連載小説
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闇夜に乗じた奪回
 薄暗い廊下で足音を立てずに進む二つの人影。城の内部に潜入したイーグルとニールは、レックスと別れて行動を開始する。二手に別れたことをニールは不思議に思い、イーグルに尋ねた。

「別れて探す必要があるのか?」
「捕らえられた以上、彼らの武装は騎士たちに押収されたはず。なら、その二人と武装を探さなければならない。現に、レックスは彼らが武装解除されたことを確認している」
「なっ、いつの間に・・・」
「通信機が使えない状態になっている。恐らく武器と一緒に取り上げられているのだろう。何としても奪取せねば・・・」
「それ程までして、取り返す必要があるのか?」
「当然だ。下手をすれば、あの武器一つでこの世界が狂ってしまう」
「!」

 彼の言った言葉を聞いて、ニールは耳を疑ったが、彼の真剣な眼差しを見て言葉を失う。

「元々、この世界では我々は異質な存在。その上、此処では存在するはずのない技術で出来た道具を手にしている。それが何を意味するのか・・・君にも解るはずだ」
「まさか・・・」
「彼らが未知の文明の技術を手にすれば、そこからその世界の歴史を狂わすきっかけとなる。しかも武器、戦争を起こしている者にとって、喉から手が出るほど欲しい物。そして、それが広まれば、多くの犠牲が出てしまう」
「そんな・・・はっ!」

 彼女は此処で彼らの使った武器の数々を思い返す。そう、どれも大勢の敵や巨大な敵を倒してしまうほどの技術。彼ら自身も尋常ではないが、彼らの持つ武器はもっと尋常ではなかった。そして、その武器を扱う彼ら自身も、そのことを心得ていた。

「だからこそ、彼らも大事だが・・・この世界を傷付ける要因となるあの武器も放置する訳にはいかない。やむを得ない場合は技術を知った者ごと処分する」
「!」
「酷なことだが・・・以前、この世界に来て間もない頃、ドクターとその件ついて話し合って決めた」
「そこまでして・・・お前たちは・・・!」
「しっ・・・」

 二人がある曲がり角に差し掛かった時、左横の通路の方で物音が響く。どうやらその曲がった先に部屋があるらしく、ドアが閉まる音がしたのだ。その後に何者かの足音がこちらに向かってやって来る。

(仕方あるまい・・・)

 彼は曲がり角の手前で壁に張り付き、やって来る何者かを待ち構える。ニールも彼の後ろの方で、同じく壁に張り付いた。何者かがやって来た瞬間、イーグルは素早く相手の背後に回り、右手で相手の口を押さえる。

「むぐっ!?」

 それと同時に、『RAY.S.R』を左手で取り出し、展開させた麻痺性の光学刃を相手の足へ当てた。

バチィィ!!
「ぐぉもっ!」

 耐え難い電流を受けた相手は力尽きるように倒れていく。イーグルは展開させた光学刃を消失させ、脇腹に仕舞う。一部始終見ていたニールが倒した相手へ近づく。気絶した相手は男で、修道士のような恰好をしていた。

「流石、竜の隊長だな」
「奇襲を得意とした部隊だからな。さっきの部屋は他の者がいるかもしれない。そこら辺に寝かせておこう」
「私がする」
「周りを見ておく。やってくれ」

 彼は曲がり角の向こうを見張り、ニールがその間に気絶した男を壁際へ寝かせる。

「行くぞ」
「ああ」

 再び、二人は暗闇の通路を忍び足で歩き始めた。



<同時刻 戦艦クリプト G.A.W格納デッキ>

 デッキ内では3体の機動兵器が音を立てて動き出す。それを見守るかのように、3人の女性たちは少し離れて眺めていた。

 一体は鳥の足のような逆関節の足で歩き、左右に付いているジェットエンジンを調整し始める。搭乗者はドクターエスタ。コックピットを剥き出しで機体を操作していた。

「前回と同様でプラズマカノンとガトリングでいけるでしょう」
「兄上〜ワシも一緒に乗るのじゃ♪」
「はぁ〜仕方ないな・・・どれにも触らないでね」

 機体を屈ませて乗りやすくすると、少女は右横を向いて少年の膝に座る。

「こんなものまで所有しているとは・・・」
「しっかし、馬鹿でかい乗り物だな・・・」

 リオとケイが見ているのは、緑色の装甲を持つ2体の人型兵器。こちらもコックピットを剥き出しで乗っているのはジェミニ。背中のジェットエンジンを鳴らしながら、各武装の確認を行う。

