連載小説
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十字の投網場
<戦艦クリプト 研究開発室>

 端末デスクに座って考え込むメガネの少年。ドクターエスタは画面に表示された報告文を読み漁る。

(要撃型がやっぱりいたか・・・しかも例の出現の仕方で、何故ここに?これは色々な意味で厄介なことになりそうだ)

 少年は右手だけで操作して、新たなデータを確認する。その時、画面右下に小さな警告表示が出現した。少年がそれに反応して後ろを振り向くと、床に魔法陣が出現して見慣れた少女が現れる。

「兄上、おはようなのじゃ♪」
「おはよう、レシィ。今日は何の用?」
「実はのぉ・・・兄上たちの部隊にお願いがあるのじゃ」
「ん?」

 いつもと違う少女の態度に、少年は目をぱちくりさせる。

「珍しいね、僕たちへの依頼かい?」
「その通りじゃ、できれば集めて欲しいのだが・・・」
「分かった・・・レックス、総員を司令室に召集させて」
「了解」



<戦艦クリプト 司令室>

 部隊の会議室とも言える司令室に、多数の人間と魔物が集まっていた。ドラグーン隊の総員と都市アイビスからレシィ、ニール、リオ、ケイ、そして、5人のサキュバス兵士たちである。ブレードがニールに向かってあることを尋ねた。

「・・・何故、こいつらまで連れてきた?」
「それは私も聞きたいところだ」
「師匠のもとで花嫁修業をするため」
「アタイもリオと同じく腕を磨くため」
「ブレード・・・」
「・・・知らん」

 誇らしげに胸を張るリオとケイ。

「何でブレードがモテてる?」
「ラキ」
「嫉妬?」
「やかましい、双子」

 さりげなくジェミニたちに突っ込むラキ。イーグルがため息を吐いて、レシィに話し掛ける。

「それで、レシィ司令官。貴殿から我が部隊への依頼とは?」
「そうじゃ・・・レックス、コーガクヒョウジとやらで地図を出してくれぬか?」
「了解」

 レックスは彼女の頼みで端末を操作し、中央のテーブルに地図を映し出す。テーブルの上に映し出された地図を眺めて、少女はある地点を指差した。

「この地点に村があってのぉ、今、危機に晒されておる」
「いつもの教会勢力だろう?」
「鋭いな、竜の隊長よ」
「以前、訪れた前線基地が近い。なら、考えられるのは、あの勢力の脅威だと真っ先に思いつく」

 レシィが差した地点は、大型の異形者によって破壊された前線基地から離れた南東辺りにあった。ブレードが静かに質問する。

「・・・避難民と敵の規模は?」
「今のところ、騎士どもは来ておらん。村人は40人くらいじゃ」
「多いね・・・レシィ、避難の方法は?」
「うむ、都市の部隊を向かわせるつもりじゃったが、それだと数日掛かる。その上、教会騎士の一団が目撃されたと情報が入った」
「時間が無さそうだね。僕らの戦艦で早急に避難させようと?」
「お願いじゃ、兄上」

 少女の懇願にエスタは頬を指で掻きながら答えた。

「いいでしょ。イーグルも異論は無いよね?」
「無論、協力しよう」
「助かるのじゃ♪」
「すまない・・・」

 イーグルの承諾の言葉に、レシィだけでなく、ニールも感謝した。

「久々に動かすことになりそうだね」
「そうだな・・・では、レックス。周囲の安全が確認でき次第出発だ」
「了解、直ちに艦の出航準備を致します」

 イーグルの指示でレックスは端末を操作し、戦艦の駆動音を鳴り響かせる。ここでラキがあることをニールに尋ねた。

「ニール、こちらのサキュバスの皆さんは?」
「私の部下だ。腕が立つだけでなく、簡単な魔法も使える」
「へぇ〜精鋭の兵士か?」
「そうだ、それに今回の依頼には飛行能力もあった方がいいだろう」
「「「「「よろしくお願いします!」」」」」
「お、おう・・・」
(襲ってきたりはしねぇよな?)

