連載小説
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お話 その1
 こんちはッス。俺、何処の村にもいるしがない農民とか言う奴ッス、はい。挨拶もさておき。ただ今俺はそんな地元である村を離れて数時間、均された公道をもそもそ歩いている。俺の村は、人々が行き交う発展した場所ではない。こう言う場所では、商業は発展しにくい。お陰で過疎地の村では、誰かが大きな街にまで買い出しに行かなければならない事も多い。当然、その道程は数時間を超える事もしばしばあり、やってくる事でさえ過酷を極めたりする。

「……ふぅ、やっと見えてきた」

 そうなれば、当然小さな村では誰かが都市に行くのであればお使いもといパシリを頼む事がある。しかし俺の村でまともに青年やってる人間は俺一人で、周囲は年寄りやら魔物カップルばかりだ。独り身だったら外で恋人探して来な!!とお隣に住まうラミア姉さんに背中をバシン!と叩かれたが―――。

「…余計なお世話ですっての」

 ボソリと呟く。そんな簡単に恋人が見つかるんだったら苦労だってしません。確かに外には色々な魔物娘がいて、もしかしたら偶然にも襲われたり関わったりすることだってあるはず。だけど……正直なところ怖いんですよ。魔物娘さん達は誰だって可愛い見た目しているけど、いざ迫られてみると眼がマジになってて、死に物狂いで逃げたくなるんですって。…童貞だからですけど。今さっきだって、草原のスライム…もといクイーンスライムに襲われそうになって、命さながら逃げてきたんだし。お陰で脚はくたくた、一日この街で泊まってきたいくらいだ。

「…いっその事、一泊してくかぁ…」

 幸いお駄賃は色んな人から貰ってきた。こう言う時ってみんな甲斐甲斐しいと言うか、ちゃっかりしていると言うべきか。どっちにしたって、購入分以外の金銭に問題はなさそうだ。脚を引きずりながら検問のお兄さん達に挨拶をして、街の中へと入っていった………。

                            ***

 ここは周辺都市だの地方都市だの言われている場所だが、俺のような田舎者だと、そうとも思えない。人が常に行き交っていて、店を構える店舗から、人の目を引く露店まで様々存在している。そんな街の案内掲示板を見て宿の場所を探してみると、ここから一番遠い場所に宿があった。どうやら、まだまだ歩かなければならないようだ。

「…はぁ」

 とりあえず、露店やら店舗やらを回ってから宿に入った方が効率的な動きが出来るだろう。この疲れで効率的な動きが出来るかは不明だが、明日も村に帰る時はどうせ疲れるんだし、同じことだ。ならば商品探しと言う事で―――頼まれごとをされているので、そのメニューが乗った紙をポーチから取りだす。っとと、これだこれだ。

『アルラウネの特濃蜜…大瓶4つ、幼マンドラゴラの根…10つ、絶倫御神酒…3升』

 …ヒッデェ品揃えである。恐らくこの如何わしい品の受注は全てあのラミア姉さんだろう。俺の村の近くにある森に迷い込んだ男性を拾い上げ見事虜にしてから早数年が経過しているが、未だにラブラブいちゃいちゃしているご様子で。 隣の家から軋む音が聞こえる俺の身にもなってください。

「後は食糧の果実やら穀物類も買わなきゃならないな。っていうか相当な量になるんじゃ…」

 これはもしや馬車の手も借りなきゃいけないだろうか。そう思うと金銭面的に苦しくなってくる。だが頼まれたからには遂行しなければいけない。これだから村に男手がないのが厳しいという……。ま、文句を言ってても始まらない。適当に露店やら見て回って、手に入れるべきものを探さないと―――。

「おっ、そこのおにーさん!」

 ため息をつきながら歩いている所、元気さがにじみ出るような明るい声を掛けられた。見渡してみると、道端に居座っている少女が2人、こちらに視線を向けていた。一人はニコニコ笑いながら手を振っている。どうやら声の主はこの娘で、俺が呼ばれたのだろう。