「えっと・・・動かすの久々だな。これかな?」
「ラート、そこ違うんじゃない?」
「あっ!」

 ラートの乗った機体の右腕に付いたバックラーのような物体から、二枚の刃が飛び出し、180度回転して合体。一瞬にして大き目の実体剣が出現する。これがこの機体が誇る高出力の光学刃を纏う白兵戦専用の近接武器である。

「凄いな、剣まで装備しているのか」
「おもしれえ、今度アタイと戦わせろ!」
「それはダメだよ!」
「対大型生物用の兵器だから、対人戦では使用禁止だよ!」
「そうなのか?」
「全く、これだからアマゾネスは・・・」

 ケイの行動に呆れてしまうリオ。ジェミニたちは両肩部にガトリングを装備して、二人に声を掛けた。

「準備おっけ〜!」
「乗って!乗って!」
「頼むぞ」
「ちゃんと乗っけろよ!」

 機体の準備が整い、双子はコックピットを閉じる。ラートの機体にリオ、レートの機体にケイと、それぞれ機体の腕に抱えられた。

『CAUTION レフトハッチオープン』

 開き始めたドアとともに3体の機動兵器はホバリングした。隊列は、先頭がエスタとレシィが乗る『NYCYUS』と、その左右にリオとケイを抱えたジェミニの『ORNITHO』である。

『それじゃあ・・・』
『行くのじゃ!』
『あっ!ちょっと、レシィ!動かないで!機体が揺れるよ!』
『おおぅ〜』
『激しい〜』
「少し不安だな」
「アタイもそう思う」



<トトギス城 地下牢>

 向かい合いの牢獄で、十字に張り付けられた勇者と対峙するラキとブレード。革のベルトで至る所に固定されたシャグは、余裕の表情で彼らを見つめていた。

「え―と・・・お久しぶり」
「あの時のすばしっこい奴か・・・そして・・・」
「・・・」
「久しいな、一時もてめえのことを忘れたことが無い」

 シャグはにやついた顔でブレードを見ていたが、彼は冷ややかな視線で勇者を見ている。ラキが気になってシャグに尋ねた。

「どうして、そんなところで貼り付けられてんの?」
「これか?・・・クソジジイが少し頭を冷やせって言いやがって、仕方なくここにいんだよ!」
「・・・躾のなってない子どもを罰するにはちょうどいいだろう」
「てめえ・・・また、ガキ扱いしやがって・・・」
「・・・本当のことを言ったまでだ」
「ブレード、挑発するなよ」

 只ならぬ雰囲気になり、ラキは焦ってしまう。そんな彼を置いて、二人はお互いを睨み続けた。

「てめえら、捕まったのか?情けねえな」
「・・・何とでも言うがいい。部外者に同情してもらう必要もない」
「さっきからムカつくことばっか言いやがって・・・」

 その時、3人は足音が響いてくるのを察知し、微動だにせずに黙り込んでしまう。足音の主は先程出会ったマッチョの尋問官だった。彼はラキとブレードたちの牢獄の前で、またもマッスルポーズをする。

「待たせた!」
「帰れよ!」
「此処が俺の寝床でもある!」
「じゃあ、外泊しに行けよ!」

 ラキの突っ込みも気にせず、尋問官は右手に猫鞭を持って彼らの牢獄へと入っていく。ラキは怯えて後ずさり、ブレードは立ったまま尋問官と睨みつけた。

「いいね、その反抗的な目。躾しがいがあ・・・!」

 尋問官が話している間に、ブレードは姿勢を低くして彼に接近する。その行動に気付いた彼は鞭を素早く振り下ろそうとした。だが、すでに遅く、ブレードの右膝が彼の股ぐら目掛けて強烈な膝蹴りをかます。

