モンスターズスクール（偽） ファルシオ祭りに参加してみた
祭り
普段から考えられない程の人ごみと熱気。雑然とした人の流れ。一種独特の雰囲気に酒に酔った様な高揚した気分になる。いつもは腹が立つはずの肩の衝突さえ、町全体が自分を手荒な歓迎をしてくれているように思ってしまう。
流石に考え過ぎか
僅かに胸の内で苦笑する。
「あっちで人だかりができてるよ！」
「ねぇねぇ、あれなぁに?」
「ボク、あれやりたい！ あれやって良い？」
「私、ライブ見に行きたい！ マスター、一緒に行こうよ！」
「引っ張んないでよぉ〜 とりあえず、のんびりしようよぉ〜」
「待ちなさいって！ 迷子になっちゃうわよ！？」
俺の頭の上でフェアリー達は好き勝手な事を言い合いながらクルクルと踊っている。
ちなみに、人だかりに興味津々になっているのはリーフェ。リーフェに釣られて興味を抱いたのはシィル。今にも人だかりに突撃しそうなボクっ子はフェア。他のフェアリーを引っ張ってライブに誘うのはテリエラ。一生懸命に他の五匹をまとめようとしているのはお姉さん格のテイルだ。
「まぁ、とりあえず・・・落ち着こう。 お前達。 お祭りは逃げないし時間はタップリあるから。 な？」
「｢｢｢｢｢ふぁ？｣｣｣｣｣」
六匹のフェアリー達はピタリと動きを止めてこちらを見て、そのあと周囲を見渡した。よくよく見れば流れの中に、歩く速度を緩めてこちらを眺めている人もいる。何人かの知らない人たちを目が合った。
精霊達ならまだしも、子供っぽく手の掛かる上に出来る事がかなり制限されているフェアリーを使役しようとする輩はほとんどいない。精霊使いならぬ妖精使いは珍しく、ましてや６匹も飛ばしていたら興味を抱くのは当然だろう。おまけに俺の服装が現代の物で、周囲にいる現地の方々は民族衣装のような服装なので目立つ事この上ない。
ついでに、時折、男一人で歩いているヤツから「モゲロ」なんて怨嗟の声が聞こえてくるのは聞こえなかった事にしよう。物騒だしな。
・・・
価値観にも依るだろうが、俺は基本的に祭りでお金はあまり使わない。食べ物やジュースなんて平日に普通の店で買ったほうが遥かに安いし良質だ。祭りとは雰囲気や行事を楽しむものであって、買い物を楽しむ場所ではないと思っている。
出店を冷やかし、小腹が空いた時に祭りに出ている珍しい種類の食べ物を売っている出店で買って満たすのだ。金魚すくいや射的のような遊技は冷やかすだけ。実際にやって思うようにいかないと嘆くより、それらのやりとりを見ている方が楽しかったりする。おまけに、もらった景品も処分に大抵困る。結局、あまり金を持ってきても物騒なだけなので、ポケットの中には少し多目の小遣い程度しか入っていない。
「とりあえずお前達。 はぐれないようにするから、おいで」
「「「「「「はぁい」」」」」」
最初はフェアリー達に腰縄でもつけようと思ったが、間違いなく職務質問の対象になりそうなので却下。フェアリーに腰縄つけて飛ばせるなど、犯罪臭しかしない上に好き勝手に飛び回るフェアリー達は絡まるのが目に見えている。俺は可愛いモノ好きであってロリコンではないのだ。良いか？俺はロリコンじゃない。単なる可愛い物好きだ。
大事な事なので二回言いました。
「冗談さておき。まじめに作業するか」
契約という絆を具体的なイメージに作り変える。フェアリー達それぞれの契約を強く意識すれば、それぞれが互いに絡み合うことも無い。イメージするのはアラクネの糸。しなやかで丈夫な魔法の糸。
「できた。 これで良いだろ」
フェアリー達と俺の間に糸ができる。不思議そうにフェアリー達が糸を引っ張ってみたり、互いの糸を絡めようとしたりして遊んでいる。
「マスター。 これなに？」
「契約の鎖を具現化させたんだよ。 これでお前達がどこに居るか分かるだろ？」
「へー・・・ マスター、こんな事もできたんだぁ・・・」
「っていうか、マスターならボク達の事5ｋｍ先でも場所をサーチできるでしょ？」
「真性ロリコンだからねー♪」
「うるさい、お前達。 人をロリコン扱いするな」
「きゃはは、マスター怒ったぁ♪」
「怒ってない！」
「うっそだぁ〜 怒ってるよぉ〜」
「怒ってないってば！」
契約者と使い魔の間にできる鎖は、契約した必ずできるものだ。互いに位置や必要な情報を与えるための繋がり、バフォ様に任せて契約したので理論は全く持って分からない。俺自身は、魔術の類は道具無しには使えない。
しかも、道具と言っても杖や帽子、マントなど汎用性の高いものは全く使えず、お守りや札のような一般人でも使えるインスタントな魔法具だ。携帯電話の通信原理が分からなくても、携帯が使えるのと同じである。
「でも、マスターは一個だけ魔術使えるでしょ？」
「時空転移？ あれは魔術じゃないよ」
