連載小説
[TOP][目次]
事件・捜査編
「一匹のラージマウスが10mの柱をよじ登っている。
このラージマウスは1分で2m登り、次の1分で1mずり落ち、また次の1分で2m登ることを繰り返している。
さてこのラージマウスが10mの柱を登りきるのに何分掛かるか?
という問題だったな。
そのラージマウスは結果的に2分で1m登る、ここまではいい。
だがな、8mまで登った後のことを考えて見てくれ。
残りの2mは1分で登りきれるだろう。
よって答えは2×8+1=17。
17分で柱を登りきることになるな。」


「・・・正解だ。
だが、私は完全にお前のことを信用したわけじゃない。
展示室に近づくことは許さん!
おかしな素振りを見せたら即刻呪いをかけてやるから、気を付けることだな!」
足音荒くカーラさんは立ち去った。
「すいません!
お姉さまは普段はいい人なんですけど、予告状が来てからすっかり疑り深くなってしまって・・・」
「いや、気にしてないさ。」
あの人も管理者という立場上、重圧を抱えているのだろう・・・
ならば、あの態度も仕方がない・・・
「さすが、先生。
心が広いですね!」
「毎度毎度、失敗する誰かさんを見てれば心も広くなるさ。」
「・・・」
「あの、いいんですか?」
ヴェラさんの視線の先には体躯座りしながら床に『の』の字を書くソノミ君。
「いいんだ。
しばらくしたら立ち直るから。
しかし困ったな・・・
展示室に近づけないとなると・・・」



俺達は遺跡の門の横にある門番の部屋に来た。
「ヴェラさん、ここを使わせてもらってもいいか?」
「ええ、構いませんが・・・」
「よし、ソノミ君仕事を始めよう。
ここで遺跡に近づく人物を見張るんだ。
ここならいざというときにも展示室に駆けつけることもできるしな。」
それにしてもこの遺跡は人の出入りが多いな・・・
そういえばここは役所でもあったな。
とすると怪盗エレメントが侵入してくるとしたらこの人の出入りに混じってくるのだろうか・・・?
さて、ヴェラさんにいくつか質問しておくか。
「ヴェラさん、扉の鍵は幾つあるんだ?」
「2つです。
一つは私、もう一つはお姉さまが持っています。」
「しかし相手が魔術師だったら魔法で壁を壊したり、抜けたり出来るんじゃないか?」
「あの展示室は扉だけでなく壁や床にも呪文をかけてあります。
たとえバフォメットクラスの攻撃魔法でも壊すことは出来ませんし、転移魔法ですり抜けることもできません。」
なるほどな・・・それなら怪盗エレメントが魔物もしくは魔物連れであっても容易には進入できないな・・・油断は出来ないが。
「分かった、ありがとう。
さあ、ソノミ君見張りを始めることにしよう。」



それから俺とソノミ君は二人で遺跡に来る人物を見張ったり、遺跡の周りを監視して回ったりしているうちに夜になった。
「夜になって暑さも和らいできましたね。」
「ああ、ここからが本番といったところか。
予告状には時間を夜と指定してあったからな。」
遺跡内の人も少なくなり、幸い今のところは特に何もないが・・・
そこにヴェラさんがバスケットを持ってやってきた。
「お疲れ様です。パンでも食べて元気を出してください。」
「ありがとう、ヴェラさん。」
「私、お腹ペコペコですよ〜。」
俺とソノミ君が手を伸ばしたとき、

ドーーーン!!

「なっ!!?」
「えっ!!?」
「あきゃっ!!?」
「な、何でしょうか今の音!?
外の町中から聞こえてきましたが・・」
「ああ・・・せっかくのパンが・・・」
「分からない、俺は様子を見てくる!
ソノミ君とヴェラさんはここに居て、念のため今遺跡にいる外部の人間をチェックしておいてくれ!」
「わ、分かりました!」
「パンがぁ〜!」



