俺は勇者なわけで彼女に親魔領の自警団員にさせられるわけで
「・・・」
「なあ」
「・・・ん?」
「街の説明してくれよ」
「・・・ん」
レンガのしっかりと整った町並みを歩く俺とアルティ。
空はどす黒い訳ではなく、空気も特に違和感が無いのでここは魔界というわけではなさそうだ。ただ魔物がいるだけで教団の支配下の街とさほどかわらない。
しいて違いをあげるならば、行き交う人々が底抜けに明るい事くらいだ。
俺はざっと辺りを見渡しそう思った。
道の舗装は専ら赤いレンガが使われている。柔らかで主張をしない赤色はどこか暖かさを感じさせ、思わず見とれてしまう。
しかし、足元ばかり見ているのももったいない。
行く先々の店や建物が気になる。親魔領だからだろうか、知らない施設が多い。
そんな知らないことだらけの街を俺はぶらぶらと歩く。非常に気が楽でいい。
目的地はあるが、こう、制限時間というか刻限が無い、というのは不思議な感覚だ。と俺は左腕を見た。
そこにはリストバンドをして隠してあった物、砂時計の形をした烙印が黒々と存在を主張している。
悪くないデザインだが、『これ』の意味と烙印を押した奴を思い出し、胸糞が悪くなってきそうなので必死に袖を伸ばして隠した。運がよかったのか、ここはわりと寒い地域らしいのでおあつらえ向きに長袖だ。
ま、気になることが多いのは単にこうのんびりと歩くことがなかったからだろうな。
俺は欠伸をして腐りかけた思考に新鮮な風を送った。
・・・隣から非常に甘い匂いがする。
「おーい、アルティ」
「もしゃもしゃ」
アルティはさっきから延々とクレープを食べている。話しかけても、『ん』としか返さないのはそのせいだ。
実は病院を出てすぐ、甘いものが欲しい。なんて言って近くの店に突っ込んだのだ。
『特製クレープ・ブライトリリムの媚薬成分抜き、追加トッピングにスノーココア、その他トッピング増し増しのクリーム山盛りサイズ特大』
詳しくない俺でも短時間で食べられるはずがないと分かる物を彼女は今食べている。
・・・静かだ。少し寂しいかも―――いやいや、んな訳ある―――か。
正直、どんなたわいない話でもしていたい、という願望があることは認めるしかないな。俺は案外さみしがり屋なのかもしれん。と苦笑いをした。
無言ながら歩みは進む。
アルティは黙々とクレープにかじりついて街の案内をするどころではなさそうな状態だ。
「うまい」
うまいらしい。
くそ、こうなるのなら俺もクレープを買えば良かっ―――て金がないのか。
俺はがっくりとうなだれた。あれ、ものすごくおいしそう。
小動物のようにクレープを食べるアルティ。具体的に言うとハムスターとかリス。
で、気になったのだが。
と、俺は頬一杯にクリームとかを詰め込んだ甘党アンデッドに声をかけた。
「おまえ、アンデッドだろ?食べ物を腹に入れる必要があるのか?」
俺は今までで最大の疑問をぶつけた。
アルティは何か?という顔をしてこちらを向く。
「んくっ。ごちそうさま」
「ごちそうさまじゃなくて―――」
「偏見で女子から糖分を奪う気?
見ての通りだよ。アンデッドでも食べ物は食べる。人としては死んでいるけど、魔物としては生きてる。それが私たちアンデッド。ほら、一応、手、暖かいから」
アルティは俺に手を差し出す。
だが俺はそれを避けた。アルティは少し悲しそうな顔をしたが当たり前だ。
「おまえどさくさに紛れて俺の服でそれ拭くつもりだっただろ?」
そう、彼女のクレープは最後の一口、というところで爆裂したのだ。つかむところを間違えて『むにゅう』と飛び出たクリームが手についたアルティ。始めのうちは手をなめようとしていたのだが、面倒になったのだろうか、拭くために俺の服をさりげなくつかもうとしていたのがばればれなのだ。
今や俺には服というものはこれ一枚しかない。絶対に拭かせてたまるか。
「むう」
「むう、じゃねーよ全く。おまえさ、リッチっぽくないよな。子どもっぽいというかなんというか」
リッチ、といえば教団領で聞いた話では。限りない時を生きる邪な探究者。長い時間により倫理は腐りはて、生きている者との感覚はずれ、自身の研究のためなら何でもする凶悪なアンデッド。とされていた。
魔物にマイナスイメージがある程度無くなった今ならそんなことはない、と言える?が、どうもその話のせいで、リッチは老獪で冷静。賢者のように知識が深い。加えてマッドサイエンティストという先入観が出来上がっていた。
そう、アルティはあまりにも先入観からかけ離れているのだ。リッチと俺が認識できるには。すこし天然、というかふわふわしすぎだ。
唯一イメージに合うとしたら、何を考えているか分からない所だろう。
しかし、意外なことに、あれだけふわふわしておきながらアルティはそれを気にしていたようだ。
「私がリッチか、試してみる?」
とアルティが十字架を構えて言った。
いい笑顔だ。
「やるか?ん?」
愛用の長剣は拉致された時に持ってきてくれなかったので、俺は拳を構えた。
あんな笑顔を向けられたら、断るわけにはいかないだろ。俺はぐっと手を握る。
戦闘らしい戦闘はこいつとしたことはないが、俺も勇者だ。互角ぐらいには戦ってやる。
・・・。
「あ、あのぅ、止めていただけると嬉しいのですが」
お互いに飛びかかろうと足を軽く曲げた所で声がかかる。
気がつくと、臨戦状態の俺たちの横に黒っぽくてちっこい女の子がいた。
しかし、買った喧嘩をクーリングオフするなんてプライドが・・・
俺は彼女とアルティを交互に見た。
「ええっと、その、さすがに自衛団の詰め所の前での乱闘はまずいですよ。好戦的な人が帰ってきたら大変なことになりますよ」
黒っぽい少女が苦笑いをしながら言う。
・・・自衛団?
