読切小説
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もしベントルージェギルドの男冒険者がノワール・B・シュヴァルツの世界の勇者と戦ったら
「確かベントルージェはこっちの方角ですね」
 くすんだ黒髪の男が糸目をベントルージェがある方角を見てつぶやいた。
「聞いた話だと魔物と人が共存して暮らしている所だとか。そのような汚らわしい所早く滅ぼさないといけませんね」
 男はそう言って唇を歪ませた。ベントルージェで魔物を殺すというできもしないことを妄想しているのだろう。
「それに冒険者がいっぱいいるらしいですね。まあ恐るるに足りません。どうせボクの力を見たら諦めるでしょうから」
 男はその予想がすぐに覆されることも知らずに自信ありげな顔を浮かべた。
「まあついたら一応人間には避難するように呼びかけてみましょう。どうせムダでしょうが言っておいた方が勇者らしいでしょう」
 勇者はそう言って不敵な笑みを浮かべる。後に彼はベントルージェを狙ったことを激しく後悔することになるのだが、今の彼にはしる由もなかった。
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 私はジニー=ウィーゼル。冒険者の街と呼ばれるベントルージェの冒険者ギルドの冒険者です。
「えーと最低ランクのクエストはっと」
 と言ってもまだ新米ですけどね。でもいつかはロキ先輩のように立派な冒険者になってみせます!
「師匠、次はこのクエストにしましょう」
「いや、こっちの方がいいだろ。な、師匠」
 あの掲示板の前で弟子の魔物さんたちに囲まれているのがロキ先輩です。フィアボルトでも大活躍だったって衛兵隊の副長をしてるお兄ちゃんに聞きました。
「どれどれ。えーっとヒマつぶしになりそうなのはっと」
 ロキ先輩は最高ランクの所を見ながらどっちがいいか選んでます。クエストを選べる立場にない私からしたらうらやましい限りです。私もいつか最高ランクに上がりたいです。そしていつかショタパーティを…。
「えへへへ」
「…何よだれ垂らしながら笑ってるんだお嬢ちゃん」
 隣から大柄の男の人に話しかけられて我に返りました。
「な、何でもありません」
「そうかい。ま、ショタコンも程々にな」
 な、何で私がショタコンなことが知られてるんですか?!
「な、何でだと思います?」
 私は顔見知りのお姉さんに聞きました。
「うーん。多分あなたのお兄さんがロリコンだからあなたもそうだと思われてるんじゃない?お兄さんがサバトの幹部だってことは有名だし」
 くっ。まさかお兄ちゃんがロリコンってことがそこまで有名だったなんて。偽名でも使った方がよかったでしょうか?!

「ん?」
 私が動揺してるとロキ先輩が声を上げた。
「どうしたんですのロキ?」
 ヴァンパイアのジュリア先輩がロキ先輩に尋ねました。
「いや、何か大きな力がベントルージェに近づいてるのを感じるんだけど」
 まだ街に入ってきてもいないのにわかるんですか?!さすがロキ先輩です。
「大きな力?強力な魔物でも来たんですの?」
「いや、どうも教団関係者みたいだね。エンジェルからは何も聞いてないんだけど」
 ロキ先輩はそう言って出口に向かいました。
「じゃ、ちょっとヒマつぶしに行ってくる」
 ロキ先輩はそう言って走って行きました。
「ちょ、待ちなさいロキ!」
 弟子の人たちも後を追って行きました。
「お、おい。おれたちも行ってみようぜ」
「そうだな。ロキが蹂躙する所そう見れるものじゃないからな」
 そう行って周りの冒険者たちも次々に出て行きました。
「ま、待って下さいー」
 私も急いで皆さんの後を追いました。
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「ここがベントルージェですか…」
 男は糸目をさらに細めて楽しそうに言った。 
「ふふふ。これから汚らわしい魔物の女を血祭りに上げられると思うと胸が踊りますね」
 男はそう言って不気味な笑いを浮かべた。想像するのは勝手だがそれが実現することは絶対にないだろう。
「それではここの人たちに伝えましょうか。あなたたちに死を告げる勇者がやって来たとね」
 男はそう言って息を大きく吸い込んだ。
「ボグハァッ!」
 男は口を開こうとした瞬間に黒い影が男のあごを打ち抜いた。
「グホッ!」
 次は黒い影が腹を蹴った。鎧があっても衝撃は伝わったようで男は前に飛んだ。
「ガフッ!」
 トドメに黒い影は男の頭にかかと落としを食らわせた。男は顔面から地面に叩きつけられた。
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「どうしたの。早く立ちなよ。まさかもう終わりじゃないよね?」
 私がついた時には侵入者らしき人が地面にうつぶせに倒れてました。
「一体どうなったんですか?」
「ど、どうなったって言われても…。ロキがいきなり現れてあごと腹と頭に攻撃した所しか見えなかったよ」
 そう答えたのは準高ランク冒険者の男の人でした。準高ランクでも目で追えないなんてやっぱりロキ先輩はすごいんですね。