唯一使える「時空転移」は、正確に言えば魔術ではない。魔術であれば原理があるし、系統立てて分類や使用ができる。場合によっては応用も可能だろう。それに対し俺の転移術は全く持って原理不明で、何故使えるかも分からない。バフォ様さえも高度で複雑な術式であるとかいう理由ではなく「使える理由が分からない」のだ。
例えるのなら、考古学者に対して宇宙の原理について訊ねるようなものである。畑違いだと言われた。それでも調べてみて分かった事が幾つかあった。
魔術を代償に得た固有のルール
時空転移とはルールの行使
世界は規則に縛られている。物を放り投げれば重力に引かれ、物体を押せば反作用を受ける。これに理由はない、ただ、世界がそういう風にできていたからだ。飛行機が飛ぶ計算をする事ができても、揚力が発生する理由は誰にも説明できない。
俺は「時空と空間の障害を一切無視して移動する事ができる」という規則を予め組み込んでいただけなのだ。
「ん〜・・・ 生まれながらにして特殊能力か〜・・・ 厨二病かな〜？」
「ねぇ、マスターの話が長いから、ボクあっちの輪投げ行って良い？」
「分かった。 スゴイ能力を可愛い子を追いかけるために使っているんでしょ？」
「そっか！ ロリのためなら神様だって敵に回して見せるって事か！」
「そんな事より、お祭り楽しもうよ。 マスター」
「要は・・・ ルールで、そう決まっているから魔術とは言えないって事？」
最後まで話を聞いてくれたテイルに感涙を流しそうになったのは言うまでも無い。
・・・
「マスター、いっぱい人がいるね〜」
「うん、活気あって元気になりそうだね」
「みてみて♪ あっちで大道芸やってるよ〜♪」
「ねぇ、マスター。 このポップコーン美味しいよ！」
「マスターにもボクのクレープ少し分けてあげるね」
「あ、さんきゅ･･･って、おま、鼻に詰めようとするなぁ！」
「きゃはは」
頭に乗ったり、肩に乗ったりしながら見物フェアリー達と祭りの雰囲気を思い切り楽しむ。フェアリーが六匹も身体にまとわりついている状態で歩くのは目立つけど気にしない。ついでに言うと、職務質問された時のゾクゾク感が堪らないぜ。
っていうか、今現在で、すっごい美人のリザードマンがこっちを職務質問しようかどうか考えている視線で見ているんだよね。 でも、俺は全くもって気にしないぜ？ こういう時は平常時以外の行動を取った方が職務質問の対象になるんだよ。 ま、もっとも俺は、職務質問とか拘置所とか慣れているからな、全然構わない。 あぁ、でも残念なのは、あのリザードマンがロリ体型じゃないって所だな。 バフォ様とかだったらもっと興奮するのに、バフォ様だったら魔術を使って俺の持ち物とか検査するのかなぁ・・・
「馬鹿言っているんじゃないの！！！」
「へぶぁ!!! ったく、冗談に決まってるだろ？」
「どうだか・・・」
テイルが俺の事を鈍器で叩くと、件のリザードマンはあきれ果てて元の任務に戻っていった。
まぁ、祭りに参加してみたかったとはいえ、俺らがしているのは不法侵入だからな。職務質問されると結構困ったことになるかもしれない。そんな事を考えながら歩いていると、乗る場所がなくて前を飛んでいたテイルがピタリと止まった。
「どした?」
「シてる」
「シてる？」
「コッチに来て♪」
にぃ、と悪戯っぽい笑みを浮かべて裏通りに続く細道を指した。いつもはお姉さん格のテイルがこんな表情をするのは珍しい。間違いなく見ない方が良いものがそこにあるという確信。砂を噛むような感覚で、そう直感した。
ここは行かなきゃ
俺は妖精使い。 フェアリー達は楽しい事が好き。
危険とは即ちスリル。こんな楽しそうなこと行かなくてどうする。妖精使いとフェアリーの原動力は楽しさ。妖精使いなら、楽しいもののために生き、そして、死ぬべきだ！
・・・
最初は小さな嬌声だった。
「ん・・・ こっち♪」
テイルにリードされながら、硬い路地を蹴るたびにその声は大きくなっていく。
「ふふ、気持ち良さそうな声だよね・・・」
「この声はセイレーンだよ・・・」
「男の子の方もノリノリだよね、すっごい興奮しているのが分かる」
「ボクもまざっちゃおうかなぁ・・・」
「ね〜、近くなってきたよ〜・・・？」
フェアリー達は口々に囁きあう。興奮して、小さな羽根を震わせた。 “迷惑さえ掛けなければ悪い事はしても構わない ただし、必ず責任を取れ”それが我が家の家訓だ。魔物としての本能があるのか、エロい事にはかなり興味があるし、フェアリー達は結構覗きが好きなのだ。
「・・・っと」
勢い余って通りに飛び込んでしまったが、慌てて引き返す。一瞬気付かれたかとも思ったが、色事に夢中だったらしく幸いにも気がつかなかったようだ。
そっとスピカは袖を引いた。
ニコニコと笑みを浮かべて何か渡してきた。水晶だ。どうやら記録する気らしい、既にフェアリー達はフォーメーションＦで録画の準備を始めている。集音機や録画装置をテキパキと配置する。