「一体、どうしたんだ!」
音がしたところに行ってみるとそこには土煙が立ち込めていた。
その中に俺はある人物の姿を見つけた。
「カーラさん!」
「ん?なんだ、探偵か・・・」
「俺の名は探偵じゃない、コレックだ!
ところで何があったんだ?」
「運送中の荷物が崩れたらしい。
今、部下に調べさせているが怪我人は居ないようだ。」
「お姉さま。」
振り向くと、数人のマミーに捕まった男が居た。
「荷物を固定してあったロープを解き、荷物を崩したのはこの男です。
目撃者もいます。」
「そうか、御苦労。」
そう言ってカーラさんは男の真正面に立った。
「さて、貴様なぜこのようなことをした?
正直に答えてやれば死の呪いだけは勘弁してやるぞ?」
・・・心なしか黒いオーラが見える。
思えば、昼間はよくあんな彼女に反抗したな、自分・・・
「か、勘弁してくれ!
俺は頼まれただけなんだ!」
「頼まれた?」
「フードで顔を隠したやつに荷物を崩したら後で金塊をやるって言われて、おまけに前金もたっぷり払ってくれたんだよ!」
「そうか、分かった。
約束通り死の呪いは勘弁してやる。」
「へへ、ありがて・・・」
男が言い終わる前にカーラさんが呪文を飛ばした。
「な、なんで・・・」
「死の呪いは勘弁してやったぞ。
しかし変わりにマミーの呪いをかけた。
おい、こいつを牢屋に連れてけ。」
数人のマミーが男を抱えあげて連れて行く。
その様子を眺めていた俺はふと気になることがあった。
「なぁ、この辺りにマミーが集まってるようだが遺跡の警備は大丈夫なのか?」
俺の言葉にカーラさんの顔色が変わった。
「まずい・・・被害を調べるため遺跡の警備の者も一部動員している・・・」
やはりな・・・
さっき男に荷物を崩すように支持したのは怪盗エレメント。
おそらく混乱に乗じて行動する気だ!
「早く、展示室へ!!」
「ああそうだな!」
動揺しているのか彼女は展示室に俺がついて行っても何も言わなかった。



「大丈夫だ。
扉が開けられた形跡はない。」
展示室の扉を調べていたカーラさんは胸を撫で下ろした
しかし俺は納得しない。
「まだだ、実際に中を確かめるべきだ。」
「馬鹿な。
この扉以外から像を盗むことなどできんぞ。」
しかし彼女も気になったのだろう。
腰のポーチから鍵を取り出して鍵穴に差込み、扉を開けた。
とたんに俺達の目はあるところに釘付けになった。
部屋の中央に置かれている空っぽの台座。
その台座には紙が貼り付けてあった。

『像は確かに頂戴しました。
怪盗エレメント。』

「なんてことだ・・・」
像が盗まれてしまった・・・
しかし怪盗エレメントは扉を開けずどうやって像を盗んだんだ?
ん・・・?
横を向くとカーラさんの顔から血の気が引いていた。
「盗・・・まれた・・・ファラオ様・・・から・・・頂いた・・・像が・・・
・・・私は・・・管理者・・・失格・・・?
・・・アハハハ・・・ムギュウ・・・」

ドサッ

「おいっ、おいっ、しっかりしろ!!」
俺は目の前の出来事が信じられないまま、紙を見るなり気を失ったカーラさんを介抱することになった。



しばらくして目が覚めた彼女は青い顔で自室に閉じこもってしまった。
「カーラさん・・・大丈夫なのか?」
「お姉さまは責任感の強い人ですからショックが強すぎたのでしょう・・・
それに私達はもうおしまいです・・・
ファラオ様に合わせる顔がありません・・・」
「あきらめちゃ駄目だって!!」
俺がかける言葉を失っているとソノミ君が大声をだした。
「でも・・・像はもう盗まれて・・・」
「だったら犯人の怪盗エレメントを捕まえてファラオ様に突き出せばいいんだよ!
そうすればきっと許してくれるって!
そうですよね、先生!」
許してくれるかは分からないが俺達のすることは決まっている。
「そうだな、俺達はこの事件に関わった以上最後まで全力を尽くさないといけない。
よし、捜査を始めよう、ソノミ君!」
「そうこなくっちゃいけませんね!」


さて、まずは情報を集めないといけないな。
「ヴェラさん、像が盗まれたとおもうあの時間に遺跡にいた外部の人間はわかるか?」
「ちょっと待ってください。
調べてきます。」
「お願いする。
その間に俺とソノミ君で展示室に何か痕跡が残ってないか調べるよ。」
「分かりました。
鍵をお渡しします。」



俺達は展示室にやってきた。
「さあ、調査を始めよう。」
「了解です。」

まず俺達は扉を調べた。
鍵をこじ開けたりした様子はない・・・
犯人はここから入ってはいないな。

「先生、この穴はなんですかね?」
ソノミ君が壁にあいた穴を指差した。
大きさは5センチ四方といったところか。
50センチの大きさの像はここからでは出せないな。
「ソノミ君、この穴が何処に繋がっているか調べてくれないか?」
「お任せです!!」
そう言ってソノミ君は部屋から出て行った。

それから俺は展示室の色々な箇所を調べた。
しかし何の痕跡も出てこなかった。
犯人は展示室に入っていないのだろうか?