「がっ!・・・あがっ!?」
「・・・ふっ!」

 悶え苦しんで前屈みになる尋問官に、彼はさらに追い打ちで相手の後頭部に右かかと落としを当てる。

「ぐぶっ!」
「!」
「へぇ・・・」
「・・・」

 あっという間の出来事にラキは呆然とし、シャグは表情を変えずにその光景を見ていた。息を整えたブレードは牢獄の外へと向かう。

「・・・ここの看守は馬鹿か?」
「えっ?ブレード・・・」
「・・・何してる?さっさと出るぞ」
「あっ、待てよ!」

 ラキが慌てて牢獄の外へ出る。

「おい!」
「えっ?」
「・・・」

 突然、シャグが大声で彼らを呼び止めた。彼はにやついた表情でブレードに語り掛ける。

「次はてめえを叩きのめす」
「・・・できるのならやってみろ」
「は、早く行こうぜ・・・」

 二人はその場から早足で立ち去った。



 イーグルとニールは右の壁際に大部屋のある廊下に差し掛かっていた。廊下と部屋の間の壁には大き目の窓が複数設置されている。部屋から明かりが漏れているのを確認すると、彼は小声で指示した。

「頭を低くして行け」
「分かった」

 二人は上半身を自身の膝まで下げ、ゆっくりと歩き出す。ニールは剣の先が床に当たらぬよう左手で持ち上げる。部屋からは男たちの話声が聞こえてきた。何を話しているかは聞き取れないため、彼らはこの場を通り抜けることに集中する。部屋を通り過ぎた先の花瓶が置いてある机まで屈み歩き、その場所で立ち上がった。

「気付いてないな・・・」
「ふぅ・・・」
コッ
「「!」」

 ニールが安堵したその時、彼女が持ち上げていた剣の先が花瓶に当たり、バランスを崩して落ちそうになる。いち早く気付いたイーグルは素早く動き、花瓶を両手で受け止めに行った。

パシッ
「・・・・・・」
「・・・・・・」

 間一髪受け止めることに成功し、イーグルは花瓶を元の位置に戻す。冷や汗をかいたニールは動けなかった。

「すまない・・・」
「はぁ・・・行こう」

 二人はその先にある曲がり角を右へと曲がる。すると、今度は中庭を横切る通路に差し掛かった。通路の左横にある中庭の向こうには扉を守る兵士が一人いる。通路は屋根と柱だけしかなく、このまま突っ切れば通路側を見ている兵士に見つかってしまう。

「どうする?」
「・・・・・・これを使うか」
「?」

 小声で聞いてきたニールに対し、イーグルは右手であるものを懐から取り出す。彼が手にしたのは携行しやすい『グロック8』と言われる小型の自動拳銃。装填されている弾丸は特殊弾頭の9mmパラベラム弾改で7発しか装填できないが、対異形者用に開発された弾頭のため威力が高い。

(まさか、これを使う機会が来るとは・・・)

 彼はさらに左手で懐から黒い筒状のものを取り出し、銃口へねじり回すように取り付けた。これは発砲時の銃声を抑えるためのサプレッサーという装置である。壁際に隠れながら消音銃を構えるイーグル。

「すぅ―ふぅ―」
(どこを狙うつもりだ?)

 ニールは彼の銃口が兵士に向けられていないことに気付く。すでに狙いを澄ました彼は引き金を引いて発砲した。

パシュッ! ガシャン!!
「何だ!?」

 彼が狙い撃ったものは兵士の右側にある植木鉢だった。突然、割れた音にびっくりしてその方向に気を取られる兵士。

「今だ」

 イーグルの呼び掛けに応じて、ニールは彼とともに忍び足で走り出す。通路を超え、兵士たちの視界から抜け切った二人は息を整えた。

「心臓に悪いな」
「この世界のデュラハンは生きている方か?」
「当たり前だ」
「ふっ、すまない」

 彼は銃と消音装置を外して懐に仕舞い、軽いジョークをするほどの余裕を出す。彼のその態度に彼女も少し笑ってしまう。

(なるほど・・・人徳があってもおかしくはない)

 またも暗い通路を歩いていると、ここでニールが彼に問いかける。

「この道であってるのか?」
「いや、解らん」
「なっ」
「だが、武器捜索をしているレックスの反対方向に、恐らくあいつらも・・・!」
「どうし・・・!」

 彼がしゃべりながら振り向いた瞬間、何かに気付いたイーグルは咄嗟にニールを右手で突き飛ばした。同時に彼自身も彼女と反対方向へ飛び退く。その直後、光の弾丸が彼らのいた位置を通り抜けていった。

(なっ!?見つかった!?)
(いつの間に!?しかも今のは・・・光弾!?)