フェアリーとは思えないほどの統率された動きで、僅か30秒で全ての設置を終える。逃走経路まで確保しているあたりが軍隊並みの狡猾さだ。「楽しい」のためならあらゆる努力を惜しまないというフェアリーの悪癖がここぞとばかりに発揮されている。
セイレーンの子を壁に目つきの悪い青年が押し付けて立ったまま犯している。互いの事を知っているらしく双方同意の上のようだ。しかし、アイドルのようなセイレーンとこちらからでは顔は分からないが警備の人間が交わっているのを見ると強姦にも見える。
「じゃ、実況しようか・・・」
｢｢｢｢｢うん♪｣｣｣｣｣
フェアリー達はニヤリと笑って二人の情事を詳細に実況しはじめた
・・・
「はーい、こちら１カメのテリエラでーす♪
ここだと二人の顔の横顔が良く見えます
見詰め合って良い感じ♪ う〜ん、警備さんの方・・・
随分と手馴れていますね。 もしかしてプレイボーイ？
女の子はチョイ悪が大好きですからね。 目つきの悪さが幸いしたのかな？
じゃ、音響のフェアとスピカに代わりますねー♪」
はい、コチラ音響でーす
音響の担当はぁ〜
ボク、フェアと
スピカが担当してま〜す♪
よろしくね〜
ふふ、ねぇ・・・スピカ。 良い声で鳴くよね？
セイレーンってさぁ
そうだねぇ
裏路地だから心配だったんだけど
こんな所でも響くから
問題なく録音できてるよ〜
ほら、水音まで・・・
まるで楽器みたいだよ？
上の口も下の口も歌が上手いんだね〜
じゃ、２カメにまわしてみよっか？
音響も確認できたしね〜
シィル？
リーフェ？
よろしく♪ よろしく〜♪
（はーい、２カメのシィルでーす♪）
（２カメのリーフェでーす♪）
（ところで、ここ どこだかわかる？）
（え？ どこだろー？）
（じゃあ、これは何だか分かる？）
（白い液体？）
（なんだか、青臭いし・・・）
（どっかで見た事あると思わない？）
（もしかして、練乳？）
（ブッブー♪ じゃ、ちょっと上を見て見ましょうかー♪）
（おいしそうにソーセージ食べてる♪）
（涎たらして、おいしそうだね♪）
（って事は？）
（そ、二人の足元♪）
（だからちょっと、声は小さめなんだね？）
（みつかったら大変だもん♪）
（ここなら男の子の息子も・・・）
（セイレーンの女の子も・・・）
（（丸見えだね〜♪））
（可愛くて食いしん坊な女の子も見れたし）
（食べ応えのありそうな男の子も見れたし）
（一回、編集のマスターとテイルにマイクを渡してみよっかぁ♪）
「はい、編集のテイルです」
「エスティーです」
「ここではカメラから送られてくる映像と音響から送られてくる音を」
「それぞれ検証しながら、それぞれに指示出している場所ですね」
「テリエラ？ セイレーンのイク顔とれそう？」
「はい、オッケー! そのアングル良いよ」
「ご覧下さい、いつになく真剣なマスターの顔です」
「フェア、スピカ もっと水音ひろって！」
「」
・・・
セイレーンと警備の人間の営みを見た後には、何事もなかったかのように彼女のライブに参加しノリノリだったのだから、フェアリー達の変わり身の早さには戦慄を覚える。
「次の劇まで時間もあるし、お前ら、ちょっと小腹空いたろ？ 何か買ってくるよ」
「「「「「「わかったぁ♪」」」」」」
フェアリー達を場所取りをさせつつ、俺は買い物に行く。
近くを歩いていると近くにロリっ子達が切り盛りしている出店があった。ロリータ以外にも色々な魔物娘が居た気もするが、まぁ、良いか。重力に引かれるようにその店に行き、いつのまにか買っていた。買っただけで一口も食べていないのにアリスやケセランパサラン、ゴブリンやミミックの特上の笑みにお腹一杯だ。
多分一年闘える。
「あ」
注文を終えロリっ子達が一生懸命に自分のために紙箱に詰めてくれているのを眺めていると、小さくアリスが呟いて店員達を招集した。わらわらと他の魔物娘たちも集まると商品を入れていた金属の箱の中を皆に見せた。
「空っぽね」
「丁度売り切れ♪」
「完売だぁ！」
アリスの口から完売の知らせが伝えられると、店内が歓喜に沸いた。なんとなく得した気分になりながら商品を受け取ると後ろで手を組んだアリスがヒョコヒョコと現れた。俺の前で止まる。
「どうしたの?」
「うふふ」
悪戯っぽい笑みなのに、見ているこちらの頬まで不思議と緩む無垢な笑み。それを眺めていたら、いつの間にか周囲を魔物娘に取り囲まれていた。ニヤニヤと何か企んでいる笑みだ。
何を企んでいるの？ 怖いんだけど・・・
そう思ってしまうのに、逃げ出したいなんて微塵に思わない。むしろ、早く驚かされたいと思ってしまう。
「完売記念という事で、アリスちゃんから記念品が贈呈されま〜っす♪」