 若干怯えながらも彼女らに挨拶する青年。一方のジェミニはリオとケイに話し掛けていた。

「ねえねえ」
「ブレードとはどこまでいったの?」
「私たちを認めてくれた師でもある」
「アタイの婿候補でもある」
「「・・・」」
「ケイ!貴様・・・」
「リオ!あんたこそ・・・」
「あははは〜」
「喧嘩だめだぞ〜」
「お前らが言うな」

 さり気に突っ込むイーグル。しばらくして、準備が整った戦艦は動きだし、一行は目的地に着くまで司令室で話し合う。



 約3時間後、一行を乗せた戦艦は砂漠と森林の境目の手前で停留した。

「それじゃあ、Dフライを・・・」
「兄上、ストップなのじゃ!」
「へぅ?」

 偵察機射出の指示を遮ったレシィにエスタは目をぱちくりさせて驚く。

「兄上、向こうはおぬし達とは初対面じゃ。突然、訳の分からぬものが近づけば・・・」
「あ、そうだったね。目のいい魔物でもいるの?」
「いないとは言い切れん」
「だよね・・・それだと・・・」

 不意に彼はニールとその部下たちに目を向ける。

「いや、一様問題は無いみたいだね」
「当然じゃ、このためにニールたちを連れてきたのじゃ」
「じゃあ、こっちの隊員と合わせて偵察に向かわせようか」

 エスタがそう言うと、イーグルがある二人を見つめた。

「・・・」
「へ?何?」
「よし、ラキ、ブレード、彼女たちと斥候で向かえ」
「お、おぬし・・・大胆に・・・」
「せっこうと言ったのだ!“斥候”!」

 レシィの冗談にイーグルが声を上げて否定する。ジェミニとラキ、エスタが笑いを堪えていた。

「と、取りあえず、あと二人を決めなければ・・・」

 おろおろするサキュバス達とため息をつくニール。そんな時、ラキは何かを考え始めた。不審に思ったレシィが尋ねる。

「ん〜」
「どうしたのじゃ?」
「ん?・・・ユリも成長したらこんなサキュバスになるのかなって思ってた」
「なんじゃと!?おぬし、巨乳派か!?裏切り者か!?」
「そうじゃねえよ!なんでそうなる!?」
「ラキは〜」
「巨乳派〜」
「ふたごぉぉぉ!よつごにしてやろうかぁぁぁ!」



<数十分後 森林地帯 上空>

 サキュバス達に抱えられた5人。ドラグーン隊のラキとブレード、そして、ニールとリオとケイである。森林の上空を飛行し、目的の村を目指していた。ラキが先頭にいるニールに尋ねる。

「そんなに遠くないのか?」
「そのはずだ」
「・・・」
「あの、どうかされましたか?」

 サキュバスは自身が抱えているブレードの様子を心配して話し掛ける。彼は右手で耳の通信機を弄っていた。同じくラキも不思議に思って声を掛ける。

「ブレード、どうした?」
「・・・艦と繋がらない」
「え、どゆこと?」
「・・・さっきから通信が取れない。そっちは?」

 ラキも通信機を操作してみると、雑音しか聞こえないことに気付く。

ザ、ザァァァァァァァァ・・・
「嘘だろ?」
「・・・何かで妨害されているな」
「まさか・・・この世界にそんなものが?」
「・・・分からんが、何かの影響かもな」
「大丈夫ですか?」
「・・・心配ない」

 一部の不安を抱えながら、一行は村へと向かった。



<森林地帯 村の中心>

 木々によって見えにくい小さな集落。その中心でニールたちと村の代表が話し合っていた。代表はイリウと名乗り、アルラウネと言われる植物の魔物で、巨大な花びらから女性が出ている。