 その光の弾丸は二人に見覚えがあった。それはドラグーン隊がよく使う兵器『L.B.H』の光弾である。彼らの後ろ側だった通路の向こう側に、ローブを着た男が立っていた。その右手には『L.B.H』が握られている。

「流石、此処まで侵入したことに納得できます。感が鋭いですね」
「そうして、生き残って来たからな。欲望に飢えたお前たちと違って・・・」
「くっ、まさか後ろを取られていたとは・・・」

 尻餅をついたニールも立ち上がり、剣に手を掛けた。

「見たところ、魔物と・・・その服装、捕らえた例の戦士たちと同じ存在のようですね?」
「貴様か、私の部下を勝手に拘束したのは・・・」
「その通りです。しかし・・・」

 ローブの男は心酔するような仕草で手にした光学銃を撫でまわす。

「非常に使い勝手のいい武器ですね。あなた方の武器は・・・」
「当たり前だ。敵を殲滅するために作られた武器の一つ」
「なるほど・・・それはいいものですね」
「だが、お前のような人間には過ぎた代物だ。悪いが返してもらおう」
ビィィン!

 イーグルの頼みに対し、ローブの男は答えずに威嚇で彼の右頬辺りへ光弾を放った。彼は微動だにせず、威嚇してきた相手を見つめ続ける。

「申し訳ありませんが、その要求には答えられません」
「貴様!」
「この世界を滅ぼしたいのか?」

 イーグルは左手でニールを静止させながら、ローブの男に聞いた。

「世界?いいえ、人間の敵を滅ぼすのです」
「人間の敵とは?」
「そこにいる薄汚い魔物のことです」
「なんだと!」
「何故、滅ぼす?」

 彼の質問を聞いてローブの男は笑い始める。

「はっはっは、何故?決まっているでしょう、魔物は人間に害を与える存在。だからこそ滅ぼすべき存在。そんな当たり前のことを・・・」
「滑稽だな」
「・・・・・・今、何と?」
「お前のやっていること。三流過ぎるやり方だ。むしろ、人間の行動とは思えない。人間じゃない奴に話をしても無駄なようだ」
「・・・・・・」

 イーグルの挑発で彼は顔を歪ませて怒りを露わにする。

「私が・・・私が人間じゃないだと!?ふざけるな!」
「ふざけているのはお前の方だ。今のお前の考えは我々の世界では遅れた考え。つまり、身を滅ぼす考えだ」
「何を訳の解らぬこ・・・」

 彼がしゃべっている間に、イーグルは相手目掛けて走り出した。それに遅れて気付いたローブの男は光学銃を彼に向けて引き金を引く。だが、引き金が引かれたにも拘らず、光弾が発射されなかった。

「!?」

 何故発射されなかったのか理解できぬまま、ローブの男は腕を掴まれて背負い投げられる。

ダァァァン!
「ぐぅ!」
「人類の恥さらしが」

 背中を強打して動けぬ相手に、イーグルは左手で『RAY.S.R』を取り出して、男の顔に麻痺性光学刃を押し付けた。

バチィィィ!
「があっ!!」

 相手が沈黙したことを確認すると、彼は手にしていた『L.B.H』を奪い返す。あっという間の出来事に、ニールはただ茫然と見るしかできなかった。

「どれほどの野心家と思えば、単純過ぎる馬鹿だったようだ」
「まさか、わざと怒らせたのか?それに・・・」
「ああ、冷静さを失わせて、状況判断を鈍らせたのと・・・こちらに運があった」
「?」

 彼はニールに『L.B.H』のある部分を見せた。それは側面に付いているランプが輝きを失い、薄暗い灰色になっている。

「この『L.B.H』のエネルギー残量はもう無い」
「だからあの時、撃てなかったのか」
「そういうことだ。手に入れただけの無知な奴に扱えるはずがない」
(本当なら、この場で武器を知ったこいつを始末する必要があるが・・・)

 イーグルは軽蔑するような目でローブの男を見下し、その場を立ち去ろうと歩き始めた。

「いいのか?あのままで・・・」
「余計なことで時間を費やした分、急がなければ・・・」
「そうか・・・」

 少し不安ながらもニールは彼の後に付いていく。



 ある保管庫の扉近くの通路にて、一人の十字架の付いた男性兵士が歩いていた。彼は保管庫に向かって歩き、途中でローブを着た男性とすれ違う。彼らがすれ違った後、ローブの男が立ち止まり、兵士の男に声を掛けた。