たっぷりと魔物達は焦らした後に周囲でクラッカーが破裂した。色とりどりに染めたアラクネの糸が降り注ぐ。再び拍手が沸き起こり祝福された。
「はい♪ シュガーさん♪」
そして特上の笑みと共に箱を差し出してくれた。
・・・もっとも、アラクネの糸が絡まって受け取ることができなかったが。
・・・
店員に救出されて、改めて貰いなおす。
それは良いとして・・・
「俺、エスティーって言うんだけど・・・ 俺の事、誰かに聞いた？」
「うん。 ６匹の妖精を扱うロリコンは、シュガーって名前だってレッチャが言ってたよ？」
「とりあえず、俺の事は絶対に言わないでくれ」
「どうして?」
「掘られる」
「掘られるって？」
「アリスちゃんは知らなくて良いよ。 とりあえず・・・俺の存在をレッチャに言わないでくれれば良い」
「分かったぁ〜」
・・・
「マスター、遅いよ。 演目始まってるよ？」
「なんか、すごい人だかりになってるんだよ！」
「あれ、マスター手に持っているのはなぁに？」
「美味しそうな匂いがするぅ〜」
「開けて開けて！」
「ボク、お腹すいたよぉ・・・」
クルクルと表情の変わるフェアリー達を宥めすかし、少し舞台から離れた場所に腰を掛ける。この場所は穴場的なスポットなのか、それとも今演技している人間（？）の発する熱気のせいなのか、観衆は舞台に引き込まれ舞台に乱入せんばかりの様相だ。
っていうか、乱入しているのか？
『フーッハッハッハッ！ 何故俺様が黒幕だと理解できたのだ？ 小娘よッ！』
やばい、なんかまた濃いキャラが来た。
見た瞬間に胃が万力で締められたようにキリキリと痛み始め、更に言えば、口の中の美味しいパイの味が一気に鉄の味になった。テイルが「パイにケチャップなんて合わなくない？」と心配してくれたが、俺もそう思う。
『おやめください、兄上！ もういいのです！ 私達の負けですッ！』
『黙れいッ！ 指図をするなッ！ 最後の最後まで戦わずして負けを認めるなど、愚の骨頂よ！』
お前が黙れ
フンドシ1枚に黒いネクタイを装着した紳士モードの筋肉だるま！！！
ガチで一瞬叫びながら乱入しそうになった。
「さっきから、あのローパーさん。 すっごい演技力高いんだよね」
「そうそう、あの男の人もすごいけどね」
「ボク、シナリオもすごいと思うよ？」
「でもさぁ〜 こういうのは裏方も頑張っているんだよ〜」
「ねぇ ほら。 クライマックスだよ？」
「マスター。 男の人が一瞬見たけど・・・」
「全く持って知らない人でございます。 俺の記憶の中に赤い褌を着た全裸の筋肉だるまは排除されております。 ウィルス対策ソフトをインストールしてあるのでブロックされております！！！ アンチウィルスソフト万歳！！！ 」
食い入るように舞台を見つめているフェアリー達を無理矢理連れて帰るような事もできず、結局俺はひたすら痛む胃を抱えたまま我慢した。誰だよ。あんな「名前を呼んではいけないあの人」さえ泣きながら裸足で逃げ出す奴の相手をさせられている可哀想な相手は。
『さて、どうするの？ それでもボクたち――――チーム･ロリータと戦うつもり？』
可愛い子達でした。今すぐ舞台から降ろして保護してあげたい。
「マスターの場合、保護じゃないでしょ？」
「どちらかというと監禁かな〜？」
「この前なんか、収穫祭って言ってマンドラゴラ引っこ抜きまくってたよね・・・」
「もしかして、ボク達と契約したのって・・・体目当て！？」
「それ以外になにがある？」
「最低・・・ ロリコンは不治の病よね・・・」
死にたくなってきた・・・
俺はただ可愛い子が好きなだけなのに。
例えるのなら、今そこで『『『『『『『チームロリータのリーダー、Mr.Sですっ！！』』』』』』』と言って、途中で台詞忘れて仕方がないから咄嗟に観客の中から適当に指名して、強制的に舞台に上げられた目つきの悪い警備の人間みたいな人のような気分だろう。
・・・ってか、裏路地でヤッてた奴じゃね？
『さあ、リーダー。私達と一緒に戦いましょう！』
うわぁ
「ハーレム作ってモゲれば良いのに」とか一瞬思ったけど一人で闘わせられるのかよ・・・
なんていうか、カンフー映画の如くダイナミック入場を果たし、更には堂々と
「さあ、テメー等！ 任務開始だッ！！」
などと仰せられたとき、「俺、こいつには勝てないな」って思った。うん、勝ちたくないし・・・帰るか・・・ こんな時、俺どうして良いのか分からないよ。 ねぇ、フェアリー達、そろそろ帰ろうか。 なんだかとっても疲れたよ・・・
「いっけー 色情魔ぁ♪」
「がんばれ、青姦男ぉ♪」
「信じてるよぉ〜 公序良俗を守らない警備員さ〜ん」
「イケ、ボクらのシューヤン！」
「Ｍｒ.Ｒの貞操を奪うんだぁ」
「脱げー」
「の、ノリノリだぁ!!! ってか、舞台もぉ！？」
舞台乱入。更には、衣服を脱ぎパンツ一丁になった彼に惜しみない賞賛と軽蔑の眼差しを送ったのは言うまでも無い。