「…いきなりひどいですね。人が話そうとした時に攻撃するなんて」
 侵入者の人はそう言って立ち上がりました。それなりにダメージを喰らったはずなのに平気そうに見えます。
「だって教団のやつの話なんて聞く価値もないじゃん。あんただってどうせ教団の腐った正義を声高に叫ぶために来たんじゃないの?」
 さらりとひどいことを言いますね。まあ私も同じ意見ですけど。
「普通の教団の人ならそうですね。でもボクは『この世界』に召還された勇者なのでそんなことは関係ないんですよ」
 この世界?どういう意味なんでしょう?
「ふーん。あんた異世界人なんだ。なるほどね。だから力が強い割には制御が雑だったわけか」
 ほえー。あれが異世界人ってやつですか。初めて見ましたよ。
「ああ。探知されてたわけですか。何も言ってもいないのに攻撃されたからおかしいと思いましたよ」
 勇者はそう言いながら余裕を崩してません。少しは動揺してくれたらいいんですけど。
「つまり勇者として魔物を倒す自分に酔ってるってことだね。いい年ぶっこいてフィクションと現実の区別もついてないなんて精神年齢低すぎるよ。とっとと家に帰ってママのおっぱいでもしゃぶったら?」
 毒舌全開ですねロキ先輩。そこもまたいいんですけどね。
「バカにしないで下さい。ちゃんと魔物がボクが大嫌いな女性だってことは知ってますよ。そして勇者が女性を殺せば殺すほど賞賛される存在だってこともね」
 うわー。狂ってますねこの勇者。でも何でそんなに女性を嫌ってるんでしょう?昔何かあったんでしょうか?
「へー。つまりあんたホモってわけか。ただの勇者の分際でそこまで強力な回復呪文がかかってるなんておかしいと思ったんだよね。大方本当は教団の性欲処理用として呼ばれたけど体で篭絡して召還主から力をもらったって所じゃない?男同士なら自称主神の童貞クソジジイの教義に反することもないしね」
 すごく悪意がある変化球で返しましたね。普通に女に手ひどく裏切られたとかじゃないんですか?
「やっぱり篭絡したのって教皇とかなのかしら?」
「違うでしょ。やっぱり若いイケメンなパラディンとかじゃない?」
 後ろでは女冒険者たちが騒いでいます。よく見ると受付のお姉さんまでいました。ちゃんと仕事して下さい。…人のこと言えないですけど。
「……」
 ロキ先輩の言葉に勇者が顔をうつむけました。まさか当てられたのがショックだったとか?
「あれ図星?別に隠すことないよ。ここではそう言うの割と受け入れられてるし、むしろ推奨してる人たちもいるしね」
 ロキ先輩がそう言ってる間にも後ろでは勇者と誰のカップリングだとか、攻めとか受けとか言ってます。男と男をくっつけて何が楽しいんでしょうか?

「…るな」
 勇者が何かつぶやいたかと思うと辺りに変なオーラが発せられました。
「ふざけるな!あなたたち女性はいつもそうだ。男同士の友情を育んでると勝手にBLBL騒ぎやがって!そのおかげで仲良くしてた友達は怯えた目をして尻を手で押さえながら去って行ったんだ。全部あなたたちのような腐った女性が悪いんだ!」
 え、そっちなんですか?!どうやらロキ先輩はうまくトラウマを引き出せたみたいですね。
「でも元の世界では女性を殺すと罪になるから何もできませんでした。そんな毎日に絶望してる時にこの世界に勇者として召還されました。ボクは歓喜しましたよ。何せ女性を殺して賞賛される立場を得られたんですからね」
 勇者はそう言って狂ったように笑った。ようなって言うかすでに狂ってますね。