「すげぇ・・・ツルで移動できるのか」
「・・・植物としての特性はほとんどあるようだ」

 ラキとブレードは間近で見る魔物の特徴を眺める。それを快く思ってないリオとケイは鋭い視線でブレードを見つめていた。

「師匠ぉ〜」
「あんた〜」
「・・・」
「痛そうな眼差しだな」

 ニヤリと笑うラキを無視するブレード。数分後、話し終えたところで村人たちが身支度を整え始める。ニールとイリウはさらに話を続けた。

「村人はこれで全員か?」
「いえ、見張りで何人か、村の外にいますが・・・」
「イリウさま〜!」

 突然、村の外からオオカミの恰好をした少女が走って来た。少女の慌て様にその場にいた者たちが動揺する。

「ホウ、どうしたの?」
「大変です!西から見たことない化け物がたくさんやってきます!」
「見たことない化け物?」
「はい、あちこち尖った身体をした人のような・・・」
「「!?」」

 少女の言った特徴に反応して、ラキとブレードは真剣な表情で彼女に尋ねた。

「お嬢ちゃん、その怪物はどこまで来ている?」
「え、この先です。大勢で、もうすぐでこっちにやって来ます!」
「・・・ニール!」
「え、なに?」
「・・・すぐに村人全員を連れて戦艦に向かえ。時間が無い!」
「なっ!?」

 唐突な指示に狼狽える彼女を余所に、2人は武器を取り出して戦闘態勢に入る。

「・・・急げ!守りながらは面倒だ!」
「俺らが時間を稼ぐよ」
「!?」

 ラキの発言に驚愕するニール。それを聞いて黙っていられなかったのは彼女だけではなかった。

「師匠!私もお供します!」
「アタイもだ!」
「・・・お前たちは村人を守れ」
「「えっ!?」」
「・・・万が一のこともある。数匹の追手ならお前たちで何とかなるだろう」
「二人だけで戦うつもりなのか!?」
「無茶だ!そんなの認めねぇ!」

 彼女たちの抗議を無視して、2人は村の外へと向かう。数歩歩いたところでラキが振り返って微笑んだ。

「俺たちを信用しなって、慣れた仕事はやらせてもらうぜ」
「・・・行くぞ」
「ま、待て、ブレード!ラキ!」

 ニールの静止を聞かず、彼らは森の奥へと走り去る。

「全く・・・」
「ニィ、どうするつもりだ?」
「あいつらを追うか?」
「・・・」

 目を瞑り、少し間を置いてから彼女は目を開けて冷静になる。

「イリウ殿、すぐに出発を!」
「え、は、はい!」
「ニィ!」
「お前!」
「彼らの行動を無駄にしたくなければ、言う通りにしろ」
「「!?」」

 彼女の指示にたじろぐ2人。ニールはサキュバス達にも指示を出して、集まった村人の護衛にまわす。

(信用しろか・・・その言葉・・・信じてみよう)



 森林の奥深い場所。黒服の青年たちが木々に隠れながら前方を確かめる。すると、少し離れた場所の草むらから数十体の人のような姿が現れた。

「やっぱり・・・リッパーかよ」
『・・・だが、今までと違うようだ』
「はい?」
『・・・よく見てみろ』

 無線からブレードに指摘されて観察していると、上空に小鳥が鳴きながら飛んでいるのを発見する。その鳴き声に気付いた異形の一体が、右腕に付いている棘を小鳥に向けた。次の瞬間、腕の棘が射出されて、飛んでいた小鳥を串刺しにする。異形は落ちた小鳥を刃で刺して、自身の棘ごと貪り始めた。

「スパイカーかよ」
『・・・変異した奴らか』
「何でいるんだよ?」
『・・・無駄口を叩くな。奇襲をかけるぞ』
「はいはい・・・」

 ラキは返事をしながら、右手に破砕手榴弾を手に取る。同じくブレードも手榴弾を手に取り、奇襲の準備をした。

「カウント」
「・・・3」
「2」
「・・・1」

 ブレードが言い終えた瞬間、二人揃って異形たちに向けて手榴弾を投げ込む。いきなりの奇襲に驚く異形たちは、すぐに対応しきれず、二つの爆発をまともに受けてしまう。

「さて・・・」
「・・・駆除開始だ」



ドォォォン・・・
「!?」

 ニールは遠くで響く爆発音に反応して、後ろへ振り向いた。彼女は二人が異形たちと戦い始めたのだと悟る。助太刀に行きたい思いが強まるが、彼らの行動を無駄にしたくないと思い留まった。