普段から考えられない程の人ごみと熱気。雑然とした人の流れ。一種独特の雰囲気に酒に酔った様な高揚した気分になる。いつもは腹が立つはずの肩の衝突さえ、町全体が自分を手荒な歓迎をしてくれているように思ってしまう。
流石に考え過ぎか
僅かに胸の内で苦笑する。
「あっちで人だかりができてるよ！」
「ねぇねぇ、あれなぁに?」
「ボク、あれやりたい！ あれやって良い？」
「私、ライブ見に行きたい！ マスター、一緒に行こうよ！」
「引っ張んないでよぉ〜 とりあえず、のんびりしようよぉ〜」
「待ちなさいって！ 迷子になっちゃうわよ！？」
俺の頭の上でフェアリー達は好き勝手な事を言い合いながらクルクルと踊っている。
ちなみに、人だかりに興味津々になっているのはリーフェ。リーフェに釣られて興味を抱いたのはシィル。今にも人だかりに突撃しそうなボクっ子はフェア。他のフェアリーを引っ張ってライブに誘うのはテリエラ。一生懸命に他の五匹をまとめようとしているのはお姉さん格のテイルだ。
「まぁ、とりあえず・・・落ち着こう。 お前達。 お祭りは逃げないし時間はタップリあるから。 な？」
「｢｢｢｢｢ふぁ？｣｣｣｣｣」
六匹のフェアリー達はピタリと動きを止めてこちらを見て、そのあと周囲を見渡した。よくよく見れば流れの中に、歩く速度を緩めてこちらを眺めている人もいる。何人かの知らない人たちを目が合った。
精霊達ならまだしも、子供っぽく手の掛かる上に出来る事がかなり制限されているフェアリーを使役しようとする輩はほとんどいない。精霊使いならぬ妖精使いは珍しく、ましてや６匹も飛ばしていたら興味を抱くのは当然だろう。おまけに俺の服装が現代の物で、周囲にいる現地の方々は民族衣装のような服装なので目立つ事この上ない。
ついでに、時折、男一人で歩いているヤツから「モゲロ」なんて怨嗟の声が聞こえてくるのは聞こえなかった事にしよう。物騒だしな。
・・・
価値観にも依るだろうが、俺は基本的に祭りでお金はあまり使わない。食べ物やジュースなんて平日に普通の店で買ったほうが遥かに安いし良質だ。祭りとは雰囲気や行事を楽しむものであって、買い物を楽しむ場所ではないと思っている。
出店を冷やかし、小腹が空いた時に祭りに出ている珍しい種類の食べ物を売っている出店で買って満たすのだ。金魚すくいや射的のような遊技は冷やかすだけ。実際にやって思うようにいかないと嘆くより、それらのやりとりを見ている方が楽しかったりする。おまけに、もらった景品も処分に大抵困る。結局、あまり金を持ってきても物騒なだけなので、ポケットの中には少し多目の小遣い程度しか入っていない。
「とりあえずお前達。 はぐれないようにするから、おいで」
「「「「「「はぁい」」」」」」
最初はフェアリー達に腰縄でもつけようと思ったが、間違いなく職務質問の対象になりそうなので却下。フェアリーに腰縄つけて飛ばせるなど、犯罪臭しかしない上に好き勝手に飛び回るフェアリー達は絡まるのが目に見えている。俺は可愛いモノ好きであってロリコンではないのだ。良いか？俺はロリコンじゃない。単なる可愛い物好きだ。
大事な事なので二回言いました。
「冗談さておき。まじめに作業するか」
契約という絆を具体的なイメージに作り変える。フェアリー達それぞれの契約を強く意識すれば、それぞれが互いに絡み合うことも無い。イメージするのはアラクネの糸。しなやかで丈夫な魔法の糸。
「できた。 これで良いだろ」
フェアリー達と俺の間に糸ができる。不思議そうにフェアリー達が糸を引っ張ってみたり、互いの糸を絡めようとしたりして遊んでいる。
「マスター。 これなに？」
「契約の鎖を具現化させたんだよ。 これでお前達がどこに居るか分かるだろ？」
「へー・・・ マスター、こんな事もできたんだぁ・・・」
「っていうか、マスターならボク達の事5ｋｍ先でも場所をサーチできるでしょ？」
「真性ロリコンだからねー♪」
「うるさい、お前達。 人をロリコン扱いするな」
「きゃはは、マスター怒ったぁ♪」
「怒ってない！」
「うっそだぁ〜 怒ってるよぉ〜」
「怒ってないってば！」
契約者と使い魔の間にできる鎖は、契約した必ずできるものだ。互いに位置や必要な情報を与えるための繋がり、バフォ様に任せて契約したので理論は全く持って分からない。俺自身は、魔術の類は道具無しには使えない。
しかも、道具と言っても杖や帽子、マントなど汎用性の高いものは全く使えず、お守りや札のような一般人でも使えるインスタントな魔法具だ。携帯電話の通信原理が分からなくても、携帯が使えるのと同じである。
「でも、マスターは一個だけ魔術使えるでしょ？」
「時空転移？ あれは魔術じゃないよ」
