連載小説
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始まりの日
「ここが勇者と賢者がいるという村か…」
 鎧を着た男がそうつぶやいた。鎧に描かれた十字架から教会騎士だということがわかる。
「正確には予定ってだけだ。今はただのガキさ」
 もう1人の教会騎士がそんなことを言った。
「そろそろ作戦を始める。感づかれるような真似はするなよ」
 周りの騎士たちよりも派手な鎧を着た騎士が言った。おそらく隊長だろう。
「大丈夫ですって。相手はまだガキですよ。どうせ何も気付きませんって」
 騎士の言葉に隊長はニヤリと笑った。
「そうだな。少し物足りないがしっかりやるか」
 −−−その予想がどれだけ甘かったのか、彼らはすぐに身を持って知ることになった。
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「ね、ねえやめときましょうよハインケル。森に入っちゃいけないってお母さんも言ってたじゃない」
 幼馴染のベルがオレにくっつきながらそんなことを言ってきた。
「そんなの知らネェよ。それにダメって言われるほどやりたくなるのが普通だろォが」
「で、でも」
「何だベル。もしかして怖ェのか?」
 オレの言葉にベルはムッとなった。
「こ、怖くなんかないわよ。…あんたと一緒なら」
 …最後のは声が小さくて聞こえなかったゼ。あんな小さい声で聞こえるわけがネェだろォが。
「…とにかく行けるとこまで行ってみるぞ」
「うん」
 ベルは力強くうなずいてオレにくっついて来た。やれやれ。これだから幼馴染っつーのはめんどくせェンだよ。

 適当に森の中を歩いてるとどこからか車輪と馬が駆ける音が聞こえてきた。
「これって馬車の音じゃない?」
「そォみてェだな。こンな森の中に一体何のようだ?」
 オレたちが音がする方に向かうと、一台の馬車が村の方向に走っていた。馬車には教会のものだということを示す十字架が描かれている。
「何で教会の馬車が村に向かってンだ?」
「村には魔物はいないはずよね」
 オレたちの村は教会とは何の関わりもネェ。何かあるとしたら魔物関連なはずだ。だがオレたちの村に魔物は暮らしてネェぞ。まァ魔物は人を殺すっていう教会の話は全くのデタラメっつーことは知ってるけどよ。何人もの旅人から魔物はエロい存在だって聞いたことがあるゼ。
「ハインケル、あんた隠れて魔物を迎え入れたりしてないわよね?」
 ベルが軽くにらんできた。
「それだったらお前も知ってるはずだろ。いつも一緒なんだからよォ」
「そ、そうね。あたしたちいつも一緒にいるもんね」
 ベルはそう言って照れくさそうにしている。やっぱり単純だなこいつ。
「とりあえず戻ってみるか。何かイヤな予感がするゼ」
「…そうね」
 オレとベルは急いで村の方に戻った。

 オレは目の前の光景が信じられなかった。村のみんなが死ンでいたからだ。
「魔物はどうした?!
「すみません、取り逃がしました」
 周りには教会の騎士の死体も転がってやがる。死体の傷跡はまるで軌跡を描かれたようにつながっている。その太刀筋は見慣れたものだった。
「…」
 ベルはオレにつかまって体を震わせている。ムリもネェだろォな。オレもベルがいなかったらぶっ倒れてェ所だ。
「それで生存者は?!」
 騎士の1人がそう聞いた。
「村に生存者はいません。生き残ったのは遊びに行っていた2人の子供だけでしょう」
 もう1人の剣士がそう返した。

「そ、そんな。お父さん、お母さん」
 ベルはそう言ってガクリと倒れこんだ。
「お、おいベル!」
 そうベルに呼びかけても何も反応がネェ。あまりにもショックがでかすぎて気絶しちまったみてェだな。
「大丈夫かい君たち?」
 他のやつらよりも派手な鎧を着て、ケガした顔を手で押さえてる騎士がオレたちに気付いて言った。指の間からまるで回転に巻き込まれたようにえぐられた傷が見えた。

 −−−頭ン中で何かがブチッと切れたと思った次の瞬間、オレは死んだ騎士の剣を持ってその騎士に切りかかっていた。すぐに周りの騎士たちがオレを取り押さえた。
「…何のつもりかな?」
 オレが切りかかった騎士が探るよォな目つきで見てきた。何だか警戒してるみてェだ。…ここはごまかしといた方いいな。
「このノロマグズ役立たずヘボザコ負け犬馬の骨凡骨カスゴミクズ無能騎士どもが!テメェらがチンタラしてネェでもっと早く来てたならンなことにはなってなかったンだよ!おまけに魔物に負けるとかどんだけ弱くてショボい万年童貞チンカス軍団なンだよ!…返せよ!村の皆を返しやがれ!こォなったのは全部テメェらのせいだ。何とか言いやがれクソッタレ騎士ども!」
 オレの言葉に騎士は何かをこらえてるみてェだ。それが安堵か笑いかはわからネェがよ。
「なんだとこのガキ!おれの仲間を殺したのがだ」
「落ち着け」
 オレの言葉に怒った騎士を顔に傷を負った騎士が止めた。どォ考えても余計なことを言われネェよォにするためだろォよ。
「…すまなかった。謝ってすむことだとは思ってない」
 騎士がそォ言って頭を下げた。気づいてネェと思って白々しいマネしやがって。
「お詫びと言っては何だが新しい家を用意しよう。武術や魔法もしっかり鍛え上げてあげようじゃないか。もちろんその子も一緒にね」
 騎士は気絶してるベルを一瞥してそォ言った。
「テメェより強くなれンのか?」
「もちろんだ。君は勇者で、そこの彼女は賢者なのだから」
 …なるほど。だからこンなことになったンだな。
「だったら行くよ。その前に準備していいか?ベルの分も一緒にな」
「もちろんだ」

 オレはまずベルの私物を家に持ってきた。それから自分の私物を荷物に詰め込ンだ。
「おっと。忘れる所だった」
 オレは親父の書斎の本棚からノートを取り出した。自警団の親父が我流で極めた剣術の秘伝の書だ。本人は勝手にゼファー流とか呼んでいた。オレも相当叩き込まれてた。
「安心しな。親父の技はオレが引き継いでやるよ」
 オレは秘伝の書を荷物に入れて部屋を出て行った。

         つづく 
  
 

 
 
  
  
11/01/09 19:09更新 / グリンデルバルド
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■作者メッセージ
何となくここで分けました。今日更新できたらいいと思います。

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