「ニィ・・・」
「思ったより近い、先を急ごう」
「そうだな」

 ニールを心配したリオが近づいてくるが、彼女は冷静を装う。その時、後方のサキュバス兵士の一人が叫んだ。

「ニール隊長!後方より、マガイモノが来ます!」
「何!?」

 ニールが遠目で確認すると、こちらに走ってくる数体の異形が接近してくる。彼女は急いで後方へ向かい、剣を構えた。

「隊長!」
「ニール様!」
「お前たちは彼らを避難させろ!早く!」

 彼女は部下に指示を出して、襲い掛かって来た異形の刃を受け止める。そのまま流れるように相手の刃を左へ逸らして、首を切り落とした。

「GAAAAAAA!」
「くっ!」

 左右から異形が襲い掛かろうとし、ニールは剣を構えて迎え撃とうとする。すると、彼女の左右に新たな人影が出現して、向かって来た異形を斬撃で切り裂いた。

「お前たち・・・」
「ニィばかりにいい恰好はさせん!」
「アタイの腕を見せてやる!」

 リオとケイが剣を抜いて、ニールを援護する。そんな二人を見て、彼女はクスリと短く笑った。

「忘れるな、私たちの目的は村人を守ることだ。腕を見せ合うのではない」
「もちろんだ」
「分かってるよ!」
「行くぞ!」
「「おお!!」」

 彼女たちは、後方からやって来る異形たちを薙ぎ払いながら後退をしていった。



 次々と襲い掛かってくる異形たち。ラキとブレードは銃撃と斬撃で異形を倒していった。時節飛んでくる棘が彼らの行動を妨げる。二人は『L.B.H』のシールド、大木に隠れて防ぐなどして棘を回避した。

「ええい、うっとおしい!遠距離攻撃してくるなよ!わあっと!」
「・・・愚痴るな!ちっ!邪魔だ!」

 ラキは必死に避けながら銃撃していく。ブレードは『RAY.EDGE』と『L.B.H』の両方で相手を切り刻む。

「GAA!GAA!」
「のわっ!?」

 飛来した棘がラキの光学盾に刺さり、あと少しで貫きかけた。

(まずっ!このままじゃ、シールドも貫く奴ができちまう!)

「GUOOOOO!!」
「・・・ちっ!邪魔だと、言ってるんだ!」

 左腕の光学銃のシールドで異形の刃を防ぎ、払いのけて相手の腹に右腕の光学刃で貫き、頭まで切り裂いた。

「はぁ、はぁ・・・あっ」

 ラキの両手で使用している『L.B.H』の本体にある緑色の小さなランプが黄色へと変わる。これは本体のエネルギーが半分を切ったことを示していた。

(やばっ・・・こいつら全滅させるまでもってくれるか?)

 ブレードは飛んできた棘を光学刃で全て弾き、近くにいた相手の刃を切り落とす。それをやり投げのように異形に向かって投げつけ、見事に頭部へ突き刺した。

「・・・来い、全部滅ぼしてやる」



 村人の死守を任された3人とサキュバスたちは、追撃してくる異形たちを迎撃する。思った以上の数に彼女たちは苦戦していた。

「くっ!まずいな」
「何て奴らだ!」
「どんだけ来るんだよ!」

 すでに20体以上も倒しているが、その勢いは衰えず、次々とやって来る。ここで村の代表であるイリウも自身のツルで敵を弾き飛ばした。

「私も加勢します!」
「無茶はするな!奴らは息の根を止めないと、いつまでも追いかけてくる!」
「ニィ!あれを!」
「何だ!?あいつ!」
「!?」

 追いかけてくる異形の内、一体が身体を膨張させて一回り大きくなる。ニールはその姿に見覚えがあった。

バキッバキバキバキバキ
「GUOOOOOOOOOOO!!」
(あれはグロウ!進化したのか!?まずい!)