唯一使える「時空転移」は、正確に言えば魔術ではない。魔術であれば原理があるし、系統立てて分類や使用ができる。場合によっては応用も可能だろう。それに対し俺の転移術は全く持って原理不明で、何故使えるかも分からない。バフォ様さえも高度で複雑な術式であるとかいう理由ではなく「使える理由が分からない」のだ。
例えるのなら、考古学者に対して宇宙の原理について訊ねるようなものである。畑違いだと言われた。それでも調べてみて分かった事が幾つかあった。
魔術を代償に得た固有のルール
時空転移とはルールの行使
世界は規則に縛られている。物を放り投げれば重力に引かれ、物体を押せば反作用を受ける。これに理由はない、ただ、世界がそういう風にできていたからだ。飛行機が飛ぶ計算をする事ができても、揚力が発生する理由は誰にも説明できない。
俺は「時空と空間の障害を一切無視して移動する事ができる」という規則を予め組み込んでいただけなのだ。
「ん〜・・・ 生まれながらにして特殊能力か〜・・・ 厨二病かな〜？」
「ねぇ、マスターの話が長いから、ボクあっちの輪投げ行って良い？」
「分かった。 スゴイ能力を可愛い子を追いかけるために使っているんでしょ？」
「そっか！ ロリのためなら神様だって敵に回して見せるって事か！」
「そんな事より、お祭り楽しもうよ。 マスター」
「要は・・・ ルールで、そう決まっているから魔術とは言えないって事？」
最後まで話を聞いてくれたテイルに感涙を流しそうになったのは言うまでも無い。
・・・
「マスター、いっぱい人がいるね〜」
「うん、活気あって元気になりそうだね」
「みてみて♪ あっちで大道芸やってるよ〜♪」
「ねぇ、マスター。 このポップコーン美味しいよ！」
「マスターにもボクのクレープ少し分けてあげるね」
「あ、さんきゅ･･･って、おま、鼻に詰めようとするなぁ！」
「きゃはは」
頭に乗ったり、肩に乗ったりしながら見物フェアリー達と祭りの雰囲気を思い切り楽しむ。フェアリーが六匹も身体にまとわりついている状態で歩くのは目立つけど気にしない。ついでに言うと、職務質問された時のゾクゾク感が堪らないぜ。
っていうか、今現在で、すっごい美人のリザードマンがこっちを職務質問しようかどうか考えている視線で見ているんだよね。 でも、俺は全くもって気にしないぜ？ こういう時は平常時以外の行動を取った方が職務質問の対象になるんだよ。 ま、もっとも俺は、職務質問とか拘置所とか慣れているからな、全然構わない。 あぁ、でも残念なのは、あのリザードマンがロリ体型じゃないって所だな。 バフォ様とかだったらもっと興奮するのに、バフォ様だったら魔術を使って俺の持ち物とか検査するのかなぁ・・・
「馬鹿言っているんじゃないの！！！」
「へぶぁ!!! ったく、冗談に決まってるだろ？」
「どうだか・・・」
テイルが俺の事を鈍器で叩くと、件のリザードマンはあきれ果てて元の任務に戻っていった。
まぁ、祭りに参加してみたかったとはいえ、俺らがしているのは不法侵入だからな。職務質問されると結構困ったことになるかもしれない。そんな事を考えながら歩いていると、乗る場所がなくて前を飛んでいたテイルがピタリと止まった。
「どした?」
「シてる」
「シてる？」
「コッチに来て♪」
にぃ、と悪戯っぽい笑みを浮かべて裏通りに続く細道を指した。いつもはお姉さん格のテイルがこんな表情をするのは珍しい。間違いなく見ない方が良いものがそこにあるという確信。砂を噛むような感覚で、そう直感した。
ここは行かなきゃ
俺は妖精使い。 フェアリー達は楽しい事が好き。
危険とは即ちスリル。こんな楽しそうなこと行かなくてどうする。妖精使いとフェアリーの原動力は楽しさ。妖精使いなら、楽しいもののために生き、そして、死ぬべきだ！
・・・
最初は小さな嬌声だった。
「ん・・・ こっち♪」
テイルにリードされながら、硬い路地を蹴るたびにその声は大きくなっていく。
「ふふ、気持ち良さそうな声だよね・・・」
「この声はセイレーンだよ・・・」
「男の子の方もノリノリだよね、すっごい興奮しているのが分かる」
「ボクもまざっちゃおうかなぁ・・・」
「ね〜、近くなってきたよ〜・・・？」
フェアリー達は口々に囁きあう。興奮して、小さな羽根を震わせた。 “迷惑さえ掛けなければ悪い事はしても構わない ただし、必ず責任を取れ”それが我が家の家訓だ。魔物としての本能があるのか、エロい事にはかなり興味があるし、フェアリー達は結構覗きが好きなのだ。
「・・・っと」
勢い余って通りに飛び込んでしまったが、慌てて引き返す。一瞬気付かれたかとも思ったが、色事に夢中だったらしく幸いにも気がつかなかったようだ。
そっとスピカは袖を引いた。
ニコニコと笑みを浮かべて何か渡してきた。水晶だ。どうやら記録する気らしい、既にフェアリー達はフォーメーションＦで録画の準備を始めている。集音機や録画装置をテキパキと配置する。
