「・・・金欲で動いてる奴に言っても無駄だ」

 ブレードの言葉に反応して、ジドが彼の胸倉を掴み上げた。

「貴様は立場が解ってないようだな?」
「・・・赤の他人に俺たちの立場が解る訳ないだろう」
「くっ、この・・・」

 彼は手を離して再度歩き出す。ラキは少し冷や汗を流してしまう。

(早く脱出しないとまずいかも・・・)



<戦艦クリプト 司令室>

 窓ガラス全てに内側のシャッターを閉めた無機質の空間。ドラグーン隊とレシィ、ニール、リオ、ケイは中央のテーブルに表示されたマップと映像を眺めていた。映像はDフライの上空から見た視界とレックスの視界が映し出されている。

「これが宗教に染まった国か・・・規模が大きいな」
「現在、ワシらの街へ襲撃し続けている反魔物国家のトトギス王国じゃ」

 イーグルがレシィの説明を聞いて、映し出された王国を見つめる。エスタは端末を操作してレックスと連絡し合う。

「今のところ問題無いかい?」
『現在、目標の城に向かって進行中。敵の警戒もありません』
「あの鉄のような男、本当に大丈夫なのか?」
「擬態能力のあるレックスなら容易に潜入できるよ。一度経験済みだし♪」
「変身できるなんてずるいじゃねぇか」

 リオとケイは少し心配して、レックスの視界を眺める。一方のジェミニたちはインスタントヌードルを食べながら、マップと映像を交互に見ていた。

「ずずぅ、んむっ、デカい城だな」
「前の感じでいけるんじゃない?ずずぅ!」
「お前たちは呑気でいいな・・・」

 少し落ち着かないニールはコーヒーを一口飲む。ここでイーグルが皆を注目させて話し始めた。

「よし!そろそろ作戦内容を話そう。今回のイレギュラーによって、我が部隊の隊員が拘束された。相手は教会勢力、つまり同じ人間だ。今回もできる限り殺傷をせずに行う」
「また〜」
「面倒〜」
「黙れ、ジェミニ、それと早く食え。前回と同様、転移魔法を使って救出する。レシィ司令官、疲れているところ悪いが大丈夫か?」
「ワシはバフォメットじゃ。ちょっとやそっとで倒れんわい」

 彼女はそういうと右手で胸を叩く。避難作戦の後、村人たちをレシィとサキュバス達の転移魔法で都市アイビス付近へ移動させたのだ。その結果、サキュバス達は疲れ切ってしまい、レシィの転移で帰還させた。ケイやリオも帰らせる予定だったが、本人たちの希望で残ることになった。それでも疲れ気味な少女をエスタが心配になり、疲労回復の効果がある薬を彼女に与える。

「無茶はしないでね、レシィ」
「兄上・・・勿論なのじゃ!」

 その光景を見て、イーグルは微笑んでしまう。

「さて・・・ドクター、レックスの位置は?」
「城の外壁に超えたところだよ」
「いくつかC4を設置し終えたら、城の内部に潜入してくれ。私もすぐに向かう」
「隊長自ら行くのか!?」

 驚いたのはニールだけでなく、リオやケイも彼の言葉に反応した。

「私も行くぞ!」
「アタイも!」
「待て、そんなに大勢連れては行けない。一緒に行くなら一人だけにしてくれ」

 彼の要望を聞いて3人がお互いを睨み合う。どうやら、彼女たちはブレードの元へ行って助けたいらしい。彼女たちの視線が火花を散らし始める。

「ここは私が行くべきだ」
「ニィばかりに譲らせる訳にはいかない!」
「アタイもお前に独占されてたまるか!」

 見かねた彼は、懐から三本の白い棒を右手で握って、彼女たちに差し出した。

「やれやれ・・・ほれ、くじ引きで決めろ。赤を引いた者が同行できる。それでいいな?」

 無言で頷いた彼女たちは素早く棒を引き抜く。すると、赤色が付いた棒はニールが引き当てた。ハズレを引いた二人はガックリとうなだれてしまう。

「では、私が同行する」
「ああ・・・出来れば装備を外して、潜入しやすくして欲しいのだが・・・」
「むっ、どうしてもか?」
「極力音を立てないで潜り込みたい。武器は付けてもいい」
「それならば仕方ない」

 ニールは素直に着ている黒鎧を脱ぎ始める。彼女は露出の控えた服装を着ていていたが、思っていた以上の豊満な胸にジェミニたちがヌードルを少し噴いてしまった。

「「ぶっ!?」」
「うわ・・・大きいね」
「兄上!浮気はダメなのじゃ!」
「いや、大きいって言っただけだよ!」
「・・・・・・ゴホン!レシィ司令官、向こうへの転移は可能か?」
「うむ、レックスの視界に映った場所なら簡単に送れるのじゃ」

 彼女の言葉に反応して、エスタが端末を操作して最適な場所を検索する。上空から得た情報により、人気の無い場所を発見し、そこへレックスを誘導させた。

「レシィ、この場所なら大丈夫だよ。やってくれるかい?」
「兄上、ありがとうなのじゃ♪」

 少女はご機嫌な表情で詠唱し始める。すると、少女の目の前の床とレックスの視界の地面に魔法陣が同時に出来上がった。

「ふぅ・・・向こうへしか送れぬが・・・」
「すまない。ニール、準備はいいな?」
「問題ない、では行こうか」
「ジェミニとエスタは『G.A.W』に乗って来てくれ。レシィたちを運ぶのも任せるぞ」
「「了解!」」
「じゃあ、準備しとくよ」