・・・おっ目的地だ。と俺は拳を下ろした。アルティの方は不満そうだが、目的地に着いたのならすぐに用事を済ませるのが吉だ。
俺は少女にここで働くかもしれない、と伝える。
今目の前にいる少女は詰所の事務員かな、と俺は思った。
彼女は自信なさげに笑いながら。また新しい人が増えますね、と嬉しそうに言う。
俺は実力に自信がないので曖昧に返事を返した。
『落ちこぼれ』と言われ続けた俺だ。
自衛団に入ったはいいが、弱くて疎まれたり、もう来なくていい、と言われないとは限らない。そう思ってしまう。
まあ、そんな事を思ったが、この少女はアルティと違ってしっかりと会話のできる人みたいなので安心している俺がいる。
アルティと違っ―――
「痛ぇ。足、踏むなよ」
「なんとなく踏みたくなった」
恐るべきは女の勘というやつか。
俺はアルティを睨んだ。
それを見て、あはは、と困ったように彼女は笑った。
「えと、素っ裸でアルティさんに担がれてきた勇者さんですね。さっきわざわざ言ってくれましだが、用件は大体知って―――」
「ほぁい!?」
俺は絶叫した。
数秒、俺の声に驚いたアルティと少女と、ショックを受けた俺が街の人の流れに取り残されるように固まった。
あと、我にかえった時に気づいたが、意外と街の人のスルースキルは高い。どうでもいいが。
で、それより。
俺は少女を見た。その後、アルティを見る。
話を聞くならアルティの方がいいだろう。当事者だ。俺は錆びたような口を開いてカラカラの喉から声を振り絞る。
「あ〜、もしかして、ここに来る頃には服の幻影消えてた?」
「うん、未婚の魔物がみんな見てた」
今質問した事の次になるだろう質問の答えが返ってきた。アルティは淡々と恐ろしい事実を語る。
俺は一瞬気絶しかけた。暴走しなかったのはあの病院で貰った精神安定剤のおかげだろう。
というか、きっとこれを知っていたからこそあんな真顔で薬を渡したのだろう。
助かったのだがなんか腹が立つ。
しかし、精神安定剤のせいか、燃えるような理不尽に対する怒りはすぐに沈下した。
やるせない気持ちを胸に抱きながら俺はアルティに言った。
「死んでいいか?」
それは夏の終わりの頃の蝉のような声だった。
それを聞いて首を傾げた後、アルティは閃いたように手を叩いた。
「その時はお金持ちには出来ないけどリッチな生活を送れるようにしてあげる」
はあ。
俺は身体中の血が鉛になったような倦怠感に襲われる。
ああ、こんなリッチに出会ったのが運の尽きなんだ、と脱力した。
「あ、早く詰所の中に入らないと、アウレーグとシェウィルが新入りのあなたを待ってる」
そう言われたので、脱力の極みにあるような状態で俺は力なく自衛団詰所の扉を開けた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
内装は思ったより綺麗だった。
いや、豪華絢爛という意味じゃないぞ。塵ひとつない、という意味だ。
そして、俺の到着を待つかのように白い重厚な鎧を着たグラキエスと、同じく白い鎧に身を包んだ男性が立っていた。
「遅いな。アウシェのやつが言っていたより3時間と17分くらい遅い」
グラキエスの方が腕を組みながら言った。その不満の矛先は幸いなことにアウシェとやらに向いている。
それをまあまあとなだめる男性。
恐らくあの二人は恋人同士というくらい近しいのはなんとなく俺でも分かった。
「君は―――ああ、なるほど。私の後輩か」
男性の方は優しげに微笑みながら俺に言った。
俺はいまいち意味が分からないという顔をしていると、男性の方はいや、分からなくてもいいんだ、と手を振った。
「病院の方から話しは聞いています。とりあえず座って話をしましょう」
白髪の男性、いや、青年と言った方がいいか、は詰所の奥の方を指した。
が、それをグラキエスがつかんで下ろす。
「いや、かなり時間を浪費した。悪いがここで話を聞いてもらおうか」
グラキエスの方はそう言ってペンと紙を近くの机から拾った。
「まずはおまえ。名前を言え。」
有無を言わせない鋭さでグラキエスは言う。間違いなく口喧嘩では勝てないだろう、と俺は思った。つい、かしこまった口調になりそうだ。
「は、はい。俺はリヴェル・フィルド。勇者、だ」