フェアリーとは思えないほどの統率された動きで、僅か30秒で全ての設置を終える。逃走経路まで確保しているあたりが軍隊並みの狡猾さだ。「楽しい」のためならあらゆる努力を惜しまないというフェアリーの悪癖がここぞとばかりに発揮されている。
セイレーンの子を壁に目つきの悪い青年が押し付けて立ったまま犯している。互いの事を知っているらしく双方同意の上のようだ。しかし、アイドルのようなセイレーンとこちらからでは顔は分からないが警備の人間が交わっているのを見ると強姦にも見える。
「じゃ、実況しようか・・・」
｢｢｢｢｢うん♪｣｣｣｣｣
フェアリー達はニヤリと笑って二人の情事を詳細に実況しはじめた
・・・
「はーい、こちら１カメのテリエラでーす♪
ここだと二人の顔の横顔が良く見えます
見詰め合って良い感じ♪ う〜ん、警備さんの方・・・
随分と手馴れていますね。 もしかしてプレイボーイ？
女の子はチョイ悪が大好きですからね。 目つきの悪さが幸いしたのかな？
じゃ、音響のフェアとスピカに代わりますねー♪」
はい、コチラ音響でーす
音響の担当はぁ〜
ボク、フェアと
スピカが担当してま〜す♪
よろしくね〜
ふふ、ねぇ・・・スピカ。 良い声で鳴くよね？
セイレーンってさぁ
そうだねぇ
裏路地だから心配だったんだけど
こんな所でも響くから
問題なく録音できてるよ〜
ほら、水音まで・・・
まるで楽器みたいだよ？
上の口も下の口も歌が上手いんだね〜
じゃ、２カメにまわしてみよっか？
音響も確認できたしね〜
シィル？
リーフェ？
よろしく♪ よろしく〜♪
（はーい、２カメのシィルでーす♪）
（２カメのリーフェでーす♪）
（ところで、ここ どこだかわかる？）
（え？ どこだろー？）
（じゃあ、これは何だか分かる？）
（白い液体？）
（なんだか、青臭いし・・・）
（どっかで見た事あると思わない？）
（もしかして、練乳？）
（ブッブー♪ じゃ、ちょっと上を見て見ましょうかー♪）
（おいしそうにソーセージ食べてる♪）
（涎たらして、おいしそうだね♪）
（って事は？）
（そ、二人の足元♪）
（だからちょっと、声は小さめなんだね？）
（みつかったら大変だもん♪）
（ここなら男の子の息子も・・・）
（セイレーンの女の子も・・・）
（（丸見えだね〜♪））
（可愛くて食いしん坊な女の子も見れたし）
（食べ応えのありそうな男の子も見れたし）
（一回、編集のマスターとテイルにマイクを渡してみよっかぁ♪）
「はい、編集のテイルです」
「エスティーです」
「ここではカメラから送られてくる映像と音響から送られてくる音を」
「それぞれ検証しながら、それぞれに指示出している場所ですね」
「テリエラ？ セイレーンのイク顔とれそう？」
「はい、オッケー! そのアングル良いよ」
「ご覧下さい、いつになく真剣なマスターの顔です」
「フェア、スピカ もっと水音ひろって！」
「」
・・・
セイレーンと警備の人間の営みを見た後には、何事もなかったかのように彼女のライブに参加しノリノリだったのだから、フェアリー達の変わり身の早さには戦慄を覚える。
「次の劇まで時間もあるし、お前ら、ちょっと小腹空いたろ？ 何か買ってくるよ」
「「「「「「わかったぁ♪」」」」」」
フェアリー達を場所取りをさせつつ、俺は買い物に行く。
近くを歩いていると近くにロリっ子達が切り盛りしている出店があった。ロリータ以外にも色々な魔物娘が居た気もするが、まぁ、良いか。重力に引かれるようにその店に行き、いつのまにか買っていた。買っただけで一口も食べていないのにアリスやケセランパサラン、ゴブリンやミミックの特上の笑みにお腹一杯だ。
多分一年闘える。
「あ」
注文を終えロリっ子達が一生懸命に自分のために紙箱に詰めてくれているのを眺めていると、小さくアリスが呟いて店員達を招集した。わらわらと他の魔物娘たちも集まると商品を入れていた金属の箱の中を皆に見せた。
「空っぽね」
「丁度売り切れ♪」
「完売だぁ！」
アリスの口から完売の知らせが伝えられると、店内が歓喜に沸いた。なんとなく得した気分になりながら商品を受け取ると後ろで手を組んだアリスがヒョコヒョコと現れた。俺の前で止まる。
「どうしたの?」
「うふふ」
悪戯っぽい笑みなのに、見ているこちらの頬まで不思議と緩む無垢な笑み。それを眺めていたら、いつの間にか周囲を魔物娘に取り囲まれていた。ニヤニヤと何か企んでいる笑みだ。
何を企んでいるの？ 怖いんだけど・・・
そう思ってしまうのに、逃げ出したいなんて微塵に思わない。むしろ、早く驚かされたいと思ってしまう。
「完売記念という事で、アリスちゃんから記念品が贈呈されま〜っす♪」
たっぷりと魔物達は焦らした後に周囲でクラッカーが破裂した。色とりどりに染めたアラクネの糸が降り注ぐ。再び拍手が沸き起こり祝福された。
