連載小説
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発覚
「ど、どうすんだよ!もう衛兵たちが近くに来てるんだぞ」
 私と一緒にいる大男がせわしなく部屋を動き回りながら言った。名前?そんなの覚える意味ありませんよ。この男とは単に利害が一致したから組んでるだけです。運がいいことに高ランク冒険者だったからやりやすかったですよ。
「うるさいですよ。少しは落ち着きなさい」
「うるせえ!大体てめえがあのガキを殺さなくても大丈夫だとか言ったからこうなったんだろうが!」
 男はまだわめきちらしている。こんなんでよく高ランクなんかになれましたね。やっぱり力だけなんでしょうか。
「アリスが覚えてるわけないでしょう。きっとわからないからあてずっぽうで描いただけですよ」
「バカかてめえ。あてずっぽうでおれの傷の位置とかハンマーの細かい所まで描けると本気で思ってんのかよ」
 …どう見ても脳みそ筋肉にしか見えない人にバカとか言われてしまいました。逆らったら適わないので何も言わないのが得策でしょう。
「犯人に告ぐ!貴様らは完全に包囲されている。ムダな抵抗はやめてとっとと出て来い!」
 外からそんな声が聞こえてきた。
「こ、このままじゃ捕まるぞ」
 男がまた騒ぎ出した。いいかげんうっとうしいですね。
「今は大人しく従いましょう。どうせ証拠もないでしょうしね」
 私たちは大人しく衛兵たちに従うことにした。

 私たちは取調べ室に連れてこられました。ハンマーは回収されて部屋の隅の方に置かれました。
「…お前たちがこの事件の犯人か」
 冷静そうな印象を受ける男が聞いてきました。多分隊長かなんかでしょう。
「全く。こんな事件を起こすなんてロリコンの風上にもおけませんよ。ロリコンっていうのは隠すものでなくさらけだすもので、ロリっていうのは傷つけるものではなく愛でるものという基本的なこともわからないんですか。あんたたちなんかがあんな事件を起こしたせいで我らがスーザン様がどれほど心を痛めてるかわかってるんですか?あのお方はあんたたちがあんな事件を起こしたのは自分のサバトへの導きが足りなかったって嘆いてるんですよ。あんたたちみたいなゲスがスーザン様の崇高なお心を傷つけるなどなんて身の程知らずな行いですか。恥を知りなさいこのクソ殺人鬼どもが」
 隣にいたかなり抜けてそうな男がまくしたてた。話を聞く限りサバトに入っているようですね。
「ふざけんな!おれたちがやったっていう証拠があるのかよ?」
「お前たちも指名手配の絵くらい見たことがあるだろう。あれは被害者本人が描いたものだ。これ以上に有力な証拠はないだろう」
 わめきちらす男に対して衛兵は冷静に返した。
「そんなもの信用できるか!あいつはアリスだから記憶は残ってないはずだ。そんなものでっちあげにきまってるだろう!」
 大男が言ったことに衛兵は訝しげな顔をした。
「どうして被害者がアリスだとわかるんだ?その情報は衛兵か、彼女の知り合いか、もしくは…犯人しか知りえない情報のはずだ」
 大男はそれを聞いて青ざめた。いくらなんでもわかりやすすぎでしょう。
「たまたま事件の後で倒れているのを一緒に見ただけです。私はこれでも魔物にはくわしいですから漏れでてる魔力からアリスだということがわかったんです」
「なるほど。つまり直接会ったことはないということか?」
 衛兵は探るような目で大男を見た。