「…言いたいことはわかったよ」
 ロキ先輩の言葉に勇者は気持ち悪い笑いを浮かべました。
「それはありがたいです。わかったらそこをど」
「だが断る!」
 ロキ先輩は食い気味に被せました。明らかに言いたかっただけですね。
「ふざけてんのはそっちの方だよ。何であんたの都合でここの皆が傷つかないといけないわけ?しかもそんな的外れな理由でさ」
 ロキ先輩がそう言った瞬間勇者から出ていたオーラが全く感じられなくなりました。ロキ先輩が打ち消してくれてるんでしょうか。
「ど、どこが的外れだって言うんですか?!」
 勇者はなぜか震えながら聞きました。
「だってそうじゃん。確かに女の子に言われたのもあるだろうけど実際に避けるようになったのはその友達じゃん。なんでその友達を恨もうと思わなかったわけ?」
 ロキ先輩の言葉に勇者は言いよどみました。
「そ、それは」
「ああ。言わなくてもわかるよ。どうせ何か言った所でボコボコにされると思ったんじゃない?だから自分でも勝てそうな女の子に恨みの矛先を向けたって所かな?」
 ロキ先輩の言葉に勇者がビクッと反応しました。
「その様子だと当たりみたいだね。どう言いつくろってもあんたは自分より弱い相手にしか力を震えないただの臆病者のクズでしかないよ。今ならまだ許してあげるから剣を捨ててしっぽを巻いて無様に逃げたら?その方がチキンなあんたにはお似合いだよ」
 ロキ先輩は嘲笑を浮かべて言いました。
「…交渉は決裂ですね」
「は?あんたただ一方的に言い負かされただけじゃん。それで交渉とか頭おかしくない?あ、ごめん。あんたの頭はどう考えてもおかしかったね」
 ロキ先輩の言葉に勇者の顔は真っ赤になりました。
「…その減らず口二度と聞けないようにしてあげます」
 勇者は気合を入れて剣を構えました。
「中二病丸出しの発言だね。ま、妄想は自由なんだしどうでもいいけどさ。それじゃ行くよヘル」
 ロキ先輩はかなり軽い調子で背中にある魔剣ヘルを抜きました。
「その余裕も今のうちです。教団の切り札の力を皆さんに見せてあげます」
 勇者はそう言ってロキ先輩の所に駆けて行きました。
「だったら見せてみなよ。…見せられるんならね」
 ロキ先輩もすごいスピードで勇者の所に向かいました。
 
「ふっ」 
 最初に攻撃したのはロキ先輩でした。正確に言うといきなり勇者の鎧がバラバラになって体から落ちたと言った方がいいですね。
「なっ?!」
 勇者が驚きの声を上げた。
「別に驚くことないよ。ヘルにとってはそんな鎧紙同然だからね」
 いや、どう考えてもスピードに驚いたんだと思うんですけど。
「それならなぜ鎧の上からダメージを与えなかったんですか?」
「そんなのあんたが傷つく様子を見やすくするために決まってるじゃん」
 ロキ先輩の言葉に勇者はブルブル震えました。それが怒っているからなのか怯えているからなのかはよくわかりません。
「な」
 勇者が口を開いた瞬間肩から鮮血が舞いました。そして傷がすごい勢いで増えていきました。
「く、クソッ」
 そんな猛攻に勇者は反撃するどころか剣を振ることさえできないようです。それに対してロキ先輩は剣を振るったことさえわからない程すさまじいスピードで勇者を切り刻んでいきます。焦りの表情を浮かべている勇者といつもの笑顔を浮かべているロキ先輩。どっちが優勢かなんて新米の私でもわかります。
「さすがロキ。剣を振った所さえ見えないぜ!」
「スピードがあることは知っていたがまさかあれほどだとは思わなかった。本当にロキは底が知れないな」
 周りの冒険者の人たちも騒いでいます。やっぱりすごいですねロキ先輩。
「それに比べて勇者は口ほどにもないな。教団の切り札とか言っておきながら反撃すらできないとは」
「まあロキ相手じゃそんなもんだろ。でもなんか切られる度に回復してないかあの勇者?」
 言われてみるとそう見えますね。そう言えばロキ先輩が回復呪文がどうとか言ってたような気がします。
「ま、どうせロキはこれで心おきなくいたぶれるとしか思ってないんだろうけどな」
「あいつも哀れだな。そんなものロキ相手じゃただ苦痛を長引かせるものでしかないのに」
 結構すごい回復呪文のはずなのに扱い悪いですね。ロキ先輩相手じゃしょうがないですけど。
「どうした勇者ー。その程度かー!」
「悔しかったら反撃くらいしてみろ!」
 周囲からヤジが飛びました。勇者は顔を赤くしましたが攻撃する素振りは見えません。やっぱりあんな猛攻をされたら動けないんでしょうか。
「なあ、これって解説とかした方がいいのか?」
 ワーウルフのライカ先輩が他のロキ先輩の弟子に聞きました。一体何の話なんでしょう?
「必要ないだろう。師匠のすごさは伝わっているのだからな。わざわざあんなのをフォローしてやることはない」
 リザードマンのティエラ先輩の言葉に皆うなずきました。
「ま、それもそうだな」
 一体の話をしているんでしょう?私には見当もつきません。