「呼んだのって、俺?」
「そーそー。暗い顔してため息ついてたから、無視されると思っちゃったよー」「…よー」

 やたらサバサバした感じで、しかし幼い色も残した賑やかしい声が俺の耳に届いてくる。良く見てみるとこの娘、魔物娘のようだ。種類は確か、んーなんだっけか。もう一人の、奥でじっと俺を寡黙に見つめている娘さんも同じ種類のようだ。それぞれ小さな角がついてる。

「ささ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!ゴブリンの素敵アイテムだよー!」「…よー」

 ゴブリン?ああ、そうか。この娘たちはゴブリンだったか。この様子からすると、都会には慣れたようで。でも奥で細々と声を上げた娘はどうにもゴブリンっぽく見えない。この娘もどうだったか、記憶にない。さておき。どうせだから受注品があるかどうか聞いておいて損はないはずだ。じゃあさっそく、

「じゃあ、アルラウネの」「ないよ」
「…じゃあ、幼マンドラゴ」「なーいよ」
「……絶倫御神」「ないよーって」

 ………他所を当たろう。

「あーあー待って待っておにーさん! そんな明らかに落胆した表情しないでっ!」「…でー」
「無いなら仕方ないじゃないか。そもそも何を売ってるのさ」

 良く見ると、敷かれた布の上には商品らしいものが見当たらない。っていうか気付けよ俺。だが何もない訳じゃない。どうやら紙きれのようだが―――何が書いてあるか、俺にはさっぱりだ。一応文学の学習で知識こそあれど、こんな文字見たことが無い。そもそも此処って何屋?

「ここはねおにーさん。≪『ゴブの手も借りたい』貸してあげま商店≫なのさ!」「…のさー」
「上げま“しょう店”と“商店”を掛けたのかーオニイサンビックリダー」
「もしかしておにーさん人手に困ってらっしゃるんじゃないかと思いまして」
「…人手?」

 確かに、大量の食物を抱えて帰るのには困っていた所だ。そうでなくても忙しいと言うのに。

「はいさ! 私たちゴブリンが、おにーさんのお手伝いをさせて貰おうってね!」「…ねー」
「お手伝いって事は…一緒にモノを探してくれたり、荷物持ちを手伝ってくれたり…?」
「あいさー!」「…いさー」

 しかしハイテンションなのとローテーションなのが見事に分かれててシュールである。…いや、それはそれとして。もし手伝いをしてくれるのであればそこはかとなく有難い次第だ。必要な物を分担して見つけたり、買い物で俺が持ちきれなくなった荷物を持ってもらう、一緒に村まで配達みたいについてきて貰えば万々歳だ。文句なんてあったもんじゃないだろう。つまり此処は便利屋―――?

「おにーさんのご想像した通りでございまして」「…してー」
「ほう……道理で露店なのに商品が置いてないわけだ」
「どう、どう? ご利用になっていきませーん?」「…ぜひー」

 これは利用するべきか否か…。って言う前に腹が決まってたりするから否定する意味が無いけど。

「じゃあ、手伝って貰おうかなぁ」
「はいはーい! ご利用ありがとうございまーす!ささーココにご一筆…」

 喜んで彼女が差し出してきたのは、布に広げられていた紙だった。相変わらず何書いてあるか不明。だがそこは、元気の良い方の娘が「お名前を記入してくださーいな」と言っていたのでサラサラ…と。だが。この時俺は執筆するのに夢中で、彼女らの奇特な表情に気付いていなかった―――。

「は〜い、ご記入お疲れ様でしたっ! それじゃあお手伝いに行きまっかー!」「…かー」
「ん、それじゃあ一緒によろしくお願いしますかな」

 こうして俺は二人のゴブリン娘を連れて、街中を探し物することになった。この時、どうしてこんな事をしたのか、そして未来の事が予想できたのならば、回避できただろうか…?
11/03/02 01:55更新 / 緑色の何か
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■作者メッセージ
続きは「お話 その2」で。

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