連載小説
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馬車の中で
 オレはベルを背負って騎士の後について行った。騎士が立ち止まったので見てみると森の中で見た馬車があった。
「乗れ」
 騎士がイラついた口調で言った。さっき言ったことによっぽど腹が立ってるのかもしれネェな。
「はいはい」
 オレは騎士に促されるまま馬車に乗り込んだ。

 馬車にはすでに先客がいた。緑の髪の女と、小さい青い髪の女だった。
「ふぇ?ここどこ?」
 ちょうどその時背中にいるベルが起きた。
「教会の馬車の中だ」
「え、何で」
 そう言うベルは顔を歪めた。何があったか思い出したンだろォな。
「あ、あれって夢?よね本当に皆が死ぬわけないでしょ?」
「…そォだったらよかったのにな」
 オレが言うとベルはオレにしがみついてわんわん泣き出した。
「うわあああん」
「泣くなよベル。こっちまで泣けてくるじゃネェか」
 オレもベルを抱きしめて声を殺して涙を流した。

「これまた見せつけてくれますね」
「お兄ちゃんとお姉ちゃんラブラブだねー」
 緑の髪の女と青い髪の女がそんなことを言った。…そォ言えばこいつらいたんだった。
「あ、あんたたち誰よ?!それにいつから?!」
 ベルが本当に驚いたように言った。
「最初からいましたよ。完全に2人の世界に入ってたからわからなかったでしょうけど」
「ひゅーひゅー。熱いねお2人さん」
 この青髪女は一体いくつなんだ?言うことが親父くせェぞ。
「う、うっさい!それより自己紹介しましょ。あたしはベル。でこっちの白髪で赤い目なのがあたしの幼馴染の」
「ハインケルだ。さっきは見苦しい所を見せちまったな」
 オレがそういうとベルはぷいっと横を向いた。
「私はデビーです。あ、敬語なのは気にしないでください。もうクセになってるので」
 デビーと名乗った女はそう言ってペコリとお辞儀した。
「私はクリスタル。みんなからはクリスって呼ばれてたんだ。よろしくね」
 クリスという女が言った言葉にベルは気づいたみてェだな。
「呼ばれてたって、まさかあんたたちも?」
 ベルの言葉にデビーとクリスは顔をうつむけた。
「…ごめんなさい。さすがに無神経だったわ」
「お前たちには悲しみを分かち合えるやつもいネェってのによ」
 オレとベルの言葉にデビーとクリスが慌てて顔を上げた。
「いや、いいんですよ。私たちのことは気にしなくて」
「そ、そうだよ。もう散々泣いたし」
 そう言いながら2人の顔は辛そうだった。
「別に泣いてもいいぞ。1人で抱え込む必要はネェ」
 オレがそォ言うとクリスとデビーがオレに抱きついて泣き出した。ベルから突き刺さる視線が痛ェが今は気にしネェことにしよォか。

「…で、デビーとクリスはなんて言われて連れてこられたンだ?ちなみにオレは勇者でベルは賢者らしい」
 オレはデビーとクリスが泣き止んでから聞いた。
「あたしそんな話聞いてないんだけど」
「お前は気絶してたからな。おかげでお前の分まで準備するハメになっちまったぜ」
 オレの言葉にベルはちょっと顔を赤くした。
「な、何勝手にやってんのよ。ちゃんといるものは持ってきたんでしょうね?」
「とりあえず部屋にあるものは適当に持ってきたぞ。隅々までちゃんと探したから見落としはないはずだ」
 オレの言葉にベルは慌てて荷物を確かめた。
「…ホントだ。忘れ物はないみたいね」
「だろ?」
 オレの言葉にベルは一瞬嬉しそうな顔をした後オレをにらんできた。
「で、なんであんな所に隠してあったものまであるのかしら」
「な、なんだよ。持ってこなかったら持ってこなかったで怒るだろォが」
「そんなの当然じゃない」
「なんだよそれ。理不尽すぎっぞ」
 ベルはまだ何か言いたそォだったが、生暖い目で見ているクリスとデビーに気づいてやめた。

「…話を戻しますね。私は騎士になれって言われました」
「私はシスターだよ」
 デビーとクリスはそう答えた。
「つまり教会に入れってことね。それにしても魔物があんなことをするなんて思わなかったわ。教会が言ってるのとは違うと思ってたのに」
 ベルは失望したように言った。
「私もそんなことはしないって聞いてたよ。まさかあんなひどいことをするなんて思わなかったよ」
「そうですね。襲った魔物が見つかればいいんですけど」
 みんな怒りをぶちまけるよォに言った。これは完全に騙されてやがるな。
「…ンな魔物見つかるわけネェよ」
 オレがつぶやくとみんなこっちをにらんできた。
「何よ。仇探すのあきらめるっていうの?」
「探せばちゃんと見つかりよ」
「教会の情報網に引っかかるはずです」
 こりゃ完全に騙されてやがるな。

