連載小説
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王族たち
 オレたちは王宮についてすぐに玉座の間に通された。
「ほう。貴様らが新しい勇者か」
 金髪の脂ぎったデブが玉座にもたれかかっている。認めたくネェがこいつが王なンだろォよ。
「勇者のハインケルです。こちらは仲間の賢者のベル、騎士のデビー、シスターのクリスです。以後お見知りおきを」
 本来なら二度と会いたくネェが社交辞令として言ってやった。
「ふ、覚えておいてやる。我ら王家の発展のために尽くせ」
 そこで国のためって言わネェあたりやっぱりクズだな。こォいうやつ見てると叩きつぶしたくなってくるゼ。
「ええ。この王国のために精一杯働かせて頂きます」
 オレの言葉にデブは気持ち悪ィ笑いを浮かべた。王家って言わなかったことはどォでもいいのか?
「ぐはははは!勇者がいれば余の権力も安泰だな。下賎な民共も余の威光にひざまずくだろう」
 自分の国の民を下賎呼ばわりかよ。思った通り王の器じゃネェな。

 ここでオレが家族を殺されたあげく拉致された国の説明をしておくゼ。この国の名前はケルゼム王国だ。魔界と反魔物領の境界付近にあり、勇者や魔王討伐軍は大抵ここで最終準備をする国だ。魔界に接しているから当然軍事力も強く、腕に覚えがあるやつらが大勢来るから商売も栄えている。だが王が自分たちや貴族や教団のことしか考えてネェから民は重税に苦しんでいて、治安は最悪だ。だがほとンどの民は食らう魔物に対抗するために必要だからとか言う建前で丸めこまれてるらしい。それでも不満を持つやつらはいるが力でねじ伏せてるらしい。まァこンなやつが王の座に座ってる国じゃまともな国にはならネェだろォよ。

「そうだ。貴様に余の子供たちを紹介しよう。誰か呼んで参れ」
 デブがそォ言うと衛兵たちが慌てて出て行った。多分機嫌を損ねたらやべェからなンだろォな。そしてしばらくしてからまた衛兵たちが戻ってきた。
「フン。お前が勇者か。とてもそうは見えないな」
 デブのミニチュア版みてェな男が出てきてンなことを言った。テメェみてェな温室育ちのブタに勇者にふさわしいとかわかンのか?
「申し訳ありません王子様。なにぶんまだ未熟なもので」
 オレはベルたちを手で制しながら言った。ここで騒ぎを起こされても困るからな。
「フン。せいぜい精進するがいい」
 ミニブタ野郎はオレを見下した目で見てきやがった。絶対いつか殺してやるよ。

「あなたが勇者ですか。まだ若いのに大変ですね」
 次に出てきたのは金髪でやせた男だった。ミニブタみてェにオレを見下すよォな目はしてネェ。それどころか完全にビクビクしてやがる。勇者の機嫌を損ねたら自分の身が危ねェってことをよくわかってるンだろォよ。王の器なのかはわからネェが、傀儡くらいには使えるかもな。
「困難は承知の上です。まだ若輩者で頼りなく見えるかもしれませんが全力を尽くします」
 オレがそォ返すとモヤシはビクッと震えた。
「い、いえ。あなたは頼りないなどということはありません。むしろ」
「一瞬嫌味だと疑いたくなるほど気を遣っていただけるとは光栄です」
 オレの言葉にモヤシは青ざめた。少しからかいすぎたかもしれネェな。
「フン。臆病にも程があるぞアレックス。そいつは勇者と言ってもまだガキではないか」
 本当にうぜェなこのミニブタ。いつか親子まとめてミンチにしてやるよ。
「そ、そういうことは思ってても口に出してはいけません。機嫌を損ねて敵に回すよりはお世辞で丸め込んだ方がまだマシです」
 なるほど。斬られる覚悟がネェから刃を振らネェわけか。斬られる覚悟もネェのに振るやつよりはマシかもしれねェな。
「…そっちの方が思ってても口に出してはいけないのではないか?」
 ミニブタが珍しくまともなことを言うとモヤシは口をつぐンだ。いや、今更遅ェから。
「ご心配なく。その程度のことでぼくの決意は変わりませんよ」
 元々テメェらはオレたちの敵なンだからよォ。
「ぐははは。頼もしい限りだな」
 デブが耳障りな笑いを上げた。その笑いが苦痛の悲鳴に変わる日を楽しみにしてるゼ。