「当たり前だ!あんな性悪女と会ったことがあるわけないだろ!!」
 大男がそう言った瞬間場の空気が凍りました。
「どうだ!何も言い返せないだろう!ざまあみろ!」
 勝ち誇る大男に衛兵は冷ややかな視線を送った。
「…語るに落ちたな。お前はさっき彼女と会ったことないって言ったはずだ。だったらなんで性悪だなんてことがわかるんだ?」
 その言葉に大男は凍りつきました。いくらなんでもバカすぎでしょう。
「そ、それはアリスがそういう魔物だってそのメガネから聞いただけだ!」
 大男は私を指差しながら言った。
「…アリスっていうのはたいていは見た目通り純粋で無垢だってノルレは言ってたぞ。本当に魔物にくわしいならそんな基礎知識を知らないわけがないだろう」
 私は何も言い返せませんでした。そんなことも知らなかったなんていうのは私のプライドが許しません。
「まあ彼女は絵描きをやってるから客として行ったならわかる可能性はあるかもしれないがな」
 衛兵がそういうのを聞いて大男はニヤリと笑った。
「そ、そうだ。だから性悪だってわかっ」
「お前バカだろう。客にそんな態度で接してたまるか。彼女は絵を買いに来た人たちには見た目通りの純粋な子供を演じているんだ。だから本性を知っているとしたら心から信頼してるか、もうバレていてごまかす必要がないか」
 衛兵はそこで意味ありげに言葉を切った。
「下心丸分かりの吐き気がするようなしまらないにやけ面で近づいてくるのがあまりにも気持ち悪すぎて思わず素が出てしまった時くらいだろう」
 衛兵の言葉に大男の顔が真っ赤になった。
「何だと!そこのメガネはともかくおれのどこが気持ち悪いってんだよ!」
 大男は私を指差して言いました。何をしてるんですかこのバカは 
「…おれは犯人のことを言っただけなんだがな。そこまで怒るってことはやっぱりお前たちがやったってことか」
 衛兵の言葉に大男は真っ青になった。
「ま、待て。まだ言いたいことが」
「言い訳なら牢獄の中で言うんだな。このクズどもを連行しろ」
 衛兵がそう言うと部下の衛兵たちが集まってきて、私たちに向かってきた。
「ふざけんな!こんな所でつかまってたまるかよ!!」
 大男はそう言って衛兵たちを殴り倒し、部屋に置いてあるハンマーを手に取った。
「ジャマするな!来たら殺すぞ!!」
 男がそう言ってハンマーを振り上げた。思ったより貫禄ありますね。
「むやみに近づくな。先にそのメガネを縛り上げろ」
 衛兵たちは今度は私の方に向かってきました。
「私なら捕まえやすいと思ったんですか?甘いですね。『メラゾーマ』」
 私は左の壁に向かって呪文を放って穴を空けました。
「ま、魔法だと?!」
 後から来た衛兵の1人が動揺したような顔をしました。
「脱出経路は作りました。逃げましょう」
 私はハンマーで牽制している大男に呼びかけました。仲間意識はありませんけどボディガードは必要ですからね。
「おう!」
 大男はそう言って私の近くに来ました。
「…大人しく捕まった方が身のためだぞ。確実に後悔することになる」
 隊長らしき衛兵がそう言いました。
「せいぜいほざいてるんだな。あばよ!」
 私は大男に後ろを守られながら去っていきました。衛兵たちは隊長たちの指示なのか追ってきませんでした。私は衛兵たちがどんな顔をしてるのか確かめるために後ろに目をやりました。意外なことに衛兵たちは悔しそうな顔や絶望ではなく、ただ哀れみの視線を浮かべてました。それはまるで私たちに同情しているかのようでした。

「ざまあみろ!衛兵なんてこんなもんだ!」
 路地に出た大男は上機嫌でそんなことを言いました。
「まだ油断はできません。すぐにまだ応援がくる可能性がありますよ」
「はっ!おれを倒せる者がいるか!」
 大男は自信を持ってそんなことを言った。

「ここにいるぞー!…って言えばいいのかな?」

 突如息が詰まり、背筋が凍りつき、体が押しつぶされそうになるほどになるほどのプレッシャーが私たちを襲いました。

         つづく
  
  
10/12/23 22:28更新 / グリンデルバルド
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■作者メッセージ
次で事件は終わります。一体どうなるんでしょうかね?…最後のセリフと呪文名でわかるとは思いますけど。

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