 巨体の異形は右腕を彼女らに向けて、槍のような棘を射出した。ニールは飛んできた棘を集中して剣で右へと弾き飛ばす。だが、その反動は強く、剣を持った手が震えていた。相手が怯んだと認識した異形は、続けて左腕の棘を飛ばそうとする。

「っ!?」
「ニィ!」
「あぶねぇ!」

 異形が棘を発射しようとした瞬間、彼女らの後方から光弾が飛んできて、異形の左腕を焼き落とした。彼女らが光弾の飛んできた後方を見ると、上空から何かがこちらへと近づいてくる。

「あれは・・・」
「あ、あいつは・・・」
「遅かったじゃないか、レックス」

 上空からやって来たのはラートが操縦するチェイサーと、その後部に右腕のプラズマバスターを展開させたレックスだった。先程の光弾は彼の放った一撃のようだ。彼女たちの近くまで来たチェイサーは頭上近くで留まり、レックスが地上へと降り立つ。

「お待たせしました。皆様、お怪我は?」
「大丈夫?望遠鏡で覗いてたら、たまたまリッパーを見つけたから慌てたよ!」
「村人を避難させる直前で襲い掛かって来た。ラキとブレードが囮になって我々を逃がしてくれたが・・・」
「分かりました。避難民の方はイーグルとレートに任せています。こちらは、目の前の異形者たちを殲滅させます」

 状況を理解したレックスはラートの乗るチェイサーの下部に付けられた砲筒のような武器を取り外した。両手でしか持ち上げられない程の大きさで、持ち手の近くには回転式の弾倉筒が付いている。彼はその銃口を巨体となった異形の上空に向けた。

ボシュッ!ウィィィン、ガチッ!

 発射と同時に弾倉筒が回転し、射出された弾頭は放物線を描いて異形たちの頭上に向かう。目標の頭上に到達した瞬間、弾頭が破裂して今度は5つの弾頭に別れて地上へと落下した。

「GAAAOOOO!?」
ドゴオオ!ドゴオ!ドゴオオオオン!

 地面に接触した弾頭は強力な爆発を起こし、周囲にいた異形たちを吹き飛ばした。巨体の異形はまともに受けてしまい、上半身が跡形もなく爆散する。周りにいた異形たちも致命的なダメージを受けて、次々と倒れていった。

「凄い・・・レックス、それは?」
「GPグレネードランチャー。距離は短いですが、広範囲に爆撃を与えられる榴弾発射機です。残りを殲滅させます」

 レックスは続けて発射し、追撃してくる異形たちを吹き飛ばす。ラートは生き残った異形を『L.B.H』で止めを刺していった。その光景を3人は呆然と見つめる。

「なんつ―か、あいつらの武器って便利だな」
「ニィ・・・彼らは一体・・・」
「味方だからこそ頼りになる。彼らが敵にならなかったことが幸いだ」

 しばらくして敵の出現が治まり、避難民の護衛に回っていたレートとイーグルがそれぞれチェイサーに搭乗してやって来る。

「無事でよかった・・・怪我はないか?」
「こちらは大丈夫だ。それより、ブレードたちが・・・」
「レート、一緒に来い。他の者は戦艦まで後退しろ」
「了解♪」

 イーグルとレートが飛び立とうとすると、リオとケイが彼らに向かってジャンプした。リオはイーグルの背中に乗り、ケイはレートの後ろに乗ろうとしたが、失敗して地面に叩きつけられる。

「ぎゃふ!」
「よっと!」
「な、何を!?」
「師匠を放っておけない!私も行く!」
「はぁ、仕方ないな・・・」

 イーグルはため息を吐いてチェイサーを飛ばす。レートも続いて向かい、残された者たちはその後ろ姿を見送った。

「ちきしょう!出遅れた!リオめ・・・」
「意外に素早いな、お前たちは・・・」
「あんたに出し抜かれっぱなしだからね、動いた方が勝ちだ!」
「ふふ、その部分は流石に私でも参るよ」