「お前、何者だ?」
「はっ?」

 互いに向き合い、ローブの男は鋭い目で睨み、兵士はキョトンとした表情をする。

「巡回任務中の兵士ですが・・・何か?」
「しらばっくれるな。お前から魔力どころか、人の気配すら感じ取れない」
「どういうことですか?おっしゃっている意味が・・・」
「問答無用!」
「!」

 ローブの男は短い詠唱をすると、彼の左右に小さな炎の球が出現した。それは真っ直ぐ兵士に向かって飛び、彼の身体に当たる直前で炎が彼の周りを包み込む。

「!?」

 炎に包まれた兵士はその場から後ろへと飛び退いた。その時、ローブの男はあることに気付く。

「服を燃やしてしまうほどの威力なのに、何故、火傷一つすらしない?」
「・・・・・・こうまで警戒されては仕方ありませんね」

 兵士がそう言うと、全身が鏡のような光沢を放ち、人の体型が変形した。そして、一瞬にして別の色へ変わると、それはさっきまでの人ではない別人が立っていた。髪は金髪で色白の肌、全身は黒色をメインとする服を着た人間である。そう、彼はドラグーン隊所属の人型兵器レックスだった。

「魔物の類か!?それにしては魔力は全く感じられないが・・・」
「申し訳ありませんが、説明している時間はありません」

 一言謝罪をし、彼はローブの男へ向かって歩き始める。敵であると認識したローブの男はまたも詠唱をして、今度は複数の炎の矢を自身の周りに出現させた。

「来るな!」
『両腕 プラズマバスター展開』

 相手の警告を無視し、彼自身の視界に映る画面が武器展開を表示する。それと同時に、両腕から銃器が変形して展開され、画面に映る炎の矢を照準固定し始めた。

『ターゲット 5 相殺質量確認 出力10%に設定 目標捕捉』
「近寄れば・・・」
『射撃開始』

 レックスは両腕を素早く上げて、相手の周りにある魔法の矢に向けて光弾を放つ。速射された光弾は相手に当たらず、正確に炎の矢を破壊した。

「なっ!馬鹿な!」

攻撃魔法をあっという間に消滅させられ、慌てふためくローブの男。彼は魔法が消されたことを理解できずにいると、すでに目の前までやって来たレックスによって首を掴まれた。

「ぐっ!」
「しばらく眠って貰います」
『ライトウェポン:対人用スタンアーム』
バチッ!
「がぁぁ!」

 レックスの右腕から流れた電撃によって、ローブの男は白目を剥いて昏倒した。意識を失った相手を両腕で抱え、壁際に寝かせる。

「障害排除。目標の回収に向かいます」
『まさか、レックスが気付かれるなんて・・・急いでね』
「了解」



 人気のない廊下をイーグルとニールは音を立てずに進む。その最中、レックスから通信が入り、イーグルは右手で耳の通信機を操作した。

『隊長、二人の武装を回収しました。ですが・・・』
「残りの『L.B.H』はこちらが回収した。すぐに脱出準備をしろ」
『了解』
「武器を取り戻したのか?」
「らしいな、後はあのふ・・・」
ガチャ
「「!」」

 二人が話し合っている際に、5歩手前ぐらいのところにある扉が開き、そこから二人の人影が現れる。彼らは立ち止まって、突然の来訪者に警戒した。窓から差し込む僅かな月明かりによって、来訪者の姿が露わになる。

「おや、変わった方たちですね」
「・・・」
「「・・・」」

 一人は白い服を着た初老のような男性で、にこやかな顔が目立っていた。もう一人は少し老けているように見える男性騎士で、こちらは無表情である。

「そちらのお嬢さんはデュラハンのようだね。鎧を着ていないのは珍しい。そして・・・」
「・・・・・・」
「見たことがない服装・・・例の黒い戦士とやらかね?」
「・・・・・・」
「ああ、すまない。一方的にしゃべって・・・私はこのトトギス王国の教皇であり、名はコーモレントと申す」

 笑顔を絶やさず話し掛けてくる教皇に対し、二人も警戒しながら自己紹介をする。

「連合軍所属の強襲部隊隊長のイーグルだ」
「都市アイビスの防衛隊隊長ニール・レオーネ」
「連合軍・・・どこかの国の兵士かね?」
「ああ、別世界の国だ」
「別世界?」