「くっ。少しはやるようですね。こうなったら奥の手を使わせてもらいます」
 勇者はいきなり負け惜しみを言い出しました。当てるどころか攻撃さえできてないくせに何を言ってるんでしょう?
「へえ。魔法も使えるんだ。だったら使っていいよ。それで気がすむならね」
 ロキ先輩はそう言って攻撃をやめました。
「クッ。その余裕がいつまで持つんでしょうね。さあ、くらいなさい!」
 勇者はそう言って手を前に出しました。でもしばらく待っていても何も起きません。
「な、なぜだ?!」
「この魔剣ヘルは当たったもののあらゆる力を吸収するんだよ。攻撃だろうが生物だろうが関係なくね」
 つまり切られて魔力を吸収されまくったから魔力切れを起こしたってことでしょうか?
「ボクが聞きたいのはそんなことじゃない!何でボクの攻撃がわかったんですか?!」
 勇者は何を言ってるんでしょう?出血しすぎてただでさえおかしい頭がさらにおかしくなったんでしょうか?
「何言ってんの?あんたボクに攻撃なんかしたっけ?そこの新米のショタコンさんはどう思う」
 ロキ先輩、私みたいな新米のことを知っててくれたんですね!でもショタコンってことまでバレてるのは複雑な気分です。
「はい。どう考えても手も足も出せずに一方的にやられてました。そんなこと新米の私にもわかります」
 私の言葉にロキ先輩は満足そうに笑ってくれました。
「だってさ」
 ロキ先輩の言葉に勇者は顔を怒りで歪ませました。
「畜生!よくもコケにしてくれましたね!こうなったら他の属性で勝負です!くらえボクのほ」
 勇者が言い終わる前にロキ先輩が勇者の首の後ろに一撃を加えました。そして前に倒れこむ勇者の頭を足で思い切り踏み砕きました。地面にヒビが入ってる所から見て確実に気とか魔力とか込めてますね。
「あ、ごっめーん。なんか使わせたら色々とまずいような気がしたからつい倒しちゃったよ。ま、もう聞こえてないだろうけどね」
 勇者はピクリとも動かなくなりました。偉そうに出てきた割には全く何も出来てませんでしたね。一体何しに来たんでしょうか?

「シルヴィアはいる?」
 ロキ先輩は勇者の体を踏みつけながら聞きました。
「なーに?お兄ちゃん」
 そう答えたのはコゼットサバトの幹部の魔女のシルヴィアさんです。封印術が得意らしいですけどなんでここにいるんでしょうか。
「悪いんだけどこいつの能力封印してくれない?あ、体にかけられてる回復呪文は残しておいてね」
「いいけど、回復呪文を残してどうするの?」
 シルヴィアさんの言葉にロキ先輩はニヤリと笑いました。
「吊るし上げて技の練習台とかストレス解消に使うんだよ。回復呪文があれば心臓とか脳とかを潰さない限りどんなに苦しくても死ねないじゃない?」
 さすがロキ先輩。敵には全く容赦ないですね。
「そりゃいいや。ここに手を出そうとした以上相応の報いを受けさせなきゃな」
「今まで的壊して怒られてばかりだったからな。こいつはいい的になりそうだぜ」
 うわ。勇者ひどい目に合いそうですね。ま、ここを狙った以上しょうがないですけど。

 それから勇者は周りの迷惑にならないように防音呪文がかけられた廃墟で吊るされることになりました。その廃墟は観光名所になり、親魔物派の地域から観光客が練習台やストレス解消をするようになりました。よければあなたも来てみませんか?きっといい叫び声を上げてくれるでしょう。

         おわり
11/06/24 20:56更新 / グリンデルバルド

■作者メッセージ
タイトルからわかる通りノワール・B・シュバルツさんに許可をいただいたので書いてみた話です。わかりやすく説明すると攻撃したことさえわからない攻撃は当たらないと攻撃してないようにしか見えないし、目に見えない攻撃呪文も当たらないと不発したようにしか見えないということです。簡単な理論ですけど普通実践できませんよね。
ノワール・B・シュヴァルツさん、許可してくれてありがとうございました。後勇者を必要以上に痛いキャラにしてしまってすみません。

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