連載小説
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殺人鬼の末路
「ろ、ろ、ロキだー!!」
 ロキが現れた瞬間大男が下品な叫び声を上げて震えだしましたわ。どうでもいいのですけどなぜロキに会った敵はみんなこのセリフを言うんでしょうか?もしかしてはやってるんですの?
「な、何を脅えてるんですか?あなたはそれでも高ランク冒険者なんですか?!」
 そういうメガネの男は冷や汗をダラダラ垂らしながら顔を青くして震えてますわ。戦闘経験はなくても本能が危険を告げているんでしょう。
「む、ムチャ言うな!あ、あんな化け物に勝てるわけねえだろ!」
 大男はもう失禁してますわ。もう無様としかいいようがないですわね。
「く、クソ。なんでロキがこんな所にいるんだ!ロキがいるのはベントルージェのはずだろ」
 大男は唇をブルブル震わせながらそんなことをいいましたわ。
「ロゼをひどい目に合わせたクズがいるって聞いたからね。ぶちのめすためにわざわざ飛んで来たんだよ」
 確かに文字通りキサラに乗って飛んで来ましたわね。

「…ゆ、許してくれ。あんたの知り合いを傷つけたなんて知らなかったんだ」
 大男は震えた声でそんな白々しいことを言いましたわ。
「…仕方ないね。死んだ人たちもそんなこと望んでないだろうし」
 ロキは全く笑ってない目で大男を見下しつつ冷笑を浮かべて答えましたわ。そしてわざと隙をさらすような感じでもったいぶって後ろを向きましたわ。
「バーカ。引っかかグホッ」
 大男はロキにハンマーを振り上げようとした瞬間に鳩尾を蹴り飛ばされてふっとびましたわ。
「あ、ありのまま今起こったことを説明するぜ。おれは攻撃したと思ったらいつのまにか攻撃されていた。な、なにを言ってるかわかんねーと思うがおれにもわけがわかんねー。ワープとか」
「超スピードなんていうチャチなもんだよ。もっと恐ろしいものの片鱗なんてボクは味合わせた覚えないんだけど」
 ネタを食い気味につぶしましたわね。全く容赦ないですわ。
「ひ、卑怯だぞ!てめーが許すとか言ったから安心して攻撃したんじゃねーか」
 …後ろから攻撃したくせによくそんなことが言えますわね。逆恨みにもほどがありますわ。
「後ろから不意打ちして来たあんたが言えるセリフじゃないと思うんだけどね。大体本当に許してもらえるとでも思ってたわけ?ボクは何も反省もしてないくせにただ痛めつけられるのがイヤでごまかすために謝るやつが一番嫌いなんだよね。傷つけられる覚悟もないくせに人を傷つけるんじゃないよクズが」
 ロキはかなり冷たい声で言いましたわ。明らかにぶちぎれてますわね。
「まあボクはあんたたちみたいなクズでも殺すようなことはしないよ…生物学的にはね」
 それってどう考えても安心できませんわね。死にさえしなければ何でもするということですし。

「それじゃ覚悟はいい?まあなくても叩きのめすだけど」
 ロキはそう言いながら背中のベルトを外してヘルを鞘ごと持ちましたわ。今気づいましたけどヘルの鞘ってかなり禍々しいですわね。何か金属でできているみたいですし。
「アムド!」
 …何か今どこかで誰かが飲んでるものを吹き出したような気がしたのは気のせいでしょうか?そんなことを思ってる間にヘルの鞘が姿を変えてロキの体にまとわりつきましたわ。そして最終的には鎧になりましたわ。
「な、なんだその鎧は?!」
「ボクの魔剣ヘルの鞘は鎧に変形するんだよ。試しに攻撃してきていいよ。ボクはここから一歩も動かないからさ」
 ロキが一歩も動かないってかなりのハンデですわね。よっぽどその鎧に自信があるんですの?
「なめやがって!くらえ!」
 大男はそう言ってハンマーを振り上げてたたきつけましたわ。
「何?!」
 ロキは何とそのハンマーを手甲がついた指で受け止めましたわ。ロキにそこまでのパワーはないから鎧の効果なんでしょうか?でも指にぶつかったときに音がしなかったのはなんでですの?金属と金属がぶつかったのですから音が響かないとおかしいですわ。
『それは私が説明するわね。この鎧は触れた攻撃のエネルギーを変換する能力があるの。今はハンマーから伝わってくるエネルギーを周囲に拡散してるから何にも反応ないってわけなのよ』
 頭の中に何だか穏やかな声が聞こえてきましたわ。やっぱり鞘にも人格が宿ってたんましたのね。
「喋りすぎだよスピリ。ちなみにエネルギーの方向を変えると」
 ロキがそう言うとハンマーが柄から折れて大男の顔に飛びましたわ。
「グハッ」
「…まさかそんなに簡単に飛ぶとは思わなかったよ。手入れくらいしたらどうなの?まあ骨の髄まで腐りきってるやつの武器じゃこんなものだろうね」
 ロキは心底呆れ果てた目で見た。
「クソッ。あの武器屋不良品を売りつけやがったな!」
「何言ってるの?あんたがちゃんと殺した後に血糊をふき取ったり、錆びないように磨いてたらそんなに武器が老朽化することはなかったんだよ」
 ロキはそう言って鎧に目を向けた。
「…スピリには悪いけどこの姿にはあまりなりたくないんだよね。回避能力も意味ないし、鎧で服を覆うからほとんどの暗器が使えなくなるし。一応鎧にもついてるけど、武器とか完全に丸見えだからね」
『そんな言い方はないんじゃないかしらマイロード。丸見えだけどちゃんと武器はついてるし、エネルギーを色々変換できて便利だと思うけど』
「でも武器の特性は全部同じだし、何より鎧に頼りきってたら実力がつかないじゃん。だから鎧まで使う時はそうするだけの価値がある相手か…」
 そう言ってロキは大男を鋭い目でにらみつけましたわ。
「ほぼ全殺しにしたいくらいのゲス野郎だけだよ。ああ安心して。ちゃんと死なないギリギリの線は見極めるから。ほぼ確実に廃人になるかもけど今までしてきたことが悪いと思って諦めてね」
 そう言ってロキはヘルを掲げてもはや心が完全にへし折れて呆然としている男に向かっていきましたわ。