「別に探すのを諦めたわけじゃネェ。ただ事実としてンな魔物はいネェって言うだけだ。…だって犯人は教会なンだからよォ」
 オレの言葉にみんな目を丸くした。
「…何でそんなことを言えるんです?」
 デビーが訝しげに見てきた。
「考えてもみろよ。皆殺しになった村の生き残りが全員勇者とか騎士になるべきやつなんて偶然あるわけネェだろ。しかもその時にたまたま教会の騎士が来る確率低すぎるゼ。誰かが仕組んでたと考えた方がよっぽど自然だろォよ」
 オレの言葉にみんな固まった。
「でも魔王軍が勇者の危険性を考えて送り込んで来たってことはないの?」
「それだったら真っ先に殺されてるに決まってるじゃねェか。大体ンなことしても意味ネェだろ。冷静に考えてみろ。もし何もなかったら勇者とか言われて魔王を倒す旅に出よォなんてこと思うか?」
 オレの言葉にみんな首をひねった。
「…わざわざ倒す気にはなりませんね。別に殺されるわけじゃありませんし」
「…魔物と人間でも愛があればいいんじゃない?」
「…エロいだけで殺すっていうのはあんまりだと思うわ」
 やっぱり思った通りだな。
「ンな考えのやつらの所を襲撃してわざわざ敵を増やす意味ネェだろ。教会が魔物の仕業に見せかけて村のみんなを皆殺しにして、魔物への復讐心を抱かせて勇者として旅立たせよォとしたっていう方がよっぽどつじつまが合うゼ」
 オレの言葉に全員黙り込ンだ。
「ちょ、ちょっと待って。じゃあ何であたしたちの村では騎士も死んでたっていうの?仲間割れを起こしたとでも言うの?」
 やっぱりベルならその質問をしてくると思ってたゼ。
「オレの親父にやられたンだよ。騎士の体についてた傷は一筆書きでもしたよォにつながってた。親父のゼファー流は一対多を想定してて、一振りでまとめて葬り、さらに次の攻撃につなげられるっていうのは特徴なんだよ。されに決定的な証拠は隊長らしき騎士の顔についた傷だ」
「傷?」
 ベルは不思議そォな顔で聞いてきた。
「そいつの顔にはまるで渦巻きみたいにえぐられた傷があったンだ」
 オレの言葉にベルは気づいたみたいだ。
「それってブラッディースパイラルじゃない!」
「「ブラッディースパイラル?」」
 デビーとクリスが不思議そうな顔をする。
「ブラッディースパイラルは親父の必殺技だ。簡単に言うと手首に捻りを加えた突きでかなりの威力を誇る。さらに突き終わった後の切っ先の向きに寄って次の技を出せるっていうつなぎ技でもある」
 あそこまできれいに顔に食らっててごまかせるわけネェだろ。

「じゃあなんで黙って連れてかれてるのよ!あんた悔しくないの?」
「悔しいに決まってるじゃネェか!!」
 オレが叫ぶとデビーとクリスがビクッと震えた。
「…だが今逆らった所で何ができるンだよ。オレたちはクソッタレな神に勇者パーティーっていう名目で選ばれただけのただのガキだ。今反抗した所で単なる犬死にだ。それに乗った方がいいこともある」
 オレの言葉にみんなは訝しげな顔をした。
「いいことって何よ?」
「やつらはオレたちを魔王を倒せるよォに鍛え上げてくれるだろォさ。それに実力をつけて勇者として認められた方が敵にショックを与えられるゼ」
 オレの言葉にベルはオレの手を取った。
「わかったわ。あたしもあんたに協力する」
 続けてデビーとクリスも手を取った。
「私たちも協力します」
「一緒に教会を倒そうね」
 −−−こうして勇者の皮を被った神敵が生まれた。

       つづく
11/01/10 10:01更新 / グリンデルバルド
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■作者メッセージ
ちょっと剣術の設定に難があるような気もします。それに7歳でここまで鋭いことなんてあるんでしょうかね?まあこの時からすごかったってことにしといて下さい。
ここまで読んでくれてありがとうございました。

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