俺が考え込んでいると後ろからヴェラさんの声がした。
「コレックさん!
事件当時、遺跡にいた外部の人間が分かりました。」
「ありがとう、聞かせてもらえるか?」
「はい、外部の人間は3人、いずれも精霊使いです。
三人とも旅をしており、この町の通行許可を求めて遺跡に来たことになっています。
一人目の名はタング、ウンディーネを連れていました。
二人目の名はクリプ、イグニスを連れています。
三人目の名はルテニ、シルフがパートナーです。」
ふむ・・・おそらくその中の一人が犯人だな・・・
実体のない精霊ならあの穴から展示室に入ることも出来るだろう。
後は、どうやって像を外に出したかが分かれば犯人を特定できるんだが・・・
「三人は遺跡を出たとき像を持っていたのか?」
「いえ、警備のものが確認しましたが像らしきものは持っていなかったそうです。」
持っていなかったか・・・
すると像は何処に?
まだ遺跡の中に隠してるのかもしれない・・・


「先生〜!」
考える俺の耳にソノミ君の声が入る。
穴に駆け寄ると穴の向こうで彼女が手を振っていた。
「ソノミ君、そこは何処だ?」
「庭の片隅ですね。
植え込みがあって周りからは見にくいところです。」
「ヴェラさん、この穴はいったい?」
「それは空気取りの穴ですね。」
「ソノミ君、周りを調べてくれないか?」
「ちょっと待ってくださいね・・・
・・・むむっ!
これは?」
「何か見つけたのか?」
「鉄の塊が落ちてました。」
「鉄の塊?
それを持って戻ってきてくれないか?」


「はい、これです。」
俺はソノミ君が持ってきた鉄塊を調べた。
直径約20センチといったところか・・・
少し、表面はでこぼこしているな・・・
なぜ、ここにこんな物が?
犯人が置いていったのだろうか?
う〜ん、分からない・・・


「あの、コレックさん・・・」
「はっ!!」
悩んでいた俺はヴェラさんの言葉で我に返った。
「な、なんだい?」
「必死に犯人を捕まえようとしてくれるのはありがたいのですが、あまり頑張り過ぎてもいけません。
少し、お茶でも飲んで休憩しましょう。」
・・・そうだな、あせっていても仕方がない。
「ありがとう、それじゃコーヒーをいただけるかな?」
「あっ、私ソフトクリームが食べた〜い!」



「うん、いい香りだ。」
「モグモグ。」
ヴェラさんの部屋でコーヒーをご馳走になりながら俺はもう一度事件を整理してみた。
容疑者の三人の精霊使いのうちの誰かが犯人の怪盗エレメントで間違いないだろう。
「ムシャムシャ。」
犯行に及んだのは運送中の荷崩れで遺跡の警備の目が現場に向いたとき。
「パクパク。」
しかし3人とも遺跡から出るときに像は持っていなかったからおそらくどこかに隠しているのだろう。
「ペロペロ。」
そして犯行現場の展示室の空気取りの穴の外には鉄塊が一つ。
「ガツガツ。」
犯人がどうやって像を持ち出したか・・・
「ハムハム。」
う〜む、もう少しで何か分かりそうなのだが・・・
「モグモグ。」
「ソノミ君!
少し静かに食べてくれ!」
「ふえ?」
アイスを口の周りに付けたままキョトンとするソノミ君。
まったく・・・・・・ん?
まてよ、この方法ならあの展示室からでも像を持ち出せるんじゃないか!
そうだとしたら、あそこに鉄球が落ちていたことも説明が着く!
となると、犯人はあいつだな。
そしてやつが次に取る行動は・・・・


「犯人が分かったぞ!」
「本当ですか?」
「さすが、先生!」
俺の唐突な発言に彼女達はびっくりした。
「で、犯人は誰なんです?」
「ちょっと待ってくれ。
犯人は分かったが像の場所がはっきり分からないんだ。」
「??」
「だから、それを知るためにカーラさんの力を借りたい。
彼女の部屋にいこう。」



カーラさんの部屋のドアを叩くと青い顔をした彼女が出てきた。
「なんだ・・・探偵か・・・
何の用だ・・・?」
「像を盗んだ犯人が分かった。」
途端に彼女の顔色が青から赤に変わり、俺に掴みかかってきた。
「なんだと!
誰だ、犯人は!
像は何処だ!
さあ、話せ、話せ、話せ!」
「ぐ、ぐるじい・・・
話すから、まずはその手を離してくれ。」
彼女はハッと我に返り、手を離した。
「ふぅ・・・
実は犯人は分かったんだが像の場所がはっきり分からないんだ。」
「分からないだと・・・
ではどうする?」
「犯人に教えてもらうんだ。
今から言うことを実行してくれないか?」
そして俺はある作戦をみんなに告げた。





解決編に続く




11/02/01 23:45更新 / ビッグ・リッグス
戻る 次へ

■作者メッセージ
事件・捜査編です。
駄文で読みにくいかもしれませんが、皆さんも推理してみてください。
ちなみにB級のトリックですのであしからず。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33