「ちっ。どこまで役立たずなんですか。こうなったら私だけで逃げましょう」
 大男がロキにミンチにされて断末魔を上げている間にメガネ男がそんなことをいい出しましたわ。
「逃がすと思ってるんですの?」
 わたくしは隠れている所を出て、大男の正面に出ましたわ。待ってるのってかなり退屈ですわね。
「もう諦めて下さい」
 後ろの道からはキサラが出てきましたわ。
「もうお主は終わりじゃ」
「今までの罪の報いを受けるがよい」
 右からコゼット、左からはフィアボルト領のバフォメットのスーザンが出てきましたわ。まさに最強メンバーですわね。
「ど、ドラゴンにバフォメット?!なぜそんな高位な魔物がこんな所に?!」
「お主らは儂のシマを好き勝手に荒らしまわった。その落とし前をつけるのは当然じゃ」
 ヤクザか何かの言い草みたいですわね。言ってることは全く間違ってませんけど。
「儂はスーザンが心配なのはもちろんじゃが、何よりお兄ちゃんに辛い思いをさせたのが我慢ならん」
「あなたがたのようなゲスが主殿の心を惑わせるなどあってはなりません」
「ロキの怒りはわたくしたち全員の怒りですわ」
 わたくしたちの言葉にメガネ男は焦り出しましたわ。

「くっ。こうなったら強行突破するまでです。『メラゾーマ』」
 メガネ男は予想通りわたくしに向かって大きな火球を放ってきましたわ。わたくしはそれに対して指から小さな火の玉を出しました。小さな火の玉は大きな火球を貫通して男の目の前に落ちて激しく燃え上がりましたわ。
「ぐっ。私の『メラゾーマ』がいとも簡単に破られるとは。日光が出てる状態でこれとは夜にはどれだけ強いんですか…」
 やはりヴァンパイアということはわかったようですわね。でも1つ大きな間違いをおかしてますわよ。
「何を言ってるんですの?今のは『メラゾーマ』ではありませんわよ」
 多分メガネ男の訝しげな視線を見ているわたくしの顔には冷笑が浮かんでいるでしょうね。少しロキに毒されたのかもしれませんわね。
「…『メラ』ですわ」
 わたくしの言葉にメガネ男の顔が驚愕に染まりましたわ。
「なっ?!」
「何を驚くことがありますの?それだけあなたとわたくしの魔力に差があるということですわ」
 それを聞いたメガネ男はブツブツとつぶやき出しましたわ。
「あ、ありえない!ヴァンパイアが太陽の下でそんな力を出せるわけがないでしょう!」
 メガネ男は現実を受け止められないかのように何度も首を振りましたわ。
「太陽の下ではかなり弱体化するからと言って太陽の下に出ないヴァンパイアならそうでしょうね。でもわたくしには我慢できませんでしたの。別に暗闇の中だけで生きていても何の不自由もありませんでした。ただ力を出せないと諦め、避けるのが耐え切れなかったのですわ」
 わたくしはメガネ男をにらみつけましたわ。
「あなたの知識は所詮魔物娘図鑑を鵜呑みにしただけのものですわ。図鑑から得ただけの“常識”の枠から抜け出そうともせずにこの魔物ならこうだと決め付けてるくせに知識をひけらかせているだけの井の中の蛙ですわ。だからロゼを殺さないという致命的なミスを犯し、太陽が出ているだけという理由でわたくしの方に向かって力の差を思い知ることになるのですわ。…まあどこを選んでも大して変わらなかったでしょうけど」
 どう考えてもバフォメット2人とドラゴン相手では分が悪すぎますわ。一応この中では太陽が出てて力が弱っているわたくしに向かって来るのが正解なのは確かですわ。でもだからと言って相手よりも弱いとは限りませんのよ。
「安心なさい。命だけは奪いませんわ。…どれだけ殺してくれてと泣き喚いてもそんなのわたくしたちの知ったことじゃありませんもの」
 わたくしたちはメガネ男に一斉に襲いかかりましたわ。
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「…犯人逮捕の協力、感謝する」
 隊長が衛兵たちをぶちのめしたボクたちに頭を下げた。え?一体どうやって倒したのかって?…聞かない方が身のためだよ。絶対に精神衛生上よくないだろうからね。
「ボクはただあいつらがやったことが許せなかっただけさ。それにちょっとやりすぎたしね」
 いくらなんでもあれは怒りに身を任せすぎたような気がする。まああんなやつらがどうなろうと知ったことじゃないけどね。
「…気にするな。やつらを逃がしたのも、お前の手をわずらわせたのも全て我ら衛兵隊の未熟さが招いた結果だ。これからはいっそう厳しく訓練に励むことにしよう」
「ええー!それはないですよ隊長」
 ダメ副長が情けない声を上げる。本当にこの人副長なのかな?
「…何を言っている。もっと力をつけないと領民を守ることなんてできないだろう」
 本当に隊長は真面目だね。
「ありがとねロキ、ジュリア、キサラ、スーザン様、コゼット様。私を傷つけた人たちを捕まえてくれて胸がスッとしたわ」
 ロゼはそう言った後に隊長の方を向いた。
「隊長さんも犯人を見つけてくれてありがとね。お礼として犯人の似顔絵を描くのくらいは手伝ってもいいわよ。か、勘違いしないでよね。純粋な感謝の気持ちだけでべ、別に隊長さんに会いたいわけじゃないんだからね」
 そう言って横を向くロゼの耳はほんのりと桜色に染まっていた。
「…そう言ってくれると嬉しい。お前の絵の腕前はきっと犯人を見つけるのに役立つだろう」
「と、当然よ。このロゼ様が協力することを光栄に思いなさい」
 ロゼは照れくささが混じったような声でそんなことを言った。
「ああ。ありがとう」
「うっ」
 ロゼの顔はかなり真っ赤になっている。やっぱりそういうことだね。
「な、何よその目は」
「べっつにー」
 ボクがそう言うとロゼは赤くなってプルプルと震えだした。ちょっとからかい過ぎたかな?
「ううっ、もう出てけー!」
「はいはい。ジャマ者はすぐに退散します」
 ボクはロゼが投げてきた羽根ペンを軽々とよけて隊舎から出て行った。