 聞き慣れない言葉に首を傾げる教皇。しかし、二人は得体のしれない何かに緊張が解けなかった。

「では、この城へは如何様で・・・」
「私の部下が拘束され、ここに連行された。悪いが拘束される理由は無い。即刻解放させて貰う」
「それは初耳だ。どの枢機卿かは解らぬが、彼らの仕業に違いないだろう。誠に申し訳ない。ところで・・・少し聞いてもよろしいかな?」
「?」

 侵入者に対して友好的な相手の態度に、イーグルは不思議に思いながら、彼の質問に耳を傾ける。

「君たちは何故、魔物と関わりを持つのかね?」
「どういうことだ?」
「君からは魔力が全く感じられない。それなのに魔物と一緒に行動し、我が騎士団と敵対した。その理由を教えていただけないか?」
「・・・・・・」

 少し間を置いたところで、イーグルは真っ直ぐな目で見つめながら答えた。

「我が部隊の目的は人類の防衛だ。最優先で人間を守ることを命じられた」
「人間を守る?」
「我々の世界では、人類、いや、人間は危機に晒されている。人を喰らい尽くす存在“異形者”ここでは“マガイモノ”と言われているらしいが・・・」
「マガイモノ・・・魔物ではない存在のことだな?」
「そうだ。我々はそれを駆逐するために存在する。もとより、この世界の種族争いと付き合う暇はない。我々はある事故でこの世界にやって来た」
(事故でこの世界・・・異世界の人間なのか?)

 にこやか顔だった教皇が真剣な雰囲気を漂わせ始める。

「そして、たまたま魔物という種族と出会い、彼らに助けられた。その恩人に危害を加えようとした騎士たちへ刃向ったまで・・・」
「なるほど・・・」
「だが、彼らも人間だ。よって守るべき対象、死傷させずに対処するよう部下へ指示している」
「ふむ・・・では、あることを聞きたい。君たちはキューベル騎士団を聞いたことはあるかね?」
「ああ・・・」

 騎士団の名前を聞かれ、イーグルは相槌を打って答えた。異世界へ漂流して間もない頃と、誘拐された子どもたちの救出作戦で交戦した騎士たちのことだと悟る。

「彼らが何故壊滅したのかを知りたいのだが・・・何か知らないかね?」
「我々は彼らに対し、攻撃はしたが、死傷は与えていない。後の調査で大型のマガイモノによって壊滅されたと推測している」
「そのマガイモノとやらに、我が騎士団が・・・君らの情報提供に感謝しよう」
「我々の情報が真実とは限らない」
「こちらの情報と合わせて見れば、君らが偽っていないことは分かる」

 彼は自身に満ちた発言を言うと、もとのにこやかな笑顔に戻った。

「さて・・・」
「「・・・・・・」」

 二人は身構えて、相手の次に出てくる言葉を待つ。見つかった以上、ここでの争いは避けられそうにないと判断したからだ。

「この先の突き当りに地下牢へ続く階段がある」
「「!?」」

 教皇がそう言うと、騎士とともに右側へ向かって道を開ける。予想外の行動にイーグルが警戒して尋ねた。

「何故だ?」
「私が知りたい情報を教えてくれたから、そのお返しでそちらの知りたい情報を教えた。他に何か質問があるかね?」
「・・・・・・」

 相変わらずのにこやかな表情で二人を見つめる教皇。イーグルはゆっくりと構えを解いて、歩き始める。ニールも少し戸惑いながら、彼の後へと付いて行った。道を開けてくれた二人を横切る際、にこやか顔の教皇が人差し指を上に付き出して、声を掛けてくる。

「一つだけ、よろしいかな?」

 質問されたイーグルが立ち止まり、つられて後ろにいたニールも立ち止まった。

「以前、私の知り合いの勇者が、そちらの黒い戦士にちょっかいを出しに行ってね・・・大変、迷惑をかけた」
(勇者?・・・ブレードが倒したあいつのことか?)
「その時、お世話になった戦士にこう伝えてくれまいか?“小僧の我儘に付き合ってくれたことを感謝する”と・・・」
「分かった。伝えておこう」

 教皇の頼みを承諾した彼は再び歩き、ニールとともに通路の先へと消えて行く。残された教皇は変わらぬ表情で二人を見送った。ここでようやく隣にいた騎士が口を開く。

「よろしいのですか?侵入者を・・・」
「彼らは我々に対しての敵意はない。敵意があれば、私はこの場にいなかっただろう」
「ならば、何故・・・」
「伝えてほしいことも終わった。今日はもう遅い。自室に戻るとしよう」
「はっ」