 彼女たちの行動に対して微笑むニール。しかし、彼女も囮となってくれた二人のことが心配になっていた。



 切り裂かれたり、撃ち抜かれたりした死体が煙を上げて溶けていく。そんな中、息を整える人影が2つあった。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・やっと、終わった」
「・・・ふぅ、しつこい奴らだ」

 ラキはランプが赤くなっている『L.B.H』をホルスターに収め、肩を揉み始める。ブレードは『RAY.EDGE』を仕舞い、周囲を見渡して残存した敵がいないか確認した。

(ギリギリだったな・・・後でエネルギーパックを替えないと・・・)
「・・・武器の手入れぐらいちゃんとしろ。それでも兵士か?」
「うっさい。それより、早いとこ戻ろうぜ」
「・・・そうだな」

 ブレードが歩き出し、それに続いてラキも歩き出す。しばらく歩いたところでブレードが静かに立ち止まった。

「・・・どういうつもりだ?」

 ブレードは後ろを向かずに、問いかけの言葉を独り言のように呟く。

「簡単な話ですよ。我々と一緒に来てもらいましょうか?」
「・・・」

 ラキの声でない第三者の声を聞いて、彼は後ろへ振り向く。そこにはローブの姿をした男が手にしたナイフをラキの喉元へ向けていた。その後ろには複数の騎士たちが控えている。

「・・・例の教会勢力の騎士か」
「先程の戦いを見させて貰いました。お見事です。特にあなたの剣技は素晴らしい」
「・・・人質を取りながら褒められても嬉しくない」
「まぁ、少々強引ですが、あなた達には無理にでも来てほしいのですよ・・・返答は?」
「・・・」

 鋭い形相でローブの男を睨むブレードだが、状況が不利と判断して目を閉じた。

「悪い、ブレード・・・」
「・・・後悔しても意味はない」
「では、こちらへ・・・歓迎しますよ」
「・・・」

 止む無く騎士たちの元へ行くブレード。彼らは予め用意していた板のような手枷を2人の腕にかける。

「古臭い手錠だな・・・」
「・・・黙れ、ラキ」



 森林の上空にて遠く離れた距離から、2人の様子を伺うイーグルとリオ。イーグルは『C.R』のスコープで覗き、リオとレートは心配な表情で双眼鏡を覗いていた。

「イーグル・・・どうしよう?」
「・・・・・・」

 リオが双眼鏡をイーグルに返してチェイサーから降りようとするが、彼は慌てて彼女を止める。

「止せ!このまま行っても、彼らの二の舞だ!」
「師匠たちを見捨てろというのか!?」
「そうではない。あの様子だと、拠点か何処かへ連れて行く気だろう」
「でも、イーグル。狙撃とかで何とかなるんじゃ・・・」
「周りをよく見ろ」
「へ?」

 レートは彼の指摘を疑問に思いながら、双眼鏡で2人と騎士たちの辺りを見回す。すると、木々に隠れていたローブの男たちが、少数ずつ現れて彼らに付いて行った。

「げっ!囲まれてる!」
「なっ・・・こんなに居たのか?」
「恐らく、ブレード自身も感づいていただろう。木々の間からボウガンの矢が見えていた。下手な行動すれば・・・」

 イーグルは光学長銃を背負い、レートに指示を出す。

「レート、思念で連絡を取りながら彼らを追跡しろ。偵察機を飛ばすから、それまで見失うな」
「了解!」

 指示されたレートはチェイサーをさらに上昇させて、彼らの追跡を開始した。残された二人は戦艦へ向かう。

「すまない・・・」
「え?」
「だが、あの二人を失う訳にはいかない。絶対に助けだす。それまで耐えてくれ」
「わ、分かったわ」

 不安なリオを落ち着かせて、チェイサーのハンドルを強く握るイーグル。彼自身も行き場のない怒りを抑えるのに精一杯だった。

(何故、身柄を拘束する必要がある?いずれにせよ、私の部下だ。任務の邪魔させん)
11/11/06 08:10更新 / 『エックス』
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