俺に相変わらずあのグラキエスからの鋭い視線が突き刺さる。表情があまり変化せず、常に不機嫌そうな顔なので恐い。
彼女は俺の名前を聞くと、ふむ、と頷いてさっき取り出した紙に何かを書き始めた。
立ったまま書けるのか?と思ったが、魔法で空中に氷を生成して下敷きのように使っている。問題はなさそうだ。
グラキエスはさらさらとペンを走らせて手を止める。そして再びこちらを向いた。
「私はシェウィル・フロワ。見ての通り、グラキエスという魔物だ。主にこの街の北側にある雪原の見張りをしている」
簡潔に自己紹介をしたシェウィルはちらりとアルティの方を見た。
「このにおい、クレープか。アウレーグ、今度食べにいくぞ」
シェウィルはアウレーグと呼ばれた青年にそう言った。
ものすごい嗅覚だな。それとも甘味への執念か。
・・・とにかく、俺は何かすさまじいものの片鱗を見たような気がした。
「ははは、まあまあ。で私はアウレーグ・フロワ。ここの皆さんは書類の整理が苦手なので主に私が事務系の仕事をしています」
青年が俺を現実に引き戻すかのように自己紹介をする。
同時にどこからかクレープの絵が書いてある割引券と書かれた紙をシェウィルに渡す。
手際がいい、と俺はあの青年を見た。
・・・しかし、あの人、どこかで見たような気が・・・いやいや、違うか。
俺はあの青年に既視感を覚えたが、気のせいだ、と心の底に押し込めた。
そういえばあのグラキエスと姓が同じだな。
夫婦か!
俺は新たにショックを受けた。
確かにさっき人魔共に生活しているのを直接見た。しかし、これは別だ。
表面的な関係だけでなくもっと深い繋がりを感じたように思える。
「あの二人、夫婦なのか?」
俺は一応確認をとろうと隣でぽけ〜っと立っているアルティに小声で言った。
しかし、小声過ぎてあまり聞き取れなかったようだ。だが、ん?とアルティが反応するより先にシェウィルが頷いた。
恐ろしい地獄耳だ。これから気を付けないと死ぬかもしれない。
「確かに私たちは夫婦だ。というか現在魔物は女性しかいないから人間とくっつくのは当たり前だ。
・・・何を驚いている。ふむ、これも教団の教育、教化のたまものか。おまえもそうだったものな、アウレーグ」
懐かしいな、と笑いながらシェウィルが話す。
俺の中で教団、というものがかなり揺らぎ始めた。今まで信じてきたことが偽りだった、と言う恐怖もあるのかもしれない。
しかし、シェウィルは俺に悩む時間を与えてはくれなかった。俺に雪の結晶と竜の翼が重なったようなデザインのバッジが渡された。
「さて、今からおまえは自衛団の一員だ。早速だが実力が見たい。私の言う相手と戦ってもらおうか」
シェウィルは淡々と話を進めていく。
それはある意味救いでもあったのかもしれない。俺は泥沼にはまりそうな思考から離れてシェウィルの言葉に注意を向けた。
「さて、ではアルティ、おまえが戦っ―――そうだ。おまえはこの前不慮の事故で掘り起こしたと言っていたマンゴラドラに謝罪してこい。ちょうどここに来ている」
意気揚々とストレッチをしていた彼女は、え?と言った後で固まる。
・・・アルティは苦いものを口一杯に含んだような顔をして頷いた。そして詰所の奥の方に進んで行った。
あ、帰ってきた。
アルティはとてとてと俺の視界に入るぎりぎりのところまで走ってくる。
そして、身振り手振りで何かを俺に伝えようとする。
そこまで戻ったならここまで来て口で言えよ。と思ったが、我慢だ。怒ってはいけない。
アルティはまず俺を指差す。
次にふらふらしながらへらっと笑う。そのままの表情で自分を殴りつけ、地面を跳ね回った。
油断してると危ないぞ、かな。
俺はある程度分かったので頷いた。
することがない事とはいえ、今まで教団領で孤立していたせいかこういうのは嬉しく感じる。
それを見て、アルティはまだ何かを伝えたいのか、動作を続ける。
何を伝えたいのか、次々に表情を変えながら反復横跳びを始めた。
分からん、と視線で訴えるとアルティは別の動作に切り替えるためか立ち止まった。
そして拳を振り回し、どこからともなく取り出した剣を振り回し、それを立て掛けてあった弓につがえて射ち出した。
・・・。
「わけがわかんねぇよっ!!」