 彼はまるで興味が無くなったかのように、イーグルたちとは反対方向へ振り向いて歩き出す。内心納得がいかない騎士も彼に付いて行った。

(さて・・・・・・彼らなのだろうか?・・・・・・)



 通路進んでいくイーグルとニール。すると、通路の先に階段を発見する。

「この先か・・・」
「罠があるかも知れん。ニール、慎重に進むぞ」
「分かった」

 二人がその先へ入ろうとした瞬間、何者かが飛び出し、二人に襲い掛かった。

「「!?」」

 二人は左右へ別れて襲撃者の攻撃を避ける。飛び出してきたそれは両腕を下ろすかのように振りかぶり、右横へと避けたイーグルに右足でハイキックをかました。彼は咄嗟にしゃがみ、左足で襲撃者を蹴りつける。

「ふっ!」
「ちっ!」
「「!?」」

 イーグルの反撃を飛び退いて避けた襲撃者の姿を見て、二人は目を丸くした。

「「ブレード!?」」
「・・・イーグル?ニールもか・・・」

 彼らを襲ったのは両手に手枷を付けた特攻隊員のブレードだった。

「あれ?イーグルと・・・ニールも!?」
「ラキ、お前も無事だったか」

 イーグルは階段の方から隠れながらやって来たラキの存在にも驚く。彼は息を整えながら二人に話し掛けた。

「驚いたな・・・まさか、脱出していたとは・・・」
「俺の貞操が危なかったから」
「どういうことだ?」

 ラキの言葉に問い返してしまうイーグル。ニールは剣を抜いて、ブレードの前まで近寄る。

「動くな、手枷だけ切り落とす」
「・・・やってくれ」

 ブレードが両手を前に差し出すと、ニールは目にも止まらぬ速さで剣を数回振った。降り終えた直後、ブレードの両腕を戒めていた手枷がバラバラに壊れ落ちていく。

「おお・・・すげ―って俺もやって・・・」
「すでに切ったが?」
「へっ?」

 そう言われてラキが自身の手枷を見る。彼女の言う通り、彼の手枷にも切れ目が入り、力を入れただけで崩れ落ちていった。

(なんか変な差を感じるが、突っ込むと後が怖そう・・・)
「何か不満なのか?」
「いえ!滅相もありません!」

 ニールに向かって首や手を振り、必死に否定するラキ。イーグルは軽いため息を吐いて、取り返した『L.B.H』を懐から出す。

「ラキ、ちゃんと整備しろよ」
「あっ、イーグル、それって・・・」

 ラキは投げ渡された光学銃を受け取り、右手で振り回してなじませる。

「この城から脱出する。まだ、気を抜くな」
「・・・脱出方法は?」
「前回と同様で屋外に行き、転移魔法で脱出する」
「こんな大勢でどうやって出るんだよ?」

 ラキの質問に対して、イーグルは何も言わず、無線に手を伸ばす。

「レックス、一分間隔で爆破しろ」
『了解』
ドォォォォォン!

 無線からレックスの応答が入り、その数秒後に近くで爆発の衝撃が響いた。

「「「!」」」
「この機に応じて外へ向かう。ドクター、降下してくれ」
『了解、そっちに向かうよ』



 突如、爆発が起こり、巡回していた兵士や城内部にいた兵士たちが慌てて向かう。

「なんだ!今の爆発は!?」
「城の外壁辺りからだ!」
「衛兵!集まれ!」
ドォォォォォン!

 爆発のあった場所へ徐々に集まり出すが、またも別の場所で爆発が起こる。

「今度はあっちからだぞ!」
「敵か!?敵の襲撃か!?」
「何してる急げ!」

 次々と巻き起こる爆発によって、兵士たちはある場所から遠くへと誘導させられていく。



 最初の爆発地点から少し離れた城の外の広場。そこへ4人の人影が城の内部から飛び出して来た。

「こうも簡単に外へ出られるとは・・・」
「爆発の誘導により、兵士たちを遠い場所へ向かわせたからな」
「あれ、エスタたちは?」
「・・・上だ」

 ブレードに言われて上空を見上げると、三体の巨大な影がゆっくりと降りてきた。エスタ専用の『NYCYUS』とジェミニたちが乗った『ORNITHO』である。同時に城の別方向からレックスが複数の武装を所持して走って来た。