 イーグルは残る者たちに指示を伝えて、ニールとともに魔法陣に乗って姿を消す。彼が光で一瞬視界を遮られた後、目の前にレックスの姿が映った。どうやら城の裏手辺りの場所らしい。

「周囲に敵は?」
「一番近いのは約500m先で、こちらに向かって接近中。恐らく巡回の兵士と思われます」
「C4は?」
「設置し終えました。ご命令があれば何時でも」
「よし、城内部に潜入するぞ。そこで別れて捜索を開始する」
「了解」
「分かった」

 彼らは城の裏手のドアを開けて、内部への侵入を開始した。



 ある薄暗い一室でローブを纏った男が何かを触って調べていた。ラキとブレードを捕らえた男“ジド”である。彼は二人が装備していた武装を取り上げ、その武器を慎重に調べていく。今手にしているのは、ラキの『L.B.H』である。

(一体どうやって光を放出させているのだ?何処を弄っても作動しない)

 そんな時、彼はあるスイッチを偶然に押してしまい、駆動音が聞こえたことに気付く。押したのは光学銃の安全装置だった。彼は二人の行動を思い出し、何気に銃を構えてトリガーを引く。

ビィィン!
「!?」

 突然、発射された光弾は銃口が向けられた先へ向かって飛び、その先に立て掛けてあった鉄の鎧を貫いた。それを見た彼は不気味な笑みを浮かべる。

(凄い・・・凄いぞ、この武器!これさえあれば、どんな敵だろうと倒せる!私の地位を、オッドス卿の地位を上げることも容易になる!あの二人を問い詰めれば、いずれは・・・)
「ふははは・・・」

 だが、彼は歓喜のあまり、ある部分を見ていなかった。赤色のランプが消えかかっていることに・・・。



 同じ頃、ラキとブレードはある薄暗く湿った石造りの廊下を歩かされていた。そこは牢獄らしく、頑丈な鉄格子で隔離できる部屋がいくつもあった。騎士たちによって、二人はその中の一つに入れられる。

「ほら、さっさと入れ!」
「いてっ!押すなよ!」
「・・・くっ!」
ガシャン!

 二人が牢獄の中へ入ると、騎士たちはすぐに鉄格子の扉を閉めた。二人は仕方なく、その場に胡坐を組んで座り込む。騎士たちが居なくなった後、ラキがブレードに話し掛けた。

「どうしようか?」
「・・・このまま大人しくするつもりもない。早々に脱出をするぞ」
「どうやって抜け出るつもりだ?こんな手枷も付けられて・・・あっ、かゆい」

 ラキは手枷の腕を曲げて鼻の頭を掻き始める。その様子を見て、ブレードはため息を吐いた。

「・・・気楽な奴め」
「いちいち緊張してたら、疲れるだけだぜ?」
「・・・それもそうだな」
「あの野郎、勝手に人の物奪いやがって・・・」
「・・・脱出と同時に奴から奪い返さなくては・・・!」
「どうし・・・!」

 二人はこちらに近づいてくる足音に気付く。やがて彼らの入っている牢獄の前に黒い長ズボンを履いた上半身裸のマッチョがやって来た。

「てめぇらが今回入って来た新入りか!?」
「何このマッチョな人?」
「・・・知らん」
「俺はここの罪人どもを管理している尋問官だ!」
「じ、尋問官!?」
「・・・」

 尋問官と名乗る男はマッスルポーズをして二人に肉体美を見せつける。ラキは思わず吐きそうになるが、ブレードは冷たい視線で見つめていた。

「・・・その尋問官が何しに此処へ来た?」
「おめぇらが言うこと聞かせるようにしろと指示があった。朝まで楽しませて貰うぜ!」
「ちょ、寝不足になるだろうが!」
「さ〜て、どっちから相手してやろうか・・・」
「ぃ・・・」
「・・・」

 尋問官は二人を交互に見て、ブレードに狙いを定める。

「よし、お前から相手してやる!覚悟しな!」
(俺じゃなくてよかった・・・)

 冷や汗を掻くラキ。だが、尋問官は彼にも話し掛けた。

「お前は後で、俺の此処でたっぷり可愛がってやる!」
「へっ?」

 尋問官が指差した場所は、なんと自身の股ぐらであった。ラキはその指差した意味に青ざめる。

「え゛?」
「待ってな・・・今から飯を食ってくるから、それまで大人しくしてるんだな!は―はっはっはっはっは・・・」

 尋問官はそう言って高笑いしながら、その場を去って行った。残された二人の内、ラキが慌て始める。

「早く、早く逃げないと!」
「・・・焦っても仕方ないぞ」
「呑気に言ってんじゃねぇよ!ブレード!」
「・・・さっきの気楽さはどうした?」
「あんなこと言われて落ち着けるか!」
「・・・やれやれ」

 ラキの慌て様に頭を悩ませるブレード。彼は慌てる青年を無視して、此処からの脱出方法を考え始めた。

「・・・」
「ブレード・・・」
「・・・黙れ」
「・・・・・・ブレード?・・・まさか・・・」
「「!?」」

 突然、何処からか正体不明の声がし、二人に緊張が走った。ふと向かいの牢獄に、薄らと十字に吊るされた人影が見える。彼らは立ち上がって、目を凝らして見ると、そこには見たことがある人物が吊るされていた。

「あっ、お前・・・」
「・・・そこが寝床か?」
「よもや此処で、てめえと会うとは思わなかったぜ・・・」

 十字に吊るされた男。それは赤い服を着た“不消の陽熱”と呼ばれし勇者シャグだった。
11/11/13 10:46更新 / 『エックス』
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