俺はあまりにも分からないのでアルティの動作の途中で思わず叫んだ。
魔力が吸いとられそうな雰囲気の謎ジェスチャーだった。
「どうした?もう一度詳しく説明するか?」
突然叫んだ俺にシェウィルはそう言った。無表情だが、思ったより親切な人なのかもしれない。
じゃなくて。
俺はアルティの相手をしながら町を回ったので、早く休みたい。そのため、できるだけ話をスムーズに進めたいので急いで首を横に振った。
「いや、いいです。早く次にいきましょう」
急ぐあまり口調がおかしくなるが、もういい。
俺はアルティに手を振ってもういいぞ、と示してからシェウィルとアウレーグについていった。
◇◆◇◆◇◆
詰所を出てすぐ横にあった訓練場のようなところに俺は来た。
あくまでもような、だ。一応、入り口に太い文字で『戦闘訓練場。自由にご使用ください』と書かれた看板があった。
が。
どう見ても訓練場というよりコロシアムに近い。
俺は辺りを見渡した。
魔法で空間拡張がなされているのか、ばか高い天井。そんな天井にあり、かつそんな状態でも辺りを問題なく照らす太陽のような照明。
そして何より、円形にずらっと囲むようにそびえる観客席のようなもの。
なぜかは分からないが、俺はそんな壮大な設備に背中に氷が張り付くような恐ろしさを感じた。
「私たちは詰所に戻ります頑張ってくださいね」
アウレーグが訓練場を見入って呆けた俺にそう言って背を向けた。
いや、ちょっと待った。
「あんたたちが戦って俺を試すんじゃないのか?」
俺はそう言った。てっきりあの二人のどちらかと戦うと思っていたのだ。
アウレーグとシェウィルは立ち止まって俺に言う。
「すみませんが、私はあいにく書類が溜まっているので机に向かわないといけないので」
「私はそろそろここの他の訓練スペースで新入りを鍛えなければいけない。その後で雪原の見回りだ。時間が割けない」
足早に去っていく二人を見て腑に落ちない気持ちで軽いストレッチをする。
誰が俺と戦うのか・・・
「あのぅ、私が戦います」
俺は急に声がかかり、後ろに飛び退いた。
「うぴっ」
何かにぶつかった感触がした。同時にがしゃがしゃ、といろいろぶちまけたような金属音。
「うう、私ってそんなに影薄いですかね・・・」
そこにはさっき詰所を教えてくれた少女がいた。
俺は呆気にとられて固まっていると、
「えとっ、武器、選んでください」
とざらざらと足元にぶちまけられた武器の山を少女は指差した。
「お、おい。あんた戦えるのか?」
「もちろんです、よ?」
少女が突然の問いに詰まりながら答えた。
俺も言葉に詰まる。
この自衛団。相当人が足りないのか。と俺は自分の額に手を置いた。
目の前の少女は戦闘とはかけ離れた体つきをしている。
華奢で色白。見える部分だけでも体には傷ひとつなくつやつや。
さて、ならば下手に武器を使って怪我をさせるわけにはいかない。
俺は手を振った。
「いや、武器はいらないから早く実力を見てくれ」
それを聞いて少女は目を丸くする
「いいんですか?どう見てもあなた、拳闘士には見えませんけど」
「いいんだよ」
「はい、分かりました。ここに落ちている物はそのままにしておきますからもし必要になったら使ってくださいね」
くどいくらいに武器を使わないのか、と聞いて来たが、こんな華奢な少女と仮にも勇者の俺が戦って一方的にならないはずがない。
俺は必要になったら拾うからと言い、訓練場の中心に来た。
彼女も近い位置に来る。
とにかく、怪我をさせないように、だな。
と俺は拳を構えた。
「申し遅れましたが、私はドッペルゲンガーのクロネ・ペルソニア・クルスと申します。よろしくお願いしますね」
少女は丁寧にお辞儀をした。
俺は面食らいながらそれを返す
「り、リヴェル・フィルドだ」
それを聞いてニコッ、とクロネは笑うと構えもせずに、戦いましょうか、と言った。
やはり見た目の通り戦闘が得意ではないのだろうか。
正直、戦いたくないなと思いながら俺はそれに頷く。それを見てクロネはもう一度お辞儀をした。
「はい、では始めたいと思います。
・・・あのぅ、本当に武器、いいんですか?いいですよね?必要なら後ででも拾ってくださいよ。
では、いきます―――――
―――『ファイター』」
ズダン!!!