「これはこれは勇者殿。お目にかかれて光栄です」
 薄らハゲが手を差し出して来た。やたらと媚びてくるなこの薄らハゲ。大方オレに取り入って後継者争いで有利になろォって腹なンだろォよ。後継者争いで国が乱れるのはいいことだが、こいつを勝たせるメリットはなさそォだな。
「これはどうもご丁寧に」
 オレが手を差し出すと手に重い袋が乗った。
「そ、そんな物受け取れません」
 オレはとりあえず拒否する素振りをした。
「気に病むことはありません。これは正義のためのお金ですから」
 薄らハゲが下卑た笑いを浮かべてきた。
「…わかりました。ありがたくいただきます」
「取引成立ですね。これからもよろしくお願いします」
 多分これだけじゃネェンだろォな。まァいい。せいぜい搾り取れるだけ搾り取ってから捨てさせてもらうゼ。
「かなりイキイキしてるねお兄ちゃん」
「何かあったんでしょうか?」
「どうせいつもの悪巧みでしょ」
 言いたい放題だなお前ら。まァ否定はしネェがよ。

「勇者様が来たと言うのは本当ですかお父様?」
 デブと息子どもの相手にうんざりしてたころに女の声が響いた。お父様って言ってたから姫なンだろォよ。
「ああそうだイザベラ。こいつが勇者ハインケルだ」
 息子と反応が違いすぎるな。かなり甘やかされてるみてェだ。そォ思ってオレは声がした方を見た。
「初めまして勇者様。第一王女のイザベラです」
 −−−オレは思わず目を見張った。言っておくが一目ボレなンつーベタなモンじゃネェ。まァ美人なのは認めるけどよ。おそらく母親似の顔立ちにピンク色の髪。きらびやかなドレスに映えるよォな可憐さ。それよりも印象的なのはピンク色の瞳と潤んだ唇だ。いや、正確に言うと浮かべてる表情だが。
「勇者様?」
 イザベラの瞳には憤りや、哀れみや、呆れや、申し訳なさと言ったよォな感情が浮かんでいる。もしかしてこいつオレの事情を知ってるのか?いや、単にこれまでの勇者の事情を知ってるからオレもそォだと思ってるだけなのか?いずれにしろ勇者の家族や大切な人を殺した上、それが人を殺す邪悪な魔物の仕業だと騙して、魔王を倒す道具として利用する教団をよく思ってネェのは確かみてェだな。
「すみません。姫様があまりにもきれいだったので見とれてしまいました」
 オレはまっすぐイザベラの目を見て言った。イザベラは一瞬目を見開くと、一瞬ニヤリと笑って、微笑みを浮かべた。
「ふふふ。お上手ですね。あなたは私が思っていた以上の人物のようです」
 イザベラは楽しげに言った。
「あなたこそぼくの予想よりもずっとすばらしい姫様ですよ」 
 正直単なる箱入り娘だと思ってたゼ。
「よかったら私の部屋に来ませんか?2人きりでお話ししましょう」
 イザベラが誘うよォな目で見てきた。
「いいですよ。ぼくもちょうどあなたと話したいと思っていた所です」
 オレがそォ言うとイザベラはオレの手を取った。
「では参りましょう」
 イザベラはいきなりの展開に固まっているベルに挑戦的に微笑みかけた。そしてオレの手を引いて自分の部屋に向かった。

          つづく
11/04/23 00:16更新 / グリンデルバルド
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■作者メッセージ
また更新が遅くなってしまって申し訳ありません。

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