「お待たせしました」
「俺の武器!」
「・・・すまないな」

 手渡された武装を装着していく二人。その間に、三体の機動兵器が降り立ち、乗っていたレシィ、リオ、ケイが飛び降りる。

「おぬしら心配したぞ!」
「師匠!ご無事で!」
「あんた〜!」
「・・・手間のかかる奴らだ」
「まんざらでもねぇだろ?ぶっ!」
「・・・うるさい」

 ブレードは余計な突っ込みを入れたラキへ左拳の裏拳をかます。レシィは素早く転移魔法の詠唱をし始めた。地面に彼ら全員を包み込むほどの規模の魔法陣が描かれていく。

『レシィ!?』
「兄上、大丈夫じゃ。まとめて転移させるぞ♪」
「侵入者だ!」
「衛兵!」

 騒ぎに遅れた騎士の数人が彼らの存在に気付き、仲間を呼び寄せ始めた。

『やばっ!』
『見つかった!』
「総員、魔法陣に敵を入れるな!迎撃を開始しろ!」

 イーグルの指示で三体の機動兵器を主体に、彼らは防衛ラインを築く。

『銃撃〜』
『開始〜』
「なんだ、あれは!?」
「ひぃぃぃ!」
「に、逃げろ!」

 ジェミニはGPガトリングを威嚇程度に撃ち始める。城壁の上にいた弓兵などが銃撃によって怖気づいてしまう。

『邪魔!』
「目標、敵の実体剣・・・ファイア」
「ぐわぁぁぁぁ!!」
「うわぁぁ!!」
「なっ!剣が!?」

 エスタはプラズマカノンを直接当てず、爆風で兵士たちを吹き飛ばす。レックスは突っ込んできた騎士たちの剣をプラズマバスターで撃ち壊していった。

「あれ?これって・・・俺たち出番無いんじゃないか?」
「折角来たのに・・・師匠にいいとこ見せられない・・・」
「アタイにも戦わせろ!」

 ラキだけでなく、リオやケイも不満の声を上げる。そうこうしている内に、魔法陣は完成し、輝きを増していった。

「兄上、出来たのじゃ!転移開始!」
『レックス!』
「了解、仕上げのヘルファイアを7秒後に発射」

 レシィの転移魔法が発動し、機動兵器含めたドラグーン隊やレシィたちは光とともに姿を消す。

「しまった!」
「逃げたぞ!」
「おい、魔術師を呼べ!この魔法陣を・・・」
ドガアアアアアアアアン!!

 彼らが慌てて追跡を試みようとしていると、上空から飛んできた黒い物体が魔法陣に直撃して、大爆発を起こした。



<トトギス城 地下牢>

ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン

 最後の爆発の起きた時、その衝撃が地下牢にまで響き渡り、気絶していた尋問官が目を覚ます。

「ぐぐぐぐ・・・あの野郎・・・俺の大事なところを・・・」
「ざまぁねえな」
「・・・んだと!」

 後方から聞こえたシャグの声に苛立って立ち上がる尋問官。彼は股を左手で押さえながら、彼のいる牢獄へと入って行く。

「お前・・・勇者と言えど、その状態で・・・」
「威張ってんだよ、クソゴリラが」
「野郎!」

 シャグに挑発されて怒りが頂点に達し、彼は相手の顔目掛けて右ストレートを当てようとした。

パシッ
「!?」
「ニヤッ」

 彼の拳が顔に当たりかけた瞬間、シャグの左腕が拘束ベルトを一瞬で引き剥がして、尋問官の拳を握り止める。そして、止めた拳を今度は力を入れて、ゆっくりと握り潰し始めた。

バキバキバキ・・・
「あっ、ぎゃああああああああ!!」
「此処に居るのも飽きたな」

 彼は相手の拳を握り潰しながら、身体中の拘束ベルトを力任せに外していく。全てのベルトが解け、自由になったシャグは右手で尋問官の喉を掴み、柵へ向かって放り投げた。

「ぐぶっ!!」

 動かなくなった尋問官を無視して、彼は牢獄の外へと出ていく。その顔は歪んだ笑みを浮かべていた。

「ブレード・・・待ってろ。いつか、てめえをこの手でねじ伏せて・・・俺の手で倒してやる!」
11/12/03 12:21更新 / 『エックス』
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