強烈な打撃音が響く―――戦いの火蓋は切って落とされたのだった。
「なあ」
「・・・ん?」
「街の説明してくれよ」
「・・・ん」
レンガのしっかりと整った町並みを歩く俺とアルティ。
空はどす黒い訳ではなく、空気も特に違和感が無いのでここは魔界というわけではなさそうだ。ただ魔物がいるだけで教団の支配下の街とさほどかわらない。
しいて違いをあげるならば、行き交う人々が底抜けに明るい事くらいだ。
俺はざっと辺りを見渡しそう思った。
道の舗装は専ら赤いレンガが使われている。柔らかで主張をしない赤色はどこか暖かさを感じさせ、思わず見とれてしまう。
しかし、足元ばかり見ているのももったいない。
行く先々の店や建物が気になる。親魔領だからだろうか、知らない施設が多い。
そんな知らないことだらけの街を俺はぶらぶらと歩く。非常に気が楽でいい。
目的地はあるが、こう、制限時間というか刻限が無い、というのは不思議な感覚だ。と俺は左腕を見た。
そこにはリストバンドをして隠してあった物、砂時計の形をした烙印が黒々と存在を主張している。
悪くないデザインだが、『これ』の意味と烙印を押した奴を思い出し、胸糞が悪くなってきそうなので必死に袖を伸ばして隠した。運がよかったのか、ここはわりと寒い地域らしいのでおあつらえ向きに長袖だ。
ま、気になることが多いのは単にこうのんびりと歩くことがなかったからだろうな。
俺は欠伸をして腐りかけた思考に新鮮な風を送った。
・・・隣から非常に甘い匂いがする。
「おーい、アルティ」
「もしゃもしゃ」
アルティはさっきから延々とクレープを食べている。話しかけても、『ん』としか返さないのはそのせいだ。
実は病院を出てすぐ、甘いものが欲しい。なんて言って近くの店に突っ込んだのだ。
『特製クレープ・ブライトリリムの媚薬成分抜き、追加トッピングにスノーココア、その他トッピング増し増しのクリーム山盛りサイズ特大』
詳しくない俺でも短時間で食べられるはずがないと分かる物を彼女は今食べている。
・・・静かだ。少し寂しいかも―――いやいや、んな訳ある―――か。
正直、どんなたわいない話でもしていたい、という願望があることは認めるしかないな。俺は案外さみしがり屋なのかもしれん。と苦笑いをした。
無言ながら歩みは進む。
アルティは黙々とクレープにかじりついて街の案内をするどころではなさそうな状態だ。
「うまい」
うまいらしい。
くそ、こうなるのなら俺もクレープを買えば良かっ―――て金がないのか。
俺はがっくりとうなだれた。あれ、ものすごくおいしそう。
小動物のようにクレープを食べるアルティ。具体的に言うとハムスターとかリス。
で、気になったのだが。
と、俺は頬一杯にクリームとかを詰め込んだ甘党アンデッドに声をかけた。
「おまえ、アンデッドだろ?食べ物を腹に入れる必要があるのか?」
俺は今までで最大の疑問をぶつけた。
アルティは何か?という顔をしてこちらを向く。
「んくっ。ごちそうさま」
「ごちそうさまじゃなくて―――」
「偏見で女子から糖分を奪う気?
見ての通りだよ。アンデッドでも食べ物は食べる。人としては死んでいるけど、魔物としては生きてる。それが私たちアンデッド。ほら、一応、手、暖かいから」
アルティは俺に手を差し出す。
だが俺はそれを避けた。アルティは少し悲しそうな顔をしたが当たり前だ。
「おまえどさくさに紛れて俺の服でそれ拭くつもりだっただろ?」
そう、彼女のクレープは最後の一口、というところで爆裂したのだ。つかむところを間違えて『むにゅう』と飛び出たクリームが手についたアルティ。始めのうちは手をなめようとしていたのだが、面倒になったのだろうか、拭くために俺の服をさりげなくつかもうとしていたのがばればれなのだ。
今や俺には服というものはこれ一枚しかない。絶対に拭かせてたまるか。
「むう」
「むう、じゃねーよ全く。おまえさ、リッチっぽくないよな。子どもっぽいというかなんというか」
リッチ、といえば教団領で聞いた話では。限りない時を生きる邪な探究者。長い時間により倫理は腐りはて、生きている者との感覚はずれ、自身の研究のためなら何でもする凶悪なアンデッド。とされていた。
魔物にマイナスイメージがある程度無くなった今ならそんなことはない、と言える?が、どうもその話のせいで、リッチは老獪で冷静。賢者のように知識が深い。加えてマッドサイエンティストという先入観が出来上がっていた。
そう、アルティはあまりにも先入観からかけ離れているのだ。リッチと俺が認識できるには。すこし天然、というかふわふわしすぎだ。
唯一イメージに合うとしたら、何を考えているか分からない所だろう。
しかし、意外なことに、あれだけふわふわしておきながらアルティはそれを気にしていたようだ。
「私がリッチか、試してみる?」
とアルティが十字架を構えて言った。
いい笑顔だ。
「やるか?ん?」
愛用の長剣は拉致された時に持ってきてくれなかったので、俺は拳を構えた。
あんな笑顔を向けられたら、断るわけにはいかないだろ。俺はぐっと手を握る。
戦闘らしい戦闘はこいつとしたことはないが、俺も勇者だ。互角ぐらいには戦ってやる。
・・・。
「あ、あのぅ、止めていただけると嬉しいのですが」
お互いに飛びかかろうと足を軽く曲げた所で声がかかる。
気がつくと、臨戦状態の俺たちの横に黒っぽくてちっこい女の子がいた。
しかし、買った喧嘩をクーリングオフするなんてプライドが・・・
俺は彼女とアルティを交互に見た。
「ええっと、その、さすがに自衛団の詰め所の前での乱闘はまずいですよ。好戦的な人が帰ってきたら大変なことになりますよ」
黒っぽい少女が苦笑いをしながら言う。
・・・自衛団?