 それからボクたちはとりあえずフィアボルト領で一泊して帰ることにした。
「ここって温泉が有名なんだよ」
「ちょうど私が住んでるドラッケン山脈の近くですからね。火山が集中しているということです」
 ボクの言葉にキサラが誇らしげに答えた。
「温泉ならわたくしも問題なく入れますわね」
 ジュリアもどこか嬉しそうだ。いちいちオーディウスの入浴剤を入れる必要があったのもあるのかもしれないね。
「せっかくじゃから混浴するのじゃお兄ちゃん」
 コゼットの言葉にみんな目を輝かせた。
「はいはい。ちゃんと混浴がある所知ってるから連れて行ってあげるよ」
 ボクがそう言うとみんなは満面の笑みを浮かべた。
「それなら早く行きますわよロキ」
「案内して下さい主殿」
「行こうお兄ちゃん」
 みんなはしゃぎすぎじゃない?まあいいんだけどね。

 そうして歩いていると前から黒フードの男が歩いてきた。歩き方を見るだけでもかなりの使い手だってことがわかる。
「お前仲間にはやさしいくせに敵には容赦ネェンだな。シギュン姫の言った通りだゼ」
 黒フードがすれ違いざまにそんなことを言ってきた。ボクはシギュンの名を聞いてその黒フードの正体に気付いた。
「君も同じだってシギュンから聞いたけど?」
「ククク。違いネェ。オレたち案外似たもの同士なのかもな」
「そうかもね」
 確かに殺すか殺さないかの違いはあるけど、根本的な所では似ているのかもしれないね。
「ロキー!早く行きますわよー」
 遠くからジュリアの声が聞こえてきた。
「連れが呼んでるから行くよ。また会えたらいいね」
「あァ。次に会った時は武器も交えて語り合おうゼ」
 そう言えばそっちの武器も喋るんだったね。
「そう出来たらうれしいね。じゃ、またね」
「おう、またな」
 ボクたちはお互いに手を挙げて別れた。

「今の誰ですの?」
 ジュリアが不思議そうに聞いた。
「友達の友達って感じかな。つい話が弾んじゃったよ」
「…やっぱり友達って女性ですの?」
 ジュリアがジト目でにらんできた。
「…さーて温泉行こうか」
「はい!…ってごまかされませんわよ。一体友達とは誰ですの?!」
 多分その友達が誰か知ったらジュリアは驚くんだろうな。ボクはそんなことをいいながら先に行ったキサラとコゼットを追いかけた。

        おわり
11/01/06 19:50更新 / グリンデルバルド
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■作者メッセージ
なんとか終わらせました。ちょっとネタを入れすぎたような気がします。これで『悪逆勇者戦記』を進められます。これまで付き合ってくれてありがとうございました。

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