「はい♪ シュガーさん♪」
そして特上の笑みと共に箱を差し出してくれた。
・・・もっとも、アラクネの糸が絡まって受け取ることができなかったが。
・・・
店員に救出されて、改めて貰いなおす。
それは良いとして・・・
「俺、エスティーって言うんだけど・・・ 俺の事、誰かに聞いた？」
「うん。 ６匹の妖精を扱うロリコンは、シュガーって名前だってレッチャが言ってたよ？」
「とりあえず、俺の事は絶対に言わないでくれ」
「どうして?」
「掘られる」
「掘られるって？」
「アリスちゃんは知らなくて良いよ。 とりあえず・・・俺の存在をレッチャに言わないでくれれば良い」
「分かったぁ〜」
・・・
「マスター、遅いよ。 演目始まってるよ？」
「なんか、すごい人だかりになってるんだよ！」
「あれ、マスター手に持っているのはなぁに？」
「美味しそうな匂いがするぅ〜」
「開けて開けて！」
「ボク、お腹すいたよぉ・・・」
クルクルと表情の変わるフェアリー達を宥めすかし、少し舞台から離れた場所に腰を掛ける。この場所は穴場的なスポットなのか、それとも今演技している人間（？）の発する熱気のせいなのか、観衆は舞台に引き込まれ舞台に乱入せんばかりの様相だ。
っていうか、乱入しているのか？
『フーッハッハッハッ！ 何故俺様が黒幕だと理解できたのだ？ 小娘よッ！』
やばい、なんかまた濃いキャラが来た。
見た瞬間に胃が万力で締められたようにキリキリと痛み始め、更に言えば、口の中の美味しいパイの味が一気に鉄の味になった。テイルが「パイにケチャップなんて合わなくない？」と心配してくれたが、俺もそう思う。
『おやめください、兄上！ もういいのです！ 私達の負けですッ！』
『黙れいッ！ 指図をするなッ！ 最後の最後まで戦わずして負けを認めるなど、愚の骨頂よ！』
お前が黙れ
フンドシ1枚に黒いネクタイを装着した紳士モードの筋肉だるま！！！
ガチで一瞬叫びながら乱入しそうになった。
「さっきから、あのローパーさん。 すっごい演技力高いんだよね」
「そうそう、あの男の人もすごいけどね」
「ボク、シナリオもすごいと思うよ？」
「でもさぁ〜 こういうのは裏方も頑張っているんだよ〜」
「ねぇ ほら。 クライマックスだよ？」
「マスター。 男の人が一瞬見たけど・・・」
「全く持って知らない人でございます。 俺の記憶の中に赤い褌を着た全裸の筋肉だるまは排除されております。 ウィルス対策ソフトをインストールしてあるのでブロックされております！！！ アンチウィルスソフト万歳！！！ 」
食い入るように舞台を見つめているフェアリー達を無理矢理連れて帰るような事もできず、結局俺はひたすら痛む胃を抱えたまま我慢した。誰だよ。あんな「名前を呼んではいけないあの人」さえ泣きながら裸足で逃げ出す奴の相手をさせられている可哀想な相手は。
『さて、どうするの？ それでもボクたち――――チーム･ロリータと戦うつもり？』
可愛い子達でした。今すぐ舞台から降ろして保護してあげたい。
「マスターの場合、保護じゃないでしょ？」
「どちらかというと監禁かな〜？」
「この前なんか、収穫祭って言ってマンドラゴラ引っこ抜きまくってたよね・・・」
「もしかして、ボク達と契約したのって・・・体目当て！？」
「それ以外になにがある？」
「最低・・・ ロリコンは不治の病よね・・・」
死にたくなってきた・・・
俺はただ可愛い子が好きなだけなのに。
例えるのなら、今そこで『『『『『『『チームロリータのリーダー、Mr.Sですっ！！』』』』』』』と言って、途中で台詞忘れて仕方がないから咄嗟に観客の中から適当に指名して、強制的に舞台に上げられた目つきの悪い警備の人間みたいな人のような気分だろう。
・・・ってか、裏路地でヤッてた奴じゃね？
『さあ、リーダー。私達と一緒に戦いましょう！』
うわぁ
「ハーレム作ってモゲれば良いのに」とか一瞬思ったけど一人で闘わせられるのかよ・・・
なんていうか、カンフー映画の如くダイナミック入場を果たし、更には堂々と
「さあ、テメー等！ 任務開始だッ！！」
などと仰せられたとき、「俺、こいつには勝てないな」って思った。うん、勝ちたくないし・・・帰るか・・・ こんな時、俺どうして良いのか分からないよ。 ねぇ、フェアリー達、そろそろ帰ろうか。 なんだかとっても疲れたよ・・・
「いっけー 色情魔ぁ♪」
「がんばれ、青姦男ぉ♪」
「信じてるよぉ〜 公序良俗を守らない警備員さ〜ん」
「イケ、ボクらのシューヤン！」
「Ｍｒ.Ｒの貞操を奪うんだぁ」
「脱げー」
「の、ノリノリだぁ!!! ってか、舞台もぉ！？」
舞台乱入。更には、衣服を脱ぎパンツ一丁になった彼に惜しみない賞賛と軽蔑の眼差しを送ったのは言うまでも無い。
10/12/02 23:17更新 / 佐藤 敏夫