・・・おっ目的地だ。と俺は拳を下ろした。アルティの方は不満そうだが、目的地に着いたのならすぐに用事を済ませるのが吉だ。
俺は少女にここで働くかもしれない、と伝える。
今目の前にいる少女は詰所の事務員かな、と俺は思った。
彼女は自信なさげに笑いながら。また新しい人が増えますね、と嬉しそうに言う。
俺は実力に自信がないので曖昧に返事を返した。
『落ちこぼれ』と言われ続けた俺だ。
自衛団に入ったはいいが、弱くて疎まれたり、もう来なくていい、と言われないとは限らない。そう思ってしまう。
まあ、そんな事を思ったが、この少女はアルティと違ってしっかりと会話のできる人みたいなので安心している俺がいる。
アルティと違っ―――
「痛ぇ。足、踏むなよ」
「なんとなく踏みたくなった」
恐るべきは女の勘というやつか。
俺はアルティを睨んだ。
それを見て、あはは、と困ったように彼女は笑った。
「えと、素っ裸でアルティさんに担がれてきた勇者さんですね。さっきわざわざ言ってくれましだが、用件は大体知って―――」
「ほぁい!?」
俺は絶叫した。
数秒、俺の声に驚いたアルティと少女と、ショックを受けた俺が街の人の流れに取り残されるように固まった。
あと、我にかえった時に気づいたが、意外と街の人のスルースキルは高い。どうでもいいが。
で、それより。
俺は少女を見た。その後、アルティを見る。
話を聞くならアルティの方がいいだろう。当事者だ。俺は錆びたような口を開いてカラカラの喉から声を振り絞る。
「あ〜、もしかして、ここに来る頃には服の幻影消えてた?」
「うん、未婚の魔物がみんな見てた」
今質問した事の次になるだろう質問の答えが返ってきた。アルティは淡々と恐ろしい事実を語る。
俺は一瞬気絶しかけた。暴走しなかったのはあの病院で貰った精神安定剤のおかげだろう。
というか、きっとこれを知っていたからこそあんな真顔で薬を渡したのだろう。
助かったのだがなんか腹が立つ。
しかし、精神安定剤のせいか、燃えるような理不尽に対する怒りはすぐに沈下した。
やるせない気持ちを胸に抱きながら俺はアルティに言った。
「死んでいいか?」
それは夏の終わりの頃の蝉のような声だった。
それを聞いて首を傾げた後、アルティは閃いたように手を叩いた。
「その時はお金持ちには出来ないけどリッチな生活を送れるようにしてあげる」
はあ。
俺は身体中の血が鉛になったような倦怠感に襲われる。
ああ、こんなリッチに出会ったのが運の尽きなんだ、と脱力した。
「あ、早く詰所の中に入らないと、アウレーグとシェウィルが新入りのあなたを待ってる」
そう言われたので、脱力の極みにあるような状態で俺は力なく自衛団詰所の扉を開けた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
内装は思ったより綺麗だった。
いや、豪華絢爛という意味じゃないぞ。塵ひとつない、という意味だ。
そして、俺の到着を待つかのように白い重厚な鎧を着たグラキエスと、同じく白い鎧に身を包んだ男性が立っていた。
「遅いな。アウシェのやつが言っていたより3時間と17分くらい遅い」
グラキエスの方が腕を組みながら言った。その不満の矛先は幸いなことにアウシェとやらに向いている。
それをまあまあとなだめる男性。
恐らくあの二人は恋人同士というくらい近しいのはなんとなく俺でも分かった。
「君は―――ああ、なるほど。私の後輩か」
男性の方は優しげに微笑みながら俺に言った。
俺はいまいち意味が分からないという顔をしていると、男性の方はいや、分からなくてもいいんだ、と手を振った。
「病院の方から話しは聞いています。とりあえず座って話をしましょう」
白髪の男性、いや、青年と言った方がいいか、は詰所の奥の方を指した。
が、それをグラキエスがつかんで下ろす。
「いや、かなり時間を浪費した。悪いがここで話を聞いてもらおうか」
グラキエスの方はそう言ってペンと紙を近くの机から拾った。
「まずはおまえ。名前を言え。」
有無を言わせない鋭さでグラキエスは言う。間違いなく口喧嘩では勝てないだろう、と俺は思った。つい、かしこまった口調になりそうだ。
「は、はい。俺はリヴェル・フィルド。勇者、だ」
俺に相変わらずあのグラキエスからの鋭い視線が突き刺さる。表情があまり変化せず、常に不機嫌そうな顔なので恐い。
彼女は俺の名前を聞くと、ふむ、と頷いてさっき取り出した紙に何かを書き始めた。
立ったまま書けるのか?と思ったが、魔法で空中に氷を生成して下敷きのように使っている。問題はなさそうだ。
グラキエスはさらさらとペンを走らせて手を止める。そして再びこちらを向いた。
「私はシェウィル・フロワ。見ての通り、グラキエスという魔物だ。主にこの街の北側にある雪原の見張りをしている」
簡潔に自己紹介をしたシェウィルはちらりとアルティの方を見た。
「このにおい、クレープか。アウレーグ、今度食べにいくぞ」
シェウィルはアウレーグと呼ばれた青年にそう言った。
ものすごい嗅覚だな。それとも甘味への執念か。
・・・とにかく、俺は何かすさまじいものの片鱗を見たような気がした。
「ははは、まあまあ。で私はアウレーグ・フロワ。ここの皆さんは書類の整理が苦手なので主に私が事務系の仕事をしています」
青年が俺を現実に引き戻すかのように自己紹介をする。
同時にどこからかクレープの絵が書いてある割引券と書かれた紙をシェウィルに渡す。
手際がいい、と俺はあの青年を見た。
・・・しかし、あの人、どこかで見たような気が・・・いやいや、違うか。
俺はあの青年に既視感を覚えたが、気のせいだ、と心の底に押し込めた。
そういえばあのグラキエスと姓が同じだな。
夫婦か!
俺は新たにショックを受けた。
確かにさっき人魔共に生活しているのを直接見た。しかし、これは別だ。
表面的な関係だけでなくもっと深い繋がりを感じたように思える。
「あの二人、夫婦なのか?」
俺は一応確認をとろうと隣でぽけ〜っと立っているアルティに小声で言った。
しかし、小声過ぎてあまり聞き取れなかったようだ。だが、ん?とアルティが反応するより先にシェウィルが頷いた。
恐ろしい地獄耳だ。これから気を付けないと死ぬかもしれない。
「確かに私たちは夫婦だ。というか現在魔物は女性しかいないから人間とくっつくのは当たり前だ。
・・・何を驚いている。ふむ、これも教団の教育、教化のたまものか。おまえもそうだったものな、アウレーグ」
懐かしいな、と笑いながらシェウィルが話す。
俺の中で教団、というものがかなり揺らぎ始めた。今まで信じてきたことが偽りだった、と言う恐怖もあるのかもしれない。
しかし、シェウィルは俺に悩む時間を与えてはくれなかった。俺に雪の結晶と竜の翼が重なったようなデザインのバッジが渡された。
「さて、今からおまえは自衛団の一員だ。早速だが実力が見たい。私の言う相手と戦ってもらおうか」
シェウィルは淡々と話を進めていく。
それはある意味救いでもあったのかもしれない。俺は泥沼にはまりそうな思考から離れてシェウィルの言葉に注意を向けた。
「さて、ではアルティ、おまえが戦っ―――そうだ。おまえはこの前不慮の事故で掘り起こしたと言っていたマンゴラドラに謝罪してこい。ちょうどここに来ている」
意気揚々とストレッチをしていた彼女は、え?と言った後で固まる。
・・・アルティは苦いものを口一杯に含んだような顔をして頷いた。そして詰所の奥の方に進んで行った。
あ、帰ってきた。
アルティはとてとてと俺の視界に入るぎりぎりのところまで走ってくる。
そして、身振り手振りで何かを俺に伝えようとする。
そこまで戻ったならここまで来て口で言えよ。と思ったが、我慢だ。怒ってはいけない。
アルティはまず俺を指差す。
次にふらふらしながらへらっと笑う。そのままの表情で自分を殴りつけ、地面を跳ね回った。
油断してると危ないぞ、かな。
俺はある程度分かったので頷いた。
することがない事とはいえ、今まで教団領で孤立していたせいかこういうのは嬉しく感じる。
それを見て、アルティはまだ何かを伝えたいのか、動作を続ける。
何を伝えたいのか、次々に表情を変えながら反復横跳びを始めた。
分からん、と視線で訴えるとアルティは別の動作に切り替えるためか立ち止まった。
そして拳を振り回し、どこからともなく取り出した剣を振り回し、それを立て掛けてあった弓につがえて射ち出した。
・・・。
「わけがわかんねぇよっ!!」
俺はあまりにも分からないのでアルティの動作の途中で思わず叫んだ。
魔力が吸いとられそうな雰囲気の謎ジェスチャーだった。
「どうした?もう一度詳しく説明するか?」
突然叫んだ俺にシェウィルはそう言った。無表情だが、思ったより親切な人なのかもしれない。
じゃなくて。
俺はアルティの相手をしながら町を回ったので、早く休みたい。そのため、できるだけ話をスムーズに進めたいので急いで首を横に振った。
「いや、いいです。早く次にいきましょう」
急ぐあまり口調がおかしくなるが、もういい。
俺はアルティに手を振ってもういいぞ、と示してからシェウィルとアウレーグについていった。
◇◆◇◆◇◆
詰所を出てすぐ横にあった訓練場のようなところに俺は来た。
あくまでもような、だ。一応、入り口に太い文字で『戦闘訓練場。自由にご使用ください』と書かれた看板があった。
が。
どう見ても訓練場というよりコロシアムに近い。
俺は辺りを見渡した。
魔法で空間拡張がなされているのか、ばか高い天井。そんな天井にあり、かつそんな状態でも辺りを問題なく照らす太陽のような照明。
そして何より、円形にずらっと囲むようにそびえる観客席のようなもの。
なぜかは分からないが、俺はそんな壮大な設備に背中に氷が張り付くような恐ろしさを感じた。
「私たちは詰所に戻ります頑張ってくださいね」
アウレーグが訓練場を見入って呆けた俺にそう言って背を向けた。
いや、ちょっと待った。
「あんたたちが戦って俺を試すんじゃないのか?」
俺はそう言った。てっきりあの二人のどちらかと戦うと思っていたのだ。
アウレーグとシェウィルは立ち止まって俺に言う。
「すみませんが、私はあいにく書類が溜まっているので机に向かわないといけないので」
「私はそろそろここの他の訓練スペースで新入りを鍛えなければいけない。その後で雪原の見回りだ。時間が割けない」
足早に去っていく二人を見て腑に落ちない気持ちで軽いストレッチをする。
誰が俺と戦うのか・・・
「あのぅ、私が戦います」
俺は急に声がかかり、後ろに飛び退いた。
「うぴっ」
何かにぶつかった感触がした。同時にがしゃがしゃ、といろいろぶちまけたような金属音。
「うう、私ってそんなに影薄いですかね・・・」
そこにはさっき詰所を教えてくれた少女がいた。
俺は呆気にとられて固まっていると、
「えとっ、武器、選んでください」
とざらざらと足元にぶちまけられた武器の山を少女は指差した。
「お、おい。あんた戦えるのか?」
「もちろんです、よ?」
少女が突然の問いに詰まりながら答えた。
俺も言葉に詰まる。
この自衛団。相当人が足りないのか。と俺は自分の額に手を置いた。
目の前の少女は戦闘とはかけ離れた体つきをしている。
華奢で色白。見える部分だけでも体には傷ひとつなくつやつや。
さて、ならば下手に武器を使って怪我をさせるわけにはいかない。
俺は手を振った。
「いや、武器はいらないから早く実力を見てくれ」
それを聞いて少女は目を丸くする
「いいんですか?どう見てもあなた、拳闘士には見えませんけど」
「いいんだよ」
「はい、分かりました。ここに落ちている物はそのままにしておきますからもし必要になったら使ってくださいね」
くどいくらいに武器を使わないのか、と聞いて来たが、こんな華奢な少女と仮にも勇者の俺が戦って一方的にならないはずがない。
俺は必要になったら拾うからと言い、訓練場の中心に来た。
彼女も近い位置に来る。
とにかく、怪我をさせないように、だな。
と俺は拳を構えた。
「申し遅れましたが、私はドッペルゲンガーのクロネ・ペルソニア・クルスと申します。よろしくお願いしますね」
少女は丁寧にお辞儀をした。
俺は面食らいながらそれを返す
「り、リヴェル・フィルドだ」
それを聞いてニコッ、とクロネは笑うと構えもせずに、戦いましょうか、と言った。
やはり見た目の通り戦闘が得意ではないのだろうか。
正直、戦いたくないなと思いながら俺はそれに頷く。それを見てクロネはもう一度お辞儀をした。
「はい、では始めたいと思います。
・・・あのぅ、本当に武器、いいんですか?いいですよね?必要なら後ででも拾ってくださいよ。
では、いきます―――――
―――『ファイター』」
ズダン!!!
強烈な打撃音が響く―――戦いの火蓋は切って落とされたのだった。
13/07/21 00:19更新 / 夜想剣
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